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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年6月

2010年6月30日 11:04

あなたは1億円以上の役員報酬に値しますか

2010年6月30日筆

このブログでは辞任した亀井静香前郵政改革担当・金融相の批判を散々してきましたが、彼がやったことで一つだけ評価できることがありました。1億円以上の役員報酬を得ている上場企業の役員を有価証券報告書で個別開示する義務を負わせたことです。

株主総会で明らかにされた1億円以上の年間報酬を得ている上場企業の役員は、6月29日現在で240名だそうです。今後さらに増えると思いますが、この1億円以上の役員報酬を得ている役員数の多さとその役員報酬額の大きさは小生の事前予想を超えるものでした

外国人社長である日産自動車のカルロス・ゴーン社長とソニーのハワード・ストリンガー社長の役員報酬が8億円台と高いのは想像がつきます。明治の初期、欧米からきた外国人の「お雇い教師」や「お雇い技師」の給与がべらぼうに高かったのと同じです。そんな高額の報酬を支払って外国人に経営を委ねなければ再生できなかった日産とソニーの不甲斐なさを嘆くほかありません。しかし、それにしても上下の報酬格差が小さく組織ゲームが得意だった、かつての日本人の常識からはかけ離れた役員報酬であることに間違いありません。

日本人のトップは大日本印刷の北島義俊社長の7億8700万円ですが、この役員報酬も小生の想像をはるかに超えていました。出版社の役員として北島社長に何度かお会いしましたが、見るからに温厚な紳士で親しみを覚える方でした。その北島氏が、こうした巨額の役員報酬を平然といただいておられることにただ呆然とするばかりです。大日本印刷は北島一族の同族会社で、北島社長は2代目で在任期間が31年になります。在任期間が長い社長の報酬が高くなりがちとはいいますが、それにしてもこの役員報酬は高過ぎます。

大日本印刷の従業員平均年収(37.2歳)は647万円ですから、北島社長の役員報酬はその121倍にもなります。私の存じ上げている大日本印刷の従業員はよく働きます。業界でもハードワークで知られています。彼らの121倍という役員報酬はそのよく働く従業員の納得を得られるものとはとうてい思えません。同族とはいえ北島一族は株式の過半数を支配しているわけでもなく、筆頭株主でもありません。社長の地位は銀行や生保など持ち合い株主に守られていることになります。一般株主や従業員が、社長の報酬や在任期間について注文を付けることなどできない持ち合い構造こそ問題なのかもしれません。

北島社長につづく双璧は、調剤薬局チェーンを育て上げた日本調剤の三津原博社長の4億7726億円(退職金込み)と、パチンコ・パチスロ機器メーカーを創業したセガサミーHDの里見治社長の4億3500万円でした。いずれも自らの才覚を信じて創業のリスクをとった経営者ですから、同族社長らサラリーマン社長とは報酬に違いがあって不思議ではありません

ただ自らの「まずい経営」の結果、株価が上げられず、保有持ち株の資産価値が高まらない。その代わりに多額の役員報酬を取るような創業経営者であったら、そんな創業者は願い下げですがね。

その点で感心したのはベンチャー経営者の代表とも言えるソフトバンクの孫正義社長です。孫さん(小説家の石川好さんに『孫正義が、吹く』と題する本を書いていただきました。その際お会いしたことがありますので親しみを込めて)の役員報酬は1億800万円です。創業経営者としての高評価のわりに役員報酬がかなり低いといえるでしょう。

しかし孫さんは、自らが筆頭株主であるソフトバンクをうまく経営すれば、持ち株から巨額の配当収入や値上がり益を手に入れることができます。孫さんはどうやら経営巧拙の結果として配当収入という自らの報酬が増減するのは仕方がないと思っているふうです。あるいは「市場」という第3者の評価、つまり株価の上昇による持ち株の値上がり益という客観的な報酬があれば、密室で決められるお手盛りの役員報酬などいらないというお考えのようなのです。そうであるとすれば、孫さんのそのお考えは大いに尊敬に値します。

