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大西良雄ニュースの背後を読む

2011年5月

2011年5月27日 12:30

菅総理と孫社長の「太陽光発電シフト」構想を斬る

2011年5月27日筆

菅総理は、フランスのドービルで開かれた先進8カ国首脳会議(サミット)に先立つOECDの国際会議で従来の原子力と化石燃料のほか自然エネルギーと省エネを加えた4本柱をエネルギー政策の中核に据える」(朝日新聞5月26日)と演説したそうです。

省エネの徹底で日本経済をさらに「軽薄短小」にすることには大賛成
さすがに菅総理はリアリスト(現実主義者)でした。福島原発事故以来の反原発のムードに乗って元気が出てきた福島瑞穂社民党党首にも遠慮せず、「原子力発電は段階的に廃止する」とは言いませんでした。温室効果ガスの25%削減を金科玉条とした鳩山由紀夫前総理にも気遣わず、「化石燃料発電を抑制する」とも言いませんでした。原子力、化石燃料なしには経済(生活)が成り立たないという日本の厳しい現実を直視しバランスの取れた演説を行った菅総理に拍手を送りたいと思います。

そのうえで菅総理は再生可能な自然エネルギーと省エネルギーを新たな政策の柱に加えました。省エネルギーは大賛成です。オイルショックの後、電子産業を筆頭にエネルギー消費の少ない「軽薄短小」の産業が急拡大しました。今後も省エネルギーをテコに金融サービス、高度情報サービス、高度教育・研究サービス、コンテンツ・文化ソフト・観光産業、高品質の医療・介護サービス産業などエネルギー消費の少ない産業・企業を排出させなければなりません。産業構造転換によって経済成長を妨げる電力不足などのエネルギー制約を小さくする努力が求められます。

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もう一つ菅総理は、「自然エネルギーを社会の基幹エネルギーに高める」と言っています。菅演説では、将来の原子力や火力発電の割合をどうするのか判然としませんが、自然エネルギーに関しては「2020年代のできるだけ早い時期にその割合を20%にする」とはっきりしています。上表をご覧下さい。白紙還元した前のエネルギー基本計画では2030年の自然エネルギーの割合は20%ですから菅演説ではこの達成年度を7~8年前倒ししたことになります。

ただ菅演説では太陽光、風力、地熱、バイオマス(生物資源)などの再生可能な自然エネルギーのうち何が政策の主役になるのかはっきりしません。菅総理は太陽光発電にだけ具体的に言及(上表)していますので、太陽光発電に重きを置いていることは間違いありません。

孫正義社長の太陽光発電所(メガソーラー)は本当に採算に合うのか
その主役と目される太陽光発電ですが、下表に見るように太陽光発電の1kw当たり建設コストは地熱、原子力に次いで高く、発電コストはすべてのエネルギー源の中で最も高いというのが現状です。なお地熱の建設コストは既設発電所平均の1kw当たり50万円を1ドル80円で換算した推計値です。

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ソフトバンクの孫正義社長は、震災義援金として100億円提供しただけでなく脱原発の切り札として太陽光発電所(メガソーラー)の建設を地方自治体に提案しました。勇気ある決断ですが、このメガソーラー事業が政府や地方自治体の補助金(税金投入)なしに成り立つかは、小生、大いに不安です。

まず孫社長のメガソーラーは、20メガワット(2万kw)の設備容量1基の建設費が80億円になると言っていますから、建設コストは1kwあたり40万円(5000ドル)になります。米エネルギー情報局調べの建設コスト(上表)とほぼ一致します。しかしこの水準は、今後ライバルになると思われる天然ガス発電所の建設コストの5倍近い高さです。

それだけではありません。太陽光の発電コストは火力発電の6倍前後にもなります。前回の本コラムで紹介した環境省の「再生可能エネルギーの導入ポテンシャル」によると耕作放棄地や休耕田に建設されるような非住宅太陽光発電所(メガソーラー)は、自然エネルギーの全量買い取り制度(3月に閣議決定、法案未成立)での最高買い取り価格48円でも採算が取れないため「導入可能量はゼロ」と評価されています。

孫社長の心意気が伝わり地方自治体や農業委員会、地主が休耕田や耕作放棄地の農地転用を許したとしても、メガソーラーの採算性は極めて厳しいといわざるを得ません。まさか市場主義者の孫さんが、政府の補助金の増額や買い取り価格の引き上げ、つまり政府の援助を当てにしてメガソーラー建設を地方自治体に持ち掛けたのではないでしょうね。

