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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年12月

2010年12月24日 09:12

日本に「減築」の時代がやってきた

2010年12月24日筆

「増築」(ぞうちく)という言葉はよく聞きますが、「減築」(げんちく)という言葉があるとは知りませんでした。「減築」とは、建物などの間引きとか撤去によって空間の価値を高め、規模の適正化を図る手法だそうです。

小生がこの「減築」という言葉を知ったのは、5年ほど前に野村総合研究所著『2010年の日本-雇用社会から起業社会へ』(2005年、東洋経済刊)を読んでからですが、読んだあともずっと気になっていました。

この書物の一章に「2010年に向けて必要な社会資本の創造的破壊」という記述があります。「社会資本の創造的破壊」の意味をかいつまんで紹介します。

社会資本とは、道路、港湾、空港、公共住宅、公園、学校、上下水道、治水・治山、郵便など「整備や管理に政府の資金が投じられている資産」を指しますが、その総額は約937兆円(03年現在、野村総研試算)に達します。IMFによると国民一人当たりの社会資本ストック額は欧米先進国22カ国平均の3倍になるといいますから、大変な蓄積量(ストック)です。

日本の社会資本ストックが抱える3つのミスマッチ
本書では、この膨大な社会資本ストックが2010年から始まる人口減少によって3つのミスマッチをひき起こす可能性が高いと指摘していたのです。

第一は、将来の利用者の増加を見込んで整備された社会資本が、将来の人口減などによる需要減少に直面して事業が成立しなくなる「ストック量のミスマッチ」です。

その典型例は人口減少による利用者の減少で容量が過大になった一部の高速道路でしょう。少子高齢化している過疎地では学校や公立病院だけでなく郵便局、公営住宅なども存立しにくくなっています。

第二は、社会資本に対するニーズが、「産業に役立つ、広域的な活動に役立つ、国益に役立つ社会資本」から、「より身近で、より効果が実感しやすい社会資本」にシフトしている。にもかかわらず、公共投資がそれに対応していないという「分野のミスマッチ」です。

例えば、広域的な社会資本である高速道路、地方空港、新幹線などから、より身近な生活道路、介護施設、老人ホーム、病院、公園・緑地のような社会資本へ投資をシフトさせるべきだという意味なのでしょうね。

第三は、社会資本ストックが余る地域と足りない地域の間で生じる「地域のミスマッチ」です。交通や産業分野の社会資本は地方圏に偏り、生活関連や文化関連の資本は大都市圏に偏っていると指摘しています。

地方圏では道路は立派、工業用地もふんだんにあるが、介護施設、老人ホームは足りない。大都市圏では大学など文化資本は十分だが、住居・通勤環境の社会資本は不足している。同じ大都市圏でも都心部と郊外では余る資本、足りない資本は異なるに違いありません。

「取り壊し、作り変える」、社会資本の創造的破壊は可能か
本書が言う社会資本の「創造的破壊」とは、これまで積み上げてきた社会資本を「取り壊す」だけではなく、3つのミスマッチを解消しながら「作り変える」ことを意味していました。

しかし、この5年間で中央政府(国)の長期債務残高は590兆円から696兆円へ100兆円以上増えました。地方政府の長期債務残高200兆円を加えると900兆円に達し国及び地方の長期債務残高はGDPの180%に達しています。社会資本を「取り壊し」て「作り変える」だけの財政的余裕は失われたという他ありません。

政府の公共事業関係予算は1997年度の9.7兆円をピークに2010年度に5.8兆円に激減しています。ピーク比4兆円もの減少です。小泉政権の3%削減方針に続いて、「コンクリートから人へ」を標榜した民主党政権下の初年度で18%も削減されたからです。

野村総研の推計(前述)では蓄積された社会資本総額は937兆円です。高度成長期に建設された社会資本の多くが、いまや更新(補修)投資を必要とする時期に差し掛かっています。これから徐々に、極端な仮定ですが100年かけて総額937兆円の社会資本ストックを更新するとすれば、今後100年間、毎年およそ9兆円の資金が必要になる計算です。

