QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2010年2月10日 10:39

PIGSの財政危機騒動に日本を見る

2010年2月10日筆

花粉症は体内に花粉が徐々に蓄積されて、その蓄積量がある限界を超えると一気に発症するといいます。財政赤字の累積である政府債務残高も、その残高が限界を超えると一気に金利急騰という「財政破綻に至る病(やまい)」を発症することになります。日本の政府債務残高はすでにその限界を超えており、金利急騰によって利払いのための国債発行が累積するという「財政の発散」過程に入りつつあるといってよいと思います。

「PIGS」の一角、ギリシャでは、財政の「発散過程」をたどる日本の明日を予見させるようなことが発生しています。「PIGS」とは財政危機に見舞われ債務不履行すら噂されているポルトガル(P)、イタリア(I)、ギリシャ(G)、スペイン(S)の南欧4カ国の頭文字をつなげた合成語です。昨年、名目GDPに占める財政赤字比率が-12.2%に達し財政危機に直面したアイルランドのIを加えて「PIIGS」と称することもあります。

20100210表.jpg

ギリシャは上表に見るようにPIGSの中でも名目GDPに占める財政赤字の比率、政府債務の比率が最も高い国です。財政赤字の虚偽報告なども発覚してギリシャ政府への不信感が一気に高まり、昨年11月ごろからギリシャ国債の利回りはじりじり上昇(価格は上昇)を始めました。

年が明けて1月、格付機関のS&Pはギリシャ国債を格下げする方向で検討に入ったほか、フィッチ(格付機関)は実際にギリシャ国債をジャンク債(くず債)並みの「BBBプラス」に格下げしました。この結果、ギリシャ国債は、77%を保有する外国人投資家から売り浴びせられ、利回りが急上昇することになりました。

このギリシャ国債の価格急落はギリシャに次いで財政が脆弱とされているポルトガルに飛び火しました。S&Pが、現在「Aプラス」のポルトガル国債の格付を格下げの方向で見直すと発表したことも重なりました。さらにポルトガル短期国債の入札が落札予定額を大きく下回る事態も発生しています。80%以上保有する外国人投資家の警戒心が一気に高まり、ポルトガル長期国債も大きく売られ利回りは急騰しています。

こうした国債売りは資産バブル崩壊の影響が大きいスペインにも波及しています。スペインの財政赤字問題はギリシャ、ポルトガルより軽いのですが、投資家の動揺がスペインに及んだ点が注目されます。スペイン国債の信用力の下落は、ギリシャ、ポルトガルよりはるかに大きいスペイン経済のさらなる悪化を予想させました。ギリシャからポルトガル、スペインへ連鎖した国債価格の下落は欧州全域の株価急落をもたらし、ユーロの急落につながりました

ユーロが売られた結果、めぐりめぐって円が「安全資産」として消去法で買われ急騰、円高に弱い日本株も大幅に下落してしまいました。欧米の金融が動揺するたびに円が消去法で買われるのですが、円は本当に「安全資産」なのでしょうか。もう一度、上表をご覧ください。わが日本は、国債を売り浴びせられたギリシャに比べGDPに占める財政赤字比率は小さいが、総債務比率ははるかに大きい規模です。鳩山民主党政権の財政規律に疑問が生じており、S&Pは、日本の長期国債格付けを「AAプラス」から引き下げる検討に入りました。

ちなみに国債の増発による財政出動を主張する論者が必ず引き合いに出す純債務比率も日本はいまや世界最高水準です。純債務とは、総債務(グロス)から政府保有の金融資産、たとえば社会保障基金や政府出資金・貸付金や保有有価証券を差し引いたネットの政府債務をいいます。財政出動論者は、この社会保障基金などを担保にすればまだ国債が発行できるというのですが、担保の社会保障基金は年金、医療保険などの支払準備金であり国債が不履行になったからといって取り崩すわけにいかない資金です。担保にはふさわしくありません。

