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大西良雄ニュースの背後を読む

2011年4月

2011年4月22日 12:10

「徳」なき政治家たちの「呆れ果てた政争」

2011年4月22日筆

権力亡者の政治家どもも震災直後はさすがにはおとなしくしていました。小生、大震災は不幸な事態でしたが、この未曾有の国難が「小異を捨て大同につく」という精神を盛り上げ、強固な与野党協力政権(連立でなくても結構)を生み出す契機になるとひそかに期待していました。

「自粛」を捨て一番早く倒閣運動に走ったのは身内の小鳩グループだった
それは浅はかな期待でした。震災後1ヶ月経つか経たないうちに権力亡者たちは本性をむき出しにして、「自粛は捨てた」とばかりに倒閣運動を始める始末です。腹立たしいのはその倒閣運動の先頭を切っているのが政権与党の民主党内部、いつもの小沢元代表と鳩山元総理の小鳩グループだということです。

朝日新聞の投書欄の中のコラム「かたえくぼ」(4月22日朝刊)にこんな揶揄がありました。
『足の引っ張り合い』 日常の生活に戻った ――民主党  
その横の「朝日川柳」には、こんな句もありました。
もめている場合じゃないともめている(4月20日朝刊)
言いえて妙、その通りですね。政治家はもめることが仕事なのです。
この議員選んだ者も無責任(4月22日朝刊)
めまぐるしい首相交代を繰り返す自公政権に呆れ返って、マニフェストも読まずに一時の感情に駆られて民主党議員に一票を投じたことを深く後悔している選挙民は少なくないのでしょうね。

しかしよく考えると、菅総理は、参議院で過半数を持たず、政権与党内に野党を上回る強力な倒閣勢力を抱えている総理です。しかも総理は最大のシンクタンクであり、政策実施の手足になる官僚機構を使えないのです。倒閣の先頭を切る小鳩民主党政権当時に敷かれた「政治(家)主導」の路線のせいです。

その菅総理政権に「リーダーシップがない」「決断が遅い」と批判しているのですから、呆れて物も言えません。小沢氏も鳩山氏も自分が政権の座にあれば大震災に際してリーダーシップを発揮できたとでも言うのでしょうか。身内に敵を抱え官僚にそっぽを向かれた厳しい政権状態で、貞観地震以来の、1000年に一度の巨大津波が三陸海岸と福島原発を襲ったのです。誰が総理であっても決断が遅れ、策が後手に回るのは必定でしょう。

「徳」なき政治家たちが治める日本国、これにすぐる不幸はない
とは言っても菅総理に問題がないわけでありません。大いに問題があります。残念なことですが、菅直人氏には「徳がない」、「総理の器にあらず」ということではないでしょうか。辞書や事典の受け売りですが、儒教では「徳」こそ治世者の統治原理とされるそうです。「徳」には仁、義、礼、智、信の五徳があります。治世者には、この五徳を備えた均整の取れた道徳的に卓越した人物が理想的だというそうです。

どうも漏れ伝わるところによると菅総理は、相手の立場を重んじる態度である「仁」がなく、人に敬意を表す「礼」に欠くようですね。だから谷垣自民党総裁も大連立に乗ってこないし、官僚組織も面従腹背なのです。自らの「智」を「信じられない」から外部から訳のわからない内閣参与や顧問(優秀な正統派の経済学者の姿はどこにも見当たりません)を引っ張り込んで不安を解消しているのではないでしょうか。自分が正しいという「義」だけはお持ちのようですが...。これでは人はついてきません。

かといって小沢氏や鳩山氏に「五徳」が備わっているようには到底思えません。四面楚歌の菅総理を身内が罵るのは、「仁」も「義」も「礼」も欠きます。汚い言葉で申し訳ありませんが、彼らは国民から言わせれば「目糞鼻糞」の類なのです。しかしこの未曾有の国家危難のときに、彼ら「目糞鼻糞」の政治家が政権を左右しているのです。では優柔不断な野党第一党の谷垣自民党総裁、政権奪取だけしか考えていない小賢しい石原伸晃幹事長はどうでしょうか。彼らにも「徳」は見受けられません。「徳」のない政治家ばかりで、日本はどうなるのでしょうか。

