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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年11月

2010年11月26日 11:06

日本素通り、日本脱出を防ぐ「法人税率引き下げ」

2010年11月26日筆

財政破綻に陥ったアイルランドが、財政赤字を2014年度までに150億ユーロ(1.65兆円)削減し、GDP比の財政赤字を現在の32%から3%に引き下げるというドラスティックな財政再建計画を打ち出しました。
 
低い法人税率は成長の武器―法人税引き上げを拒否したアイルランド
4年間の歳出削減幅は社会保障費の削減などで100億ユーロ(約1.1兆円)、増税幅は50億ユーロ(約0.55兆円)ということです。このうち小生が注目しているのは増税のほうです。アイルランドは50億ユーロの増税策として法人税率の引き上げではなく消費税率などの引き上げを選択したのです。

アイルランドの法人税実効税率は12.5%とEU平均の27.8%よりかなり低い水準です。ドイツなどはアイルランドの財政再建に当たって「法人税率を引き上げよ」と圧力を掛けました。しかしアイルランドは「低い法人税率で外資を誘致し経済を牽引するという成長モデルを捨てる気はない」としてドイツなどの圧力をかわし、消費税や所得税の引き上げを増税の主軸に置いたのです。

アイルランドは外資の導入による経済成長をもくろみ、32%だった法人税率を4年かけて引き下げ、2003年には法人税率は現在の12.5%まで下がりました。この法人税率の引き下げによってアイルランドにはIBM、インテルなど米国の先端企業、日本からは武田薬品、アステラス製薬など先進諸国の企業が相次いで進出しました。

それらの外資(多国籍企業)が経済成長の原動力になり、2000年には966億ドルに過ぎなかったアイルランドの名目GDPは2007年には2608億ドルへと実に2.7倍になっています。アイルランド政府は、EU平均より低い法人税率は成長の武器であり、成長は税収増をもたらし財政再建の礎になると考えたに違いありません。(財政破綻は不動産バブルの崩壊による金融機関の不良債権危機が原因で法人税率とは直接的な因果関係はありません)。

外資の国内導入によって経済成長の原動力にするという考え方は何もアイルランドだけの特許ではありません。近くでは中国がそうです。中国は2000年にWTO(世界貿易機構)への加盟によって自由貿易の枠組みに入りましたが、それを機に輸出が急増しそれが高度成長を牽引しました。その輸出の7割以上は日本、台湾、ドイツなど外国資本の現地企業からの輸出でした。今もそうです。

現在では、自由貿易協定に積極的なASEAN(東南アジア諸国連合)の中核国・タイが、「8年間法人税ゼロ」という優遇策を出して外資を誘致して輸出で稼ぎ、政情不安にもかかわらず高成長を続けています(詳しくは11月11日の本ブログ「タイへ、タイへ日本企業が流れ込む理由]参照)。

アジア最低の法人税率で成長―日本を追い抜いた高所得国シンガポール
同じくASEANの優等生・シンガポールは、下表で見るように17%というアジアで最も低い法人税実効税率によって外資の導入をはかりました。その結果、経済成長も著しく、2000年に2万3075ドルだった一人当たりGDP(ドル換算)は08年には3万9423ドルと1.7倍になりました。この間、日本の一人当たりGDPはほとんど増えず、リーマンショック前の07年にはシンガポールに追い抜かれアジア1位の座を譲り渡すことになりました。

11.25表.JPG

上表の数字について少し解説しておきましょう。日本の法人実効税率がアメリカと並んで世界で最も高いと書くと、必ず反論する人がいます。日本には租税特別措置などたくさんの政策減税があるから実際の法人税負担は少ないと。この尻馬に乗って財務省は法人税5%引き下げの財源に政策減税の縮減(増税)をもくろんでいます。

