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大西良雄ニュースの背後を読む

2012年1月

2012年1月27日 10:02

真冬の北海道・登別温泉での「極楽、極楽」

2012年1月27日筆

関東にも初雪が降り東京で2~3センチ、小宅のある所沢でも数センチ積もりました。その翌日、北海道・室蘭での講演に出かけました。

札幌の北にある岩見沢ではドカ雪で家がすっぽり雪に埋まり、道央の旭川では気温が-30度を記録したと報じていました。家内は手袋を買ってきて「これ持っていきなさい」といいますし、南国育ちの小生、寒さは大の苦手、凍死しないようにとだるまのように着込んで家を出ました。重かった。

日の入りが早い北海道の真冬、雪が上がった後、見上げれば満天の星でした
眼が覚める午後五時前、新千歳空港はすぐそこ、ジャンボ機はすでに着陸態勢に入っています。窓から外を見ました。白銀にかがやく北の大地を期待していました。しかし日はとっぷり暮れていて、そこには薄墨の地が広がっていました。その薄墨のところどころに松明のような明かりが茫々と灯り、白銀の世界とは一味違った幻想的な風景を映し出していました。

空港近辺でも日中、高くとも-3度、朝夕には-7度前後といいます。日はすでに暮れていましたから、新千歳のエアーターミナルの車寄せに出ると冷凍庫に入った寒さでした。たぶん-6度ぐらいだったのでしょう。

急いで迎えの車に飛び乗りました。これから道央自動車道を南下し登別東インターで降りて登別温泉へ向って上ります。雪への備えは十全なのでしょう、道央自動車道には雪はありません。車外を見ると雪が上がったあとの澄んだ夜空に星が一杯、大きなオリオン座が小生にかぶさってくるようでした。

真冬の夜の北海道も素晴らしいと感動したのですが、腑に落ちないことがありました。まだ午後五時過ぎなのに満天の星、夜の訪れがちょっと早過ぎませんか。そう聞くと運転手さんは「お客さん、真冬の北海道では4時半頃から日が落ち5時には真っ暗です。東京より1時間は早く日が暮れます」と教えてくれました。なるほど、北欧の白夜が冬の北海道でも味わえるのかと合点が行きました(後で調べてみましたらこの時期、室蘭あたりの日の入りは午後4時40分、東京は日の入り午後5時ですから20分ぐらいの時間差です)。

一時間ぐらい走ったでしょうか。高速道路を降りて一般道路に入りました。ここから山の中にある登別温泉に登っていくのですが、さすが山の一般道路の除雪は完璧とは言いがたく、道路わきには凍った雪が残っていました。車もスリップを避けるようにゆっくり登っていきます。ずるずる登っていった温泉郷の一番奥、源泉である地獄谷近くに本日の宿「第一滝本館」がありました。

広さ1500坪、7つの異なる泉質を持つ大浴場に圧倒されました
「第一滝本館」は江戸の安政5年(1858年)の創業だそうです。登別に湧く霊泉の噂を耳にした開祖の滝本金蔵は「皮膚病に苦しむ妻とともに深山幽谷に分け入ってこの地にたどり着き、小屋を作って妻を湯治に専念させた」そうです。すると妻の皮膚病が見る見るうちに快癒し、効能に驚いた金蔵はその恩恵をもっと多くの人々に広めようと休泊所を建てて湯治人の世話を始めたのは「第一滝本館」の始まりだと、館のパンフレットに書かれていました。運転手さんの話だと、創業当時、アイヌの人も休泊所を盛んに訪れたそうです。

北海道新聞に出ていましたが、道民を対象に行った「リクルート北海道じゃらん」の調査によると、「これまで行って満足した道内の旅行先」の第1位は函館、第2位は富良野、そして第3位が登別温泉でした。ちなみに第4位が世界自然遺産に登録された知床ですが、登別温泉は知床より上位です。道内に数多ある北海道の温泉郷の中でも最高位の人気なのです。休泊所を建て創業した滝本金蔵さんも天国で満足しているでしょうね。

