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大西良雄ニュースの背後を読む

2009年10月

2009年10月28日 09:24

日本は「融資ゼロ、株式ゼロ」の経済になる

2009年10月28日筆
 
鳩山総理による就任後初の所信演説が行われました。もっとはっきり、包み隠さず日本の厳しい財政事情を訴えて欲しかったと思います。民主党がマニフェストに掲げたような所得再分配政策を実現するには、他の財政支出を大幅に削減しなければ、たとえば7兆円の公共事業費をゼロにしても足りないような酷い財政事情であることを訴えて欲しかったのです。

この酷い財政事情を解決する最もよい方法は、落ち込んだ経済成長率を高くして職場と所得を回復させて税収を増やすことです。こんな考えを一顧だにせず、鳩山総理は「経済合理性や経済成長率に偏った評価軸で経済をとらえるのをやめよう」などと言って、一生懸命働いて所得を生み出し(つまり成長率を高め)税金を支払おうと努力している企業人たち、知恵を働かせて(経済成長率を高め)職場を生み出そうとしている人々の神経を逆なでするような演説をしています。彼の言葉からは、税金をたくさん支払ってくれている企業や企業人への感謝の気持ちがまったく伺われませんね。

さて先週のブログ『日本国すべてが「夕張市」になる時』の中で小生は、IMFの試算どおりだと「日本経済は融資ゼロ、株式ゼロの経済」になってしまうと書きましたが、「融資ゼロ」「株式ゼロ」とはどういう意味かもう少し詳しく説明せよというご意見が寄せられました。少し舌足らずでしたので、もう一度説明します。

個人金融資産の7割で国債・地方債を買っている
まず日本の個人金融資産ですが、大まかに言って現在1400兆円あります。この内訳は銀行や郵便貯金に預けている預貯金が800兆円、保険・年金の掛け金を溜めた積立金が400兆円、それと株式や投資信託、債券の形で保有している残高が200兆円です。私は今後、所得のない老人は生活のために預貯金を取り崩すため個人貯蓄は減少する、さらに現役世代が所得の減少から掛け金を減らすため保険や年金の積立金が減るのではないかと思っています。つまり個人金融資産は今後減っていくと考えています。

さてこの個人金融資産の増減ですが、これが今や日本の財政事情を考えるのに無視できない大切な要素になっています。なぜかというと個人金融資産が日本政府発行の国債や地方自治体発行の地方債の受け皿になっているからです。この話を講演や講義でしますと、多くの人が「役人が無駄遣いした結果膨らんだ赤字国債や赤字地方債をわたしたちは買っていませんし、買う気もありません」と怪訝な顔します。しかし、皆さんは国債など買ったつもりはないでしょうが、皆さんがおカネを預貯金や掛け金の形で預けている金融機関が、皆さんの知らないうちにたくさん国債を買っているのです。
 
その証拠が下表です。少しデータは古いですが2年前の国債保有者の内訳です。673兆円の国債発行残高のうち郵貯・簡保が210兆円、生損保等が61兆円買っています。これら271兆円の国債購入資金は純粋に個人の貯金と掛け金が原資になっています。銀行等が購入している120兆円と年金基金が購入している28兆円、合わせて148兆円の国債購入資金には企業の預金や掛け金も入っていますが、その多くは個人の預金・掛け金だと思われます。

20091028表組S.gif 

 私はこの表から、大雑把に言って発行額の70%前後の国債が個人金融資産によって買われていると推定しています。アメリカ国債は中国や日本、ロシアなど外国人が半分以上買っています。しかし、日本国債は償還能力に疑いがもたれているうえ金利が低すぎて人気がなく、外国人投資家は数%しか保有していません。日本では、日本の個人金融資産で国債を消化しているのですから、個人金融資産の増減が国家財政にとって大変重要な要素になるのです。

国債にはじき出される融資や株式保有
そこでIMFの恐るべき試算が問題になります。IMFは「日本の政府債務残高は2019年までに個人金融資産残高を上回る」と試算しているのです。政府債務残高とは中央政府と地方政府の債務をあわせたものですが、ここでは国債と地方債の発行残高としておきましょう。09年6月末の国債発行残高は約684兆円、地方債は200兆円弱ですから、政府債務残高は約880兆円になります。すでに個人金融資産1400兆円の63%に達していますが、IMFは日本の政府債務残高がさらに増加し10年後には個人金融資産残高を上回ると言っているのです。

