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2011年9月 9日 12:27

復興財源として郵政株売却? 誰が買うのでしょうか

2011年9月9日筆

東日本大震災の復興財源に日本郵政株の売却収入を充てるという案が急浮上してきました。売却案の発信源は藤井裕久・民主党税制調査会長でした。復興財源捻出のための増税規模を圧縮することを狙ったものでした。

復興予算である第3次補正予算の規模は13兆円とされ、このうち3兆円を税外収入、残り10兆円を増税というのが政府筋の案でした。法律改正が必要ですが、政府が保有するNTT株(残存2兆円)、JT株(残存1.7兆円)を売却する一方、日本郵政グループの政府持株分を売却すれば、増税で確保予定の10兆円は大幅に圧縮されることになります。

これに国家公務員と地方公務員の人件費総額27兆円の賃下げなどによる1割カット(2.7兆円)を加えれば、法人税や所得税の増税なしで復興財源を賄える計算になります。地方公務員の人件費圧縮は管轄外だとして中央政府は手を付けたがりません(その裏には自治労や日教組など民主党支援組織の圧力があるのでは...)。そうなら地方公務員のカット人件費分を地方交付税等から削減すれば良いと思うのですが、どうでしょう。

郵政株売却は大変結構なことですが郵政グループの株式価値は幾らですか
それはさておき、日本郵政グループの株式価値はどれぐらいでしょうか。下表は、連結ベースの日本郵政グループ(持株会社である日本郵政は表から割愛)、それと経営実態がある「郵便局」、「郵便事業」、「ゆうちょ銀行」、「かんぽ生命」の経常利益と純資産(2011年3月期末)を示したものです。

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株式価値を算定する基礎になる連結ベースの純資産(株主資本)は約10兆円になります。上表は、その10兆円の純資産のほとんどが「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」という金融2社、特に「ゆうちょ銀行」の純資産によるものであることを示しています。現在継続審議中の郵政改革法に従って、この政府保有分(純資産)の3分の2を株式に代えて売却するとすれば約6.6兆円の売却収入が得られることになります。

ただし、比較となる民間の大手銀行は株価が下落し、PBR(株価純資産倍率)は0.5倍前後になっていますから、日本郵政の株式価値も純資産の半分(3.3兆円)にしかならないでしょう。3.3兆円しか売却収入が見込めないとしてもNTT株、JT株の売却に公務員人件費の圧縮を組み合わせれば増税なしで復興財源を捻出できます。そうすることは、増税、特に消費増税を社会保障財源にとっておくことができますから、大変結構なことです。

合理的な事業収支見通しが立たない郵政株を買う投資家はいるのか
しかしふと思うのですが、この3.3兆円もの日本郵政グループの株式をいったい誰が買うのでしょうか。

NTT株、JT株、日本郵政株をいま放出されれば日本の株式市場から巨額の資金が政府に吸い上げられ株価が暴落します。暴落を避けるには10年間ぐらいに渡って少しずつ売却するしかありません。そうすれば、すでに民間企業として収益を上げ株式を公開し、合理的な株価を形成しているNTT株、JT株は民間の投資家は買うでしょう。

しかし合理的な事業収支見通しが立たない日本郵政株を買う民間の投資家は出てくるでしょうか。

民主党政権が実施した郵政株の売却凍結を解除し、小泉政権時に成立した郵政民営化法に従って「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」を完全民営化(政府持株の100%を2017年までに民間に売却)するのであれば、買ってもいいという投資家は現れるでしょう。

「ゆうちょ銀行」の2011年3月期末の預金残高(資金量)は約175兆円)で、日本最大の銀行グループの三菱UFJフィナンシャルグループの資金量約164兆円を上回る規模です。「かんぽ生命」の資産残高は約97兆円です。株式を公開した生保業界第2位の第一生命保険の資産総額約32兆円ですからその3倍にもなります。

完全民営化されれば、民間銀行や生命保険会社と同様の扱いになり郵便貯金の預け入れ限度額も生命保険の加入限度額も無制限になります。貸付など運用の自由度も高まり、収益機会がぐんと広がります。そうなると巨額の運用資産が生かされ投資家には魅力的な投資対象になります。政府も両社をもっと高く純資産以上の値段で投資家に売ることが出来ます。

