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大西良雄ニュースの背後を読む

2011年10月

2011年10月28日 12:04

株主価値を大きく毀損したオリンパス経営陣

2011年10月28日筆
内視鏡で世界シェア7割を占める優良企業のオリンパスが、M&A(企業買収)に絡んで誰が考えても経営陣の大失策といえる不祥事を引き起こしました。

明らかになったM&Aに絡む不祥事は2件です。ひとつは06年から08年にかけて買収した国内3社の減損処理に関する不祥事です。この3社の買収総額は約734億円でしたが、買収が完了して間もない09年3月期に買収総額の76%に当たる約557億円を減損処理し、多額の償却損を計上しました。

買収してまもなく買収総額の76%もの資産(「のれん」)を減損処理するなど前代未聞です。買収するに当たって買収価額を膨らませる不明朗な資産査定が行われ、買収価額が異常に高くなったというほかありません。

「のれん」とは、買収価額が被買収会社の純資産額を上回る場合、その差額を貸借対照表上の無形固定資産として計上したものです。資本金や利益剰余金などの合計が被買収会社の持っている純資産額(純粋の株主価値)ですが、買収価額はこれに技術やノウハウ、ブランド価値、販売網、将来の収益力などの無形資産を加えてはじき出されます。

5年で売上高が54億円から900億円に膨らむなどありえないのに・・・
オリンパスは、この無形資産を大きく膨らませた資産査定を元に買収価額を決めたことになります。そうして膨らんだ買収価額の76%を減損処理したということは、この無形資産のほとんどが無価値だったことを意味します。

オリンパスは記者会見で、この資産査定の根拠について、買収3社の売上高が買収当初の08年度の54億円から5年後の2012年度には約900億円に急増加するという見通しだったからだと説明しています。

しかし買収3社が営む医療系廃棄物のリサイクル事業、電子レンジ使用のプラスチック製容器、シイタケ菌糸のサプリメントなどの売上高が5年間で16倍の900億円になるなど誰も信じないでしょう。実際、2011年度の売上見込みは65億円強といいますから、「当時の見通しが甘かった」(高山修一・新社長)などという言い訳で済まされるものでは到底ありません。資産査定そのものが問われますし、その資産査定を承認して買収価額を決めた当時の取締役会決議が問われます。

動き出した英米捜査当局、オリンパスはなぜ法外な仲介報酬を支払ったのか
もう1つは、07年11月に買収した英国の医療機器メーカー「ジャイラス」の買収に絡んだ不祥事です。オリンパスは「ジャイラス」を買収した後、在米日本人が経営するフィナンシャル・アドバイザーの会社に買収金額20億ドル(約2200億円、)の34%にもなる6億8700万ドル(約755億円)もの法外な仲介・助言報酬を支払ったことです。

M&A(企業買収)の仲介手数料は買収価額の1%~5%程度とされています。実際、当初結ばれたアドバイザーとの契約では成功報酬は買収価額の1%とされています。しかし、その契約は修正され成功報酬は5%に上がり、最終的には34%に跳ね上がりました。M&Aの仲介業界の専門家によるとこんな高額で高率なM&Aの成功報酬はかつてなかったものだそうです。

これについてもオリンパスは、「適切な支払いだった。支払った価値はある」(高山修一社長)といい、成功報酬の異常さを認めていません。一部の情報では、この高額な成功報酬を懐にした日系フィナンシャル・アドバイザーを選定し、ジャイラス買収の仲介を依頼したのは菊川剛社長(当時、前・会長兼社長)ら3役員の稟議によるものだったそうです。法外な成功報酬だけではなく、ジャイラスの買収株価も当時の時価を60%近く上回るものだったといいますから、この菊川社長らの当時の意思決定を精査する必要がありそうです。