国債や地方債はその7割以上が個人金融資産によって購入されていることは上述しました。10年後も1400兆円の個人金融資産があるとすれば、うち7割の約1000兆円が政府債務に回されることになります。残っている個人金融資産は400兆円に過ぎません。この金融機関に残された400兆円で融資も株式保有も保険・年金の積立金も賄わなければなりません。現在、中小企業融資と住宅ローン残高を合わせて330兆円の残高、株式保有が200兆円、保険・年金の積立金が400兆円ありますが、これを400兆円で賄えるはずがありません。

小生は、このまま個人金融資産で政府債務を吸収しつつづけると、融資も株式保有もどんどん減って最後はゼロになるという意味で「融資ゼロ、株式ゼロの経済」と表現したのです。経済学では政府の活動が民間の活動を圧迫することをクラウディングアウトといいます。政府債務残高の累増を個人金融資産で吸収すれば融資等の民間経済活動がはじき出されて(クラウドアウト)しまいます。結果は資金窮迫に伴う金利の急騰となり、経済がさらに悪化します。

実際には、高齢化と所得減少によって貯蓄率がさらに低下し、個人金融資産が減少していくでしょう。累増する政府債務残高を個人金融資産が吸収する余力は10年後といわずもっと早く失われてしまうのではないかと想定しています。そうなると市場が新規国債を消化できなくなり、つまり国債に買い手がいなくなり、国債価格が暴落し長期金利が急騰することになるのです。

そんな事態になることが予想されるなら民間金融機関は早めに国債を処分するでしょう。そこで買い手として残るのは郵貯と簡保です。亀井静香大臣は日本郵政の新社長に元大蔵次官の斉藤次郎氏をつけましたが、これは郵政が国債を管理する財務省の管理下に入ったことを意味します。これで、いずれ暴落する国債を買い支えるために皆さんの大切な郵便貯金と簡保の掛け金が注ぎ込まれる体制が築かれたことになります。

しかし、郵貯や簡保の資金もどんどん減っているのですから膨れ上がる国債を買い支えることなどできないでしょう。結果、国債暴落となり郵貯・簡保に膨大な損失が発生しますが、その付けは誰が支払うのでしょうか、亀井さん。

2009年10月20日 15:40

日本国すべてが「夕張市」になる時

2009年10月20日筆

民主党の初予算になる22年度の概算要求をめぐって、まず「総額は90兆円超」という推測記事が出ました。続いて「90兆円台前半」という分かりにくい表現になった後、「95兆380億円」という確報が流れ、いや概算要求に盛り込めなかった新年度の公約分を上乗せすれば「実質は97兆円」という数字も報じられました。

小生は「90兆円台前半」と報じられたころから「民主党は政治主導といいながら、官僚に完全に取り込まれているのではないか」という厭な予感にとらわれました。なぜかといえば、昨年度の当初予算88.5兆円に民主党の初年度公約予算額7.1兆円を単純に上乗せすれば95.6兆円になるからです。だから「90兆円台前半」は95兆円を意味するのではないか、そう思ったのですが、結果は案の定95兆円でした。

官僚は、2.9兆円刈り込むことになった補正予算の凍結作業、さらに民主党公約の7兆円盛り込み作業に協力する代わりに、既得権益予算88.5兆円をしたたかに守り切ったのではないかと案じられるのです。概算要求を膨らませた赤松農水大臣、原口総務大臣、長妻厚生労働大臣らは官僚に抗せず、取り込まれたかのように思えるほどです。(合格は前原国土交通大臣だけです)。

その後、概算要求が「95兆円超」と発表されて、藤井財務相が「国債増発はしない」と繰り返していたことがとんでもない嘘だったことがはっきりしたのです。選挙前から国債を増発しなければ民主党公約予算など組めないことなど分かりきったことでしたが、民主党の選挙に勝つための嘘がばれたことになります。

リーダーシップが疑われる鳩山発言
鳩山由紀夫総理も赤字国債増発の可能性について、リーダーシップが疑われる無責任な答弁を繰り返しています。各紙の報道にしたがって「迷走する鳩山発言」を紹介します。

