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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年8月

2010年8月25日 12:39

日経平均9000円割れの背後を読む

2010年8月25日筆

昨日から38度を越す熱を出し、お隣のクリニックで点滴を打ってもらいましたが、まだ熱は上がったり下がったりです。いま首筋に汗をかき熱が下がったところです。この間を利用して急いでブログを書きます。

日経平均株価がとうとう9000円を割り込んでしまいました。これまでも09年7月の安値9050円、09年11月の安値9070円と2度にわたって9000円割れに差し掛かりましたが、なんとか持ちこたえました。3度目の今回、ついに9000円を割り込んでしまったのです。

今回はなぜ、前2回持ちこたえた9000円を割り込んでしまったのでしょうか。

景気が悪くなれば株価が下がる、世界景気の悪化を先取りする株価
最大の要因は、前2回の場合、財政、金融両面の支えがあって世界景気は回復過程にありましたが、今回は世界景気が1年程度の短い景気回復を終えて景気後退局面に差し掛かっていることがあげられます。

世界景気を牽引する米中両国の景気指標は悪いものが目立ち始めています。アメリカでは住宅減税の打ち切りに伴い住宅関連の指標が悪化しているほか、貯蓄率の上昇で消費も停滞、失業率は9%台で高止まりしたままで雇用改善が進まないという状態です。その結果、アメリカの4~6月期実質GDPは年率2.7%(09年10~12月期5.0%、10年1~3月期3.7%)に減速しています。2.7%は速報値で、修正値は1%台になるといわれています。

中国の実質GDPも前1~3月期には年率11.9%と高水準でしたが、4~6月期は10.3%へ大きく減速、製造業の景況感も悪くなってきました。不動産融資規制が奏効し不動産バブルは沈静化していますが、不動産投資など過剰投資の修正を図ればそれが景気の減速を招く結果をもたらすと思われます。続く中国の7~9月期、10~12月期は、財政による景気刺激効果が途切れることもあり、実質GDPは10%台を割り込むという予測もでています。

日本の実質成長率(年率)は09年10~12月期4.1%、10年1~3月期4.4%と順調な回復を見せてきましたが、この4~6月期は、0.4%と予想外の減速になりました。エコポイントなど政策効果の息切れが原因だといいますが、輸出が予想を下回ったことも影響しています。今後、景気回復を牽引してきた中国を軸とするアジア向け輸出が減速してくれば、実質成長率もマイナス(4~6月期名目成長率は-3.6%)になる恐れが出てきました。

景気が悪くなれば株価が下がる、これが今回の株安の基本原因です。

「円の独歩高」が日経平均の下落に拍車を掛けている
これに加えて「円の独歩高」が株安に拍車をかけています。円は対ドルでドバイショック時の84円72銭を上回り83円台に突入しました。円高阻止対策が採られなければ95年4月の史上最高値79円75銭の更新もあり得るのです。対ユーロでは2001年11月以来の106円台に突入しました。対人民元、対韓国ウォンなどローカル通貨に対しても円高です。

この円高は、ドルもユーロも先行き景気不安で買えない、消去法で残った円が買われるというものです。日本経済が強いから「円の独歩高」となっているわけではありません。日本は先進国では唯一のデフレ経済ですし、世界一の政府債務を抱え込んだ国家です。日本国内製品の輸出競争力は中国、韓国、台湾などの追い上げを受け劣化しています。その証拠が「円高株安」の現象です。

日本経済の強くて円が独歩高になっているのなら株価は上昇しているはずです。その場合は、「円高株高」になります、しかし現実はその逆の「円高株安」になっており、「円の独歩高」の分だけ日経平均の下落率はNYダウより大きくなっています。ドイツの平均株価指数DAXなどはユーロ安による輸出増が評価されて上昇を続けています。

円高は、日本の輸出企業から利益を奪います。輸出企業は円高に対応するために工場を海外に移設せざるを得ません。国内工場が海外に移設されれば日本人の雇用が海外に奪われることになります。雇用の海外流出によって所得が減少、消費減少をもたらします。円高によって景気悪化が予想されることから「円高株安」が起き、「円の独歩高」の分だけ日本の株価下落が大きくなるのです。

