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大西良雄ニュースの背後を読む

2012年2月

2012年2月24日 09:15

なぜ、さいたまの家族は「餓死という自殺」を選んだのか

(2012年2月23日筆)

 埼玉県さいたま市北区のアパートで餓死が原因らしい3人の遺体が発見されました。一部の報道によると遺体は夫64歳、妻63歳、息子39歳の親子3名だったといいます。猫も一匹、餓死していたようです。

 餓死した家族の年齢を耳にして、小生、かなり動揺しました。わが家族の年齢は小生が66歳、家内63歳、長男38歳、次男34歳と同じ年恰好ですから、年齢構成は餓死した家族とほぼ同じです。ともに団塊の世代と団塊ジュニアの家族だと言って良いでしょう。

 我々は終戦後に生まれ高度成長期に育ち、第一次オイルショック前後に結婚して子供を生み育てて老後を迎えました。同じ時代の空気を吸って生きてきた同世代です。夫婦が中年に差し掛かった独身の息子を持ってしていた点も同じです。しかも同じ埼玉県の住民です。猫も飼っていました。彼らとわが家族の立場が何かの拍子で入れ替わっていたかもしれません。とてもこの餓死事件を他人事とは思えないのです。


家族は生活保護を申請せず
「餓死という自殺」を選んだ?


 家族の生活は、ご主人が体調を崩してから大きく変化したようです。収入はなく病院通いで資産も貯金も食いつぶしたと推察されます。病院通いで貯蓄を食いつぶすことなど、どの老齢者夫婦にも起こりうることです。家賃は2年前から滞納、昨夏からは電気、ガス、水道も代金未納状態に陥っていたようです。昨年12月中旬には奥さんが面識のない近所の老夫婦に借金を申し込んだといいますから生活費の手当がとうとうつかなくなっていたのでしょう。

 死後2ヶ月といいますから、借金を申し込んだ頃から食事は摂っていなかったのではないでしょうか。発見された遺体の枕元には水の入ったペットボトルとコップが置かれ、1円玉が数枚転がるだけで冷蔵庫は空っぽでした。室内は整理され、遺体はやせ細り、3名とも布団に仰向けに寝た格好で死んでいたようです。現場の様子から家族は2ヶ月前に生きることを諦め「餓死という自殺」を選んだように小生には思えてなりません。

 気になったのは、この家族がなぜ生活保護を申請せずに「餓死という自殺」を選んだのかという問題です。

 下表は家族が住んでいたさいたま市の生活保護基準額です。かりに生活保護の申請が通っていればご夫婦には第1類の個人的生活費(2名で7万2200円)、第2類の所帯共通費4万8070円が給付されたうえでさらに住宅扶助6万2000円(2人所帯の場合)が出ます。合わせて18万2270円の生活保護費が給付されます(39歳の息子も生活扶助を受けることができれば4万0270円が加算され合計22万2500円が給付されることになります)。

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 それだけではありません。地方税、国民年金の保険料、国民健康保険の保険料、上下水道の基本料金、NHK放送受信料、医療費、介護費がすべて無料になるのです。余談ですが老齢基礎年金は満額の場合、一人6万4000円、夫婦2人で12万8000円です。もし老齢基礎年金と生活保護のどちらか選択せよといわれれば、給付額が多いうえ公的な費用、医療費が無料となる生活保護を受けるほうがずっと有利です。

 報道によると家族は2度ほど生活保護を申請するチャンスがあったようです。昨年11月、料金滞納をめぐって水道局の職員が訪れた際、職員は「区の福祉課への連絡」をすすめています。同12月には借金を申し込まれた近所のご夫婦にも「民生委員への連絡」をすすめられました。そのいずれも断り、家族は生活保護を申請しませんでした。やはり家族は覚悟を決めて「餓死という自殺」を選んだとしか思えません。


住民票も移さず、近所付き合いもせず
生活保護より「餓死」を選んだ理由は何か


 なぜでしょうか。ご家族の遺書でも出てこなければ「餓死という自殺」を選んだ本当の理由は知る由もありません。したがってここからは小生の推察でしかありませんが、いくつかの理由を考えてみます。