食事は「たきもとの冬」と名づけられた日本料理でした。先付けの「鞍肝のとうふ」に始まって、虎杖浜のホッキ貝、礼文島のボタン海老、揚げたてのカニ天ぷら、ウニ乗せの茶碗蒸し、ご飯は北海道産の「ななつぼし」と北海道産の食材尽くしでした。酒は開祖の名を冠した地酒の「金蔵」(金粉入りです)、食後の甘味は夕張メロンのようでした。食事を運んでくれた仲居さんに「メロンは夕張産ですね」と聞くと返事に困り、調理場で聞いてきたようですが「熊本産です。申し訳ありません」と恐縮した様子でした。

画竜点睛を欠くとはこのことですが、メロン以外はすべて美味く食べ過ぎてしまいました。ただでさえ膨らんでいる腹がもっとせり出し動きにくくなりましたが、そのまま広さ1500坪、田んぼでいえば5反近い大浴場に直行しました。大浴場には大小合わせて35もの浴槽があるというではありませんか。

小生、育ちは九州、別府温泉です。東洋一に湯量を誇る別府温泉ですが、1500坪もの大浴場を持つ旅館・ホテルなどなかったと記憶しています。しかも「第一滝本館」には泉質の異なる7つの湯を味わえるといいます。別府温泉にも泉質が異なる泉源がたくさんありますが、ひとつの浴場に複数の泉質の湯が引かれた温泉宿などありませんでした。

3階建ての別館の3階に滝本館の泉源でもある地獄谷が望める大浴場があります。2階からは露天風呂にも入れます。大浴場の広さには圧倒されましたがそれ以上に楽しめたのは泉質の異なる7つの湯でした。皮膚病が快癒した開祖・金蔵さんの奥さんにちなんで名づけた、湯治場にぴったりの、「癒しの湯」「万病の湯」「鬼の湯」「きづの湯」「美人の湯」「美肌の湯」「熱の湯」の7つの浴槽です。

小生、温泉場育ちですが長湯は苦手、カラスの行水ですが、今回はそういうわけには行きません。7つの浴槽をぐるぐる回り、冷凍庫の中にあるような露天風呂にもつかりました。そうこうしているうちに1時間以上も湯につかってしまい、かつて経験しない長湯になりました。しかも小生、水虫が快癒しあばた面が滑らかになり、せり出した腹が引っ込んだような気になりました。ちょっと思い込みが過ぎたようですが...。

放射能騒ぎも気にせずいち早く登別を訪れてくれた台湾の観光客にも感謝
地酒「金蔵」を飲んでほろ酔いかげん、寒さも忘れ7つの湯につかって「極楽、極楽」、思わずそうつぶやいてしまいました。日帰り講演が普通となった昨今、登別温泉一泊付で文士並みの講演に招いてくださった北海道新聞室蘭支社の皆さんに心から感謝いたします。

ところで、真冬の登別温泉の客入りですが、あまり多くはないように見受けました。小生、大浴場を独占したかのような気分になったのですが、それでも親子連れで湯につかる客もちらほら見受けられました。どうやら、中国の旧正月、春節の休みを利用して登別を訪れた台湾からの客のようです。

福島原発事故による放射能騒ぎで日本を訪れる中国、韓国の観光客が激減する中、放射能騒ぎなど気にせず登別温泉にいち早く戻ってきてくれたのは台湾の観光客だったそうです。そういえば新千歳へ向うジャンボ機の小生の後ろの座席には小学校低学年の女の子を連れた若い台湾人の夫婦が乗っていました。

小生には後ろ座席に座っていた台湾の女の子、風呂に一緒につかった台湾の男の子が限りなく可愛いく、かしこそうに見えました。登別を訪れていただいた台湾の皆様にはひとりの日本人として厚く御礼申し上げます。有難うございました。

2012年1月20日 09:44

なぜ消費税率引き上げが「2010年代半ば」なのか

2012年1月20日筆
 
野田佳彦総理は、「社会保障と税の一体改革」を押し進めるに当たってしばしば次のような言葉で自らの覚悟を述べています。

「やらなければならない、逃げることのできない、先送りできない課題」
「これをやり切ることなくして日本と国民の将来はないと確信している」
「私の政治生命をかけてやり抜く。この国を守るために、未来に残すために」
 
