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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年12月10日 09:34

新年の日本経済は「兎は跳ねる年」になるか

2010年12月9日筆

今年の干支は「寅(虎、とら)」でしたが新年は「卯(兎、うさぎ)」です。兜町の相場格言では今年は「寅千里を走る」でしたが、新年は「兎は跳ねる」ということになります。
 
「寅千里を走る」と威勢が良かった今年はどうだったか。相場は12月に入り好調ですが、今年末の日経平均株価が昨年末の1万546円に届けば株価はかろうじて横ばいを維持することになります。兜町では最後に寅が走り、昨年末をクリアできるという声が支配的になっています。しかし7-9月期まではアジア向け輸出の増加やエコカー、家電エコポイント効果による消費の増加で景気回復が順調でしたが、そのわりに株価の戻りは鈍かったといえます。

ゴールドマン・サックスは年前半に「兎は跳ねる」と予想したが...
では新年は相場格言どおり「兎は跳ねる年」となるのでしょうか。戦後5回の卯(兎)年の日経平均株価の平均上昇率は24・9%でした。子(ね)年の39・0%に次ぐ第2位です。ちなみに子年の相場格言は「子(ねずみ)は繁栄」ですから、格言どおりの株価上昇率ということになります。兜町の相場格言もあながち軽視はできないということになりますね。
 
ゴールドマン・サックスは日本古来の干支による相場占いなど無縁のはずの外資系証券ですが、「ウサギのスタートは強気」と題するレポートを発表しました。このレポートによると、日本の相場は今年と同じパターン(4月高値1万1408円が天井)で前半高、後半安となり、2011年前半に日経平均は1万2000円を回復し後半は下落するとしています。

2011年の前半に「兎が跳ねる」理由は、中国をはじめアジア新興国がインフレ制圧に手を取られている間、日本はデフレ克服のための金融緩和を続けるため外国人が出遅れている日本株を買うのではないかという点が第1。第2に、アメリカ経済の見通しが改善し個人消費が回復、日本の対米輸出が伸びる、第3に円安への反転もあり日本企業の企業収益が上昇し、1株当たり利益は20%のペースで増加するという点も理由として挙げられています。

企業収益が好調に推移するのになぜ株価が安くなるのか、少しわかりにくいのですが、その原因は外国人投資家の姿勢にあると言っています。年前半は中国などがインフレ制圧を行っている間は日本株を買うが、中国などのインフレ制圧が完了した年後半には世界の投資家の投資資金は日本から離れ再び新興アジアに向うからだと言います。情けない話ですが、結局、外国人が日本株を買い、兜町で「兎が跳ねる」のは中国株などがお休みしている半年間だけだとゴールドマン・サックスは言っているのです。

公式予測ではアメリカ経済の回復、東アジアの好調持続が期待される
株価は景気の映し鏡です。景気はどうなるのか、2011年の日本経済は今年同様、アメリカ経済が再失速せず回復を続けることができるか、もう一つ、中国を筆頭にアジアの新興国経済がインフレを克服し再び成長軌道を回復するかどうかに依存します。

日本は、この大借金の状態では財政を出動させて景気を押し上げることは無理ですし、やってはいけないことです。日本は、中国や韓国、ドイツなどに比べ輸出依存度(GDPに占める輸出総額)が極めて低いのですから、遠慮せずにアジア新興国やアメリカ向けに輸出を活発化させ、それを先導役として国内での設備投資を多少でも盛り上げ景気を下支えすることが必要になります。

101210表.jpg

上表は各国の中央銀行や政府機関が出した最新の実質経済成長率の見通しです。これらの2011年予想(日本は年度予想)では、中国経済は高度成長を維持し、アメリカ経済は多少上向くと予測されています。アジア開発銀行(ADB)の予測で中国、韓国、台湾、香港にインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、シンガポールなどASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国を加えた東アジア地域(日本を除く)の成長率は多少鈍化しますが、高水準を維持すると予測されています。ASEAN10カ国のGDPを合計すると日本や中国並みになり、その動きから目が離せなくなってきました。

