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大西良雄ニュースの背後を読む

2011年11月

2011年11月25日 10:51

85歳のナベツネ氏がなぜ「ワンマン」たりうるのか

2011年11月25日筆

あらかじめ言っておきますが小生は巨人が大嫌いです。今回の読売巨人軍の球団代表(専務取締役)による親会社会長の告発に端を発した内紛などどうでもよろしい。しかし、これでまたジャイアンツの人気が下落し巨人戦のTV放映が減ると思うと少しうれしくもなります(代わりにお笑い芸人だらけのバラエティ番組が増えるのは噴飯ものですが)。

ただ、かつての部下に「独裁」を告発された読売新聞グループ本社の代表取締役会長兼主筆である渡辺恒雄氏(ナベツネと呼ばれる)については、大いに文句があります。このブログでも幾度か取り上げました。小生、元ジャーナリストとして、巨人嫌いに増して「ナベツネ嫌い」であることもあらかじめ申し上げておきます。

ナベツネ氏(以下煩雑なので敬称の氏は省略)は、平成16年に古田敦也選手会長が指揮したプロ野球史上初めてのストライキに対して「たかが選手が」と選手を見下し吼えました。その傲慢な言葉をお借りすれば、ナベツネには「たかが瓦版屋の政治記者上がりが」と言いたくもなります。

ナベツネは09年の政権交代の前、小沢一郎民主党代表と福田康夫総理の間を駆け回って「大連立」を仕掛けました。今回はどうやら財務官僚などと語らって野田総理の誕生に手を貸したそうです。ナベツネは現役記者の頃から大物政治家の間を駆けずり回るのが得意な「あまり記事を書かない政治記者」として知られていました。「書いてなんぼ」という新聞記者の本分を忘れ、選挙の洗礼も受けてもいない「たかが政治記者上がり」が、政治家の間をうろつきまわって政局を動かそうとする、そのことに小生、我慢がならないのです。

官房長官が月に1回、ナベツネに政情報告しているというのは本当ですか
「週刊ポスト」12月2日号で東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が、首相経験者が語った驚くべき秘話を明かしています。その首相経験者は、「首相は月に1回、天皇に政情報告をする。同じように月1回、官房長官が政情報告をする相手がナベツネなんだよ。これは代々の引継ぎ事項になっている」といったそうです。ほかにも「大臣が所管事項で官僚の反対が予想される局面では、わざわざ読売の東京本社に行って渡辺氏に説明して了解を求める場合もある」と長谷川氏は聞いたと語っています。

「たかが政治記者上がり」に過ぎないナベツネが、政権首脳から天皇陛下と並んで月1回、政情のご進講を受ける...、それが真実ならば、極めて異常なことです。ナベツネはどういう憲法上の資格があって天皇陛下と並んでご進講を受けているのか、国民の前に明らかにすべきです。政治家及び官僚たちも政治記者上がりの一民間人に過ぎないご老人へのご進講など直ちに中止すべきです。

後段の「官僚の反対が予想される局面では渡辺氏に了解を求める」という話も奇怪ですが、大いにあり得ることです。というのは、前財務事務次官の丹呉泰健氏が読売新聞グループ本社の本社監査役に迎えられているからです。それだけではありません。読売新聞グループ本社第2位の大株主である公益財団法人「正力厚生会」の理事長は元厚生労働事務次官です。他に理事として元文部事務次官、2人の元大蔵事務次官が並んでいます。この元大蔵事務次官がすごい。大蔵官僚のドンといわれた長岡実氏、小沢一郎氏の懐刀といわれた斉藤次郎氏(現・日本郵政社長)が理事に名を連ねているのです。

背後に官僚の総本山である財務省(旧大蔵省)の前、元事務次官、さらに各省の元事務次官がずらりと控えているのです。力のない大臣たちが読売新聞グループ本社の代表取締役会長のナベツネに頼めば官僚たちの抵抗を抑えることができると考えて不思議はありません。元事務次官は官僚の天下り斡旋を含め現役官僚に大きな影響力を持っているというのが常識的見方です。彼らを囲い込んでいれば、中にはナベツネの言うことを聞いて矛を収める現役官僚がいるかもしれませんから。