一国の総理が、一体改革は「逃げることのできない、先送りできない」課題であり、「この国を守るために、未来に残すための」改革をやり切らなければ「日本と国民の将来はない」とまで言っているのです。そこまで事態が深刻なら、その深刻さの具体的な内容を詳しく国民に知らせてほしいのですが、その説明は殆どありません。野田総理の奥歯に物がはさまったような抽象的な発言を聞いて小生などはなんとも歯がゆくてじれったく感じてしまいます。

日本国が抱える事態の深刻さの具体的内容とはいったい何なのでしょうか。はっきり申し上げれば、「一体改革」によって消費税率を引き上げることができなければ、「近い将来、2010年代半ば頃には、日本は財政破綻を引き起こしかねない」と野田総理は言いたいのでしょう。

しかしそんな深刻な予測を総理が軽々しく口にすることはできません。総理が「財政破綻」の可能性つまり「債務不履行」の可能性を口にした途端、民間金融機関は日本国債の保有理由を失い保有国債を売るほかなくなるからです。総理の言葉を聞いて金融機関が国債売りに走れば、総理や財務省が想定する以上に早く「財政破綻」が訪れることになるからです。

12年度の月当たり国債発行予定額は12.5兆円、イタリアの3倍以上
財務省の推定によれば、わが国の「国債及び借入金残高」は2012年3月末で1024兆円に達します。おギャーと生まれた瞬間に日本国民は約802万円の借金を背負うのです(4人家族で2400万円)。国民の1年間の稼ぎである名目GDPは約470兆円ですが、その2.18倍になります。

下表をご覧下さい。「国債及び借入金残高」に含まれる国債、財投債(政府系機関の借金)の発行額です。2011年度、12年度は発行予定額ですが、11年度の発行予定額は復興債を含む新規国債の発行が55.9兆円、借り換え債の発行が109.2兆円、合わせて発行予定額は181.2兆円に達します。

0120表1.JPG

借り換え債について説明します。わが国国債の平均償還期間は7年9ヶ月です。しかし償還期限が来ても財政が大赤字ですから償還財源がありませんので国債を借り換えるしかありません。その額が11年度は109兆円にもなるのです。国債残高が積み騰がれば借り換え債は増えますので、12年度の借り換え債は112兆円に拡大する見通しです。

新規発行と借り換え債を合わせた12年度の国債発行予定総額174.2兆円ですが、そのうち民間金融機関が引き受ける市中発行予定額(市中消化必要額)は149.7兆円です(残りは日銀や個人引き受け)。月間の市中消化必要額は実に12.5兆円にもなります。今大騒ぎになっているイタリア国債の2月の市中消化必要額は440億ユーロ、邦貨換算で約4.3兆円です。日本の月間市中消化必要額はイタリアの3倍にもなる大きな額なのです。

すでに民間金融機関は国債暴落時のリスクシナリオに沿って動き始めている
国債が急落したギリシャでもイタリアでもそうでしたが、市中消化が難しくなるのはある日突然です。日本でもある日突然、金融機関が国債償還への不安に取り憑かれて国債の購入を敬遠して「札割れ」(国の国債発行額に市中の応札額が満たない状態)を惹き起こし、月間12.5兆円もの市中消化ができなくなる事態が発生しても不思議ではありません。

0120表2.JPG

上表は日本国債の所有者別の内訳ですが、直接、間接は別にして応札に参加する「市中」といわれる民間金融機関は、銀行等(昨年9月末保有額326.6兆円)、生損保等(同155.3兆円)、海外(同47.4兆円)の3者です。その3者の保有割合は70.8%になります。彼らが応札を敬遠すればいつでも「札割れ」は起きます。「札割れ」は国債の買い手不足を意味しますのでこれが発生すれば国債価格は急落します。

よく日本国債は日本人が95%保有しているのだから大丈夫という人がいますが、それは間違いです。日本国債を持たなくても海外のヘッジファンドはシカゴや東京の先物市場で日本国債の先物を売ることができます。国債保有の65%を占める銀行や生損保が国債入札に応じない、あるいは保有国債を売るということも大いにあり得るのです。銀行や生損保が売れば国債は急落します。