 『日経新聞10月15日朝刊』
鳩山由紀夫首相は14日、2010年度予算について「赤字国債は本来発行すべきではないが、止むを得ないことも出てくるのかどうか、税収の落ち込み具合を勘案しながら考える必要がある」と述べた。

すでに21年度の税収見通しが当初の46.1兆円から40兆円以下になることが明らかになっていました。税収が増えるような政策(成長政策)にほとんど関心がない鳩山政権ですから、22年度に税収が回復する見込みなどありません。「税収の落ち込みを勘案すれば赤字国債を増発しなければならなくなる」のは自明の理で、首相はそのことを正直に吐露したことになります。

 『朝日新聞10月17日朝刊』
鳩山首相は15日こう語った。「マニフェスト実現より、『国債をこれ以上発行してはいかん』ということが国民の意思として伝えられたら、そういう方向もある」。

鳩山総理は概算要求の規模が膨らみ国債発行が巨額になることに気がついたのでしょうね。それに恐れおののき、予算編成の責任を国民へ転嫁することにしたのです。民主党のマニフェストのすべてに賛成して民主党に投票した国民などいません。高速道路料金の無料化やガソリン暫定税率の廃止、小農を含む農家への戸別所得補償など小生には間違ったマニフェストだと思えます。世論調査でも不評です。選挙民のほとんどが賛成したマニフェストは「天下りと税金無駄遣いの根絶」という一点だけだったと小生は思います。

にもかかわらず民主党は「マニフェスト原理主義」に陥り、「天下りと税金の無駄遣いの根絶」を忘れ、概算要求を膨張させてしまったのです。抜き差しならなくなった鳩山総理は、「マニフェスト実現」と「赤字国債の発行」を天秤にかけて「どちらをとりますか」などと国民に下駄を預けるような無責任な発言に堕することになりました。

 『産経新聞ネット版10月19日20時20分配信』
鳩山首相は19日夜、報道各社の世論調査で衆院選マニフェスト(政権公約)実現より赤字国債増発を伸長にすべきだとの回答が多数を占めたことについて、「子供たちにつけが回ってはいけないという気持ちを大切にしたい。むやみに発行される状態はなんとしても避けなければならない」。

鳩山首相は、こんどは「世論調査」を救いの神として「マニフェストの変更」の政治責任をまぬかれることにしたのです。総理が「マニフェスト原理主義は誤りだ」と反省しているのかどうか、高速料金無料化やガソリン暫定税率の廃止、農家の戸別所得補償制度への対応を待つしかありません。

国債増発をめぐる鳩山発言が、事態変化の追随に終始し、総理としての決断とリーダーシップに恐ろしく欠如しているものであることは言うまでもありません。しかし総理は、小手先の策にすぎませんが「相続税免除付き無利子国債」発行の可能性をエコノミストに聞いたぐらいですから、日本政府の財政収支と国債累増の問題が深刻な状態にあることを一応は認識しているのでしょう。

政府債務残高が個人金融資産を上回る時
そうであるならこの際、鳩山総理自ら、このままいけば日本政府が財政破綻を引き起こす可能性があることを国民に正直に説明するべきです。小生は、「日本国政府は今後10年のうちに財政破綻を引き起こし、かつて韓国がそうであったようにIMF(国際通貨基金)の監督下に入り、破綻自治体・夕張市が経験しているような厳しい歳出削減(公共サービスの引き下げ)を迫られる可能性がある」と思っています。小生の心配が的外れなら、予測が間違っているのなら、その証拠とデータを示して安心させてください。鳩山さん。

IMFは今年の7月、「日本の政府債務残高は2019年までに個人金融資産残高を上回る」という不気味な試算を出しています。現在個人金融資産は現在1440兆円ほどあります。一方、国債及び地方債の発行残高(政府債務残高)は884兆円に達します。この884兆円の一部は日銀が引き受けていますが、その多くが郵貯、簡保、銀行、生保、年金など金融機関が公債に運用するという形で個人金融資産が引き受けているのです(あなたの郵便貯金や銀行預金、生保・年金の掛け金を使って金融機関が知らないうちに国債を買っているのですよ)。

