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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年5月

2010年5月26日 11:16

再び発生した世界同時株安の背後を読む

2010年5月26日筆
 
NYダウは1万ドル、日経平均は9500円を一時割り込みました。ドイツ株も、上海株、韓国株も急落しています。再び世界同時株安が訪れたようです。

株急落が始まったのは4月最終週からです。S&Pによるギリシャ国債格下げを機に発生した南欧諸国の債務危機がキッカケでした。この4月最終週からの株価の下げ幅は、ドイツDAXが約10%、NYダウが約12%、日経平均株価が約16%、上海総合指数が約22%になっています(5月25日現在)。震源地の欧州から遠いアジアの株価下落幅が大きいのが気になります

今回の世界同時株安は、リーマンブラザーズ破綻による世界同時暴落、世界同時不況の揺り戻しだと思われます。

08年のリーマンショック暴落は世界金融危機に転じ世界同時不況を導きました。このときG20諸国はいっせいに金融システム救済のための金融支援、景気刺激のための財政出動を行いましたが、その総額は5兆ドル(450兆円)に達しました。世界第2位の日本のGDP(国内総生産)に匹敵する規模です。

G20諸国は、5兆ドルを費やして民間金融機関が抱えこんだ住宅ローン担保証券などの不良債権を買い上げる一方、巨額の財政出動によって急激に膨らんだ民間需要の不足(GDPギャップ)を穴埋めしたのです。民間部門が抱え込んでいた5兆ドル分の不良債権と需要不足を政府部門が肩代わりしたことになります。その結果が政府部門の赤字拡大と公的債務の累増だったのです

確かにこの5兆ドルは、世界の株価と景気を瀕死状態から救い出しました。中国の株価は08年10月、日米欧の株価は09年3月から回復しました。中国の景気底入れが最も早く、中国向け輸出の回復を支えに日本景気も09年3月は底入れ、アメリカ景気は09年6月には底入れしました。

IMFは、この景気回復が持続すれば2010年、2011年の世界景気はリーマンショック前の4%成長に復帰するという楽観的な見通しを4月21日に出したばかりです。そのIMFの楽観見通しの一週間後に世界同時株安が始まったのです。

ギリシャの債務危機は、他にもスペイン、ポルトガル、アイルランドと「PIGS」と名付けられたEU加盟国にも深刻な財政赤字問題があることを浮かび上がらせました。償還に不安があるPIGS諸国の国債は売り浴びせられ、国債価格は急落、ギリシャなどの長期金利は一時13%台に跳ね上がりました。

ギリシャの債務危機がスペイン、ポルトガルに伝播するという危機に直面して、EUとIMFは大胆な策に打ってでました。総額7500億ユーロ(82.5兆円)もの緊急支援資金を積み上げたうえ、加盟各国の中央銀行が債務危機国の国債を市場から買い上げたのです。これらを合わせるとドル換算で1兆ドル(90兆円)以上の資金がPIGSの債務危機に投じられたことになります。

欧州の小国・ギリシャの債務危機に対して、マーケットの想定を大きく上回る1兆ドル(90兆円)以上の資金が投じられたのです。小生もこれで欧州の債務不履行不安、金融不安は収まり、ユーロ下落による円高が止まって日本株も下げ止まると喜んでいました。それも束の間、ユーロはさらに下落し、世界同時株安がさらに進行したのです。リーマンショックの後、ブッシュ大統領(当時)が大規模な金融システム対策を打ち出しにもかかわらず、株価が急落していったのを思い出します。

マーケットは1兆ドルもの緊急支援資金を投じても「解決されない問題」がEUの中に埋め込まれたままだと考えてユーロを売り株式を売ったのでしょう。 

その第1は、債務危機国の債務返済能力と意志の問題です。ギリシャを例に挙げれば、歳出削減と増税によって財政赤字をGDP比13%超から3年後には3%以下に引き下げる計画です。公務員給与のカットや年金支給条件の引き下げ、消費増税、徴税強化などの政策はすべてギリシャ国民の懐を直撃します。
ギリシャ国民がこの緊縮・増税政策に反旗を翻しゼネストで抵抗している有様を見て、マーケットは債務返済の意思と能力に疑いを持つのは当然です。

