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大西良雄ニュースの背後を読む

2012年4月

2012年4月27日 14:25

業者寄りの高い再生エネ買い取りで消費者が犠牲になる

(2012年4月27日筆)

 7月から再生可能エネルギーの全量買い取り制度がスタートしますが、それにさきがけ経済産業省の「調達価格等算定委員会」(委員長・植田和弘京大教授)が買い取り価格案を提案しました。下表の最上段が委員会提案の価格です。

 太陽光発電は住宅用もメガソーラー(大規模太陽光発電所)もいずれも42円と同じ買い取り価格です。風力発電、地熱発電などは発電規模が大きいほど買い取り価格は低く、規模が小さくなるほど価格が高くなっています。バイオマス発電はメタン発酵ガス化発電がもっとも高く、リサイクル木材発電が最も低いという具合に発電方法によって買い取り価格に差がついています。

算定委員会提案の再生可能エネルギー発電の買い取り価格(単位kwh当たり円)
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注)発電コストは「コスト等検証委員会」の2011年12月試算

 この委員会案と表中段の要望価格を比べてください。要望価格は制度の導入に当たって発電事業者が政府に要望した買い取り価格です。驚くことに委員会案の買い取り価格は業者の要望価格と同じか、それ以上の価格になっています。

 発電事業者とは福島原発事故後、「電田(でんでん)プロジェクト」などと唱ってメガソーラー事業を進めているソフトバンクの孫正義社長のような人物、企業を思い浮かべてください。太陽光発電で儲けようとしている孫社長のような事業者の言いなりの価格、あるいはそれ以上の買い取り価格になっているのですから驚くではありませんか。


お手盛りの業者要望価格すら上回る大盤振る舞い
再生エネ発電が増えれば家計と企業の料金負担が増える


 業者の買い取り希望価格は発電事業を成功させる、あるいは発電事業で儲けるためにお手盛りで高く設定されているはずです。お手盛りの業者要望価格を上回る大盤振る舞いを「調達価格等委員会」は行ったことになります。その業者の超過利得を含め買い取り費用はすべて電力消費者に自動的に転嫁される仕組みになっています。

 買い取り費用がどのように電力料金に上乗せされるかその計算式は明らかではありません。代表的な火力発電であるLNG(液化天然ガス)発電の発電コストは10.7~11.1円(11年12月、「コスト等検証委員会」試算)です。LNG火力の発電コストの2倍から5倍の値段で再生可能エネルギー発電を電力会社は全量買い取る(住宅用太陽光発電は余剰電力のみ)のです。このLNG発電など火力発電コストを上回る再生可能エネルギー発電の購入費用部分が自動的に電気料金に上乗せされることになるでしょうか。

 経産省は「全量買い取り制度発足の初年度での一般利用者の電気料金上乗せ幅は1kwh当たり0.2円~0.4円になると試算しています。電気料金支払いが月額7000円の標準家庭で月60円~120円の負担増になるという計算です。

 月に最大で120円ぐらいの負担で済むのならクリーンな再生可能エネルギー発電をもっと進めてもよいという読者もいるでしょう。早とちりしないで下さい。初年度は再生可能エネルギー発電の比率が極めて小さいから負担が少額なのです。この業者希望を上回る買い取り価格によって再生可能エネルギーの導入が促進されれば再生エネ発電の買い取り金額はどんどん増えます。その買い取り量に比例して電力料金の上乗せ額は膨らみ消費者の料金負担が拡大します。特に買い取り価格が高い太陽光発電の発電量が増えれば増えるほど消費者の負担は拡大します。

 植田和弘委員長は「再生エネを推進するのがこの制度の趣旨だ」(「朝日新聞」4月26日付け)と述べ、業者よりの高い買い取り価格を気にする風もありません。しかし再生エネ買い取りで先駆したドイツでは高い買い取り価格を設定したため普及は進みましたが、家庭の太陽光発電の買い取りのための負担は年平均約70ユーロ(約7500円)にまで拡大しました。この家庭の負担が重過ぎるとして今年4月から買い取り価格の値下げを始めたといいます。