小生の計算では民主党政権の4年間で政府債務残高が1000兆円を突破することになります。IMFはその延長線で10年以内に政府債務残高が個人金融資産残高を上回るといっているのです。外国人が国債を買ってくれなければ、日本国内の預貯金、年金・保険掛け金のすべてが国債保有に回され、現在230兆円の中小企業への融資をはじめ銀行貸出はゼロになります。それだけでは足りません。株式や投資信託、債券に回されている個人金融資産もすべて売り払い国債に回すことになります。

小生とIMFの計算が正しければ、あと10年以内に日本はこのような異常な事態に陥るのです。日本経済は、融資ゼロ、株式ゼロの経済になってしまいます。こんな異常経済に陥る前に国債が売られ長期金利が急騰し、国債の金利支払いが雪だるま式に増え財政は破綻します。そうなるともはや日本の政治家の力では事態は解決不能となります。IMFから緊急融資を受けるために日本政府はIMFの管理下に入り、IMFによって歳出が切り刻まれ、日本中が「夕張市」になって財政再建してもらうしかないでしょう。

そうでなければ日銀の国債引き受けです。その結果、印刷機から紙幣が大量に刷り出されハイパー・インフレが起こり、国債(借金)は実質的に棒引き、つまり国債の運用に回った皆さんの預貯金がゼロになる強制決着が待っています。小生のような定額収入の年金生活者は預金価値がゼロになるだけでなく、年金では超インフレで食糧も買えず、静かに飢え死にするか首を吊るしかありません。おさらばですね。

2009年10月14日 09:38

桜木を伐って「老い支度」

2009年10月14日筆

30年以上も前に植えた桜木が、わが庭の一等地、東南の角地に植わっていました。陽当たりが抜群の場所ですのですくすく育ち、家内が抱きついても手が回りきらないほど太ってしまいました。高さも15メートルはあります。花より葉が先に開き、葉桜の後に桜を楽しませる少し変わった山桜で、春先にはそばを通るご近所の方を珍しがらせてきました。

ただ、この桜木、春先は自慢なのですが、夏を過ぎて秋、特に10月の半ば、葉を落とし始める頃から厄介な大木に変じるのです。秋の入り口になると風に吹かれて落ち葉が少しずつ降り始めるからです。家内は毎朝、家の前を通る道路の両端に降り積もった落ち葉を竹箒で掃き清めていましたが、家内も寄る年波、足を痛めてからその清掃作業がつらくなってきたといいます。

小生も退職後は、木枯らしが吹き大量に葉が落ちる頃は落ち葉掃きを手伝うようになりました。しかし小生の手伝いは気まぐれで、家内のように2ヶ月にわたって毎日竹箒を持つことはありません。家内にはすまなかったと少し反省はしているのですが、家内はついに堪忍袋の緒を切ったようです。「葉っぱが落ちる前に桜を伐って下さい」と。

小生は「せっかくこんなに大きく育って、春になるとご近所の皆さんに喜ばれているのだから、もったいない」と言い張ったのですが、家内は9月に61歳の誕生日を迎えた頃から、伐採を譲る気は毛頭ないという態度です。最後は「伐採の費用は用意していますから」と言い放ちました。3~4年前、この桜木の太い枝を数本業者に伐ってもらった時は確か5万円ぐらい支払ったと記憶しています。今度はそれを周囲2メートルはある根元から伐採するのですから、いくら掛かるか、家内が用意したカネで間に合うか不安になりました。

そこで伐採費用がどれぐらい掛かるか見積もりをとることにしました。最初は、昨年我が家の外壁を耐震用に張り替えてもらった業者に見積もってもらったのですが、その見積額がなんと33万円にもなったのです。家内の記憶によりますと、この桜木は30数年前に所沢航空記念公園で開かれた植木市にて1000円也で購入したものだそうです(小生はすっかり忘れていました)。購入当時は背丈にも満たない小さな木だったのに、切り倒すのに購入代金の330倍の費用が掛かるなんて、と小生は呆然としてしまいました。

