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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年2月

2010年2月24日 09:30

「郵政改革素案」をまとめた大塚耕平副大臣に問う

2010年2月24日筆

2月19日の衆議院総務委員会で自民党の石田真敏議員が5年前の民主党の郵政改革案と2月8日に提出した郵政改革の素案が真逆になっている矛盾を付いたと報じられています((朝日新聞)2月20日付け)。2月16日にアップした小生のブログ『「民主党らしさを取り戻す」ことの意味』で前原誠司代表当時の郵政改革案と今回の郵政改革素案との間にある民主党の大きな矛盾を指摘しましたが、石田議員の質問はそれと同じ論旨でした。オリンピック放映に押しのけられNHKの国会中継がなく、石田議員の議論が聞けなかったのが残念です。

繰り返しますが、前原民主党当時の郵政改革案は、「郵貯への預入限度額を1000万円から500万円へ引き下げる」、「簡保は将来廃止する」、つまり郵貯も簡保も縮小し民業の補完に徹する(官から民へ)というものでした。

今回の「郵政改革素案」は、郵政改革担当副大臣の署名があるから大塚耕平副大臣がまとめたのでしょう。素案では、「政府から親会社への出資比率、親会社から子会社への出資比率、金融サービスの内容と利用限度額については、今後与党プロセスの議論を踏まえて決定する」としています。しかし、その「与党プロセスの議論」は、郵政公社への逆戻りに近い考えの国民新党の亀井静香郵政改革大臣や社民党などの少数政党がリードしているようです。

検討されている内容は、郵貯会社や簡保会社に政府出資を残したまま(暗黙の政府保証を残したまま)、郵貯の預入限度額も簡保の加入限度額も大幅に引き上げるというものだと報じられています。その通り実施されると郵貯・簡保が再び肥大化し、資金は「民」から「官」へ吸い上げられることになります。その結果、地銀、第3地銀、信金、信組、農協など地域金融機関の経営が大きく圧迫され経営危機すら起こしかねません。「民業の補完に徹する」という前原代表当時の改革案とはまさに正反対の案になりそうです

5年前との矛盾を石田議員に突かれて大塚耕平副大臣は、「05年の総選挙でわれわれの案は否決された。歴史は戻せないので、現在の体制を前提に議論している」(朝日新聞2月20日付け)と釈明したそうです。郵政選挙で負けたからといって、小泉郵政改革案より過激な郵貯・簡保の縮小案(官から民への移行案)だった民主党案がそれと真逆の郵政膨張案に代わるのはあまりにも節操がないのではないですか。当時民主党に投票した選挙民は裏切られたことになりませんか。

大塚副大臣は、上司の亀井静香郵政改革担当大臣に逆らうこともできず「腹にない」ことを言わざるを得ないのでしょう。「腹にない」という理由は彼自身、郵貯・簡保の膨張案には基本的には反対なはずだからです。野党の論客であった大塚議員は、民主党郵政改革案が発表された直後、2005年10月13日の参議院郵政特別委員会で当時の小泉総理に「郵政民営化で果たして国債発行は減るのか」と噛み付いています。当時の民主党改革案では「民主党は、郵便貯金の資金が国債引き受けや特殊法人に流れ、無駄遣いされている現在の仕組みを変え、民間資金を官から民へと流します」と言っています。大塚議員は、民営化後も郵貯資金が国債を購入し続ければ財政規律が緩むと言っているのです。

大塚副大臣は、早稲田大学を出て日本銀行に20年近く勤務し、政策委員会調査役(国会担当)を最後に参議院議員になった俊才です。小生は、日銀は、規制権力を振り回す大蔵省(当時)に比べ、規制を少なくして価格機構の働きを大切にする市場主義的色彩が強い役所であると認識しています。大塚議員はその日銀に20年近くもいたのですから、官営郵貯の膨張によって市場への「官」の支配が増大することを忌避していたはずです。さらに郵貯が国債を買い続けることによって政治家が予算を際限なくばら撒き、その結果、財政規律が大きく失われることになります。その尻を、日銀が国債引き受けという形で拭うことを国会担当の日銀調査役として大塚さんはもっとも危惧していたはずです。

