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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年4月

2010年4月28日 11:11

小沢一郎は「選挙の神様」ではなく「選挙の疫病神」

2010年4月28日筆

小沢一郎民主党幹事長に検察審議会が「不起訴は不当であり、起訴を相当とする」という判断を下した日、小沢ガールズの一人は「起訴相当」の判断に対する感想を求められ「小沢先生は選挙の神様ですから幹事長を続けてください」とトンチンカンなお答えを発したそうです。

小生は「選挙の神様」という言葉を聴くたびに思い出すのは、候補者に選挙に勝つための身振り手振り、握手の仕方を教える「選挙プロデューサー」という商売です。政策や政治思想などは二の次三の次、選挙民に好感度を与えることで一票をいただくその手法を伝授するというのです。この手法は人心をたぶらかし、とにかく人にものを買わせれば大成功というマーケティングや宣伝広告の手法と同じです。それでもマーケティングなどという横文字を使えば近代的な選挙手法に思えるのが不思議です。

おなじ選挙手法でも「選挙の神様」と小沢ガールズに崇めたてられる小沢幹事長の選挙手法は、「辻立ち」、「戸別訪問」、「団体回り」という元祖「選挙の神様」田中角栄元総理譲りの古典的手法です。こちらのほうは候補者自身が選挙民に直接接して民意を尋ねるという意味で「選挙プロデューサー」よりましですが、民意を尋ねるあまりバラマキ政策や利益誘導を誘発する恐れがあります。

小生の選挙区でも民主党の新人候補者が毎朝駅前に立って「おはようございます。民主党の何某です」「ご苦労様です。行ってらっしゃいませ」と繰り返していました。政策は無し、です。これが「辻立ち」です。毎朝、候補者が駅前でぺこぺこ頭を下げていれば名前ぐらいは覚えてもらえるという作戦でしょう。町の角々に立てられている名前だけの立て看板、修正された顔写真が気味悪く笑っている選挙ポスターと同じで、候補者にはよく恥かしがらずに毎日立っていますねという感想を持つだけで、「辻立ち」にはそんなに害はありません。

「戸別訪問」は確か現在は公職選挙法で禁止されているはずですが、候補者が一軒一軒訪ねて選挙民に投票をお願いして回る方法です。前回の総選挙では小宅を公示前でしたが自民党候補者(本人)も民主党候補者(母親)も訪れました。今回はすでに公明党候補(本人)が訪問しています。公示前ですから選挙違反ではないのでしょうね。戸別訪問では、もっぱら候補者側は聞き役にまわり、耳に痛い話は聞き流し、吸い上げれば選挙に勝てると思える要望だけを吸い上げているようです。これが、ばら撒き政策の供給源になります。

ただし「選挙の神様」の小沢氏は、「辻立ち」などで獲得できる無党派層の移ろいやすい浮動票など相手にしていないと思います。小沢氏は「世論調査など当たったためしがない」とうそぶいています。鳩山政権の支持率が危機ラインの30%を大きく割り込み、「小沢幹事長は辞めろ」という声が80%近いという世論調査が次々に出されていても、これをまったく無視するのです。

無党派層など眼もくれず、いったん取り込めば票が安定して出る団体票を囲い込む、その手法の一つが「団体回り」です。小沢幹事長は無党派層が民主党と自分の敵に回ってしまった現在、「団体回り」という選挙手法にしか頼れるものはない状態に追い込まれているのではないでしょうか。今やこれが小沢幹事長の選挙手法の中核になっているように思えます。

老人会、自治会から労働組合、郵便局長会、歯科医師会、農業団体まで「団体」から「団体」まで次々に訪れては、票のとりまとめをお願いするのが「団体回り」の手法ですが、この手法に最近は「踏み絵」と「利益誘導」という露骨な選挙手法が補強されています

小沢の「踏み絵」は、「民主党に票を入れなければ予算をつけない」という形で「土地改良組合」や「農協」「医師会」など自民党の支持団体に突きつけられました。自民党現議員及び元議員が支配している「土地改良組合」の予算は半分に削られてしまいました。