小生は、電力会社が送電線網を分離し、孫社長のような新しい電気事業者にも送電網を開放することには賛成です。この送電網の開放で新旧の電気事業者の間に競争が起こり電力料金を引き下げるきっかけになるかもしれません。しかし、送電網を開放したところで太陽光発電が天然ガスに比べ発電コストが極めて高いことに変わりはありません。

太陽光発電の発電コストを6分の1に引き下げる技術的可能性を問う
太陽光発電の発電コストを引き下げなければ「2020年代のできるだけ早い時期に自然エネルギーを20%にする」という菅総理の構想は絵に書いた餅になります。その太陽光の発電コストに関して菅総理は「20年に現在の3分の1に、30年に6分の1に低減する」と宣言しました。発電コストを引き下げる技術開発が急進展すると読んでなのでしょうか、

大丈夫でしょうか。太陽光発電のコストを引き下げるには、(1)太陽光を電気エネルギーに変える変換効率を高める、(2)変換に使われる半導体材料のコストを引き下げるという技術革新が必要です。現在太陽光発電の9割を占める結晶シリコンを用いた太陽電池の太陽光変換効率は最大16%程度です。100の太陽光エネルギーがあるとすればそのうちの16しか電気に変えられないのが現状です。しかも結晶シリコンの原料代、製造コストはきわめて高いのです。

単結晶型シリコンの理論上の最大変換効率は30%です。これを技術革新によって引き上げることに成功し変換効率が2分の1になれば発電コストは49円から24円前後に下がる計算になります。そうなればパネルを敷き詰める土地の面積も半分で済むわけですが、はたして理論上の変換効率を実現するのに何年掛かるのでしょうか、菅演説ではまったく分かりません。

結晶シリコンの使用量を抑え材料コストを引き下げたのが薄膜型太陽電池ですが、変換効率が最大12%で単結晶がより低くなります。ほかにもシリコンを用いない安価な金属化合物系の太陽電池などもありますが変換効率は高まらないようです。さらに量子系など理論上の太陽光変換効率が60%に達する太陽電池技術もあるそうですが、その実用化、商業化の時期はやはり不明です。

菅総理は東工大出身の科学技術に強い総理ですので、太陽光発電の発電コストが3分の1、6分の1に下がり天然ガス発電並みになるという技術上のロードマップ(工程表)を示していただければ幸いです。

改めていいますが、原子力に代わって基幹エネルギーになりうるのは天然ガス発電だと思います。アメリカではシェールガスが採掘可能になり天然ガスの埋蔵量が急拡大し価格も下がっているようです。アメリカ政府はシェールガスの輸出を禁止していますが韓国などアメリカと自由貿易協定を結んだ国には輸出すると言っています。アメリカから輸入できれば天然ガス発電のコストはさらに下がります。さらに最新のLNG(液化天然ガス)火力発電所のCO2排出量は最も多い石炭火力発電所の46%程度と極めて低くなっているというではありませんか。

自然エネルギーへのシフトを否定するものではありません。しかし、高い建設コストや発電コストから生じる補助金負担や電力料金の高騰(いずれも国民負担)、必要とされる広大な敷地面積を考えると、太陽光発電などは技術進歩に歩調をあわせ徐々に導入すべきでしょう。当面は、天然ガスを基幹エネルギーとするのが賢明ではないでしょうか。

2011年5月20日 12:01

「夢の風力発電」、再生可能エネルギーは主電源たりうるか

2011年5月20日筆

福島第一原発のメルトダウン(炉心溶融)による放射能放出事故の発生によって、最も安いとされた原子力発電の発電コスト(下表参照。政府は電源別発電コストの改定を急ぐべきです)は汚染に伴う損害賠償費用や事故原子炉の冷却安定化費用、廃炉費用を含めると今やほとんど無限大になったと思われます。

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いまや原子力発電の経済性(安さ)やCO2排出ゼロの環境貢献度などを言い募る小生のような輩は戦前の言葉を使えば「非国民」「国賊」扱いです。小生もいま日本人を支配している反原発の異様な「空気」は大いに気になりますが、事故発生によって原発の発電コストが無限大になった現在、経済性の面から言っても原発推進は困難になりました。少なくとも原子炉の増設は無理ですね。