すでに民間金融機関の殆どが、どの程度の国債保有であれば暴落による国債の値下がり損に耐えられるか、国債暴落時の損失シミュレーションを始めているようです。預金者や保険契約者から預かった資金で金融機関は国債を買っているのです。国債の暴落で経営危機に陥れば預金者や契約者に迷惑が掛かるのですから、暴落に備えるのは当然です。

さらに民間金融機関は10年以上の長期国債の保有を避け、償還が早い1年、2年、5年債などの短期、中期国債の保有を優先し始めています。国債の保有期間の短縮化を進めることで暴落リスクを小さくしようとしているのです。最近は海外勢がリスクの高い欧州債を売って安全資産とされる日本国債に乗り換えていますが、彼らが買っているのはいつでも現金化できる1年未満の短期国債が中心です。「市中」の主役である日本の民間金融機関も海外勢もいつでも日本国債から逃げ出せる態勢を整えつつあるといえるでしょう。

10年代半ばには家計貯蓄、企業貯蓄の両面から市中消化能力が失われる
このまま国債発行残高が累増し続ければ、どこかの時点で日本の金融機関による市中消化能力の限度に達します。市中消化の源泉のひとつは家計貯蓄ですが、その目安である家計純金融資産の昨年9月末残高は1138兆円です。これに対する「国債及び借入金残高」は、今後2年間は年40~50兆円ペースで増え続けるでしょうから13年度末には家計純金融資産と並ぶ可能性があります。これは家計貯蓄の増加によって増発国債を消化する能力が失なわれることを意味します。

もうひとつの市中消化能力は企業純貯蓄の増加です。企業純貯蓄は企業が借金返済を進めることによって増加してきましたがその伸びは鈍っています。経常収支の黒字を源泉とする企業貯蓄の増加も不安になってきました。産業の空洞化で輸出が減少、原発事故後、化石燃料輸入が急拡大しており貿易収支は悪化の一途です。このままでは貿易収支の赤字を所得収支の黒字で補えなくなり経常収支の黒字は2010年代半ばには消滅するという予測も複数のエコノミストから出されています。経常収支が赤字に転じるかどうか議論があるとことですが、もしその予測どおりになるとすれば企業貯蓄の増加によっても増発される国債を吸収できなくなります。

以上をまとめれば、「2010年代半ば」には家計貯蓄、企業貯蓄の両面から国債の市中消化能力が限界に達するということになります。国内で国債を消化できなければ海外勢に買ってもらうほかありませんが、海外勢が現在のような1%を切るような低利回りで国債を買ってくれるはずがありません。国債の発行利回りは上昇必至です。しかし発行利回りが1%上昇すれば国債の利払いが1兆円増加します。韓国並みの4%前後になれば約3兆円、消費税1%分(約2.5兆円)以上の利払いの増加になるのです。これでは国債利払いのために増税する悪循環に陥りかねません。

なぜ野田政権が、消費税増税を第2段階14年4月、第2段階15年1月と「2010年代半ば」に設定したのか。その理由は、家計貯蓄と企業貯蓄による消化限界を迎えるという想定があるからでしょう。トータル5%の消費税率引き上げで13兆円前後の税収増が予想されますがこれだけでは国債の累増は止まりません。しかし、これによって「2015年度に基礎的財政収支の赤字(12年度は実質25兆円程度の赤字)を半減する」という国際公約はかろうじて達成できる可能性があります。国際公約は大切にしなければなりません。

もし財政再建のための最後の手段ともいえる消費税増税を愚かな政争の果てに葬り去れば、日本の民間金融機関は国債を保有する根拠を失い、海外勢には絶好の先物売りの機会を与えることになります。私たちは、ある日突然、日本国債が売り浴びせられ、その結果、緊縮財政と金融危機が重なるという悪夢が現実となるような、欧州危機の二の舞はなんとしても避けるべきでしょう。

 

2012年1月13日 11:00

「繁栄の孤島」日本が単なる「孤島」になる日

2012年1月13日筆

1991年~2000年まで国連難民高等弁務官を勤められた緒方貞子氏(現・国際協力機構理事長)が、含蓄に富んだ発言をしておられます。

「日本だけが利益を得る"繁栄の孤島"という考え方は通用しない。アジアの新興国が台頭しているが、日本の製造業にとって欠かせない存在になった。(中略)、製品は国内だけで売れるわけではない。途上国の民生向上で"買える人"を増やすことが重要だ」(日経新聞」2012年1月8日朝刊、以下同じ)