 ひとつは、生活保護を申請することで自分たち家族の身元が分かってしまうことを恐れたからではないでしょうか。家族の身元が分かるのは、11年前、アパートに入居する際、家族の父親が大家さんに提示したといわれる秋田県大館市の住民票の写ししかないと報道されています。その住民票が家族のものであるかどうか不明ですし、さいたま市に住民票を写した形跡もありません。

 11年間、住民票を移さず、近所付き合いもせず、自治会にも加入していませんから、家族は何らかの事情があって自分たちの身元を隠しておきたかったのかも知れません。親類縁者に不義理をした、借金取りに追われている、犯罪に関与して追われている。そんな下世話な事情しか思いつきません。小生、そんなお粗末な理由付けしか思いつかない自分に呆れているところです。

 もうひとつ、両親と息子3名とも布団に仰向けという同じ姿勢で餓死していたという報道が気になります。その家族の「死に様」を聞いて、家族3人は十分話し合ったうえで「覚悟の餓死」を選んだように思えてなりません。これから生活を再建するすべはあるか、年老いた父母から1人ずつ欠けていく将来に心の支えはあるのかなど、家族は静かに話し合ったのではないでしょうか。

 生活保護を得て生き永らえるという手段についても話し合われたと思います。しかし生活保護を申請すれば他人から過去から現在まであることないこと問い質されます。とくに健康で働く能力があると思われる39歳の長男の扶養義務が問われるに違いありません。生活保護という他人様の施しを受けるために、家族のプライバシーを差し出す恥辱を味わうことには耐えられない。

 的外れな推測に過ぎないと思いますが、家族の話し合いは、そんな恥辱を味わってまで生き永らえるぐらいなら餓死して果ててみせようという結論に至ったのでしょうか。生活するすべも生きる目的もすべて失った家族にとって「餓死という自殺」という手段こそ、最後に残された強烈な自己表現だったのではないか、小生、と考えるのです。


被保護所帯の86.5%が高齢者、母子家庭、傷病・障害者。
生活保護者の自殺率は一般の2倍


 なお餓死した家族は申請しませんでしたが、生活保護を受けても生き永らえることができるとは限らないようです。以下に「生活保護所帯」の実態を付記しておきます。

 2009年度の厚労省の調査では生活保護を受けている被保護所帯の44.3%が高齢者所帯、7.8%が母子所帯、34.3%が傷病・障害者所帯です。高齢者、母子、傷病・障害者という働けない所帯が86.5%を占めています。

 2012年度の生活保護費予算は3兆4000億円達していますが、この予算の半分は高齢者所帯を中心とする医療費に費やされています。

 もうひとつ、生活保護受給者の自殺率は被保護者10万人に対して55.7人です(2010年)。全国の自殺率が人口10万人に対して24.9人ですから生活保護者の自殺率は全国の自殺率の2倍になります。

 自殺者が属していた被保護所帯は傷病者所帯が38.7%、障害者所帯が21.4%、そして高齢者所帯の20.1%となっています。

 生活保護を受けたとしても「死は身近かにある」ことをこれらのデータは示しています。すでに前期高齢者である小生、健康に気をつけ医者に掛からず、医療費を掛けず、「ぴんぴん コロリ」とこの世からおさらばできることが最大の国家への貢献だと心得て精進します。

2012年2月17日 11:16

知って大変、いずれ資産も丸見えの「マイナンバー法案」

(2012年2月17日筆)

 2月14日、野田政権は「マイナンバー制度」を導入するための「個人識別番号法案」を閣議決定しました。国民の8割以上は「マイナンバー制度」が何かよく分からない、中身は知らないという世論調査もありました。

 知らなくて幸せですね。昭和生まれの小生など、「個人識別番号」と聞いて、今から30年前、1980年から85年に掛けて勃発した「グリーンカード騒動」をすぐ思い出してしまいます。この騒動を知れば、「マイナンバー制度」が大変な制度であることが分かります。知って大変です。