これからの主電源は再生可能エネルギー発電なのか、火力発電なのか
早速、菅総理は、昨年6月に鳩山前総理の政権が決めた「エネルギー基本計画」を白紙とすると表明しました。この計画では、2030年には原子炉を14基以上増やし、ゼロ・エミッション(CO2排出ゼロ)電源の比率を70%以上(原子力50%、再生可能エネルギー20%)としていました。原子力を主電源とする基本計画を放棄するというわけです。ついでに鳩山前総理は熱心に主張するCO2の「25%削減」政策も放棄するのでしょうね。

では菅総理がどのような新しいエネルギー計画を打ち出すかですが、まだ判然としません。演説等から推測すると、太陽光、風力など再生可能エネルギーによる発電比率を高め、原子力発電の比率を引き下げる計画になるとおもわれます。よく分からないのは再生可能エネルギーを主電源とするのか、火力発電を主電源とするのか、という点です。

再生可能エネルギーの出力は「お天気次第」で極めて不安定、発電コストも高く、主電源とするにはさすがの菅総理も躊躇するものがあるのでしょう。

環境省は風力発電をご推薦のようだが、環境破壊や健康被害は大丈夫か
その菅総理が喜びそうなデータが環境省から提出されました。「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」です。この調査によると、11年3月に閣議決定された「再生可能エネルギー電気調達に関する特別措置法案(FTI法案)」によって想定された価格(太陽光発電は1kw当たり48円、風力発電、地熱発電などは最大20円)で買い取られるとした場合、風力発電だけで日本の全発電能力約2億kwの7割(約1.4億kw)が賄えるという計算になります。下表の「FTI対応シナリオ」も最大値1.4億kwです。

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この環境省の試算について朝日新聞(4月22日付)は、自然エネルギーのうち「風力発電を普及できる余地が最も大きく、低い稼働率を考慮しても、最大で原発40基分の発電量が見込める結果となった」と紹介しています。ちなみに、買い取り価格が同じ最大20円でも、「技術革新が進み設備コストなどが大幅に縮減される」という技術革新シナリオ(上表左欄)に従うと、風力発電の能力は現在の全発電能力の2倍に拡大します。夢のような話ですね。

風力発電だけで日本の必要電力量の2倍を賄えるのなら、原子力発電も火力発電もいらないと安心する人もいるかもしれません。それはちょっと早計です。同じ朝日新聞(5月13日朝刊)の投稿欄「声」で「無職73歳」氏は「試算には土地利用や技術上の制約を条件に加えたというが、環境破壊や健康被害への配慮、言及が見当たらない」として「このまま巨大な3枚羽根の風車が各地に林立して公害列島になっては取り返しがつかない」と指摘しています。

確かに風力発電の建設によって動植物の生息環境破壊、野鳥の衝突死、景観への影響が起きるだけでなく、騒音と低周波音による睡眠障害、頭痛、耳鳴り、パニック症状などの健康被害が心配されています。広大な綿花畑に吹き渡る強い風を利用して風力発電を盛んに行っているアメリカのテキサス州ではそんな被害は発生しないでしょうが、狭い不安定な「風況」の日本列島ではこのような公害が多発しかねません。

原子炉54基を風力発電に置き換えるには香川県10個分の敷地が必要
『グリーン・ニューディール』(NHK出版生活人新書)によると、坂本龍馬が土佐から脱藩する際の道中として知られる高知県檮原町は、風力発電2基(建設費2.6億円)を導入して村起こし成功した町としても有名です。その2基は標高1300メートルの山頂に立っていますので公害はありません。気をよくした町はさらに5基の増設を計画したそうですが、風車を建設するための道路整備費用、風車から送電線までの接続費用が風車設置費用に大きく上乗せされ、現状の買い取り価格では到底採算に合わず、増設計画を断念したそうです。

下表を見てください。このデータは浜岡原発の全面停止前から中部電力のホームページに掲載されていたものです。原発1基の設備容量を100万KWとした場合、これと同じだけの発電量を生み出すために必要とされる太陽光発電や風力発電の設置基数と敷地面積を示したものです。風力発電では原子炉1基分の発電量を生み出すには約4000基の風車と約246平方キロメートの敷地面積が必要となります。