しかし政策減税措置はどこの国でもたくさん存在します。上表の「法人税負担実績」は、表面税率ともいえる「法人実効税率」から政策減税分を差し引いた実質的な法人税率というべきものです。実質税率でも日本は最高率です(なのに政策減税を縮減すると財務省は言っているのです)。シンガポールの実質法人税率は6.7%に過ぎません。シンガポールに日本企業も外国企業も大きな魅力を感じるはずです。

なおこの資料は08年9月経済産業省で開かれた「経済社会の持続的発展のための企業税制改革に関する研究会」に提出された公の資料です。この資料の中に各社の財務諸表からはじき出した04年度~06年度平均(連結ベース)の「税金等調整前当期利益(経常利益)に対する法人課税負担率実績」も記載されています。これによると日本のシャープの負担率実績は36.8%、韓国のサムソン電子16.7%、米国のインテル29.5%、中国のペトロチャイナ27.1%、そしてシンガポールのシンガポール・テレコム9.4%となっています。リーマンショック前の正常な経済状態での「負担率実績」で見ても日本のシャープがもっとも高いのです。

専門職外国人も外資系企業も日本素通り、なぜか
日経新聞に「専門職外国人日本を素通り」(2010年11月22日付)という記事が出ました。その中にスイスのIMD(経営開発国際研究所)が発表した「高度人材から見た労働市場の魅力度ランキング」が掲載されていました。日本には実に嘆かわしい数字でした。魅力度第1位はスイスですが、第2位シンガポール、第3位米国、第4位香港の順でした。日本は19位の中国、33位の韓国の後塵を拝しなんと42位にランクされていたのです。先進国では最下位でしょう。

記事によると第2位のシンガポールは、単純労働者には流入制限はありますが、一定の学歴・資格を持ち、一定所得以上の人材は人数に受け入れ制限はありません。知識や資格を持った外国人の高度人材を採用した企業に対する税制上の優遇措置もあるそうです。その結果、日本からも科学者や技術者が流出、世界から高度人材が集まっています。シンガポールの外国人は03年の74万人が120万人に増え全人口の25%に達しています。日本はシンガポールの頭脳立国政策に大いに学ぶ必要があります。

実は、高度人材だけではなく外資系企業も日本からシンガポールや香港、上海へアジア本社機能を続々移転しています。外国の報道機関、外国の金融機関、多国籍企業の中には、日本を地方支所扱いに格下げして、少数の特派員、社員を残すだけになっているところも少なくありません。

なぜ外資系企業が日本進出をためらい、日本から脱出するのでしょうか。成長力が衰えた日本では儲からないというのが最大の理由だと思いますが、そのほかにも理由があります。経産省による外資系企業に対するの「対日直接投資に関する意識調査」(08年、636社対象)によると以下のようなビジネスの阻害要因が日本にはあると指摘しています。

外資系企業が指摘する阻害要因は、第1位「人件費が高い」、第2位「品質の要求水準が高い」、第3位「語学堪能者の確保が難しい」、第4位「不動産(家賃)が高い」の順になっています。ビジネスコストの高さについては人件費や家賃など他に、「行政手続が煩雑」、「税金が高い」、「税制上の特典がない」という点も多くの外資系企業が指摘しています。日本でのビジネスコストの高さには法人税率を含む高い行政コストが含まれることは明らかです。

法人税5%引き下げで121万人の雇用維持効果という試算もある
法人税率の引き下げには、国内企業の海外脱出(産業・雇用の空洞化)を食い止める効果と海外企業の国内誘致に役立つという二つの側面があります。

11月4日の税制調査会に提出された経産省の資料によると、法人税率を5%引き下げた場合、海外への工場移転を抑制する効果として9.1兆円、工場が国内に回帰する効果として5.3兆円、合わせて14.4兆円のGDP押し上げ効果があると試算されています。その結果、最大で121万人(製造業で65万人)の雇用維持効果があるといっています。

5%程度の引き下げでそんなに大きな効果があるとは到底思えません。すべてのコストが日本より低い中国やASEAN諸国に対抗して海外流出を止めるには10%以上の法人税率引き下げが必要でしょう。

