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大西良雄ニュースの背後を読む

2009年11月

2009年11月25日 09:53

菅副総理「デフレ宣言」の背後を読む

2009年11月25日筆

第2次補正予算の策定やら「デフレ宣言」によって、ようやくマクロ経済政策担当としての菅直人副総理(兼経済財政担当相)の顔が見えてきました。

民主党の新人議員にマーケット(金融市場)出身者がいて、菅直人副総理にマクロ経済の知識を手取り足取り教えていると聞きます。菅副総理が、少ない財政支出で最大の景気刺激効果を狙うという「賢い財政出動」を唱え始めたのにはその学習効果が認められます。

税収に大きな穴が開き、景気刺激という名の「ばら撒き」も「大盤振る舞い」も許されない危機的な財政事情です。「賢い財政出動」が正解です。これに規制緩和という、法律の一条を書き直すだけで民間活動が活発化する「財政出動を伴わない賢い手法」があることを菅副総理が理解できるようになるといいのですが......。新人議員の誰か教えてやってください。

ついでに言っておきますが、小沢一郎さん、新人議員に挨拶の仕方を勉強させるために国民は一票を投じたのではありません。新人議員といえどもマクロ経済運営に詳しい専門家、「事業仕分け」に力を発揮する専門家がたくさんいるはずです。新人議員は小沢さんの手兵ではありません。官僚との戦いに役立つようにと国民が選んだのですから、彼らを直ちに国政に参画させてください。

さて菅副総理による「デフレ宣言」ですが、09年7-9月期の実質経済成長率が年率4.8%と発表され、2期連続のプラス成長となって喜んでいたのに冷や水を浴びせるような宣言になりました。しかし、2001年3月に「デフレ突入宣言」が出てから「デフレ脱却」ないし「デフレ終結宣言」はまだ出ていません。したがって今回のデフレ宣言は「デフレ再確認」宣言ということになります。

菅副総理はこの時期になぜあえて「デフレ再確認宣言」をしなければならなかったのでしょうか。その背景には、物価の持続的な下落、つまりデフレーションの原因である約40兆円もの巨額なGDPギャップ(需要不足)を埋めるための経済政策の手詰まりがある。どうやら民主党は、国家の台所事情がとんでもない状態にあることに気がついたようです。亀井国民新党が主張するような財政の大盤振る舞いによる景気刺激など不可能だと、言っているのです。

菅副総理は、朝日新聞(11月23日朝刊)が「政府の債務残高は国内総生産(GDP)の1.8倍に達しています。長期金利が急上昇しないか心配ではありませんか」と問うたのに対してこう答えています。

「普通の計算式ではだれも答えが出せない状況だ。単純計算ではこのままでは財政赤字が拡散する(歯止めがきかなくなる)。10年後にうまく着地できたら、ノーベル経済学賞をもらわなければならない。むずかしい中でやりうる可能性があるとしたら、財政に依存しない景気浮揚だ」

菅副総理がいう「財政に依存しない景気浮揚」が「規制緩和」でないのが残念ですが、これについてのヒントをインタビュー記事の冒頭で語っています。

――(11月)20日にデフレを宣言しましたが、先月の月例経済報告にはデフレの「デ」の字もありません。唐突ですね。

「前回の01年3月のデフレ宣言以降、デフレ基調は続いたままだという国民へのメッセージとともに、金融当局、つまり日本銀行に対してのメッセージでもある

もうお分かりでしょうが、菅副総理は金融政策を担当する日本銀行に対してさらなる金融緩和を図ることによってデフレの克服を迫っているのです。2001年3月、政府が「デフレ宣言」を出すと同時に日本銀行の速水優日銀総裁(当時)は「量的金融緩和」に踏み切りました。この政策はずっとマイナスを続けていた消費者物価上昇率が安定的にゼロ%以上になった06年3月に解除されました。菅副総理はこの「量的金融緩和」政策の復活によるデフレからの脱出を日銀に考えてもらいたいと言っているように思えます。