それが、もといた職場である日銀の考え方から最も遠い亀井静香郵政改革担当兼金融担当大臣の副大臣になったのですからお気の毒とご同情申し上げるほかありません。亀井大臣が、放漫財政も厭わない時代遅れのケインジアンであり、金利機能(価格機構)の大切さなどまったく無視する金融社会主義者であることは副大臣が最もよくご存知だと思います。それでも大塚副大臣は、例の金融株の急落をもたらした「亀井モラトリアム」の際には、銀行を破綻に追いやる「返済猶予法」をソフトな「金融円滑化法」に衣替えをして亀井大臣の尻拭いを見事にされました。

ただ、「円滑化法」を円滑に施行するために不良債権の認定基準を大幅に緩和したのは、いただけません。副大臣は日銀の営業局にいた頃、銀行考査を担当したことはないのですか。返済猶予や貸出条件の緩和を行った融資が不良債権の塊になって金融危機・金融梗塞をもたらし、日本経済の「失われた10年(15年?)」の原因のひとつになったことを、よもやお忘れではないでしょうね。日本では不良債権に積み上がりによる信用リスクの増大が銀行破綻の原因になっていることを、日銀出身の副大臣もよくご存知のはずです。

この点で亀井大臣は、国民新党のサポーターである郵貯(全国郵便局長会)かわいさの余り、本末転倒、非常識極まりない提案をしています。まず、郵便局に対する金融検査を緩めるために、競合する第2地銀、信金、信組に対する検査も緩めるというのです。「円滑化法」で不良債権の認定基準をすでに緩和しています。そのうえ金融検査を緩めるのですから金融機関の融資規律はさらに緩み、不良債権が累積する危険が高まります。「円滑化法」が期限切れになる3年後、金融機関に隠された不良債権が一気に表に出ることがないよう祈るのみです。

さらに亀井大臣は、郵貯残高の減少を食い止め郵便局のジリ貧を避けるために、郵貯の預入限度額を引き上げ、業容拡大を図ると主張しているようです。その見返りに郵貯と競合する信金、信組に限って金融機関が破綻した際に支払われる「ペイオフ額(払い戻し保証額)」を引き上げるというのです。信金、信組の払い戻し保証額を引き上げれば預金者は郵貯に預け替えるインセンティブが小さくなり、地域金融を担う信金、信組の支援も得られると亀井大臣は考えたのでしょう。しかしこれも浅はかな悪知恵です。

払い戻し保証額が少ないときは、危ない金融機関から預金が逃げるという形の預金者による経営チェックが働きます。しかしペイオフ額が引き上げられ預金者への払い戻し保証額が大きくなると、金融機関は預金者のチェックを受けないで済むことになります。その結果、金融機関は利益を膨らませるために焦げ付きを恐れない危ない融資を膨らませることになります。つまり金融機関側のモラルハザード(道徳の欠如)が深化し、不良債権の増加につながるのです。

それだけではありません。ペイオフの原資は金融機関が預金保険機構に積み立てた預金保険料です。ですからペイオフ額を引き上げれば預金保険料も引き上げざるを得ません。これが儲けの少ない中小金融機関には大きな経営負担になります。信金や信組だけペイオフ額を引き上げれば、預金者には危ない金融機関とみなされ、逆に信金、信組から預金が流出する。そのうえに預金保険料の負担が重なり経営の重荷になります。郵貯のためのペイオフ引き上げは大迷惑だとする信金、信組の猛反対にあって、亀井大臣はペイオフ額引き上げを断念したようですが、当然です。

亀井大臣のような、金融に対する基礎素養がまったくない、思い付きだけで金融行政を動かす「乱暴な上司」の下で働かざるを得ない大塚副大臣は重ね重ねお気の毒だと思います。しかし大塚副大臣には、今度も「亀井モラトリアム」の時のように、なんとかこの「乱暴な上司」をうまくごまかしていただけないでしょうか。