買い取り価格の算定は悪名高い「総括原価方式」と同じ
7~8%という高い「適正利潤率」が保証される業者


 「調達価格等算定委員会」によれば、買い取り価格は「効率的に供給される場合に通常必要とする費用、及び適正な利潤を基礎に算定することにした」としています。家庭用電気料金を決める悪名高い「総括原価方式」も費用に適正利潤を上乗せして料金を決める方法です。再生エネの買い取り価格も同じような方式なのです。

 まずその「適正な利潤」ですが、ドイツやスペインを参考に金利差を考慮して決めたと算定委員会は述べています。そのうえで施行3年間は業者の利潤に特に配慮するというのです。具体的にはドイツ、スペインの適正利潤に1~2%程度を上乗せして初年度の標準的な適正利潤を7~8%とするとしています(下表参照。事業リスクの高い地熱発電の適正利潤率はずば抜けて高い)。

買い取り価格に含まれる適正利潤率(税前、%)
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 ちなみに「法人企業統計」によると平成22年度の売上高経常利益率(上表の税前適正利益率に相当)は製造業が3.9%、非製造業が2.8%に過ぎません。民間企業が必至に稼いでも3~4%の利益率しか上げられないのです。再生エネルギー発電に参入すれば7~8%という高い利益率が保証されるのです。この利潤も企業、家計の負担なのです。植田委員会はここからすでに業者に大盤振る舞いしているのです。


低コスト立地の再生エネ業者には過大な超過利潤
本当に買い取り価格を毎年見直してくれるのですか


 もうひとつは費用の見積もりです。「コスト等検証委員会」で議論された費用に、(1)事業者側が負担する送電網への接続費用、(2)土地の賃借料、(3)法人事業税を加味したものとしています。「検証委員会」が昨年12月に算出した再生エネルギー発電の新しい発電コスト(冒頭表の最下段)が費用計算の基礎になっていますが、実際の費用見積もりは業者へのヒヤリングを通じて提示された費用が参考にされたようです。ここでもお手盛りが横行しているようです。

 冒頭の表に戻っていただきたいのですが、「検証委員会」がはじいた発電コストにはいずれも幅があります。太陽光発電の発電コストは立地・自然条件などによって30.1円から45.8円までコスト差があります。立地・自然条件にコストが異なるのは風力も地熱も同じです。

 しかし買い取り価格は発電コストに関わらず同じです。コストの安い太陽光発電所は居ながらにして超過利潤を得られるのです。企業、家計の負担で。これも変ですね。その公定価格がメガソーラーでは20年間保証されるのですからこんな美味しい話はありません。

 最後にもうひとつ、買い取り価格は毎年見直すことになっています。だったら「施行後3年間は利潤に特に配慮する」などといわないで欲しい。太陽光発電を例にとれば、中国メーカーの低価格攻勢と欧州の太陽光発電投資の失速によって太陽光パネルやモジュールの価格が暴落しています。発電コストの多くを占めるパネルやモジュール価格の下落による発電コストの低下はすぐにでも買い取り価格に反映すべきです。毎年のコスト検証も怠りなく、願います。

 さらに経産省の外郭団体・「新エネ・産業技術総合開発機構」の「太陽光発電ロードマップ」(09年6月策定)によれば、太陽光発電の発電コストは2020年に1kwh当たり20円、2030年に7円へ劇的に低下する(これを元に菅前総理は脱原発依存をぶちあげた)ことになっています。この技術進歩の成果も毎年、必ず買い取り価格に反映してください。

 再生可能エネルギー導入を進める業者が得る過剰な「利潤」もその元になる過大に計上された「費用」、その結果のすべてを電力消費者、すなわち企業と家計が負担するのです。ついでにいいますが、電力会社の発電コストの詮索には人一倍厳しい自然エネ論者が、再生可能エネルギー発電の利潤やコスト計算にはことのほか甘いとすれば、我田引水が過ぎるというものです。

2012年4月20日 13:45

「去り逝きし人々」が気になる ―67歳の誕生日雑記

(2012年4月20日筆)