少し解説します。2001年3月から始まった日銀による「量的緩和政策」は、政策金利がゼロ%になった後に採用されました。政策金利の引き下げ余地がなくなれば金利引き下げを通じたマネーサプライの増加(貸出増加による景気刺激効果)は期待できないため、金融市場調節の主たる操作目標を金利から通貨量(日銀当座預金残高)へ転換するというものでした。

日銀当座預金残高とは、民間金融機関が日銀に持っている当座預金口座の残高のことです。この当座預金の預金金利はゼロですが、当座預金残高が増えれば金融機関がいつでもひきだせる預金をたくさん持つことになります。その結果、以下のような効果が現れると期待されました。

金融機関は預金金利ゼロの当座預金を取り崩して、第一に、貸出金利が稼げる融資を拡大させる。その結果、融資を受けた企業の資金繰りが好転し、新規事業開拓や設備革新投資など企業行動が活発になる。第二に、配当収入や値上がり益が見込める株式や投資信託などへの投資行動を誘発し、資産価格の上昇をもたらす。その結果、投資需要が回復し、需給ギャップの解消、ひいては消費者物価の再上昇が期待されたのです。

当座預金残高は、日本銀行が、金融機関が保有する(1)長期国債、(2)株式・ETF(株指数連動型上場投資信託)・REIT(不動産投資信託)、(3)中小企業の売掛債権を証券化した金融商品などを買上げる(銀行は売却代金を日銀当座預金に預ける)ことによって増加します。最近では金融機関が保有する社債や商業手形(CP)の買い上げも行っています。

中でも日本銀行による長期国債の買い上げは、国債の買い手を増やすことになり国債価格を引き上げ、長期金利を引き下げる副次的な効果が生まれます。長期金利の低下は設備資金や住宅ローンなど長期貸出金利の引き下げになります。それだけではなく日本と海外との金利差が拡大し資金が相対的高金利の海外に移動することによって為替レートが円安に転じるという効果も期待されたのです。

菅副総理は、特に日本銀行による長期国債の買い上げを期待しているのではないでしょうか。このブログでも述べましたが、政府債務残高が個人金融資産残高を上回る時期が近づき、民間金融機関に国債を買う能力がなくなれば、あとは日銀が買ってくれることを願うのみです。しかし、日銀は紙幣を刷って無制限に国債を買い上げ、ハイパーインフレを起こすことを本能的に嫌います。

日銀は、2001年3月から2006年5月まで5年間「量的緩和政策」を続け、ピーク時には35兆円に当座預金残高を積み上げました。しかし、予想された効果を発揮したか、特に融資を増加させたかについて疑問を持っています。ですから日銀は、そう簡単に菅副総理が暗にすすめている「量的緩和」への復帰に踏み切ることはないでしょう。

しかし、菅副総理のほうは財政制約によってデフレ克服のための経済政策に行き詰っています。ですから白川日銀総裁に「量的緩和」、特に長期国債の日銀買い上げを期待しているのですが、白川総裁はなかなか動こうとしません。今回の「デフレ確認宣言」は、白川日銀総裁と菅副総理(その背後の亀井金融相)との水面下での激しいバトルの始まりなのではないでしょうか

2009年11月18日 09:21

冬の美瑛の丘、旭山動物園で遊びました

2009年11月18日筆

北海道新聞旭川支社主宰の講演会に招かれておよそ40年ぶりに旭川市を訪れました。記者1年生の頃、グラビア記事の取材のためにカメラマンと一緒に旭川木工団地を訪れて以来です。記憶力がひどく悪い小生ですから、旭川が当時どんな町だったかまったく覚えていません。初めて訪れるようなものです。

旭川へはつい先日観た「沈まぬ太陽」のモデルで、いまなにかと話題のJALに乗って行ったのですが、着陸前、飛行機の窓から見えたのは旭川空港周辺の白い雪が積もった広い面積の農地でした。これが平均耕地面積20ヘクタールという北海道の農地かと改めて見入ってしまいました。