最後に、外国人経営者でも同族経営者、創業経営者でもない「従業員上がり」の役員報酬に触れておきます。下表は、「従業員上がり」、いわゆるサラリーマン経営者で1億円以上の役員報酬をもらっている社長の一覧表です。表の右側は、日本生産性本部が推計した大卒男子従業員の業界別生涯賃金(2008年)です(数字はアサヒドットコム「この仕事が儲かる!業界・生涯賃金ランキング70独自調査」より引用。)

野村ホールディングスの渡部賢一社長の年間役員報酬は約3億円です。証券等の業界平均の大卒男子の生涯賃金は平均で3億7258万円ですから、渡部社長は同じ会社のかつての同僚である大卒男子が生涯を掛けて稼ぐ生涯賃金をわずか15ヶ月で稼ぐ計算になります


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神戸大学を出て主として管理企画、経理畑を歩いてきた渡部氏が経営最高責任者(CEO)に就任したのは08年4月です。就任当時、野村HDの株価は1900円前後でしたが、その後下げっぱなしで、直近では500円を割り込んでいます。株価を見る限り、かつての部下や同僚の大卒男子の生涯賃金を15ヶ月で稼ぐほどの経営能力があるとは思えません。

表の業界別従業員生涯賃金は、証券等、放送(テレビ)、銀行はトップクラスの生涯賃金です。平均像は大卒男子(正社員)で2億7203万円、大卒男子でも正社員以外は1億2737万円に過ぎません。同じ大卒男子なのに、表の「従業員上がり社長」たちは、自分たちの生涯賃金をほんの1年か2年で稼いでしまうのです。同じ大学を出たかつての同僚や部下は、どこでこんなに大きな差が出てしまったのか、頭を抱え込んでしまうに違いありません。

大卒男子を毎年1000人も2000人も採用してきた大企業ですから、そんな大人数の中から1億円以上の報酬を得るような役員に抜擢されるには、よほど能力や実績が求められると思われるかもしれません。しかし役員になるには能力や実績より「引き」と「運」のほうがはるかに大切です

まず役員になる前に社内で実力者とされる役員に覚えていただき、愛(う)いやつだと課長、部長へと引き上げてもらう必要があります。しかし実力者の「引き」があって部長になれても役員の席に「空き」がなければ役員になれません。「空き」は「運」です。首尾よく「空き」があって役員になれても、人事権を持っている会長や社長に「無能力だ」などといって弓を引いてはいけません。ひたすら従順な姿勢を保ち社長の座の禅譲を待つことが肝要です。こうして初めて1億円以上の役員報酬を得られる社長になれるのです。

役員報酬は、業績の良し悪し、役員としての業績への貢献度、株主配当とのバランスによって決められますが、日本では従業員とのバランスも重要です。とくに「引き」と「運」でのしあがってきた、「従業員上がり社長」は従業員とのバランスを自覚すべきです。能力や実績があったのに「引き」や「運」が得られず役員になれなかったかつての同僚や部下がたくさん、山のようにいるのです。「従業員上がり社長」は、彼らの生涯賃金にも相当するような高額の年間報酬をいただくに値するか経営者であるかどうか、深く自問自答する必要があると思うのですが、どうでしょうか

2010年6月23日 09:24

中期財政フレームで「強い経済」は可能か

2010年6月23日筆

すでに新聞紙上などで報じられていますが、菅政権は「強い財政」を築くと
いう目的のために3年間の「中期財政フレーム」を公約しました。
(a)今後3年間の一般歳出の上限を今年度並みの70.9兆円とする
(b)今後3年間の新規国債発行の上限を今年度並みの44.3兆円とする

では、これらの公約が今後3年間の予算作成に適用された場合、どのような財
政構造になるのか、財務省のデータ(今年2月発表の「平成22年度予算の後年度歳出歳入への影響試算」)を使って試算して見ましょう。

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財務省によれば、社会保障費は新たな政策を付加しない状態でも3年間平均で毎年1.2兆円前後増加していきます。一般歳出に上限キャップがついていますから、社会保障費の増加分はその他の歳出、たとえば地方交付税を減らすか、公共事業費、農水産費、教育費、国防費など社会保障費以外の歳出を削減しなければ、公約は達成できません