これらのM&Aに絡む不可解な出来事が明るみに出たのは、今年4月に就任したマイケル・ウッドワード社長(英国人)の告発によるものです。M&Aを実行したのはウッドワード氏を社長に起用した菊川前社長(その後会長、会長兼社長を経て現在は取締役)でした。菊川氏はウッドワード氏に過去のM&Aの不明朗さを指摘され、急遽、ウッドワード社長を解任して自ら社長に復帰しました(そのすぐ後、株価の急落を受け社長を辞任、高山氏に交代した)。

問題の張本人である菊川氏は社長交代の記者会見には出席せず、一連の企業買収については、「適切な評価、手続きを経て実施したもので、不正行為は一切ない」とするコメントを出したそうです。

適切であったか、不正、違法行為はなかったかは、すでに動き出しているといわれる、ウッドワード氏の母国イギリス、日系フィナンシャル・アドバイザーが在住するアメリカの捜査当局、そして日本の証券取引等監視委員会がはっきりさせてくれるでしょう。

株主は、不明朗なM&Aで株主価値を毀損した菊川氏ら経営陣を訴えよ
かりに法律上、不正、違法な行為がなかったとしても、菊川氏ら当時の経営陣が、常識から遠くかけ離れた高額、高コストのM&Aを行った結果、株主の持分である純資産が大きく損なわれ、2分の一以下に激減したことの責任は免れません。

下表は、オリンパスの有価証券報告書に記載された連結決算の数字です。一連のM&Aの結果は07年3月期から「のれん」787億円という数字に表われ始め、ジャイラスを買収した08年3月期にピーク(「のれん」29980億円)に達しました。

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売上高、当期純利益も08年3月期がピークでした。そこからつるべ落としの感があります。09年3月期には国内3社を減損処理したことなどで1148億円もの当期純損失を計上、純資産額は一気に半分以下に減少しました。その後もジャイラスや国内3社買収によるシナジー(共鳴)効果はまったく出ている様子はなく、売上高は下降を続け、11年3月期の当期純利益は赤字すれすれまで落ち込んでいます。

菊川氏ら当時の経営陣は、オリンパスの純資産、すなわち株主価値を不明朗なM&Aの実行によって大きく毀損しました。菊川氏は事の重大さに気が付きようやく会長兼社長職を辞任しましたが、株主は菊川氏らM&A当時の経営陣に対し、大失策によって純資産を毀損し株価を暴落させた責任を「株主代表訴訟」という形で問うてはいかがでしょうか。

創業者でもない、たんに運と上役の引きがよくて役員になった人物が、経営の大失策には知らん振り、社長、会長、名誉会長、名誉相談役と駆け上って甘い汁を生涯吸い続ける、そんな日本型経営の哀れな構図を見たくはありません。しかし、ウッドワード社長はM&Aの失敗を指摘し菊川氏に会長辞任を迫ったそうです。菊川氏は、そのウッドワード氏を他の取締役と謀って解任し、逆に自ら社長に復帰しました。そんな菊川氏の所業は、日本型経営の悪い典型がまた繰り返されたようで、残念です。こんな日本型経営は世界では通用しません。

2011年10月20日 14:31

年金支給開始年齢引き上げの根拠を明らかにせよ

2011年10月20日筆

厚生労働省は、厚生年金の支給開始年齢を68歳ないし70歳に引き上げるという案を唐突に持ち出しました。6月に発表した「税と社会保障の一元改革案」の中でこの案は含まれていたそうですが、国民には知らされていません。 

知らされなかった国民、知っていて知らせなかったマスコミと官僚
マスコミは社会保障財源としての「消費税10%への引き上げ」だけを書き、もう一方の社会保障費の削減・効率化にはまったく触れませんでした。触れなかったのはマスコミの不勉強のせいでしょうか、刺激の強いこの支給開始年齢引き上げ案をマスコミが書かないように厚労省官僚が誘導したためでしょうか。

知らされなかった国民からすれば、マスコミ、官僚いずれも、「無礼にして無責任、無神経極まりない」というほかありません。

公的年金は老後生活のすべてを左右するといって過言ではありません。公的年金である厚生年金(基礎年金分+報酬比例分)が何歳から、幾ら支払われるのかは民間企業に勤める就業者にとって人生最大の関心事といってもよいでしょう。それを知っていながら、いとも簡単に支給開始年齢を引き上げるというアドバルーンを上げて国民の反応を伺うというのです。いまさらながら「民」を軽んじ侮る「官」の無礼さ、傲慢さに腹が立ちます。

