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大西良雄ニュースの背後を読む

2010年1月

2010年1月27日 09:12

電子端末が変える出版業界の近い将来

2010年1月27日筆

小生、3年前に卒業した世界ですが、40年近くもそこで生息したのですから、出版業界に関連する記事はやはり気になります。「日経新聞」1月25日付けの夕刊一面下ですが、2009年の書籍・雑誌の推定販売額(出版科学研究所調べ)がついに2兆円割れ、1兆9356億円になったようです。1998年のピーク売上高より6000億円近くも減ってしまいました。

内訳を見ますと、書籍はミリオンセラーが2点(前年7点)にとどまり4%減の8492億円、書籍返品率はさらに上昇し40.6%という異常水準でした。雑誌は3.9%減の1兆894億円、4年連続で創刊誌より休刊誌のほうが多くなり販売部数は6.9%減と過去最大の落ち込み幅を記録したようです。

飯のタネが縮む一方の出版業界です。いまどうしておられるのか、思わず小生が出会った出版業界の皆さんのお顔が浮かびます。漫画雑誌で大儲けし高給を食んで羽振りが良かった大手出版社の雑誌編集者の面々、一攫千金、ミリオンセラー狙いでPRの仕掛けと書籍タイトルだけに知恵を絞っていた書籍編集者の面々、雑誌は販売部数ではなく広告収入で稼ぐものだと豪語していた編集長の皆さん、大口を叩いておられた皆さんの口惜しげなお顔が浮かびます。

気の毒なのは、駅前にあった昔なじみの小規模書店店主の皆さんです。駅前書店は、収益源だった雑誌では休刊誌が相次いだうえ顧客をコンビニや中古書チェーンに奪われて四苦八苦でした。さらに大型書店中心の配本で売れ筋の書籍が店頭にない状態がずっと続きました。ついに廃業に至った駅前書店の数は数千店に上ると思われます。

薄給なのに、腰を痛めるほど重い、売れない雑誌・書籍を積み上げさせられている大型書店の書店員の皆さんも相変わらず大変だと思います。中小印刷会社の皆さんは、たぶん印刷単価の止まることを知らない下落で、廃業を迫られているに違いありません。出版業界の賃金・所得格差は、皆さんが想像する以上に大きいし、さらに大きくなると思います。

こうした苦境に追い討ちをかける事態も進んでいます。出版業界には、インターネット、携帯電話、電子書籍端末という新しい情報伝達手段、販売手段が次々に導入され、これまでの業界構造が根本的に変わる可能性があります。

たとえば、日本では、すでにアマゾンや楽天ブックスなどを通じた書籍等のネット販売は年々増加し、その一方でリアル書店のシェアは低下を始めています。書店で一冊280円(4冊で月額1120円)の「週刊コミックバンチ」という漫画雑誌が、携帯電話では月額525円で読めるそうです。こうなると書店という旧来の販売ルートは細くなっていくばかりです。

現在アメリカでは電子書籍端末が普及し始めています。特に2007年11月にアマゾン・ドット・コムが電子書籍端末「キンドル」を発売して以来、普及に弾みがつきました。「キンドル」では40万タイトルの電子書籍を一冊12ドル弱(通信料込み1000円前後)で読めます。つい最近、雑誌サイズの「キンドルDX」を発売しましたが、92種類の新聞が1種類月10ドル~20ドル(1500円前後)で読むことができるそうです。

参入は早かったのにアマゾンの「キンドル」に差をつけられたソニーは、電子書籍端末「リーダー・デーリー・エディション」で巻き返しを図っています。購入できる電子書籍(イー・ブック)のタイトル数(約20万冊)や新聞の種類(約20種類)が少ないのが弱点ですが、「キンドル」との競争でこれも充実してくるでしょう。ちなみにアメリカの日経新聞といわれる「ウォール・ストリート・ジャーナル」誌は、ソニーの「リーダー」では月額14.99ドル(1300円前後)で読めるそうです。

このほか大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルが端末を発売、アップル、グーグルなどの参入も予想されます。全世界での電子書籍端末の販売台数は、昨年は500万台でしたが今年は1200万台に急増すると見られています。アメリカで始まった電子書籍端末の波は、すぐに日本に及びます。