2011年のアメリカ、中国、日本経済をめぐる不安点は何か
これらの予測が予測どおりになるかどうか、いくつかの注目ポイントを上げておきます。とりわけ2011年の日本経済を左右するアメリカ経済と中国経済が抱える不安点について触れておきます。

(1)アメリカ経済は、景気腰折れ(デフレ懸念)に対応する景気対策が政府債務懸念とインフレ懸念を生み、長期金利を上昇させ景気を冷やし、株価を急落させるリスクを抱えている点です。

アメリカ経済を支える家計は、基本的には貯蓄率を高めて借金を返済し過剰な消費を解消するというバブル崩壊後の「バランスシート調整」過程にあります。9%台(失業者数1500万人)という高失業率もなかなか下がりません。その結果、GDPの7割を占める民間消費が弱く、消費者物価上昇率が下降するデフレ懸念がある状態を続けています。

これに対してFRBは来年6月までに6000億ドル(約50兆円)の国債買い入れを実施して金余り状態を作り出し金利を引き下げ、インフレ期待を高めるという政策をとっています。しかしこれに成功しインフレ期待が高まり過ぎると米国債が売られ長期金利が上昇し景気を冷やすという事態をもたらしかねません。

一方、2011年は、2年間で7850億ドルにのぼったオバマ大統領の景気対策が終了し財政面からの景気対策が息切れする年になりますが、新に総額4000億ドルとも言われる「オバマ減税」(ブッシュ減税の延長を含む減税案)が実施されそうです。減税が消費を盛り上げるという効果が期待されますが、一方でブッシュ減税(総額8000億ドル)の打ち切りが見送られ財政赤字拡大が放置され、国債売り、長期金利の急上昇を招くリスクがあります。

このアメリカの米国債売り、長期金利急上昇が日本に飛び火して、日本国債売り、日本の長期金利急騰に繫がる財政破綻シナリオを考えるとぞっとします。

(2)中国経済は、これまでの金融・財政両面からの景気刺激政策を変更し、金融は引き締め、積極財政は継続というポリシーミックスに転換します。金融引き締めへの転換は資産バブル(インフレ抑制)対策ですが,これがオーバーキル(冷やし過ぎ)となりバブル崩壊に繫がるリスクを抱えています。

中国の経済成長の牽引力はGDPの5割近くを占める総固定資本形成(公共投資、民間設備投資、不動産など建設投資など総投資)の増加でした。この総投資が過熱し鉄鋼などの素材生産能力が過剰になりつつあります。

一方、銀行貸出の急増により不動産投資が急増、住宅価格が急騰しました。社会科学院の調査では住宅価格の29.5%が適正価格を超えるバブル部分だと分析しています。資産価格だけではなく消費者物価の上昇も加速し、10月には政府が許容する上限上昇率3%を大きく上回る4.4%を記録しました。

その結果、中国政府は2011年前半までに過剰生産能力の整理とインフレ(および資産バブル)制圧に取り組むことになります。金融引き締めは預金準備率の引き上げによる融資量の抑制だけでなく貸出金利の連続的引き上げが予想されています。

この引き締めが効き過ぎると不動産価格が暴落、金融危機が表面化し、日本が1990年代に経験したバブル崩壊不況に陥ることになります。これを避けるために積極財政は続け、消費を盛り上げ公共投資や設備投資を下支えすることになります。

中国は金融引き締めと積極財政の微妙なバランスを取りながら景気の過度な後退を回避することになりますが、果たしてうまくいくでしょうか。うまくいかなければ対中輸出が減退し、日本経済や好調な東アジア全体の景気に悪い影響を与えることになります。

(3)最後に日本は、世界の成長センターであるアジア・太平洋地域の中心に位置するという利点を生かし、円高デフレを克服し、国内の期待成長率を高め国内での投資を活発化させる政策が取れるか、正念場を迎えます。それに成功しなければ産業と雇用の空洞化の同時進行を食い止めることができなくなるという点だけ指摘しておきます。


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プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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