「国は」「国として」、どうしてくれるというが、誰がその金を払うのか
国民は怒っていますが、その国民も事の本質がよく理解できていないようです。国民から、「国は地震の被災者、福島原発事故の避難民をどのように救うのか」、「国として復興のために何が出来るのか」と「国は」「国として」という言葉のオンパレードです。しかしよく考えてください。「国」とは突き詰めれば納税者(あるいは電気料金の負担者)である国民自身なのです。

国民は、被災者や避難者のための救済資金、復興資金はどこかから沸いて出てくると思っているフシがあります。「国」とは政治家と官僚で構成される中央政府を指しますが、彼らが救済資金や復興資金を国が拠出するわけではありません。中央官僚が自らの人件費を5%削っても国会議員が自らの報酬、政党交付金を削っても(削るべきだと思います。小沢一郎氏も政党交付金を含め溜め込んだ政治資金を地元岩手県のためにすべて拠出すべきです)、救済資金や復興資金には到底間に合いません。

30兆円、40兆円と膨らむ救済・復興資金を拠出するのは、納税者と電気料金負担者、つまり国民自身です。政治家は国民から税金を預かって救済資金や復興資金の割り振りを決めるだけです。「国は」、「国として」といって政治家の尻を叩けば叩くほど国民の負担が増えることになります。

「復興計画も出来ないうちに救済・復興資金の財源を論じるのはナンセンスだ」と叫んでいる政治家もいますが、国民負担を覚悟してもらうためにも財源問題をあらかじめ提起しておく必要はあります。

震災からの当面の復帰を目指す4兆円の第一次補正予算の財源が既存予算の組み替えで捻出されたことは幸いでした。次の10兆円以上と予想される復興予算の財源は現在世代が増税という形で負担するのか、将来世代が国債増発という形で負担するのか、われわれ国民は政治家たちを監視しなければなりません。

小生は、物言わぬ、選挙権のない将来世代にこれ以上の財政上の負担を負わせることには断固反対です。われわれ現在世代が救済と復興費用を担うしかないと覚悟するべきでしょう。

2011年4月15日 13:46

茨城県日立市でのささやかな震災体験

2011年4月15日筆
 
3月11日、午後2時46分、小生は茨城県日立市の日立駅のホームにいました。駅近くの古いホテルで催された講演を終え帰京すべく2時56分発の「スーパーひたち」を待っていました。そこに大地震が襲ったのです。地震発生があと10分遅れ「スーパーひたち」に乗車していたらどうなっていただろうと背筋が寒くなる思いをしました。

後で知ったのですが日立市は震度6強でした。経験したことがない、長い大きな左右の揺れでした。改良工事中の駅ホームには電線ケーブルが垂れ下がり頭の上で激しく揺れていました。最初は高をくくっていた小生も、止まらぬ大きな揺れが恐ろしくなり、気が付いたらホームの屋根を支える鉄柱に蝉のようにしがみついていました。何も考えられない頭の中が真っ白な何分間かでした。

揺れがしばし静まった時、「ホームから出てください。駅舎の外で待機してください」という駅員の声が聞こえました。駅前のロータリーでは女子高生が座り込んでいましたが、余震で左右に揺らぐ地面に脅えて泣き出す娘もいました。客待ちのタクシーも左右に揺れていました。そのタクシーのカーラジオが「大地震の発生」を知らせてくれたのです。