この支給開始年齢の引き上げについては、マスコミではさまざまな問題点が指摘されています。挙げればきりがないのですが、以下に列挙します。

  • 「60歳定年制」が崩れていない現状で60歳から68歳までの年金収入ゼロ状態を放置するのか、その間の生活はどうなるのか
  • それを避けるため68歳まで定年制を延長するとすれば、高齢者に職場を奪われた若年労働者の失業率が跳ね上がることになりはしないか
  • 民間企業は労働生産性の低下、総人件費の増加が見込まれる「68歳定年制」に耐えられるか、耐えられない企業は海外脱出するほかないのか

小生は、こうした問題点の認識はマスコミと共有していますが、そのほかにも素朴な疑問を持っています。それは、そもそもなぜ年金支給年齢の引き上げが避けられないのか、なぜ引き上げが必要なのか、その理由への疑問です。

その理由をマスコミは「年金財政の悪化を防ぐ狙い」(日経新聞)とか「高齢化で悪化が見込まれる年金財政の改善が狙い」(朝日新聞)とか1~2行書いていますが、肝心の年金財政の悪化の中身についてはまったく触れていません。これではなぜ支給年齢が引き上げられるか、その根拠が国民には分かりません。

100年安心プランでも平成21年財政検証でも「年金財政の悪化なし」
そもそも2004年に小泉内閣の下、坂口力厚生労働大臣(公明党)の肝いりで行われた年金制度改革「100年安心プラン」では、(1)基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げ、(2)保険料を報酬比18.3%に引き上げ、(3)支給開始年齢を60歳から65歳まで引き上げれば、年金制度は「100年安心」だったのではないですか。

「100年安心プラン」では、確かに年金財政は悪化しますが、保険料など年金収入の不足分は年金積立金の取り崩しで補える、取り崩しても100年先には年金支給額の1年分の年金積立金が残せると言っていました。支給額が増え年金財政が悪化しても年金支払いは100年間大丈夫と言っていたはずです。

人口の少子高齢化が進み、年金受給世代を支える現役世代がドンドン少なくなることなどは、前提として「安心プラン」の計算の中にすでに含まれています。ですから年金財政の悪化を少子高齢化のせいにするのは筋違いだということになります。

2004年の年金制度改革では、5年に1度、年金財政がどうなっているか「財政検証」を行うことになっています。その「財政検証」が2009年(に行われましたが、その結果が下表(平成21年財政検証)です。


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ほんの3年前に行われた「平成21年財政検証」でも年金財政に問題はありません。2030年度を例にとれば、年間の保険料収入44.5兆円に対して支給(支出)総額は52.3兆円、約8兆円の収入不足は積立金の運用収入や税金による補填(国庫負担)で補い、13.8兆円のお釣りが来る。2030年度の年金積立金残高は284兆円にまで増加する予定です。

その後も年金積立金は増え続け2050年には500兆円を突破します。年金の取り崩しは2066年から始まりますが、100年後の2105年では「100年安心プラン」が約束したとおり年金支給総額157.5兆円のほぼ1年分に当たる132.4兆円の年金積立金が残っています。この表から年金財政の悪化などどこにもありません。

 「平成21年財政検証」に基づけば年金財政の悪化などないのに、なぜ支給開始年齢を引き上げて年金支給総額を圧縮するのでしょうか。厚生官僚の皆さん、それをまず国民に分かりやすく説明してください。