現在、「ゆうちょ銀行」は資金量175兆円のうち83%に当たる146兆円を国債に運用しています。「かんぽ生命」は資金量の79%に当たる約76兆円を国債などに運用しています。運用の専門家を育てる必要はありますが、運用利回りが低い国債運用一辺倒から中小企業や個人向け融資や中小企業育成のための株式保有、外貨建て資産などに運用を広げれば運用効率はもっと上がります。郵政グループの国債買い支えで緩みきっている財政規律の引き上げにも役に立ちます。

時代に後れた「郵便局」と「郵政事業」は赤字垂れ流しになる恐れがある
しかし、「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」が挙げた収益を当てにして、「郵便局」11万人、「郵便事業」10万人の人件費の一部を補い、事業としての将来性に大きな疑問がある「郵便事業」の赤字を補填することを狙う「郵政改革法」の成立が前提であれば、放出郵政株を買う人などいないでしょう。

継続審議中の「郵政改革法案」は、支持率ゼロの政党である国民新党がごり押ししている法案ですが、国民新党の亀井静香代表は主として「郵便局」や「郵便事業」で働く22万人の非正規雇用社員のうち10万人を正社員にしろと吼えた御仁です。10万人を正規雇用化すれば2000億円の人件費増になります。「郵便事業」は今でも890億円の経常赤字(上表)を垂れ流しており、亀井代表のいうような正社員化が実施されればさらに赤字が膨らみます。582億円の経常黒字を上げている「郵便局」も赤字に転落しそうです。

一番の問題はインターネットの普及や宅配便の普及で存立基盤そのものが失われつつある「郵便事業」です。インターネットの普及ではがきや手紙がメールにどんどん置き換わっています。インターネットに不慣れな高齢者にも問題はありません。信書を含めて郵便物すべてをヤマト運輸や佐川急便など宅配業者に取り扱わせれば、全国津々浦々に郵便局よりはるかに安い値段でしかも正確に配達されるに違いありません。

過疎の限界集落に住む高齢者、「買い物難民」も心配はありません。最近では民間のスーパーが「移動スーパー」を派遣するようになっていますし、ネットや電話で注文を受ける「即日宅配スーパー」を始めています。いまや全国津々浦々のユニバーサルサービスは「郵便事業」だけのものではありません。ついでに言いますが、「ゆうちょ銀行」も農協や信金、信組の金融サービスで十分代替できます。

「郵便局」も「郵便事業」も、全国にある郵便局網をフル稼働させて競争相手に打ち勝つ信頼される配達、宅配サービスを生み出し、料金を引き下げる必至の経営努力がなければ赤字垂れ流し状態に陥りかねません。赤字垂れ流しの親会社(「郵政改革法」では日本郵政、郵便局、郵政事業を一体化し金融2社の親会社になる)に「ゆうちょ銀行」も「かんぽ生命」も食い潰されかねません。そんな郵政グループの株式を買う民間の投資家はいないでしょうね。

まさか財務省管轄の日本政策投資銀行に買わせるのではないでしょうね
郵政グループに出資する投資家がいるとすれば、それは民主党が民営化を放棄した財務省管轄の日本政策投資銀行ではないでしょうか。日本政策投資銀行の資金源は財投債ですから、郵政株の売却資金が復興財源になるといっても、国債の追加発行が第2の国債である財投債の発行に置き換わるだけです。次世代に付け回される国民の借金であることに代わりはありません。

しかもそれは、復興財源の捻出を大義名分にして旧郵政省の縄張りを財務省が奪い取ることでもあります。財務省は抜かりないですね。

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QuonNetコミュニティ | 2014年4月14日 09:50

この記事へのコメント

1. Posted by たなか 2011年9月11日 22:51

ヤマトや佐川が手紙を配達するとは思えない。
設備投資に見合うだけの収益が見込めない事業に民間が手を
だすのか?
移動スーパー?じゃがいも1個いくらで買えるの?
トイレットペーパーは?高額になるのに今の少ない年金でそんなの利用してたら生活出来ない。

2. Posted by 日本が好き 2011年10月29日 08:59

完全民営化?
完全米営化の間違いでは?
そもそも郵政民営化自体アメリカからの年次改革要望書をもとにやっちまったわけで
国民財産であるかんぽゆうちょを外資に献上
皆さん調べて下さい
マスコミを鵜呑みにしちゃ日本が沈む
キーワードは年次改革要望書と郵政民営化

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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