社会保障費をもっと増やして「強い経済」を作るのが菅総理の方針です。しかし、地方交付税17.5兆円の削減には「地域主権」をたてに原口一博総務相(この人物は菅政権のかく乱要因になりそうです)が反対していますから、社会保障費以外の歳出(上表の社保外歳出)を減らすしかありませんね。その場合、社会保障費以外の歳出削減による成長へのマイナス効果をどのように計算すればよいのでしょうか。乗数効果の算定次第では、社会保障費の増加によるプラスよりそれ以外の歳出削減によるマイナスが大きくなる懸念もあります。
    
上表での税収等(税収等には10年度は10.6兆円、11年度以降は毎年4兆円前後の「埋蔵金収入」が含まれます)の見積もりは、菅政権の「新成長戦略」がめざす名目成長率3%(11年度2.7%、12年度3.0%、13年度3.2%)が達成されたことを想定しています。

結論から先に言いますと、公約どおりの高い成長率が実現しても、基礎的財政収支(一般歳出-税収等)の大きな赤字は続きます。

基礎的財政赤字とは、収入(税収等)で支出(一般歳出等)を賄えない状態です。70.9兆円の歳出に対して43.0兆円の税収等しかありませんから、11年度には27.9兆円の基礎的財政赤字が発生します。歳出に上限キャップをつけても13年度まで3年間平均で26.2兆円の基礎的財政赤字です。基礎的財政赤字が発生すれば、これを借金(国債発行)で穴埋めしなければなりません。3年間の基礎的財政赤字は累計78.6兆円にのぼりますから、この78.6兆円は国債発行で穴埋めせざるを得ません。

この年平均26.2兆円の基礎的財政赤字を解消するには、一般歳出等には上限キャップが付いていますから、税収等を増やすしかありません。かりに消費税で基礎的財政赤字26.2兆円を解消するとすれば、消費税1%は2.5兆円に相当しますので、消費税率を10%以上引き上げる必要があります。(なお社会保障費を賄うために消費税を10%以上引き上げても基礎的財政赤字解消への効果は同じです)。

菅総理は参議院選挙を前に「消費税率の引き上げは2~3年後か、それ以上あとになる」と発言しました。勇気のある発言だと思う人がいるかもしれませんが、「2~3年後か、それ以上あと」ですから、上表の3年間の間には消費税引き上げはありません。この間は赤字の垂れ流し、毎年26.5兆円の赤字国債を発行し続けることになります。

ついでに言っておきますが菅総理は「消費税率を10%に」といっていますので現行の5%から5%引き上げるという意味です。消費税の5%程度の引き上げ(税収額12.5兆円)では26.2兆円の基礎的財政赤字を解消できません

話はここで終わりません。かりに消費税率を10%以上引き上げて基礎的財政赤字を解消したとしても、過去に積み上げた借金残高の処理から生じる「国債費」の問題が残ります。この国債費は国債発行で賄わなければなりません。

「国債費」の内訳は国債の償還費と国債の利払い費です。10年度の国債費は20.6兆円ですが、このうち国債の償還費が10.8兆円、利払い費は9.8兆円でした。償還費は償還期が来た国債の借り換え費ですから今後3年間の費用総額は決まっています。しかし利払い費は長期金利(国債利回り)が上昇すれば増加します。上表では長期金利は現状並みの極めて低い水準(11年度  1.2%、12年度1.4%、13年度1.6%)を想定しています。金利が上昇しないという最善の前提を置いたとしても、国債費は毎年1兆円ずつ増えていきます

新規国債発行の必要額は、基礎的財政赤字から生じる赤字国債分とこの国債費を加えたものになります。その合計は、11年度49.4兆円、12年度48.6兆円、13年度48.3兆円になります。中期財政フレームでは、新規国債発行に44.3兆円という上限キャップをかぶせました。この上限キャップは史上最高の国債発行額を続けるというものですが、そんな緩い上限キャップでも毎年4~5兆円の財源不足が生じます(上表参照)。この分を捻出できなければ公約の新規国債発行44.3兆円の上限キャップは守れません。この財源はどこから持ってくるのでしょうか。さらなる歳出削減ですか、枯渇したといわれる埋蔵金でしょうか。