本当は改革当初の年金財政の収支見通しも「平成21年財政検証」の改定見通しもまったく狂っている、間違っているのではないでしょうか。

見通しの間違いは、年金財政の収入(保険料収入、運用収入、国庫負担分)と支出(年金支払い)の収支差額の積み上がりである年金積立金の見込み違いを見れば明らかです。

改革当初見通しでは2009年(平成21年)度末の年金積立金は144.4兆円の見通しでしたが実際の残高は126.9兆円でした。改定された2009年の見通し(上表)では2010年度末積立金見込みは142.6兆円でしたが実際は121.2兆円でした。積立金は増えるどころか取り崩されどんどん減っています。積立金残高の見込みと実際の差は21兆円にもなります。

上表の改定見通しは09年度の初年度から大きく狂っているのです。狂ったというより、当初から「100年安心」が間違いだったことを隠蔽するために厚生官僚がつじつま合わせの数字操作を行ったとしか思えません。見通しが狂うことを官僚たちは最初から承知していたのではないでしょうか。

操作したのか?「100年安心プラン」の物価、賃金、運用利回り見通し
どこを操作したのでしょう。財政検証の前提になる物価上昇率、賃金上昇率、そして運用利回りの将来見通しです。下表は「100年安心プラン」作成当時(2004年)と「平成21年財政検証」時点(2009年)の経済前提です。


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これらの物価、賃金、利回りという経済前提が年金収入や年金支払いに大きな影響を与えることは言うまでもありません。ですが上表の物価、賃金、利回りの前提が、物価上昇率も名目賃金上昇率もマイナスが続いているというデフレ日本経済の現実から大きくかけ離れていることは言うまでもありません。

極め付けは年金積立金の名目運用利回りです。04年見通しの3.2%でも高いのに、それを09年見通しでは4.1%に引き上げています。4.1%の利回りだと運用資産は15~16年で倍になるはずです。年金積立金が増え続ける根拠のひとつがここにあります。

しかし「年金積立金運用報告書」によると実際の名目運用利回りは2003年から2008年の6年平均で1.08%にすぎません。04年見通しの3.2%(上表)ですら明らかに間違っているのに09年の改定見通しでは数字を下げるどころか4.1%に引き上げたのです。積立金運用先の7割が、1%すれすれという低利回りの日本国債ですから、4.1%などは詐欺に等しい。

こんな粉飾まがいの数字操作をして「100年安心」といい続けていた政治家や厚生官僚は、まず「100年安心プラン」はすべて間違いでしたというべきです。学者の予測ではこのまま過ごすと厚生年金の積立金は2033年にはゼロになるというではありませんか(「週刊文春10月27日号」)。

厚労省は漠然と「年金財政が悪化している」と記者に説明するのではなく、年金財政悪化の真実を粉飾せずに国民に明らかにすべきです。

2011年10月14日 18:57

文系にも出来るスティーブ・ジョブズ式イノベーション

2011年10月14日筆
 
最新のスマートフォン「iPhone4S」の発売直前に亡くなったスティーブ・ジョブズ氏はアップル社を最大の時価総額を誇る企業に育てた人物でした。

衰退に向う日本経済を救うのに必要なのは、財政の大盤振る舞いでもなければお札をばら撒く量的金融緩和でもない。日本に必要なのは、ジョブズやマイクロソフトのビルゲイツ氏のような技術革新を起こし新市場を創造するイノベーター(革新者)の輩出ではないかと常々考えていました。

日本にもジョブズのようなイノベーターを生む土壌があるか、人材はいるのか。ジョブズの死を機にそのことを書こうと思ったのですが、小生にはその資格がないことに気が付きました。

スティーブ・ジョブズは科学技術者ではなく審美眼を持つ文系人間でした
恥ずかしながら小生、科学技術にはからきし弱い。パソコンは原稿を書ける程度に使えるようにはなりましたが、まだエクセル、パワーポイントは使えません。携帯電話端末は家内との連絡ぐらいにしか使わないので旧式です。スマートフォンには興味がありますが、使い方を学ぶのが億劫です。記者だった頃、細かい技術知識に恐れをなし電機、電子、半導体などの産業の担当を嫌ったことが今になって響いています。

