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大西良雄ニュースの背後を読む

2011年6月

2011年6月17日 17:03

東京電力は資金ショートを起こさないか

2011年6月18日筆

「会社四季報」はかつて小生も会社担当記者として20年近く執筆した経験がある雑誌ですが、今回の「2011年夏号」(6月13日発売)の執筆には後輩たちも手を焼いたのではないでしょうか。震災の影響を読み切れないという理由で業績予想を「非開示」とする会社が多かったからです。

「会社四季報」の「売り」は記者の独自予想ですが、独自予想の元になるのはアナリスト予想と同様、会社側が前期決算の発表と同時に発表する「今期の業績予想」です。それが非開示になってしまったのですから、何を手掛かりに独自予想すればよいか分からなくなります。

しかも、「非開示企業」のほとんどが6月から7月にかけて「今期の業績予想」を改めて発表するというのです。四季報が発売されて間もなく、苦労して立てた記者の独自予想が会社側の予想によって否定されてしまうリスクを後輩記者は抱え込むことになります。

今期9000億円程度の純損失に止まれば債務超過転落は免れるが・・・
そうした後輩記者の苦労をしのびながら、今回の四季報で最も業績予想が難しいと予想された東京電力の「独自予想」がどうなっているか、紹介します。

0617表.JPG

「東洋経済オンライン」にこの予想の前提が書かれています。まず、夏場の15%節電要請などで売上が1割減、これに原発から火力発電シフトによる燃料費増(7000億円程度)という減益要因が加わる。これに対して修繕費、人件費などコスト削減(5000億円)が会社側の発表どおりに実現するとして、差し引き東京電力の12年3月期の営業利益は▲4000億円、創業以来発の営業赤字(連結ベース)に陥るという予想になっています。

このほかに放射能汚染地域への損害賠償金負担を1000億円~2000億円、福島原発の廃炉費用の追加分を特別損失に計上し、連結純利益は▲9000億円となるという予測です。「東京新聞」(6月5日朝刊)がすっぱ抜いた内部資料によると、東電自身は賠償金負担を計上しない段階での12年3月期純損失を▲5700億円としているようです。これに賠償金負担を加えると会社四季報予想に近い純損失が発生する勘定になります。

賠償金の負担総額がどう算定されるか、東電自身の負担総額は幾らになるのか、その負担総額を何年に分割して引き当てるか、あるいは放射能汚染水の処理費用、原子炉の廃炉費用がどれくらい増えるかなど、まだまだ不明な部分がありますが、とりあえず会社四季報予想程度の純損失に止まるとすれば、東電は今期の債務超過転落は免れることが出来ます。

東京電力の前期末の純資産残高は1兆6024億円ですから今期純損失が9000億円発生しても、7024億円の純資産が残るからです。債務超過が発生すると1年以内にそれを解消しないと上場廃止になってしまいますが、そのリスクは今期中には発生しないということになります。

清水社長は「早晩、資金ショートする可能性も否定できない」と証言
むしろ心配なのは東京電力の資金繰りのほうです。東電の清水正孝社長は6月14日の参議院の「早晩、資金ショートする可能性も否定できない」と証言していました。「資金ショート」を起こし不渡り手形を2度出せば銀行取引停止、事実上の倒産となります。そうなれば否応なしに会社更生法の適用を受けるという法的整理に持ち込まれます。これは株主や金融機関だけでなく賠償債権を持つ被災者にも困ったことになります。

法的整理に持ち込まれれば、まずは上場廃止、75万人弱の株主が持つ株券は紙くずになります。次いで銀行が持つ4兆円にのぼる融資債権の一部は放棄させられます。被災者が持つ賠償債権もカットされるでしょう。カットされた賠償債権は国が肩代わりし税金で支払われ、結局被災者以外の国民が負担することになります。なお電力債は他の金融債権や賠償債権のような通常債権より返済が優先されますから、資産売却して東電が手にした資金は電力債への投資家にまず返済されることになります。