残念ながら、中期財政フレームに従って歳出と新規国債発行に上限キャップを設けても、国債発行残高は増え続け、3年後には地方債200兆円を加えると公債残高は名目GDPの200%に達するでしょう。

菅政権の名目3%、実質2%の成長を目標とする「新成長戦略」には財源の裏付けが明記されていません。財源がないから書けないのです。財源なき「新成長戦略」では絵に描いた餅になります。消費税の大幅引き上げ無しで、成長に資するとされる社会保障給付の増加や環境対策補助金の拠出、法人税率の引き下げなどの財源などを捻り出すことなどとうてい不可能だと思いますが、どうでしょうか。「強い経済」の前途は深い霧の中にあります。

(なお6月22日に「中期財政フレーム」を含む財政運営戦略が閣議決定されましたが、その基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の捉え方は小生の私的試算(上表)とほぼ同じで、(a)(b)のキャップをかぶせ最大限の経済成長を実現してもなお財源が毎年4~5兆円不足するという結果でした。)

2010年6月16日 10:37

菅新総理の「第3の道」は成功するか

2010年6月16日筆

菅新総理は、1997年から10年間政権の座にあったイギリスのトニー・ブレア首相(労働党党首)に共鳴して、「第3の道」を提案しています。

トニー・ブレアは、サッチャー首相の「新自由主義」路線からの脱却を目指すために「第3の道」を提案しました。サッチャーの「新自由主義」は、国民への過剰な福祉提供で低成長に陥った「イギリス病」を克服することに成功しましたが、一方で所得格差の拡大という副作用をもらしたからです。ブレアはその副作用を修正しようとしたのです。

ブレアの理論的支柱となった社会学者アンソニー・ギブンズによれば、「第3の道」とは、「効率(新自由主義)と公正(社会民主主義)の新たな同盟」をめざすもので「福祉国家の根幹は維持するが、過剰な福祉を否定し、市場原理を上手に生かす」という考え方です。朝日新聞6月16日朝刊に紹介されていますのでご覧ください。

菅直人氏も98年に訪日したブレア首相に会って共鳴したそうです。菅代表(当時)のもとで民主党は「民主中道」を掲げ、「市場万能主義と福祉至上主義の対立概念を乗り越え、自立した個人が共生する社会を目指す」(1998年民主党基本理念)と、ブレアの「第3の道」とほぼ同じ理念を掲げました。

基本理念当時の菅さんは、「市場万能主義」と「福祉至上主義」の両立を考えていたといえます。政府や行政に依存しない個人を「自立した個人」といいますが、これを菅さんが大切にしていたことに共感を覚えます。経済学でいう「市場機構(価格機構)」は「自立した個人の合理的選択」を前提としていますから、当時の菅さんは、経済運営における「市場機構」の役割と「自立した個人」の重要性について十分理解していたと思われます。

「第3の道」を提案したブレア政権は、それを政策に具体化しました。ギブンズの仕分けに従えば、「公正(社会民主主義)」を実現する政策として、貧困層に配慮した就労支援や公立校改革、最低賃金制の導入が図られました。「効率(新自由主義)」を実現する政策として、法人税・所得税の軽減、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ=官民連携)の推進が図られました。

ブレアの「第3の道」は「効率(新自由主義)」を否定せず、その長所を政策に生かすという意味で非常にクレバー(賢い)だったと思います。

過剰な「公正(社会民主主義)」、つまり弱者保護や再分配政策に対するコントロールも効いていました。ブレアの労働党政権は、弱者に手当を直接給付するような「ネガティブ・ウェルフェア(依存型福祉)」ではなく、弱者の教育、就労を支援し社会参加をすすめるという「ポジティブ・ウェルフェア(自立型福祉)」に政策の重点を置いたのです。