北海道新聞の旭川支社報道部長の茶木一範さんに後で案内していただいて分かったのですが、雪が積もった広い農地は、ラベンダー畑の「富良野」から野菜やジャガイモ、ビート畑の「美瑛の丘」に連なる農地だったのです。富良野までは時間がなく行けませんでしたが、美瑛の丘は旭川空港から車で10分も掛からない場所にあります。空港に着陸したその足で丘に向いました。

美瑛の丘からは晴れていれば抜けるような青空の中に雪を抱いて連なる旭岳、忠別岳、美瑛岳の連峰が見えるはずですが、残念ながらこの日はどんよりした曇り空で連峰がまったく見えません。本当は見晴らしのいい場所なのでしょうが、そこには「熊に注意」と書いた小さな看板が立っているだけでした。ちょっと気になって、「熊が出るんですか」と聞きますと「エゾシカが増えて困っているという話はありますが、熊が出たという話は聞いていません」と茶木さんは首を傾げておられました。

茶木さんは、「あれが親子の木」「これが何の木」と雪の上にぽつんぽつんと立っている木々を指差して教えてくれたのですが、小生には枯れ木が立っているようにしか見えませんでした。「ケンとメリーの木」と名付けられたポプラの木も、グラビア写真では美瑛の丘の象徴のように天にすっと伸びていますが、いまは葉が落ち寒々しく突っ立っているだけでした。美瑛の丘は積雪があるときは晴れた日、できるならポプラの木に葉がついていて畑にはジャガイモの白い花などが咲いている頃に来るべきでしょうね

美瑛の丘を去った後、映画、テレビ、新聞、雑誌・書籍ありとあらゆるメディアで紹介され、いまや東京の上野動物園より有名になった旭山動物園を訪れることになりました。

情報過多のせいなのでしょうか小生、日本最北の動物園と聞いて広々したサファリパークのような動物園を想像していました。勇んで旭山動物園の近くに到着したのですが動物園が見つかりません。どこに動物園があるのか、よく見ると平屋のさほど大きいとはいえない入り口付近に「旭山動物園」と書かれているではありませんか。旭川市の東の外れ、300メート足らずの小高い山(旭山というそうです)の中腹に、動物たちの建物がポツンポツンと散在する――そんな小さな動物園が旭山動物園でした。小生の息子たちが通った多摩動物園よりはるかに小さかったのには驚かされました。

しかし、寒い冬、しかも平日10時半からの冬季開園にもかかわらず、開園を待つ若い旅行者や熟年の観光客、子供たちの行列ができているではありませんか。月曜日というのに観光バスも何台か横付けされています。冬場、しかも平日の多摩動物園で開園を待つ行列ができることなどあるのでしょうか。

最初に入ったのは「空飛ぶペンギン」がいるペンギン館です。透明なトンネル状の水槽の中に入ると、頭のうえでペンギンが元気に泳いでいるのが見えます。子供たちにはペンギンが空を飛んでいるように見えるに違いありません。「アザラシ館」では、愛嬌のある顔したゴマフアザラシが透明のパイプ状の水槽の中を見学者の足元から一気に天井までのぼる姿を見ることができます。

普通の動物園ではコンクリートの上に寝そべっているペンギンやゴマフアザラシを檻の外から、あるいは手すりにつかまって上から眺めるだけですが、ペンギンやゴマフアザラシの泳ぐ姿が見学者の頭の上や足元から眺められるのです。動物の自然な動きが体験できる展示法を「行動展示」というそうですが、それがみごとに成功していました。泳ぐ動物のスピード感や柔らかさをすぐ傍で体験できて、子供だけでなく小生もあっと歓声を上げてしまいました。

旭山動物園の「行動展示」は、「ホッキョクグマ館」「レッサーパンダの吊り橋」「チンパンジーの森」「テナガザル舎」「オオカミの森」「エゾシカの森」と連続します。その連続は子供にも大人にも「ときめきの連続」でもありますが、詳しくは見てのお楽しみということで、小生の紹介はここまでにします。