実際に東電の資金ショートは起こるのでしょうか。先の「東京新聞」が入手した東電の内部資料には「今年3月期末に約2兆1000億円あった現預金は急速に流出し、12年3月末に1000億円を割り込む見込みだ」と書かれているそうです。おそらく清水社長の参議院での証言はこの資料に基づくものでしょう。

しかし、内部資料に基づかなくとも発表された11年3月末の貸借対照表を見れば資金繰りの厳しさは明らかです。震災後、東京電力は三井住友銀行など大手銀行から2兆円を急拠借り入れました。資産の部に積み上げられた現預金残高は3月末には2兆2482億円に膨れ上がりました。

しかしそのうち半分は過去の借金の返済資金として消えてしまいます。社債7748億円、短期借入金4062億円、合わせて1兆1810億円が1年以内の返済期限を迎えるからです。続く13年3月期の社債の返済額は9000億円以上になる予定です。東電の社債格付は投資適格とされる最低ランクまで下がり、社債の借り換え発行は困難を極める状態にあります。借り換えによる資金調達はたぶん政府の支援がなければできないでしょう。

そのうえ福島原発の原子炉冷却対策や汚染水対策の資金、休止火力発電所の再開資金、重油,LNG(液化天然ガス)などの燃料代金の支払いが相次ぐのです。銀行借り入れで2兆2482億円積み上げた現預金がみるみる減って、来年3月末には1000億円を割り込んでなんら不思議ではないのです。

内部資料によると、支払いの中には放射能放出事故の被災者に対する賠償資金は仮払いの500億円しか含まれていないそうです。正式の賠償金支払いが決まれば500億円どころではありません。一気に兆円規模の賠償資金が必要になるでしょう。賠償資金は損益計算書では10年、20年に分割されて費用計上されますが、キャッシュフロー計算書ではその賠償全額が現金流出することになり、資金繰りを一気に悪化させます。

社債は発行できない、銀行ももう貸せない。資産売却だけで間に合うか。
もう一度2兆円の銀行借り入れができれば緊急事態は乗り切れるでしょうが、銀行が果たして貸してくれるでしょうか。銀行にとって、東電のような債権放棄を求められるような不良融資先に貸すことは預金者への背信行為になります。メガバンクは政府の保証でもない限り新規貸し出しを躊躇するでしょう。

東電は、本社用地、社員保養地などの資産、保有債券や株式、子会社・関係会社株式など売れるものは売って資金を早く作らねばなりません。貸借対照表に記載された「電気事業以外のその他固定資産」は5194億円、「子会社株式、持ち合い株式を含む長期投資勘定」は4916億円、合わせて約1兆円あります。すべてを売れないでしょうが公約した6000億円以上の資産売却を急がねばなりません。

国会に提出された「原子力賠償機構支援法案」は、東電を上場廃止にしない、倒産させない、東電以外の原子力事業者からも負担金を徴収するという支援スキームに従って、被災者への賠償責任を東電に負わせるというものです。そのスキームの中に火力シフトによる燃料費上昇を電気料金へ転嫁するという項目は入っているのでしょうか。入っていなければ、資産売却など焼け石に水、増加を続ける賠償資金や燃料費の増加資金を早晩賄えなくなる恐れがあります。

しかし、菅総理退陣をめぐって政争に明け暮れる国会です。その「賠償支援法案」も成立するかどうか危なっかしいといわざるを得ません。成立しなければ東電の資金ショートが現実になるかもしれません。そうなれば倒産ですが、いっそのこと倒産して会社更生法を適用して債権債務関係を明らかにして債権者には優先順位に従って債権を放棄してもらうほうがすっきりしてよいかもしれません。

この法的整理の過程で送配電設備を売却して分離し、発電部門は「新東電」に引継ぎ「新東電」は債務を負うことなく再出発するほうが日本の電力産業の将来にとっても東電の従業員にとっても良いかもしれません。しかし、放棄させられた被災者の賠償債権は国が肩代わりされ税金という形の国民負担になりますが、それも仕方がないと覚悟を決めるほかないのでしょうね。電気料金の値上げ負担も税による負担も国民負担に変わりないのですから。