さらに経産省は、法人税引き下げによって海外からの直接投資が増えGDPが8500億円押し上げられるとも試算しています。ささやかな数字ですが、法人税の引き下げによって日本からの高度人材の流出や外資系企業の日本脱出を食い止めることもできるのです。

日本企業が日本市場に投資しない時代です。アイルランドやシンガポールのように外資の導入策をとって外国人に日本市場を活性化してもらうことも必要です。そして、高度人材の日本素通りを回避する策は、シンガポールに学べ、ですね。

2010年11月18日 13:31

大卒就職内定率57.6%、就職氷河期が再来した

2010年11月18日筆
 
心臓が凍りつくような数字が発表されました。文部科学省と厚生労働省の調査によると、来春卒業予定の大学生の10月1日時点での就職内定率が57.6%に落ち込みました。10月1日という就活の最終局面でも42.4%の新卒者は就職先が決まらないというのですから、大変な事態です。

派遣など非正規就業者が急増し長期にわたって滞留するきっかけになった「就職氷河期」は2000年代前半です。その最悪期の03年の内定率が60.2%でしたから今年の57.6%はこの最悪期を下回ることになります。

 「就職しなかった、就職できなかった卒業生」はどうなる
この最悪状態で卒業後はどうなるのでしょうか。文科省の「学校基本調査」に今年春卒業した学部卒業者の進路をフォローすればその傾向が分かります。
2010年春の学部卒業者数54万1000人のうち就職者数32万9000人で就職率60.8%でした。「就職しなかったあるいは就職できなかった卒業生」は残りの39.2%、21万2000人です。

このうち大学院等への進学者は7万3000人(卒業者比13.4%)、専修学校・外国の学校等入学者が1万3000人(同2.5%)と卒業者の約16%が大学院への進学や資格習得で学び続けるということになりますが、その多くは再度の就職活動に備えて「学び続けている」のではないでしょうか。

大学院や専修学校で「学び続ける」費用がある卒業生はまだ幸せです。就職もできず、「学び続ける費用」も出せない卒業生は、パートや派遣、アルバイトなどで稼ぐほかなく、「一時的な仕事に就いた」卒業生は1万9000人(同3.6%)です。ほかに就職も進学もしていない卒業生(自宅待機?)が8万7000人(同16.1%)にのぼります。

以上のような「就職しなかったあるいは就職できなかった卒業生」の何パーセントが近い将来の就職活動によって職を得られるか、大いに不安です。2000年代前半の「就職氷河期」に就職できなかった卒業生の中には今も年収200万円の非正規就業を迫られている人が少なくありません。今年の就職内定率57.4%は、こうした非正規就業の卒業生をさらに増加させる危険が大きくなったというほかありません。

景気が良くなれば就職内定率は改善するのか
景気が良くなれば、大学新卒者の就職内定率は改善するのでしょうか。改善すると思うから大学院等への進学、就職留年、自宅待機を続けているのだと思います。実際はどうでしょうか。

景気は09年3月を底に回復を続けてきました。実質GDP(年率換算)は最悪だった09年1-3月期の515兆円から直近の2010年7-9月期には547兆円まで回復しています。しかし就職内定率は08年の69.9%をピークに下げ続けています。

完全失業率や就職内定率などの雇用統計は景気の回復から遅れて改善する「遅行指標」といわれます。完全失業率は09年半ばの5.4%をピークに直近9月には5.0%へわずかですが改善しています。有効求人倍率も5月から9ヶ月連続改善しています。しかし就職内定率だけは景気には関係なく下げ続け過去最低を更新してしまいました。

なぜなのでしょうか。その理由は多々ありますが、小生が最も気になるのは「新卒の職場が海外に流出しているからだ」という理由です。

日本国内では、新規開業件数が大きく減少し、新しい職場が生まれていません。既存企業は大企業を中心に国内の工場・事務所を中国、香港やタイ、シンガポールなどアジアなどに続々と移転しています。中小企業の海外流出も今後進むに違いありません。