このような自国通貨高による景気悪化要因は、自国通貨安(ドル安、ユーロ安など)に守られた国々には存在しません。それどころか欧米当局には自国通貨安によってアジア輸出に拍車を掛けて景気回復を図るという意図があります。欧米諸国は財政赤字半減を公約しており財政出動による内需刺激は期待できません。景気回復は輸出の拡大に依存せざるを得ないのですから、自国通貨安によって輸出ドライブを掛けることになるのです。

株価下落の原因になっている世界景気の悪化を日本単独で食い止めることは不可能です。世界景気を牽引する米中2大国が、世界景気の2番底を防ぐために再び景気刺激策をとってくれることを願うほかありません。しかし、日本固有の「円の独歩高」による株安を止めることは、日本単独でもできるはずです。

政府には為替介入(ドルの買い支えによる円安誘導)、日銀には追加金融緩和(内外金利差の再拡大による円安誘導)という手段が残されています。この際、政府・日銀は、これらの円高阻止に効くと思われる政策すべてを動員すべきだと思っています。そうしなければ、日本だけが「円の独歩高」によって円高デフレという貧乏くじを引かされることになるのですから。

日経新聞が本日朝刊(8月25日付け)の1面トップで「日銀、追加緩和を検討」と書きました。にもかかわらず、株価は下げ止まらず、日経平均は一時8900円を割り込みました。強力な下値支持ラインであった9000円を割り込んだ後、チャート上の次の下値メドはリーマンショック後の安値7021円しかありません。円高阻止を急がねばなりません。

市場の怖さを知らない民主党政権のことを考えると、さらなる円高株安への心配が募るいっぽうです。小生の熱も再上昇しかねません。幸い注射が効いたのか執筆中も小生の熱は下がったままです。日本経済にも円高阻止の強力な注射が必要です。

2010年8月18日 09:38

菅総理・白川日銀総裁は円高阻止策を急げ

2010年8月18日筆

8月11日、円の対ドルレートが、一時、昨年11月のドバイショック時の高値を10銭上回る84円72銭をつけました。これより高いレートは、15年前、1995年7月の史上最高値79円75銭しかありません。

市場関係者の間では、菅政権と日銀が無策のまま円高を放置すれば、年内には15年前の史上最高値を更新することは間違いないという見方がいまや支配的になっています。

アメリカは輸出倍増計画を打ち出し輸出に有利になるドル安を容認しています。EUはギリシャの債務危機から生じたユーロ安をテコに輸出を増やし景気回復を狙っています。韓国の景気回復もウォン安が助けになっています。どの国も自国通貨安をテコに輸出主導の景気回復を図る政策を選択しているのです。

自国通貨安を望むアメリカやEUは、「日本の円安政策を容認しない」という包囲網を築き、円に対して独歩高を強要しているかのよう思えます。

100818表.jpg

経常黒字、輸出依存度からみて、円が独歩高になる理由はない

為替レートを決定する要因はいくつかありますが、その要因の第一は国際収支の入超、出超、とりわけ経常収支(貿易サービス収支+所得収支)の黒字、赤字の規模です。この要因を見る限り、円が独歩高になる理由を見出せません。

経常赤字国は通貨安、経常黒字国は通貨高という図式から言えば、世界最大の経常赤字国であるアメリカがドルの単独安になっても不思議ではありません。しかし、通貨が高くなるはずの経常黒字国は日本のほかに中国、ドイツ、韓国など多数あります。しかし、円は対ドルだけではなく、対人民元、対ユーロ、対ウォンいずれの通貨に対しても高くなっており、円の独歩高状態です。

経常黒字の規模は、中国は2971億ドル、ドイツは1656億ドルと日本の1415億ドルを上回ります(いずれも2009年)。上表に見るように、中国、韓国、ドイツのGDPに占める経常黒字比率は日本よりはるかに高いのです。経常黒字の規模が426億ドルと小さい韓国はさておき、日本が中国やドイツより通貨高である理由は経常収支面からは見出せません。

中国とドイツが日本より通貨安である理由は他にあります。まず、世界最大の経常黒字国の中国の為替制度は、つい最近まで米ドルリンク(連動)制でした。円が対ドルで高くなれば、円は対人民元でも自動的に円高になる仕組みでした。人民元は6月、アメリカの人民元切り上げ圧力を受けて人民元を弾力化し、変動幅付きフロート制に戻しました。しかし、フロート(変動)制とは名ばかりで、中国当局の、人民元高を抑制する相場管理の姿勢に変わりはありません。