2011年6月10日 10:47

マニフェスト死守から「修正」に豹変する小沢氏の怪

2011年6月10日筆
 
元財務官僚の高橋洋一氏(嘉悦大学教授)が菅内閣の不信任決議案否決をめぐって永田町で流された民主党のトロイカ3人組に関する秀逸のジョークを紹介していました(「夕刊フジ」6月9日付け)。

政界で一番ずるい人は菅直人
政界で一番バカな人は鳩山由紀夫
政界で一番悪い人は小沢一郎
 
辞めると思わせて鳩山を騙した菅はずるい人、菅に騙された鳩山はバカな人、原発事故を道具にして菅降ろしを企んだ小沢は悪い人という意味でしょう。こんなジョークが飛び交うようではトロイカ3人組の権威も地に堕ちたというべきでしょう。3人とも早々に引退すべきだと思います。

「政策は政党にとって大道具、小道具だ」とうそぶく小沢一郎氏
このうち「政界で一番悪い人」といわれた小沢氏は、菅辞任後の大連立に当たって、自らあれだけ固守を叫んだ「民主党マニフェスト」の修正に柔軟な姿勢を示しているというではありませんか。本当に悪い人です。開いた口がふさがりません。

小沢氏は菅内閣が誕生して以来、ずっと菅氏を批判し自らの子分の数を頼んで内部から揺さぶりをかけ続けてきました。その表向きの旗印はいつも自らが代表の時に作成した「09年衆院マニフェスト」の堅持でした。

菅氏は「事業仕分け」を繰り返してもマニフェストを実現するために予定していた財源を捻出できないことから、マニフェスト予算そのものを修正せざるを得ませんでした。その「修正」にたてつき続けたのが小沢氏とその心酔者たちでした。「マニフェストを守らないのなら何のための政権交代だったのか」、「政権交代の原点に戻れ」などと旗を振って菅政権批判を繰り返しました。

菅総理にはリーダーシップがないとも彼らは批判しましたが、総理がリーダーシップを発揮しようとするたびに党内の最大の勢力から鉄砲を撃たれるのですから、リーダーシップを発揮しようがありません。菅総理の失敗の半分以上は「マニフェスト堅持」を旗印に内部から政権にたてついた小沢氏とその心酔者たちにあるといって良いと思います。

その小沢氏が、菅総理が退陣を口にした途端、マニフェストの「修正」に柔軟な姿勢を示したというのです。「菅降ろし」にさえ成功すれば、マニフェストなどどうでもよいと言わんばかりの振る舞いです。事実、小沢氏は最近、周囲に「政策は政党にとって大道具、小道具だ」と漏らしたと6月9日付けの「日経新聞」が伝えています。

 政党とは、政策や政治姿勢・思想を同じくするものが集い、その思う政策を実現するための組織だと理解しています。ですから政策は政党が存在する根本にあるものであって、大道具でもなければ小道具でもありません。

小沢氏が「政策は道具だ」と言っているその意味は明らかです。小沢氏にとって政策(マニフェスト)はまず、選挙に勝って政権交代を果たすための大道具に過ぎませんでした。子供手当、戸別所得補償、授業料無償化、ガソリン暫定税率の廃止、高速道路料金の無料化と口当たりのいい政策を並べ立て選挙民の票を釣る道具にしたのです。この深刻な財政制約のもとでマニフェストのすべてを実現する余力など日本にはないなどとは口が裂けても言えなかったのでしょう。