常磐線は不通、いつ帰れる? 現地での宿探しにまずは奔走したが...
我に返って心配になったのは、地震で止まった電車がいつ動くのかです。駅舎は電気が消え真っ黒、誰もいません。駅員たちは駅舎の前で呆然とたたずんでいました。その駅員に聞くと、「線路を点検しなければ電車は動かせませんから、たぶん本日は運休になるでしょう」というではありませんか。常磐線は上野から日立を経て仙台まで繋がっています。その線路をすべて歩いて点検するのですから何日掛かるか分かりません。小生、いつ自宅に帰れるのでしょうか。

覚悟を決めました。まずは宿探しです。講演でお世話になったホテルなら泊めてもらえると思って駆けつけました。このホテルも真っ暗でした。玄関にいた支配人は「お泊めしたいのですが、水が出ません、電気もつきません。古いホテルですので設備が老朽化し危ない状態です。すみません」と申し訳なさそうでした。こうなると頼りは講演を主宰した茨城新聞日立支社です。ホテルの支配人は市内中心部にある日立支社まで車を出してくれました。

小生、茨城新聞日立支社には「今晩一晩でいいですからソファーにでも寝かせてください」とお願いしました。もちろん「ソファー宿泊」は承知してくれたのですが、支社では近くのビジネスホテルでの宿泊を勧めてくれました。支社員の案内で着いた11階建てのビジネスホテルもロビーは真っ暗でした。ここでも地震被災を理由に宿泊を断られたのですが、どのホテルに行っても事情は同じだと腹を決め「ロビーの片隅でいいですから泊めてください」といって了解を得ぬままそのビジネスホテルに居座ることにしたのです。

間断なく余震が襲います。ロビーは帰ってきた宿泊客で埋まってきました。宿泊客でもない小生がロビーの片隅を占めるのは心苦しい限りです。しかし、ここを追い出されれば寒い野宿しかありません。小生65歳(4月19日には66歳になります)、凍え死にしかねません。あつかましいのですが、小生、ロビーの立派なソファーに陣取り毛布の配布をいただいて居座り続けました。

宿泊者、飛び入り避難者も区別しなかった親切なビジネスホテルの支配人
ホテルの支配人は立派な人でした。ロビーにいる宿泊者、小生のような飛び入り避難者の区別なく、何くれと面倒を見てくれました。日が落ち、ローソクが灯った夕方、支配人は、宿泊者も飛び入りも一律3000円でお泊めしますといってくれました。ありがたいと感謝の気持ちで一杯になったのですが、人間(小生)、浅ましいものです。宿泊が決まると今度は食事の心配です。

それを察してか支配人は、「残り物ですが簡単な食事を用意します、7時頃に食堂においでください」といってくれたのです。

ロビーに近接した食堂はテレビがつかない薄暗い食堂でラジオからの声だけが聞こえていました。そこには学生と思われる10人ほどの先客がいました。彼らは、お互い話を交わすわけでもなく腕を組んでただ黙ってポツンと座り夕食を待っているようでした。支配人に聞くと、彼らは茨城大学の後期試験の受験者でした。互いを知ることのない受験者では話が通じません。彼らはひたすら試験はどうなるのか、不安だったでしょね。

夕食の献立は、冷めたご飯、焼いていないトーストが主食、おかずは味付け海苔、冷たい卵焼き、きんぴらごぼうでした。飲み物はペットボトルに入ったウーロン茶、ミネラルウォーターでした。翌日の朝食も同じ献立だったように記憶します。贅沢は言っておれません。コンビニに食料を買い出しに行った宿泊者は何も買えず手ぶらで帰ってきましたから。

食事を終えると支配人は宿泊の準備もしてくれました。余震で危ない上層階の部屋を除く、非常口から遠い部屋を除くという条件付きでシングルルームを開放してくれたのです。65歳以上の高年齢者には逃げ安い低層階の非常口に近い部屋が優先して割り振られることになりましたので、小生は2階の非常口から3つ目の安全なシングルルームを与えられました。小生は、ホテルから与えられた非常用の懐中電灯を枕元に置き、背広の上着とネクタイを取ったままの状態でベッドもぐり込み、余震に脅えながらですが一晩を過ごすことが出来ました。