田中派と郵政族が潰したグリーンカード法案
背後には「所得の捕捉」を嫌がる納税忌避者


 グリーンカードとは国民すべてに番号を付した「少額貯蓄等利用者カード」のことです。当時、「マル優」と称される300万円以下の非課税貯蓄制度があり、この制度を悪用して利子・配当課税を逃れるための「仮名口座」が横行しました。この課税逃れを防ぐため、当時の大蔵省、国税庁は「少額貯蓄等利用者カード(グリーンカード)」制度の導入をもくろんだのです。

 グリーンカード制度を盛り込んだ「所得税法改正案」は1980年3月にいったん成立しました。しかし法が施行される段になって制度の怖さを知り実施反対論が噴出、1985年には議員立法では廃案になってしまいました。

 この制度は、発行されたグリーンカードのもとに金融機関に分散している預貯金口座のすべてを名寄せすることを義務づけ、口座の本人確認を徹底させようとするものでした。名寄せ、本人確認ができれば、本人名義でない「仮名口座」は宙に浮き、預貯金を引き出すことはできません。これを避けるため「仮名口座」から預貯金を「本人名義口座」へ移し変えれば、利子・配当所得が容易に捕捉され「マル優」を悪用した課税逃れができなくなります。

 こうした事態を恐れ制度発足の前から「仮名口座」などに預けられた課税逃れの預貯金(脱税預金)が金融機関から無記名の債券や金に大量に流出しました。さらに「このままだと国内預金が海外に流出し日本経済が大混乱する」という反対論も飛び出し大騒ぎになったのです。反対論者が言う「海外流出する国内預金」は課税逃れの脱税預金です。脱税預金を守るために反対運動が起こり、その結果、いったん成立した法律が廃案になったというのですから今考えると極めて不公正な騒動だったといえます。

 反対運動の中核は自民党の田中(角栄)派と郵便局を支持基盤とする郵政族議員でした。当時の郵便貯金は課税逃れの貯金で膨れ上がっていたようです。グリーンカードの導入で郵便貯金が大量に流出することを恐れ反対運動に走ったのではないでしょうか。預貯金の流出への恐怖は他の民間金融機関も同じで金融業界も反対に回りました。

 しかし、預貯金が名寄されその総額が明らかになるとその預貯金をもたらした「所得の源泉」を税務署から追及される恐れがあります。その恐れが騒動の本質だったのではないでしょうか。

 当時、「クロヨン」とか「トーゴサン」とか言われた「所得捕捉率」の議論が盛んに行われていました。「クロヨン」は、所得税が源泉徴収される給与所得の所得補足率が9割に達するのに対し、自己申告で課税される営業所得の捕捉率は6割、同じく自己申告の農業所得の捕捉率は4割にとどまるという見方です。捕捉率が低いほど所得税負担は軽くなりますから、所得が丸裸になるサラリーマンなどの給与所得者の税負担は重くなり、売上を隠し経費を水増しできる自己申告の中小企業主や農業者の税負担はずいぶん軽くなります。

 「クロヨン」は1981年に石弘光(当時、一橋大教授)氏らの実証研究でその存在が明らかになりました。低い所得捕捉率のもとで郵貯などに溜め込まれた中小企業主や農業者の預貯金がグリーンカードで正確に把握されるのですから、彼らが政治家を巻き込んで反対運動に走っても不思議ではありません。


「給付つき税額控除」に必要なマイナンバー制
いずれ「所得の捕捉」から「資産の補足」へ進化


 そこで今回の「マイナンバー制度」です。これは、すべての国民と法人にマイナンバー(社会保障と税の共通番号)を付与し、納税記録や社会保険料の納付、給付情報を一元的に管理するという制度です。「社会保障と税の一体改革」素案の工程表には2012年に法案提出、14年にマイナンバー(番号)交付、15年1月から「番号」の利用開始と書かれ、その通り政府は動いています。

 この制度の狙いは、個人(自営業者、農業者を含む)の所得や納税額を正確に捕捉し、その情報に基づいて社会保険料や税の公正な徴収を行う一方、生活保護給付などきめ細かな社会保障給付を行うことにあります。