大塚副大臣自身が「素案」でお書きになった表現を借りれば、(1)民間金融機関との全体的な競争条件の公平性の確保及び金融システムの安定性維持の観点に十分配慮しながら、(2)郵政グループの経営者及び利用者の「モラルハザード(道徳の欠如)」につながらないような「まともな郵政改革案」をつくっていただければ幸いです。その案を論理的に詰めれば、完全民営化によって郵貯・簡保を民間金融機関並みの競争条件下に置くというものになるはずですが、どうでしょうか。

2010年2月17日 10:13

「民主党らしさを取り戻す」ことの意味

2010年2月17日筆

鳩山総理は、落ち込んだ支持率を回復する策として、事業仕分けで活躍した枝野幸男議員を行政刷新担当相に加え、「民主党らしさ」を取り戻すと言いました。鳩山総理は「民主党らしさを取り戻すとは、民主党が小沢一郎自由党と合併する以前に戻るということか」と聞かれ、小沢氏に遠慮してか「必ずしもそうではない」と口を濁しています。

しかし、小生などは「民主党らしさ」は「新党さきがけ」当時のメンバーに遡るのが適当だと思うのです。今も民主党議員として生き残っている「新党さきがけ以来の「旧民主党結党時」メンバーは以下の面々です。

 鳩山由紀夫、簗瀬進(新党さきがけ結党メンバー)、
 玄葉光一郎(無所属から新党さきがけに参加)、
 枝野幸男、前原誠司、小沢鋭仁(日本新党から新党さきがけに合流)
 菅直人(社民連から新党さきがけに合流)

小生は、「週刊東洋経済」の編集長当時、細川護熙(当時、日本新党代表)と田中秀征(新党さきがけ副代表)の初対談を仕組んだこともあって、その後の細川政権を支えたこれらの民自合併前の「旧民主党結党時」の新党さきがけ出身メンバーに強いシンパシーを持っています。政策思想には、政治・行政改革、規制改革を積極的に進めるという自由主義思想が色濃い一方、弱者に優しいというリベラルな面も持ち合わせていました。

小沢に意見して遠ざけられた渡部恒三(前民主党最高顧問)さんは、早稲田の雄弁会当時、石橋湛山の選挙運動を手伝ったと聞いて、小生、東洋経済新報社出版局編集委員当時、長時間にわたって聞き書きを行ったことがあります。この聞き書きは1995年に『政治家につける薬』(東洋経済刊)に上梓されました。渡部さんは石橋湛山譲りの自由主義とリベラリズム(弱者保護)を持っておられることから、彼にも小生は深いシンパシーを感じています。

その渡部さんが、民主党の次世代を担う「七奉行」として将来を期待しているメンバーのうち、前原誠司、枝野幸男、玄葉光一郎の3名が「旧民主党結党時」の新党さきがけ出身メンバーです。残りの岡田克也氏は無派閥、仙石由人氏は凌雲会(前原グループ)、野田佳彦氏は凌雲会に近い花斉会(野田グループ)に属しています。日本新党出身の樽床伸二氏は鳩山グループです。

さてその民主党ですが、小沢自由党と合併した後も、自由主義とリベラリズムの経済思想は残っていたようです。小生の記憶では、民主党は「郵政」に関する入り口(郵便貯金)と出口(財政投融資、特殊法人)の改革に積極的だったとずっと思っていました。この自由主義的な民主党という小生の記憶が間違っていなかった証拠の文書をネットから拾い出すことができました。

2005年9月30日の日付ですから前原誠司(現国交大臣)氏が民主党代表に就任して間もない頃です。民主党「郵政改革法案」の概要と題した文書(マニフェスト)が発表され、そこには以下のように記されていました。

「2006年度中に郵便貯金の預入限度額を700万円に引き下げる。07年10月1日以降、郵便貯金については、定額貯金は廃止し、預入限度額を500万円に引き下げる。」

「07年10月1日以降、簡易生命保険は廃止する。旧契約については2つ以上の郵政保険会社を設立し、これらの会社に分割譲渡する。郵政保険会社の株式は、12年9月30日までにすべて売却し、完全民営化する。」