33万円は用意した伐採資金を上回っていたようで家内も意気消沈していましたが、気を取り直し市役所に相談に行くことにしました。家内は市役所なら街路樹を刈り込む伐採業者を抱えているはずで、その中からみすぼらしい初老夫婦を哀れんで格安の業者を紹介してくれると思ったようです。市役所は、さすがに特定の業者を紹介することは避けましたが、市内の植木・伐採請負業者の窓口を教えてくれました。窓口業者に電話しますと、電話に出た業者自身が直ちにすっ飛んできました。仕事がないんですね。暇なんですね

業者の見積もりは22万円でした。同じ作業なのに最初の業者より11万円も安いのです。伐採代金などいい加減なのです。ですから小生も「あと2万円安くしてくれ。20万円ならやってもらう」と値切ったのですが、業者は直ちに値切りに応じてくれました。繰り返しますが、暇なんですね。

一週間後、2台の廃棄物運搬トラックと1台の柱上作業車、それに2人の植木職人、2人の補助作業者が拙宅を訪れ、あっという間に桜木を切り倒してしまいました。ついでに業者は作業の邪魔になるからといって、盆栽にして育てていたのを庭先に植え込んだために大木になった欅の木と、道路に覆いかぶさるように茂っていた百日紅の枝も大胆に刈り込んでくれました。この作業代はタダでした。

業者が去った夕暮れ時、上空からわが庭に覆いかぶさっていた桜木、百日紅、欅の三本がすっかり消え去っていました。天空が開け、狭い庭が広々して見えるではありませんか。小生はなんだか憑き物が落ちたような、痛んだ奥歯を抜き去ったような気分にとらわれました。家内もこれで毎朝のつらいお勤めから開放されることになります。これで家内の小生に対する長年にわたる「うらみつらみ」のほんの一部を取り去ることができたのです。

家内は、「これから齢(よわい)を重ね、身体もどんどんつらくなります。だから余計なものはどんどん整理していかねばなりません。だから桜木の伐採は私には"老い支度"なのです」といいます。小生もこれには同感です。家内はさらに続けました。「これからは家の内外に余分なものがない、きれいに整理された空間で暮らします」と。しかし、このお言葉には、小生、ドキリとしました。「家の内外の余分なもの」の中に「濡れ落ち葉」の小生が入っているかもしれないからです。

2009年10月 7日 10:45

温室効果ガス削減は成長にはマイナス?

2009年10月7日筆

鳩山新政権には「パイを大きくする」、現状では「小さくなったパイを復元する」という所得増加戦略(成長戦略)はいまのところ見受けられません。明示されているのは予算の組み替えによる「パイの切り分け」、現状では「小さくなったパイの切り分け」という所得再分配戦略だけです。

小生も道路やダムなど無駄な公共事業を削って子ども手当など人的給付に回すという考え方には賛成です。しかし、政府支出を右(公共事業)から左(社会保障)に移し変えるだけでは所得総額(GDP)は増えません。GDPが増えなければ、完全失業者361万人(潜在失業者である雇用調整給付金の受給者約200万人を足せば560万人)は、現状のまま減少しません。失業者を職場に戻すには、約40兆円のGDPギャップを解消して「小さくなったパイを復元する」必要があります。職場を生み出すための成長戦略がなんとしても必要だと、このブログでは何度も主張しています。

「新しい成長戦略」の二つの柱
こうした主張に気がついたのでしょうか、鳩山総理は直嶋正行経産相に「新しい成長戦略」を年内にも策定するように指示したと小さく報じられていました。新しい成長戦略は、第一に「アジアなど新興国の成長を取り込む」、第二に「地球温暖化対策を産業競争力につなげる」の二つが柱になるようです。いずれも民主党の政権マニュフェストに書かれていたものです、マニュフェストには結果としてGDPの増加(回復)につながる「意図せざる」成長戦略が潜んでいたことになります。

小生は、このうち第一の「アジアなど新興国の成長を取り込む戦略」には大賛成です。この成長戦略は、あてにならない内需主導型成長ではなく、達成可能で即効性のある「輸出と内需のバランス型成長」につながるものです。ただ、これを実現するには貿易の障壁になる日本の農業問題をはじめ多くの解決しなければならない問題があります。これについては改めて書きます。