なぜ選挙で選ばれた政治家でもないナベツネが政治家や官僚たちに影響力を行使できるのでしょうか。それは第一に、彼のバックに公称1000万部を誇る日本最大の読売新聞とその傘下にある日本テレビ放送網という2つの巨大マスコミがあるからでしょう。その資金力と影響力をたのんでナベツネは存在しうるのです。彼が読売新聞グループ本社の代表取締役会長でなければ、彼の言うことなど単なる年老いた政治評論家の戯(たわ)言に過ぎません。そんな戯言を聞く政治家や官僚などいるはずがありません。

代表取締役の権能を保持し人事権を弄して「ワンマン権力」を行使する
ナベツネにとってグループ本社の「代表取締役」の権能こそ、85歳になってもなお内外に「権勢」を振るいうる最大の基盤です。彼は、1991年に社長に就任して会長に至る現在まで20年間、「代表取締役」の権能を手放さず、権力者の地位を保持し続けています。

「代表権」とは会社を代表する権限、例えば契約を締結する権限を意味するのですが、代表権を持った取締役(代表取締役)が社長職につくのが一般的です。日本的経営では社長でも会長でもいいのですが「代表取締役」が社内の人事権を持つのが普通です。ナベツネの場合、会長になっても代表権を持ち人事権をほしいままにして権力を保持していることになります。

本来、この「代表権」は「取締役会」の決議(つまり互選)によって付与されるものです。しかし日本的経営では、実際には代表権を付与、剥奪する「取締役会」の決議などめったになく、「代表取締役」は本人が辞さない限り死ぬまで持ち続けることができます。ナベツネには何歳になっても「代表取締役」を辞する気などさらさらないように見えます。「代表権」を失えば、人事権を弄して「権勢」を振るい続けることなどできなくなるためです。

専門的な話になりますがもう少し聞いてください。代表取締役になるにはまず「取締役」に選ばれなくてはなりません。「取締役」の選任(あるいは解任)は株主総会の決議によります。「取締役」の人事権は株主が握っているのですから、ナベツネが死ぬまで「代表取締役」を続けたいといっても株主総会で解任決議(過半数が必要)が通れば、続けられません。

しかし、非上場会社である「読売新聞グループ本社」の株主構成を見ると「株式総会」が「ナベツネ代表取締役」の意に反して機能することなどあり得ないと思えます。「JC-NET」によれば、読売新聞グループ本社の第1位株主は「グループ本社役員持株会」です。その2010年3月末の持株比率は30.71%、第2位は前述の「正力厚生会」で持株比率は20.96%です。1位と2位を合わせれば、「取締役」を選任・解任できる過半数を超えています。

持株会社である「読売新聞グループ本社」の役員数は少数ですし「役員持株会」の筆頭はナベツネであると推定されます。自分が自分を解任する決議に賛成するはずがありません。残る大株主「正力厚生会」の理事長及び理事は前述の通りナベツネお抱えの元事務次官たちです(理事の筆頭に滝鼻卓雄前巨人軍オーナーがはめ込まれていますが、彼が反旗を翻しても多勢無勢でしょう)。ナベツネは「株主総会」もほぼ完全に掌握しているといえるでしょう。

株主総会さえ掌握していれば、代表取締役が取締役の選任権も解任権も持つことになります。ナベツネに楯突いた読売巨人軍の清武英利氏が専務「取締役」を解任されましたが、ナベツネが支配する「読売新聞グループ本社」が読売巨人軍の株式を100%保有しています。一社で構成する「株主総会」で清武氏の「取締役解任」を決めたはずですから、法的手続きは十分満足されています。

多くの読売新聞グループ傘下の記者諸君、社員の皆さんは、心の奥底では、ナベツネの傲慢、専横、独裁を忌み嫌っているのではないでしょうか。しかし所詮悲しいサラリーマンです。人事権を完全に握るグループ本社代表取締役会長に楯突いて職や肩書を奪われては元も子もありません。ですから何があっても「黙して語らず」、われに利あらば「ゴマすりも可なり」ということになります。