郵政改革とあわせ、特殊法人・独立行政法人等の抜本改革を進める。後者及び郵便貯金会社、完全民営化までの郵便保険会社による財投債・政府保証債・格付けのない財投機関債の購入を禁止する。」

この文書の極めつけは、「郵便貯金からあふれ出た資金は地域経済を活性化します」と題した以下の文章です。

「預入限度額の引き下げによって郵便貯金からあふれ出た資金は、地域の民間金融機関や証券会社に分散し、最終的には中小企業などにも貸し出されます。この結果、地域経済は活性化します。民間部門からの税収も増えるので、財政再建にも寄与します。
民主党は、郵便貯金の資金が国債引き受けや特殊法人に流れ、無駄遣いされている現在の仕組みを変え、民間資金を官から民へと流します。」

この民主党の郵政改革案は、郵便貯金の預入限度額を1000万円から500万円に引き下げ縮小を図るだけでなく、簡保を廃止するとまで言い切っています。その上で、郵貯資金が国債購入にまわされ予算の無駄遣いが進むことや、財投債や財投機関債購入によって特殊法人や公益法人の既得権益存続を助けることは許さないという毅然とした姿勢がうかがわれます。この郵政改革案は小泉総理の郵政改革に比べても過激なもので、小生は、前原代表当時の政治姿勢に大賛成です。

ところがわずか5年前に書かれたこの郵政改革案は跡形もなく葬りされました。郵政民営化に反対して小泉首相から自民党を追い出された怨念に凝り固まった亀井静香国民新党代表と参院選挙に勝つためであれば医師会、特定郵便局町長会、労働組合、地方自治体首長(公共事業誘導族)、農民、なんでもいいから無節操に囲い込む小沢幹事長が合体したため、前原代表当時の「民主党らしさ」は雲散霧消してしまいました。

それどころか、「郵便貯金も簡易保険も銀行法や保険業法の対象からはずし」、準国営のまま、「郵貯は3年後に現在1000万円の預入限度額を撤廃し無制限にする」、「現在1300万円の簡保加入限度額も3年後に撤廃し青天井にする」と亀井郵政担当大臣と原口一博総務大臣(前原、野田と松下政経塾の同窓だがなぜか小沢氏の心酔)という郵政改革素案が合意されたと報じられています(「読売オンライン」2月13日配信)。信じられません、誤報であればいいのですが。

20100217表.jpg

上表で見るように郵貯の貯金残高は中小企業や地域の金融に欠かせない第2地銀と信用金庫合わせた規模です。国営で全額保護されたうえ、預入限度額が撤廃されれば郵貯は膨張必至です。地銀、第2地銀、信金、農協(預金残高75兆円前後)、信用組合は資金を郵貯に奪われ経営危機に見舞われる可能性があります。さらに「ゆうちょ銀行」は、国債を貯金総額177兆円の90%近くになる158兆円保有しています。郵便貯金の国債購入による予算の無駄遣い(ばら撒き)はさらに進みそうです。

鳩山民主党は、亀井・小沢(原口)の郵政「改悪」案を排し、「旧民主党結党時」とは言いませんが、せめて5年前の前原民主党代表当時まで「民主党らしさ」を取り戻してほしいものです。

2010年2月10日 10:39

PIGSの財政危機騒動に日本を見る

2010年2月10日筆

花粉症は体内に花粉が徐々に蓄積されて、その蓄積量がある限界を超えると一気に発症するといいます。財政赤字の累積である政府債務残高も、その残高が限界を超えると一気に金利急騰という「財政破綻に至る病(やまい)」を発症することになります。日本の政府債務残高はすでにその限界を超えており、金利急騰によって利払いのための国債発行が累積するという「財政の発散」過程に入りつつあるといってよいと思います。

