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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年2月24日 09:30

「郵政改革素案」をまとめた大塚耕平副大臣に問う

2010年2月24日筆

2月19日の衆議院総務委員会で自民党の石田真敏議員が5年前の民主党の郵政改革案と2月8日に提出した郵政改革の素案が真逆になっている矛盾を付いたと報じられています((朝日新聞)2月20日付け)。2月16日にアップした小生のブログ『「民主党らしさを取り戻す」ことの意味』で前原誠司代表当時の郵政改革案と今回の郵政改革素案との間にある民主党の大きな矛盾を指摘しましたが、石田議員の質問はそれと同じ論旨でした。オリンピック放映に押しのけられNHKの国会中継がなく、石田議員の議論が聞けなかったのが残念です。

繰り返しますが、前原民主党当時の郵政改革案は、「郵貯への預入限度額を1000万円から500万円へ引き下げる」、「簡保は将来廃止する」、つまり郵貯も簡保も縮小し民業の補完に徹する(官から民へ)というものでした。

今回の「郵政改革素案」は、郵政改革担当副大臣の署名があるから大塚耕平副大臣がまとめたのでしょう。素案では、「政府から親会社への出資比率、親会社から子会社への出資比率、金融サービスの内容と利用限度額については、今後与党プロセスの議論を踏まえて決定する」としています。しかし、その「与党プロセスの議論」は、郵政公社への逆戻りに近い考えの国民新党の亀井静香郵政改革大臣や社民党などの少数政党がリードしているようです。

検討されている内容は、郵貯会社や簡保会社に政府出資を残したまま(暗黙の政府保証を残したまま)、郵貯の預入限度額も簡保の加入限度額も大幅に引き上げるというものだと報じられています。その通り実施されると郵貯・簡保が再び肥大化し、資金は「民」から「官」へ吸い上げられることになります。その結果、地銀、第3地銀、信金、信組、農協など地域金融機関の経営が大きく圧迫され経営危機すら起こしかねません。「民業の補完に徹する」という前原代表当時の改革案とはまさに正反対の案になりそうです

5年前との矛盾を石田議員に突かれて大塚耕平副大臣は、「05年の総選挙でわれわれの案は否決された。歴史は戻せないので、現在の体制を前提に議論している」(朝日新聞2月20日付け)と釈明したそうです。郵政選挙で負けたからといって、小泉郵政改革案より過激な郵貯・簡保の縮小案(官から民への移行案)だった民主党案がそれと真逆の郵政膨張案に代わるのはあまりにも節操がないのではないですか。当時民主党に投票した選挙民は裏切られたことになりませんか。

大塚副大臣は、上司の亀井静香郵政改革担当大臣に逆らうこともできず「腹にない」ことを言わざるを得ないのでしょう。「腹にない」という理由は彼自身、郵貯・簡保の膨張案には基本的には反対なはずだからです。野党の論客であった大塚議員は、民主党郵政改革案が発表された直後、2005年10月13日の参議院郵政特別委員会で当時の小泉総理に「郵政民営化で果たして国債発行は減るのか」と噛み付いています。当時の民主党改革案では「民主党は、郵便貯金の資金が国債引き受けや特殊法人に流れ、無駄遣いされている現在の仕組みを変え、民間資金を官から民へと流します」と言っています。大塚議員は、民営化後も郵貯資金が国債を購入し続ければ財政規律が緩むと言っているのです。

大塚副大臣は、早稲田大学を出て日本銀行に20年近く勤務し、政策委員会調査役(国会担当)を最後に参議院議員になった俊才です。小生は、日銀は、規制権力を振り回す大蔵省(当時)に比べ、規制を少なくして価格機構の働きを大切にする市場主義的色彩が強い役所であると認識しています。大塚議員はその日銀に20年近くもいたのですから、官営郵貯の膨張によって市場への「官」の支配が増大することを忌避していたはずです。さらに郵貯が国債を買い続けることによって政治家が予算を際限なくばら撒き、その結果、財政規律が大きく失われることになります。その尻を、日銀が国債引き受けという形で拭うことを国会担当の日銀調査役として大塚さんはもっとも危惧していたはずです。