第二に小沢氏にとって政策(マニフェスト)は、菅総理のような政敵を引き摺り下ろすための小道具に過ぎなかったようです。小沢氏は代表選に負けて以降ずっと、マニフェストの修正をもくろむ菅総理に反旗を翻しつづけてきました。その反旗も、菅総理の退陣が明らかになった途端に下ろされようとしています。「政治とカネ」の問題で党権力の外に置かれたことから菅氏は小沢氏の憎しみの的(まと)、あるいは引き摺り下ろすべき政敵になりましたが、その政敵が失脚しさえすれば、小道具に使ったマニフェストなど要らないのです。

自民党は「マニフェスト死守」の小沢グループとは組まないから豹変?
小沢氏は、いまは森喜朗前総理など自民党の旧世代とつるんで民主、自由の「大連立」を企み、自らの復権を画策しているといわれています。最後の花を咲かせたいだけで政策には無原則の森氏など旧世代と小沢氏がつるむのはたやすいでしょう。しかし石破茂政調会長を筆頭とする自民党を支える若手議員をたぶらかすことは容易ではありません。

石破政調会長ら若手はマニフェスト死守を主張する小沢グループがいる民主党とは組まないと言って「大連立」に反対しています。自民党は民主党への協力の条件として「ばら撒き4K」と名づけた子供手当、農家への戸別所得補償、高校授業料の無償化、高速道路料金の無料化などマニフェスト(政権公約)の撤回を主張してきたのだから当然です。組むべきはマニフェストを修正しようと努力してきた菅総理と岡田幹事長のほうです。自民党はマニフェストを死守するといっている小沢グループは排除すべき対象です。石破議員は当たり前のことを言っているのです。

しかし小沢氏は「大連立」の実現を機に復権できることを願っているはずです。「大連立」によって復権を果たすには09年衆院マニフェストを撤回しなければならないという結論に至ったのでしょう。「大連立」が実現すれば参議院でのねじれが解消し、法案の成立が容易になり福島原発事故の収束や震災復興のスピードアップを図ることができるという大義名分も立ちますから。

しかしマニフェストの修正によって野党の協力を得ようとしていたのは菅総理であり岡田幹事長でした。小沢氏とその心酔者たちがマニフェストの修正を認めさえしていれば、これまででも自民党など野党の協力を得て参議院でのねじれを解消できたはずです。復興のスピードも上がったはずです。

しかし、菅総理のもとで小沢氏とその郎党はマニフェストの修正に踏み切らなかった。なぜなのでしょうか。結局、小沢氏は自らを党権力外に置き去り、党員資格停止処分にした憎い菅・岡田体制を覆すためだけにマニフェスト死守を叫び続ける必要があったからだということになります。単なる小沢氏の個利個略でしかありません。そんな人物に20年近くも政治が振り回されていたのですから、日本が衰退するはずです。

ついでに言いますが、小沢氏とともにマニフェスト死守を叫んでいた心酔者たちは、小沢氏の豹変に従ってマニフェストの修正に応じるのでしょうか。さらにこれから先、「大連立」のために自民党が唱える消費税の増税にも賛成するのでしょうか。

もし唯々諾々と小沢氏の豹変に従うのなら、小沢チルドレンと呼ばれる心酔者たちは、政策などどうでもいい、小沢氏に当選させてもらった個人的恩義(実は彼らを当選させたのは小沢氏ではなく自民党政権への嫌悪でしたが)だけを政治行動の動機としているといっているに等しいのです。そうではありませんか。

2011年6月 3日 12:33

嘘にまみれた「被災者のため」という大義

2011年6月3日筆

震災被災者を出汁(だし)にした呆れ果てた茶番劇があっけなく幕を閉じました。しかしこの茶番劇の結末は敵役にされた代官(菅総理)がうまくその場を言い繕い逃げ切った形になりました。代官に騙され一泡食わされた面々は憤り、この後すぐに茶番劇の第2幕、第3幕を始めるようです。愚劣な政治家どもの茶番劇がこれからもまだ続くと思うと本当に憂鬱になります。

そもそもなぜ自公は菅内閣不信任案を提出したのか、その動機は不明朗
この茶番劇、最初から腑に落ちない点が多々ありました。そもそもなぜ自民党と公明党は不信任案を提出したのでしょうか。