書籍も雑誌も新聞も、紙で買うより電子(デジタル)で買えば半値以下になるのです。パソコン、携帯、電子書籍端末があれば、書店に行く必要もありませんし、いつでもどこでも読むことができます。重い書籍・雑誌を持ち歩く必要がありません。ネット上に書籍、雑誌、新聞の過去情報やデータを保存でき、いつでも検索できるとすれば、自宅の書棚も古本屋巡りも必要ありません。

電子化の障害のひとつは著作権です。しかし、たとえば電子書籍は紙代も印刷代も殆どかからず製作コストが安くなり、その分電子書籍購入代金は下がります。値段が下がれば電子書籍の販売部数はもっと増えます。書籍を書店で売るより印税収入が多くなれば、あるいは印税収入が減らなければ、新作を電子書籍で出版する作家が出てくるに違いありません。そのうち電子書籍のアマゾン・ドット・コムから印税を受け取るベストセラー作家が登場するようになるでしょう。電子書籍、電子雑誌、電子新聞は想像以上に早く普及するに違いありません。

わが出版業界でも、ようやく出版社が50社、100誌が集まって雑誌デジタル化の実証実験を始めました。この「パララ」と呼ばれる組織には電子書籍端末、同システムを提供するシャープ、ソニー、パナソニック、それに楽天も参加しています。2011年をめどにデジタル雑誌を有料配信するとしています。日本では、「キンドル」や「リーダー」などの電子書籍端末より、パソコンや携帯電話を通じた雑誌・書籍のデジタル有料配信が浸透するのではないかと言われていますが・・・。

情報伝達手段がデジタル化してもコンテンツ(情報そのもの)はなくてはならないものです。しかし、無料が常識になっているネット上でデジタル有料配信に耐えうるコンテンツを提供できる出版社や新聞社がどれぐらいあるかが問われます。課金に耐えうるコンテンツを提供できる出版社、新聞社だけが生き残ることができるということでしょう。

さらに、10年後という近い将来において、現状の製紙、印刷、出版元という製造体系、出版元、取次、書店という流通ルート(新聞の場合は新聞社、新聞宅配)が維持できるなどと到底考えることはできません。遅まきながらですが、小生、就職人気が高かったこれまでの出版業界や新聞業界が、電子化の波に耐えられず、構造不況業種、あるいは就職不人気業種に転じていることをひしひしと実感しているところです。

2010年1月20日 09:18

合法性を装った小沢金脈への大きな疑問

2010年1月20日筆

民主党政権はまことにこっけいな政権ですね。彼らは、低所得者や農民などへの所得の再分配にきわめて熱心で、「社会主義」と見まがうような政策を主張しています。ところがその政権与党のトップ2人、つまり鳩山由紀夫総理と小沢一郎幹事長はともに、所得・資産の平等などとはかけ離れた、巨額の資産を有する大金持ちなのです。彼らの力の源泉である金権と彼らが主張する「社会主義」の間には、庶民にはとうてい理解できない乖離があるように思えます。

鳩山氏も小沢氏もかつて所属した田中派の領袖・田中角栄元総理は、ロッキード疑獄で失脚しました。失脚後もカネで派閥を養い最大議席を得て後継総理を背後から操る闇将軍になりました。小沢氏も鳩山氏も、資金の出所に多少違いはありますが、師匠である田中角栄流の「議席はカネで買う」「数(議席数)は力」とする金権政治の後継者であるかのようです。二人に対して国民の間には、田中角栄氏のように庶民には無縁の、富者の資産を駆使して多数の議席を獲得したという疑いすらが芽生え始めています。

鳩山総理は、武村正義氏らと新党さきがけを結成した時も、さきがけを離脱して民主党を結成した時も、巨額の結党資金を拠出しています。本人がそう語っているので事実でしょう。素寒貧の政治家だった田中秀征氏(さきがけ副代表)や菅直人氏(小沢自由党と民主党合併時の民主党代表、現副総理)には逆立ちしても都合できる資金ではありません。その鳩山総理の資金源のひとつが、2人の息子に合わせて3000万円も小遣いを渡せる大富豪の母親(ブリヂストン創業者の長女)だったことが明らかになりました。そのカネが民主党に一部の議員に流れ、その見返りに鳩山氏が総理の椅子を手中にしたとしたら、金権で政権を買ったことになります。