内需型企業も続々海外流出、ますます増加する外国人採用
日本のビッグビジネスのグローバル採用はさらに活発化する勢いです。一例を挙げれば、パナソニックは2011年度の新卒採用人数1390人のうち海外での採用人数は1100人、国内採用は残り290人と海外採用の4分の1に過ぎません(「週刊東洋経済」11月13日号の「就職新氷河期」特集参照)。

国際展開するパナソニックやソニー、ホンダなどの輸出ハイテク企業のグローバル採用は自然な流れだと思います。グローバルな資金の流れをつかまえて商売する商社、証券、金融などの業界も外国人採用を増やさなければ生き残ることはできません。

これに加えて最近顕著なのは内需型の国内企業のグローバル採用です。すでにユニクロ事業の海外拡充を打ち出したファーストリテイリング、海外の電子商取引との提携が活発化しグローバル化を急いでいる楽天が外国人採用を大きく増やしています。この2社は社内の公用語を英語にすると宣言して話題を呼びました。

キリンビール、アサヒビール、サントリー、ヤクルト、キッコーマン、味の素、ヤマト運輸などかつての内需型の代表選手だったビッグビジネスも、国内市場の飽和に限界を見て取り成長するアジアの途上国に続々進出しています。現地採用の社員がさらに増えていくことでしょう。

内需型企業の職場すら海外へ流出しているのです。日本の学部新卒は、国内のブランド大学だ、非ブランド大学と大学同士で競争しているだけでなく、中国やシンガポール、インド、韓国など海外の学部新卒と競わねばならない時代になったのです。

儲からない日本を早く儲かる日本に戻さないと職場は帰ってこない
第一生命の推計では、海外に流出した雇用は08年1年間だけで96万人に達しているといいます。この3分の1でも国内にとどまってくれれば新卒の就職内定率は大きく好転するはずです。しかし、企業は国内にとどまっている限りグローバル競争に生き残れません。企業に向って政府が海外に進出するなといえば、企業側は、「政府は私に死ねというのか」と反論するのが落ちです。

このブログで何度も触れていますから詳しくは繰り返しませんが、なぜ企業は日本国内にとどまらないのか、それは「日本経済の期待成長率が低下し国内への投資活動が衰退している」からです。儲からないのに税金が高い、規制が多く自由な企業活動ができないような国に投資する企業家はいません。だから、国内に職場は生まれず、海外に職場が流出するのです。

菅総理は、「1に雇用、2に雇用、3に雇用」と叫んでいますが、儲からない日本を早く儲かる日本に戻さなければ職場は日本に帰ってきません。正解は「1に成長、2に成長、3に成長」です。職場を作るのは企業です。国内の成長、つまり企業の成長や職場の創出を妨げているアンチ・ビジネスの政策(今回は触れませんが、その中身は折にふれ書いて来ましたし、今後も書きます)は直ちに引っ込めるべきだと思いますが、どうでしょうか。

2010年11月11日 11:42

タイへ、タイへと日本企業が流れ込む理由

2010年11月11日筆

タイといえば、黄シャツを着たデモ隊が首都バンコクの中心部を占拠したかと思えば、今度は赤シャツを着たデモ隊が占拠するという騒然としたテレビ画面がフラッシュバックされます。

黄シャツ隊は、2006年に元首相タクシン氏を失脚に追い込んだ「民主市民連合」という政治組織にリードされたグループです。赤シャツ隊は、失脚したタクシン元首相を支持する「反独裁民主統一戦線」に主導されたグループで、今年4月、首都中心部を占拠して、軍事クーデターで就任した現アピシット首相に反対して議会解散を迫りました。

そんな政治混乱、政情不安が繰り返される、言ってみれば「カントリーリスク」が一杯のタイに、日本のビッグビジネスが進出、相次いで最新鋭の工場を建設しているというではありませんか。