旭山動物園は、街のはずれの小さな山の中腹にある小さな動物園です。入り口も看板も小さいのですが、見学者を喜ばし感動させるための知恵と工夫が詰まった動物園でした。10年前、無料入場を含め年間26万人しか訪れず閉園の危機にあった動物園が、いまやその10倍以上300万人の入場者を数える動物園になったわけを垣間見たような気がしました。わが多摩動物園も広さを誇るだけでなく「行動展示」を取り入れ子供たちに驚きを与えていただけないでしょうか。

講演後は、もうひとつの観光スポット「北海道伝統美術工芸村」にも訪れることができました。村の中にある「優佳良織工芸館」では北海道の風景、草花を織り込んだ素晴らしい「優佳良織り」の創作、「国際染織美術館」ではインド更紗、ジャワ更紗、ペルシャ更紗、江戸小紋など世界中の更紗のコレクションを見させていただきました。

講演前と講演後のほんのひと時、美瑛の丘と旭山動物園、北海道伝統美術工芸村の3箇所を駆け足で見ることができました。暖かくなったら今度は家内を連れて二人で訪れたいと思ったのですが、JALに乗って正規運賃で旭川に来ると、1人往復7万円、二人で14万円掛かるというではありませんか。正規航空運賃は何でこんなに高いのでしょうか。これでは観光立国は絵に描いた餅になりますね。

2009年11月11日 09:45

市場原理主義とマニフェスト原理主義

2009年11月11日筆

小泉改革に「市場原理主義」と罵声を浴びせた民主党がいまや「マニフェスト原理主義」と批判されています。相手をやっつけるのに「原理主義者」のレッテルを貼るのがいちばん手っ取り早く、しかも効き目があると政治家たち、一部の評論家は考えているのでしょうね。

原理主義の意味を「Wikipedia」で確かめると「宗教上の原点を絶対視する主張、態度」となっています。「思想、イデオロギーを絶対視する態度」を表す教条主義とほぼ同義だとも書かれていました。要するに「何かを絶対視して他の考え方を受け入れない人」を原理主義者というようです。「原理主義者」という言葉は、北朝鮮の「チュチェ思想」や「イスラム教原理」という絶対思想に従順な国民を連想させます。絶対などない、すべては相対的なものだと考える小生には「原理主義者」というレッテルは本当に厭な言葉です。

特に「市場原理主義」というレッテル張りには強い抵抗を感じます。近代経済学の最高権威のひとり、小宮隆太郎先生(元東大教授、文化勲章受賞)も同じように感じられたのでしょうか、「市場原理主義批判など無意味」と言っておられます。小宮先生は価格(市場)機構(プライスメカニズム)の有用性を説いてやまない経済学者ですが、「一定の諸条件が満たされた状態の下では」と慎重に断った上で「政府が介入や割当制などを行わずに、自由で競争的な価格(市場)機構に資源配分を委ねることによって経済の最適状態が実現される」(日経新聞08年8月14日「経済教室」)と述べておられます。

小宮先生は、価格機構による資源の最適配分は「一定の諸条件が満たされた時に」実現されるのであり、無条件には成立しないと経済学者は考えているとも言っておられるのです。

市場機構を重んじる経済学者も、たとえば環境汚染など市場の価格付けがむずかしい外部不経済が存在する場合、独占や寡占などの非競争的構造、出し手と受け手の間にある情報の非対称性(格差)、労働力の売り手と買い手の権力格差などがある場合、「市場は失敗する」と考えています。これら「市場の失敗」に対して環境規制や環境税、独禁法、消費者基本法、労働基準法など行政の介入を当然のように認めています。

もうひとつ重要な点は「価格機構による資源の最適配分」という概念は所得分配以上の「最適性」を含んでいないことを経済学者が知っていることです。経済学者たちは価格機構によって生じた所得格差や資産格差は民主的な政治介入によって公正に解消されることを期待しているのです

このような経済学者の考えを無視して、「経済学者は『自由放任主義』を説いていると誤解したり、あるいは意図的に極解して喧伝したりする人が少なくない」さらに「昨今、独占資本を悪者にすることははやらない。そこで『新自由主義』や『市場原理主義』という新しい悪者の『わら人形』が仕立て上げられたのではないか」と小宮先生は述べておられます。