政府出資金は東京大学など大学や研究機関など独立行政法人への出資金が中心です。この出資金を引き揚げて国債の返済に充てるのでしょうか。政府貸付金は、JALに融資する日本政策投資銀行、中小企業・零細企業に融資する日本政策金融公庫のほか学生の奨学金を融資する日本学生支援機構が大部分を占めます。これらを潰して貸付金を引き揚げるのでしょうか。日本郵政などの政府持ち株を売却して国債残高を圧縮するなど民主党にはできないでしょうね。純資産比率が低いことが国債増発の言い訳になる時期はとっくに去っているのです。

それでも日本国債は売り浴びせられないのは、その保有者の95%が銀行、郵貯、簡保、生保、年金基金など日本の金融機関や機関投資家だからです。日本の場合、ギリシャやポルトガルなどとは違って国債の償還能力や信用リスクに敏感な外国人の保有比率が5%前後ですから売りが極めて少ないのです。一方、日本国債に対する買いは、大不況で安全な貸し先がない金融機関、株式などリスク資産のリスク度が高くなりすぎ安全一辺倒に陥っている機関投資家によるものなのです。リスクを取らない金融機関はあまり褒められたものではありません。

日本国債の現在の利回りは1.3%と世界最低水準です。この国債利回りは、日本経済への投資利回りが1.3%以下であることを意味します。残念ながら日本は投下資本に対して1.3%も儲からない経済になってしまったのです。儲からない日本経済では国債を償還するための税収アップが見込めるはずがありません。しかも、民主党は、税金を支払う能力がある大企業を叩く一方の社民党、国民新党、共産党にひたすら相槌を打つ政党になっています。これではますます税収は上がらなくなります。そのうえ税金を払えない人を支援するために財政赤字を垂れ流して続けているのですから、国債発行残高は累増する一方です。

あと10年以内に日本国債などの政府債務残高は日本国民の国債消化能力(個人金融資産残高)を上回ると予想されています。償還能力や信用リスクに厳しい外国人に日本国債を買ってもらわねばならない時期が迫ってきているのです。PIGSの危機騒動は、近い将来の日本の姿です。花粉症が一気に発症する時期が近づいているといってよいでしょう。

この記事へのコメント

1. Posted by PUN 2010年3月21日 10:41

あまり良い状態でないのはみんな判ってると思います。ではどうしたらいいのかまで言ってくれる人はあまりいないのでぜひ処方箋も示していただければ幸いです

2. Posted by Anonymous 2010年5月21日 17:34

金利が高いということは
・信用がない
・借り手がいない
・人気がない
・リスクが高い
ということです。

金利が低いということはこんなに低くしても消化できてる、
つまり 儲け<信用 と考える人が十分にいるということです。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2018年6月
2018年5月
2018年4月
2018年3月
2018年2月
2018年1月
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2015年04月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
最新記事
スルガ銀行はマイナス金利が生んだ異形のあだ花
わが庭のアジサイがほぼ満開です
誰が信じるのか、安倍政権の「2つの政策目標」
財務官僚の弱体化で財政再建が絶望的になる恐れ
安倍総理はトランプの「取引外交」に対峙できるか
最新コメント
トランプと安倍首相を...
Posted by 坂田三吉
LS北見カーリングチ...
Posted by かずちゃん
大西先生世の中の表象...
Posted by Anonymous
ありがとうございます...
Posted by Anonymous
経済政策・少子化政策...
Posted by Anonymous
最新トラックバック
【記事】スルガ銀行はマイナス金利が生んだ異形のあだ花
from QuonNetコミュニティ
【記事】わが庭のアジサイがほぼ満開です
from QuonNetコミュニティ
【記事】誰が信じるのか、安倍政権の「2つの政策目標」
from QuonNetコミュニティ
【記事】財務官僚の弱体化で財政再建が絶望的になる恐れ
from QuonNetコミュニティ
【記事】安倍総理はトランプの「取引外交」に対峙できるか
from QuonNetコミュニティ