「PIGS」の一角、ギリシャでは、財政の「発散過程」をたどる日本の明日を予見させるようなことが発生しています。「PIGS」とは財政危機に見舞われ債務不履行すら噂されているポルトガル(P)、イタリア(I)、ギリシャ(G)、スペイン(S)の南欧4カ国の頭文字をつなげた合成語です。昨年、名目GDPに占める財政赤字比率が-12.2%に達し財政危機に直面したアイルランドのIを加えて「PIIGS」と称することもあります。

20100210表.jpg

ギリシャは上表に見るようにPIGSの中でも名目GDPに占める財政赤字の比率、政府債務の比率が最も高い国です。財政赤字の虚偽報告なども発覚してギリシャ政府への不信感が一気に高まり、昨年11月ごろからギリシャ国債の利回りはじりじり上昇(価格は上昇)を始めました。

年が明けて1月、格付機関のS&Pはギリシャ国債を格下げする方向で検討に入ったほか、フィッチ(格付機関)は実際にギリシャ国債をジャンク債(くず債)並みの「BBBプラス」に格下げしました。この結果、ギリシャ国債は、77%を保有する外国人投資家から売り浴びせられ、利回りが急上昇することになりました。

このギリシャ国債の価格急落はギリシャに次いで財政が脆弱とされているポルトガルに飛び火しました。S&Pが、現在「Aプラス」のポルトガル国債の格付を格下げの方向で見直すと発表したことも重なりました。さらにポルトガル短期国債の入札が落札予定額を大きく下回る事態も発生しています。80%以上保有する外国人投資家の警戒心が一気に高まり、ポルトガル長期国債も大きく売られ利回りは急騰しています。

こうした国債売りは資産バブル崩壊の影響が大きいスペインにも波及しています。スペインの財政赤字問題はギリシャ、ポルトガルより軽いのですが、投資家の動揺がスペインに及んだ点が注目されます。スペイン国債の信用力の下落は、ギリシャ、ポルトガルよりはるかに大きいスペイン経済のさらなる悪化を予想させました。ギリシャからポルトガル、スペインへ連鎖した国債価格の下落は欧州全域の株価急落をもたらし、ユーロの急落につながりました

ユーロが売られた結果、めぐりめぐって円が「安全資産」として消去法で買われ急騰、円高に弱い日本株も大幅に下落してしまいました。欧米の金融が動揺するたびに円が消去法で買われるのですが、円は本当に「安全資産」なのでしょうか。もう一度、上表をご覧ください。わが日本は、国債を売り浴びせられたギリシャに比べGDPに占める財政赤字比率は小さいが、総債務比率ははるかに大きい規模です。鳩山民主党政権の財政規律に疑問が生じており、S&Pは、日本の長期国債格付けを「AAプラス」から引き下げる検討に入りました。

ちなみに国債の増発による財政出動を主張する論者が必ず引き合いに出す純債務比率も日本はいまや世界最高水準です。純債務とは、総債務(グロス)から政府保有の金融資産、たとえば社会保障基金や政府出資金・貸付金や保有有価証券を差し引いたネットの政府債務をいいます。財政出動論者は、この社会保障基金などを担保にすればまだ国債が発行できるというのですが、担保の社会保障基金は年金、医療保険などの支払準備金であり国債が不履行になったからといって取り崩すわけにいかない資金です。担保にはふさわしくありません。

政府出資金は東京大学など大学や研究機関など独立行政法人への出資金が中心です。この出資金を引き揚げて国債の返済に充てるのでしょうか。政府貸付金は、JALに融資する日本政策投資銀行、中小企業・零細企業に融資する日本政策金融公庫のほか学生の奨学金を融資する日本学生支援機構が大部分を占めます。これらを潰して貸付金を引き揚げるのでしょうか。日本郵政などの政府持ち株を売却して国債残高を圧縮するなど民主党にはできないでしょうね。純資産比率が低いことが国債増発の言い訳になる時期はとっくに去っているのです。