翌朝、冷めた朝食ですがありがたい朝食をいただき、電車が動いているかどうか日立駅まで確かめに行こうとホテルの玄関を出ようとしたら、ホテルの支配人に出くわしました。彼は、「当分電車は動きませんよ。お急ぎならあのタクシーに相乗りして帰京されたらいかがですか」と玄関脇に今出発しようとしているタクシーを指差しました。間一髪、小生は今度も飛び入りでタクシーに滑り込みました。大渋滞に巻き込まれながら時速10キロ弱で国道6号線を走り実に朝8時から夜の8時まで12時間掛かって、常磐線が動いているという取手駅に到着しました。

常磐線が日立駅まで開通したのは確か震災の3週間後でしたから、ホテル支配人の機転がなければビジネスホテルでの避難生活は長く続いていたでしょうし、このブログも書けませんでした。支配人には感謝の言葉もありません。支配人の名前は聞きそびれましたが、ホテルは「ツーリストホテル日立」という名前です。落ち着いたらもう一度「ツーリストホテル日立」に伺い支配人にお礼を言いたいと思っています。

現代生活のすべての基礎は「電気・電力にあり」というのが実感です
さて、ささやかな震災体験でしたがいくつか気が付いたことがあります。一つは、携帯電話が役に立たないことです。家内に連絡が取れたのは公衆電話から固定電話への接続によるものでした。第二は、停電でテレビが役に立たず、電池で動く(あるいは手動で電気を起こす)ラジオが有用だということです。

もう一つは、やはり電気・電力のありがたさです。電気がなければ、お茶も沸かせません、ご飯も炊けません。地震に備えて食糧を備蓄しても煮炊きできなければ冷たい食事をいただくことになります。電気がつかなければ夜は真っ暗です。エアコンは付かず寒さに震えます。電車も動きません。職場も工場も動きません。上水道ポンプも動かせません。パソコンが使えず原稿が書けませんし、原稿も送れません。戦争も不能です。

ささやかな震災体験で小生、現代生活のすべての基礎は電気・電力にあると実感しました。その意味で福島第一原発の事故は、現代生活の基礎を揺るがす重大事故であると思います。

2011年4月 8日 10:29

東日本大震災(4) 震災と復旧で乏しくなる「国債引き受け余力」

2011年4月8日筆

復旧・復興のための約4兆円規模の第一次補正予算が政府・民主党で固まったようです。第一次補正予算が、瓦礫の撤去や仮設住宅の建設、道路、上下水道などの復旧を軸とするなど被災者の生活支援やライフラインの復旧に使われる緊急性の高い予算になります。

各省庁(官僚)による予算争奪と政治家の思惑が重なって予算規模が膨らんだ気配がありますが、それはさておき、4兆円補正の財源はまだ決まっていないようです。野田佳彦財務大臣は「国債増発に依存しない」と言っていますから第一次補正は予備費の活用や予算の組み替えで賄う方針だと思われます。この方針が貫けるのなら、官僚と政治家の思惑が絡んだ予算規模の膨張は被災地のために甘受しましょう。

第一次補正のための予算組み換えは、(1)民主党マニフェスト予算の削減と(2)基礎年金の二分の一国庫負担財源(2.5兆円)の活用が中軸になっているようです。このうちマニフェスト予算の削減には民主党内の小沢グループ周辺から「削減するなら内閣総辞職せよ」などという愚かな反対論がもう出ているようです。基礎年金の二分の一国庫負担は自公政権、とくに公明党が推進したという経緯があります。その財源の活用には公明党の反対が予想されます。