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かりに原子炉1基100万キロワットとして今日本にある原子炉54基分すべてを風力発電に置き換えるとすれば、246平方キロの5倍、1万9000平方kmの敷地面積が必要になります。日本で一番面積が小さい県は香川県(1879平方キロ)ですが、原子炉54基を置き換えるに必要な風力発電の敷地面積は香川県10個分になります。現在20%と想定されている低い稼働率(表の設備利用率)が、技術革新によって2倍の40%に上昇しても香川県5個分の敷地面積です。

気が遠くなる数字ですが、「週刊ポスト」(5月20日号)に掲載された「『自然エネルギー』の不都合な真実」という記事でも同様の指摘をしています。同誌によれば、朝日新聞が言うように原発40基分を風力発電で賄うとすれば「北海道の稚内から鹿児島の指宿を結ぶJR線(片道距離約3000キロ)を風車が1往復する計算になる」と指摘しています。最近は小沢一郎氏擁護が目に余りほとんど買わなくなった「週刊ポスト」ですが、この号はすぐ買いました。

太陽光発電は発電コストが49円と風力発電の4倍(発電コストの表参照)にもなり、48円の買い取り価格では発電所のような非住宅系では導入不可能(導入ポテンシャルの表参照)という数字が出ています。しかし目一杯、設置補助金を積み、さらに買い取り価格を引き上げるなどして太陽光発電の導入を進めたとして、原発54基分の電力を生み出すに必要な敷地面積は3600平方km(香川県1876平方kmの2個分に匹敵)になります。

日本の耕作放棄地の総面積は4000平方キロ(埼玉県1県分の面積)にもなります。膨大な補助金支出(税負担)と発電コスト増に対応する電力料金の大幅な引き上げを甘受するなら、耕作放棄地に太陽光パネルを敷き詰め原発54基に代替することは出来ます。

しかし、今でも世界で最も高い電力料金なのです。風力にせよ太陽光にせよ、再生可能エネルギーを主電源にすることによって、新たな税負担と料金値上げが必要になります。日本の産業は国際競争力を保持していくためにも天然ガスを中心とする火力発電を当面の主電源とするのが妥当ではないでしょうか。

2011年5月13日 09:23

浜岡原発の停止が電力危機を全国化する

2011年5月13日筆

菅総理は、発生確率が高い東海地震の津波対策が不十分だとして中部電力の浜岡原発の全面運転停止を要請しました。中部電力もこの要請を受けて定期検査中の1基、稼働中の2基の運転中止を決め実施しました。

反原発主義者はこの決定に快哉したでしょうが、その一方で浜岡原発の全面運転中止が電力不足問題を一気に全国化させることになったという事実を見逃すわけには行きません。電力不足問題は福島第一原発で大事故を起こした東京電力管轄地域に止まらなくなったのです。

東京電力も中部電力も電力不足、原発依存の関西電力が救うという皮肉
浜岡原発の運転中止によって中部電力の発電余力が失われました。その結果、福島原発の原子炉10基がすべて停止し夏場の電力不足が深刻化している東京電力への電力融通が不可能になりました。これによって電力会社間の電力融通関係が大きく崩れ、全国的な電力不足問題が引き起こされる懸念があります。

中部電力から電力融通を受けることが出来なくなった東京電力は、代わりに発電余力があるとされる関西電力から融通を受ける意向を示しています。浜岡を停止した中部電力も夏場は電力不足に陥り関西電力から電力融通を受けざるを得ません。九州電力も現在は関西電力から電力融通を受けているそうです。

そうなると福島と浜岡の2つの原発停止が引き起こした電力不足問題は最も原子力発電比率の高い関西電力からの電力融通によって救われるということになります。関西電力の発電総量に占める原発比率は53.6%と9電力中でも最高、中部電力は12.3%と最低です(下表参照)。電力融通によって「死せる原発」を抱える東電、中部電力を「生きる原発」を持つ関電が救うという皮肉な構図がここにあります。

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皮肉な構図であれ、とにもかくにも電力融通が実施されればそれに越したことはありません。しかしその融通の構図さえ実現不可能になる可能性があるのです。原発を抱える市町村など地方自治体では福島原発の事故に続く浜岡原発の運転休止によって反原発の機運が一気に高まり、原発が相次いで運転停止に追い込まれる可能性が強くなったからです。