社員の皆さんがそんな気の毒な状態ですから、創業者でも中興の祖でもない「単なる政治記者上がり」が最大部数を誇る社会的公器の読売新聞社を20年にわたって経営(社長、会長職)から言論(主筆職)まで独裁的に支配することができるのです。小生には経営者が言論まで支配するなど信じられません。

小生、何度か読売新聞を購読しようと思ったことがありましたが、ナベツネが代表取締役である限り、購読しないことにしています。悪しからず。

2011年11月18日 12:26

TPPか、ASEAN+6か、アジア太平洋自由貿易圏への道

2011年11月18日筆
 
野田佳彦総理がハワイで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でTPP(環太平洋経済連携協定)への「事前協議」参加表明は、APEC諸国に大きな影響を与え、以下のような新たなアクションを生み出したようです。

(1) ハワイのAPECの場で日本に続いてTPPへのカナダ、メキシコが参加を表明した。フィリピン、パプアニューギニア、タイも参加を検討していると報じられている。
(2) ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議でASEANはASEANに日中韓など最大6カ国が加わる「広域自由貿易協定」(いわゆる「ASEAN+6」)を促進することで合意した。

以上は日本の外交がアジア太平洋地域にインパクトを与えた珍しいケースですが、APECの成り立ちから言っても大変結構なことです。

10年後に実現する「アジア太平洋自由貿易圏」の国際合意を大切にせよ
多くの人はご存じないようですが、APECの創設は1978年、大平正芳新総理(当時)が就任に当たって提唱した「環太平洋連帯構想」がきっかけになりました。この大平構想に共鳴したのがオーストラリアでした。オーストラリアのホーク首相が新に提唱して1989年に創設されたのがAPECです。 

創設時の参加国は、日本、豪州、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、ASEAN6カ国(タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ。現在はベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーを加え10カ国)の12カ国でした。中国や韓国、インド、ロシアなどは後からのAPECに参加しました。

APECの目的は「アジア太平洋地域の持続的な成長と繁栄」です。それを実現するために、APECは貿易・投資の自由化、経済・技術協力などを推進するという方針を打ち出しています。APEC全域の貿易・投資の自由化を推進する取り組みは、1994年のインドネシア・ボゴール、2004年の韓国・釜山、2010年の日本・横浜でのAPECを節目に15年にわたって協議が重ねられようやく合意を得ました。

その合意が、「2020年までにアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を実現する」というものでした。自公政権、そして民主党政権と続いて日本が国家として国際合意を交わした約束事がFTAAPの実現です。10年後にはAPECを舞台に自由貿易圏ができるのです。この約束事をAPECの創設者である日本が破り捨てれば、日本への国際的な信義を失うだけでなく、日本はアジア太平洋の成長と繁栄の輪から外れることになります。

これまで交渉に深く関与してきた自民党、とくにAPECの生みの親である大平正芳氏の系列である加藤紘一議員や谷垣禎一自民党総裁が、10年後のFTAAP実現という国際合意を無視したり反対したりすることは許されません。
 
「アジア太平洋自由貿易圏」(FTAAP)が実現すれば、世界のGDP(国内総生産)の約56%、人口の約40%を占める巨大な自由貿易圏ができます。ちなみに自由貿易圏として先行するEU(欧州共同体)の世界のGDPに占めるシェアは約26%、人口に占めるシェアは約7%にすぎません。

地政学上日本は、世界のGDPの過半以上を占める「アジア太平洋自由貿易圏」の中心に位置します。日本にとってこの「自由貿易圏」は、日本列島という衰退しつつある経済の国境線をアジア太平洋という世界一の成長経済圏に拡張することを意味します。この「自由貿易圏」はなんとしても獲得すべきです。