この国家緊急時にもかかわらず、またぞろ政治家どもが過去の選挙用の古証文にしがみついて予算組み替えに反対しそうです。結局、財源捻出は安易な国債増発に行き着くのでないかと恐れるばかりです。国債増発は、いま選挙権を持っている現在世代(現在の利益享受者)の打ち出の小槌ですからね。国債増発で現在世代の誰も傷つきませんが、前回述べたように子供や孫、曾孫などいま選挙権を持たない、反対を主張できない将来世代の大きな負担になります。

大震災発生によって、国債増発を許容する根拠が大きく変化が生じた
安易な国債増発論にくみしない理由は他にもあります。一部の政治家、論者の間では、日本経済にはまだまだ余力があり国債増発が国債暴落(長期金利の急騰)にはつながらないという意見が支配的なようですが、その根拠になっている前提が東日本大震災の発生で大きく変わろうとしています。そのことに気付くべきです。

これまで日本政府が世界最悪の長期債務残高を抱え込んでも国債暴落の憂き目を見なかった理由はそれなりにあったといえます。
 
まず平成5年(1993)度から平成23年(2011)度までの日本の中央政府の財政収支推移(下表)をご覧下さい。歳出は増え(民主党政権になってとくに増加)、税収はどんどん減っていますから、その差額の財政赤字は拡大しています。国債の利払い費は税収の25%にも達しています。

その穴を国債発行で埋めてきた結果、公債残高(赤字国債と建設国債の合計発行残高)は平成5年度に比べ3.5倍の668兆円に膨張しました。この新規国債に借換え債の発行を加えた毎年の国債発行総額は平成5年度の4.4倍、169兆円に達しています。

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中央、地方政府の長期債務残高が純個人金融資産1000兆円に急接近
この169兆円にも膨張した毎年の国債発行総額を吸収してきたのは、一つは個人貯蓄(個人金融資産)でした。借金分を除いた純粋の個人金融資産は1000兆円とされていますが、この受け皿は能力限界に近づいています。

中央政府の長期債務である公債残高は668兆円ですが、このほかに政府系機関の長期債務である財投債の発行残高が123兆円(平成22年9月末)、地方公共団体の長期債務残高が約200兆円あります。これを合わせると992兆円に達します。金融機関に預けられた個人金融資産1000兆円のうち992兆円がすでに中央、地方政府と政府系機関の借金原資となっている勘定になります。残りは8兆円しかありません。その個人貯蓄も老齢化の進展と今回の震災発生で取り崩しが一気に進むのではないでしょうか。

法人貯蓄も経常収支黒字の縮小と震災復興投資の活発化で減少に転じる
実は伸びが止まった個人貯蓄に代わって国債発行を吸収してきたのは、法人貯蓄の増加でした。現預金などの手元流動性の残高、つまり法人貯蓄は2000年頃から積み上げられ、2009年現在、中小・中堅企業で151兆円、大企業53兆円、あわせて204兆円に達すると前2回の本ブログで指摘しています。

この法人貯蓄の増加は2つの源泉がありました。一つは経常収支黒字の存在でした。これまで輸出入の差額(貿易・サービス収支黒字)や対外資産保有で生じた所得収支黒字、つまり経常収支黒字が法人貯蓄に積み上がり財政赤字(国債発行増)の一部をファイナンスしてきました。しかし、上表に見るように新規国債発行額は経常収支黒字を大きく上回ってきており、財政赤字を経常収支黒字でファイナンスするのは徐々に難しくなっています。

そのうえ、大震災によって発生した福島第一原発の深刻な放射能汚染事故は、原発という電力供給減の喪失をもたらし、それが日本企業の輸出生産力を奪うという事態が発生したのです。放射能汚染による日本ブランドの毀損も深刻で、輸出だけでなく観光など海外からのサービス収入の減少をもたらしそうです。その一方で原油の高騰や円安による輸入支払いの増加が始まっており、貿易・サービス収支は再び赤字に転落、所得収支の黒字を食って経常収支黒字は大きく減少するでしょう。大震災の発生によって、法人貯蓄増加の源泉だった経常収支黒字が枯れていく危険が膨らんでいるのです。

