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2010年10月27日 11:31

TPPというバスに乗り遅れ、韓国に負ける?

2010年10月27日筆

菅総理が「参加を検討したい」と口火を切った環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)をめぐって小沢・鳩山連合軍が「政局にするぞ」と脅しを掛け、反対の狼煙を上げています。

消費税率引き上げの「検討」にせよ、今回のTPPへの参加検討にせよ、理に適った至極まともな提案だと思います。これに野党が反対するのならまだ分かるのですが、与党民主党の内部から政権を揺さぶる反対が出てくるのです。小沢・鳩山連合軍は今度も票を稼ぎ権力を簒奪することを目当てに特定少数勢力の利権誘導を図り、理の通らぬ反対論を繰り返しているように小生は思えます。これにまた国民新党、社民党が便乗しています。味方であるはずの与党内に最大の反対勢力を抱えている菅総理にリーダーシップを発揮せよというのは、ないものねだりの無理難題というものです。

TPPは、二国間のFTA(自由貿易協定)をさらに進めたもので、参加者がすべての品目で関税を撤廃してお互い自由に貿易を行うというグループ協定です。すでに太平洋を挟んでチリとニュージーランド、ブルネイとシンガポールの4カ国が協定を結んでいます。この4カ国に環太平洋を時計回りにアメリカ、ペルー、豪州、マレーシア、ベトナムの5カ国が参加協議に踏み切り、その協議に日本も加わろうというのが菅総理の提案なのです。

このTPPにはカナダ、メキシコ、タイ、それに中国、韓国も参加を検討しているようです。これに参加しなければ、日本は、環太平洋の主要な国々が関税ゼロで互いに自由な交易を行うという地域経済圏から排除され、ひとり高い輸出関税率のハンデを背負って国際経済活動を行うことになるのです。

FTA締結でさらに対日競争力を増す韓国ビジネス
今後、参加交渉を始める国々の中では、お隣の韓国が特に積極的で、参加は時間の問題だといわれています。韓国は今ではアメリカ、EU、中国・アジア市場で日本の最も強力な競争相手になっている感があります。その韓国がTPPに参加して日本が参加しなかった場合、日本は韓国に対して競争上、2重苦、3重苦を背負うことになります。

すでに韓国は、輸出競争力において日本に急速に追いつき、一部ではすでに追い越してしまっています。日本が得意とした電子機器では、いつの間にか韓国のサムソン電子に世界首位を奪われてしまいました。サムソン電子のシェアは、薄型テレビ、大型液晶パネル、半導体で世界首位、携帯電話ではノキアについで世界2位です。売上高、純利益で比べてもサムソン電子は日本を代表する電子機器メーカーのパナソニック、ソニーを大きく引き離しています。

日本の独断場と思われていた原子力発電でも高速鉄道でも、世界の受注競争に韓国勢が急速に食い込んできました。リチウムイオン電池、LED(発光ダイオード)、3D(3次元映像)、ネット検索やオンラインゲームなど先端分野でも韓国勢の足音が日本勢のすぐ後ろから聞こえ始めています。

こうした韓国の対日競争力上昇の背後には、韓国が競争条件のさまざまな面で相対的優位に立っているという事情があります。下表をごらん下さい。

10.27表.JPG

まず第1は、韓国ウォンの大幅な下落です。リーマンショック前の07年に比べ直近の韓国ウォンは対日本円で46%も下落しています。このウォン安円高によって輸出市場での日本勢の価格競争力は韓国勢にすでに46%も劣化しているのです。

第2は法人実効税率での韓国の優位です。韓国の法人実効税率は24.20%でアジアではシンガポールの17%に次いで低いのです。日本はアメリカと並んで世界で最も高い法人実効税率で、韓国とは16%近い税率差があります。日本企業は為替レート差46%と法人実効税率差16%、あわせて62%ものハンデを背負って韓国企業と競争しているといえます。

それに、FTA比率のハンデが加わるのです。韓国政府のFTA(自由貿易協定)への取り組みはきわめて積極的です。韓国の発効済み、署名済みのFTA締結国数は日本に比べ数は少ないのですが、ASEAN、インド、米国、EUなど大きな、主要な貿易相手国・地域とFTAを結んでいます。その結果、貿易総額に占めるFTA締結国の貿易割合は約40%(上表FTA比率)に達しています。日本にFTA比率は締結したばかりのインドを含め17%に過ぎません。TPPに参加すれば韓国のFTA比率は70%を上回るでしょう。