「TPP」か「ASEAN+6」に絞り込まれた「自由貿易圏」への道
それはさておき、APECはこのFTAAPへ至る3つのルートを認めています。ひとつはASEANに日中韓3カ国を加えた「ASEAN+3」です。これは中国が盛んに主張してきました。第2は日本が主導してきた「ASEAN+6」のルートです。ASEANに日中韓、インド、豪州、ニュージーランドが加わったものです。第3がアメリカ主導の今回のTPPです。

下表は、以上三つのルートがAPECに占める割合を示したものです。中国が主張している「ASEAN+3(アメリカ排除)」は人口こそ過半を占めますがGDPでは40%に満たない規模です。しかも、「+3」のうち韓国は高度な自由貿易協定である「米韓FTA」批准の段階にあります。日本はTPP参加への事前協議に入りました。中国は別のルートに乗るほかありません。

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冒頭で述べたとおりASEANは日本のTPP参加に刺激されて「ASEAN+6」のルートに合意しました。中国は、日本が主導してきた中国の仇敵インドを含む「ASEAN+6(アメリカ排除)」に乗るほかにないのです。「ASEAN+6」であれば、人口規模は日本、カナダ、メキシコを含む「TPP12カ国」を上回り、成長力を加味した経済規模は「TPP12カ国」と肩を並べます。「ASEAN+6」であればアメリカも排除できるからです。

日本は「TPP」と「ASEAN+6」の双方参加で有利なポジションに
日本は中国未参加の「TPP」か、アメリカ排除の「ASEAN+6」か、その両方に属することができます。日本は、「FTAAP」実現に向けた自由貿易ルール作りにもっとも有利なポジションを占めることになるのです。

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上表の主要国の関税率をご覧下さい。すでにアメリカは豪州などと並んで世界で最も関税率の低い国になっていますので「原則として関税ゼロ」というルールでなければアメリカは貿易上の利益が得られません。しかし「原則として関税ゼロ」に耐えられるのは豪州、ニュージーランドぐらいしかありません。「関税ゼロ」は公平ですが中国などには厳しすぎるルールです。アメリカ主導の「TPP」交渉は新規加入が増えれば増えるほど難しくなることが予想されます。

一方、中国は、平均関税率も農産品関税率も高く、国境の周囲に高い関税障壁を築いている国です。その上、官僚統制が強く国有企業も多く、規制という非関税障壁も高い国です。知的所有権や環境規制などないに等しい極めて未熟、無秩序な国家でもあります。TPP並みの「自由貿易ルール」に移行することは、これらの中国の制度、仕組み、慣行を改め、中国が共産党一党独裁の官僚国家を放棄するという結果を招きます。中国の現政権がそれに抵抗するのは目に見えています。したがって中国は、関税障壁も非関税障壁も残した「緩い、効果の薄い自由貿易ルール」を求めることになります。

そして日本は、「TPP」交渉ではアメリカから厳しいルールを迫られ守勢に立たされます。しかし、「TPP」への協議参加することは、中国の対外膨張を牽制する対中国安全保障網の中に含まれることを意味します。これらを武器にして「ASEAN+6」交渉に望み、日本は、関税、非関税障壁を張り巡らせた中国に開放を迫ることになるわけです。

日本は、こんな有利な外交上ポジションを利用することができるのです。20年後には実現する「アジア太平洋中貿易圏」に備え農業の競争力を高める構造改善を進める一方、表現は悪いが「米中を天秤に掛け、手玉に取る」という戦略外交によって国益の最大限化を図ることが大切です。

2011年11月11日 12:09

TPP慎重派の背後に見る消費者無視、「族議員」の亡霊

2011年11月11日筆
 
TPP(環太平洋経済連携協定)への交渉参加に「反対」か「拙速、時期尚早」を主張する与党民主党の議員を「TPP慎重派」と呼ぶそうです。

この「TPP慎重派」は、与党の一角・国民新党、自民、公明、社民、共産の野党を巻き込んでいまや国会の多数派を形成するかの勢いです。一方、「TPP推進派」の影は薄く、民主党では前原・野田グループと岡田前幹事長、野党では「みんなの党」と自民党の小泉進次郎議員(と小泉元総理グループ)ぐらいしか思い浮かびません。