 その際、とくに「正確な所得の捕捉」が重要になります。「一体改革」素案では、低所得者の負担が重くなるという消費増税の逆進性を補うために、一定所得以下の所帯に税を還付したり現金を給付したりする「給付付き税額控除」制度を2015年度から導入しようとしています。制度の対象となる「一定所得以下の低所得者」を特定するには、マイナンバーで所得を名寄せし正確に所得総額を捕捉する必要があるからです。

 マイナンバー制度による名寄せは、当面は「所得の捕捉」にとどまるでしょうが、税負担や社会保障給付の公平性をさらに高めるには「資産の捕捉」が必要になるでしょう。一例を挙げれば、「給付付き税額控除」では「所得はないが預貯金、不動産など資産はたくさんある」という大資産家にも現金給付が行われるからです。こうした不公正も「資産の捕捉」によって是正されます。

 生活保護費の給付では申請者に対して、預貯金、不動産など「資産の捕捉」が徹底して行われています。預貯金を取り崩したり不動産を売却したりすれば生活できる人に生活保護費を給付するのは不公正だからです。マイナンバー制度がさらに進化し、「資産の捕捉」が容易になれば生活保護給付に掛かる費用も節約できることにもなります。

 さらに「資産の捕捉」によって税務署が預貯金や不動産取得の所得源を追及することができれば、自己申告でわかりにくい自営業者や農業者などに対する徴税効果が高まるかもしれません。もうお分かりでしょうが、「マイナンバー制度」が「資産の捕捉」まで踏み込めば、30年前に大騒ぎした「グリーンカード導入」と変わらなくなります。それを知ったら、また反対論が沸騰しかねませんね。


歳入庁創設で12兆円の保険料収入が増加?
マイナンバー制は「公平、公正」のためのインフラ


 ひとつ「一体改革」素案には、税を徴収する国税庁と年金保険料を徴収する日本年金機構(旧社会保険庁)を統合した「歳入庁」の創設による税と社会保険料を徴収する体制の構築作業に入ると明記されています。これには、税と社会保障の共通番号である「マイナンバー制」が大いに役立つに違いありません。

 「みんなの党」の浅尾慶一郎衆議院議員は「文芸春秋」(12年3月号)で「歳入庁を作れば、国税庁が持つ法人データが活用でき保険料の取りっぱぐれがなくなる」と書いています。すべての法人は従業員など保険加入者に代わって年金保険料を納める義務があるのですが、日本年金機構が保険料徴収のために把握している法人数は国税庁が把握している法人数より極めて少なく保険料を納めていない法人が多数になります。浅尾議員によると、国税庁の法人データに基づき納めていない法人から徴収すれば、年間12兆円(消費税5%分)も保険料収入が増えるというのです。「マイナンバー制」を使えば年金保険料を納めていない法人も個人も特定できますから、これを保険料徴収に活用することになります。

 小生は「マイナンバー制」は税や保険料の徴収を公平で公正に行う、あるいは年金、医療、介護、失業保険、生活保護費、「給付つき税額控除」の給付を公平で公正に行うためのインフラとして重要だと考えています。「税と社会保障の一体改革」と切り離してでも法案を成立させたほうが良いと思います。

 小生は、「マイナンバー制」の怖さを改めて知って、社会保障にただ乗りしている「低所得の資産家」、「脱税」「節税」に余念がない「隠れ高所得者」などが同類の政治家たちを使って導入反対運動に走ることを懸念しています。「グリーンカード騒動」の二の舞を避けるためにも「マイナンバー制」の内容をしっか把握しておくことが大切だと思います。

2012年2月10日 12:48

円安をもたらす? 経常収支の「赤字転落」予想

(2012年2月10日筆)

 2011年の貿易収支が48年ぶりに赤字に転落しました。この報道に接して米国の経済学者キンドルバーガーの国際収支の発展段階説を思い出しました。
この説によれば日本経済は第4段階の「貿易収支は赤字に転落するが、過去の対外資産の蓄積が大きく所得収支が黒字であるため経常収支は黒字を維持する」という「成熟した債権国」になったことになります。