それでも日本国債は売り浴びせられないのは、その保有者の95%が銀行、郵貯、簡保、生保、年金基金など日本の金融機関や機関投資家だからです。日本の場合、ギリシャやポルトガルなどとは違って国債の償還能力や信用リスクに敏感な外国人の保有比率が5%前後ですから売りが極めて少ないのです。一方、日本国債に対する買いは、大不況で安全な貸し先がない金融機関、株式などリスク資産のリスク度が高くなりすぎ安全一辺倒に陥っている機関投資家によるものなのです。リスクを取らない金融機関はあまり褒められたものではありません。

日本国債の現在の利回りは1.3%と世界最低水準です。この国債利回りは、日本経済への投資利回りが1.3%以下であることを意味します。残念ながら日本は投下資本に対して1.3%も儲からない経済になってしまったのです。儲からない日本経済では国債を償還するための税収アップが見込めるはずがありません。しかも、民主党は、税金を支払う能力がある大企業を叩く一方の社民党、国民新党、共産党にひたすら相槌を打つ政党になっています。これではますます税収は上がらなくなります。そのうえ税金を払えない人を支援するために財政赤字を垂れ流して続けているのですから、国債発行残高は累増する一方です。

あと10年以内に日本国債などの政府債務残高は日本国民の国債消化能力(個人金融資産残高)を上回ると予想されています。償還能力や信用リスクに厳しい外国人に日本国債を買ってもらわねばならない時期が迫ってきているのです。PIGSの危機騒動は、近い将来の日本の姿です。花粉症が一気に発症する時期が近づいているといってよいでしょう。

2010年2月 3日 09:20

「品質管理の総本山」トヨタの失敗

2010年2月3日筆

トヨタが、踏み込んだあと戻らないこともある欠陥アクセルペダル問題をひき起こし全米で大騒ぎになっています。アメリカの消費者の反応は、「フォードやGMなら不思議ではないが、まさかトヨタが欠陥車問題を起こすとは」という驚きに近いものだと報じられています。

トヨタは、この欠陥アクセルペダルを積み込んだカムリ、カローラなど8車種の米国、カナダ工場での生産を一時停止した後、米国230万台、中国7.5万台、ヨーロッパ180万台、合算すると417万台ものリコール(回収・無償修理)を2月8日から始めると発表しました。昨秋に発生したアクセルペダルが引っかかるというフロアマットの自主回収535万台も加えると、リコール台数は910万台に達すると会社側は発表しています。2010年のトヨタ車単体の世界販売計画は740万台ですから、それをはるかに上回る空前のリコール台数になりました。

このリコール費用は1000億円とも2000億円ともいわれますが、この費用はあらかじめ積んであった品質保証引当金を取り崩せば穴埋めできるといいます。しかし、「まさかトヨタが」という評価が「トヨタもフォードやGMと同類か」という評価に変わってしまえば、「品質のトヨタ」というブランド価値は暴落することになります。米国進出50年間で築いてきたトヨタのブランド価値の下落を穴埋めするのは容易ではないと思われます。

このことについて、「日経新聞」(10年2月2日付)のコラム「大機小機」が「大野耐一氏が泣いている」(筆者はペンネーム「三角」氏)と題して適切な批評をしています。トヨタは海外で異例の大増産に打って出て、念願の世界首位に立った。「この過程でトヨタに慢心があったかは分からないが、部品供給や設計・開発の兵站(へいたん)線がのび切っていたのは同社関係者も認める事実だ。」と「三角」氏は書いています。

トヨタは世界制覇の大増産を行うに当って「部品の共通化」を採用したと言います。たとえば今回のアクセルペダルはアメリカの部品メーカーCTS社からトヨタが調達したものです。「部品の共通化」によるコストダウンを狙ってCTS社のアクセルペダルを米国、中国、欧州で生産されたトヨタ車に搭載したため欠陥車台数が535万台にも及んだと思われます。CTS社製を使わなかった日本製などには不具合は生じていません。

トヨタはアクセルペダルを生産したCTS社に損害賠償を求める意向だと一部に報じられています。しかしそんなことよりトヨタは、「大機小機」が指摘しているように、「部品供給や設計・開発の兵站線がのび切っていた」ことから生じた生産システムや品質管理上の問題に早急に対処しなければなりません。

