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大西良雄ニュースの背後を読む

2011年1月

2011年1月28日 10:55

アグフレーション(農産物インフレ)でデフレ脱却?

2011年1月28日筆
 
日銀は、1月25日の金融政策決定会合で、2011年度と12年度の消費者物価上昇の見通しを上方修正しました。その結果、消費者物価は11年度0.3%、12年度0.6%の2年連続上昇に転じる見通しです。金融緩和を解除するメドとしている1%の消費者物価上昇率には及びませんが、日銀はなんとかデフレ脱却の糸口を掴むことになったようにも見えます。

しかし、これで日本経済を悩ましてきたデフレ問題が解消に向うと単純に喜んではいられません。消費者物価上昇の大きな原因が、農産物価格の世界的な高騰によって生じた輸入インフレだからです。

今回のアグフレーションは上昇率と広がりで2008年の前回を上回る
農産物価格の持続的上昇はリーマンショック前の2008年にも経験しました。この当時、アグリカルチャー(農業)とインフレーション(物価の持続的上昇)を合成したアグフレーションという言葉が新語として誕生したそうですが、今回のアグフレーションは08年のそれを上回っているといいます。

FA0(国連食糧農業機関)の調査によると食料品価格指数(02年~04年を100とする)はリーマンショックで大きく下落しましたが、09年には底入れ、昨年夏ごろから再び急騰、昨年12月には214.7まで上昇し過去最高記録を更新しました。ちなみにそれまでの過去最高は2008年6月の213.5でした。前回は、バイオ燃料の原料となって需要が急増したトウモロコシが価格急騰に見舞われたのが印象的でした。今回の農産物価格の上昇は、暴騰の感すらあった前回のアグフレーションを上回っているのです。

しかも、今回は上昇している農産物の範囲が広がっています。前回は、小麦、大豆、トウモロコシなど穀物価格の上昇が中心でした。今回は、トウモロコシは2倍、小麦9割高、大豆5割高となっていますが、それに加え前回はあまり上がらなかった砂糖と綿花が2倍、コーヒー豆が7割高(以上いずれも昨夏比です)となっています。前回は穀物だけでしたが、今回は砂糖、コーヒー、ココア、綿花など食品や衣料の原料農産物の値上がりが加わり、アグフレーションは農産物全体に及んでいます。

余談ですが、中国ではニンニク、ショウガ、コメ、緑豆など保存がきく農産物が投機の対象となり急騰しています。昨夏以降、中国の食料品価格は年率10%以上の上昇率を見せ社会不安を呼び起こし始めています。インドネシアでは料理に欠かせない唐辛子の値段が5倍に跳ね上がり、政府は家庭菜園で唐辛子の栽培を進め高騰対策にするなどしているようです。ついでに書いておきますが、中国の緑豆はモヤシの種子原料として日本に大量に輸出されていますが、日本のモヤシ生産業者は緑豆の値上がりに頭を抱えています。

世界に放出された余剰ドルと人口の多い新興国の需要増が上昇の原因
このような激しいアグフレーションの原因の一つが、アメリカのオバマ政権が行ったリーマンショック後の緊急金融対策(約1.5兆ドル)や景気の2番底を回避するための量的金融緩和(QE2など合計9000億ドル)にあることは間違いありません。

世界に放出されたワールドダラーの残高は4.5兆ドル(370兆円)以上に上るといわれています。これら市場に大量に放出されたドルは、不況下では設備投資などには回らず、シカゴの穀物取引所(小麦、大豆、トウモロコシ)やニューヨークの商品取引所(コーヒー豆)での先物投機に回り、農産物価格を上昇させています。