2010年度5.8兆円の公共事業関係予算は新幹線や高速道路の延伸(増築)にも費やされたはずです。現状の公共事業関係予算では毎年9兆円にものぼる社会資本の更新(補修)、つまり取り壊して作り変える社会資本の創造的破壊など殆ど不可能といってよいでしょう。

「増築」予算を削り、更新、補修、そして「減築」予算を生み出せ
もちろん人口減少によって利用者が減少するような新幹線や高速道路の「増築」などやっている暇はありません。しかし、生活に最低限必要な生活道路や橋、上下水道などを維持、管理、補修、更新する予算はどうしても必要です。更新、補修が行われないために、老朽化した上水管が破裂し街中で洪水を起こす、ゲリラ豪雨に見舞われて容量不足の下水管が溢れ床下浸水が発生するという事態が起きていることは皆さんすでにご存知です。

ですが、限られた予算のもとでは、いまあるすべての社会資本を更新・補修することなど到底できません。政治家が選挙目当てに造り最初から利用度が低かった社会資本、人口の減少などで利用度が低くなった社会資本などの更新・補修に回す予算などないということになります。

「増築」予算を削り、身近な生活を支える社会資本の「更新・補修」予算を捻出するという政策が必要になります。高速道路、ダム、新幹線など大型公共事業で飯を食ってきた地方ゼネコンも、「更新・補修」予算の投入に応じて、生活道路や橋の補修、下水道管の更新工事、電線の地中化など細かい公共工事、学校など公共施設の立替え工事などで生きていくことができます。

出生率の向上にも景気刺激にも繋がりそうもない「子ども手当」など廃止して、既存の公共施設を撤去、間引きして空間の価値を高めるための「減築」予算が生み出されればとも思います。

廃校になった小学校跡地、効率の悪い郵便局、入場者より公務員の数のほうが多いように思える公立美術館、図書館、住む人がいない公営住宅などを撤去、間引きして、その空間に緑地つきの保育施設、介護施設、老人ホームなどを建てて民間に運営させるのはどうでしょうか。

新年は、利益誘導政治で膨れ上がった予算と政治家を間引き、撤去して、規模を適正化し、そこにできた空間から大きな付加価値を生み出すことができればと思っています。「減築」の発想が生かされる時が来たと思っています。

2010年12月17日 12:58

民主党は分裂(小沢除名)を恐れず政界再編を進めよ

2010年12月16日筆

岡田民主党幹事長の小沢一郎氏の国会招致議決をめぐって、親小沢グループと反小沢グループが再び対立、民主党が分裂の危機にあると報じられています。

呆れたことに民主党混迷の元凶である例の小沢一郎(元代表、現・似非一兵卒)、鳩山由紀夫(前・迷総理)、輿石東(元日教組、参院民主党のドン)の3氏が集まって「岡田幹事長の小沢国会招致議決は党分裂を招きかねない」と反対しているそうです。

今度は「党の分裂」を持ち出して小沢招致に反対しているのですが、すでに党は分裂しています。親小沢グループと反小沢グループは、小沢国会招致に象徴される「政治とカネ」の問題だけでなく、政治手法や政策思想など最も重要な問題でことごとく対立し、同じ政党に属している政治家とは到底思えません。
意見がこれほど異なるグループが同じ党に同居するほうが不自然です。

小沢さん「なんらやましいことはない」のなら国会で説明してください
小沢氏は自らの「政治とカネ」の問題について「(法律に照らして)なんらやましいことはない」と相変わらず言っています。親小沢グループは「法律違反はない」とする小沢氏の言葉を信じて疑わないようですが、国民は、小沢氏が政治資金規正法や政党助成法の作成者であり、これらの法律に通じたプロであることを良く知っています。一方で国民は、小沢氏がプロだから法律の抜け道に精通していることも良く知っています。

「法律違反」に絡む法的責任は裁判所で明らかにしてもらえばよいでしょう。国会ではできれば証人喚問の場で、小沢氏が法の網をいかにかいくぐって巨額の政治資金を集め、蓄え、手兵を囲ってきたのか、その実態を解明していただければと思います。その際、小沢氏には最低限、以下の点についてお答えいただき国民への説明責任を果たしてもらいたいと思います。