長崎県知事選挙では「民主党候補を当選させなければ道路予算はつけない」と石井一議員など小沢氏ご一統が演説しましたが、民主党候補が負けると民主党政権はその演説をそのとおり実行したのです。高速料金の実質値上げによって復活した高速道路予算のうち、長崎県の高速道路予算は復活が認められませんでした。

小沢幹事長とその取り巻きがたむろする「幹事長室」に地方自治体や業界、事業団体などの陳情を一本化する。その上で、彼らに「踏み絵」を踏ませて民主党支持に宗旨替えすれば「予算をつけてやる」。そういう形で団体への利益誘導を図るという仕組みです。昨年暮れの予算編成において小沢幹事長が「国民の要望」といって高速道路や新幹線予算の復活を政府に求めたのも、「予算を餌に地方票を獲得する」という汚い小沢式選挙手法だったのです。

小沢氏は「選挙こそ民意、民意こそ政治」とよく言っています。しかし、世論調査に表現された「小沢氏は幹事長も議員も辞めるべき」とする圧倒的な民意は彼の耳にはまったく届かないのです。彼が大切にする「民意」は民主党と自分に一票を入れる国民と団体の要望だけです。小沢氏が「国民の要望」というのは地方ゼネコンや全国特定郵便局長会、歯科医師会、一部の労働組合、トラック運送業者の要望であり、「国民皆さんの声」というのは「ばら撒き餌(えさ)」が欲しくて民主党に票を入れる目先の欲に駆られた国民の声なのです。

民主党の独裁権力者といわれる小沢氏から「国民の要望」だとか「国民皆さんの声」とか「民主主義」などという言葉を聴きたくもありません。

予算配分権はすべての国民の税金によって成り立っているのです。制度や規制の変更権限は国民共通のルールを作るために国家に付与された権限です。そのような予算配分権や規制権限を特定の政党が選挙に勝つために使うことは断じて許されません。小沢民主党に媚を売って特定の地域や団体や特定の国民がみずからの利益誘導を図ることも許すわけにはいきません。

小沢氏を「選挙の神様」と崇拝する小沢ガールルズや「幹事長室」の取り巻き議員でも、小沢式選挙手法が国民全体に利益を及ぼすものではなく特定の国民や団体に利益を誘導するものだということを薄々ご存知だと思います。

予算という餌で票を釣るような御仁を「選挙の神様」と仰ぐような下らない政治家を支持する選挙民はそのうちいなくなってしまうでしょう。小生のような無党派層という砂粒のような選挙民は、小沢幹事長と小沢民主党に愛想を尽かすどころか嫌悪感すら抱いています。このままでは世論調査による小沢・鳩山政権の支持率は10%台に落ち込むと思われます

前回の衆院選で当選した多くの民主党議員は無党派層の支持という「風」に乗って議席を得たのです。その無党派層の「民意」を小沢氏に同調して完全無視し、彼らは当選できるとでも思っているのでしょうか。今総選挙があれば、小沢ガールズも「幹事長室」の取り巻きもほとんどが落選すると思います。

小沢ガールズも小沢取り巻きも、自らが落選したとしても小沢氏を「選挙の神様」と崇拝するのでしょうか。選挙に勝たしてもらえなければ小沢氏は「神様」ではありません。単なる「疫病神」なのです。もう遅いとは思いますが、選挙で生き残るには、民主党議員はオザワという「疫病神」を追い払うしかありませんね。

2010年4月21日 09:09

歯を粗末にした「65歳」の深い後悔

2010年4月21日筆

4月19日、小生、とうとう65歳になりました。WHO(世界保健機構)の定義によると65歳以上を「高齢者」、そのうち65歳から74歳までを「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」というそうです。「後期高齢者」という言葉は評判が悪いようですが、世界各国で使っている行政用語なのですね。

小生もそういう行政用語でいう「高齢者」の仲間入りをしたわけですが、ウィキペディアには「高齢者とは、肉体が衰え死に至るまでの移行期間にある人」とも書き込まれていました。怖いですね。しかし、強がりを言わせてもらいますが、小生には肉体が衰え死に至る「高齢者」としての実感がまだ殆どありません。先日も、小生の後ろを歩いていた家内が「背筋がぴんとしてとても老人には見えませんよ」と言ってくれましたし、ね。