 下表をご覧下さい。日本の貿易収支はじわじわ黒字幅を縮小、ついに昨年、赤字に転落しました。一方、海外からの配当や利子収入からなる所得収支の黒字は依然大きく貿易収支の縮小を補って経常収支は黒字を維持しています。ちなみに所得収支の黒字が貿易収支の黒字を上回ったのは2005年でした。

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 市場の専門家の中には経常収支が赤字に転落する日も近いとする見方もあります。クレディ・スイス証券の白川浩道氏は2014年度、JPモルガン証券の菅野雅明氏は2015年、RBS証券の西岡純子氏は2017年か18年には日本は経常赤字に転落すると予測しています。いずれも日銀に籍を置いたことがあるチーフ・エコノミストです。日銀の見方が入っているかもしれません。


輸出は産業空洞化で伸び悩み、
輸入は原燃料増などで構造的に増加


 その第1の根拠は、今後、輸出が伸び悩む(あるいは減少する)一方、輸入の増勢が続き貿易収支の赤字がさらに拡大するという点です。

 小生の観察では、輸出については生産の海外移転(産業空洞化)が大いに気掛かりです。日産は人気の小型車「マーチ」の生産を日本からタイへ移転しました。発表当時も驚きましたが、大洪水の発生でタイが日本の自動車や電機・精密産業の一大生産拠点になっていることを知りさらに驚かされました。

 つい最近もトヨタが、トヨタ九州が福岡県で生産するスポーツタイプ多目的車「ハイランダー」の生産を米インディアナ州に移管すると発表、米国からロシアや豪州にも輸出することになります。すでにトヨタは「カムリ」「シエナ」などの韓国向け輸出を日本産から米国産に振り替えました。米韓FTA(自由貿易協定)や円高ウォン安に対応するためです。トヨタは「300万台の国内生産台数を石にかじりついても守り抜く」と宣言していますが、いつまでその宣言が守られるか、大きな不安を感ぜざるを得ません。

 ちなみに、2010年の自動車産業(部品、二輪車を含む)の輸出総額は約12.6兆円、日本の輸出総額約67.3兆円の13%を占めます。11年の自動車関連輸出は9694億円減少しました。震災やタイの洪水による生産減が響きましたが、回復しても日本からの輸出が回復するとは限りません。自動車産業の輸出生産の海外移転は日本全体の輸出に大きな影響を与えます。

 一方、輸入には今後も増加を続ける要因がたくさんあります。まず最大の輸入品目である原燃料ですが、原油価格の高止まりによる原油輸入の増加が続いています、11年の原油輸入額は値上がりで約2兆円増加しました。原子力発電の操業低下によって火力発電用の液化天然ガス(LNG)の輸入量も増加しました。LNGの輸入額は値上がりと数量増で約1.3兆円増加しました。化石燃料の輸入増加は構造的なものになりそうです。

 円高によるライバル韓国などからの輸入増(鋼材、石油化学製品など) や日本企業の海外拠点からの逆輸入、さらにユニクロやABCマート、ニトリなど製造小売業者の開発輸入の増加が加わります。


低金利が常態化し対外証券投資の黒字が頭打ち、
所得収支の黒字は縮小も


 第2の根拠は、所得収支の黒字が頭打ちになるという点です。上表に戻ってください。11年の所得収支の黒字14兆円のうち海外債券の利子や海外株式の配当などから得られる対外証券投資収支の黒字(表の証券投資収益)が6.9兆円です、所得収支黒字の73%を占めます。 

 特に海外債券からの利子収入が多いのですが、米国をはじめ世界的に債券利回りが低下する低金利が常態化しており、債券利子収入は減少傾向にあります。円高の進行で手取り利子収入の目減りや保有債券の減価も生じています。

 以上の結果、貿易収支の赤字がさらに拡大し、その赤字を所得収支の黒字では補えず経常収支も赤字に転落する。そうなると対外資産が減少し始め、日本はキンドルバーガーがいう発展段階説の最終段階である「債権取崩国」に転ずることになります。


日銀出身アナリストの数年後の
経常赤字転落の予想だけで円安に転ずる?