ドイツは、ギリシャの債務危機以降の大幅なユーロ安に便乗して輸出を大幅に増加させ、2010年4~6月期の実質成長率は年率2.2%とユーロ圏では群を抜いた高さになりました。通貨がマルクのままであればドイツ経済はマルク高に悩まされていたに違いありません。ドイツは共通通貨ユーロの恩恵を満喫しているのです。

日本より経常黒字額も経常収支比率も大きい中国、ドイツが通貨安の恩恵を得ているのに、日本が独歩高を迫られているのは理不尽だと言えます。ちなみに日本の輸出依存度(輸出総額÷名目GDP)は上表にあるように、アメリカに次いで低いのです。日本の輸出依存度は15%台ですが、中国は約37%、ドイツ、韓国の輸出依存度に至っては40%を越えています。彼らが輸出主導の旗を降ろしたなど聞いたことがありません。

日本は、輸出の減少による景気後退を避けるために円高阻止政策(円安転換政策)を欧米に遠慮せずにやるべきでしょう。経常収支や貿易依存度から言って、円高阻止策を遠慮する必要はまったくないからです。

 

「デフレと円高の悪循環」を断ち切るとき

円独歩高をもたらしている理由として無視できない要因は、インフレ率格差です。上表のインフレ率は、2000年末の消費者物価水準を100として2009年末の消費者物価水準と比較したものです。日本だけ100を下回り、9年平均で-0.26%のデフレ状態にあります。他の米、独、中、韓のインフレ率は115~132と上昇し、9年間平均で消費者物価は1.7%~3.6%の上昇率を示し、緩やかなインフレ状態にありました。

物価の下落は貨幣価値の上昇を意味し、物価の上昇は貨幣価値の下落を意味します。これを対外通貨との関係で言いますと、例えばアメリカの物価上昇はドル安をもたらし、日本の物価下落が円高をもたらすことになります。中長期的に見れば、内外の物価上昇率格差が為替レートを決めるというもう一つの為替レート決定方式からいえば、日本は世界の中でも殆ど唯一デフレ状態を続けている国ですから、円が独歩高になっても仕方がないということになります。

日本がデフレ状態を続けているために、円の貨幣価値が高まり円高をもたらしました。その円高が国内の所得減と物価下落(デフレ)に拍車を掛けることになります。

円高によってコスト競争力を奪われた輸出企業は、設備を海外移転せざるを得ません。設備の海外移転は国内投資を縮小させ国内の投資需要を減殺します。さらに円高は、円換算の海外賃金を下落させ競合する国内賃金の下落をもたらします。この賃金の下落が所得の減少、ひいては個人消費の減少につながります。もう一つ、円高が輸入物価の下落をもたらし、それが国内販売価格を下落させ、デフレを深化させるというルートもあります。

こうした円高が進めばデフレを招き、そのデフレが円高をもたらすという「円高とデフレ」の悪循環を早急に断ち切らなければなりません。発表されたばかりの2010年4~6月期名目GDP速報値は年率で-3.7%(前期比-0.9%)となりました。デフレが再びぶり返す形になっています。円高を止めなければ7-9月期以降の名目GDPは連続してマイナスを記録する恐れがあります。

 

財務省はドル買い介入、日銀は追加緩和を実施せよ

政府は「景気は着実に持ち直してきており、自律的回復への基盤が整いつつある」(8月月例報告)と言い、日銀は「国内経済は想定に沿って回復傾向をたどると判断している」(8月日銀総裁談話)と言って、実質GDP(数量ベース)での景気判断を繰り返し、名目GDP(価格ベース)のマイナスを意図的に見過ごしているようです。

しかし、政府、日銀は、4~6月期名目GDPの大幅なマイナスを認知し、デフレを食い止めるための断固とした円高阻止策に取り組むべきです。為替市場の投機筋は、日本政府と日銀が円高阻止の意思も策もないと踏んでいるから、安心して円買い(円高)を進めているのです。政府・日銀は、この投機筋の思惑を断固として打ち砕くべきです。

円高阻止の方法は、二つあります。一つは、財務省のドル買い介入によるドルの押し上げ(円の押し下げ=円安)です。ドルの大量買い上げは円の大量散布をもたらし、金融の量的緩和という副次効果を生み、金利を引き下げます。