さらに成長著しい中国、インド、ブラジル、インドネシア、南アなど新興国に流入、株式投資や財政資金(現地国債買い)、資源開発や設備投資の資金に投じられ、経済を急成長させています。成長による所得の上昇は食生活を変えます。欧米風のパン食や食肉、コーヒーなどへ嗜好がすすみ、小麦や飼料穀物、コーヒー豆やココアへの需要が高まります。新興国は人口規模が大きいですから、嗜好の変化が農産物への需給関係を大きく変え、価格上昇をもたらすことになります。

それはさておき、海外での価格上昇が国内に伝播して発生するのが輸入インフレです。輸入大豆の値上がりで食用油の出荷価格が15%引き上げられました。輸入コーヒー豆の値上がりで家庭向けコーヒーは3月から15%~20%値上げになります。輸入小麦の値上がりを受けて小麦粉の値上げが計画されています。小麦粉の値上がりでパン、菓子、麺類の値上げが起こります。こうして輸入農産物の高騰が国内消費者物価の上昇に繋がり、これを受けて日銀は物価見通しを上方修正したわけです。

アグフレーションによる輸入インフレではデフレの解消にはつながらない
では、アグフレーション(農産物の輸入インフレ)が原因の消費者物価の連続的上昇でも、デフレーション(消費者物価の持続的下落)から脱却するのだから歓迎だと考える人もいるかもしれませんが、そう簡単ではありません。

ちょっとマクロ経済的な説明になりますがお付き合いください。輸入原材料の値上がりはその値上がり分だけ余計に輸入代金を支払うことになりますから国内所得が海外に流出することになります。工業製品など輸出品が値上がりしていれば海外からの所得流入が増えますから補えますが、輸出品の値上がりはありません。これを交易条件の悪化といいます。

輸入原材料の値上がりによる交易条件の悪化で所得の海外流出が増えればその分だけ国内需要は減りデフレ不況の原因になります。輸入インフレはデフレ解消にはつながりにくいのです。かつて原油価格の上昇が不況をもたらしたことがありましたが、これも交易条件悪化による所得の海外流出が原因でした。

もう一つ、失業者が多く賃金・収入が下がるような不況状態では、輸入農産物値上がりによる原料価格の上昇分を製品価格に転嫁することは容易ではありません。2008年の小麦粉の値上がりに対応してビスケットの価格を引き上げた菓子メーカーがありましたが、ライバルが追随せずスーパーの棚を奪われたまま今も回復できないという気の毒な話すらあります。

原料値上がりを製品価格に転嫁できなければメーカーの利益は減少します。赤字になるかも知れません。赤字になれば企業は、賃金を引き下げるか、パートを解雇してコストを引き下げることになり、その所得が減り需要が減退します。デフレは解消するどころではないのです。

結論を述べますと、不況下のアグフレーションによる消費者物価の上昇は、デフレの解消につながらないということになります。

いま世界的格付機関であるS&Pが日本国債を格下げしたというニュースが飛び込んできました。市場は、一時、円売り、日本国債売りに走ったようです。格下げについては来週の本欄で解説しますが、格下げによる円売りによって円安が進めば、円安分だけ輸入原材料の輸入代金支払いが増加します。つまり円安が農産物の輸入インフレを加速させることになるのです。これは財政悪化という不始末からの悪い円安です。困ったことです。

2011年1月21日 09:21

「自炊」による電子書籍化についての心配

2011年1月20日筆
 
出版の世界では「自炊」という言葉が嫌われているようです。食事を自分で作ることを「自炊」といいますが、出版界では「電子書籍を自分で手作りする」ことを「自炊」というそうです。

方法は実に簡単です。まず書籍の表紙や付き物を剥がします。残った紙の束の接着部分(背)を断裁機で切断除去、ばらばらにしてスキャナーに取り込み、電子データ(PDFファイル)にするだけです。手馴れれば1冊7分で「自炊」は完了するそうです。

調べてみますと「自炊」に用いられる断裁機(ペーパーカッター)は4~5万円で買えます。通が使っているスキャナーはPFU社の「ScanSnap」やキャノンの「imageFORMULA」だそうで、3~4万円で市販されています。断裁機、スキャナー合わせて8万円前後投じれば自炊できるのです。