(1)ダム工事受注に絡む水沢建設による1億円のヤミ献金は本当になかったのか。19年に「陸山会」に貸し付けた4億円の資金の出所は何か。小沢氏及び小沢氏系列の政治団体が保有している現金、不動産、預金などの残高はいくらか。その資産残高の原資は何か、出所はどこか。

(2) 旧新生党解党時に公党の資金を自系列の「改革ホーラム21」へ移した
約9億円、同じく旧自由党解党時に自系列の「改革国民会議」へ移した約13億円の中に含まれる立法事務費、政党交付金(いずれも公金)は幾らか。それを国庫へ自発的返還する気はないか。これら小沢系政治団体に公金から溜め込んだ資金を誰に配ったのか。

(3) 06年~08年の間、政党交付金など公金を原資とする巨額の組織対策
費を子飼いの山岡賢次衆院議員(約17億円)、佐藤泰介元参院議員(約5.3億円)など当時の財務委員長を通じて誰に配ったのか。その明細を明らかにせよ。選挙時に使ったのだとすれば、民主党候補員全員に公平に配るべきだが、親小沢の議員を偏重して配っていないか。公金で私兵を養ってはいないか、公党を私物化していないか。

国会招致を拒否すれば分裂を恐れず小沢氏に離党勧告を出しましょう
しかし、小沢氏は、嘘をついても罰せられない「政治倫理審査会」ですら出席する意思はないようです。田中角栄氏譲りの派閥型金権政治という古い政治手法の実態を知られたくないからでしょうか。しかし、世論調査によれば、70%以上の国民が小沢氏の国会招致を求め、小沢氏の古い政治手法の実態を知りたいと思っています。菅代表も岡田幹事長も、民主党の単なる「一兵卒」である小沢氏が民主党の役員会決定を無視して国会招致を拒否すれば、直ちに小沢氏に離党勧告を突きつけ、民主党のガンとなっている古い政治手法の根を断つべきだと思います。

小沢氏と小沢同調グループが離党し民主党が分裂しても国民は痛くもかゆくもありません。これで政治手法(金権政治かクリーン政治か)でも政策理念でも水と油の党内異分子が民主党からいなくなります。民主党は、岡田、前原、野田という次世代の政治家群を軸として、政治手法や政策理念で近い自民党や公明党、みんなの党と連立政権を樹立し、多数派を形成すればよいだけです。国民は日本国が衰退の危機にある現在、危機を乗り切ることができる、政策理念が一致した絶対多数派(安定政権)をひたすら求めています。

小沢同調グループの「一票稼ぎ」の政策発想にはほとほと愛想が尽きます
小沢氏及び小沢同調グループは、選挙に勝つためだけに作成されたとしか思えない「09年衆院選マニフェスト」にまだ拘泥しています。現在の民主党主流派は、これが「財源なきバラマキ型の八方美人マニフェスト」であったことをはっきり認識しそれを修正しているのです。小沢同調グループと反小沢グループの基本的対立は09年衆院マニフェストを修正するか、修正を拒否するかから発していると言っていいでしょう。

修正を拒否する小沢同調グループは、ムダを省けば財源はあるとまだ言っています。そういいながら、小沢氏の秘書だった松木謙公議員など小沢同調グループの政務三役は予算のムダを省くために行われた「事業仕分け」に終止符を打てと叫んでいるのです。

矛盾だらけですが、彼らは基本的には、ムダを省けば財源はある、埋蔵金はいっぱいある。国債の累積残高を気にせず、消費税論議を否定し、財政再建を棚に上げ、子供手当も農家の戸別所得補償も高速道路の無料化も何もかも、選挙の票になる(と思っている)政策をどんどんやれと言っているのです。