菅総理は、震災からの復興・復旧を遅らし福島原発の事故収束に手間取り、「被災者のためにならない」から不信任決議案を提出したと彼らは言っていました。では復興・復旧を早め原発事故の早期収束を実現する対案はあるのでしょうか。人はよいが優柔不断で知られる谷垣総裁が政権の座にあって果たしてうまく原発事故の収束などやれるのでしょうか。

それはさておき、そもそも衆議院で過半数に遠く及ばない自民党、公明党が政権をとれるはずもありません。菅総理を引き摺り下ろし自らが政権を担うには総選挙に打って出て過半数を獲得するという方法しかありません。

しかし「被災者のため」といいながら、民主党の反乱分子である小沢グループと呼応して菅政権を追い込み解散総選挙に持ち込むというのは、明らかに論理矛盾です。多くの国民は、いっときの政治空白も許せないこの国難の時期に解散・総選挙などやっている暇はないと思っています。特に早く避難生活から脱したいと願っている被災者の皆さんはそう思っておられると思います。解散・総選挙は「被災者のため」という不信任案提出の大義と矛盾するはずです。

「菅総理以外であれば」といいますが、小沢一郎氏と組むのは論理矛盾
解散・総選挙など出来ないとすれば、自公が政権の一部を担いスピーディーな復興・復旧や事故収拾を実現する方法は民主党との大連立しかありません。自公とも「菅総理以外であれば連立にやぶさかではない」と言っています。「菅総理以外」であれば誰でもよいと言わんばかりの毛嫌いですが、菅総理にはよほど人徳がないのでしょうね。菅総理がサミットで見せた卑屈なお世辞笑い、国会審議で見せる不満たらたらの仏頂面を見るにつけ、小生も同じ思いにとらわれます。

それはそうなのですが、では「菅総理以外」の誰をお望みなのでしょうか。まさか党員資格停止中の刑事被告人・小沢一郎氏ではないでしょうね。自公が小沢グループと連立を組むのも明らかに論理矛盾です。

小沢一郎氏は自分たちがつくった「09年衆議院選挙マニフェスト」を金科玉条として「マニフェストの修正まかりならん」といい続けて来ました。小沢氏が立候補し菅総理に対抗した昨年の民主党代表選でも今回の「菅降ろし」でも「修正まかりならん」の一点張りです。これが小沢氏の菅降ろしの表向きの原点です(裏の原点は政治とカネ問題で菅氏らによって「権力から外された小沢氏の怨念」でしょう)。

一方、自公は子供手当てや農業の戸別所得保障など4Kと呼ばれる民主党マニフェストを撤回することが協力の条件だと強く主張してきましたし、今もそうです。しかし、マニフェスト撤回を主張する自公とマニフェスト死守を言い張る小沢グループが手を結ぶことは選挙民への裏切りになります。石破自民党政調会長が「小沢とは組んではならない」といっているのはまさに正論です。組むのなら小沢グループに対峙してでも「マニフェストの修正」を進めようとしている菅総理ではないのでしょうか。人徳のない菅総理のほうが自公の政策に近いというのですから皮肉ですね。

国民からはその大義がよく見えないまま、自公は菅総理への怨念をたぎらせる小沢グループの賛成を当て込んで菅内閣不信任案の提出に駆け込んでしまいました。自公は、小沢グループの反乱で不信任案が可決されれば菅総理は総辞職せず解散・総選挙に踏み切る、不人気の菅総理のもとで選挙をすれば大勝利、政権に復帰できるとでも夢想したのでしょうか。

しかしそれは不謹慎です。総選挙によって40日以上の政治空白が生まれれば、復興復旧がその分遅れます。赤字国債発行に不可欠な特例公債法案も棚上げされたままになります。法案が成立しなければ予算の執行が覚束なくなり、政府機関のシャットダウンも起こりかねません。不信任案提出の策謀のどこに「被災者のために」という大義が存在するのでしょうか。