韓国はEUとの間でFTAに合意し調印済みです。EUには現在、自動車には10%、液晶テレビには14%の輸入関税が課せられています。FTAが発効すれば、韓国製の液晶テレビや自動車の輸出関税はいずれゼロになります。日本とEUのFTA交渉は農業問題などが障害になって暗礁に乗り上げ締結のめどすら立っていません。日本企業はEU市場でも韓国企業に対して10%以上の競争ハンデを背負うのです。

「1.5%の第一次産業のために98.5%のかなりの部分が犠牲に」
日本のFTA比率は、すでに韓国より大きく劣っています。将来もその差が広がりそうです。なぜ日本のFTA比率が高まらないのか。その理由は、ひとえに日本の農業問題の深刻さと農業保護を叫ぶ政治家にあります。

TPPの交渉役をまかされた前原誠司外相は、そのことを見事な表現で言い当てています。「第1次産業のGDPに占める割合は1.5%に過ぎない。1.5%を守るために98.5%のかなりの部分が犠牲になっている」と。

正確に言いますと、農水省の基本データ集によりますと農林水産業の総生産は5兆6295億円で08年度のGDP494兆円の1.14%です。前原氏の数字よりさらに小さくなります。この1.14%に足をすくわれ、日本は自由貿易の輪の中に入れず、産業の競争力をどんどん劣化させているのです。


農水産業が自由貿易交渉の阻害要因になるのは韓国も同様でした。しかし、韓国には「自由貿易で生きる」という政府の決断、政治家のリーダーシップがありました。韓国企業は1997年のアジア通貨危機の後、大胆な経済構造と経営改革に踏み切り今日の競争力基盤を築きました。韓国政府はこれに歩調を合わせて輸出立国へ大きく舵を切ったのです。その武器がFTAでした。

そして韓国はFTA締結を進めるために、国内農業に対する体系的な構造改善策を採用しました。FTA締結に備え農業・農村総合対策として総額119兆ウォンにのぼる中長期の投融資計画(2004年~2013年)を打ち出ししたのです。国内農業に大きな影響が予想される韓米FTAの締結に際しては総額20.4兆ウォン(当時100ウォン=12円)の投融資計画(2008年~2017年)を追加しました。

小沢・鳩山連合の妨害で日本の産業も日本の農業も共倒れの危機に
誤解がないように述べておきますが、韓国の農業・農村対策は、日本の民主党が実行している小規模な兼業農家、日曜農家にも小遣いをばら撒くような選挙目当ての戸別所得保障制度とは大いに異なります。

2007年に韓国政府が発表した「韓米FTAに対する農業部門への支援策」(ジェトロ仮訳)によりますと、
「農業人のうち、趣味で農業を営むものや農業以外の所得が高い兼業農家は農業政策支援の対象から除外する」
「農業を主業とする農家と農業法人を韓国農業の中枢として育成していく」
「高齢農業人の経営移譲を誘導する政策を拡大し、農地など生産要素が専業農業者に集中できる環境を整えていく」
とうたっています。

以上でお分かりのように、韓国の農業対策の主眼は、専業農業者の育成や規模の拡大による農業生産性の引き上げ、ひいては農産物の輸出競争力の引き上げにあることは明白です。韓米FTA締結で追加された投融資支援20.4兆ウォンのうち94%に当たる19.2兆ウォンは競争力強化に当てられます。

日本は韓国に倣って、日本経済の衰退を招かないために「98.5%」の産業のためにFTA締結を推し進め、その犠牲になるとされる「1.5%」の第一次産業のための抜本策を採用すべき時に来ているというほかありません。

財源はあります。現在でも、上述した5.6兆円の農林水産業の総生産を維持するために国と地方自治体あわせて毎年3.9兆円もの農業予算が投じられているのです。農家への戸別所得保障を含むこの農業予算のすべてを抜本的に組み替え、FTA締結に備える農業対策費用に回せばよいのです。

そうしなければ今後も農業後継者は現れません。現在65.8歳に達する農業就業者の平均年齢は10年後には75歳になり、日本の農業は崩壊しかねません。小沢・鳩山連合の言うまま、TPPというバスに乗り遅れ、後継者が出てこない農業を現状のまま放置すれば、日本産業も日本農業も共倒れになってしまうでしょうね。とても残念ですが......。

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QuonNetコミュニティ | 2010年10月27日 11:55
TPP #keizai
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chakuro.com-ガンプラ日記にょ | 2010年11月 7日 18:03

この記事へのコメント

1. Posted by koku 2010年10月29日 11:58

読んでて日本の政治家のだらしなさにがっかり感がひとしおです。
日本の農業は、兼業農家が多くTPPになっても大部分は困らないはずです。しかも補助金と票の取引をしていて、これを土建業者がやったら大非難されるのに、農業の場合は誰も何も言わないという不思議がまかり通ってます。

