2011年12月22日筆
2011年、ギリシャでは公務員給与や年金の引き下げに抗する激しいデモが起きました。これは公務員など特権階層の反抗でしたが、アメリカでは「我々は99%だ」と称し貧しい若者たちによる、ウォール街に巣食う1%の超富裕層(特権階層)を攻撃する反格差デモが繰り広げられました。
日本でもアメリカの反格差デモに呼応する若者たちのデモが散発的には発生しましたが、さほど大きな渦にはなりませんでした。しかし、大阪市長と大阪府知事を選ぶダブル選挙では日本の若者たちがついに反乱を起こしたようです。これまで足を運ぶことのなかった若者たちが投票所に向い、自民党、民主党、それに共産党まで既成政党が支持した候補を打ち負かしてしまったのです。
市長選に勝利したのは「みんなの党」を除く既成政党すべてと対峙した橋下徹氏(前大阪府知事)でした。若者たちは民主党、自民党、公明党、共産党、社民党、国民新党などすべての既成政党に絶望して橋下氏に投票したのではないでしょうか。小泉純一郎氏は「自民党をぶっ壊す」、小沢一郎氏は「官僚機構をぶっ壊す」といって選挙に勝ちましたが、彼らは何もぶっ壊すことができず、何も変えることもできなかった。政治家たちは、われわれの職場を奪い所得を削り生活を苦しくしただけだと若者たちは思っているのかもしれません。
もちろん自民党や官僚機構をぶっ壊すだけで自動的に若者たちの職場が生み出され所得が増えることなどあり得ません。ぶっ壊した結果、財政配分が変わり制度が変わり、経済成長が実現して職場が生まれ所得が増えるのです。若者たちはそんなことは十分承知の上で、既成制度、既得権益とその背後に巣食う既成政党を「ぶち壊してくれる」かもしれない橋下徹氏に投票したのでしょう。
借金を作ったのは大人たち、政府債務累増をめぐる若者たちの危うい虚無感
こうした若者の「ぶち壊したい」という感情は、財政赤字についての20歳代の若者の声に顕著に表われているようです。朝日新聞の星浩編集委員は、その有様をコラム「政治考」(12月18日朝刊)で紹介しています。星氏は、時事通信社発行の「金融財政ビジネス」誌で日銀・福井事務所の松原所長が書いたコラムから援用して以下のような若者の声を紹介しています。
小生の推測ですが、松原所長は、借金の返済を怠たり財政赤字を積み上げた結果、財政破綻や金融危機など経済混乱が発生するかもしれないが...と若者たちに問うたのでしょう。これに対し若者たちは以下のように応えたといいます。
「今の借金は大人たちが作ったものであり、大人の付けを若者たちが返す義務はない」
「経済が混乱して給料が下がるのは、年功序列で高賃金を享受している大人」
また、財政が破綻した結果、国債が暴落して円(貨幣)の価値が急落、原油
など輸入物価が高騰する、あるいは暴落する国債を買い支えるため禁じ手である国債の日銀引き受けが再開され、その結果、貨幣供給が急増しハイパーインフレ(きわめて高い物価上昇)が起こる危険がある、ハイパーインフレが起これば預金の価値が目減りするが...、と松原氏は重ねて問うたのでしょう。これに対して若者たちはこう応えたようです
「ハイパーインフレが預金価値を大幅に減価させるとしても、それは多額の
預金を持っている大人の心配事」
「ハイパーインフレで(政府債務の問題が)解決できるならそれによって片
付けてほしい。早く世の中が『リセット』されたほうがよい」
小生、政府債務累増の原因の多くが「大人たち」にあるという見解には同意
します。しかし、財政破綻やハイパーインフレの影響が「大人たち」だけに及ぶという若者たちの見解には同意しかねます。
財政破綻の影響は教育費や医療費その他社会保障費用の大幅削減を通じて「若者たち」にも及びます。緊縮財政は景気の悪化による新卒採用の減少をもたらし「若者たち」の失業率を急上昇させます。インフレは生活費の高騰を通じて給料の少ない「若者たち」の生活を破壊します。他人事ではありません。
星氏は、この若者の声を聞いて、「(消費)増税で財政赤字を減らす必要はな
い。インフレになって持てる者と持たざる者の立場が逆転するなら、その流れに任せればよい―。若者の間にそんな虚無感が生まれているのだろうか。だとしたら、それは危うい。」と書いています。
「若者たち」と「老人たち」との間にある異常な世代間格差をどうする
もちろん消費増税を否定し虚無感に浸って流れに任せ、自分の父親や母親でもある「大人たち」の破滅を待つ若者ばかりではないとは思います。しかし、「若者たち」が、高齢者(老人)を含む「大人たち」とそれを支える自分たちの間に横たわる大きな世代間格差に強い憤りを持っていることについては、小生、共感するところが少なくありません。
下表は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが昨年9月に発表した世代会計モデルを使って推計した「生涯を通じた世代別の受益と負担」の差額です。
各世代の「受益」は社会保障給付や政府消費(公共サービス)や政府投資(公共投資)によってもたらされたものです。「負担」は保険料など社会保障負担と所得税や消費税などの税負担によって構成されています。したがって、下表は政府を媒介にして各世代が受け取る受益のすべてと支払う負担のすべての差額が推計されていることになります(表の年齢は2007年時点のものです)。
推計によると、19歳以下の将来世代は負担のほうが受益を大きく上回り7700万円の負担超過になっています。20歳代、30歳代、40歳代の現役世代もかなりの負担超過です。逆に70歳以上の高年齢層は3533万円の受益超過です。将来世代(19歳以下)と高年齢層(70歳以上)の間の世代間格差は差し引き1億1233万円にもなるのです。
前世代の給付は次世代の保険料で賄うという賦課方式で運営されている現行の社会保障制度や現在の税制を前提にして計算すると、異常ともいえる大きな世代間格差が生じることになります。「若者たち」が「大人たち」の既得権益をインフレによってぶち壊したいと思っても不思議ではないのです。
来る2012年、若者たちは、「虚無感」にとらわれ何もしないで「大人たち」の破滅(自分たちの破滅でもあるのですが)を待つのでしょうか。あるいは既成制度、既成政党に巣食い既得権益を手放ない「大人たち」と戦って世代間格差を縮め、自らの力で自らの雇用と所得を引き上げる改革を成し遂げるために動き出すのでしょうか。
政府・民主党は、選挙権のある老人のご機嫌を伺い、年金、医療、生活保護、農家の戸別所得補償などあらゆる面で老人優遇を繰り返しています。政治家たちはもういい加減、選挙目当ての老人優遇を止めたほうがいい。小生は、若者たちが「大人たち」に不毛な世代間抗争を仕掛けるのではないか、憂います。
政府は、若者たちが「大人たち」に向って本格的な反乱を起こす前に、「老高若低」とも言うべきこの異常な世代間格差を解消する方向にあらゆる制度を見直す時期に来ているのではないでしょうか。
新年を迎えるに当たって改めてそう思います。では良いお年を。