表題になった大野耐一氏は、1960年代にトヨタ生産方式の原型を作ったトヨタの元副社長です。記事では、大野氏が築いたトヨタ式生産方式の道具立てとして「必要なときに必要なだけそろえるジャスト・イン・タイム」、「物流を効率化するカンバン」、「生産ラインで製品の不具合につながる異変に気づいたらすぐにラインを止めるアンドン」の三つを上げています。このうち、品質管理に直接つながるのはアンドン(行灯)ですが、記事では、大野氏が、『ラインで不具合が起きると「なぜ起きたか、理由を5回問い詰めて見ろ」と、真の原因が見つかるまでとことん考えさせた。』と従業員に品質の大切さを叩き込む努力を重ねていたことを紹介しています。

もともと大野氏のトヨタ生産方式は、アメリカのデミング氏が開発した不良品ゼロを目指す品質管理(クォリティ・コントロール=QC)運動が基礎になっています。このQC運動は1960年代に日本の製造業に盛んに導入されましたが、特にトヨタでは現場のカイゼン(改善)活動に結実し、それがジャスト・イン・タイムやカンバンといった仕掛かり在庫の削減などムダの排除運動と結び付いて、トヨタ生産方式になったのです。ムダの排除、生産性の向上にばかり目が向きがちですが、大野氏のトヨタ生産方式の本質はデミング氏以来の「品質管理」にあったといってよいでしょう。その品質管理がおろそかにされ、「大野氏は草葉の陰から口惜しさいっぱいで見ているに違いない」とも「三角」氏は言っています。

こうしたQCの思想はトヨタの「協豊会」に属する系列部品メーカーにも徹底されていました。「大機小機」の表現を借りると、トヨタは「新車開発ではトヨタと部品メーカーの技術者を一堂に集め、意識と技術の擦り合わせを大切にした」のです。この系列部品メーカーと親会社トヨタの関係は英語で「ケイレツ」、経済学の用語では「長期契約システム」と呼ばれて世界的に評価されました。ケイレツには、下請けシゴキという問題もありますが、新車開発段階から系列部品メーカーをデザイン・インさせ、「技術者を一堂に集め、意識と技術の擦り合わせ」して品質管理を万全なものにするという良い面もありました。アメリカの部品メーカーは「ケイレツ」下にないので、「意識と技術の擦り合せ」が十分できなかったということでしょうか。

原因はどうやらそれだけではないようです。本日(2月3日付け)の「朝日新聞」がトヨタのハイブリッド車「新型プリウス」でブレーキの苦情が日米で104件寄せられていると報じています。苦情は、「低速で道路のくぼみや滑りやすい路面を通過する際、瞬間的にブレーキが利かなくなる」(朝日新聞)という構造的な問題で、苦情はアメリカだけでなく日本でも2件ほど寄せられているといいます。「新型プリウス」のブレーキは日本製でしょうか、モーターとエンジンの切り替え時に発生するブレーキシステムの不具合という説もあります。これが本当なら、海外国内を問わずトヨタ全体の新車開発や品質管理のシステムに問題があるということになります。ことは深刻です。

「大機小機」の「三角氏」はこう結んでいます。『もの作りの力は日本経済だけなく、日本の株式市場の生命線、大黒柱である。品質はその背骨だ。製造各社は「品質管理の総本山」で起きた今回の問題を、「品質第一」の原点に再起する契機にしてほしい。』と。小生もまったく同感です。 

東海道新幹線はパンタグラフの締め付けボルトの付け忘れという信じられないヒューマンエラーで3時間半も止まりました。JR東海は開業以来無事故を誇り、それを売り文句に海外輸出をもくろんでいました。無事故という「品質」を失っては新幹線輸出で稼ぐなど不可能です。「品質と精度、そして歩留まり」で生きてきた日本産業は、没落のふちを歩き始めています。「品質管理の総本山」としてのトヨタが、徹底的な原因究明を行い「品質第一」の大野イズムへ回帰することこそ、日本産業の没落を防ぐ力になると思います。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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