さらに鳩山前総理を含む小沢同調グループは、あれほど敵対していた農協と野合して、日本の農業を滅ぼすTPP(環太平洋経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)には反対と言っています。自由貿易協定の締結を進めるために農業の戸別所得補償をマニフェストに入れたことなどとっくに忘れているのです。

彼らには、自由貿易協定の締結を契機に農業の「抜本的な構造改善」を断行し、競争力をつけ輸出でも稼ぐことができる農業者を生み出す政策などないようです。10アール(一反、300坪)の小農、たとえば農協勤め、役所勤めの土日営農の兼業小農家にも所得保障という小銭をばら撒き彼らの一票を釣り上げるという政策があるだけのように思えます。

「小鳩前政権」が日米同盟の弱体化をもたらし中ロに付け入る隙を与えた
他にもあります。安全保障政策です。尖閣での中国漁船の衝突、ロシア首相の北方領土訪問、北朝鮮による韓国領砲撃と次々に大事件が発生しましたが、これでわれわれは、日本の周囲には中国、北朝鮮、ロシアと民主主義から遠くかけ離れた非常識な国家が存在することを改めて知ることになりました。武力で国際紛争を解決できない国家である日本にとってアメリカの軍事力を抑止力として使える日米同盟の重要性も改めて認識することになりました。

鳩山氏の米軍の有事駐留論や小沢氏の「米軍は第7艦隊だけでよい論」にもとづく沖縄・普天間基地問題への対応策が日米同盟の弱体化に手を貸し、領土問題で中ロに付け入る隙を与える結果になりました。鳩山氏が爺さん(鳩山一郎)譲りのロシア人脈、小沢氏が田中角栄以来の中国人脈が駆使しても、中国による尖閣諸島の領有意思、ロシアの国後、択捉両島の領有意思をくつがえさせることはできないでしょう。

普天間問題の迷走で小鳩政権が危うくした日米同盟を懸命に修復しようとしている前原外務大臣です。菅総理は、自由貿易協定の締結を通じて、国際経済一体化の輪に加わることによって国際関係の緊張緩和の道を探っているように思えます。こうした現政権の方向性にも小沢同調グループは反対しているように思えます。

いま選挙を行えば民主党は大敗します。しかし民主党で一番議席を失うのは09年衆院で小沢氏から一人当たり500万円もらって当選した小沢ガールズ、小沢チルドレンです。今回の党執行部は岡田幹事長です。選挙対策費は公平に分配されるはずです。金がなければ小沢秘書グループでも当選は危ういでしょう。その意味でも岡田さん、前原さん、野田さん、民主党分裂を恐れる必要はありません、どうぞ、国家国民のため、小沢分離を急ぎ、政治手法(金権政治の排除)と政策思想のより近いグループとの政界再編に進んでください。

2010年12月10日 09:34

新年の日本経済は「兎は跳ねる年」になるか

2010年12月9日筆

今年の干支は「寅(虎、とら)」でしたが新年は「卯(兎、うさぎ)」です。兜町の相場格言では今年は「寅千里を走る」でしたが、新年は「兎は跳ねる」ということになります。
 
「寅千里を走る」と威勢が良かった今年はどうだったか。相場は12月に入り好調ですが、今年末の日経平均株価が昨年末の1万546円に届けば株価はかろうじて横ばいを維持することになります。兜町では最後に寅が走り、昨年末をクリアできるという声が支配的になっています。しかし7-9月期まではアジア向け輸出の増加やエコカー、家電エコポイント効果による消費の増加で景気回復が順調でしたが、そのわりに株価の戻りは鈍かったといえます。

ゴールドマン・サックスは年前半に「兎は跳ねる」と予想したが...
では新年は相場格言どおり「兎は跳ねる年」となるのでしょうか。戦後5回の卯(兎)年の日経平均株価の平均上昇率は24・9%でした。子(ね)年の39・0%に次ぐ第2位です。ちなみに子年の相場格言は「子(ねずみ)は繁栄」ですから、格言どおりの株価上昇率ということになります。兜町の相場格言もあながち軽視はできないということになりますね。
 