小宮先生のお弟子さんですが、鋭い政策提言で知られる岩田規久男学習院大学教授も「ルールも規制もまったくない『自由放任経済』がうまく機能しないことは、『市場原理主義』批判者にいわれるまでもなく、明らかである。だからこそ新古典派経済学も『新自由主義』も、市場参加者にどのようなルールや規制を課し、どのような財政金融政策を採用すれば、市場経済をうまく機能させることができるかを研究し続けてきたのであ。」と『世界同時不況』(09年3月刊、ちくま新書)で述べておられます。小生も同意見です。

小生は、その法律が、市場経済をうまく機能させるルールや規制であるかどうか、その所得再分配政策(あるいは資産格差の是正策)が公正で公平なものであるか、小宮さんや岩田さん(ご一緒に仕事をしたことがありますので親しみを込めて)とおなじ判断基準でこのブログを書いているつもりです。

さてそこで、民主党の「マニフェスト原理主義」批判です。民主党が選挙時の政権公約である「マニフェスト」を選挙民との契約だとして絶対視し変更できないというかたくなな態度を取り続けるとすれば、厭な言葉ですが「原理主義者」と呼ばざるを得なくなります。

最近行われた各種の世論調査によると「必ずマニフェストを守るべきだ」としている選挙民は10%以下、「マニフェストにこだわらず柔軟に政策を実行すべきだ」とする選挙民が70%以上になります。小生は、選挙民はきわめて冷静で賢明だと感心し、安心もしています。不安なのは鳩山政権のほうです。

繰り返しますが、8月の衆議院選挙で選挙民は、マニフェストをすべて読み、すべての公約に同意して民主党に投じたのではありません。公約のうち自分の利益につながる項目だけつまみ食いした形跡はあります。しかし選挙民の多くは、所得が減り失業不安におののく民間に対して「天下り」「渡り」を繰り返す特権官僚へのうらみ、特定の政治家、官僚、業界に利益を分配する不公平なトライアングル構造への怒りから民主党に投じたと思われます。自民党支配の政権を一度代えてみようかと考えて投じたのであって、マニフェストにすべて賛成して投票したのではありません。

世論調査で興味深いのは、マニフェストの中で賛成しない政策の上位三つが、CO2排出削減政策に反する「ガソリン暫定税率の廃止」「高速道路の無料化」政策、自給率向上にも生産性引き上げにもならない「農家への戸別所得補償」政策であることです。選挙民は、ルールや規則の変更が合理的なものであるかどうか、一部の国民(農民)だけを利する不公平なものでないかどうか、それをじっと見ているのです。

現在、仙石由人行政刷新会議担当大臣の指揮下で、2010年度予算の概算要求に含まれた447事業に対する「事業仕分け」が始まりました。どのような基準で447事業が選ばれたのか、どのような基準で削減するのか、よく分からない面もありますが、小生はとりあえず「事業仕分け」には一点を除いて賛成です。一点というのは、マニフェストだからといって仕分け対象に入っていない「高速道路の無料化6000億円」「農家の戸別所得補償制度3447億円」をぜひ「事業仕分け」項目に追加して下さい。

鳩山さん、仙石さん、そうすれば「マニフェスト原理主義者」の汚名を殺ぐことができます。考えてください。

2009年11月 4日 09:28

アジア市場内需論のすすめ

2009年11月4日筆

財界の論客が集まる経済同友会代表幹事の桜井正光氏(リコー社長)が、「経済界が望む3大成長戦略」という論考を「Voice」09年11月号に寄せています。

桜井氏は「一に、規制改革によって『民の力』を最大限発揮させ、二に、世界各国・地域との自由貿易関係を強化し、三に、中長期的成長分野(環境)に対する開発・事業化推進環境整備を行う」ことが日本の3大成長戦略だと指摘されていますが、小生もこの指摘には大賛成です。