こうして出来上がった電子データ(PDFファイル)は、パソコンでも読めますし、アップルの「iPad」、シャープの「GALAPAGOS」(ガラパゴス)、パナソニックの「ビエラ・タブレット」のようなタブレット型PCで読めます。多機能携帯電話端末でも、ソニーの電子書籍専用端末「リーダー」でももちろん読めます。

代金回収システムの「電子書籍書店」を経由しない「自炊」の電子書籍
「自炊」は、読む端末を選ばない点で優れています。昨年来、電子書籍の配信サービスが始まっています。この配信サービス(電子書籍書店)から読者は電子書籍を購入するのですが、「Reader Store」ではソニーの端末しか使えませんし、「TSUTAYA GALAPAGOS」ではシャープの端末しか使えません。1月にスタートしたNTTドコモと大日本印刷の配信サービス「honto」では複数の端末を利用できますが、すべてではありません。「自炊」の場合は、PDFファイルを挿入するだけですべての端末が利用できるのです。

すべての端末を利用できる「自炊」は電子書籍の読者にとって実に便利なのです。しかし、その便利さが出版業界には大いに嫌われているというのですから皮肉なものです。

紙の雑誌や書籍が街の書店で売れなくても「電子書籍書店」で売れてくれれば、版元はなんとか生きていけます。「電子書籍書店」では、営業経費や印刷費、用紙費が削れますから販売代金が紙の書籍・雑誌の半値になろうとも、代金をキチンと支払ってもらえさえすれば、ビジネスは成り立つからです。版元にすれば「電子書籍書店」は代金回収の確実な仕組みだということになります。

しかし「自炊」によって作成された電子データは、「電子書籍書店」を経由せずに直接すべての電子書籍端末につなげられるわけですから、書籍や雑誌代金の回収システムをすり抜けることになります。電子データ(PDFファイル)が他人に転々と流布すれば、街の書店では雑誌・書籍が売れず、「電子書籍書店」からも代金を回収できず、版元も書店も食っていけません。雑誌・書籍が売れなければマンガ作家や小説家、著者には原稿料も印税も入らず廃業せざるを得ません。

複写機によるコピーやスキャナーを使った電子データ化は、版元や書店、作家、著者の権利と生存を脅かす「敵」です。しかし、著作権法第30条では、「著作物は、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、その使用する者が複製することができる」と書かれています。分かりやすくいえば、「私的に読む場合に限って、それを読む人がコピーすることは許されます」ということです。

「私的使用の複製」を許す著作権法第30条の盲点をかいくぐる
この第30条を逆手にとって営業する「自炊代行業者」も誕生しています。店内に裁断された状態のマンガ本をずらりと並べ、スキャナーを置いて読者自身にスキャンさせて電子データを「自炊」させる。「自炊代行業者」は裁断マンガ本とスキャナーの利用料金(定価の半額程度)を取るという仕組みです。この場合、代行業者は新刊本を1冊購入するだけで後は無限に利用料金を稼げることになります。

この「自炊代行業」が著作権法に照らして違法かどうかまだ判然としませんが、法律をかいくぐった代行ビジネスが今後も出てくることは間違いありません。それだけではなく、法律に従って読者が「私的に複製する」だけでも出版界には甚大な影響を与えます。

自分の書棚にある本を自炊して電子データ化し、書籍を整理するのなら害はありません。しかし例えば、中古本を買ってきて自分で裁断、スキャニングして、つまり「自炊」するとします。それをパソコンや電子書籍端末で自分が読む、家族で読むのはいいのです。ところが30条にある「その他これに準ずる限られた範囲内」がはっきりしません。「準ずる」の解釈が親戚、友人、知人と広がって電子データが次々に転送されれば大変です。転送数に比例して書店や版元、著作権者は「得べかりし収入」を失っていくことになります。

