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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年12月24日 09:12

日本に「減築」の時代がやってきた

2010年12月24日筆

「増築」(ぞうちく)という言葉はよく聞きますが、「減築」(げんちく)という言葉があるとは知りませんでした。「減築」とは、建物などの間引きとか撤去によって空間の価値を高め、規模の適正化を図る手法だそうです。

小生がこの「減築」という言葉を知ったのは、5年ほど前に野村総合研究所著『2010年の日本-雇用社会から起業社会へ』(2005年、東洋経済刊)を読んでからですが、読んだあともずっと気になっていました。

この書物の一章に「2010年に向けて必要な社会資本の創造的破壊」という記述があります。「社会資本の創造的破壊」の意味をかいつまんで紹介します。

社会資本とは、道路、港湾、空港、公共住宅、公園、学校、上下水道、治水・治山、郵便など「整備や管理に政府の資金が投じられている資産」を指しますが、その総額は約937兆円(03年現在、野村総研試算)に達します。IMFによると国民一人当たりの社会資本ストック額は欧米先進国22カ国平均の3倍になるといいますから、大変な蓄積量(ストック)です。

日本の社会資本ストックが抱える3つのミスマッチ
本書では、この膨大な社会資本ストックが2010年から始まる人口減少によって3つのミスマッチをひき起こす可能性が高いと指摘していたのです。

第一は、将来の利用者の増加を見込んで整備された社会資本が、将来の人口減などによる需要減少に直面して事業が成立しなくなる「ストック量のミスマッチ」です。

その典型例は人口減少による利用者の減少で容量が過大になった一部の高速道路でしょう。少子高齢化している過疎地では学校や公立病院だけでなく郵便局、公営住宅なども存立しにくくなっています。

第二は、社会資本に対するニーズが、「産業に役立つ、広域的な活動に役立つ、国益に役立つ社会資本」から、「より身近で、より効果が実感しやすい社会資本」にシフトしている。にもかかわらず、公共投資がそれに対応していないという「分野のミスマッチ」です。

例えば、広域的な社会資本である高速道路、地方空港、新幹線などから、より身近な生活道路、介護施設、老人ホーム、病院、公園・緑地のような社会資本へ投資をシフトさせるべきだという意味なのでしょうね。

第三は、社会資本ストックが余る地域と足りない地域の間で生じる「地域のミスマッチ」です。交通や産業分野の社会資本は地方圏に偏り、生活関連や文化関連の資本は大都市圏に偏っていると指摘しています。

地方圏では道路は立派、工業用地もふんだんにあるが、介護施設、老人ホームは足りない。大都市圏では大学など文化資本は十分だが、住居・通勤環境の社会資本は不足している。同じ大都市圏でも都心部と郊外では余る資本、足りない資本は異なるに違いありません。

「取り壊し、作り変える」、社会資本の創造的破壊は可能か
本書が言う社会資本の「創造的破壊」とは、これまで積み上げてきた社会資本を「取り壊す」だけではなく、3つのミスマッチを解消しながら「作り変える」ことを意味していました。

しかし、この5年間で中央政府(国)の長期債務残高は590兆円から696兆円へ100兆円以上増えました。地方政府の長期債務残高200兆円を加えると900兆円に達し国及び地方の長期債務残高はGDPの180%に達しています。社会資本を「取り壊し」て「作り変える」だけの財政的余裕は失われたという他ありません。

政府の公共事業関係予算は1997年度の9.7兆円をピークに2010年度に5.8兆円に激減しています。ピーク比4兆円もの減少です。小泉政権の3%削減方針に続いて、「コンクリートから人へ」を標榜した民主党政権下の初年度で18%も削減されたからです。

野村総研の推計(前述)では蓄積された社会資本総額は937兆円です。高度成長期に建設された社会資本の多くが、いまや更新(補修)投資を必要とする時期に差し掛かっています。これから徐々に、極端な仮定ですが100年かけて総額937兆円の社会資本ストックを更新するとすれば、今後100年間、毎年およそ9兆円の資金が必要になる計算です。

2010年度5.8兆円の公共事業関係予算は新幹線や高速道路の延伸(増築)にも費やされたはずです。現状の公共事業関係予算では毎年9兆円にものぼる社会資本の更新(補修)、つまり取り壊して作り変える社会資本の創造的破壊など殆ど不可能といってよいでしょう。

「増築」予算を削り、更新、補修、そして「減築」予算を生み出せ
もちろん人口減少によって利用者が減少するような新幹線や高速道路の「増築」などやっている暇はありません。しかし、生活に最低限必要な生活道路や橋、上下水道などを維持、管理、補修、更新する予算はどうしても必要です。更新、補修が行われないために、老朽化した上水管が破裂し街中で洪水を起こす、ゲリラ豪雨に見舞われて容量不足の下水管が溢れ床下浸水が発生するという事態が起きていることは皆さんすでにご存知です。

ですが、限られた予算のもとでは、いまあるすべての社会資本を更新・補修することなど到底できません。政治家が選挙目当てに造り最初から利用度が低かった社会資本、人口の減少などで利用度が低くなった社会資本などの更新・補修に回す予算などないということになります。

「増築」予算を削り、身近な生活を支える社会資本の「更新・補修」予算を捻出するという政策が必要になります。高速道路、ダム、新幹線など大型公共事業で飯を食ってきた地方ゼネコンも、「更新・補修」予算の投入に応じて、生活道路や橋の補修、下水道管の更新工事、電線の地中化など細かい公共工事、学校など公共施設の立替え工事などで生きていくことができます。

出生率の向上にも景気刺激にも繋がりそうもない「子ども手当」など廃止して、既存の公共施設を撤去、間引きして空間の価値を高めるための「減築」予算が生み出されればとも思います。

廃校になった小学校跡地、効率の悪い郵便局、入場者より公務員の数のほうが多いように思える公立美術館、図書館、住む人がいない公営住宅などを撤去、間引きして、その空間に緑地つきの保育施設、介護施設、老人ホームなどを建てて民間に運営させるのはどうでしょうか。

新年は、利益誘導政治で膨れ上がった予算と政治家を間引き、撤去して、規模を適正化し、そこにできた空間から大きな付加価値を生み出すことができればと思っています。「減築」の発想が生かされる時が来たと思っています。

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QuonNetコミュニティ | 2010年12月24日 09:30

この記事へのコメント

1. Posted by seisakuron 2011年1月22日 13:23

「減築」という発想に共感を覚えました。

ただ、単に都市と地方で社会資本の中身を入れ替えるだけでは十分でないと思いました。

「人口減少による利用者の減少で容量が過大になった一部の高速道路…」とありますが、よく言われるように、高速道路はネットワークでつながらないと有効に機能しないのです。
しかし、つなげた場合は都市と比べて利用量が少ないということからムダという指摘がやはり出てきます。

一方、都市では交通網や住宅を充実しようとすれば、高い地価や密集する市街地の再開発のため膨大な経費と時間を使うことになります。
これもある意味、『ムダ』です。

より根本的な対策が求められます。
ではどうすればいいか!?
私は、首都圏への人口の一極集中を是正することが必要と考えます。
都市から地方に人を移住させるために、地域主権のような明確な理念の元に、真に効果的な税制、補助金、雇用創出策などを構築(その財源は首都圏への重税で捻出)し、都市と地方で社会資本のアンバランスをできるだけ縮小するように、社会を誘導していく必要があると思われます。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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