もう一つの法人貯蓄増加の源泉は、投資の不足にありました。日本の期待成長率が大きく低下したため、溜まっていく法人貯蓄が設備投資などに投じられてGDP(国内総生産)を引き上げていくメカニズムが壊れてしまいました。そのことがデフレの根因であることは本ブログでも幾度か書きましが、皮肉なことにそのデフレの根因である投資不足が法人貯蓄の増加をもたらし、財政赤字をファイナンス(国債発行の増加を吸収)していたのです。

しかし、幸か不幸か、大震災によって投資不足は一気に解消されることになりそうです。震災で瓦解した工場建屋や生産設備を再生するための設備投資が一気に膨れ上がるからです。本日4月8日の「日経新聞」朝刊は「大手7行が震災後企業から受けた融資や与信枠の要請額が「8兆円超す」と報じています。要請額の増加テンポはリーマンショック時を大きく上回るとも書いています。この銀行借り入れの急増は、将来、積み上がった法人貯蓄の取り崩しにつながるはずです。つまり、法人貯蓄の取り崩すによって国債引き受けは困難さを増すということになります。

国債を買いまくった金融機関のファンドマネージャーはこの事態をどう読む
日銀は震災以来、金融機関からの資産買い入れや低利融資の拡大などによって金融機関の対日銀当座預金残高を大きく膨らませ(3月末のマネタリーベースは約17%の急増)、銀行が民間の資金需要の急増に応えられる体制を整えています。したがって当面は政府が国債発行の増発で民間資金を奪うという、いわゆる「クラウディング・アウト」は発生しません。

しかし、震災の発生によって個人貯蓄の増加が止まり、近い将来、法人貯蓄の取り崩しが始まるという事態が早まったといえます。震災による大幅な税収見積もりの悪化も予想されます。しかも予算の組み替えに抵抗する政治家たちが、震災財源を安易に国債増発に求めようとしています。

こうした事態を、いまや140兆円を上回る資金を国債に投じている民間銀行のファンドマネージャーたちはどのように判断するのでしょうか。その他、日本国債に多額の資金を投入している「ゆうちょ銀行」、生命保険会社、年金基金のファンドマネージャーも同様です。一度彼らにその判断を聞いてみたいものです。

2011年4月 1日 09:33

東日本大震災(3)予算組み換えで復興財源9兆円が捻出可能

2011年4月1日筆

どさくさに紛れて東日本大震災からの復興のために「100兆円の無利子国債を発行せよ」という亀井静香国民新党代表のような大風呂敷をひろげたがる無節操な政治家がいますので、改めて前回の本欄で書いた東日本大震災からの復興費用と公的負担額の推計値を載せておきます。
 
この試算値は、内閣府が試算した震災の直接被害額(家屋や工場、道路、港湾、公共施設などインフラの被害)をベースに、阪神淡路大震災のケースを踏まえて算出したものです。阪神淡路の前例に従えば、復興費用は直接被害額の30%増になります。このうち70%を公的負担とすれば公的負担額は14.5兆円~22.8兆円になると推定されます。

0401(1)表.JPG
 
この直接被害額の中には民間企業の工場設備の損壊などの被害も含まれています。民間企業の設備復旧や操業停止に伴う費用などは第一義的には被災企業自身が負担すべきものです。民間企業が09年時点で保有する手元流動性(現預金)は204兆円に積み上がっており、それが復興財源になると前回のブログでは指摘しておきました。

この民間企業の負担額を差し引けば、公的負担額の14.5兆円~22.8兆円は多少圧縮できるかもしれませんが、それでも20兆円前後の震災復興費用を国民が負担することになると思われます。