債務国国民に返済意思がなく政府に債務返済能力もないとすれば、緊急支援措置で投じられた対債務国への融資は焦げ付き、買い上げられた国債は不良資産になりかねません。ですから解決されない問題の第2は、EUの中核をなすドイツやフランスなどを筆頭とする信用を供与する側の政府、金融機関が抱え込んだ債務危機国の不良債権処理の問題ということになります。この問題は健全な与信国の国家財政を痛める一方、独、仏の金融機関の損失を再び拡大させることになります。

第3は、債務返済のために採用される緊縮・増税政策が景気を悪化させるという問題
です。ギリシャやスペインなどPIGS諸国のGDPは世界の5%未満ですから、彼らの緊縮・増税政策による世界景気の下押し効果は小さいといえます。しかし、財政緊縮・増税が必要な国家はほかにもたくさんあります
それらがいっせいに財政緊縮・増税に走れば、世界景気は再び下降に転ずる可能性が高くなります。

例えばEU委員会は、今回の債務危機を契機にEC加盟各国に対して「財政赤字をGDP比3%以下、公的債務残高をGDP60%」という加盟基準を守るように指導を始めています。この基準を大きく逸脱している加盟国はギリシャ、スペイン、ポルトガルのほかにイタリアが上げられます。

加盟国ではありませんがEUの友邦であるイギリスは隣国のアイルランドと並んで財政悪化が著しくEUの加盟基準を大きく逸脱しています。財政赤字の解消がイギリスのキャメロン連立新政権の最大の課題になるでしょう。

日本が世界最悪の財政事情であることは何度も述べました。菅財務大臣は国債の発行額を前年度の44.3兆円以下にすると言っていますから、5兆円以上の歳出削減(あるいは増税)が必要です。アメリカのGDP比の財政赤字は10%を上回り公的債務残高のGDP比は90%を上回っています。財政の急激な悪化を覚悟して景気刺激に走ったオバマ政権は3年目以降、財政赤字を半減するといっています。

世界は、リーマンショック後の金融対策、財政出動によって民間部門の債務を政府部門の債務に移し変えたものの、その結果、返済能力が疑われるほど膨らんだ政府債務が金融不安や世界景気の悪化原因になるということになっているのです。リーマンショックが世界的なバブル崩壊の第1波とすれば、ギリシャショックはバブル崩壊不況の処理から生じた第2波ということになります。

頼みの中国も例外ではありません。中国ではリーマンショック対策として採用した財政出動と金融の超緩和政策が不動産バブルを生みました。政府は、その不動産バブルを潰すためのさまざまな融資規制を採用してきましたが、それが上海総合指数の大幅な下落をもたらしています。上海万博の終了を待たずバブルが崩壊するのではと懸念されています。今回のユーロの下落(人民元高)が中国最大の輸出先であるEU向けの輸出を減少させ、中国の景気減速のきっかけになるという予測もあります。日中の株価下落率が欧米より大きい理由は、EU危機に中国の景気減速懸念が上乗せされているからだと言えそうです。

ただ、この第2波の世界不況懸念から抜け出すために、各国が再び財政出動に踏み切れば、二日酔いの向かい酒、将来の第3波の債務危機不況の種を仕込むことになります。日本もまったく事情は同じです。不況問題を解決するための残された余力は財政にはありません。残された政策手段は超インフレ覚悟の新発国債の日銀引き受け(日銀による財政ファイナンス)あるいはヘリコプターマネー政策(日銀が市中に大量に貨幣をばら撒く政策)のほかないという意見もあります。