では議員の頭数を揃えた「TPP慎重派」は、国民の多数意見を代表しているかといえばそうでもなさそうです。世論調査などでは交渉参加に賛成と反対が拮抗しているからです。賛成が少ないのは、野田総理や玄葉外相、枝野経済産業相、古川国家戦略担当相など推進派閣僚のTPPについての説明に具体性がなく、抽象的過ぎるからでしょう。

なぜ「日中韓+ASEAN」自由貿易協定が進まないのか、説明せよ
TPPに反対する「慎重派」の主張にも聞くべきものはあります。その一つは、「アメリカ主導のTPPより日中韓+ASEAN自由貿易協定を急げ」という議論です。アジアの成長を日本に取り込むには、とりわけ日本より高い中国の貿易障壁を取り除くことが大切です。日本が自由貿易派の韓国と協力して中国を説き伏せ、日中韓+ASEANという形でアジアを自由貿易地域に仕上げるほうが日本に大きな利益をもたらします。

しかし、そんなに日本にメリットがあるのになぜ日中韓の自由貿易協定が遅々として進まなかったのか、慎重派には十分説明してもらいたいと思います。日中韓の間には侵略・被侵略をめぐる複雑な感情と尖閣、竹島をめぐる領土紛争があります。そのうえ中国は共産党一党独裁の国家です。民主主義を共有するアメリカとの交渉のほうがはるかに容易であることに疑いはありません。

日本にメリットがあることは中国や韓国にはデメリットだと中韓の政治家が考えている面もあります。中韓の農畜産物関税が自由貿易協定によって引き下げられれば、高品質のコメやりんご、なし、桃、果実、高級牛肉など日本の農畜産物輸出が大きく増加するのではないでしょうか。そうであれば中韓は「わが国の農畜産業が壊滅する」と反対することになります。日本と中韓の間には、アメリカのメリットは日本のデメリットだと慎重派が主張するTPP交渉参加問題とまったく同じ構造があるのです。だから日中韓の交渉は進まないのではないでしょうか。

自由貿易協定は貿易相手の双方、特に双方の消費者にメリットがあるはずだ
しかし自由貿易は、一国のメリットは他国のデメリットだというようなことはありません。そもそも双方にメリットがなければ自由貿易協定交渉などあり得ません。経済学も自由な貿易は交易を行う双方の国にメリットをもたらすと教えています。

事実、日本製品も中韓製品も自由貿易を旗頭とするアメリカ市場に受け入れられ、その対米輸出が日中の経済成長を牽引しました。アメリカの消費者は安価で良質な日中製品を手にして満足しています。日中に遅れをとったアメリカの製造業は衰退しましたが、代わりに情報通信、電子ビジネス、金融サービス、など新産業が生まれました。半導体のインテル、高機能携帯端末のアップル、パソコンソフトのマイクロソフト、電子商取引のアマゾン・ドットコムなどがそれです。アメリカには研究開発サービスが充実し世界中から人材が集まっています。

今の日本にはまだ産業構造高度化に必要な民間資金も技術力も十分すぎるほど存在します。政府の余計な規制やアンチビジネスの政治さえなければという前提が付きますが...。

自由貿易は双方の全体経済にはメリットをもたらします。特に両国の消費者にはメリット大です。消費者は双方の国が得意とする安価で良質な(悪質な商品は消費者が受け入れません)商品、サービスを手に入れることができるからです。TPP慎重派は「食品の安全性が確保できない」とTPPには消費者にメリットはないといいますが、重要なのはTPP交渉に参加して食品の安全性をめぐる国際的な共通ルールを作れるかどうかです。共通ルールが出来上がれば、そのルールのもとで自由貿易のメリットを日本の消費者はたくさん享受できるはずです。