小生の記憶では、かつて複写機が導入されコピーが常識となった後、雑誌や書籍の売上は伸びがピタリと止まったように思います。その過去をさらに上回る深刻な事態が「自炊」による電子書籍化によって引き起こされることになりそうです。

2011年は、電子書籍が本格的に普及する年になるのではないでしょうか。「新しい技術が世界を変える」というのが歴史の常であることはよく理解できるのですが、電子書籍とその「自炊」については大いに気掛かりです。正直、紙の雑誌や書籍を刊行する出版社の元役員だった小生には、「自炊」が現在勤務する後輩たちに過酷な将来をもたらすのではないか、と案じられるのです。そう考えるとなんとも憂鬱な気持ちになってしまいます。

2011年1月13日 11:19

12年新卒「就職人気ランキング」にみる愚かな企業選び

これから就職活動を行う2012年新卒の就職人気ランキングが「文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所(週刊東洋経済1月15日号掲載)と「学情ナビ」(AERA1月17日号掲載)から相次いで発表されました。

下表の左2列は12年新卒の就職人気ランキング上位5社です。この最新の就職人気ランキングを眺めて、小生、さまざまな意味で深いショックに見舞われました。

01.13表.JPG

優秀な世界的製造業企業の姿が見えない、見えるのは身の回り産業だけ
ショックの第一は、12年卒の就職人気がサービスや消費財産業に極端に偏っていることです。文化放送キャリアパートナーズの調査では、上位10社のうち明治グループ(明治製菓・明治乳業)、資生堂を除く8社、学情ナビの調査では、味の素、資生堂、明治グループを除く7社がサービス産業に属します。明治グループ、資生堂、味の素は学生には身近な消費財産業ですからサービス産業に近い存在です。その意味では就職人気上位10社すべてがほぼ同種の身の回り産業といってよいでしょう。

身の回り産業への異常な就職人気は、生活実感から遠く想像力の及ばない製造業への極度の不人気と裏腹の関係にあるようです。

上表の右側に掲載しました「経営者」は、日経新聞が経営者40人に聞いた2011年の有望銘柄ランキングの上位5社です。経営者たちは、製造業3社をトップ5に選んでいます。「市場関係者」とは、株式新聞が市場関係者に聞いた2011年の注目株ベスト5(日立製作所と村田製作所は票数が同じの同率4位) です。市場関係者はベスト5のすべてに製造業を挙げています。経営者や市場関係者(あるいは経済ジャーナリストの小生)の企業評価と身の回り産業に偏した新卒学生の就職人気は、大きくかけ離れていることになります。

上表には、リーマンショック前の2007年新卒の人気ランキング(「学情ナビ」)を併記しましたが、07年ではトヨタ自動車、ソニー、NEC(日本電気)など製造業3社をトップ5にランクしています。就職人気の身の回り産業偏重は、リーマンショック後に蔓延したことになります。

残念なのは、経営者ランキング第1位のコマツ(建設機械で世界第2位。中国など世界で活躍)、第3位の信越化学工業(半導体産業に不可欠なシリコンウェハで世界トップ級)、市場関係者ランキング1位の日本電産(HDD用小型モーターで世界首位、電気自動車用モーターへの進出)、第4位の村田製作所(積層セラミックコンデンサーで世界トップ、スマートフォンなど多機能携帯端末用の電子部品で注目)の4社が、「学情ナビ」ランキングでは100位以内、「文化放送」ランキングでは300位以内にも入っていないことです。

日本には世界的に評価が高い製造業企業がたくさんありますが、それらが殆ど選ばれていないのです。製造業でも営業、宣伝、IT、総務、経理など消費財・サービス産業と同じ職場があります。製造業の海外展開も急速に進んでいますから海外で仕事をしたければ、製造業を選らんだほうがいいと思うのですが、そうではないようです。