さてそこで、菅氏が副総理、総理になる過程で提案している「第3の道」の評価です。現在、菅新総理が主張する「第3の道」は、政策の理念として整合性の高い、バランスが取れたブレアの「第3の道」とも、それを踏襲した1998年の民主党基本理念「民主中道」とも大きくかけ離れたものです。

まず、菅氏の「最新版第3の道」は、理念性や整合性を無視した、経済成長の方法としての「第3の道」に化けてしまいました

副総理当時の「新成長戦略」(2009年12月発表)では、公共投資(第1の道)でも規制緩和(第2の道)でもない「需要からの成長(環境、健康、観光など潜在需要の顕在化)」を「第3の道」と言っていました。公共投資(ケインズ主義)という手段による成長、規制緩和(新自由主義)という手段による成長を否定し、規制強化(環境規制など)と財政出動(社会保障支出の拡大)による成長を主張しているのです。

経済成長の手段選択としていうのなら、公共投資、規制改革、財政出動の三つの手段の最適な組み合わせを提案すべきです。とくに規制緩和(新自由主義)を「財政出動の要なき、もっとも優れた成長手段」として採用すべきです。菅氏の成長戦略の重点分野である医療、介護、保育、教育、農業の分野には成長を妨げる規制、組織・団体が山ほど存在しています。ここでは小泉改革を再評価して規制緩和(新自由主義)を生かすべきです。

菅氏の「第3の道」は財務大臣を経験してからさらに曲がります
。自ら主張する「需要からの成長」を実現するには、巨額の財政支出が必要であることに気付いたのですが、その財源がない。財務官僚の菅氏への財政学教育が行き届いた成果もあって、その財源は消費税引き上げや所得税の累進税率引き上げなど増税に求めることになりました。

しかし、増税は経済収縮を招きます。ですから、菅氏は誰の入れ知恵か知りませんが、「増税をしても賢い歳出(雇用を増やす社会保障支出の拡大)を行えば経済成長を実現できる」という経済学の検証をまだ経ていない、奇妙な「第3の道」を主張し始めたのです。たとえば、財政制約下での「賢い歳出」の実現可能性、実現した場合の「賢い歳出」の乗数効果、それに消費税など大幅増税のデフレ効果など、経済学の冷静な検証が必要です。

このうち「賢い歳出」の乗数効果と大幅増税のデフレ効果については、計量モデルを使って内閣府と民間のシンクタンクの皆さんが算出してくれるでしょうから、そちらにお任せします。たぶん規制緩和による投資誘発(病院や介護施設、保育園の建設など設備投資の誘発)がなければ、大幅増税のデフレ効果のほうが大きくなる結果が出ると予想されます
 
もう一つの財政制約下の「賢い支出」の実現可能性については、次回のブログで触れる予定です。結論だけ述べておきますと、歳出や新規国債発行の上限を設定するという菅政権の財政制約の下では、社会保障支出以外の歳出を大きく削減するか、消費税を大きく引き上げることでしか「賢い支出」は実現できません。しかも、消費税を仮に10%上げたとしても国債の累増は止まらないのです。

小生は、菅総理が日本の経済財政が抱える困難な問題を直視する姿勢を見せていることは評価します。しかし、奇妙な成長論や市場主義を極端に忌避する経済学者だけを重用するのではなく、もっと幅広く「効率」と「公正」のバランスを考えてくれる学者を経済ブレーンに参画させるべきです。

最後に、菅さんには、1998年に描いた市場主義と社会民主主義の融合を主張した「民主中道」の政治哲学をもう一度噛み締めてもらいたいと思います。そのことによって、へんに捻じ曲がってしまった「最新版第3の道」を原点に戻し、成長(効率)と分配(公正)の整合性を回復してください。

2010年6月 9日 09:59

「最小不幸の社会を作る」ための前提

2010年6月9日筆

小鳩内閣が崩壊し、菅・仙石内閣が誕生しました。「小沢外し」か「小沢隠し」か、判然としませんが、新内閣には小沢氏の政治手法の何が悪なのかをもう一度噛み締めていただきたいと思います。なぜかといえば、小沢氏の政治手法は菅新総理が就任会見で言明された「最小不幸の社会を作る」ための前提条件を大きく踏み外しているからです。