TPP論議をきっかけに民主党にも自民党にも蘇った「族議員」の亡霊
しかし自由貿易協定は全体経済や消費者にメリットを与えたとしても、既存の業界や利益団体などの個別利益を損なうことを回避するものではありません。

TPP慎重派のもっとも強烈な主張は,TPPに参加すれば「日本の農業が壊滅する」「医療の国民皆保険制度が崩壊する」「郵便貯金がアメリカに奪われる」というものですが、これらはいずれも自由貿易協定によって利益が侵害されるという既存の業界や利益団体の利益を代弁するものです。

小生にはTPP慎重派の議論は、古い、古い議論の蒸し返し、いつか見た光景に思えます。慎重派の背後に見えるのは、ねじり鉢巻を締め「TPP反対」の旗を振っているJA(農協)、日本医師会、日本郵政(全国特定郵便局長会)など昔懐かしい既存の利益集団(エスタブリッシュメント)の姿です。その利益を代弁して予算を利益集団に配分し、その見返りにカネと票を手にする国会議員のことを「族議員」といいましたが、TPP慎重派の議員には、小泉改革でもう滅びたと思われた「農水族」「厚生族」「郵政族」など「族議員」という亡霊の蘇生を見ました。

民主党は、国会議員の「族議員化」を防ぐために「党政策調査会」を廃止し政策決定を政府に一元化するというのが公約ではなかったのですか。しかし党政策調査会は復活し、そのTPPプロジェクトチームでは「族議員化」した民主党議員が「TPP反対論」をぶち上げています。彼らには「族議員化」の自覚などないと思われますが、TPPに反対すればJA、医師会、郵便局など「見える確実な票」が得られるという計算が働いているに違いありません。

自民党も同罪です。自民党は復興財源として上がったタバコ増税やJT株売却に反対しています。その論拠は「葉たばこ農家が危殆に瀕するから」というものですが、自民党は「葉たばこ農家の利益」を代弁しているのです。葉たばこ農家に恩を売った票をいただくという族議員(「葉タバコ族」?)の本家・自民党の完全復活することになります。

「見える確実な票」よりはるかに多い消費者や勤労者の「見えない不確実な票」
TPP慎重派の議員たちには「族議員」のレッテルを貼られても、「見える確実な票」が欲しいのです。しかし日本には輸入でも国産でも安くて良い農畜産物や製品・サービスを手に入れたい消費者もいます。彼らは「見えない不確実な票」ですから「族議員」には相手にされません。

職場を海外に奪われるリスクを抱えた大・中・小の輸出企業の経営者やその従業員も「見えない不確実な票」です。彼らは、円高、内需縮小を筆頭に高い法人税、低い自由貿易化率、高い電力料金など日本が置かれた劣悪な競争条件に悩まされています。彼らにはTPPは、劣悪な競争条件からのがれ稼ぎの源を海外に求めて生き残る最後のチャンスに見えるのかもしれません。日中韓の自由貿易協定ができればそれに越したことはないが、それが遅々として進まないのなら拙速でもいいからTPPに掛けてみようと思っている人もいるのです。

日本には、族議員が依拠する「見える確実な票」より族議員が見捨てた「見えない不確実な票」のほうがはるかに多いと考えられます。実はその「見えない不確実な票」の支持を得ることこそ政治の役割です。野田総理や玄葉外相、前原政調会長など「TPP推進派」は、TPPが「見えない不確実な票」を持つ圧倒的多数の国民にどのようなメリットをもたらすのか、十分説明するべきです。

もし説明できないのならAPEC(アジア経済協力会議)が目指す2020年の「アジア太平洋自由貿易圏(FTTAP)」へ至るもう一つのルートである「日中韓+ASEAN自由貿易協定」を大胆に進めるべきではないでしょうか。 

小生ほんとうは、アメリカ主導のTPPを圧力にして中国に日中韓自由貿易協定を急がせるという外交にこそ日本の活路があると思っているのですが、どうでしょうか。

2011年11月 7日 13:37

債務危機がギリシャからイタリアへ伝播する前に

2011年11月7日筆

丹精な顔に口ひげを蓄えたパパンドレウ・ギリシャ首相と立派なイタリア製(?)の背広を着た太目のベルルスコーニ・イタリア首相が深刻な表情を見せれば見せるほど深刻さが遠のき、「ま、いっか」と思わず笑ってしまいます。