消費財・サービス産業の中でも就職人気企業の劣化が進んでいる
ショックの第二は、学生が選ぶ消費財・サービス産業の人気企業が劣化していることです。テレビでのCM人気や働きやすさの宣伝にのって選んだ就職人気企業が、新卒諸君が定年を迎えるまで存在するかどうか、不安です。

学生がその時はやりの消費財・サービス産業に就職したがるのは今も昔も変わりません。かつてもサントリー、セゾン、リクルート、アサヒビール、伊勢丹、イトーヨーカ堂、NTTドコモなどが入れ替わり立ち替わり就職人気上位を占めていました。こうした過去の人気企業は、その後の盛衰はさておき、その時代の文化や経営をリードしていた企業群でしたし、選ばれる理由があったように思います。

しかし、JTBグループ、全日本空輸の旅行・航空サービス、明治グループ、味の素など食品企業勢(30位以内名はカゴメ、ロッテ、ミツカン、日清食品も登場)などイノベーションも成長力もないと思われる企業が就職人気のトップクラスの位置しているのはどうしても納得がゆきません。

さすがに広告収入の減少が厳しいテレビ朝日、日本テレビ、読売新聞や朝日新聞などは大きくランクダウンしているのですが、文化放送ランキングの20位以内には相変わらず漫画雑誌と広告収入の減少で先行きが危うい集英社、講談社が含まれています。情報媒体の電子化と広告の激減で10年後も生き残っているテレビ局、新聞社、出版社、書店がどれくらいあるか不安です。

これらのランキングが女子や文系学生、一部のマンモス大学の影響を受けやすいという事情もあります。しかし同じランキングで過去分を検索すると、リーマンショック前には消費財・サービス産業への異常な偏りも劣化も見受けられません。テレビ、携帯電話、ブログにツイッターという身の丈、身の回りの貧しい情報源にどっぷり浸り、深い考察と想像力を失ったことが、こうした就職人気に現れているのでしょう。

ベンチャー企業の数はわずか、製造業中小企業の姿がないランキング
ショックの第三は、目を皿にして「学情ナビ」、「文化放送キャリアパートナー」)のランキングを精査してもベンチャー企業が数えるほどしか登場していないことです。登場してもネット関連とアパレルが下位にランクされている程度です。もちろん製造業系の優秀な中小・中堅企業などはランキングにはいっさい登場していません。

ちなみに100位まで掲載している「AERA」ではOLC(オリエンタルランド)とエイチ・アイ・エス(旅行代理店)の2社のみです。300位まで掲載している「週刊東洋経済」でチェックしますと、66位プラン・ドゥ・シー(レストラン・ホテル)、76位パルス(雑貨、アパレル)、116位サイバーエーゼント(ネット広告、ゲーム)、126位ユニクロ(アパレル)、127位ミクシィ(SNS)、129位グリー(SNA)、180位楽天(電子商取引)、203位ユナイテッドアローズ(ネット通販)、234位ソフトバンクグループ(通信、ネット)、241位ヤフー(ネット)、283位ドワンゴ(ネット動画)が下位にランクされていました。しかし、ベンチャー企業は300位のうちたった13社に過ぎません。

このうち、英語を社内公用語とすると宣言したユニクロと楽天は大きくランクを落としています。JTBの海外添乗員を希望する学生が多い中、英語公用化を嫌ってユニクロと楽天の人気が急落するなど、情けないかぎりです。

何度もいいますが、今日の大企業も創業して幾年かは零細・中小企業でした。過去に就職人気トップクラスだった名門大企業のカネボウ、日本長期信用銀行、山一證券などは消えてなくなりました。現在、就職人気上位の大企業が10年先、20年先も存続するという保証はまったくないのです。「寄らば大樹」の最たるものは公務員、準公営企業でしょうが、財政大不安の時代ですから将来確実にリストラの嵐が襲うでしょう。