反原発が勢いづき定期検査済みの原子炉すら運転再開が認められなくなる
下表をご覧下さい。現在、「震災で運転停止(運転中の浜岡2基の停止を含む)」している原子炉が13基、「定期検査で運転停止中(運転停止となった定期検査見中の浜岡1基を含む)」が21基あります。いずれも運転再開するには現地の地方自治体の承諾(最終的には県知事の承諾)が必要ですが、今のところ承諾が得られる保証はほとんどありません。

さらに「運転中」の22基のうち今夏までに6基が定期検査に入り休止する予定です。原子炉は電気事業法によって「運転開始から1年プラス・マイナス1ヶ月を超えない時期(11ヶ月~13ヶ月)に定期検査に入る」ことが義務付けられています。今夏までに運転後13ヶ月が過ぎ定期検査に入り休止する予定の原子炉は6基あります。もし地元の反対で定期検査で停止中の原子炉の運転が再開されなければ、電力需要がピークに差し掛かる夏場には全54基の8割、40基が運転停止となります。

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関西電力には発電余力があるとされていますが、11基の原発のうち定期検査で停止中が4基、夏場までに定期検査に入る予定が3基となっています。福井県知事は関西電力の定期検査済み原子炉の運転再開を渋っており、合わせて全11基中7基が運転停止に追い込まれかねない状態なのです。そうなると関電といえども足元に電力不足が忍び寄り、とても東電や中部電力、九州電力に電力を融通する余裕などなくなる恐れがあります。

定期検査済み原子炉については原発交付金が頂ける原発立地の市町村は運転再開を承諾するかもしれません。しかし周辺の自治体には原発立地交付金がもらえず放射能汚染の脅威だけが襲いかかってきます。福島第一原発の例を見ているとおそらく周辺の自治体は運転再開に難色を示し続ける懸念があります。政府と県は再開に反対する周辺自治体を説得して運転再開に無事こぎつけることができるでしょうか。むずかしいでしょうね。

説得できなければ、日本の原子力発電所は来年4月にはすべて停止することになります。運転再開がもっとも遅かったのは、新潟県中越沖地震で停止していた東京電力新潟刈羽原発の6号機です。運転再開は3月9日でしたから6号機は遅くとも来年4月には定期検査に入ります。地方自治体が反原発の勢いを恐れ定期検査済みの原子炉の運転再開を認めなければ刈羽6号機を最後にすべての原子炉が止まります。

そんなことはあり得ないと信じてはいますが、万が一そのような事態に陥れば2010年度の実績で言えば総発電量の29%に当たる年間2713億kwの原子力発電が失われることになります。

当面は火力発電シフトで乗り切る算段だが、燃料費が膨らみ赤字転落は必至
原発がなくなればそれに代わる電源の開発が行われるはずだというご意見の方もいらっしゃるかと思いますが、太陽光、風力、地熱、バイオマスなど再生可能エネルギーがいま直ちに、ここ1年のうちに代役が務まるとは思えません。当面は重油や天然ガスをエネルギー源とする火力発電の再強化しかありませんが、その場合、重油や天然ガスなどの燃料費が急増します。

下表は、火力発電比率の高い中部電力と原子力発電比率の高い関西電力の燃料費を比較したものです(出所「11年3月期決算短信」)。火力依存の中部電力の燃料費と対売上高燃料費比率はいずれも、原発依存の関西電力に比べ二倍の高さです。火力発電へのシフトは高くつくのです。

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中部電力は浜岡原発の運転停止による火力発電の増強で燃料費が2500億円増加するといっています。今期予定していた営業利益は1300億円でしたからこのままでは燃料費増で一気に赤字に転落しそうです。東京電力は福島原発の停止による火力転換の燃料費増加は1兆円になるといっています。原発事故の補償費用はさて置き、東京電力の営業利益は3200億円前後ですから燃料費増加だけで赤字転落必死です。

原油・天然ガス価格は日本の火力転換でさらに上がる可能性があります。上表の原油影響額は原油価格が想定油価から1バレル1ドル上昇、下落したとき影響額です。電力会社は、原油購入量の増加と価格上昇のダブルパンチを受けることとなります。

原発は厭だ、だから当面は火力発電となるのですが、燃料費増による赤字を補う電力料金の値上げも消費者が嫌がります。環境主義者は火力増強によるCO2排出も厭なのです。原子炉の運転再開を住民と地方自治体が拒めば、電力値上げの手段を奪われる電力会社は赤字を垂れ流すしかありません。