「最小不幸の社会」とはどういうものか、まだ明らかではありません。小生は、「国民が不幸になる要素を排除し、はからずも不幸(貧困?)に陥った場合は最低限の生活条件を政府が保障する、それを超える部分については各人の自由裁量にゆだねる社会」という意味だと理解しています。そういう意味なら「最小不幸の社会を作る」という目標には小生も大賛成です。

菅さんの発言を聞くと、いまから40年以上も前になるでしょうか、美濃部都知事や長洲神奈川県知事など「革新系知事」が輩出した時代に議論された「シビルミニマム」とか「ナショナルミニマム」という言葉を思い出します。

ナショナルミニマムとは、「国家は最低限の生活水準を国民に保障する、それを超える部分については各人の自由裁量にゆだねる」という考え方です。シビルミニマムとはその実施主体を「国家」から「地方自治体」に置き換えたものです。「最小不幸」という発想は、若き頃、市民運動にたずさわり「シビルミニマム」を語ったこともあるに違いない菅さんらしい発想といえるでしょう。

しかし「最小不幸の社会」を実現するには、まず、不幸になる要素とは何か、不幸に陥った状態とは何か、最低限の生活条件とは何か、などを丁寧に議論しなければなりません。国民に最低限の生活水準を保障するためのしっかりした基準を設けて、その上でその費用(税金)を誰が負担するのか、どのような形で負担するのか(税体系)を決めなければなりません。財源を十分に吟味して制度が設計されなければなりません。

その際、どうしても必要になるのが納税者番号制度や社会保障カードの導入です。これらの制度は、歳出面では、保障を受ける国民がどのような所得状況にあるのか、保障対象になる所得水準はいくらか、を知るために必要です。歳入面では、国民の所得が正しく把握されているか、いくら費用(税金)を負担しているのか、将来、誰がいくら費用を負担するのか、を知る上で必須です。

もう一つ重要な前提は、「最低限の保障を受ける国民」も、「費用(税金)を負担する国民」も、「区別されない公平さ」が確保されなければならないという前提です。例えば、男性であれ女性であれ、農民であれサラリーマンであれ、東京都民であれ沖縄県民であれ、つまり性別や職業、居住地域など、ある特定の属性によって保障も負担も区別されないというのが「公平さ」の基準になります。

このように「最小不幸の社会」を実現するための設計書は、公平で厳密な基準で描かれたものでなければなりません。その意味でこの設計書は、特定の選挙民を想定して、その歓心を買って票をかき集める民主党のバラ撒き型「選挙マニフェスト」などとはまったく性質を異にするものです。

そこで問題になるのが、小沢氏の政治手法なのです。幹事長時代に垣間見せた小沢氏の政治手法は「最小不幸の社会を作る」ための重要な前提である「公正さ」からは程遠い異様な手法でした。

一つは、いうまでもなく政治とカネにまつわる異様さです。まず小沢氏は、違法合法を問わず、予算配分権や規制権限を背景にかき集めた「企業献金」、解党時に国庫に返納せずネコババした「政党助成金(税金)」を使って多額の不動産を購入し蓄財を図る一方、その資金で私兵を養い「政治哲学なき小沢党」を結成しているように国民には見えます。そう見ている国民が間違っているというのなら、小沢氏はすすんで証人喚問に応じ、国民に誤解をとく努力をすべきです。

第二は、幹事長職に与えられた「公認権」、政党助成金の「配分権」を行使して党内に自らのための多数派(小沢党)を形成しようとしてきたことです。前の総選挙で選挙民は「小沢党」に投票したのではなく、「民主党」に投票したのです。菅民主党は、「小沢チルドレン」が小沢党の私兵になってしまった経緯をあらためて選挙民に説明すべきです。