老眼が進み、頭の毛も大変薄くなりましたが、頭の内部はまだ濃いのではないかと自負しています。その自負こそ老いの証拠なのかもしれません。このブログを読まれた皆さんに「何を言っているのか、さっぱりわけが分からない」とか「昔話や繰り言が多くなったね」と言われるようになると小生の頭の内部も腐ってきた証拠です。そのときはご指摘ください。小生もおしまいです。

本当のことを言いますと、実は、ひとつだけ、高齢者としての実感がひしひしと迫っています。歯のことです。歳をとるにつれ歯が次々に失われていくというのが小生の高齢者としての実感です。もちろんこれは高齢者共通の実感ではないとは思います。歯がたくさん残っている高齢者は幾らでもおられるわけですから。歯が失われていくのは小生の自己責任ですが...。

とはいっても、かえすがえす残念なのは歯を大切にしなかったことです。50歳代の半ば、今の言葉で言えば歯周病、昔懐かしい言葉で言えば「歯槽膿漏」に掛かりつつあることを歯医者に指摘されながら、歯磨きから歯石除去にいたるまで歯の養生を怠ったことです。悔やんでも悔やみきれません。

歯は一本失うとその隣の歯が弱くなり、そのうちその歯も抜くことになります。こうして歯周病が連鎖して次々に歯を失い、結局、前歯を3本、奥歯を4本失ってしまいました。この後も1年に1~2本ずつ失い、後期高齢者入りする75歳にはすべての歯が失われる気がして、憂鬱になります。

歯を失うことは「高齢者」にとって欠くことのできない「食」の楽しみを失うことにもなります。家内は朝昼晩、春夏秋冬、おいしい手料理を作って小生を十分太らせてくれています。豚一頭、まもなく出荷です。ありがとうございます。しかし、その手料理も部分入れ歯ではすべてを味わい尽くすことが出来ません。こういうのを親不幸ならぬ「カカア不幸」というのでしょうか。たまには外食もします。しかし、部分入れ歯ではせっかくのホテルの手の込んだ会席料理もおいしく味わえません。残念です。

かといって部分入れ歯をはずしての食事は、「噛んで味わう」というもうひとつの「食」の楽しみを欠くことになります。奥歯が4本ないのですから魚沼産のコシヒカリをふっくら炊いても噛んで味わうことが出来ません。上の前歯が3本ないので、うどん、蕎麦、ラーメン、スパゲッティなど麺類を噛み切ることが出来ません。ズルッと喉に流し込む蕎麦はまだしも、うどん、ラーメン、スパゲッティを噛み切らないで長い麺を流し込むなど、論外です。

小生の部分入れ歯ですが、保険が効いて安上がりなのは結構なのですが、歯が抜けるたびに入れ歯を付け足して延ばした代物です。時間が経つにつれ噛みあわせが悪くなっていきます。それだけではなく空気の出所がゆがんでいるのでしょうか、滑舌(かつぜつ)がだんだん悪くなっています

アナウンサーでもないのですから滑舌が多少悪くなっても不便はないといわれるかも知れません。しかし小生、現在は、舌先三寸で糊口を凌(しの)いでいるのです。いいえ政治家や詐欺師ではありません。夜間大学で講義をしたり地方で講演したり、喋りが商売道具の職業なのです。「滑舌」が悪くては、聴衆の方々には何を言っているのか聞き取れなくなってしまいます。これでは小生の舌先商売は、上がったりです。

ついでに言いますが、鳩山総理は「滑舌」は申し分ありませんが、言っている内容がない、あっても軽い、AなのかBなのか、はたまたCなのか、何を言っているのかさっぱり分かりません。英会話の勉強をする際、プロの講師は、LとRの区別が付かないとかイントネーションが間違っているとか「しゃべり」に気を使うより、何を話すか話の内容を熟知することのほうが重要だとよく言います。「しゃべり」つまり「滑舌」がよくても、自分の意思がない、内容がない総理では、オバマ大統領は相手にしないでしょう。相手にするのは総理を思うように操れる小沢一郎と亀井静香の両氏だけでしょうね。