 昨日の4月19日は小生の67度目の誕生日でした。この歳になると誕生日は残された余命を数える日というぐらいの感想しかないのですが、自らの余命を考える時、気になるのは自分が過去に触れ合ったというか、すれ違ったというか、多少たりとも関係を持った人々の訃報です。

 小生にとって新聞の死亡欄を見ることは毎日欠かせない作業になっています。新聞の死亡欄に載るぐらいですから生前はそれなりの社会的地位にあった人です。特に死亡欄に掲載された経営者、元高級官僚、経済学者、評論家、ジャーナリストのお名前が気になります。かつて経済誌の記者、編集長、単行本の編集者として触れあい、記憶に刻まれた人々だからです。


三重野元日銀総裁はバブル崩壊不況を生んだ「疫病神」?
責められるべきはバブルを生んだらした前2代の日銀総裁


 直近では、もちろん三重野康・元日銀総裁の死亡記事です。三重野氏の総裁在任期間は1989年12月から1994年12月までの5年間でした。小生が「月刊金融ビジネス」の編集長、「週刊東洋経済」の編集長であった時期と重なります。

 三重野総裁は就任直後、第3次公定歩合の引き上げに踏み切りバブル退治に乗り出しました。これが世間の喝采を浴び、池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」の主人公である江戸の火付盗賊改方・長谷川平蔵にあやかって三重野氏は「平成の鬼平」と呼ばれました。

 余談ですが、この「平成の鬼平」の名付け親は「激辛評論家」といわれる佐高信さんだったと記憶しています。小生、週刊東洋経済の編集長当時、佐高さんにはコラムを書いていただいていましたから。「激辛」の佐高さんにご登場いただくぐらいですから、小生の編集方針も三重野総裁の金融引き締め路線への賛意を込めた、バブル批判色の濃いものでした。

 しかしこの三重野総裁の第3次公定歩合の引き下げがその後の「失われた15年」ともいわれる長期不況をもたらす端緒となり、三重野氏は、こんどはバブル崩壊不況をもたらした「疫病神」と批判される始末でした。

 正常値をはるかに越えた地価と株価の高騰をバブル(泡)現象といいますが、バブルは膨れすぎると自然に破裂するものです。自然に破裂するまで待っていればバブルの規模が大きくなりその破裂後の経済の落ち込みは甚大なものになります。三重野氏はバブルが膨らみ過ぎない前に手を打ったのですがすでに遅かったのではないでしょうか。バブルはすでに膨らみ過ぎていたのです。三重野氏を「疫病神」呼ばわりするのはお門違いというべきでしょう。

 ついでに言いますが、現在の1%以下という長期国債利回りは日本国債が理屈を越えて買われ過ぎている状態、つまり「国債バブル」の状態を示しているといってよいでしょう。世界最悪の国債累増状態にもかかわらず、原子力発電と同じで日本国債にも安全神話が取り憑き、日本国債は破裂寸前まで買い上げられています。原発の安全神話を問題にする政治家が日本国債の安全神話を疑わないのは不思議な光景です。原発事故の「想定外」は許さないが、国債暴落という「想定外」は許されるのでしょうか。

 責められるべきは、プラザ合意後、円高不況に脅え内需拡大論を提唱して長期にわたる金融緩和を続けた前川春雄氏、バブルが膨れ上がるのを知りながら公定歩合引き上げのタイミングを遅らせてしまった澄田智氏、三重野氏の前に日銀総裁をつとめた2代の総裁だと思います。バブルを生んだ日銀総裁こそ問われるべきです。


日本に「近代経済学」をもたらした館龍一郎氏も逝去
今隆盛の「量的緩和」積極論者をどう見ておられたか


 前川、澄田総裁当時、政府の金融制度調査会会長だった館龍一郎先生(元東大教授)もこの2月に90歳で亡くなられました。館先生には、週刊東洋経済の臨時増刊「近代経済学シリーズ」の若い編集者だった当時、よくお会いしました。館先生は、マルクス経済学が猛威を振るった戦後、同じ東大経済学部教授だった小宮隆太郎先生(ご健在です)と手を携え、新古典派総合といわれた当時の国際標準の「近代経済学」を日本にもたらした一級の経済学者でした。数多くの経済学者が論争好きで手厳しい小宮先生、物静かだが芯の強い館先生に育てられました。