小沢幹事長の場合は、もっと悪質だと言わざるを得ません。鳩山氏の資金源が身内の手金であったのに対して、小沢氏の資金源は「政党解散時に蓄えた政党助成金」や「ゼネコンなどからの献金」だったからです。この小沢一郎の金脈についてですが、ジャーナリストの松田賢弥氏が、「文藝春秋」2010年新年特別号で「小沢から藤井(財務相)に渡った15億円の怪」と題した記事で詳しく書いています。もう少し詳しく書けば小沢氏の師匠である田中角栄元総理を失脚に追い込んだ立花隆氏の「田中角栄研究―その金脈と人脈」に匹敵する内容を持っていますので、ぜひ一読されるようお勧めします。

この記事によると、小沢氏の金脈は「ひとつは政党を壊してはつくり、離合集散を繰り返してきた小沢が、そのたびに手中にしてきた政党の金の流れ、そしてもうひとつは、建設大臣を務めた父・小沢佐重喜(さえき)から続く建設業界との密接な関係を背景にした、ゼネコンなどからの献金の流れ」の2つだと言っています。その2つの流れから小沢氏および小沢氏が関係する7つの政治団体が溜め込んだ資金の総額は、08年の政治資金収支報告書に記載されているだけで20億円強(繰越資金残高)に上るというから驚きです。

驚くのはそれだけではありません。小沢氏の資金管理団体である「陸山会」が1994年以降に購入した土地建物の総額は約10.5億円にもなります。朝日新聞10年1月15日付けによると「陸山会」が購入した不動産は東京都港区元赤坂のマンション1億3300万円など延べ15件(現在保有しているのは11件)にのぼります。このうち最大の購入物件が政治資金規正法違反容疑で秘書3人も逮捕者を出した、例の世田谷区深沢の土地建物3件(購入総額約4億円)なのです。小沢氏はほかに「陸山会」を通さず沖縄県宜野座村の約5200平方メートルの土地を購入していると朝日新聞は報じています。

20億円強の繰越資金残高と延べ10.5億円に上る不動産購入資金、政治資金収支報告書に記載されているだけでもあわせて30億円以上の資金が、小沢氏とその関連政治団体に流れ込んでいることになります。ある民主党の新人議員は、秘書、事務所などの政治活動費は議員歳費ではとうてい賄えず、年6000万円の赤字になると嘆いていました。小沢氏が通常の議員歳費で30億円もの資金・資産を溜め込むことなどできるはずがありません。

これらの小沢氏が溜め込んだ巨額の資産は、いったいどのような種類の資金によって構築されたのでしょうか。まず、「陸山会」へ流れ込み最終的に不動産購入資金になったのは、鹿島、大成建設などの大手ゼネコン、西松建設などの中堅ゼネコン、さらに水谷建設、山﨑建設、宮本組などの下請けゼネコンなどからの企業献金(ないしパーティー券の購入)だったことは疑いないところです。小沢氏も「これら浄財を不動産に代えた」と言っているようです。

小沢氏がゼネコンからの献金を「浄財」と言い募ることには大いに違和感があります。小沢氏個人の政治姿勢に共鳴して企業献金を行うなど考えられません。ゼネコン経営者は、公共工事の受注という見返りを求めて会社のカネを使って小沢氏に献金しているのです。献金の成果である公共工事受注ができなければ経営者は会社に損害を与えたとして背任罪に問われかねません。

さらに、小沢氏が溜め込んだ資金には政党助成金も含まれています。小沢氏率いる自由党が2003年に民主党と合併し解散する際に自由党から小沢氏関係の政治団体「改革国民会議」に13.6億円が寄付されたと松田賢弥氏は書いています。このうち5.7億円は自由党に交付された政党助成金ですから、本来は解散時に総務省に返還されるべきものだそうです。政党助成金制度はまだありませんでしたが、1994年の新生党解散時にも同じ手口で新生党から小沢氏関連の政治団体「改革フォーラム21」に5.5億円が寄付され、現在もプールされています。

新生党も自由党も小沢氏が率いた政党ですが、その残余資産は政党所属議員に分配されるか、政党助成金であれば総務省に返還されるべきではないでしょうか。原口一博総務相は今でも遅くありませんから、小沢氏に政党助成金の返還を求めるべきでしょう。小沢氏の覚えめでたいといわれる原口総務相にはできないかも相談かもしれませんが...。

これらの資金の出し入れや蓄財は「なんら不正なものではない」と小沢氏は繰り返し述べています。しかし、政治資金規正法などに触れる「不正なものだったかどうか」を検証することができる小沢金脈案件は、いまや3人の秘書を逮捕して調べている世田谷区深沢の不動産購入案件しか残っていないのです。それも3月に時効を迎える案件です。ほかの案件はもはや時効で「不正かどうか」の検証も不可能で、小沢氏は逃げ切ったことになります。

