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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年12月 3日 09:40

定年退職男の悲惨を描く小説「孤舟」を読んで

2010年12月2日筆

書名の「孤舟」(こしゅう)は著者・渡辺淳一氏の造語だと思っていましたが、そうではないのですね。

岩波の「国語辞典」を引くと「弧舟」とは「ぽつんと一隻浮かんでいる舟」とありました。「舟」とは、伝馬船のような「小船」のことです。
 
「弧舟」の主人公は、大手広告代理店「東亜電広」の常務執行役員を最後に、退社退職して1年の無職、元サラリーマンです。「東亜電広」は新橋辺りにあるといいますから電通かもしれません。彼は出版関係の営業局長を務めたことがあるという設定ですから、小生が勤務していた出版社にも出入りしていた旧知の電通マンかもしれません。そういうことで「親しみを感じて」といいますか、「身につまされて」といいますか、一気に読み上げてしまいました。
 
主人公は、「定年になって行くところがなく淋しい、毎日、一人でさまざまなところをさ迷っている」、書名の「弧舟」のような人物です。

仕事をしない、稼がない、家に居ついて朝昼晩3食、きっちり食らう男たち
妻にとって「常務」時代の主人公は、朝早く出て夜遅く帰ってくる稼ぎの良い、都合の良い亭主でした。妻は、日中、亭主が留守をしていることを幸いに気軽に出掛けて家の外に自分の生息圏を築いていました。そこに仕事もなく朝から晩まで家にいるという鬱陶しい定年後の亭主を抱え込むことになります。

妻は主人公に再就職を進めるのですが、なかなか定年退職者が働ける職場が見つからない。あったとしてもスーパーの警備員、駐車場の整備係ですから、プライドが高い「元常務」の主人公はそのような仕事をする気になれません。たまたまオフィスビルの管理人にありつくための就職面接を受けるのですが、ここでも「元常務」の肩書きが邪魔になって就職を断念することになります。

妻からすれば、亭主は「仕事をしない、稼げない」のに、朝昼晩3食をきっちり頂く、態度のでかい単なる居候に過ぎないのでしょうか。妻は、朝昼晩の3食を作るだけでも手間を食うのに家事をいっさい手伝わず、出掛けようとすると「どこへ行く」、「いつ帰る」と聞く亭主に妻はもううんざり、なのです。 

この亭主と妻の間では、口論が絶えない日々が繰り返されるようになりました。同居している会社勤めの長女も、勤務先の近くに下宿してたまに帰ってくる長男も最後は妻の味方です。彼らには、いまごろ家に居ついて母親のお荷物になる父親は疎ましい存在であることに変わりはありません。子供たちの成長期に彼らに振り向きもしなかった報いが今出ているのです。

届く年賀状の数もめっきり減ってしまい、会社人生からも遠くなった「元常務」は、家族からも孤立した淋しい存在になってしまったといえるでしょう。

いったい彼にはどういう将来が待っているのでしょうか。その続きを書きますと本が売れません。元同業の出版局長経験者としましては、集英社刊の本書をお買い上げの上、後は読んでのお楽しみと言うほかありません。

小生も「元常務」、家内の自由を奪う「ガジュマルの木」ですが・・・

小生、家内にも『弧舟』を読むことを薦めました。家内も多少興味を持って読んだようですが、半分ぐらい読んで興味を失ったようです。どうして半分読んで興味を失ったのか、恐る恐るお聞きしました。

家内は、「定年退職後、妻のお荷物になるこんな亭主など珍しくもありません。いまさらという感じがしますから」と取り付くしまありません。家内も小説の妻と同じで、小生が仕事にかまけて家を留守にしている間に外にたくさんの親しい友人を持っているようです。住んでいる地域にも情報網があるようです。

家内は、その親しい友人たちや地域の情報網から「退職後の亭主族の悲惨なケース」をいくつも耳にしているようです。

ある有名国立大学の出身で名門会社の技術者だったご主人は、定年退職後、新たな就職先を得られず、毎日朝から酒を飲んで過ごして、とうとう体を壊してしまったそうです。ある有名企業を退職した主人を持つ友人は、退職後主人との折り合いが悪くなり、家庭内別居状態ですがが、娘が結婚するまでは離婚しないといっているようです。

ある友人のご主人は奥さんに「1000円あげるから図書館にでも行ってきなさい」といわれて毎日図書館で暇を潰すようになったといいます。家内は都心の区立図書館によく出掛けるのですが、最近は受験生より高齢者の姿が多く見受けられるようになりました。閲覧室の机の上に「読書中に居眠りをしないで下さい」と張り紙があるのですが、本を持ったままページもめくらず爆睡している男性をよく見かけるようになったと妻は言っていました。

どこに行くにも女房にくっついて離れない定年後の亭主を「濡れ落ち葉」とからかうのは良く知られたことです。「濡れ落ち葉」ならかわいいほうで、退職後の亭主を、岩(妻)に根を伸ばし覆いかぶさり身動きが取れないようにする「ガジュマルの木」にたとえるケースもありますよ、と家内は言います。

小生も出版社の元常務でした。弧舟の主人公同様、家内の「ガジュマルの木」であることも疑いないことです。しかし、退職して4年、稼ぎはほんのわずかですが、経済ジャーナリストとして生涯現役を貫き、調べものをしたり書き物をしたりしていますから、同じガジュマルの木でも多少お目こぼしを頂いているようです。家内には、こころから感謝申し上げます。

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QuonNetコミュニティ | 2010年12月 3日 09:50
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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