そんな恐ろしい、危険な政策手段をとらず、できればこのまま米中を先頭に世界景気が自律回復の軌道を歩み続け、税収が増え債務危機が遠のくことができればと願っています。その結果、この悲観的過ぎる小生の予測と分析が間違っていたと笑いものになることを願うばかりです。

2010年5月19日 09:01

消費税を何%引き上げればよいか

2010年5月19日筆

財政再建のためなのか、財源確保のためなのか、よく分かりませんが、消費税率の引き上げの議論がようやく政治の舞台に引き上げられる雲行きです。

菅財務大臣、仙石国家戦略相のリーダーシップのもとで民主党が「参議院選挙マニフェスト」の中に「次の衆議院選挙後の消費税率引き上げ」を明記する方針だといいます。しかし肝心の小沢幹事長は「第一に取り組むべきは無駄を省くこと」と言い、消費増税の明記には反対のようです。選挙第一の幹事長を押し切って民主党は「マニフェストを変更できるのでしょうか。

それはさておき、かりに「次の総選挙後」と明記されても途中解散がなければ総選挙は平成25年(2013年)に行われます。そこまで民主党政権が続くとすれば、「次の総選挙後」に消費税率を何%引き上げることになるのか、以下で推計してみました。 

100518表組み2.gif

上表の基礎データは財務省が2月に公表した「平成22年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」です。これは、成立した平成22年度予算で決まった制度や施策を前提にして平成25年度(2013年度)までの歳出・歳入等がどのような増減になるか機械的に推計したものです。

この推計値の中には、前政権下で決まっている基礎年金の国庫負担分(2.5兆円)は含まれていますが、子供手当の増額(2.5兆円)や農家への戸別所得保障の追加(0.5兆円)、高速料金無料化の積み残し分など民主党の追加施策は歳出総額には一切含まれていません。それでも3年後の平成25年度歳出総額は、社会保障費の毎年1兆円の自然増、それと国債費の毎年2兆円もの増加によって100兆円を突破します。

なお国債費の推計ですが、推計の前提になっている長期金利(10年もの国債利回り)は2%超で現在の長期金利より1%高い設定です。現状のままの1%台の超低金利が続くと平成25年度の国債費は23.7兆円(表より4.2兆円減)に減少します。しかし、逆に想定より1%高い、つまり欧米並みの3%台の長期金利になると国債費は32.2兆円(表より4.3兆円増)に増加することになります。国債が売られ金利が上昇すると、国債費は急増するのです。

もうひとつ、表では「税収等」が23年度から急減しています。原因は「その他税収」(埋蔵金)の減収によるものです。22年度は財政投融資や外国為替などの特別会計や独立行政法人などの基金返納金を積み上げて10.6兆円の「その他税収」を計上しましたが、それも枯渇し、23年度以降「その他税収」は4兆円前後に減少するという計算になっています。

「みんなの党」は、年金基金や失業保険、外国為替などの特別会計にはまだ埋蔵金があると言って消費税引き上げに反対しています。しかし、その埋蔵金は将来の年金支払いや失業保険給付のための積立金や外貨値下がり損に備える準備金です。もしこれらの特別会計の中に本当に余分な埋蔵金があるのならその分は国債の返済、償還資金に充てるべきです。使えばすぐ枯渇するような一時的な埋蔵金を恒常的な予算に当てるのは間違いです。小生、多くの点で「みんなの党」の主張に賛成しますが、埋蔵金頼みの消費増税反対論には賛成しかねます

ちょっと推計の前提についての話が長くなりました。そこで消費税率の引き上げ幅ですが、途中解散がなければ民主党政権が作成する最終年度の平成25年度の推計値を前提に計算したいと思います。財務省によると平成25年度には歳出総額100.3兆円、社会保障費30.5兆円、税収等45.0兆円、財政赤字額(新規国債発行額)55兆円という推計値になります(上表)。