しかし国民は、政治資金収支報告者に3人の秘書が「故意に虚偽記載した」とか「記載ミスした」とか、小沢氏も共犯だとか、実はそんなことはどうでもいいのです。昨年の衆議院選挙で国民は、「金権と利権にからめとられた自民党」から「金権や利権とは無縁の民主党」に政権交代するという大きな選択を行ったのです。しかし、国民は、小沢氏が合法性を装いながら、田中角栄直伝の「金権と利権」を駆使して選挙を勝利に導いたのではないかと疑い始めています。金権と利権から無縁の民主党を選んだ国民は、小沢金脈(そして鳩山ママ資金)に裏切られたと思い始めているのです。民主党の2人のトップに対する国民の落胆は計り知れないというほかありません。

2010年1月13日 09:15

菅新財務相の市場との「対話力」が試される

2010年1月13日筆

藤井裕久財務大臣の後任には野田佳彦財務副大臣の昇格がベストでしたが、菅直人副総理兼国家戦担当相が横滑りしました。セカンドベストですが、菅副総理の横滑りも結構だと思います。小生は、菅氏が小沢氏にべったりの茶坊主政治家だとは思っていません。いざとなったら小沢氏とも喧嘩ができる勇気ある政治家だと思っています。

菅氏との論争相手である竹中平蔵氏は、1月7日付の日経新聞「経済教室」で「経済リテラシー(知識と能力)の欠如した政治家が問題をこじらせている」と批判しています。「経済リテラシーの欠如している政治家」の一人が菅新財務大臣であることは間違いありませんが、小生の観察では市場機構や経済成長の大切さをほとんど理解できていない鳩山由紀夫総理に比べればまだましです。

菅氏は経済財政担当の昨年、民間エコノミストや証券ストラテジストを呼んで市場の意見を聞こうとしました(できれば竹中氏だけではなくそのほかの優れた経済学者の意見も聞いてもらいたかったのですが)。菅氏が、第2次補正予算、2010年度予算での財政拡張を主張した亀井静香郵政改革・金融担当大臣を怒鳴りつける気概を持ったことも評価できます。竹中氏がワイドショーのコメンテーター並みの経済リテラシーしかもっていない政治家と言っているのは、菅氏ではなく、亀井大臣のことを指しているのでしょう。

さて新財務大臣に就任した菅副総理ですが、早速「官僚中の官僚」といわれる財務官僚に「菅・官戦争」を挑むといっています。しかしその前に菅新大臣自身が、優秀な財務官僚からマクロ経済運営のリテラシー(知識と能力)を十二分に吸収し、ガイトナー米財務長官や白川方明日銀総裁などマクロ経済のプロに軽蔑されないようにしてください。2月にはカナダでG7(先進国財務省・中央銀行総裁会議)での初舞台が待っているのですから。

菅財務相が行うべき学習の手始めは、市場との「対話」の仕方になるのではないでしょうか。新財務省就任の記者会見で菅大臣は、市場を揺るがす2つの発言をしました。ひとつは、為替レートを揺るがす発言、もうひとつは国債売り(長期金利の上昇)につながる発言です。

菅新財務相はまず、「経済界からは」と前置きしていますが「できれば円は90円台半ばが適切ではないかという見方が多い。もう少し円安の方向に進むのが望ましい」と明らかに適正レートは95円前後ととれる「円安誘導」発言をしました。前任の藤井裕久財務相は就任時に「円高容認」ととられかねない発言を繰り返し、1ドル84円台という急激な円高をもたらしました。後任の菅新財務相は藤井氏とは真逆の「円安誘導」発言をしたのです。この発言を受け円は直ちに売られ、一時2円近く安い93円台後半に下落しました。
 
小生は、デフレをさらに悪化させかねない「円高容認」発言より、デフレを緩和させる効果がある菅新財務相の「円安誘導」発言のほうを歓迎します。また今回の菅新財務相の円安への口先介入は理にかなったものでした。現在は為替レートを決める要因は日米金利差にあります。デフレ状態にある日本の金利が弱含む一方、景気が着実に回復しつつある米国の金利は強含んできました。日米金利差は拡大気味でドルが買われ円が売られやすい状況にあります。そういう条件下の財務大臣の円安誘導発言ですから、誘導方向どおり円安に振れる結果になりました。