「90年比25%削減」は経済成長にはマイナス?
成長にプラスかマイナスか議論があるのは、第二の「地球温暖化対策を産業競争力につなげる」という戦略です。この戦略は鳩山総理が国連演説で宣言した「2020年までに温室効果ガスを90年比25%削減する」という国際公約の実施に絡みます。なお、鳩山公約の90年比25%削減は05年比に換算すると30%削減になります。米国の公約は05年比で14%、欧州連合は13%ですから、鳩山政権の削減目標は欧米の2倍になる大変な削減目標です。

この「温室効果ガス25%削減」に対する国民の評価は高く、読売新聞の世論調査(10月2~4日実施)によれば「賛成」が75%に上っています。しかし国民は、この「25%削減」が家計にどれぐらいの負担を強いるのか、経済成長にマイナスになるのかプラスになるのか(プラスならGDPが増え職場を増やす)まだ十分知らされていません。それを知れば75%もの賛成が得られるかどうか分かりません。

今年8月5日、2ヶ月ほど前に開かれた経産省「総合資源エネルギー調査会・需給部会」に提出された参考資料によると、「90年比25%削減(05年比30%削減)」は経済成長にはマイナスの影響があると試算されています。

試算(下表)によると、10年間累計で実質成長率は3.44%押し下げられ、失業者は約77万人増え、所帯あたり年間36万円の家計負担増になると見ています。これに対して前麻生政権の目標に近い下表の05年比14%削減(90年比7%削減)での家計負担の増加は年7万円程度です。

091007表1.jpg 

さらに経産省の試算では、麻生政権の「15%削減公約」だけでもその削減対策総費用が10年間で50兆円以上掛かることになっています。次世代自動車対策12兆円、太陽光発電対策8兆円、省エネ建築(住宅・ビル)対策8兆円、省エネ家電対策7兆円、高効率給湯器対策5兆円などがその代表的な試算例です。これが「鳩山目標25%削減」となると対策総費用は190兆円に膨らむという試算もあります。家計の負担も大きく、「25%削減」を達成するには太陽光発電設置や省エネ改築、エコカーへの買い替えなどで家計は最大650万円の投資が必要になるとされています。家計はこの投資負担には耐えられませんので財政支援が必要になります。それが財政赤字をさらに拡大させることになります。

公平で冷静な「経済成長への影響」の再計算を
この試算は経産省の役人が行ったものです。鳩山総理は、経済成長にマイナスの影響を与えるという試算結果には産業界寄りのバイアス(産業界、特に粗鋼、エチレン、セメント、板紙などエネルギー多消費産業は18%~29%の減産を迫られるのですから経産省の役人も慎重にならざるをえなかったのでしょう)が掛かっていると判断したのでしょうか、小沢鋭仁環境相に「05年比30%削減が与える経済への影響」の再計算を指示しました。

小沢環境相は鳩山総理「随一の側近」と自称していますから、経済成長にはマイナスどころかプラスだというような「鳩山公約」に有利な試算結果をはじき出す可能性もあります。190兆円の対策総費用はすなわち190兆円の環境技術や製品に対する新需要であるという考え方もできます。対策費用を払わねばならない産業が衰退し環境対策新需要を獲得する産業は成長します。この産業転換の費用と便益を10年間にわたって再計算することになるのでしょう。

しかし、試算の前提となる将来の経済成長率やエネルギー価格見通し、環境対策技術の進歩度合いなどを変えるだけで、結果が経産省試算とまったく逆になるとすれば、小沢環境相傘下の官僚試算も鳩山公約や環境団体寄りのバイアスが掛かった政治的なものと判断されかねません。ことは将来の国民生活にかかわります。産業界寄りでも環境団体寄りでもない中立的な専門家による冷静な再計算を望みます。

小生は、温室効果ガス排出の根源である石油、石炭、天然ガスなど化石燃料系の発電所を排出ガスゼロの原子力発電所に切り替えることで、かなりの程度問題は解決すると思っています。もちろん太陽光や風力、水力など再生可能エネルギー系の発電を増やすのも結構ですが、この発電コストは原子力より極めて高いのです。連立相手の社民党の反対が予想されますが、産業や家計に負担をかけず経済成長にマイナスにならない原子力発電の増設を真剣に検討すべきだと思います。10年後の原発比率をどれぐらいに置くかによっても経済成長に与える影響は大きく異なるのです。この点も考慮して欲しいと思います。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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