鳩山氏の「菅総理の早期退陣」発言に騙された小沢グループの悲惨
この、小沢グループの反乱による不信任案可決という自公の夢想を葬り去ったのは、鳩山前首相が菅総理と交わしたという「確認書」です。鳩山氏は、民主党代議士会で「菅総理が早期に退陣すると約束した」といって反乱軍に矛を収めるよう説得しました。その約束が交わされたのが「確認書」ですが、そのどこをどう読んでも岡田幹事長が言うように退陣時期は示されていません。

案の定、菅総理は不信任案否決後の記者会見で「確認事項にある通りだ」というだけで辞任時期を明らかにしませんでした。鳩山氏が「確認書」に書かれていなくても口頭で確認しあったはずだと主張しても後の祭りです。小沢一郎氏の側近・松木謙公議員が小沢グループで一人、「菅辞任は信用できない」といって不信任案に賛成を投じたのは慧眼だったかもしれません。しかし扇動した小沢氏は民主党に残り、慧眼の側近だった松木氏は除籍ですから悲惨です。

被災者など眼中にない、議席確保という不純な動機で書かれた「確認書」
松木氏以外の小沢グループ議員が鳩山氏の演説に騙されたとすればそれも滑稽なことですが、「確認書」そのものが不純な動機で書かれているのですから騙されても仕方がないでしょう。

「確認書」の第1項は「民主党を壊さない」、第2項は「自民党政権に逆戻りさせない」でした。最も大切な「大震災の復興ならびに被災者の救済に責任をもつ」という確認事項は第3項目に書かれています。不信任案が可決されれば造反した議員は民主党から除籍され、民主党が壊れます。除籍された小沢グループや鳩山グループの一部は新党を結成することになりますが、その新党で政党交付金を得られないまま総選挙を戦うことになります。菅総理が新党候補に刺客候補を立てれば、新党候補はことごとく討ち死にです。選挙基盤の弱い小沢チルドレンは消えてなくなります。もちろん残存の菅民主党も惨敗でしょうから、自民党政権に逆戻りです。

それが怖いから、小沢グループは鳩山氏の「確認書」に飛びつき、不信任案否決に急旋回しました。自分の議席が一番大切な小沢グループの議員には「大震災の復興と被災者の救済」をうたった第3項目など眼中になかったのではないでしょうか。「早期退陣」という菅総理の言葉さえあれば議員にしてくれた小沢氏への義理は立つ、好んで議席を失うことはないのですから。

菅総理は案外したたかです。代議士会での発言を詳細に読むと菅総理は確認事項の「確認書」に書かれた順番とは逆に第3項目の「復興と救済」を第1項目に置きました。その上で「大震災に取り組むことが一定のメドがついた段階で、私がやるべき一定の役割が果たせた段階で、若い世代の皆さんに色々な責任を引き継いでいただきたい」と言っています。一定のメドが鳩山氏の言うような「第2次補正予算案の早期編成にメドがつく6月中」などとは言っていません。

内閣不信任案の提出は、1国会に1度という慣行があるそうです。今回の否決で菅総理は辞任の危機を見事に乗り切ったことになります。しかし騙された民主党の反乱軍は再び怒りを煮えたぎらせるはずです。この内部抗争は、民主党が壊れる、つまり親小沢、反小沢が分裂するまで続かざるを得ません。小生はかねてから政策や政治思想を基軸して民主党が2つに分裂することが望ましいと考えています。

しかし今は大震災の直後です。早く復興復旧のメドをたてる必要があります。その後なるべく早い時期に小沢、鳩菅という民主党の旧世代が総退陣し、怨念なき若い世代が政策基軸に従って自民党(この党も総理経験者や派閥の長などの旧世代の引退が必要ですが)の若い世代などとも連合して政権を担うようになればいいと思うのですが。どうでしょうか。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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