 館先生は前川、澄田総裁当時のバブル発生、膨張につながった日銀の金融政策には直接関係はありませんでした。しかし当時の金融制度調査会会長だったご経験から現在の量的緩和政策や国債の日銀引き受けにまで及ぶ日銀の金融政策をめぐる議論をどう見ておられたか、お聞きしたかったと思っています。館先生や小宮先生のお弟子さんの中には日銀の量的緩和やインフレ目標導入に極めて積極的な論者が見受けられます。成長力が衰弱している経済では量的緩和マネーは企業や個人への投融資に回らず、株式や不動産、国際商品への投機に向かい資産インフレ、つまりバブルを引き起こすリスクを内包しています。日本の1980年代後半のバブルの経験は果たして無視できるものなのでしょうか。


景気の先行きを見誤った小生を叱咤した社長も逝去
栃木県の用水路で亡くなった元プレジデント編集長


 話を前後しますが、バブル潰しのほうに傾いた小生の編集方針もまた、三重野総裁と同じように大きな批判を浴びることになります。その批判は社内からでした。当時の東洋経済新報社社長は小生を「週刊東洋経済」の編集長に取り立てた中島資皓さんでした。その中島さんに「君が部数を多少増やしたことは評価するが、景気の先行きを見誤ったことは東洋経済の歴史的汚点になる」といわれたことがあります。

 当時、エコノミストの間でバブル崩壊不況の進展に対して、「景気の水準はまだ高い」として経済の先行きを心配しない論者がいました。当時、経済企画庁にあって随一の官庁エコノミストといわれた吉富勝氏(ご健在です)がその代表でした。一方、「景気の下降に向かっている」という「景気の方向」を重視する民間エコノミストも少なくありませんでした。

 結局、小生と景気担当の副編集長(現在の東洋経済新報社社長)は吉冨説に賛同し「景気楽観論」をぶったのですが、それが君の間違い、歴史的汚点だと中島社長(当時)は指摘されたのです。その後の「失われた15年」というか、日本経済のはなはだしい衰弱ぶりを見ていると、中島さんの指摘も当を得たものだったと深く反省しているところです。その中島資皓さんも、昨年8月24日、80歳で永眠されました。新聞の死亡欄には死因は「老衰」とありました。この死因をみて日本の「老衰」を思い浮かべてしまいました。

 この3月21日、もう1人去って往った知人がいます。元プレジデント編集長の樺島弘文さんです。ロードレース用の自転車に乗ったまま栃木県大田原市郊外の用水路に頭を突っ込み死んでいたと報じられました。死亡記事によると死因は水死ではなく急性虚血性心不全だったそうです。

 彼は、たしか小生が「週刊東洋経済」編集長当時の「プレジデント」編集長だったと記憶しています。彼は編集長を終えた後ほどなく、田舎暮らしをするといってふいと東京からいなくなりました。バブルは都会の爛熟をもたらしこれを嫌う人々が田舎暮らしに夢を持つようになりました。小生もその熱に浮かされ屋久島に田舎暮らしを求めて家内と出かけたことがあります。小生は決断できませんでしたが、編集長仲間だった樺島さんは田舎暮らしに決然と踏み切ったのです。そして20年、その彼の訃報がネット上から届いたのです。

 驚いたのは今朝4月20日付けの日経朝刊です。2面下に『小林陽太郎-「性善説」の経営者』という書籍の広告が大きく掲載されていました。その著者がなんと亡くなった樺島弘文さんだったのです。生前脱稿した著書が死後に発売され広告されたことになります。著者が書いた富士ゼロックス会長の小林陽太郎さんも穏やかで聡明な経営者でした。樺島さんは自分に似た経営者を描き切って突然死したのでしょう。冥福を祈ります。

2012年4月13日 13:39

「派遣村」村長は政府に入って何を見たか

(2012年4月13日筆)