もう一つは、日銀による新型オペの拡充、あるいは中長期国債買い入れによる量的緩和の強化です。この量的緩和は中期金利、長期金利の引き下げに寄与するはずです。FRBが住宅ローン担保証券などの償還金を2年物から10年物国債の購入に当て中長期金利の引き下げを行う量的緩和に踏み切ったことに対する対抗策にもなります。

いずれの方法も円金利の低下をもたらします。その結果、ドル金利の下落によって縮小してきた円・ドルの金利差(4月以降、金利差は2.6%から1.6%に縮小)を再び広げ、ドル金利の魅力が増し円売りドル買いにつながり、円高を防止する力になります。善は急げ、です。

2010年8月 4日 16:14

なぜ日本では投資総額の減少が続いているのか

2010年8月4日筆

前回の本コラムでは、「投資総額」の減少がマイナス成長の最大の原因だと書きました。日本では、なぜ「投資総額の減少」が続いているのか、高い名目成長率を目標とする各政党は「投資総額」を増加させる正しい政策を持っているのでしょうか。

今回はそのことを考えてみたいと思いますが、その前に「投資総額」でいう「投資」について解説しておきます。マクロ経済学では「投資(インベストメント)」とは、狭い意味では、原材料、製品など在庫を積み増す「在庫投資」(下表では割愛)、住宅を建設する「住宅投資」、機械装置、商業施設など資本ストックを積み増す「設備投資」の民間投資を指します。

中国は「投資総額」比率を高め高度成長を実現した
名目GDPに占めるこれら民間投資(住宅+設備投資、在庫は割愛)の構成比は、10年前には18.1%でしたが2010年には15.7%まで低下しています(下表参照。前回本ブログに掲載した表をタイトルと括りを変えて再掲しました)。この「民間投資」に「政府(公共)投資」(道路や鉄道、港湾や空港など財政出動によって建設される公共的施設への投資)を加えた「投資総額」の名目GDPに占める構成比は、この10年間で26.1%から19.9%に大きく低下しています。金額にして31.6兆円もの減少になります。
20100804.jpg

なお、民間投資と政府投資を合計したものを総固定資本形成といいますが、中国ではこの総固定資本形成が名目GDP比で2000年の35%から2010年には45%前後に上昇しています。この10年間の中国の高度経済成長は総固定資本形成、本コラムで言う「投資総額」の大幅な上昇によって実現しました。日本では10年間、「投資総額」が減少しマイナス成長に陥ったのとは対照的です。

GDP引き上げに効果がない政府(公共)投資は厳選すべき
ではなぜ、日本では投資総額が減少したのでしょうか。まずもっとも減少幅が大きい政府(公共)投資について考えておきましょう。

公共投資の減少は、小泉構造改革によって毎年3%ずつ公共投資が圧縮されてきたことが大きいと思います。しかし民主党政権も「コンクリートから人へ」のマニフェストに従って公共事業費を大きく削減しましたから、小泉構造改革と同じ路線上を走っています。

バブル崩壊後、何度か公共投資を軸とする景気対策が打たれましたが、その場だけの景気刺激に終わりました。将来の需要創出や生産性の向上につながらない無駄な社会ストックが積み上げられ、財政赤字を大きく膨らませる結果になってしまいました。ゼネコンや政治家の利権を維持するだけで、使う人の少ない道路や空港、公共施設が作られた結果、公共投資がもたらす持続的なGDP引き上げの効果が大きく低下しています。こうしたことの反省から小泉構造改革による公共投資3%削減政策がスタートしたのです。

小泉構造改革以降の政府にも、景気刺激のためだと言って利権構造を温存しようとしたことへの深い反省があったようです。その反省もなく、いまだに景気対策としての公共投資を主張する政党は国民新党だけです。厳しい財政制約のもとでは公共投資は、需要創出や生産性向上の効果の大きい事業を厳選して実行されるべきだということが、心ある政党間のコンセンサスになっています。従って投資総額の中の政府投資が量的に増加する余地はないといえるでしょう。

残る検討課題は、住宅投資、設備投資などの民間投資の問題です。住宅投資の減少も大幅ですが、すでに一所帯一住宅が達成され住宅ストックが大きくなっており、しかも少子化が進行している現在、新築住宅建設の拡大によるかつてのような成長を牽引する住宅投資の復活は望めません。