ドイツ人のような規律を重んじ貯蓄に励む倹約家の「堅い国民」より、ギリシャ人やイタリア人のような「規律は棚上げ、消費大好き」という浪費家の「緩い国民」のほうが幸せではないかと思ったりするのです。

ギリシャ、イタリアで感じた特派員記者の「懐かしさ」とその「緩さ」
毎日新聞の藤原章夫記者は、『危機にひんするギリシャの「緩さ」』(毎日JP11月4日)と題した記事の中で次のように書いています。

――オスマン帝国の植民地だったギリシャは英仏独のような市民社会形成、近代化を経ていない。(中略)この国には懐かしい感じがある。まだ銀行や流通などが米国に買われる前の80年代のメキシコのような緩さ、社会主義的なムードがある。(中略)ドイツなど欧州の中の「北」の人々がこの国を訪れるのは、エーゲ海のさざ波と太陽ばかりではなく、自分たちがとうに失った「緩さ」にひかれるからだろう。

朝日新聞ヨーロッパ総局の有田哲文記者は「イタリアを歩いていると懐かしさすら感じることがある」(「イタリアからのメッセージ」朝日新聞11月6日)と毎日新聞の藤原記者がギリシャで感じた「懐かしさ」をイタリアに感じているようです。その有田記者が感じた懐かしさは次のようなものでした。

――ここ(イタリア)では、経済のグローバル化に伴って多くの国が捨ててきたものがまだ残っているようだ。強い労働組合、民営化されない公営企業、解雇のほぼ不可能な労働規制、大規模小売店の出店規制――。それでも欧州の中心的な経済大国の一つであり続けたのだから、たいしたものだ。

まるでイタリアは国鉄や専売公社の民営化以前、中曽根総理―土光行革以前の日本のようです。有田記者は中曽根以前の日本を思い出してイタリアに「懐かしさ」を感じたのでしょう。

しかし、その「懐かしい」イタリアやギリシャなど南欧諸国の「緩い国民」が世界を震撼させる政府債務危機を引き起こしたのです。

藤原記者の表現を借りれば、イタリアやギリシャにはびこる「怠惰、早い引退、高い給与と年金、脱税、闇経済」は「南欧の持ち味」だそうです。平たく言えば、国民は税金を支払わない、働かない、しかし国からカネやサービスはたっぷりいただくという「南欧の持ち味」が国家に借金の山をもたらし、国家はその借金を返すのがむずかしくなって危機に陥ったといえるでしょう。

債務危機はアテネかららローマへ、次はイタリア国債が売り浴びせられる
下表は、イタリアとギリシャの政府債務の現状です。共通しているのは、稼ぎの元になる輸出競争力はないのに、海外から借金をしてでも輸入して消費するという国民性です。その結果、経常収支はいつも赤字。国家も同じで国民にねだられるまま外国からの借金をあてに税収より大きな財政支出を続けるものですから、財政収支も赤字。こうしてイタリアもギリシャも「双子の赤字」を抱えたまま政府債務が積み上がっていったのです。

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 そうはいっても日本に比べればかわいいものです。円換算したギリシャの政府債務総額は34兆円、日本の1年間(当初予算)の国債発行額44兆円より少ないのです。欧州第3の大国イタリアの債務総額は日本の4分の1です。日本がイタリアやギリシャのような浪費国家であれば納得も行くのですが、日本人はドイツ人並みの「倹約家で堅い国民」です。であるのに日本国は世界一の政府債務残高を抱える国になってしまいました。残念です。

それはさておき、日本より軽症のギリシャやイタリアが債務危機に陥ったのは、一つは債務返済能力の一端を担う経常収支が赤字だからです。貿易・サービスや所得収支の黒字から生み出された所得が企業貯蓄を膨らましその貯蓄が政府債務を吸収するというメカニズムが働かないのです。