 湯浅誠氏は2008年末、日比谷公園に「年越し派遣村」を作り自ら村長に納まって「反貧困」の社会運動を展開した人物です。湯浅氏は社会運動家としては珍しく2度にわたって内閣府参与として民主党政権に参画しました。その社会運動家が内閣府参与として見た政府の現実を本日の「朝日新聞」(2012年4月13日朝刊)で率直に語っています。

 小生、湯浅氏には必ずしも良い感じを持っていたわけではありません。「年越し派遣村」は、「派遣切り」を告発することで労働者派遣法を製造業に広げた自公政権批判に直結しました。それもひとつの要因となって、翌年の09年衆院選挙で当時の麻生政権は敗北、弱者を取り込んだ民主党に政権が移行しました。

 しかし、政権移行後、民主党が掲げた子供手当、高校授業料の無償化、農家の個別所得保障、最低保障年金などの現金分配政策は財源の根拠を欠き選挙目当てのバラマキ公約であることを露呈しました。民主党はマニフェスト原理主義者(その実は選挙至上主義者)を党中に抱え財源確保という政策修正(消費増税)もままならない状態に堕ちいり、日本の政治は混乱を極めています。

 もうひとつ、「年越し派遣村」の後、働かない、働けない、もろもろの生活困窮者が、湯浅氏が最後のセーフティネットと位置づける生活保護制度に駆け込み、その結果、生活保護費が急増しました。高齢や病気で働けない、母子家庭で所得が少ない所帯が生活保護を受けるのは当然ですが、健康で十分働ける「生活困窮者」が生活保護費を受け医療費も無料という状態は許せるものではありません。

 湯浅氏らが開いた「年越し派遣村」は、彼らが意図したかどうかは別にして、ポピュリズム(大衆迎合)とバラマキ政治を許容し「自己責任」否定の社会ムードを助長したという意味で、小生には首をかしげざるを得ないものに映っていました。


「あちら側」は複雑な利害調整の場だった
何かを増やすには何かを削らざるを得ない


 しかし、その湯浅氏が「朝日新聞」の質問に答えて語った感懐には、深くうなずかせるものがありました。湯浅氏は社会運動家としての自らを、問題を世の中に提起し世論を喚起する「こちら側」といい、その問題提起を調整し解決する政府を「あちら側」と位置づけて、「あちら側」の参与になって分かったことをこう言っています。

 「参与になって、『あちら側』が複雑な調整の場であることが分かりました。政治家、官僚、マスコミ、圧力団体などが複雑に絡み合い、限られた財源の中で何かを増やすためには何かを削らざるを得ないというルールの中で、みんな必死に働きかけている」(「朝日新聞」2012年4月13日の「耕論」―政権を出た派遣村村長より引用。以下同じ)

 「あちら側」、つまり政府は社会のあらゆる勢力が抱える複雑な利害を調整する場であるという湯浅氏の発見は、大いにうなずけるものです。しかも、その利害調整が、巨額の財政赤字を抱えている日本政府においては「何かを増やすためには何かを削らざるを得ない」という重い現実があることに湯浅氏が気付いたことにも彼の真摯な姿勢を感じます。

 社会保障であれ何であれ、予算には財源の制約があり、予算の組み換えは誰かの犠牲のうえに成り立つというのは当たり前のことですが、それに湯浅氏のような優れた社会運動家が思い至ったことに大きな意味があると思います。


「俺は悪くない・悪いやつはあいつだ」では済まされない
弱者救済の立場の人も圧力団体、利害調整の当事者だ


 そのうえで彼は以下のようにも言っています。

 「(実際に参与として)調整を担うと、原理原則を言っているだけでは済まなくなる。これまでは往々にして『俺は悪くない。悪いのはあいつだ』で済ませてきた。私たちも調整の当事者である、主権者の1人であることを忘れていました」と。

 「私たちも調整の当事者である」という言葉が重要です。湯浅氏は「弱者救済こそ正義、悪いのは派遣切りを放置する大企業寄りの政府だ」と考えていたのでしょうが、そう主張する社会運動家といえども、社会の中の弱者ないし低所得者を代弁する単なる圧力団体(利害関係者)に過ぎないと認めざるを得ないと彼はいっているのです。