ブルンバーグNY市長はジョブズ氏の死に際して「今夜、米国はエジソン、アインシュタインと並んで我々の記憶に残るであろう天才を失った」(日経新聞10月6日付)と言っています。ソフトバンクの孫正義社長は自社のホームページで「数百年後の人々は彼をレオナルド・ダビンチと並び称することであろう」とその死を惜しんでいます。

エジソンもアインシュタインもダビンチも科学技術に秀でた発明家です。彼らと並び称せられるのですからジョブズも偉大な科学技術者であると考えられます。小生が科学技術者ジョブズにおじけづいたとしても不思議はありません。

ところがです。例の「ステイ ハングリー、ステイ フーリッシュ」(ハングリーであれ、愚かであれ)と説いたスタンフォード大学での講演録を読んでいて、彼が科学技術者ではないことを知りました。彼は、リード大学というオレゴン州の名門大学を6ヶ月で退学しましたが、その後、1年ほどの「カリグラフィー講座」の聴講生として大学に居残ったそうです。

カリグラフィーとは、字体(フォント)や文字と文字の間隔を変化させることで文字を美しく見せる手法のことだそうです。小生も書籍編集者をしていた頃、美術大学を出た先輩が書籍の表紙に書名を一字一字手書きして美しく配置していたのを思い出しました。ジョブズはそのカリグラフィーを勉強していたのです。

彼はカリグラフィーやデザインに興味を持った、芸術系、いや小生と同じ文系の学生だったのです。手の届かない科学技術者ではなかったのです。ジョブ氏が文系出身のイノベーター(革新者)であったことに大いに勇気付けられました。これなら日本でもイノベーションは起こせると思うからです。

 実際、彼が売り出した最初のヒット商品である「Macintosh(Mac)」は、美しいフォント(字体)と字間調整フォントを組み込んだパソコンだったとジョブズ自ら語っています。ソフトバンクの孫正義社長は「芸術とテクノロジーを両立させた現代の天才」ともジョブズを評していますが、その「芸術」のルーツはカリグラフィーの聴講にあったのですね。

 そしてそのジョブズの「芸術」には需要家(使う人)を楽しくさせるという発想がありました。需要家を楽しくさせるという発想は、さらに需要家からむずかしく感じることを取り除くというジョブズのもう1つの「使いやすさ」という工夫にも?がっています。これなら松下幸之助氏の得意技でした。

 日経新聞は、「携帯電話の表面に並ぶ数字や文字の操作キーもジョブズ氏の目には醜いツブツブとしか映らなかった。iPhoneがキーのないタッチパネル操作となったのも審美眼の結果だ」(10月6日夕刊)と書いています。素人なら「使いやすさ」を追及した結果のタッチパネル操作の採用だと考えがちですが、ジョブズの場合、審美眼という非実用的な感性から結果的に「使いやすさ」をユーザーにもたらしたということになります。
 
発想のスタートが審美眼か、「使いやすさ」か、どうでもよろしい。小生のようなアナログ世代には煩雑でむずかしパソコンや携帯電話の操作から開放される「使いやすさ」が結果としてもたらされれば、それでいいのです。技術オンチの小生には、大切なのはユーザーの使い勝手がよく「生活の役に立つ発明」という視点だと思えてなりません。

設計力、開発力さえあれば「有形のテクノロジー」など借りてくれば良い
もう1つ感心するのは、ジョブズには芸術や審美眼から生まれるデザイン力、使いやすさを追及する設計力など「無形のテクノロジー」はありましたが、タッチパネルや半導体などの部品、部品を製品に組み立てる技術という「有形のテクノロジー」は持ち合わせなかったことです。

「有形のテクノロジー」は世界中に転がっており、それを拝借すればよいとジョブズは考えたのです。日本では開発から製造、販売まで製品供給の全過程を自前で行うことが好まれました。しかしジョブズのアップル社は、構成する電子部品は日本メーカーなど外部から調達、製造は台湾の巨大な受託製造サービス業者であるホンハイ(鴻海)グループに委託して、自らは製品開発に専念したのです。