 日本の経常収支が赤字に転じ「債権取崩国」になれば、市場では円が売られ円安が進行します。経常赤字転落のずっと前段階の、貿易収支が小幅だが赤字に転落したというだけで円は対ドルでも対ユーロでも下落しているように見えます。

 米FRB(連邦準備制度理事会)は消費者物価上昇率2%というインフレ目標を設定、2014年末まで実質ゼロ金利状態を続けることを決めました。これで米国の長期金利がさらに低下し日米の金利差が縮小、対ドル75円台へ円高が進む恐れがあると叫ばれました。しかし、貿易赤字転落が発表されたあと円は78円をうかがう円安に転じています。

 安住淳財務大臣は、昨年11月、約9兆円の為替介入を実施した為替を75年代から一時79円台まで押し戻しました。しかし、一銭の為替介入も行わず、貿易赤字に転落したという数字発表だけで78円台が展望できたのです。市場は、一時的な為替介入などより、貿易赤字への転落のほうが将来の円ドル需給に影響を与え、円レートに変更を迫る基礎的要素だと考えているのです。

 しかも、複数の日銀出身の有力アナリストが「経常収支が数年以内に赤字に転落する」と主張しているのです。為替レートへの影響は貿易収支の赤字転落より経常収支の赤字転落のほうがはるかに大きいのです。その可能性を民間のアナリストとはいえ日銀出身者が述べることの意味は大きいでしょう。

 市場はその見方に反応してすかさず円を売ったのではないかと思います。震災からの復興期に入るこの時期の円安は日本経済にとって恵みの雨です。日銀出身者の経常赤字転落への警告にも感謝しなければと思います。


対外直接投資収益を増やして
経常収支の黒字を維持するという方法もある


 しかし、菅野氏らが言うように、本当に経常収支赤字に転落するとなると大変な事態が発生しかねません。経常収支の黒字、つまり海外で稼いで貯めたカネ(企業貯蓄)で銀行が日本国債を買っていたのですが、経常収支が赤字になれば日本国債の買い余力が失われるからです。さらに円安が進行していれば輸入インフレを招き入れ日本国債の価値がインフレで減価するという予測から日本国債が売られる契機になります。

 こうした事態を避けるには、対外証券投資などよりもっと利益率の高い直接投資を強め、所得収支のうちの対外直接投資収支の黒字(上表の直接投資収益)を大きくする必要があります。2011年の直接投資収益は3.8兆円で所得収支黒字の27%を占めるに止まっています。

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 直接投資とは、海外での日本企業の工場建設や子会社設立による投資、あるいは海外企業のM&A(買収)を指します。上表は、国際貿易投資研究所調べのデータですが、日本の対外直接投資は米英独に比べ収益率、残高でも大きく見劣りします。もっと直接投資を増やしそれで稼ぎ出した直接投資収益によって所得収支の黒字を維持する一方、その海外からの配当収入を国内での新製品・新事業の開発や生産性引き上げ、研究開発など高度化投資に回す努力を企業はすべきでしょう。

2012年2月 3日 10:45

砂上の楼閣「橋下人気」にたかる可哀想なシロアリたち

2012年2月3日筆

 野田総理は自らを「ドジョウ」に喩えたり、橋下徹大阪市長の人気にあやかる政治家を「シロアリ」に喩えたり、政治家としての能力はさておき、その風刺センスには一級のものがあります。総理を引退後は、くだらない政治家稼業などからさっさと足を洗って政治戯評を描く漫画家にでもなればと思います。

 そもそも橋下徹氏がシロアリに食われて困るほど立派な床柱であるのかどうか、はたしてシロアリが食いつこうとしている「橋下人気」がこれからも続くのかどうか、よく分かりません。

 もしかすると橋下氏は地方公務員と地方議員、教育委員会を悪者に仕立て上げて悪者叩きで人気を博する手法にたけているだけの政治家かもしれないのです。確かに公務員も議員も教育委員会も、民の苦しみを知らずたいした仕事もしないのに高禄を食んでいるだけの存在かもしれません。しかし悪者を叩いて実現しようとしている橋下氏の教育改革や大阪都構想が大阪の再生にとって正しい成果を生むものなのかどうかまだ分からないのです。