 非正規雇用にシフトする企業側にも国際競争から堕ちこぼれないためという理由があります。非正規雇用で労務コストをセーブして倒産を防ぎ雇用を守ろうとする経営者もひとつの正義なのです。彼がそこまで理解できたかどうか分かりませんが、自らを圧力団体の一員であることを認めるのは勇気がいったと思います。その彼の勇気に敬意を表します。

 そして、「原理原則を持っていることは大事ですし、政権批判も大いにやるべきです。しかし原則的な立場を堅持していれば原則が実現するわけではない。課題によっては調整や妥協をしながら取れるところは取っていく」と結論付けています。同じ消費増税賛成の立場にありながらなぜか調整も妥協もしない谷垣自民党総裁などにも聞かせたい言葉です。


橋下氏は「1をとって9を捨てられる強いリーダー」
決めてくれればその政策の方向性はどうでもいいのか


 もうひとつ、湯浅氏は議会制民主主義に関して聞くべき重要な発言をしています。小生は、この発言にも感心させられました。

 「1億2千万人が住んでいる社会はそもそも複雑なものです。議会制民主主義は、10ある利害をできるだけ切り捨てないようにして玉虫色の結論を出すシステムです。一方で今待望されているのは、10の利害から1をとって9を捨てられる強いリーダーですね。しかしそこで切り捨てられるのは誰か。おそらく私たち(貧困層? 筆者注)でしょう」

 「この1をとって9を捨てられる強いリーダー」が今飛ぶ鳥を落とす勢いの大阪維新の会の橋下徹大阪市長を指すことはいうまでもありません。小沢一郎氏、石原慎太郎氏も国民の「強いリーダー」願望に乗ろうとしている政治家です。しかし、政治思想や政策の中身を吟味もせず「強いリーダー」を求める風潮が社会の隅々まで染み渡っているのは危険なことです。これを湯浅氏は批判しているのでしょう。湯浅氏は橋下徹現象についてこう言っています。

 「橋下さんが支持を集めているのは『決めてくれる人』だからで、その方向性は問われません。『おまかせ民主主義』の延長線上に橋下さんへの期待がある」と。

 「その方向性」とは政治思想、政策の方向を示します。橋下氏の方向性が「自立する個人」「自立する地域」「自立する国家」という政治思想にあることは明白です。「自立」は自己責任と同意語です。国家(つまり他人の支払う税金)に依存することに慣れきった国民を、自己責任で生きる国民に鍛えなおすと橋下氏の維新の会は言っているに等しいのです。

 その政治思想の具体化が、税制ではフラットタックス(一律税率の所得税、累進税廃止)や消費税の地方完全財源化です。社会保障面ではベーシックインカム(国民への一律最低生活費給付)の導入による基礎年金、失業給付、生活保護などの廃止、一本化です。地下鉄や市バスの民営化や教育への競争原理の導入も橋下政策の骨格をなします。「自立する国家」を実現するために核武装に行き着くこともあり得ると言えるでしょう。

 こうした政策も、「決めてくれる強いリーダー」である橋下氏に完全にお任せしてしまうのか、と湯浅氏は問うているのです。「議会制民主主義には改善すべき点が多々ありますが、複雑なものをシンプルにしよう、ガラガラポンしてしまおうという欲求の高まりには危機感を覚えます」と付け加えていますが、この危機感は小生も共有するところです。

 議会制民主主義は時間がかかってまだるっこしいものです。しかし、政治家たちが自分の選挙のことから離れ、合意と妥協の作法さえ見に付けることさえできれば、議会制民主主義は複雑な民意を反映できる、抑制の効いた良い制度なのかもしれません。

 最後に、湯浅氏は「『あっちの側』に期待するか、批判するかの違いはあれど、観客のような、評論家のような気分でいるという点では、橋下さんを支持する人たちと社会運動はともすると同じ図式の中にはまりこみかねない。どちらも民主主義の形骸化という意味の問題です」と自戒をこめて結んでいます。

 評論家のような気分でいる小生も自戒をこめてこれに同意します。

2012年4月 6日 11:51

東京電力は17%値上げの具体的根拠を開示せよ

(2012年4月6日筆)