このアップル型のビジネスモデルを「独自の電子技術、製造技術などまったくないヤドカリ経営」などと悪評する向きもありますが、それこそ大きな間違いです。最も付加価値を生むのは製品の独自性でありその開発力、そしてロイヤルティー収入です。優れた半導体、電子部品は日本の東芝や村田製作所、韓国のサムスン電子などに任せておけばよい。自らは世界中に転がっている優秀な部品と製造技術を掬い上げ、組み合わせて独自製品を生み出巣「無形のテクノロジー」さえあれば良いということになります。

スティーブ・ジョブズ式イノベージョンでは、直感や審美眼、需要家を思う心、そして外部の優秀なテクノロジーを組み合わせる設計力と開発力が大切なのです。それなら文系の人材でも磨けば使えそうです。まして日本は部品や製造技術は世界で最も優れた国です。身らの傍に掬い上げることの出来る「有形のテクノロジー」がたくさん転がっているのですから、こんなにイノベーション環境に恵まれた国はないということになります。

とはいうものの、日本にジョブズのような「ステイ ハングリー、ステイ フーリッシュ」を貫ける若者がいるか、日本を変えるイノベーター予備軍がいるかどうか、若者との付き合いが薄くなった前期高齢者の小生にはよく分かりません。残念です。

2011年10月 7日 12:16

公約どおり公務員人件費を2割削減すれば

2011年10月7日筆
 
国会審議が放映される日は仕事をしながらテレビをつけっぱなしで論戦を聞いています。朝霞の公務員宿舎の建設をめぐる攻防は完全に政府側の負けでした。建設を決めた野田佳彦前財務大臣(首相)と建設を遂行する安住淳財務大臣の国会答弁を聞いていますと、官僚たちが得ている既得特権を擁護する発言に終始しているように感じました。

民間のサラリーマンは自前で高い家賃を払ってマンションに入居しています。なぜ官僚が民間相場の3分の1にもならない安い家賃で公務員宿舎に入る特権を持っているのか、それについての説明がまったく出来ていないようでした。

従業員が得ている給与以外の利益のことをフリンジ・ベネフィットといいます。安い家賃の公務員住宅、安い金利の融資、安い利用料の福利厚生施設など公務員が得ているフリンジ・ベネフィットはいったい幾らになるのでしょうか。

官の給与は民の給与を20%以上上回る、外郭団体の給与はさらに高い
フリンジ・ベネフィットに触れる前に、公務員の正規の給与について触れておきます。下表は、自治労連、国公労連など公務員労組が属する全労系の「労働運動総合研究所」が11年5月の論文で示した公務員や政府系機関の平均年収の一覧です。
 
1007表1.jpg
この平均年収が民間企業の従業員の平均年収に比べどれぐらい高いかについて、大和総研のチーフエコノミスト原田泰氏(経済企画庁出身)は家計調査の所帯主給与のデータを分析して「官の給与は民の給与を20%以上上回る」(「官民給与格差は大停滞の一因」(10年10月)と指摘しています。

さらに原田氏は地方での官民の給与格差はさらに広がるはずだとも指摘しています。国家公務員の給与は国の「人事院」、地方公務員の給与は地方の「人事委員会」の勧告に従って決められます。勧告の指標になるのは人事院と人事委員会が合同で行う「民間給与実態調査」による民間給与水準ですが、それも「かなり大規模な事業所のホワイトカラーの給与水準」と同等になるように決められています。多少調整されますが、地方公務員の給与水準も「かなり大規模な事業所のホワイトカラーの給与水準」に準じることになります。地方には東京のビッグビジネスのような高い給与が支払える企業などありません。その結果、地方での官民の給与格差は中央よりさらに拡大することになります。

上表の平均年収によれば、中央政府の外郭団体である独立行政法人、政府系金融機関、地方自治体の外郭団体である地方公営企業の平均年収が公務員よりはるかに高いということに驚かされます。公務員の天下り先の年収のほうが公務員より高いことになります。なお、最近は、外郭団体職員の非正規化が進み、正職員と非正職員の賃金格差が拡大していることを付記しておきます。