そうなると電力会社はいずれ倒産、電力の国営化が話題になりますが、国有化しても燃料費が下がるわけなく、国営電力も赤字垂れ流しですよ。その赤字は電力料金値上げではなく税金で穴埋めするのでしょうか。また赤字国債の発行ですか。

2011年5月 6日 10:31

日本ブランドは本当に傷ついたのか

2011年5月6日筆
 
連休の谷間の5月2日、日経平均株価は終値ベースで1万4円と1万円の大台を回復しました。震災4日後の3月15日には一時8227円まで暴落(11日終値比21%安)、肝を冷やしたことを思い起こすと、その後の株価の回復振りには目を見張るものがあり、小生の想定を大きく上回るものでした。

1.7兆円もの買い越し、予想外の株価回復を先導した外国人投資家
大正12年の関東大震災では株価が震災前まで戻るのに約2年掛かっています。平成7年の阪神淡路大震災では11ヵ月後に震災前株価を回復しました。今回の東日本大震災では地震が発生した3月11日の終値が1万254円でしたから、まだ震災前の株価を回復したわけではありません。しかし震災後50日余で震災時の下げ幅の88%を回復しました。もちろん一本調子で上げ続けることはあり得ませんが、兜町では阪神淡路大震災時より早く震災前株価を回復するのではないかという期待が高まっています。

この予想外の株価回復を先導したのは外国人投資家でした。震災直後から4月22までの間に外国人投資家は日本株を1兆7000億円も買い越しています。この間、投資の神様といわれるウォーレン・バフェット氏や米の有力投資雑誌「バロンズ」もわざわざ日本株を推奨してくれました。兜町と日本企業は外国人投資家から大変な額の温かい義援金を頂戴したことになります。

回復が著しかった平均株価指数は、東証一部全銘柄が対象のTOPIXではなく、日本を代表する225銘柄によって構成される日経平均株価のほうでした。この日経平均採用の225銘柄は東証一部上場の日本を代表する企業群です。国際的には「日本ブランド」を体現する銘柄群といってよいでしょう。外国人投資家は大震災で大きく揺らいだ「日本ブランド」の回復を信じて買い支えてくれたのです。

「日本ブランド」の価値を大きく傷つけた東京電力とソニー
「ブランド」とは、消費者の中に形成された企業(あるいは企業が提供する財やサービス)に対するイメージの総体だそうです。海外の消費者に根付いている「日本ブランド」とは、安全安心、簡素、清潔、コンパクト、ハイテク、高品質、故障なしというイメージの総体でしょう。

大地震によって引き起こされた東京電力福島第一原発の放射能汚染事故は、「日本ブランド」が持つこのようなイメージの総体を大きく傷つけてしまいました。日本の原子力発電の安全制御技術は、この事故によって世界でも最高レベルにあるとする「信頼」を一気に失ってしまいました。安全安心、ハイテク、故障なしの「日本ブランド」が崩れただけではなく、「高い安全技術を持つ日本ですら事故を起こしたのだから」ということで世界各国の原発新増設プロジェクトが見直しを迫られるという深刻な影響を与えてしまいました。当事者の日本では、将来の電力の中核に原発を置くとするエネルギー政策の抜本修正を余儀なくされることになります。

風評被害は原発事故が終息に向えばいずれ収まるでしょが、安全安心、清潔、高品質という「日本ブランド」の評判を取り戻すのには時間が掛かるかもしれません。日本ブランドが危機に直面しているそんな時に、日本から生まれた最初の「世界ブランド」ソニーが、「日本ブランド」をさらに失墜させる事件を起こしてしまいました。ソニーのネットワークサービス網がハッカーに襲われクレジットカード情報を含む約1億件もの個人情報が流出してしまったのです。

ソニーは、震災発生1ヵ月後にもならない時期にハッカーというネット社会の卑劣な鬼子に狙い撃ちされたことになります。安全安心の日本ブランドがハッカーに意図的に打ち落とされたことは腹立たしい限りです。しかし、収益力の高いネットビジネスへの展開を急ぐあまり、ソニーは個人情報の流出を防ぐ適切なセキュリティ対策を怠ったというユーザーからの批判にも一理あります。