「大学3年になってすぐに就職活動でそわそわしては留学どころでない。企業は海外の大学院に社員を留学させてきたが、人間性を高めるならもう少し若い時期に留学するほうが良い。企業は採用の仕組みを変えるべきだ。また海外からも多くの留学生を受け入れなければ世界と日本はつながれない」

「日本が"繁栄の孤島"と呼ばれているうちはまだ良い。そのうち"繁栄"がとられ、単なる孤島になってしまうことを恐れる」

緒方さんは、財政悪化を理由に日本の政府開発援助(ODA)が90年代後半から一貫して減少していること、それだけではなく日本には政治家を筆頭に(英語が話せる)グローバルな人材が極めて少ないことを憂えて以上のように発言されたようです。

20年以上も前ですが、スイスのザンクトガレン大学で行われたシンポジウムで高等弁務官当時の緒方さんにお会いしたことがあります。その時も緒方さんは「日本の若者、特に男性が弁務官のようなグローバルな仕事に付きたがらない」といって嘆いておられたことを思い出しました。20年たっても日本は変わっていないようですね。いやますます内向きになっているようです。

小生には、緒方さんの言う「繁栄の孤島」という表現がひどく気になります。難民支援など国際協力の場でご苦労された緒方さんの目には、日本は「繁栄している島」ではあるが、グローバリゼーション(及びグローバリズム)に後ろ向きで殻に閉じこもる国民が住む「孤島」に映るのでしょうね。

ベルリンの壁崩壊以来、自由市場圏が一気に拡大、途上国には恩恵
国境を越えてモノ、カネ、情報が自由に動き回るグローバリゼーション(世界化)は、自由市場圏の拡大にネット革命が加わってもはや止めることはできません。この流れに抗するのは難しいといわざるを得ません。20年ぐらい前から起きた新しいグローバリゼーションの歴史を少し振り返ってみましょう。


新しいグローバリゼーションの波は、ちょうど緒方さんが国連難民高等弁務官として活躍され始めた1990年代の初めから次々に押し寄せてきました。

1989年、ベルリンの壁が崩壊して北朝鮮とキューバを除く世界の社会主義国家が解放されました。これで世界経済は自由主義運営に一元化されました。
 
1991年、世界第2の人口大国・インドが外資を受け入れる経済開放に踏み切りました。合わせて国内電気通信事業を分割して競争原理を導入、IT立国への一歩を踏み出すことになりました。

 1998年、欧州中央銀行(ECB)が設立され、1999年には共通通貨ユーロが導入されて、世界最大の自由貿易圏であるユーロ圏が誕生しました。

2001年、中国が世界共通の貿易と投資の自由貿易協定であるWTO(世界貿易機構)に加盟しました。中国は外資による積極投資と自由貿易の恩恵を受け、ここから年率10%以上という驚異の高成長がスタート、昨年には日本を抜き世界第2のGDP大国になりました。

ベルリンの壁以降、一元化された自由主義市場に人口大国の中国、インド、それに旧ソ連圏諸国の労働者が大量に参入することになりました。先進国は工場を途上国に建設することによって途上国労働力が先進国に雇用され、労働力のグローバリゼーションが実現しました。このグローバリゼーションは、途上国の人々の生活を底上げしましたが、その一方で低賃金労働力の大量放出をもたらしました。それが先進諸国の豊かな労働者を直撃し、日本を筆頭とする先進国での賃金低下や高い失業率をもたらす伏線になっています。

グローバリゼーションを加速したインターネット革命、世界はフラットに
この自由市場圏が急速に世界を覆い始めた時代、同時並行的にグローバリゼーションをさらに加速するイノベーションが起こります。