それが、もといた職場である日銀の考え方から最も遠い亀井静香郵政改革担当兼金融担当大臣の副大臣になったのですからお気の毒とご同情申し上げるほかありません。亀井大臣が、放漫財政も厭わない時代遅れのケインジアンであり、金利機能(価格機構)の大切さなどまったく無視する金融社会主義者であることは副大臣が最もよくご存知だと思います。それでも大塚副大臣は、例の金融株の急落をもたらした「亀井モラトリアム」の際には、銀行を破綻に追いやる「返済猶予法」をソフトな「金融円滑化法」に衣替えをして亀井大臣の尻拭いを見事にされました。

ただ、「円滑化法」を円滑に施行するために不良債権の認定基準を大幅に緩和したのは、いただけません。副大臣は日銀の営業局にいた頃、銀行考査を担当したことはないのですか。返済猶予や貸出条件の緩和を行った融資が不良債権の塊になって金融危機・金融梗塞をもたらし、日本経済の「失われた10年(15年?)」の原因のひとつになったことを、よもやお忘れではないでしょうね。日本では不良債権に積み上がりによる信用リスクの増大が銀行破綻の原因になっていることを、日銀出身の副大臣もよくご存知のはずです。

この点で亀井大臣は、国民新党のサポーターである郵貯(全国郵便局長会)かわいさの余り、本末転倒、非常識極まりない提案をしています。まず、郵便局に対する金融検査を緩めるために、競合する第2地銀、信金、信組に対する検査も緩めるというのです。「円滑化法」で不良債権の認定基準をすでに緩和しています。そのうえ金融検査を緩めるのですから金融機関の融資規律はさらに緩み、不良債権が累積する危険が高まります。「円滑化法」が期限切れになる3年後、金融機関に隠された不良債権が一気に表に出ることがないよう祈るのみです。

さらに亀井大臣は、郵貯残高の減少を食い止め郵便局のジリ貧を避けるために、郵貯の預入限度額を引き上げ、業容拡大を図ると主張しているようです。その見返りに郵貯と競合する信金、信組に限って金融機関が破綻した際に支払われる「ペイオフ額(払い戻し保証額)」を引き上げるというのです。信金、信組の払い戻し保証額を引き上げれば預金者は郵貯に預け替えるインセンティブが小さくなり、地域金融を担う信金、信組の支援も得られると亀井大臣は考えたのでしょう。しかしこれも浅はかな悪知恵です。

払い戻し保証額が少ないときは、危ない金融機関から預金が逃げるという形の預金者による経営チェックが働きます。しかしペイオフ額が引き上げられ預金者への払い戻し保証額が大きくなると、金融機関は預金者のチェックを受けないで済むことになります。その結果、金融機関は利益を膨らませるために焦げ付きを恐れない危ない融資を膨らませることになります。つまり金融機関側のモラルハザード(道徳の欠如)が深化し、不良債権の増加につながるのです。

それだけではありません。ペイオフの原資は金融機関が預金保険機構に積み立てた預金保険料です。ですからペイオフ額を引き上げれば預金保険料も引き上げざるを得ません。これが儲けの少ない中小金融機関には大きな経営負担になります。信金や信組だけペイオフ額を引き上げれば、預金者には危ない金融機関とみなされ、逆に信金、信組から預金が流出する。そのうえに預金保険料の負担が重なり経営の重荷になります。郵貯のためのペイオフ引き上げは大迷惑だとする信金、信組の猛反対にあって、亀井大臣はペイオフ額引き上げを断念したようですが、当然です。

亀井大臣のような、金融に対する基礎素養がまったくない、思い付きだけで金融行政を動かす「乱暴な上司」の下で働かざるを得ない大塚副大臣は重ね重ねお気の毒だと思います。しかし大塚副大臣には、今度も「亀井モラトリアム」の時のように、なんとかこの「乱暴な上司」をうまくごまかしていただけないでしょうか。

大塚副大臣自身が「素案」でお書きになった表現を借りれば、(1)民間金融機関との全体的な競争条件の公平性の確保及び金融システムの安定性維持の観点に十分配慮しながら、(2)郵政グループの経営者及び利用者の「モラルハザード(道徳の欠如)」につながらないような「まともな郵政改革案」をつくっていただければ幸いです。その案を論理的に詰めれば、完全民営化によって郵貯・簡保を民間金融機関並みの競争条件下に置くというものになるはずですが、どうでしょうか。

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QuonNetコミュニティ | 2014年2月27日 15:20
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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