しかし結果オーライだとしても、同じ民主党なのに財務大臣の発言が100日もたたない内に「円高容認」から正反対の「円安誘導」に変わったのです。「市場」は民主党政権がどのような為替政策を志向しているのか判断に苦しみ、政権に対する信頼が持てない不安な状態に置かれているに違いありません。

ドルレートの動きに神経を尖らせているアメリカの財務当局も日本の財務大臣がてんで勝手に発言していることに呆れ果てているはずです。円が売られ円安になるということはドルが買われドル高になるということでもあります。円安へ誘導するための為替への口先介入や直接介入には、ドル高を容認してくれる為替の相手国、つまりアメリカの財務当局との水面下での事前打ち合わせが欠かせません。「市場」にインパクトを与え円レートの行き過ぎを是正するには為替の相手国であるアメリカ(あるいはEU)の協力が欠かせないのです。

もうひとつは、財政をめぐる発言です。菅新大臣は就任会見で、国家戦略担当として新年度予算編成に携わった際、「緊縮財政にしていいとは一度も思っていなかった」と発言したのです。「市場」は、緊縮財政でないとすれば膨張財政を志向している、つまり国債の大量発行が続くと判断し、すぐに国債の打診売りを行ったのです。その結果、長期国債の流通利回り(長期金利)は跳ね上がりました。

菅氏は、第二次補正予算編成の際、「財政出動が大きければいいというのは恐竜時代の考えだ」と発言し予算上積みを迫った亀井金融相を切って捨てました。新年度予算に際しても少ない歳出で大きな効果を狙う「ワイズスペンディング(賢い財政支出)」を主張し、財政規律を重んじる政治家だという安定した評価が「市場」にはありました。それが財政規律を軽んじるような発言をしたため市場にサプライズ(驚き)が発生、国債が売られることになったのです。

一方で菅氏は、長期金利に対して「オオカミ少年」説を展開したこともあります。日本はGDPの二倍近い世界最悪の政府債務を抱えており、日本国債はいつ売り浴びせられてもおかしくない。長期金利が急上昇してもおかしくないというが、現実の長期金利は歴史的な低水準にある。国債が売られ長期金利が急上昇するという説は「来るといってこないオオカミ少年」のようなものだと菅国家戦略担当相(当時)は述べたのです。

菅氏の「オオカミ少年」説は、このままいくと10年後には政府債務がこれを消化する個人金融資産残高を上回り、国債を買う日本人(日本の金融機関)がいなくなるという危機的状況にあることを甘く見ているというほかありません。現状でも、「市場」、この場合、国債市場の取引参加者ですが、彼らがいつ何時、国債を売り浴びせても不思議ではない状態なのです。国債を誰かが売れば、急落する国債価格から生じる保有損失を大きくしないために金融機関が競って国債を売り、国債がさらに暴落する危険があるのです。実際にオオカミが来たら日本経済と日本財政は取り返しのつかない状態に陥るのです。

「市場」は、菅新大臣が亀井静香金融相のような財政規律を無視した放漫財政論者なのか、自ら表明したような「ワイズスペンディング」論者なのか、彼の片言隻句に耳を済ませているのです。政治家の中でも言葉数の多さが目立ち、「相手を打ち負かすだけの論争」に巧みそうに思える菅氏です。いざというときの決断力と実行力には大いに期待しますが、それに至るまでの発言は、財務官僚の知識と情報を汲み上げたうえで「市場」のことを十分考えた、慎重で賢明なものになることを願います。

2010年1月 6日 11:02

藤井財務大臣が辞任するリスク

2010年1月6日筆

藤井裕久財務大臣は、間違いなく18日から開かれる予定の通常国会の主役の一人です。藤井大臣が中心になって作成した7.2兆円の第2次補正予算、92.2兆円の2010年度予算の国会審議が行われるからです。

その藤井大臣が健康上の理由から辞意を固めていると報道されています。かりに藤井大臣が辞任した場合は誰が後任の財務大臣になるのか、それによって民主党政権の予算編成や財政運営に大きな変化が起きる危険があります。辞意の背後には小沢一郎幹事長との角逐があると報じる新聞もあります。後任大臣が、小沢氏に近いか遠いかで決まることだけは避けなければなりません。