ゴールドマン・サックスは日本古来の干支による相場占いなど無縁のはずの外資系証券ですが、「ウサギのスタートは強気」と題するレポートを発表しました。このレポートによると、日本の相場は今年と同じパターン(4月高値1万1408円が天井)で前半高、後半安となり、2011年前半に日経平均は1万2000円を回復し後半は下落するとしています。

2011年の前半に「兎が跳ねる」理由は、中国をはじめアジア新興国がインフレ制圧に手を取られている間、日本はデフレ克服のための金融緩和を続けるため外国人が出遅れている日本株を買うのではないかという点が第1。第2に、アメリカ経済の見通しが改善し個人消費が回復、日本の対米輸出が伸びる、第3に円安への反転もあり日本企業の企業収益が上昇し、1株当たり利益は20%のペースで増加するという点も理由として挙げられています。

企業収益が好調に推移するのになぜ株価が安くなるのか、少しわかりにくいのですが、その原因は外国人投資家の姿勢にあると言っています。年前半は中国などがインフレ制圧を行っている間は日本株を買うが、中国などのインフレ制圧が完了した年後半には世界の投資家の投資資金は日本から離れ再び新興アジアに向うからだと言います。情けない話ですが、結局、外国人が日本株を買い、兜町で「兎が跳ねる」のは中国株などがお休みしている半年間だけだとゴールドマン・サックスは言っているのです。

公式予測ではアメリカ経済の回復、東アジアの好調持続が期待される
株価は景気の映し鏡です。景気はどうなるのか、2011年の日本経済は今年同様、アメリカ経済が再失速せず回復を続けることができるか、もう一つ、中国を筆頭にアジアの新興国経済がインフレを克服し再び成長軌道を回復するかどうかに依存します。

日本は、この大借金の状態では財政を出動させて景気を押し上げることは無理ですし、やってはいけないことです。日本は、中国や韓国、ドイツなどに比べ輸出依存度(GDPに占める輸出総額)が極めて低いのですから、遠慮せずにアジア新興国やアメリカ向けに輸出を活発化させ、それを先導役として国内での設備投資を多少でも盛り上げ景気を下支えすることが必要になります。

101210表.jpg

上表は各国の中央銀行や政府機関が出した最新の実質経済成長率の見通しです。これらの2011年予想(日本は年度予想)では、中国経済は高度成長を維持し、アメリカ経済は多少上向くと予測されています。アジア開発銀行(ADB)の予測で中国、韓国、台湾、香港にインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、シンガポールなどASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国を加えた東アジア地域(日本を除く)の成長率は多少鈍化しますが、高水準を維持すると予測されています。ASEAN10カ国のGDPを合計すると日本や中国並みになり、その動きから目が離せなくなってきました。

2011年のアメリカ、中国、日本経済をめぐる不安点は何か
これらの予測が予測どおりになるかどうか、いくつかの注目ポイントを上げておきます。とりわけ2011年の日本経済を左右するアメリカ経済と中国経済が抱える不安点について触れておきます。

(1)アメリカ経済は、景気腰折れ(デフレ懸念)に対応する景気対策が政府債務懸念とインフレ懸念を生み、長期金利を上昇させ景気を冷やし、株価を急落させるリスクを抱えている点です。

アメリカ経済を支える家計は、基本的には貯蓄率を高めて借金を返済し過剰な消費を解消するというバブル崩壊後の「バランスシート調整」過程にあります。9%台(失業者数1500万人)という高失業率もなかなか下がりません。その結果、GDPの7割を占める民間消費が弱く、消費者物価上昇率が下降するデフレ懸念がある状態を続けています。

これに対してFRBは来年6月までに6000億ドル(約50兆円)の国債買い入れを実施して金余り状態を作り出し金利を引き下げ、インフレ期待を高めるという政策をとっています。しかしこれに成功しインフレ期待が高まり過ぎると米国債が売られ長期金利が上昇し景気を冷やすという事態をもたらしかねません。