また「高齢者」なのに憎まれ口を叩いてしまいました。

それはさておき、後悔しても歯はもはや生えてきません。何とか「滑舌」と「噛み合わせ」の良い部分入れ歯に作り変えなければならないのですが、保険仕様で作ってもらったのでは元の木阿弥です。

家内は、保険外で多少金がかかってもいいから「滑舌」の良い部分入れ歯にしなさいと言います。家内は、顔も形も良くないがひとつだけ声が良かったからあなたと結婚したのですからと昔話を持ち出し、小生の「滑舌」の回復を望んでいます。そう望むなら、家内にはぜひ、部分入れ歯を作るための資金援助をお願いしたいのですが、どうでしょうか。

2010年4月14日 09:24

「立ち上がれ日本」と「立ち枯れ日本」

2010年4月14日筆

「みんなの党」の渡辺喜美代表は、平沼赳夫代表、与謝野馨共同代表の新党「たちあがれ(立ち上がれ)日本」という党名を聞いて、「あ」を抜いて「たちがれ(立ち枯れ)日本ですか」とからかい気味にとぼけて見せました。

これを聞いて最初は「なるほど、その通りかも知れない」と思わずうなずいてしまったのですが、うなずいた後ですぐに嫌な気分に襲われました。

うなずいた理由は、やはり参加議員の平均約70歳という高年齢にありました。平沼氏も与謝野氏も大病を患った身です。新党の応援団だという石原慎太郎東京都知事は77歳、渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長が83歳、中曽根康弘元首相が91歳です。失礼ながら、精神と肉体ともに消耗の激しい政治活動をあと何年続けられるか、疑問に思うのが普通でしょう。

これに対して「みんなの党」は58歳の渡辺代表が最年長、最年少は川田龍平参議院議員の34歳で、参加6議員の平均年齢は44歳です。同じひらがな名の政党ですが、「みんなの党」と「たちあがれ日本」では平均年齢で26歳も差があるのです。ですから小生、肉体年齢の若い政党の代表である渡辺氏が、平沼氏らに対して「結党はしたが、彼らは(肉体的に)すぐ立ち枯れる」と評しても不思議ではないと勝手に思い込んで、うなずいたのです。

小生、実は来週の4月19日が誕生日、1945年生まれですから満年齢で65歳になります。よく考えると小生の年齢は「みんなの党」より「たちあがれ日本」のほうにはるかに近いのです。「あ」抜きで「立ち枯れ」呼ばわりされる高年齢層なのです。

しかし、渡辺代表のからかいにうなずいた後、すぐに嫌な気分になったのは、自分が「立ち枯れ」呼ばわりされたからではありません。自分が「立ち枯れ」の高年齢であるのにもかかわらず、それを忘れて若い渡辺代表と同じ目線に立っていたことに嫌気がさしたのです。「立ち枯れ」といった渡辺代表は政治家を年齢で差別する意図などなかったと思います。しかし小生は、歳を忘れ若い政治家になったような気になり、当然のように政治家を年齢で差別していました。自分はなんと身の程を知らない嫌な高齢者なのだろうと思ったからです。

石原慎太郎氏はさすが感受性の鋭い政治家ですね。「たちあがれ日本」の結党会見で、聞かれもしないのに「新党が年寄りばかりだというのは簡単だ。君たち20代、30代、40代が持っていない危機感をわれわれは持っている。何で今の民主党の若い議員は(小沢の)金権政治と体を張って戦わないのか」と言っていました。高齢政治家を侮蔑する風潮に強い憤りを露わにしたのです。

確かに、日本がこのままではだめになる、没落するかもしれないという危機感は年寄りのほうが強いかもしれません。来週には前期高齢者入りする小生も、そう思っているからこそ、この小さなブログで年甲斐もなく何度となく民主党政治に警告を発しているのです。小生、経済が専門で政治は門外漢ですが、民主党政治の稚拙さとごまかし、鳩山由紀夫の饒舌さ、軽さと鈍感さ、小沢一郎の自己中心、自信過剰と傲慢さ、亀井静香の粗雑さと我田引水、などなど語れば語るほど熱くなります。政治は魔物です。冷静、沈着、温厚な人物とされる与謝野氏や園田氏が頭に血が上って脱党するのですから。