「船中八策」は「地方主権」の橋下氏とは全く逆の「中央集権」を構想したものです

 まして国政という内政、外交にわたる広範で細部に及ぶ仕事に橋下氏が耐えうるかどうかも分からない。彼は国政進出に当たって坂本龍馬の「船中八策」を持ち出しマニフェスト(公約)作りをしているようです。ブレーンとされる歴史小説家・堺屋太一氏の知恵を借りたのでしょうが、国民的人気の坂本龍馬を持ち出すあたり相変わらずのポピュリズム(人気取り)政治ですね。

 だいいち、橋下氏は龍馬の船中八策の中身を理解しているかも疑わしい。伝えられる龍馬の船中八策の考え方は、橋下氏の主張である反中央集権(地方主権)とは正反対です。江戸末期、全国276もの藩が乱立して自藩の利益擁護に汲々としていました。龍馬はそんな藩の利益に絡めとられた「地方主権」を乗り越え、外国からの脅威に対抗するために「日本」というひとつの国民国家、中央への権力集中(中央集権)を構想したのではないでしょうか。

 船中八策は「天下の政権を朝廷に奉還せしめ」から始まり「上下議政局を設け」、「有材の公卿諸侯及び天下の人材を顧問に備へ」、「外国の交際広く公議を採り」ながら「新に無窮の大典(憲法)を撰定すべきこと」、「海軍宜しく拡張すべきこと」、「御親兵を置き、帝都を守衛背せしむべきこと」に至ります。

 途中に「宜しく従来有名無実の官を除くべきこと」という記述があり、この点だけは官僚制度の抜本改革を訴える橋下氏の主張と合致します。が、龍馬の船中八策の他のどこにも橋下氏がいう地方主権の主張などありません。龍馬は「皇運を挽回し、国勢を拡張し、万国と並行する」ための中央集権を主張しているのです。


「競争と自己責任」で鍛え直す橋下政治を知っても、なお支持を続けるのか

 もうひとつ、シロアリがたかる元になっている「橋下人気」のほうですが、これも危ういものがあります。政治家の「人気」など他愛ないスキャンダルひとつで軽く吹き飛んでしまう代物です。まして橋下政治が「競争と自己責任」に基礎を置くという本質を知った時、橋下氏に投票した大阪の選挙民の間で「橋本人気」が持続するかどうか大いに疑問です。

 誤解のないようにいっておきますが、小生は、国家にたかる官僚と国家におねだりする国民、行き過ぎた「弱者」救済と再分配バラマキ主義には反対の立場です。その意味で地域住民や官僚、教育者に「競争と自己責任」を迫る橋下氏の考え方には賛成です。

 「競争」の結果、落ちこぼれたのか、怠惰と努力不足のせいで落ちこぼれたのか、あるいは病気や事故にあい困窮しているのか、よく分かりませんが、大阪は日本で生活保護費の受給者比率がもっとも高い都市です。その背後に税金は払うものではなくフリーライド(ただ乗り)するものだという考え方がありはしませんか。最低賃金で働くよりは働かないで生活保護を受けるほうがはるかに得だという考えがはびこっていませんか。そんな大阪を橋下氏は「競争と自己責任」で鍛え直すと言っているようにも小生には聞こえます。

 その橋下氏の考え方が具体化された時、行政による保障や保護、手厚いサービスを当然の権利のように考えていた選挙民が橋下政治を許容することができるとは到底思えません。選挙民は自らの既得権益が侵される行政が実施されると分かった途端、橋下氏を忌避し「橋本人気」は吹っ飛ぶ恐れがあります。


「みんなの党」はシロアリではない。社民党は決してシロアリにはならない

 そこで「シロアリ」の話ですが、「みんなの党」は「橋下人気」にたかるシロアリではありません。規制改革による「競争と自己責任」の導入は既得権益(小生はこれを「利権民主主義」とずっと呼んできました)の打破につながるとするのが小泉政治の原点です。その真の後継者は「みんなの党」です。ですから橋下氏が同じ政治思想を持つ「みんなの党」と連携してもなんら不思議ではないからです。