なかでも、桜井氏の、第二の「自由貿易関係を強化」するという戦略の背後にある「アジア市場内需論」は、「わが意を得たり」の感がします。桜井氏は、この論考の一節で「アジア市場を日本の『内需』と考えよう」と題して以下のように述べておられます。

「日本は資源小国で、国土も狭い。人口も少ない。内需には限界がある。...(中略)とくに内需拡大に困難さがあるわが国は、アジアの成長を取り込む必要がある。つまり、アジア市場はもはや『内需』という発想で捉え、日本を含めたアジアをひとつの経済圏とするために、戦略的EPA・FTAの推進とその実効性を高めていく必要があろう。」

小生はこのブログでしばしば鳩山民主党の「内需主導経済」論に大きな疑問を呈してきました。鳩山内閣には「東アジア共同体構築論」という桜井氏の「アジア市場内需論」に通底する優れた成長戦略があるのですから、早く間違った「内需主導経済論」を引っ込め「アジア市場内需論」に乗り換えるべきです。

民主党政権はコンクリート(公共事業)予算を削ってヒト(子供手当など)に直接給付すれば「内需主導経済」に転ずることができると主張していますが、大きな間違いです。コンクリートからヒトへ歳出を移しても、内需項目のうち政府固定資本形成(公共投資)がマイナスになり民間消費支出(個人消費)がプラスになって差し引きゼロ、内需が増えるわけではありません。ましてやGDP(国内総生産=所得総額)が増えるわけでもありません。GDPが増え(回復し)なければ45兆円のGDPギャップは埋まりませんし、ギャップを埋めなければ職場は生まれず、365万人の完全失業者(ほかに600万人の潜在失業者)は減りません。小生は、そう何度も主張してきました。

現在の日本経済においてGDPギャップを解消する一番の近道は輸出、特にアジア向け輸出の回復です。第一生命経済研究所の試算によると09年4-6月期のGDP成長率2.3%を牽引したのは中国を含むアジア向け輸出でした。(下表(B)を参照。アジア向け輸出の寄与度3.1%で設備投資のマイナス寄与度を補った)。7-9月期もGDPはプラス成長が予想されますが、アジア向け輸出の牽引力は衰えていないと思われます(表の成長率への寄与度は第一生命研究所、直接投資の収益率は日経新聞09年10月9日付が出所)

20091104表組2.gif

上表(A)に見るように日本の輸出の55%がアジア向けです。中国向け輸出はアメリカ向け輸出をすでに上回り日本の輸出仕向け先としては第1位です。さらに注目されるのは日本企業の海外進出による投資収益率(上表(C))です。アジア進出企業の投資収益率は欧米への投資の収益率を大きく上回っています。

アジア市場は今後もますます有望です。IMF(国際通貨基金)による最新(09年10月)の世界経済見通しによると、2010年の世界全体の経済成長率は3.1%と予想されていますが、アジア地域は世界の経済成長を牽引する形になっています。香港、韓国、シンガポール、台湾のアジアNIEs4カ国の成長率は3.6%、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナムのASEAN5カ国は4%といずれも世界全体の成長率を上回ります。

もちろんアジア成長の主役は中国とインドですが、中国の2010年の成長率は9.0%、インドが6.4%とIMFは一段と高い成長率を予測しています。ちなみに日本は1.7%でこれらアジア諸国の中でも最も低い成長率が予想されています。2010年には日本が中国にGDP世界第2位の座を奪われるのは確実な情勢です。

もう少し数字に付き合っていただきたいのですが、今上げたNIEs4カ国、ASEAN5カ国、それに中国、インド、日本を加えたアジア12カ国の名目GDP総額(08年、外務省資料)は13兆ドルで世界の23.6%を占めます。ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペインの欧州5カ国と同じ規模になっています。アメリカの名目GDP14兆ドルですから、この成長率を続けるとアジア12カ国のGDP総額は今後5年以内に間違いなくアメリカを追い越すでしょう