あるコンサルティング会社の「ブランド価値評価ランキング」によると日本生まれの「世界ブランド」トップ3はトヨタ、ホンダ、ソニーです。トヨタは09年から10年に掛けてアクセルペダルの不具合に伴う大規模なリコール事件を引き起こし「安全、故障なし」のブランド価値に大きな傷を付けてしまいました。今度はソニーです。トップ3のうち2社まで「日本ブランド」の価値を落としてしまったことになります。

トヨタ、東京電力、ソニーと続いた「日本ブランド」の失墜にもかかわらず外国人投資家は日本株を買ったのです。その結果、東証1部上場の銘柄の3割にあたる478銘柄が3月11日震災当日の終値を上回った(日経新聞5月3日朝刊)と報じられています。もちろんトヨタ、ホンダ、ソニーのトップ3は震災当日の終値をいまでも大きく下回っています。外国人は何を買ったのでしょうか。

太陽光発電、LED照明、蓄電池などポスト原発をリードする企業が群生
震災当日の終値を上回った日経平均採用銘柄のトップ3は昭和シェル石油、コマツ、日揮ですが、このほかに電子部品の京セラ、村田製作所、イビデン、シリコンウェハの信越化学、SUMCO、工作機械のファナック、途上国向け自動車のスズキ、ヤマハ発動機(日経平均採用外)などが震災当日の終値を上回っています。

 多士済々ですね。信越化学を除いて震災の直接的被害を受けなかったこと、東北での部品供給網(サプライチェーン)途絶の影響をあまり受けなかったこと、好業績が持続することなどが外国人に買われた理由ですが、つぶさに観察すれば、震災後の日本経済をリードする産業の姿が明らかになります。

震災後も日本産業を牽引するのは、シリコンウェハや電子部品などすべての工業製品に必須な基礎素材やハイテク部品の産業群、建機や工作機械、産業用ロボットに代表されるコンピュータやネットワークを組み込んだ機械・装置産業であることは株価を見ればわかります。同じ自動車産業でもインドに地盤を築いたスズキ、インドネシアで成長しているヤマハ発動機など途上国に強い企業の株価評価が高いのも特徴的です。

それだけではありません。外国人投資家は日本から原子力発電に代替する新しい産業、例えば太陽光発電の担い手が成長し新しい「日本ブランド」になる予感を持っているように思えます。彼らが買い上げた昭和シェル、京セラは太陽光発電用パネルの生産拡大を急いでいますし、信越化学とSUMCOは半導体基板材料だけではなく太陽光パネル用の材料にもなるシリコンウェハで大きな世界シェアを獲得する潜在力を持っています。

太陽光パネルなどの製造装置ではエヌピーシー、フェローテック、アルバック、石井表記などといった聞き慣れない中堅、新興企業が震災後株価を跳ね上げました。彼らは海外の投資家のほうがその実力をよく認知しているようです。

外国人が発掘してくれた「日本ブランド」の新しい担い手企業
震災後に株価を跳ね上げ、震災前の株価を大きく上回った銘柄を調べていて驚くのは、福島原発事故を契機に本格的に立ち上がるだろう新しい企業が日本には群生しているという事実です。今回は詳細には触れませんが、省電力の切り札になるLED(発光ダイオード)照明、電気自動車に欠かせないリチウムイオン電池、産業用の大型蓄電池、効率的で賢い送電網(スマートグリッド)と超電導ケーブルなどポスト原発を牽引する製品と技術を持つ企業が日本に大から小まで本当にたくさん存在するという事実に驚かされます。これらの企業が震災後に株価を大きく跳ね上げているのです。

トヨタ、ホンダ、ソニーといった「日本ブランド」の代表選手が今はかすんでいますが、いずれ彼らも評判を取り戻すでしょう。地味かもしれませんが次の「日本ブランド」を担う日本企業も群生しています。震災で自信を失い「日本ブランド」の投げ売りに走った日本の投資家に代わって外国人投資家が「日本ブランド」の新しい担い手の所在を明らかにしたと思います。

今回の大震災は、日本の国会議員や官僚という「統治者」(The Ruler)は愚かだが、震災の被災者やその支援者、震災からの復活を担う企業という「被統治者」(The Ruled)は世界が驚嘆するほど優れていることを改めて明らかにしました。外国人投資家は震災からの再生はこの優れた「被統治者」が必ずや実現するに違いないと見抜き、日本株を買い支え、新しい日本ブランドの担い手を発掘してくれたのではないでしょうか。

 

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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