学生諸君も親御さんも、イノベーションも成長力もないような消費財・サービス産業を選ぶより、就職不人気な製造業あるいは中小企業の中に飛び込んで競争の中で自らの人材価値を高める勇気と覚悟を持つべき時です。

2011年1月 6日 17:24

EVとスマートフォンで注目される日本の部品産業

2011年1月6日筆
 
株式専門紙の「株式新聞」(2010年12月31日付)が、証券会社のアナリストや機関投資家のファンドマネージャーなど市場関係者に「2011年の有望投資テーマ」を聞いています。

新年の有望投資テーマの第1位は電気自動車(EV)でした。次いで第2位が中国・アジア、新興国消費関連、第3位がスマートフォン・タブレットPCという順番になっています。年末から年始にかけての相場では、市場関係者が挙げた有望テーマのうち電気自動車関連とスマートフォン・タブレットPC関連の銘柄が勢いよく挙げています。

年末年始、EV用急速充電器メーカーの株価が急騰したわけ
電気自動車では、三菱自動車の「アイミーブ」、富士重工業の「ステラ」、米テスラモーターズの「ロードスター」が先行しましたがこれらは生産規模も小さく、十両か前頭クラスです。しかし、昨年11月から12月にかけてGMが「シボレー・ボルト」、日産が「リーフ」を投入、大関クラスが電気自動車の量産体制を整え始めました。2012年にはフォード、トヨタ、ホンダ、13年にはフォルクスワーゲンが電気自動車の量産に参画、大関、横綱クラスが揃い踏みすることになります。

ただし、年末年始に株価を跳ね上げたのは、三菱自動車や富士重工業、日産自動車など電気自動車の完成車メーカーの株価ではありません。株価が跳ね上がったのは、高岳製作所、シンフォニアテクノロジー(旧・神鋼電機)、菊水電子工業、日新電機、三社電機製作所などどんな事業をやっているのか、普通の人にはわからない地味な銘柄群でした。

これらの銘柄はいずれも電気自動車用の急速充電器を手掛けるメーカーです。急騰のきっかけは、米政府が電気自動車の走行実験用に日本の統一規格である「CHAdeMO」方式の急速充電器を採用したと報じられたことでした。

急速充電器は電気自動車普及の鍵を握るインフラですが、その開発では日本とドイツが双璧です。ドイツはダイムラーが主導して欧州仕様の急速充電器をワールドスタンダード(国際標準)に仕立て上げようと働きかけています。これに対して日本では、東京電力と大手自動車メーカー5社が「CHAdeMO(チャデモ)協議会」設立し、日本仕様の急速充電器をワールドスタンダードにするべく国際社会に訴えてきました。

日独どちらの仕様(方式)が国際標準になるか、急速充電器メーカーには死活問題ですが、米政府が日本規格の急速充電器を採用することになれば、国際標準を日本仕様が握ることになるという期待が膨らみ、「CHAdeMO協議会」の会員でもある上述の急速充電器メーカーの株価が急騰したのです。

EVメーカーよりリチウムイオン電池の部品・材料メーカーに熱い視線
株式市場は、急速充電器だけではなく、電気自動車の心臓部ともいえる車載用リチウムイオン電池、それも部品、材料メーカーの動向に熱い視線を注いでいます。

リチウムイオン電池は、電極となる「正極材」と「負極材」、両極を絶縁するための「セパレーター」、イオンが往来する「電解液」から構成されています。
この4つの主要部品・材料で日本勢は世界トップのシェアを誇ります。世界のトップ3にいる日本勢のシェアは、正極材40%、負極材50%、セパレーター65%、電解液55%にもなります。

昨年は、田中化学研究所、戸田工業など正極材メーカーの株価が急騰しました。今年は正極材メーカーと並んで、電解液で世界トップの宇部興産、負極材で世界トップの日立化成、セパレーターで世界トップの旭化成などに株価上昇が及ぶ楽しみがあります。