イノベーションの第1フェーズはアップルのパソコン―マイクロソフトのウインドウズ、第2フェーズはインターネット―電子メール―ネットスケープの市販プラザ(ウェブサイト)でした。そのように、ピュリツァー賞を3度受賞したトーマス・フリードマンのベストセラー著作『フラット化する世界』(原題「The World Is Flat」=世界は平らだ、2005年刊)は書いています。このイノベーションによって情報伝達のコストは劇的に下がり、情報の時間距離は短縮され、地球は縮んだともフリードマンは書いています。

貿易と資本の自由化によって、製品・商品そしてマネー(資本)は国境を越えて自由に行き来しするようになりましたが、労働力が国境を越えるには大きな制限がありました。しかしパソコンに端を発しネット革命に至ったイノベーションは、物理的に移動することのできない労働力が国境を軽々と越えることができる状態を作り出しました。

インターネットでデータを送ればインドや中国の優秀で安価な労働者を雇うことができます。多くの欧米企業がインドのバンガロールにコールセンター業務やソフトウエアの開発、規格化された単純な事務作業などをアウトソーシングしています。日本企業は中国の大連をアウトソーシングの拠点に活用しています。小生も、出版社の営業局長当時、前金購読者やダイレクトメールの宛名書きや財務データの入力作業を大連にアウトソースすることを検討したことがあります。インドのバンガロール、中国の大連は、途上国の低賃金労働者とネット革命を結合させて急成長し近代都市に変身することになりました。

先進国の貧困と格差問題は反グローバリズムでは解決できません
グローバリゼーションはインドと中国の労働者に職場をもたらしました。アメリカや日本の賃金の5分の1、10分の1でも現地では十分満足できる給与です。現地では所得が増加し賃金は増えます。しかしグローバリゼーションは、アメリカや日本など先進国の労働者、特にアウトソースしてもなんら支障がない仕事に従事しているスキルの低い従業員には酷でした。雇う側からすれば、同じスキルであれば安い給料でも喜んで働いてくれる元気なインド人や中国人を雇うほうがはるかに有利です。

先進国と途上国の間で賃金のフラット化(平準化)が進んだ結果、途上国の賃金は上がりましたが日本など先進国の賃金は下がり失業率は高まることになりました。その結果、先進国に発生している貧困や格差はグローバリゼーションの帰結だという主張が飛び出し、グローバリズムへの批判が沸騰し始めたのです。打ち壊すグローバリズムの象徴としてG8(先進8カ国首脳会議)やWTO(世界貿易機構)、APEC(アジア太平洋閣僚会議)などが挙げられ、その会合に反グローバリズム派がデモを仕掛けて気勢を上げるようなことが増えてきました。

しかし、グローバリズムの調整機関でもあるこれら国際機関を襲うのは門違いです。反グローバリズムの主張も利己的な主張に思えてなりません。緒方さんの議論に戻りますが、緒方さんは「途上国の民生向上で(日本の製品を)"買える人"を増やすことが重要だ」といっています。ベルリンの壁崩壊以降のグローバリズムは、新しく自由市場圏に参入することができた旧社会主義圏や途上国の人々の所得を増やし国民生活(民生)を引き上げることに貢献しました。グローバリズムを批判することは途上国の人々の生活の改善を否定することに等しいのです。我々は彼らの民生向上を拒否することはできません。

先進国における貧困や格差の問題は、グローバリズムを受け入れ、グローバリズムに寄り添いながら解決するのが筋です。そのためには、途上国で製造するほうが良いものは途上国で作るなど、譲り渡すものは譲り渡し、先進国は途上国ではできないものを作るという国際分業を進める必要があります。日本は、民生の向上を果たした新興国の人々が喜んで買ってくれるような製品やサービスを提供することが第一です。その際、新興国の労働者と同等かそれ以下のスキルしか持ち合わせていない日本の労働者のスキルをどのように引き上げるかが第2の課題になります。

日本の政治家の中には、グローバリズムを受け入れグローバリズムに寄り添う姿勢が薄く、日本列島に閉じこもり自らの繁栄だけを願っているような意見が増えているように思えてなりません。自己益だけを主張する人が多い「繁栄の孤島」に閉じこもったままだと世界から見放され、緒方さんが言うように、「繁栄」という枕言葉が取り去られ、単なる北東アジアの小さな「孤島」になってしまいかねませんね。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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