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2010年2月 3日 09:20

「品質管理の総本山」トヨタの失敗

2010年2月3日筆

トヨタが、踏み込んだあと戻らないこともある欠陥アクセルペダル問題をひき起こし全米で大騒ぎになっています。アメリカの消費者の反応は、「フォードやGMなら不思議ではないが、まさかトヨタが欠陥車問題を起こすとは」という驚きに近いものだと報じられています。

トヨタは、この欠陥アクセルペダルを積み込んだカムリ、カローラなど8車種の米国、カナダ工場での生産を一時停止した後、米国230万台、中国7.5万台、ヨーロッパ180万台、合算すると417万台ものリコール(回収・無償修理)を2月8日から始めると発表しました。昨秋に発生したアクセルペダルが引っかかるというフロアマットの自主回収535万台も加えると、リコール台数は910万台に達すると会社側は発表しています。2010年のトヨタ車単体の世界販売計画は740万台ですから、それをはるかに上回る空前のリコール台数になりました。

このリコール費用は1000億円とも2000億円ともいわれますが、この費用はあらかじめ積んであった品質保証引当金を取り崩せば穴埋めできるといいます。しかし、「まさかトヨタが」という評価が「トヨタもフォードやGMと同類か」という評価に変わってしまえば、「品質のトヨタ」というブランド価値は暴落することになります。米国進出50年間で築いてきたトヨタのブランド価値の下落を穴埋めするのは容易ではないと思われます。

このことについて、「日経新聞」(10年2月2日付)のコラム「大機小機」が「大野耐一氏が泣いている」(筆者はペンネーム「三角」氏)と題して適切な批評をしています。トヨタは海外で異例の大増産に打って出て、念願の世界首位に立った。「この過程でトヨタに慢心があったかは分からないが、部品供給や設計・開発の兵站(へいたん)線がのび切っていたのは同社関係者も認める事実だ。」と「三角」氏は書いています。

トヨタは世界制覇の大増産を行うに当って「部品の共通化」を採用したと言います。たとえば今回のアクセルペダルはアメリカの部品メーカーCTS社からトヨタが調達したものです。「部品の共通化」によるコストダウンを狙ってCTS社のアクセルペダルを米国、中国、欧州で生産されたトヨタ車に搭載したため欠陥車台数が535万台にも及んだと思われます。CTS社製を使わなかった日本製などには不具合は生じていません。

トヨタはアクセルペダルを生産したCTS社に損害賠償を求める意向だと一部に報じられています。しかしそんなことよりトヨタは、「大機小機」が指摘しているように、「部品供給や設計・開発の兵站線がのび切っていた」ことから生じた生産システムや品質管理上の問題に早急に対処しなければなりません。

表題になった大野耐一氏は、1960年代にトヨタ生産方式の原型を作ったトヨタの元副社長です。記事では、大野氏が築いたトヨタ式生産方式の道具立てとして「必要なときに必要なだけそろえるジャスト・イン・タイム」、「物流を効率化するカンバン」、「生産ラインで製品の不具合につながる異変に気づいたらすぐにラインを止めるアンドン」の三つを上げています。このうち、品質管理に直接つながるのはアンドン(行灯)ですが、記事では、大野氏が、『ラインで不具合が起きると「なぜ起きたか、理由を5回問い詰めて見ろ」と、真の原因が見つかるまでとことん考えさせた。』と従業員に品質の大切さを叩き込む努力を重ねていたことを紹介しています。

もともと大野氏のトヨタ生産方式は、アメリカのデミング氏が開発した不良品ゼロを目指す品質管理(クォリティ・コントロール=QC)運動が基礎になっています。このQC運動は1960年代に日本の製造業に盛んに導入されましたが、特にトヨタでは現場のカイゼン(改善)活動に結実し、それがジャスト・イン・タイムやカンバンといった仕掛かり在庫の削減などムダの排除運動と結び付いて、トヨタ生産方式になったのです。ムダの排除、生産性の向上にばかり目が向きがちですが、大野氏のトヨタ生産方式の本質はデミング氏以来の「品質管理」にあったといってよいでしょう。その品質管理がおろそかにされ、「大野氏は草葉の陰から口惜しさいっぱいで見ているに違いない」とも「三角」氏は言っています。

こうしたQCの思想はトヨタの「協豊会」に属する系列部品メーカーにも徹底されていました。「大機小機」の表現を借りると、トヨタは「新車開発ではトヨタと部品メーカーの技術者を一堂に集め、意識と技術の擦り合わせを大切にした」のです。この系列部品メーカーと親会社トヨタの関係は英語で「ケイレツ」、経済学の用語では「長期契約システム」と呼ばれて世界的に評価されました。ケイレツには、下請けシゴキという問題もありますが、新車開発段階から系列部品メーカーをデザイン・インさせ、「技術者を一堂に集め、意識と技術の擦り合わせ」して品質管理を万全なものにするという良い面もありました。アメリカの部品メーカーは「ケイレツ」下にないので、「意識と技術の擦り合せ」が十分できなかったということでしょうか。