新聞各紙は藤井財務大臣の後任候補として、菅直人副総理兼国家戦略担当相、仙石由人行政刷新担当相、直島正行経済産業相の横滑り、野田佳彦財務副大臣の昇格をあげています。このうち菅、仙石、野田の3氏は小沢幹事長から距離を置く政治家ですが、直島氏は小沢幹事長の息が掛かった政治家だとされています。小生は、藤井氏と一緒に予算作成を経験した野田氏の昇格がベストだと思いますが、菅、仙石の横滑りないし兼務もセカンドベストだと思います。最悪は、民主党マニフェストの作成者であるという理由で小沢氏に近い直島氏が起用されることだと思います。

なぜそう思うのか、その理由は藤井財務大臣が景気刺激(財政拡張)と財政規律(財政緊縮)という、相反する二つの政策課題を何とか均衡させて第2次補正、新年度の二つの予算を作成したと評価するからです。藤井氏は、日本の財政にわずかしか残されていないナローパス(狭い道)を歩き、国会審議を乗り切ればタイトロープ(均衡上の揺れる綱)をとりあえず渡り切ったと言えるかもしれません。マニフェスト至上主義者にはこういう芸当はできません

藤井大臣は、就任当初「円高容認」ととられかねない発言を繰り返し、本ブログでも「おしゃべり財務相」と批判してきました。しかし1ドル85円割れを機に「行き過ぎた円高は許容しない」ことを明言し、白川日銀総裁から10兆円の新型オペによる「量的金融緩和策」を引き出し、円高を阻止しました。この辺りから藤井氏への市場の信頼は徐々に高まり、株価も上昇に転じました。

藤井大臣はさらに、配下の財務官僚を事務方に送り込み、仙石行政刷新相チームが行った予算の「事業仕分け」を支援したことも評価されます。特に公益法人や独立行政法人に積み上げられた過去の使い残し予算(基金)を暴き出し返納させたことは特筆に価します。もちろん今回の「事業仕分け」で予算の無駄、官僚や業者の利権がすべて洗い出されたわけではありません。「事業仕分け」は、国民が民主党政権に最も期待しているマニフェスト項目です。今後も予算編成ごとに「事業仕分け」を続けてほしいと国民は思っていますし、その際、各省の予算内容に精通した財務官僚の協力も欠かせません。

藤井大臣は、新年度予算の作成でも、既存予算を削らずマニフェスト予算を上乗せして概算要求を膨らませた長妻厚労相、原口総務相、赤松農水相らを何とか押さえ込み、連立相手の小党代表である亀井静香氏(国民新党代表)や福島瑞穂氏(社民党党首)の「ばら撒き・放漫財政」を退ける手腕を発揮しました。藤井大臣が10年度の新規国債の発行規模を44兆円以下とする方針を守り抜く姿勢を示したことが財政膨張を防いだことになります。

誤解のないようにいいますが、2010年度の予算は景気の2番底を招くような「緊縮財政」ではありません。小生の計算によりますと、09年度(当初予算と第1次補正予算)の、実際に財政出動された実効予算規模は98兆円でしたが、10年度(第2次補正予算と当初予算)の実効予算規模は96.4兆円です。1.6兆円の歳出減ですからGDP比で0.4%程度の下押しにとどまります。この程度であれば輸出の回復によって穴埋めが可能です

藤井大臣が敷いたこのような「景気刺激と財政規律の両立路線」をきちんと受け継ぐ財務大臣が後継にふさわしいと小生は思います。特に6月に出される中期財政収支見通しと財政再建策、それと密接に絡む「新成長戦略」工程表の作成、さらに次の予算(2011年度)作成や事業仕分け・・・・・、国家戦略担当相、行政刷新相、それに財務大臣に課せられた仕事は半端ではありません。

菅副総理が作成した民主党政権の「新成長戦略」は、「需要からの成長」を謳っています。「需要」は所得が増加しなければ出てきません。所得が増加しない状況下では、「環境政策から生じる需要」も「医療、介護、健康政策から生じる需要」も、いずれも財政出動によって人為的に生み出すしかありません。「需要」を生み出し成長するには財政が膨張するしかないといえます。

子供手当、農家の戸別所得保障を皮切りに今後も継続される民主党の「需要サイド政策」は、財政規律を喪失させ国家破産(財政破綻)をもたらすリスクを常にはらんでいます。そのことを理解しない財務大臣が起用されると日本は大変なことになります。選挙のためなら「ばら撒き」も厭わない小沢幹事長の覚えがめでたい茶坊主のような人物は財務大臣にはふさわしくありません。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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