第三に、与党に与えられた(実は国会に与えられたが正しい)「予算配分権」や行政情報、規制権限を選挙活動に悪用して、自らに有利な状況を生み出そうとしたことです。

このコラムでも何度か触れましたが、小沢氏は長崎県知事選挙では道路予算配分権をちらつかせて民主党知事候補への投票を県民に迫りました。小沢「幹事長室」は地域、利益団体から陳情を一手に引き受け、彼らに予算配分権、規制権限をたてに民主党への忠誠を誓わせました。公共事業予算の箇所付け情報を民主党経由で地方に流しました。高速料金引き下げのための財源を地方票獲得のために道路予算に突如切り替え「コンクリートから人へ」の公約を反故にしたことなど権限悪用の例は枚挙に暇がありません。

選挙に勝つためだったら税金や行政権限を用いた利益誘導を辞さないという小沢氏の政治手法は、「最小不幸の社会を作る」ための「すべての国民に公平である」という前提とはまったく異なるものです

この点で菅新政権が最初に試されるのは、郵政改革法案の処理です。この法案は「ユニバーサルサービス」をたてに、政府が全国特定郵便局長会やJP労組など特定の利益団体の利益を擁護するものです。亀井国民新党は郵政族そのものです。

亀井国民新党および原口総務相がたてにしている「ユニバーサルサービス」は、日本郵政グループでなくとも、宅配便(メール便)、地域型スーパー(電話注文、パソコン注文による出張サービス)、地域金融機関(農協を含む)、携帯電話・パソコン(電子メール)など民間企業の経営資源を駆使すれば、十分提供できるはずです。

このままでは「日本郵政」は、非正規社員の正社員化や売却予定だった事業資産の凍結で、今でも非効率な経営がさらに非効率になります。運用能力がない郵政では、郵貯の預け入れ限度額を引き上げてかき集めた資金が利を生む保証はありません。国が資本を持つ限り、国民は非効率経営によりジリ貧状態が続く郵政を救うために税金を投入せざるを得なくなります。そう考えている民主党議員もいるに違いありません。

しかし、参議院選挙で郵政票が欲しいという一点で、菅民主党は「郵政改革法の成立を期す」というのです。これでは菅さんも小沢氏同様の利益誘導型の政治家であるということになります。

菅新総理が「最小不幸の社会を作る」ための「公正さ」の基準を貫けるか、郵政改革法案の処理を通して、政権発足当初から試されることになります。

2010年6月 2日 09:08

「鳩山降ろし」と「小沢降ろし」の暗闘に思う

2010年6月2日

社民党の連立離脱を機に、参議院民主党の改選議員を中心に「鳩山降し」が沸騰しているようです。その改選議員の筆頭が小沢「幹事長室」の重鎮である輿石参議院議員会長(幹事長代理)です。「小沢降ろし」はかたくなに拒んだのに、自らの選挙が危なくなったと言っていきなり「鳩山降ろし」に走ったのです。

輿石議員の場合、西松建設の政治献金事件当時から小沢一郎氏を擁護する一方、小沢氏の独裁を支える「幹事長室」の一員であることへの強い批判を抱えています。さらに山梨県教組出身で過去に選挙資金疑惑を起こしたことで小林千代美衆院議員(北教組からの違法献金事件で議員辞職勧告を突きつけられようとしている)との連想が働いていることも加わって、選挙民から街頭でも小集会でも容赦ない罵声を浴びているに違いありません。

もちろん輿石先生(議員の前は小学校教諭)は自分自身の処し方と小沢幹事長との関係が原因で罵声を浴びているなどと思っていないのでしょう。ですから矛先を普天間基地の移転先をめぐって福島瑞穂消費者・少子化担当相をあっさり罷免した鳩山総理に向けたのです。輿石議員は、福島社民党の連立離脱によって自らの当選に必要な最後の上積み票になる社民党票が見込めなくなったことに我慢がならず、「鳩山降ろし」に走ったに違いありません。

それはさておき、鳩山内閣と民主党の支持率急落には驚かされます。社民党の連立離脱直前の5月29日、30日に行われた世論調査(下表)では、内閣支持率は軒並み20%を下回り、内閣崩壊寸前の危険水域に入っています。

20100602表.jpg

注目すべきは民主党に対する支持率の下落です
。これまでは党への支持率は
内閣に対する支持率を確か10ポイント近く上回っていたはずですが、党への支持率も内閣支持率に急接近しています。産経系の世論調査では民主党への支持率は内閣の支持率を下回ってしまいました。