原因はどうやらそれだけではないようです。本日(2月3日付け)の「朝日新聞」がトヨタのハイブリッド車「新型プリウス」でブレーキの苦情が日米で104件寄せられていると報じています。苦情は、「低速で道路のくぼみや滑りやすい路面を通過する際、瞬間的にブレーキが利かなくなる」(朝日新聞)という構造的な問題で、苦情はアメリカだけでなく日本でも2件ほど寄せられているといいます。「新型プリウス」のブレーキは日本製でしょうか、モーターとエンジンの切り替え時に発生するブレーキシステムの不具合という説もあります。これが本当なら、海外国内を問わずトヨタ全体の新車開発や品質管理のシステムに問題があるということになります。ことは深刻です。

「大機小機」の「三角氏」はこう結んでいます。『もの作りの力は日本経済だけなく、日本の株式市場の生命線、大黒柱である。品質はその背骨だ。製造各社は「品質管理の総本山」で起きた今回の問題を、「品質第一」の原点に再起する契機にしてほしい。』と。小生もまったく同感です。 

東海道新幹線はパンタグラフの締め付けボルトの付け忘れという信じられないヒューマンエラーで3時間半も止まりました。JR東海は開業以来無事故を誇り、それを売り文句に海外輸出をもくろんでいました。無事故という「品質」を失っては新幹線輸出で稼ぐなど不可能です。「品質と精度、そして歩留まり」で生きてきた日本産業は、没落のふちを歩き始めています。「品質管理の総本山」としてのトヨタが、徹底的な原因究明を行い「品質第一」の大野イズムへ回帰することこそ、日本産業の没落を防ぐ力になると思います。

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QuonNetコミュニティ | 2010年2月 3日 09:25

この記事へのコメント

1. Posted by earlybird 2010年3月 2日 00:51

この記事を知らずに下記の記事を投稿していました。

■ CNetの読者ブログ:
「トヨタ帝国の崩壊」を予感させる「プリウスの暴走」
http://japan.cnet.com/blog/hatch/2010/02/08/entry_27037204/

ところで、週刊東洋経済が2006年7月に特集記事 ”「トヨタの異変」崩れた品質神話”を載せていたころの編集長は大西様だったのでしょうか? 今にして思えば、あれは本当に勇気ある記事だったと感服しています。

2. Posted by 自動車部品製造業OB 2010年3月 7日 15:15

 東洋経済の2006年記事は非常に印象深かったので、数年保存していました。記事中、渡辺社長(当時)が「品質問題が最重要課題だ」と述べていたと記憶しています。すでに回復不能なほど深刻化していたのでしょう。

 奥田、張、渡辺と続いた拡大路線が今の惨状をもたらしたとはすでに定説化していますが、大マスコミが未だ「トヨタの失敗」をまともに総括しないのが不思議です。

 小生、現役時部品会社に勤務していたとき、鈴村喜久男氏が指導するNPS研究会から、何人もの指導員が来て、めちゃめちゃな指導を受けたことが忘れられません。鈴村氏は大野耐一氏の一の弟子だったようですが、希代の偏執狂でしあのは、た。周囲は彼を持ち上げるだけ持ち上げ、尻馬に乗って我々を怒鳴りあげていました。指導員のでたらめぶりがわかったのは、前回の指導内容をまったく覚えてないということでした。メモはまったくしいないから、指導に一貫性がなく、思いつきでどなるだけです。トヨタG企業での経験を、さも聖典であるかのように、お前らに「おせーたる」と言うのが口癖でした。経営に悪影響を及ぼしたと思います。お陰で経営はますます悪化し間もなく九州合併されるはめになりました。
 またトヨタマンと直接接触する機会もありましたが、彼らの下請け企業を見下した態度には、内心「アホな連中だ」と思ったものです。トヨタの肩書きが取れたら誰も相手にしてくれないとは自覚していないのです。「ドライバーの感覚の問題」発言とあわせて、トヨタマンのKYぶりは際立っています。ホンダマンは下請けともっと平等に付き合ってくれたように思います。

トヨタ再生、少なくとも関連会社を含めると膨大な雇用を抱える企業、反省して再出発してもらわないわけにはいかないでしょう。それには正鵠を射た総括が必要と思います。大西さんにも2006年版の貴重な内容をfollowしていただければと思います。
日本の組織には反省するという習慣があまりに希薄です。水に流すとか言って、反省材料はすぐ忘れてしまう。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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