 橋下氏は、日本財政の深刻さを熟知し消費増税を忌避していない点では小泉政治や「みんなの党」より優れているといえます。小泉政権とその後3代の自民党政権、2代の民主党政権、合わせて10年間も消費税増税を忌避した結果、日本の財政は破綻の坂道を転げ落ちようとしています。消費税増税なしでは、いつ日本国債が売り浴びせられても不思議ではないことを橋下氏は良く知っているともいえます。

 「みんなの党」は、税金と社会保険料の徴収を一本化する歳入庁を新設すれば、社会保険料未払いの法人から徴収逃れの保険料約12兆円を徴収できる、税と社会保障の共通番号制の導入で約5兆円の税収増が期待できると言っています。税や社会保険料の徴収逃れを正すことは賛成ですが、合わせて17兆円もの財源が本当に出てくるのでしょうか。しかも、これは形を変えた増税です。その点について消費増税に前向きな橋下氏と「みんなの党」の合意が成立するのでしょうか。

 橋下氏が消費増税を忌避しない「競争と自己責任」主義者であることを本能的に知っているのが、山口二郎(北海道大学教授)、森永卓郎(獨協大学教授)、浜矩子(同志社大学教授)など旧サヨク(左翼)、社会主義色が強い評論家的学者たちです。社民党の福島瑞穂党首も、橋下氏や「みんなの党」は小泉政治の亜流だといって強く批判しています。小泉政治を徹底批判する社民党が「橋下人気」にたかるシロアリにならないのは当然ですし立派です(小泉批判と消費増税反対の主張は間違っていますが)。


選挙目当てで橋下氏にたかる、年取った「シロアリたち」こそ哀れなり

 しかし福島瑞穂氏の社民党と同じ理由で小泉政治を批判してきた亀井静香代表の「国民新党」が橋下氏と組むのは理が通りせん。小生には亀井氏は、自由主義とは無縁の国家的社会主義者のように思えます。それがこともあろうに国粋的な自由主義を標榜する自民党「青嵐会」の旗手だった石原慎太郎氏を担ぎ上げて橋下氏の「シロアリ」になろうというのです。石原氏も橋下氏も基本的には自由主義者です。たぶん消費増税による財政再建、規制改革やTPP(環太平洋経済連携協定)にも前向きだと推察されます。そのいずれにも反対の亀井氏が彼らと手を組めるのでしょうか。亀井氏は支離滅裂です。

 民主党の壊し屋・小沢一郎氏も橋下氏に秋波を送っているというではありませんか。小沢氏はその著書「日本改造計画」を読めばわかりますが、彼はまぎれもない「新自由主義者」でした。細川政権では国民福祉税という名の消費増税をゴリ押ししようとしました。しかし小沢氏は、それらをすべて隠して官公労など労働組合と手を組んだ。そして選挙に勝つことだけを考えて小泉氏の「新自由主義」批判を展開してきたのです。今度も選挙に勝つことだけを考えて橋下氏の「競争と自己責任」、つまり新自由主義に眼をつぶり、橋下氏の「シロアリ」になり下がるのでしょうか。嘆かわしい。

 民主党の仙石由人政調会長代理は、某テレビ番組で橋下氏の人気ぶりについて「ある種の英雄待望論みたいなものでこの時代を乗り越えていけるか」と問うていました。さらに「欧州危機、米国危機など一国単位で物事を考えられないときは、もう少し外交安保や社会保障政策の本筋の議論をすべきだ」とも批判しています。

 仙石氏の言うとおり、橋下氏や「みんなの党」の「反官僚、反中央集権」だけでこの難しいグローバリズムの時代を乗り越えられないこともまた事実でしょう。もっと冷静に橋下氏の立ち位置と政策を吟味したほうが良いのではありませんか。ましてやその吟味もせず、選挙に勝つためだけに「新党」(旧党の間違いでしょう)を作り、橋下氏にたかる「シロアリ」になろうとする古い古い政治家など早々にご退陣願いたいと思います。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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