まず、財政赤字額55兆円すべてを消費税増税で穴埋めすれば、新規の国債発行はゼロになります。また平成25年度の国債費27.9兆円のうち約半分が償還費だとしますと、消費増税後は国債発行残高が毎年約14兆円ずつ減少する計算になります。ただし、この場合、消費税率の引き上げ幅は22.1%になります。消費税率は現在の5%と合わせると約30%に跳ね上がります。(消費税率を1%引き上げると2.5%の税収増になります。増税額55兆円を2.5兆円で割って算出すると消費税率引き上げは22.1%になります。)

しかし、22%消費税を引き上げても、そのまま計算どおり55兆円の税収増にはならないとする論文も出ています。第一生命経済研究所の主席エコノミストの永濱利廣氏は「消費税率引き上げの影響」と題する4月2日付けレポートで、「消費税率を22.3%引き上げるとわが国の構造的財政収支は初年度に黒字化するが、実質GDPには2年目に最大▲6.0%の下押し圧力がかかる。これは▲30兆円の実質GDP縮小を意味する。こうした経済規模の縮小によって2年目以降、構造的財政収支は赤字に転じてしまう」と述べています。

細かい定義上の問題にはここでは触れません。永濱レポートの結論を分かりやすく言えば、「22%も消費税を引き上げると景気が悪くなって所得税税などの税収が大きく減り、初年度には解消された財政赤字が2年度以降再び復活してしまう」というものです。したがって論文では、消費税率の大幅な引き上げのみで財政赤字を解消しようとすれば、激しい経済的痛みを伴うわりに効果が持続しないという結論になっています。

世界でもっとも高い消費税率は、北欧の「高福祉高負担国」であるデンマーク、ノルウェー,スウェーデンの25%です。日本が、激しい経済的痛みを伴いながら世界最低水準の5%から世界最高の北欧を上回る30%に税率を一気に引き上げるのは現実的とは言えないでしょう。

より現実的な税率アップは、プライマリーバランス(PB)赤字を解消するレベルまで消費税率を引き上げることです。一般歳出(国債費を除く支出)と税収を均衡させるのがプライマリーバランスの意味です。平成25年度のプライマリーバランス赤字(上表のPB赤字)は27.4兆円ですから、これを解消する消費税の引き上げ率は11%の引き上げになります。

この引き上げ率は消費税引き上げ分を社会保障費全部(30.5兆円)の財源に充てた福祉目的税方式の場合の引き上げ率約12%とほぼ同水準の数字になります。PB赤字の解消であれ福祉目的税であれ、この税率引き上げで現行の5%とあわせて消費税率は16~17%となり、イギリスやスペイン並みの消費税率になります。

11%~12%消費税を引き上げれば、税収だけで一般歳出は賄えます。しかし、国債費27.9兆円分(平成25年度)までは賄えませんから、この分は国債発行で埋めることになります。国債費のうち半分は償還費です。この分は借換え債の発行ですから国債残高は増えません。ただ残り半分の利払い費を賄う国債発行分14兆円は国債残高に上乗せされることに留意すべきです

ちなみにIMFは日本の政府債務残高の名目GDP比は2014年には247.7%(2010年227.1%)に達すると推計しています。名目GDPを500兆円としますと14年には政府債務残高は1230兆円に達していることになります。PB赤字解消であれ福祉目的税であれ、そのうえに毎年14兆円ずつ債務が積み上がっていくのです。

世界最低の消費税率を引き上げることで生まれる日本の財政余力こそ日本国債が売り浴びせられないための最後の命綱でした。政府債務残高は平成14年にはその消化能力の目安になる個人金融資産1400兆円にかなり接近しています。ローンを除いた準個人金融資産1000兆円は上回っています。最後の命綱である消費税率を英国並みに引き上げても、国内の消化能力を無視して政府債務は14兆円ずつ上乗せされていくのです。

この14兆円は、消費増税による成長低下を跳ね返す経済成長を実現して所得税や法人税の増収を図るか、あるいは景気の悪化を招かない程度の歳出削減を組み合わせるかして、穴埋めするしかないと思います。果たして民主党にそんな絶妙な知恵があるのでしょうか