タイ製日本車の逆輸入―「日産マーチ・ショック」はまだ序の口?
日産自動車は、この7月、グローバル戦略を担うコンパクトカー「マーチ」の新型車をタイ、中国、インド、メキシコで生産すると発表しました。日本仕様の新型マーチは横浜・追浜工場製ではなくタイ日産製となり、日本市場ではタイから輸入された「マーチ」が販売されることになりました。日本のユーザーにも親しまれた戦略車が日本製ではなくタイ製になったことに衝撃を受けたマスコミは、これを「日産マーチ・ショック」と名付けました。

ホンダも11月からタイで新型ロードスポーツバイク「CBK250R」の生産を開始し、来年初めから日本、インドネシア、マレーシアなどASEAN諸国に輸出販売すると発表しました。部品の95%はタイ、インド、中国などの域内から調達するといいます。これもタイから日本への逆輸入になります。

トヨタも、いまもっとも売れているハイブリッド車「プリウス」をタイのチャンチェンサオ県にあるゲートウェイ工場で生産すると発表しました。さすがに日本への逆輸入はないようですが、すでにタイで生産している「カムリ」同様、中国、オーストラリア、米国への輸出生産も行われるようです。

タイには、タイヤのブリチストン、住友ゴムなど自動車関連メーカーの現地生産も進んでいます。未確認ですが、タイに日系の自動車部品メーカー100社が工場移転する準備を始めたと報道されてもいます。

2010年からASEAN6ヶ国の関税がゼロになった
この政情不安のタイへ、なぜ堰を切ったように日本の自動車産業が工場を移転しようとしているのでしょうか。何か理由があるはずです。

その第一の理由は、タイがアジアで自由貿易協定に先駆しているASEAN(東南アジア諸国連合)の中核メンバーであることです。

少し解説しますと、ASEANは1961年にタイ、フィリピン、マレーシア(旧マラヤ連邦)の3カ国からスタートし、67年にインドネシア、シンガポールを加えASEAN憲章を採択して正式に発足しました。84年にブルネイが参加し、ASEAN原加盟国は6ヶ国になりました。その後、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアが加わり新加盟4カ国と呼ばれています。

ASEANは経済、政治、安全保障などでの地域協力機構ですが、2015年までにASEAN経済共同体(AEC)を発足させる計画です。これに先行して1993年にはASEAN自由貿易協定(AFTA)が結ばれ、段階的に関税率の引き下げや非関税障壁の撤廃が行われてきました。

その結果、今2010年からタイ、インドネシアなど原加盟6ヶ国の域内取引については関税が完全撤廃されました。つまり6ヶ国間の関税はゼロ、6ヶ国間の貿易取引は1ヶ国での国内取引と同様になったのです。残る新加盟4カ国も「経済共同体」ができる2015年までに関税をゼロにすることになっています。2015年にはEU(ヨーロッパ共同体)に似た経済共同体が東南アジアに出来上がるのです。
        
中国、インド、インドネシアの成長トライアングルの中点に位置する
先進国クラブといわれるOECD(経済協力開発機構)もASEANの台頭を無視できず、今年からタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナムの主要6ヶ国の経済予測を発表し始めました。6ヶ国の2010年の平均実質経済成長率は7.3%、11年~15年の5ヵ年平均の成長率は6.0%になると予測しています。

タイは、人口4億人のASEAN10ヶ国の中核メンバーですが、その背後には人口13億3700万人の中国、11億800万人のインドが控えています。ですからタイは地政学的に言えば、中国、インド、それに人口2億2700万人のインドネシアという高度成長3カ国のトライアングル(3角形)の中点という好立地を占めていることになります。

地政学面での好立地だけではありません。ASEAN原加盟6ヶ国の関税がゼロになったのに歩調を合わせるかのように、ASEAN6ヶ国と中国との間で締結された自由貿易協定(AC-FTA)が発効し、2010年1月20日から中国との貿易取引が90%の品目で関税がゼロになったのです。