一方、2011年は、2年間で7850億ドルにのぼったオバマ大統領の景気対策が終了し財政面からの景気対策が息切れする年になりますが、新に総額4000億ドルとも言われる「オバマ減税」(ブッシュ減税の延長を含む減税案)が実施されそうです。減税が消費を盛り上げるという効果が期待されますが、一方でブッシュ減税(総額8000億ドル)の打ち切りが見送られ財政赤字拡大が放置され、国債売り、長期金利の急上昇を招くリスクがあります。

このアメリカの米国債売り、長期金利急上昇が日本に飛び火して、日本国債売り、日本の長期金利急騰に繫がる財政破綻シナリオを考えるとぞっとします。

(2)中国経済は、これまでの金融・財政両面からの景気刺激政策を変更し、金融は引き締め、積極財政は継続というポリシーミックスに転換します。金融引き締めへの転換は資産バブル(インフレ抑制)対策ですが,これがオーバーキル(冷やし過ぎ)となりバブル崩壊に繫がるリスクを抱えています。

中国の経済成長の牽引力はGDPの5割近くを占める総固定資本形成(公共投資、民間設備投資、不動産など建設投資など総投資)の増加でした。この総投資が過熱し鉄鋼などの素材生産能力が過剰になりつつあります。

一方、銀行貸出の急増により不動産投資が急増、住宅価格が急騰しました。社会科学院の調査では住宅価格の29.5%が適正価格を超えるバブル部分だと分析しています。資産価格だけではなく消費者物価の上昇も加速し、10月には政府が許容する上限上昇率3%を大きく上回る4.4%を記録しました。

その結果、中国政府は2011年前半までに過剰生産能力の整理とインフレ(および資産バブル)制圧に取り組むことになります。金融引き締めは預金準備率の引き上げによる融資量の抑制だけでなく貸出金利の連続的引き上げが予想されています。

この引き締めが効き過ぎると不動産価格が暴落、金融危機が表面化し、日本が1990年代に経験したバブル崩壊不況に陥ることになります。これを避けるために積極財政は続け、消費を盛り上げ公共投資や設備投資を下支えすることになります。

中国は金融引き締めと積極財政の微妙なバランスを取りながら景気の過度な後退を回避することになりますが、果たしてうまくいくでしょうか。うまくいかなければ対中輸出が減退し、日本経済や好調な東アジア全体の景気に悪い影響を与えることになります。

(3)最後に日本は、世界の成長センターであるアジア・太平洋地域の中心に位置するという利点を生かし、円高デフレを克服し、国内の期待成長率を高め国内での投資を活発化させる政策が取れるか、正念場を迎えます。それに成功しなければ産業と雇用の空洞化の同時進行を食い止めることができなくなるという点だけ指摘しておきます。


2010年12月 3日 09:40

定年退職男の悲惨を描く小説「孤舟」を読んで

2010年12月2日筆

書名の「孤舟」(こしゅう)は著者・渡辺淳一氏の造語だと思っていましたが、そうではないのですね。

岩波の「国語辞典」を引くと「弧舟」とは「ぽつんと一隻浮かんでいる舟」とありました。「舟」とは、伝馬船のような「小船」のことです。
 
「弧舟」の主人公は、大手広告代理店「東亜電広」の常務執行役員を最後に、退社退職して1年の無職、元サラリーマンです。「東亜電広」は新橋辺りにあるといいますから電通かもしれません。彼は出版関係の営業局長を務めたことがあるという設定ですから、小生が勤務していた出版社にも出入りしていた旧知の電通マンかもしれません。そういうことで「親しみを感じて」といいますか、「身につまされて」といいますか、一気に読み上げてしまいました。
 
主人公は、「定年になって行くところがなく淋しい、毎日、一人でさまざまなところをさ迷っている」、書名の「弧舟」のような人物です。

仕事をしない、稼がない、家に居ついて朝昼晩3食、きっちり食らう男たち
妻にとって「常務」時代の主人公は、朝早く出て夜遅く帰ってくる稼ぎの良い、都合の良い亭主でした。妻は、日中、亭主が留守をしていることを幸いに気軽に出掛けて家の外に自分の生息圏を築いていました。そこに仕事もなく朝から晩まで家にいるという鬱陶しい定年後の亭主を抱え込むことになります。