政治的情念に肉体年齢は関係ありません。その点で思い出すのは「新党さきがけ」の代表代行だった田中秀征氏が語った言葉です。当時、田中秀征さんは、小生の「なぜ細川護熙日本新党代表を評価するのか」という問いに対して、「年寄りを参院選挙の候補者に立てたからだよ」と意外な答えを返してきました。

1992年に結党した日本新党は、この年の7月の参議院選挙で4議席を獲得しましたが、このうちの一人が1912年生まれ、当時80歳の武田邦太郎氏でした。武田氏は地道な農政家であり平和運動家でもありました。田中秀征さんは、肉体年齢を問わず武田氏を候補者にした細川護熙さんを高く評価したのです。このことを思い出して「立ち枯れ日本」という渡辺代表の表現にうなずいてしまった自分が恥ずかしくなりました。

今回「たちあがれ日本」の幹事長に就任した園田博之氏は、「新党さきがけ」の結党当時、武村正義代表、田中代表代行に続くナンバー3の代表幹事でした。ナンバー4の総務会長が鳩山由紀夫現総理です。当時、田中秀征氏53歳、園田氏52歳、鳩山氏46歳で当時の「新党さきがけ」は現在の「みんなの党」と同年齢だったのです。あれから17年、園田氏(小生もお会いしたことがありますが、謙虚で温厚な素晴らしいリベラル政治家です)は68歳になりましたが、政治改革の情熱は衰えず2度目の自民党脱党に踏み切ったのです。

小生、ひどく残念なのは、財政再建派で穏健なリベラル政治家でもある与謝野氏と園田氏が、最も右よりの国家主義的な政治信条を持つ平沼赳夫氏と組んだことです。平沼グループは、外国人地方参政権、選択的夫婦別姓、郵政完全民営化のいずれにも反対している、亀井静香代表の国民新党とくっついたほうすっきりするような国家主義的な政治集団です。与謝野馨、園田博之両氏の政治信条とは水と油です。もう賽は投げられた、後戻りはできないのでしょうが、お二人には今一度冷静になって自民党にお戻りいただき、後藤田正純議員ら若手と手を携え民主党の対抗軸になっていただけないでしょうか。

今回は小生、65歳の誕生日を前にして、「政治家の年齢」に関するとりとめのない感想文を書いてしまいました。いまさら政治信条も政策論も変えることのできない頑固な前期高齢者入りの老人のたわごとだと、ご容赦ください。

2010年4月 7日 11:58

日本経済の実力は1ドル100円前後?

2010年4月7日筆

ノーベル経済学賞受賞者のJ・スティッグリッツ・コロンビア大学教授は、朝日新聞の円レートの適正水準に関する質問に対してこう答えていました。

 「現状の為替水準では(日本)産業の競争力を維持することは難しく、介入してでも円安に誘導すべきだ」(朝日新聞10年3月18日付)

同感です。教授は「円が割安に放置されてきたために輸出依存の経済構造が築かれた。内需主導経済に転じるには、輸入物価を引き下げ日本の購買力を増やす円高が歓迎される」と主張する一部の円高歓迎論者を批判しているのです。

日本は輸入より輸出のほうが多い国です。前にも本ブログで書きましたが輸出は海外からの所得流入、輸入は海外への所得流出です。所得流入(輸出)から所得流出(輸入)を差し引いた差額(純輸出)がプラスになれば、所得総額であるGDP(国内総生産)は増加します。マイナスになればGDPは減少します。

為替が円高になると、輸入額が圧縮され所得流出は減少しますが、一方、輸出額が目減りして所得流入のほうも減少します。輸出のほうが輸入より大きいのですから、所得流出の減少より所得流入の減少のほうが大きくなり、その差額(純輸出)は減少しGDPは低下します。円高は所得総額を減少させるのです。

円高は、単に以上のように輸出手取り額(所得流入額)を目減りさせるだけではありません。円高は日本産業の競争力を劣化させ輸出を構造的に減少させる原因になります。スティグリッツ教授はそのことを指摘しているのでしょう。