2. Posted by ののの 2010年10月31日 19:09

日本の政治家には明確なプランがある。

(1)TPP不参加
(2)ブロック化経済の枠外となり、貿易立国が破綻、経済悪化、財政破綻、国債暴落。
(3)国債暴落により円安。農作物の価格競争力向上。食料輸出の増加。国内に食料がまわらなくなる。
(4)都市部の貧民層は、食料入手が困難になり餓死。
(5)食料生産能力を持つ農家の権力は増大し、それに支えられた政治家の権力はますます強固になる。

・・・TPP不参加は、政治家や農家にとって最良の戦略です。TPP不参加による経済破綻が実現すれば、国内における農家は決定的な覇権を手に入れるでしょう。農家の農家による農家のための政治が実現するのです。

3. Posted by ののの 2010年10月31日 19:26

具体的には、戦争直後の日本みたいなイメージ。

4. Posted by www 2010年11月13日 18:23

韓国はTPPは無理だとの報道がありました。日本もやる意味は薄れたでしょう。

法人税実効税率は実際払っていない法人もあり、実際は韓国と変わらないと思います。なぜ意味のない数字をつかうのでしょうか。ソニーは前回12.9%ですよ。

農家の届け出年齢と実際年齢も違います。実態をつかんでいないと思います。

5. Posted by しおさん 2010年12月14日 14:15

韓国が輸出を伸ばしているのはFTAのせいではない。なんといってもウォン安である。円を韓国並みに安くできれば、韓国がEUに10%の関税なしになっても、現在よりずっと日本のほうが競争力がつく。政府がやるべきは拙速なTPP参加ではなく、円安対策だ。

6. Posted by 名無しでおま 2011年1月24日 01:37

TPP参加だと、10年で、いや早ければ5年で日本の名目GDP(円ベース)は半減する。
それでもやるのか?
わけがわからない。

7. Posted by 777 2011年2月10日 18:02

私もTPPに大賛成

TPPに参加すれば食べ物も今の1/10になるから、社員に払う給料も今の1/5にできる。

高級ソープも今の1/5で利用できる様になる。

そして企業の競争力が飛躍的に大きくなる。 いい事づくめだね。

俺の会社でも今使ってる日本人パートを全部解雇して、中国人移民の労働者を雇いたい。 中国人なら給料半分以下でも日本人パートと同じように働くから、会社の利益がすごく良くなる。

俺なら絶対に安い外人の移民を雇いたい。こっちの仕事は日本語なんてできなくても大丈夫だから。


首になった日本人は中国に行って、日系企業に時給200円で現地採用して貰えばいいんだ。 中国に行けば幾らでも仕事はあるよ。


ついでに日本の年寄りをすべて中国に移住させて、代わりに中国の若くて給料の安い人間を連れてくれば日本経済は繁栄するよ。

日本列島は日本人だけの物じゃない。 島国根性の狭い見方を止めて、世界人になろうよ。


日本の農家の事は心配する事ないよ。 絶対大丈夫さ。

日本の農業産品の評価は今でも世界最高だよ。

20世紀梨は芸術品だからアメリカで 1ケ 1万円で売れる。

鳥取の20世紀梨をすべてアメリカに輸出したら自動車売るより儲かるんじゃね?

8. Posted by YOKOTO 2011年2月11日 22:53

韓国は米韓スワップやってましたよね。
技術支援名目で最近も日本がODAを供出しています。
また、名目GDPの国際順位は下がって来ています。
盛況な韓国ですが、実態はこんなものです。
一部企業のために国を差し出している状態ですよ。

9. Posted by Anonymous 2011年2月19日 22:00

関西テレビの 「アンカー」で TPP のことが詳しく暴露されてました●
ココで見れます。(高画質)

TPP アメリカの本当の狙い

(1) http://www.youtube.com/watch?v=XD-nv0sfbxQ

(2) http://www.youtube.com/watch?v=KwoGAtMfbUg

(3) http://www.youtube.com/watch?v=Lq37d8FbZyI

10. Posted by Anonymous 2011年10月13日 20:55

そもそもアメリカは強引すぎるんですよ。日本とは根本的に違うのに自分の正義を掲げて意見を押しつけてくる。TPPなんぞに入っても最終的に得をするのはアメリカです。
まぁ韓国がいくらがんばっても日本には勝てませんがね。

11. Posted by こん 2011年11月11日 06:33

TPP絶対反対!
アメリカの医療事情は本当にひどい。
公的な保険がなく、民間の医療保険が高く平等な医療が受けらない。
日本をそのような国にしてはならない。

プロフィール
大西良雄(経済ジャーナリスト)
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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