2010年5月12日 11:48

ギリシャ危機に強く反応した兜町と菅財務大臣

2010年5月12日筆

いざとなったら株価に聞けといいます。ギリシャショックで株価が世界同時暴落した後、どのような緊急対策が採られ、それに株価がどう反応するかを注視していたのですが、東京市場の株価反応は小生には意外なものでした。

緊急対策はリーマンショック時に学んだ大胆なものでした。EUとIMFは債務危機諸国に対して総額7500億ユーロ、日本円にして90兆円もの、予想を上回る巨額な緊急融資枠を設定しました。ポルトガル、アイルランド、ギリシャ、スペインの「PIGS」4カ国の緊急時の支援必要額が5000億ユーロ(60兆円)といいますから、十分な緊急支援枠ということになります。

さらにECB(欧州中央銀行)は渋っていたギリシャ国債の購入に踏み切り、債券市場の動揺を抑える策に出ました。EU各国の中央銀行もギリシャ国債の購入を始めました。これも意外でした。中央銀行が自らの資産劣化を恐れずギリシャ国債の購入に踏み切り、市場にサプライズ(驚き)を与えたようです。これらの緊急対策によってギリシャ国債を売り浴びせる投機筋に対抗し、国債暴落、金利急騰を防ぐことができると考えられたからです。

その一方、ECB、FRB、日銀など先進国の中央銀行も歩調を合わせて金融市場にドル資金を供給、銀行間の資金取引の凍結を防ぐ策が採られました。ギリシャの債務危機発生によって保有国債の含み損失をめぐって金融機関の間で疑心暗鬼が渦巻き、欧州全域に信用収縮がひき起こされる寸前でしたから、この中央銀行の協調も信用収縮対策として有効だと評価されたと思います。

この緊急対策は週明け5月10日、世界で一番早く株式市場が開く東京に照準を合わせて取られました。小生は日経平均の大幅な反発を期待したのですが、実際は166円高、連休明け2日間の下げ幅692円の24%戻しに過ぎませんでした。最低でも3分の1戻しの230円高を予想していたのですが、株価の反応は意外なものでした。

そこで小生、この弱い株価反発は、緊急対策を独自に評価する能力が東京市場にはないからだということにして、東京の後に開くNY株式市場に評価を委ねようと考えました。予想どおりニューヨークでは緊急対策が評価され、現地時間5月10日のNYダウは404ドルの急騰、5月4日から4日間の下げ幅769ドルの52.5%戻しです。セオリーどおり半値戻しを達成したのです。

翌11日の日経平均は、NYダウの半値戻しを見て寄り付きこそ高く始まりましたが、後場にはずるずる下げ終値は119円安となってしまいました。結局、日経平均の2日間の上げ幅は47円に縮小、ギリシャショック暴落時の株価水準近くに戻ってしまったのです。意外や意外、期待外れもいいところです。

兜町の見立ては、対ユーロ、対ドルいずれも円安への戻りが鈍いことが日経平均の株価反発を大きく抑えたというものです。ギリシャショック時、円は対ユーロで110円割れ、対ドルで88円割れの急騰となりましたが、緊急対策後、対ドルは一時93円台まで戻りました。これに対して対ユーロでは120円まで戻した後再び117円台のユーロ安円高になっています。このユーロ安は、ギリシャの財政再建が困難を極め、やがてギリシャ国債はデフォルト(債務不履行)を余儀なくされるという読みの結果だという見立てなのです。

ギリシャ政府はEUやIMFに対し、消費税引き上げや公務員人件費の削減、年金支給年齢の引き上げ、脱税の防止などによって3年間で財政赤字を総額300億ユーロ圧縮する、名目GDP比の財政赤字比率を13.6%から3年後に3%以下に引き下げると約束して、総額1100億ユーロの緊急融資を引き出しました。しかし、政府の緊縮財政に反発してゼネストで抵抗するギリシャの公務員労組の姿を見て、このギリシャの約束が実行されるか、世界の市場(投資家)が多いに危ぶんでいることは間違いありません。