 東京電力が政府の認可を必要としない企業向けなど自由化部門の電力料金の17%値上げを通告したことをめぐって、利用者の反発が強まっています。

 埼玉県川口市は「鋳物の街」として知られていますが、その川口商工会議所が東京電力の一方的値上げ通告に対して独禁法違反の「優越的地位の濫用」に当たるとして公正取引委員会に提訴する方針だと報じられています。

 マンホールなどの鋳物は電気炉で溶かした銑鉄を鋳型に流し込んで作りますが、くず鉄などの原材料を溶かす電気炉には大量の電力が必要です。製造原価の重要な構成要素である電力料金がいきなり17%引き上げられるのですから、値上げを一方的に通告した東電に対しては怒り心頭でしょう。


実質的な独占状態では「優越的地位の濫用」は必然
なのに東電に料金決定の自由が付与されている不思議


 企業などに電力を供給している業者は東電のような一般電気事業者(9電力)と独立した特定規模電気事業者(PPS。現在、登録53社)の2系列ありますが、東電は首都圏の電力の95%以上を供給しておりほぼ独占状態にあります。

 東電の値上げを機にPPSへの購入希望が殺到しました。発電能力が小さいPPSはすでに供給限界に達し、川口の鋳物業者は東電からしか電力を買えないという状態です。東電が電力供給において「優越的地位」にあることは明らかで、利用者への一方的な値上げ通告は優越的地位の濫用だと彼らは訴えているのです。

 東電など9電力が電力供給を管轄地域でほぼ独占する「地域独占」の状態、つまり「優越的地位」を保持している状態は昔も今も代わりません。「地域独占」の場合、独占業者が「優越的地位」を濫用することを防ぐために公益を代表する政府がその料金決定に介入するのは当然です。実際、平成12年まですべての電気料金は政府による認可制でした。

 しかし、平成12年から50キロワット以上の大口の電力利用者の料金決定は自由化されました。川口の鋳物業者やスーパーなど50キロワット以上の自由料金の大口利用者は全体の65%を占めます(50キロワット以下のコンビニや家庭など小口利用者の電力料金は経産省による認可制が続いています)。

 これら65%の大口利用者がPPSなど他に選択余地のない状態で電力料金の決定が自由化されたことがそもそも問題です。実質的な「地域独占」状態にあるにもかかわらず料金決定が自由化されたのですから、東電が値上げは料金自由化の「権利」と言い放ち、値上げを飲まねば送電を止める(後に否定)というなど「優越的地位」を濫用できるのです。

 ですから、電力会社が実質的な「地域独占」のもとで「優越的地位の濫用」が可能な状態にある限り大口利用者に対してでも料金を自由化するのは危険です。政府の料金決定への介入が必要です。料金の自由化を機能するには新規事業者をもっと増やす必要があります。

 政府はPPSなど新規電気事業者の参入を阻んでいる9電力による送配電網独占の弊害(新規参入者への送電割当や高い送配電網の利用代金)を取り除き、新規電力供給者という十分な選択肢を電力利用者に与えてから料金の自由化を実施すべきでした。そもそも料金の自由化に無理があったといえるでしょう。


役員報酬や従業員人件費など合理化でも足りない
そうなら「17%値上げ」の具体的根拠を開示せよ


 それはさておき、小生、怒り心頭のはずの川口商工会議所・児玉洋介会頭の謙虚さと冷静さには感銘を受けました。児玉会頭は「実質的には東電の選択肢以外の選択肢がなく独禁法違反は明らか」と述べる一方、「やみくもな(値上げ)反対ではなく17%値上げの根拠が不透明だと指摘しているのです」と語っていました(「産経新聞」4月5日配信)。

 税金であれ電力料金であれ、値上げは誰でも厭です。しかし、その公共的な値上げには値上げをしなければ公共サービス(あるいは電力供給)を維持することができなくなるというような理由があるはずです。そしてその公共サービス(あるいは電力供給)を維持するためにどの程度の値上げが必要か、その合理的根拠を利用者(あるいは納税者)に示すことが必要です。