復興費用はまず現在世代が負担、将来世代の負担増は避けるべきだ
この20兆円前後の復興財源をどのようにして調達するかが、今後大きな問題になると思います。復興財源を調達するためにいくつかの手段が候補に挙がっています。その主なものは第1に平成23年度予算の組み替え、第2に復興税の新設、第3に復興国債の新設です。

下表では、財源調達手段によってそれを負担する世代が異なることを示しています。大まかに言えば予算の組み替えと復興税の新設による財源捻出は現在世代の負担、復興国債の新設による財源捻出は将来世代の負担になります。

われわれの子供や孫という将来世代はすでに892兆円(2011年度末の国と地方の長期債務残高)を背負っています。祖父母、両親などの現在世代が放蕩の末に積み上げた膨大な借財を、借財にまったく責任のない将来世代が背負わされているようなものです。その将来世代の背中に復興国債という新たな重荷を背負わせるのは許されません。小生は、この現在世代と将来世代の間に存在する不道徳、不公正に我慢がなりません。

なお日銀引き受けによる「復興国債」への疑問、無利子国債の無意味さについては、長期金利の急騰(国債暴落)への懸念を含め、次回に詳しく触れます。

0401(2)表.JPG

三つの手段のうち国民が最も望んでいるのは「予算の組み替え」による財源捻出という手段です。下表に予算組み替えによる震災復興予算の財源候補ですが、これらすべてが与野党の合意を得て復興財源に組み入れられれば9兆円強の財源が得られます。

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しかし9兆円すべてを費やす必要はありません。試算の公的負担額20兆円は今後5年間の復興費用ですから年間の公的負担額は4兆円前後です。下表の民主党のマニフェスト関連予算の全廃と法人税率引き下げ見送りだけで毎年の復興予算はほぼ捻出できる勘定になります。

直接給付型マニフェスト予算を乗数効果の高い復興予算に置き換える
民主党のマニフェスト関連予算3兆3200億円の内訳は、子供手当は現行分2兆円と増額分2000億円、高速道路無料化実験1200億円、高校無償化4000億円、農家の戸別所得補償6000億円です。

これらの直接給付型マニフェスト予算は小沢民主党(当時)が選挙に勝つために作成した八方美人的公約の具体化です。公約意図が不純であるだけでなく政策効果も疑わしい代物です。震災復興予算を捻出するために全廃しても国民の支持は十分得られると思います。

なぜかといえば直接給付を削減される国民は予定していた恩恵が得られないだけだからです。予定された給付を得られない不満足度は小さいといえます。その一方、マニフェスト予算の移転をうけた震災被害者の満足度は極めて大きいものがありますし、その歳出効果も高くなります。家屋や道路、港湾、工場への再建投資の乗数効果(GDP引き上げの波及効果)は、貯蓄に回りがちな直接給付に比べ格段に大きいからです。

この際ですから書きますが、27.2兆円にものぼる国家及び地方公務員の人件費(その多くは給与)の10%、2.7兆円程度を復興予算に拠出するというのはいかがでしょうか。公務員は納税者から給与を得ているのです。その納税者が震災で苦しんでいるときこそ給与を返上して被害者(納税者)に報うべきです。そもそも公務員給与は震災被害を受けた民間従業員の給与より30%近く高いのですから。

予算の組み換えを徹底的に行っても足らなければ、期間限定の復興税(所得税の定率増税、復興のための特別法人税)を検討すべきでしょう。この期間限定の復興税は、かりに復興国債に発行が必要になれば、その償還財源として役割を明確にしておくべきでしょうね。消費増税は、復興のためではなく「税と社会保障の一体改革」あるいは財政再建の恒久財源として議論すべきだと思います。

大震災の思わぬ効果でしょうか、自民と民主の大連立構想がにわかに浮上しています。くだらない政争がなくなるのなら大連立には賛成です。大連立が成立することで、人気取り政策がなくなり、財政再建も見据えた(国債暴落を回避する)、正しい復興予算が組まれることを切に願います。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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