かりに内閣支持率が内閣を代表する鳩山由紀夫総理の支持率、党支持率が党を代表する小沢一郎幹事長への支持率としますと、これまで鳩山総理を上回っていた小沢幹事長の支持率が鳩山総理並みかそれ以下になってしまったのです。

小沢幹事長は鳩山内閣の支持率が低下しても自分が率いる民主党の支持率が高ければ何も文句を言われる筋合いはないと考えていたに違いありません。しかし「シャッポは軽くてパーがいい」という小沢氏の鳩山総理への優越感を支えていた党への支持率も急落して「軽くてパーがいい」並みになったのです。

そのうえ小沢民主党の支持率が、心の中で軽蔑してやまなかった?谷垣自民
党の支持率に並んでしまった読売新聞のような世論調査も出てくる始末です。
「世論調査など当ったためしがない」とうそぶいていた小沢幹事長もこの結果には驚いたことでしょう。

そこへ輿石氏を先頭に参院改選組が「自分の選挙が危ない、鳩山のせいだ」と小沢氏のもとに駆け込んできたのです。この駆け込みによって選挙民の罵声が候補者を経由してようやく小沢の耳にも届き、党の支持率が選挙惨敗の危険水域に入ってきたことを認めざるを得なくなったということでしょう。

世論調査を見る限り前回の総選挙で民主党に投じた無党派という一般の選挙民は、「鳩山降ろし」と同じかそれ以上に「小沢降ろし」を求めています。しかし小沢氏の耳には普天間基地移設問題でドジを踏んだことから生じた「鳩山降ろし」の声は届いても、利権誘導、政治資金疑惑から生じている「小沢降ろし」の無党派の声は届いていません。選挙民の声を届けているのが、小沢独裁の支持者で「政治資金疑惑仲間」の輿石先生だからです。

小沢氏が当てにしているのは国民新党の背後にあるような利権がらみの団体票、社民党の背後にある自治労や日教組などの組織票です。「小沢降ろし」を主張している、選挙に来るかどうかも分からない移り気な無党派票など相手にしていません。新聞、TVに操作される無知でおろかな無党派には、テレビやスポーツのタレントをあてがっていれば十分だと小沢氏は考えているのです。だから小沢幹事長は「議員になっても金メダル」と政治家を兼業アルバイト並みに扱って恥じない女流柔道家・谷亮子を候補にしたのでしょう。
 
しかし改めて驚かされたのは、「鳩山降ろし」の声に攻め立てられても辞めない鳩山総理の粘り腰です。彼は、「幹事長室」にたむろっている小沢取り巻き議員から発せられた「鳩山降ろし」に打ち勝つ方法をよく知っているのです。「鳩山降ろし」には無党派層が願ってやまない「小沢降ろし」の声をぶつけ、おまえら「幹事長室」の親分を引き摺り下ろすぞと脅せばいいのですから、簡単です。

小生のような無党派には、申し訳ありませんが「鳩山おろし」も「小沢降ろし」も目糞鼻糞の類です。両者が選挙用の表紙(党首)入れ替えをめぐって自民党の派閥抗争も顔負けの権力抗争をしているうちに、無党派はどんどん離れ民主党の参院選敗北がますます確実になっていくことになります。

1カ月後には参議院選挙の投票という慌しい段階で、選挙目当ての「鳩山降ろし」も「小沢降ろし」もまったく無意味です。選挙民は、自らの投票によって間違って産んだ「小鳩」内閣を終わりにしたいと思っているからです。小沢幹事長も鳩山総理も今は辞めないでください、われわれの手でご両人の首を切りますから、と支持率(無党派層)は訴えているように小生には思えます。

政治家は、一歩でも退けば「政治家としての死」に直面する、だから自分が間違ったとしてもその間違いを決して認めることはない哀れな人種であるとずっと思ってきました。今回の小沢一郎、鳩山由紀夫という民主党ツートップの身の処し方を拝見していると、改めてその感を強くします。

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