ですから日本企業はタイに工場を続々と作っているのです。タイで生産された日本企業の製品はインドネシアやマレーシア、フィリピンなどASEAN域内に関税ゼロで輸出できるだけでなく、中国へも関税ゼロで輸出できるのです。日本は中国とは自由貿易協定を結んでいませんから、タイへの進出で対中関税ゼロのメリットを享受しようというわけです。タイに立地すれば、日本企業はタイ企業と同様、成長トライアングルの中点に位置できることになります。

関税ゼロのメリットだけでなく、進出後、最高8年間は法人税ゼロ
タイ進出のメリットはそれだけではありません。日本企業の最大の進出先である中国では昨年来、従業員の賃上げストが頻発し人件費が上昇する傾向にあります、尖閣問題で明らかになりましたが中国には「政治リスク」もあります。

これらの「中国リスク」を分散する意味でも、タイ進出にメリットがあります。ちなみにタイ・バンコクのドル換算最低賃金は月額125.4ドルで中国・上海の140.6ドルより低いのです(ジェトロ調べ。日本・横浜での最低賃金は1385.6ドルでバンコク、上海の10倍以上です)。タイの対日感情は中国よりはるかに良好です。

まだあります。タイの投資委員会(BOI)や工業団地公社(IETA)の奨励を受けて進出すれば税制の恩典も得られます。たとえばBOIの奨励を受ければ、法人所得税(通常30%)が最高8年間免税になります。機械設備や原材料の輸入税も減免されます。加えて外国人の土地所有が認められますし、外国資本の100%出資もが認められておりし、中国進出より自由度がはるかに高いのです。

タイはASEANに居を構え、ASEANを軸とした自由貿易協定の翼を広げ、日本を筆頭に外資の積極的導入を図っているのです。その結果、タイでは、黄シャツ、赤シャツのデモ隊による中心部占拠で騒然としている時も着実に経済は成長していました。今年の経済成長率はOECDの予測では7.0%となりASEANではシンガポールに次ぐ高さです。最近は株価もうなぎ上りです。

日本の法人税制や自由貿易協定(FTA)戦略は、韓国に学ぶだけでなくタイにも学ぶ必要があるのではないでしょうか。そうしなければ日本企業は韓国企業との競争に負けるだけでなく、多くの工場がタイに移転し日本は空っぽ(空洞化)になってしまう恐れがあります。

2010年11月 4日 13:17

FRBの大規模追加緩和に日銀はどう対抗するか

2010年11月4日筆

 米国のFRB(連邦準備理事会)は11月3日、6000億ドルの追加金融緩和を決めました。米市場の事前予想は5000億ドルでしたから「予想の範囲内」ということで、NY市場では対ユーロでドル安が進行したほかは株価、為替、債券とも余り大きく反応しませんでした。

 NY市場では「予想の範囲内」だったかもしれません。しかし、8月27日のバーナンキFRB議長の「追加緩和発言」以来、ドル安、自国通貨高に悩まされてきた日本の外為市場やブラジルなどの資源国、インドネシアなどアジアの途上国の市場にとって「予想の範囲内」であったかどうか、今後の為替市場の動きを見なければ即断できません。

特に心配なのは日本の為替レートや株価に与える影響です。目先はNY市場の落ち着きを反映して円高は小康を保ち、株価も多少反発すると思いますが、その後は予断を許しません。現状は、FRBの追加緩和前に予想された状況となんら変化がないからです。

日米金利差がさらに縮み、中期的に円高がさらに進むという見方も
まず、6000億ドル、邦貨換算約48兆円という長期国債購入による量的緩和規模ですが、半端な額ではありません。NY連銀は、5000億ドルの長期国債購入が行われると長期金利(10年物国債利回り)は0.5%~0.75%下がると予想していました。これを上回る緩和規模ですから、米長期金利の低下は0.75%以上と見てよいでしょう。

 10月3日現在、アメリカの長期金利は2.576%です。これが0.75%以上下がると1.8%台の長期金利になる計算です。これに対してブラジルの長期金利は12%弱、インド、インドネシア、南ア、ロシア、アルゼンチンなどが7%台後半、韓国が5%前後ですから、米国とこれらの高金利国の金利差はさらに拡大します。米国内で低金利のドル資金を借り、高金利のブラジル・リアルに投資すれば(これをドルキャリー・トレードといいます)10%もの利ザヤが稼げるのです。

