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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年1月27日 09:12

電子端末が変える出版業界の近い将来

2010年1月27日筆

小生、3年前に卒業した世界ですが、40年近くもそこで生息したのですから、出版業界に関連する記事はやはり気になります。「日経新聞」1月25日付けの夕刊一面下ですが、2009年の書籍・雑誌の推定販売額(出版科学研究所調べ)がついに2兆円割れ、1兆9356億円になったようです。1998年のピーク売上高より6000億円近くも減ってしまいました。

内訳を見ますと、書籍はミリオンセラーが2点(前年7点)にとどまり4%減の8492億円、書籍返品率はさらに上昇し40.6%という異常水準でした。雑誌は3.9%減の1兆894億円、4年連続で創刊誌より休刊誌のほうが多くなり販売部数は6.9%減と過去最大の落ち込み幅を記録したようです。

飯のタネが縮む一方の出版業界です。いまどうしておられるのか、思わず小生が出会った出版業界の皆さんのお顔が浮かびます。漫画雑誌で大儲けし高給を食んで羽振りが良かった大手出版社の雑誌編集者の面々、一攫千金、ミリオンセラー狙いでPRの仕掛けと書籍タイトルだけに知恵を絞っていた書籍編集者の面々、雑誌は販売部数ではなく広告収入で稼ぐものだと豪語していた編集長の皆さん、大口を叩いておられた皆さんの口惜しげなお顔が浮かびます。

気の毒なのは、駅前にあった昔なじみの小規模書店店主の皆さんです。駅前書店は、収益源だった雑誌では休刊誌が相次いだうえ顧客をコンビニや中古書チェーンに奪われて四苦八苦でした。さらに大型書店中心の配本で売れ筋の書籍が店頭にない状態がずっと続きました。ついに廃業に至った駅前書店の数は数千店に上ると思われます。

薄給なのに、腰を痛めるほど重い、売れない雑誌・書籍を積み上げさせられている大型書店の書店員の皆さんも相変わらず大変だと思います。中小印刷会社の皆さんは、たぶん印刷単価の止まることを知らない下落で、廃業を迫られているに違いありません。出版業界の賃金・所得格差は、皆さんが想像する以上に大きいし、さらに大きくなると思います。

こうした苦境に追い討ちをかける事態も進んでいます。出版業界には、インターネット、携帯電話、電子書籍端末という新しい情報伝達手段、販売手段が次々に導入され、これまでの業界構造が根本的に変わる可能性があります。

たとえば、日本では、すでにアマゾンや楽天ブックスなどを通じた書籍等のネット販売は年々増加し、その一方でリアル書店のシェアは低下を始めています。書店で一冊280円(4冊で月額1120円)の「週刊コミックバンチ」という漫画雑誌が、携帯電話では月額525円で読めるそうです。こうなると書店という旧来の販売ルートは細くなっていくばかりです。

現在アメリカでは電子書籍端末が普及し始めています。特に2007年11月にアマゾン・ドット・コムが電子書籍端末「キンドル」を発売して以来、普及に弾みがつきました。「キンドル」では40万タイトルの電子書籍を一冊12ドル弱(通信料込み1000円前後)で読めます。つい最近、雑誌サイズの「キンドルDX」を発売しましたが、92種類の新聞が1種類月10ドル~20ドル(1500円前後)で読むことができるそうです。

参入は早かったのにアマゾンの「キンドル」に差をつけられたソニーは、電子書籍端末「リーダー・デーリー・エディション」で巻き返しを図っています。購入できる電子書籍(イー・ブック)のタイトル数(約20万冊)や新聞の種類(約20種類)が少ないのが弱点ですが、「キンドル」との競争でこれも充実してくるでしょう。ちなみにアメリカの日経新聞といわれる「ウォール・ストリート・ジャーナル」誌は、ソニーの「リーダー」では月額14.99ドル(1300円前後)で読めるそうです。

このほか大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルが端末を発売、アップル、グーグルなどの参入も予想されます。全世界での電子書籍端末の販売台数は、昨年は500万台でしたが今年は1200万台に急増すると見られています。アメリカで始まった電子書籍端末の波は、すぐに日本に及びます。

書籍も雑誌も新聞も、紙で買うより電子(デジタル)で買えば半値以下になるのです。パソコン、携帯、電子書籍端末があれば、書店に行く必要もありませんし、いつでもどこでも読むことができます。重い書籍・雑誌を持ち歩く必要がありません。ネット上に書籍、雑誌、新聞の過去情報やデータを保存でき、いつでも検索できるとすれば、自宅の書棚も古本屋巡りも必要ありません。

電子化の障害のひとつは著作権です。しかし、たとえば電子書籍は紙代も印刷代も殆どかからず製作コストが安くなり、その分電子書籍購入代金は下がります。値段が下がれば電子書籍の販売部数はもっと増えます。書籍を書店で売るより印税収入が多くなれば、あるいは印税収入が減らなければ、新作を電子書籍で出版する作家が出てくるに違いありません。そのうち電子書籍のアマゾン・ドット・コムから印税を受け取るベストセラー作家が登場するようになるでしょう。電子書籍、電子雑誌、電子新聞は想像以上に早く普及するに違いありません。

わが出版業界でも、ようやく出版社が50社、100誌が集まって雑誌デジタル化の実証実験を始めました。この「パララ」と呼ばれる組織には電子書籍端末、同システムを提供するシャープ、ソニー、パナソニック、それに楽天も参加しています。2011年をめどにデジタル雑誌を有料配信するとしています。日本では、「キンドル」や「リーダー」などの電子書籍端末より、パソコンや携帯電話を通じた雑誌・書籍のデジタル有料配信が浸透するのではないかと言われていますが・・・。

情報伝達手段がデジタル化してもコンテンツ(情報そのもの)はなくてはならないものです。しかし、無料が常識になっているネット上でデジタル有料配信に耐えうるコンテンツを提供できる出版社や新聞社がどれぐらいあるかが問われます。課金に耐えうるコンテンツを提供できる出版社、新聞社だけが生き残ることができるということでしょう。

さらに、10年後という近い将来において、現状の製紙、印刷、出版元という製造体系、出版元、取次、書店という流通ルート(新聞の場合は新聞社、新聞宅配)が維持できるなどと到底考えることはできません。遅まきながらですが、小生、就職人気が高かったこれまでの出版業界や新聞業界が、電子化の波に耐えられず、構造不況業種、あるいは就職不人気業種に転じていることをひしひしと実感しているところです。

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