アジア成長の原動力は人口の多さです。中国13億人、インド12億人、インドネシア2.3億人を筆頭にアジア12カ国の総人口は32億人を上回り、世界の総人口65億人の50%近くに達しています。経済発展初期の成長は労働力人口の増加に依存するというのが通説です。中国のように人口の増加率が低下しつつある国もありますが、人口は増えなくても農村地域からの新規労働力の供給が絶えることは当分ありません。アジア全体として労働力人口は引き続き増加し、成長に大きく寄与するでしょう。

アジアの生産力は、豊富な労働力と日本企業など外資の直接投資あるいは技術輸出、国内資本の勃興が重なって今後さらに拡大するでしょう。そのことがアジアの経済成長、すなわちアジア諸国民の所得増加(GDPの増加)をもたらします。近い将来、世界の3分の1の所得がアジアから生み出されることになります。

そもそもアジアの離陸(テイク・オフ)には日本の直接投資が大きな役割を果たしました。最初は豊富で安価な労働力を求めてのアジア進出でしたが、日本企業による現地からの製品輸出が現地国に貴重な外貨をもたらしました。その外貨を使って現地資本が事業を起こす、あるいは外資が再投資することで設備投資が活発になります。設備投資の活発化は日本からの高付加価値の部品・原材料や機械、製造装置などのアジア向け輸出につながりました。

そして現地では工場やオフィスが増え雇用が拡大し従業員の所得が増え、新しい事業家は族生してアジアに中間所得層が誕生するようになりました。中間所得層の人々は、より技術集約度の高い日本製の冷蔵庫や薄型テレビ、自動車などを買ってくれることになります。アジアが成長し人々の所得が増加すれば、それが日本のより高度な輸出に跳ね返り、日本人が所得を増大させることができるというブーメラン効果が生まれる環境に日本経済は今いるのです。

確かに日本は桜井氏の言うように「国土も狭い、人口も少ない(労働力は少子化で減少する)」ために内需成長には限界があります。しかし経済の国境線をアジア・太平洋に広げれば、日本経済には豊かな労働力と市場(需要)、投資機会が与えられることになります。日本の内需型企業、たとえば蚊取り線香のフマキラーはインドネシアに、紙おむつ、生理用品のユニ・チャームは中国、タイ、インドネシアに、キリンは豪州、フィリッピン、中国へと、需要の国境線をアジア・太平洋地域にどんどん広げています。経済の国境線を広げ「アジア市場を内需とする」ことこそ日本の最高の成長戦略なのです

ユニクロを経営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、日経フォーラム世界経営者会議(10月26日開催)でこう言っています。

「新興国がグローバルな市場を捉えて成長しているのに、日本は内向き、後ろ向きに終始している。...(中略)日本は米国とアジアの間にある最高の立地。ヒト、モノ、カネ、情報などインフラもすべて整っている。日本を起点にどんな産業もつくれる。絶対に日本国内で閉じないようにしないといけない。閉じればそこで終わりだ」(日経新聞10月27日付)

国内の電子商取引需要(内需)だけを頼りにしていると思われていた楽天の三木谷浩史社長も「アジア市場内需論」を実践しているように思えます。

「台湾に次いでタイへの進出を決めた。中国も重要なマーケットだ。ASEANはかつての日本のように活気があり、非常に大きなネット通販市場に成長すると予測している。アジア全域に進出し、各国をまたいでネット通販を展開したい。富裕層向けに日本の農産品も売れるだろう」(日経新聞10月29日付)

ユニクロも楽天も、「中小企業こそ日本の一丁目一番地」とする鳩山民主党(いや亀井国民新党だったかナ)が毛嫌いしてやまない「大企業」です。しかし、ユニクロも楽天も会社は多額の法人税、社員・役員は多額の所得税を支払ってくれている「大企業」です。これからも「アジア市場内需論」に従って大いに稼ぎ、たくさん税金を支払ってくれるに違いありません

そして「日本を起点にどんな産業も作れる」つまり「職場を作れる」という柳井氏のような、「アジアの富裕者向けに日本の農産品輸出を」と訴える三木谷氏のような、優れた「大企業」経営者たちの知恵を汲み取る才覚を鳩山民主党が持つことができれば、日本も救われると思うのですが。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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