「儲からない日本」では、設備投資が起るはずかない
では、民間企業の設備投資はどうなるのでしょうか。日本の高度成長期にはこの民間設備投資だけでGDP比20%に達することもしばしばでした。当時は、民間設備投資がGDP比で20%に達すると景気は過熱、16%に接近すると景気は下げ過ぎという判断が下されていたことを記憶しています。しかし過去10年間、民間設備投資は8.3兆円減少し、GDP比は「景気は下げ過ぎ」と判断されるそれ以下の13%台に低迷しています。民間設備投資という日本経済の成長エンジンは油切れを起こしているといってよいでしょう。

なぜ、民間設備投資は減少してしまったのでしょうか。その原因はたくさんありますが、小生は、経済学的な表現で申し訳ないのですが。「民間企業や経営者・企業家の国内経済に対する期待収益率が著しく低下している」ことが本質的な原因だと思っています。

期待収益率とは、投下資本に対する将来の予想収益率(リターン率)のことです。当然のことですが、将来の予想収益率が高ければ高いほど民間投資は活発化します。しかし日本国内では、この将来の予想収益率が極端に低下していると言ってよいでしょう。

その証拠は、この史上最悪の大借金国家・日本の国債流通利回りが1%を割ろうかという水準にあることです。日本国債の流通利回り(長期金利)は、設備投資資金の調達源になる長期貸出金利のベースになりますが、6月の長期貸出最優遇金利(長期プライムレート)は1.45%にまで下がっています。

このことは、年1.45%の金利を支払って銀行から長期資金を借りて設備投資を行い儲けようという企業家が日本にはいないことを意味します。たった1.45%の支払い金利に耐えうる投資案件が国内では見当たらないし、見つけ出せないというのが日本経済のさびしい現実です。

国債の流通利回りが低いのは「日本国債が信頼され買われているからだ」という論者もいますが、それは間違いです。ただ単に融資先がなくて余剰になった大量の資金が金融機関にあり、その余剰資金で国債を買っているからです。銀行にすればたった1%にしか回らない国債投資でもないよりましだという論理です。残念なことにデフレ不況だから国債が買われているというわけです。

金融機関に余剰資金があるなら中小・零細企業に融資しろという声もあります。しかし金融機関も預金者から預かった大切な資金を、融資が焦げ付き、回収できなくなるような融資先に貸すわけには行きません。銀行は将来の予想収益率が高いが有望な投資案件、いまは厳しい経営状態でも将来性のある融資先であれば、積極的に貸し出したいはずです。やはり銀行家も融資したくなる案件や融資先を見つけられない状態にあるということになります。

アジアの成長地域での投資収益を国内に再投資する仕組みを築け
しかし日本国内に投資案件を見出せない日本企業も銀行家も、中国、インド、インドネシア、ベトナム、バングラディッシュなどアジアの成長地域での投資は活発です。アジアの成長地域では、現地の需要成長力が高いだけでなく、人件費や法人税などのコストの低さなど投資の期待収益率を高める条件が整い、日本国内をはるかに上回る投資収益率が期待されるからです。

このアジアの成長地域への日本企業の直接投資は、極めて経済合理性にかなった行動ですが、国内の設備投資を萎縮させ日本人の国内雇用を奪う結果になります。だからといって日本企業を政府命令で強引に日本国内に押しとどめれば、日本企業は確実にコスト競争力を失い市場から退出を迫られます。

その一方で、菅政権の「新成長戦略」が指摘するように国内にも投資機会はないわけではありません。グリーンイノベーション(電気自動車、太陽光発電、スマートグリッドなど)、ライフ・イノベーション(医療サービス付き高齢者介護施設、幼児保育施設、isp細胞など)、IT(クラウドコンピューティングなど)など投資案件はたくさんあります。観光産業もアニメ産業も同様です。

要は、アジアでの直接投資で稼いだ投資収益を国内に還流させ、これら資金が金融機関を経由して国内投資案件に再投資されるメカニズムが日本にはないことが問題なのです。国内投資案件を、簡単に言えば国債の流通利回りをはるかに上回る「儲かる投資案件」にする仕組みが必要なのです。その仕組みをいかに構築するか、政府の知恵の出しどころです。

紙幅がつきました。成長戦略の続きはまた書きます。なお来週の8月11日は小生、夏休みをいただきますので本コラムは休載です。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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