輸出競争力は、「コスト競争力」と「技術競争力」に分解されます。技術競争力についてはパイオニア(先駆者)とフォロアー(追随者)の差は短時日に縮小し平準化が著しいと言って良いでしょう。太陽光発電や液晶テレビなどの例に見られるように製造技術を輸入し部品調達力をつければ中国はじめフォロアーは、パイオニアを直ちにキャッチアップしすぐに先端技術商品を作れるようになっています。しかもその先端技術商品はコモディティ化(市況商品化)し、日本のようなパイオニアは付加価値がすぐ取れなくなってしまいます。

日本のような製造業に技術競争力がある経済で、その技術競争力が輸出競争力につながりにくいのですから事態は深刻です。なぜならもうひとつの競争力の源泉である「コスト競争力」が円高によってさらに劣化しているからです。

「コスト競争力」の基本は人件費コストですが、円高は日本企業の人件費コストをさらに増加させ、コスト競争力を劣化させます。例えば中国の人民元はドルペッグ(釘付け)状態ですから、ドル安・円高はすなわち人民元安・円高になります。人民元安・円高になれば、中国企業からの輸入商品価格が下がり日本企業の競争力が失われるだけではありません。円高分だけ中国人労働者の人件費が下がり相対的に日本人労働者の人件費が上がることになります。円高は日本企業の「コスト競争力」をさらに奪ってしまうのです。

円高下で日本企業がコスト競争力を維持するには日本人労働者の人件費総額を削るか、安い人件費のアジア諸国に工場を移すかしかありません。総人件費も削らず工場を国内にとどめておくことのできる、つまり国内企業が中国などとのコスト競争力を維持できる円レートはいくら位なのでしょうか

スティグリッツ教授が日経新聞の質問に答えた時点の為替水準は1ドル90円前後でした。教授は90円前後でも日本産業の(輸出)競争力を維持することが難しいと言っているのです。3月の日銀短観によると、大企業製造業が2010年度の事業計画の前提にしている想定レートは1ドル91円でした。大企業は90円前後で何とかやっていけるようです。しかし、大企業より生産性が低い中堅・中小企業製造業を含めて計算すると、競争力が維持できる為替レートは1ドル100円前後になるのではないかと思っています。

小生は、これまで民主党政権のマクロ経済運営や経済政策にはかなり厳しい点数をつけてきましたが、一点だけ評価しています。それは円高容認論者だった藤井裕久氏から菅直人副総理に財務大臣が代わり円安誘導政策に転じたことです。菅財務大臣は直接ドル買い介入して円安へもっていったわけではありませんが、デフレ宣言をすることで日銀を動かし、日銀が「広い意味での量的緩和」に踏み切ることになったのは正しい選択でした。

日銀は、昨年12月、今年3月と2度にわたる追加金融緩和によって、3ヶ月という、より期間の長い短期金利の低下を促しました。その結果、ドルの短期金利が円の短期金利より高くなり、投資家が金利の高いドルを買い金利の安い円を売るようになり、ドル高・円安をもたらしました。円安への基調転換によって日本経済の牽引者である輸出製造業の業績回復が顕著となり、株価もリーマンショック前の水準近くまで回復しています。

ついでに言いますが、円安は景気回復に貢献するだけでなく、輸入物価の上昇による物価回復という経路からデフレの克服にもなります。円安はさらに日本人の人件費の相対的な割高感を和らげ、雇用回復にもつながります。
 
世界的に金融資産の蓄積が大きくなった経済では、為替レートは昔のように貿易収支が赤字・黒字で動くのではなく、第一義的には内外の金利差によって変化すると考えるべきです。

すでに利上げに踏み切った資源国、途上国に続いて、欧米諸国も金利を徐々に引き上げ異常な金融緩和を終了させる出口戦略を模索し始めています。しかし日本はデフレ状態がまだ続くことから超低金利状態を続けることになります。そうなると日本の金利が世界で一番低いという状態が続くわけですから、内外金利差は拡大し海外通貨が買われ円が売られるという円安基調が続くことになります

円安誘導政策は財政赤字とは無縁の景気回復策です。鳩山政権には、この円安基調という今の日本にとって願ってもないファンダメンタルズ(基礎的条件)をぶち壊しにしないようにしてほしいと願うばかりです。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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