電気自動車に関して株式市場が注目している銘柄は、電気自動車の完成車メーカーではなく、その周辺の急速充電器、あるいは今回は触れませんが電動モーターやベアリングなどの主要部品、材料メーカーです。車載用リチウムイオン電池で言えば、GSユアサのような完成品メーカーではなく、戸田工業などのリチウムイオン電池に不可欠な部品や材料のメーカー群です。

大ブームの多機能携帯端末で注目される日本の電子部品産業
スマートフォンやタブレットPCなどの多機能携帯端末でも同じ傾向があり、完成品メーカーより部品メーカーの株価のほうが上昇しているように思えます。

昨年は米アップル社のスマートフォン「アイフォーン」、タブレットPC「アイパッド」が大人気となりました。多くの予測機関が、スマートフォン、タブレットPCなど多機能携帯端末は昨年が入り口で今年から普及が本格化し、倍増近いペースで拡大すると予測しています。従来の携帯電話端末がスマートフォンに置き換わり、小型格安パソコン「ネットブック」がタブレットPCに食われるということも背景にあるのでしょう。

スマートフォンでは、米グーグルのOS「アンドロイド」を搭載したソニー・エリクソン製、韓国サムソン電子製、シャープ製が相次いで投入され、今年はアップルとの激しいシェア争いが予想されます。1月6日からラスベガスで開催されている家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ」ではパナソニック、東芝、シャープ、韓国LG電子、台湾アスース、米ビジオなどがアップルの「アイパッド」に対抗するタブレットPCの新機種を年内に投入すると発表しています。

こうした多機能携帯端末の急拡大に対して日本の株式市場はどのような反応を示しているか興味深いところです。まず、最先発のアップル製品を日本で販売しているソフトバンクの株価が上昇しましたが、激しい値動きを示したのは「アイフォーン」や「アイパッド」を受託生産している台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に工作機械を納入したとされる小型旋盤のツガミ、放電加工機のソディック、産業用多関節ロボットのファナックでした。

アップルの多機能情報端末に装着される部品の多くは、韓国のサムソン電子やLG電子、台湾のウインテック製が多く日本製の電子部品の組み込みは少ないといわれています。その実態は良く分からないのですが、それでも、「アイフォーン」用にシコーのオートフォーカスカメラ用の小型モーター、「アイパッド」用にTDK子会社の小型バッテリー(蓄電池)や第一精工の細線同軸コネクターが使われていると噂されると、シコーや第一精工などの新興株は株価をはねあげました。

しかし、「アンドロイド」搭載の多機能携帯端末が多勢で参入するに至って、様相が少し変わってきました。多機能携帯端末に組みこまれる小型液晶パネル(日立、シャープ)、タッチパネル(アルプス電気、日東電工、日本写真印刷、SMK)、フラッシュメモリー(東芝)、積層セラミックコンデンサー(村田製作所、太陽誘電)、コネクター(ヒロセ電機、ホシデン)、ICパッケージ(京セラ、イビデン)、水晶デバイス(エプソントヨコム、東京電波)などの電子部品、材料メーカーの株価が上昇を始めてきたのです。

日本は、電子部品であれ自動車部品であれ、世界トップシェアを誇る部品・材料をたくさん抱える世界最強の部品王国です。電気自動車や多機能端末の完成品メーカーの株価は動かずとも、世界の投資家は、日本には世界最強の部品メーカーが数多く存在することを良く知っています。電気自動車の量産化が進み多機能携帯端末が急拡大すればするほど、日本の部品産業が栄えるということを彼らは良く知っているのです。

日本の部品産業を見る限り、日本も捨てたものではないと思い至ります。
完成品で韓国製に負けて意気消沈するぐらいなら、日本勢は、世界で最も優秀な日本の部品産業と組んで韓国勢がまねのできない高付加価値製品を作る努力をしたらいいのではないかと思わずにはいられません。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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