日本市場も例外ではありません。それどころか小生には日本市場が、「わが身に引き写して」、ギリシャの財政再建を最も危ぶんでいるのではないか、とすら思えるのです。NYダウなどに比べなぜ日経平均の反発が極めて弱いのか、ユーロ安円高がなぜ止まらないのか、この日本市場の動きは何を教えてくれているのでしょうか。

ギリシャの債務危機を「わが身に引き写して」考え始めたのは兜町だけではありません。兜町以上に強く反応したのは、ほかならぬ菅直人財務大臣でした
菅さんはギリシャ危機をめぐる先進7カ国(G7)財務大臣による緊急電話会議に対応しました。こうした緊急会議を通じて菅さんは、たぶん国債を売り浴びせる市場の怖さ、国債暴落がひき起こす信用収縮連鎖の深淵、経済の大混乱を思い知らされたに違いありません。

小生は、円安誘導発言を繰り返すようになった頃から菅財務大臣を「市場(マーケット)」の意味をようやく理解できるようになったと見直しています。今回も菅さんは、ギリシャやポルトガルの国債暴落をひき起こした市場の暴力(あるいは市場の反乱)を批判しませんでした。それより国債売り浴びせの原因になった大幅な財政赤字と国債残高の累増、さらに言えばギリシャを筆頭に国家の放漫、ばら撒き財政に大きな問題があると思ったに違いありません。

その証拠が5月11日の発言です。菅直人財務大臣の「11年度予算では国債の新規発行額を10年度予算の44.3兆円以下に抑える」と言い切りました。史上最大の新規国債発行額だった44.3兆円を上限にするのは甘すぎるとは思いますが、これでも大変な決断だと思います。

というのは、財務省が10年度予算を単純延長して算定した歳出歳入の差額(これは新規施策無しでも発生する財源不足額をあらわすものです)は51.3兆円だからです。11年度予算では、税収増がなければこの分は新規国債発行で補われることになります。この51.3兆円に対して菅さんは7兆円以上少ない44.3兆円以下の新規国債発行にとどめるというのです。菅発言どおり実行されれば、子供手当の倍増など新規施策の上乗せがない状態で7兆円以上歳出を切込むという計算になるからです。

ギリシャよりずっと悪いというわが国の財政危機状態を知れば知るほど、菅さんは日本国債が市場から狙い撃ちされる悪夢に取り憑かれるようになったのかもしれません。日本国債の95%は日本人が買っているから売り浴びせも暴落もないという迷信を信じている一部の政治家やエコノミストには、菅さんは脅え過ぎだと思うかもしれません。

しかし、市場を侮ってはいけません。預金や保険料を国債に運用している日本の民間金融機関は、保有国債の値下がりが見込めれば、預金や保険料を守るために競って日本国債を売ります。外国人は日本国債をあまり保有していませんが、国債先物市場で日本国債の空売りを仕掛けることができます。市場が財政赤字を放置する民主党政権に対して反乱を起こすことは大いにあり得るのです。ギリシャショックの後ですから、市場は6月末までに菅財務大臣から発表される今後3年間の歳出・歳入の計画である「中期財政フレーム」をこれまで以上に注視しているといってよいでしょう。日本国債の格下げもあり得ます

そんな折、菅発言を聞いた鳩山総理は「あれは財務相の思いであって、私の考えではない」と相変わらず市場知らず、経済オンチな発言をしています。彼が気にしているのは、選挙至上主義、マニフェスト変更を許さずバラマキで票を買って恥じることのない小沢幹事長一派や、国債をどんどん発行して膨張予算を組めと脅す連立相手の亀井国民新党代表のことだけのようです。

そんな鳩山総理には、残念を通り越して呆れ果てるばかりです

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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