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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年11月 4日 13:17

FRBの大規模追加緩和に日銀はどう対抗するか

2010年11月4日筆

 米国のFRB(連邦準備理事会)は11月3日、6000億ドルの追加金融緩和を決めました。米市場の事前予想は5000億ドルでしたから「予想の範囲内」ということで、NY市場では対ユーロでドル安が進行したほかは株価、為替、債券とも余り大きく反応しませんでした。

 NY市場では「予想の範囲内」だったかもしれません。しかし、8月27日のバーナンキFRB議長の「追加緩和発言」以来、ドル安、自国通貨高に悩まされてきた日本の外為市場やブラジルなどの資源国、インドネシアなどアジアの途上国の市場にとって「予想の範囲内」であったかどうか、今後の為替市場の動きを見なければ即断できません。

特に心配なのは日本の為替レートや株価に与える影響です。目先はNY市場の落ち着きを反映して円高は小康を保ち、株価も多少反発すると思いますが、その後は予断を許しません。現状は、FRBの追加緩和前に予想された状況となんら変化がないからです。

日米金利差がさらに縮み、中期的に円高がさらに進むという見方も
まず、6000億ドル、邦貨換算約48兆円という長期国債購入による量的緩和規模ですが、半端な額ではありません。NY連銀は、5000億ドルの長期国債購入が行われると長期金利(10年物国債利回り)は0.5%~0.75%下がると予想していました。これを上回る緩和規模ですから、米長期金利の低下は0.75%以上と見てよいでしょう。

 10月3日現在、アメリカの長期金利は2.576%です。これが0.75%以上下がると1.8%台の長期金利になる計算です。これに対してブラジルの長期金利は12%弱、インド、インドネシア、南ア、ロシア、アルゼンチンなどが7%台後半、韓国が5%前後ですから、米国とこれらの高金利国の金利差はさらに拡大します。米国内で低金利のドル資金を借り、高金利のブラジル・リアルに投資すれば(これをドルキャリー・トレードといいます)10%もの利ザヤが稼げるのです。

ドルキャリー・トレードでは、米国で調達したドルを売って高金利通貨を買うことになりますからドル安・高金利国通貨高という状況に変化はありません。では今回のFRB追加緩和によって対円でみたドル安状態になにか変化があるのでしょうか。これも状況はなんら変わらず、市場では、ドル安円高の原因になっている日米の金利差はさらに縮まり中長期的には円高がさらに進むという見方が支配的です。

日米の長期金利差は今年4月には2.5%の差がありましたが、その差は現在1.6%に縮んでいます。日本の長期金利が下がらず米国の長期金利がさらに0.75%以上下がれば、日米の長期金利差は1%を割り込んでしまいます。1%の日米金利差を稼ぐために減価するドルのリスクをとるような日本の投資家はいないでしょう。その結果、日本の投資家のドル買いはさらに減少し、ドル安が進むという状況は変わらないのです。

投機筋はFRBと日銀の金融緩和スタンスの大きな乖離を再び狙う
日銀は10月5日に今回のFRBの追加緩和に先んじて「包括緩和」を行ないました。この追加緩和の規模は5兆円、うち長期国債の追加購入額は1.5兆円でした。この効果は一時的で0・8%台に低下していた日本の長期金利は現在0.945%まで再び上昇しています。長期国債のFRBの追加購入額は約48兆円、日銀の追加購入額は1.5兆円です。FRBと日銀の金融緩和に対するスタンスの差はきわめて大きいといえます。

FRBは、今回の追加緩和の声明文の中で、「今後、長期国債の買い入れペース及び買い入れ規模を定期的に見直し、必要に応じて調整する」といっています。FRBは、失業率が現状の9.5%水準を続け、消費者物価の上昇率がさらに低下しデフレ懸念が払拭できないような状態が続けば、買い入れペースを速め買い入れ規模をさらに拡大するといっているのです。

中間選挙でオバマ民主党が大敗しました。民主党は上院ではかろうじて過半数を維持しましたが、下院では共和党が多数派となり、アメリカでも上下院の「ねじれ状態」が現出しました、共和党は小さな政府と財政赤字の削減を強く主張しており、財政出動による景気刺激はますます難しくなります。そうなるとアメリカの景気対策はFRBの量的金融緩和にますます傾斜、依存することになると予想されます。

このFRBと日銀の金融緩和をめぐるスタンスの大きな乖離をねらって投機筋が巨額のドル売り円買いを仕掛ける可能性があります。明日(11月5日)に繰り上げられた金融政策決定会合で、日銀がどのようなFRBの追加緩和に対する対抗策、つまり円高阻止策を打ち出すか注目されますが、日銀に残された手はそれほど多くはないといえます。

すでに短期金利はゼロ金利で下げ余地はありませんし、長期金利も1%を割り込んでおり米国に比べ下げ余地が小さいといえます。追加的な量的金融緩和によって資金をジャブジャブにしても銀行からカネを借りて国内に投資しようとする企業は殆どないのです。

それでも日銀は、デフレの元になっている円高を止めなければなりません。ドル安円高をもたらす日米金利差の縮小を食い止め円高を阻止するには、日銀はもっと大量に長期国債を買わざるを得なくなります。日銀も量的緩和競争の泥沼にはまり込むことになるのです。

日本のように借り手がない経済が量的緩和競争にはまり込めば、資金は株や土地に流れ込むのが常です。日銀は、消費者物価は上昇していないのに株価や地価が高騰した20年前のバブル経済の再来を懸念することになります。

しかし、円高・デフレで下がり過ぎた株価や地価が多少戻れば経済も明るくなります。日銀が過去のバブル恐怖症をどれだけ克服しているか、それが今後の金融決定会合では問われることになります。

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プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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