妻は主人公に再就職を進めるのですが、なかなか定年退職者が働ける職場が見つからない。あったとしてもスーパーの警備員、駐車場の整備係ですから、プライドが高い「元常務」の主人公はそのような仕事をする気になれません。たまたまオフィスビルの管理人にありつくための就職面接を受けるのですが、ここでも「元常務」の肩書きが邪魔になって就職を断念することになります。

妻からすれば、亭主は「仕事をしない、稼げない」のに、朝昼晩3食をきっちり頂く、態度のでかい単なる居候に過ぎないのでしょうか。妻は、朝昼晩の3食を作るだけでも手間を食うのに家事をいっさい手伝わず、出掛けようとすると「どこへ行く」、「いつ帰る」と聞く亭主に妻はもううんざり、なのです。 

この亭主と妻の間では、口論が絶えない日々が繰り返されるようになりました。同居している会社勤めの長女も、勤務先の近くに下宿してたまに帰ってくる長男も最後は妻の味方です。彼らには、いまごろ家に居ついて母親のお荷物になる父親は疎ましい存在であることに変わりはありません。子供たちの成長期に彼らに振り向きもしなかった報いが今出ているのです。

届く年賀状の数もめっきり減ってしまい、会社人生からも遠くなった「元常務」は、家族からも孤立した淋しい存在になってしまったといえるでしょう。

いったい彼にはどういう将来が待っているのでしょうか。その続きを書きますと本が売れません。元同業の出版局長経験者としましては、集英社刊の本書をお買い上げの上、後は読んでのお楽しみと言うほかありません。

小生も「元常務」、家内の自由を奪う「ガジュマルの木」ですが・・・

小生、家内にも『弧舟』を読むことを薦めました。家内も多少興味を持って読んだようですが、半分ぐらい読んで興味を失ったようです。どうして半分読んで興味を失ったのか、恐る恐るお聞きしました。

家内は、「定年退職後、妻のお荷物になるこんな亭主など珍しくもありません。いまさらという感じがしますから」と取り付くしまありません。家内も小説の妻と同じで、小生が仕事にかまけて家を留守にしている間に外にたくさんの親しい友人を持っているようです。住んでいる地域にも情報網があるようです。

家内は、その親しい友人たちや地域の情報網から「退職後の亭主族の悲惨なケース」をいくつも耳にしているようです。

ある有名国立大学の出身で名門会社の技術者だったご主人は、定年退職後、新たな就職先を得られず、毎日朝から酒を飲んで過ごして、とうとう体を壊してしまったそうです。ある有名企業を退職した主人を持つ友人は、退職後主人との折り合いが悪くなり、家庭内別居状態ですがが、娘が結婚するまでは離婚しないといっているようです。

ある友人のご主人は奥さんに「1000円あげるから図書館にでも行ってきなさい」といわれて毎日図書館で暇を潰すようになったといいます。家内は都心の区立図書館によく出掛けるのですが、最近は受験生より高齢者の姿が多く見受けられるようになりました。閲覧室の机の上に「読書中に居眠りをしないで下さい」と張り紙があるのですが、本を持ったままページもめくらず爆睡している男性をよく見かけるようになったと妻は言っていました。

どこに行くにも女房にくっついて離れない定年後の亭主を「濡れ落ち葉」とからかうのは良く知られたことです。「濡れ落ち葉」ならかわいいほうで、退職後の亭主を、岩(妻)に根を伸ばし覆いかぶさり身動きが取れないようにする「ガジュマルの木」にたとえるケースもありますよ、と家内は言います。

小生も出版社の元常務でした。弧舟の主人公同様、家内の「ガジュマルの木」であることも疑いないことです。しかし、退職して4年、稼ぎはほんのわずかですが、経済ジャーナリストとして生涯現役を貫き、調べものをしたり書き物をしたりしていますから、同じガジュマルの木でも多少お目こぼしを頂いているようです。家内には、こころから感謝申し上げます。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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