ドルキャリー・トレードでは、米国で調達したドルを売って高金利通貨を買うことになりますからドル安・高金利国通貨高という状況に変化はありません。では今回のFRB追加緩和によって対円でみたドル安状態になにか変化があるのでしょうか。これも状況はなんら変わらず、市場では、ドル安円高の原因になっている日米の金利差はさらに縮まり中長期的には円高がさらに進むという見方が支配的です。

日米の長期金利差は今年4月には2.5%の差がありましたが、その差は現在1.6%に縮んでいます。日本の長期金利が下がらず米国の長期金利がさらに0.75%以上下がれば、日米の長期金利差は1%を割り込んでしまいます。1%の日米金利差を稼ぐために減価するドルのリスクをとるような日本の投資家はいないでしょう。その結果、日本の投資家のドル買いはさらに減少し、ドル安が進むという状況は変わらないのです。

投機筋はFRBと日銀の金融緩和スタンスの大きな乖離を再び狙う
日銀は10月5日に今回のFRBの追加緩和に先んじて「包括緩和」を行ないました。この追加緩和の規模は5兆円、うち長期国債の追加購入額は1.5兆円でした。この効果は一時的で0・8%台に低下していた日本の長期金利は現在0.945%まで再び上昇しています。長期国債のFRBの追加購入額は約48兆円、日銀の追加購入額は1.5兆円です。FRBと日銀の金融緩和に対するスタンスの差はきわめて大きいといえます。

FRBは、今回の追加緩和の声明文の中で、「今後、長期国債の買い入れペース及び買い入れ規模を定期的に見直し、必要に応じて調整する」といっています。FRBは、失業率が現状の9.5%水準を続け、消費者物価の上昇率がさらに低下しデフレ懸念が払拭できないような状態が続けば、買い入れペースを速め買い入れ規模をさらに拡大するといっているのです。

中間選挙でオバマ民主党が大敗しました。民主党は上院ではかろうじて過半数を維持しましたが、下院では共和党が多数派となり、アメリカでも上下院の「ねじれ状態」が現出しました、共和党は小さな政府と財政赤字の削減を強く主張しており、財政出動による景気刺激はますます難しくなります。そうなるとアメリカの景気対策はFRBの量的金融緩和にますます傾斜、依存することになると予想されます。

このFRBと日銀の金融緩和をめぐるスタンスの大きな乖離をねらって投機筋が巨額のドル売り円買いを仕掛ける可能性があります。明日(11月5日)に繰り上げられた金融政策決定会合で、日銀がどのようなFRBの追加緩和に対する対抗策、つまり円高阻止策を打ち出すか注目されますが、日銀に残された手はそれほど多くはないといえます。

すでに短期金利はゼロ金利で下げ余地はありませんし、長期金利も1%を割り込んでおり米国に比べ下げ余地が小さいといえます。追加的な量的金融緩和によって資金をジャブジャブにしても銀行からカネを借りて国内に投資しようとする企業は殆どないのです。

それでも日銀は、デフレの元になっている円高を止めなければなりません。ドル安円高をもたらす日米金利差の縮小を食い止め円高を阻止するには、日銀はもっと大量に長期国債を買わざるを得なくなります。日銀も量的緩和競争の泥沼にはまり込むことになるのです。

日本のように借り手がない経済が量的緩和競争にはまり込めば、資金は株や土地に流れ込むのが常です。日銀は、消費者物価は上昇していないのに株価や地価が高騰した20年前のバブル経済の再来を懸念することになります。

しかし、円高・デフレで下がり過ぎた株価や地価が多少戻れば経済も明るくなります。日銀が過去のバブル恐怖症をどれだけ克服しているか、それが今後の金融決定会合では問われることになります。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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