 電力のような実質的な「地域独占」の場合、値上げの合理的根拠は政府に提示され、政府が利用者に変わって合理的であるかどうか判断し料金値上げを採否するという手続きを踏むことができますが、それが料金の自由化でできなくなってしまった。とすれば、次善の策ではあるが電力会社自ら「17%値上げの根拠」を開示すべきだと児玉会頭はいっているのです。まさに正論です。

 東電は、「17%値上げの根拠」は発電用の燃料費負担の増加だと言っていますが、天然化ガスか石炭か、どの燃料費がいくら増加したのか、増加した燃料費をどの程度自社の合理化努力で吸収するのか、値上げができなければ電力供給にどのような影響がでるのか、その具体的根拠を全く示していません。このような具体的根拠が全く明らかにされないまま一方的に値上げを飲めといわれても交渉にはなりません。これでは値上げを飲めるはずがありません。

 東電は最近ようやく値上げの根拠のようなものを説明し始めました。「経常費用の42%が燃料費、14%が購入電力費、14%が設備資本費、5%が納税費が占め、合わせて費用の65%は合理化不可能な費用です、このうち燃料費と購入電力費の燃料費関係費の増加分を値上げでご負担いただきたい」というのが東電の説明です。

 「みんなの党」はじめ一部の政治家は「値上げの前にやることがあるだろう」というのが口癖ですが、この点についても東電は答えを用意していました。東電は「合理化可能なのは経常費用1.5兆円ですが、そのうち7%が人件費、5%が修繕費、14%が『その他費用』です。これらを今後10年間で2.6兆円削減(年間2600億円)する計画ですが、その半分は人件費削減です」と応えていました。

 これには代表取締役は報酬ゼロ、取締役報酬は50%削減を筆頭に従業員給与の引き下げ、年金支給のカットなどが含まれます。他にも7074億円の不動産売却や子会社の整理などかなりの内容の合理化が進められています。もう一段の切り込みと計画実行への厳しい監視が必要ですが、こうした合理化を実施しても燃料費の値上がり分を到底吸収できないから東電は17%の値上げが必要だといっているのです。


原発の稼動停止でどのくらい燃料費は増加したのか
なぜ肝心な燃料費の増加額、増加要因を開示しない


 しかし東電は、肝心の燃料費の増加額と増加要因をうやむやにして開示していません。天然ガスや石炭火力など化石燃料を燃焼させ発電する通常の火力発電所の場合、価格変動に伴う燃料費の増減は自動的に料金に転嫁される仕組みになっているはずです。ですから17%の料金値上げは、福島原発事故以来、停止状態に順次入っていった原発に代わって再稼動した火力発電所の燃料費増加分の転嫁ということになります。

 では、稼動停止原発の核燃料費はいくら減り、再稼動した火力発電所の化石燃料費はいくら増加したのか、その結果、トータルでいくら燃料費が増加したのか、それをまず開示しなければならないでしょう。こうして算出された燃料費の増加が年間2600億円(前述の10年間2.6兆円の1年分)の合理化効果を大きく上回るから17%もの値上げが必要になるという計算になります。

 東電は福島原発放射能事故による被災者への損害賠償費用(現在は約2.5兆円)は国からの借入金で賄うので経常費用の別枠だ、値上げの要素には含まれないと言っています。しかし、国への借金返済資金は東電が将来獲得する利益(正確にはキャッシュフロー)から捻出されるはずですから、利益獲得(黒字化)のための料金値上げは実質的に損害賠償費用にも充当されることになります。

 小生は損害賠償費用が料金値上げの一部に含まれることを非難しているわけではありません。福島原発の電力に依存し長い間その恩恵にあずかった関東の住民として、料金値上げで被災者への賠償費用のほんの一部を負担することを拒むものではありません。

 しかし、火力発電所再稼動に伴う燃料費増加による値上げなのか、賠償費用負担を含む値上げなのか、はたまた他の理由が17%値上げ(家庭向けは10%)の中に含まれるのか、明らかにするのが東電の最低限の責任です。電力の独占供給者にもかかわらず料金決定の自由を獲得しているのですから。値上げ根拠の開示を東電がやらないというのなら、電力料金の自由化部門であれ政府が料金決定に関与すべきです。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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