もう一つは、両国の国債に対する外国人保有比率が高いためです。外国人投資家は政府の債務返済能力に極めて敏感で、返済能力を評価する格付機関の国債格下げに強く反応します。ギリシャの格付「CCC」は投資不適格のレベルをも大きく下回る最低の格付です。日本以上に政治混乱が著しいイタリアの国債格付はさらに引き下げられるリスクも残っています。

債務危機はアテネからローマへ、ギリシャ国債に続いてイタリア国債が売り浴びせられる段階に入ったようです。

分かっていて「貸した側」の債権国ドイツ、フランスに問題はないのか
ここまでは誰もが指摘しています。小生にはもう一つ腑に落ちない点があります。イタリアやギリシャが経常赤字を続ける国家であり、借金して消費をする、税金を支払わないという国民性を持つ国であることは、独仏などヨーロッパの金融機関は十分ご存知だったと思います。であるのになぜ彼らは、返せなくなるほど南欧諸国に貸し込み続けたのでしょうか。

余り書かれることがないのですが、欧州の銀行(欧銀)は、預金額より貸出額のほうが大きい「貸出超過」(オーバー・レンディング)の状態にあります。このため欧銀は資金不足が恒常化し、それを埋めるために他の銀行から融資を受けたり、米国MMFに自行発行の商業手形(CP)を買ってもらったりしています。ですから欧銀は金融市場の動揺に極めて弱いのです。

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欧銀は、そうして調達した資金をギリシャやイタリアなど南欧諸国などに貸し込んでいきました。ギリシャ、イタリアなどPIIGS5カ国に対する融資など与信総額(2011年3月末)はフランスが6717億ドル(約52兆円)、ドイツは5219億ドル(約40兆円)に膨らんでいます。

その一部は、南欧5カ国の国債購入に回りました。上表は、ドイツ、フランスの銀行が抱えるPIIGS5カ国の国債購入残高(2010年末)です。ドイツのコメルツ銀行、フランスのBNPパリバなどの5カ国国債の保有額は中銀行の安全弁である中核自己資本額の約65%に達しています。5カ国がデフォルトに陥れば経営破綻が懸念されるほどの国債保有額になっているのです。

イタリア最大の銀行グループ・ウニクレディト、スペイン最大の銀行・サンタンデールの5カ国国債保有額は中核自己資本額を上回っています。この多くは自国国債の保有額で、イタリア、スペインの財政破綻は自国銀行の経営破たんに直結することになります。

英国のフィナンシャル・タイムズ紙(11月2日)は、「いくら騒ごうとも、債務国あっての債権国」(以下は「JBpress」11月4日付の翻訳による)と題して債権国ドイツを皮肉っています。要約すると以下のようになります。

――債権国はすべての国が債権国であったら貸し倒れも金融危機も生じなかったのにと思っている。いつも経常赤字を計上する愚かな債務国を説教する資格が自分(債権国)にあると考えている。債権国はカネを貸すのをやめるぞと脅すこともできる。しかし、すべての国が債権国になれるはずがない。だから債務国あっての債権国なのだ

そして記事は、「浪費家の国々がカネを借り過ぎているのは、倹約家と言われている国々がカネを貸し過ぎたからだと認めたほうがいい。双方に非があることが理解されれば、後は双方が調整に努めなければならない」と結んでいます。

つまり、債権国(ドイツ、フランス)が財政緊縮による極端なリストラ政策など債務国(イタリア、ギリシャなど)に一方的な調整を強いるやり方はうまくいかないというのです。

財政緊縮は経済の縮小をもたらし、債務国はますます債務返済が難しくなり財政緊縮をさらに強める。それが債権国の景気にも大きなマイナスになる。そうした悪循環が眼に浮かぶのですが、これを避けるためにも、債権国は債権の一部を放棄することによって借金漬けの債務国を身軽にさせ債務が返済できるようにせよ、と同紙は言っているのでしょうね。小生も同感です。

プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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