国家公務員の一人当たり人件費は1337万円、高すぎませんか
これらの平均年収にはフリンジ・ベネフィットは含まれていませんから、これを含めると実際の公務員等の平均年収はさらに大きくなると思います。

ではいったいフリンジ・ベネフィットを含め国家及び地方公務員にどれぐらいの人件費が掛かっているのでしょうか。それを類推する手掛かりの一つとして財務省主計局が昨年12月に公表した「平成23年度公務員人件費」の数字を下表にまとめました。

1007表2.jpg

上表の「一人当たり人件費」は、公務員の人件費総額を人数で割って算出した単純な金額です。この人件費総額にどの程度のフリンジ・ベネフィットが含まれるか判然としませんが、およその1人当たり人件費と考えてください。中央、地方の民間企業の皆さん、自社の従業員一人当たり人件費に比べ、国家公務員1337万円、地方公務員903万円という数字が高いか安いか、ご判断ください。ずいぶん高いと思われるでしょうね。

もう1つ、国債費(地方債費)などを除外した一般歳出に占める公務員人件費の占める割合も出しておきました(上表)。平成23年度の地方自治体の一般歳出は66.8兆円、給与関係経費は21.3兆円ですから歳出の約32%が人件費に費やされています。地方自治体は、さまざまな人的公共サービスを提供していますから人件費比率が高くなって当然ですが、そこの無駄はないといえるでしょうか。この21.3兆円もの地方公務員の人件費総額は、もっと厳密に「事業仕分け」され削減の対象にされてもなんら不思議ではありません。

国家、地方公務員の総人件費を1割削減すれば復興財源は軽く賄える
さて本題ですが、震災からの復興のために作成された「第3次補正予算」の財源問題です。政府は12兆円規模の歳出を11.2兆円の増税(与党民主党案では9.2兆円の増税)によって賄うとされています。増税対象は所得税、法人税、たばこ税です。

小生は、増税するならすべての国民(現在世代)が復興財源を負担するという意味で消費税が望ましいと考えています。しかし消費税増税を社会保障費の財源に充てるためにとっておくというのなら、復興財源はこの際、「みんなの党」が盛んに主張しているように公務員人件費の削減によって賄うというのもよいでしょう。

「民」は震災と円高不況でかつてない塗炭の苦しみを味わっています。「官」は、「民」から膏血(税金)を絞り上げて20%以上も高い給与を食んでいるのです。「官」は自ら身を削って「民」の塗炭の苦しみを肩代わりしてもおかしくない時期なのです。

「官」が率先して身を削らないのなら、政府、政治家が国民に代わって公務員人件費を削ることになります。現在、政府が提案している国家公務員給与の7.8%削減が実現すれば2900億円の財源が捻出できるそうです。

民主党の09年マニフェストどおり国家公務員の人件費を2割削減すれば、年間1.5兆円、復興期間10年間で15兆円の財源が出てきます。これだけあれば第3次補正予算の12兆円規模の歳出すべてを賄って余りあります。

2割削減は酷だというのなら1割削減でどうでしょうか。1割削減しても「民」の給与水準よりまだ高いのです。その場合、地方民間に比べ30%程度給与水準が高いと推定される地方公務員の人件費も1割削減することをすすめます(地方交付税を削減して対応できるはずです)。国家及び地方公務員の総人件費27.2兆円を1割削減すれば年間2兆7200億円、消費税に換算して1%以上の財源が出てきます。復興財源は5年間の人件費削減で賄えることになります。人件費削減を公務員より高給を食む政府系機関の正職員にまで広げれば、人件費削減率を1割以下にとどめることができるかもしれません。

しかし、朝霞公務員宿舎問題では財務省官僚が作成した役人特権を死守するための「屁理屈」に従って答弁した野田政権ですから、こんな荒療治などとても出来ないでしょうね。ましてや民主党の支持団体には自治労や日教組など官公労が控えています。荒療治はますます難しくなります。まことに残念です。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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