
2009年8月26日 09:27
2009年8月26日筆
新聞各紙の事前予測によれば、8月30日の総選挙の結果、民主党が絶対安定多数269議席をはるかに上回る300議席超を獲得し、政権交代が実現するようです。多分そうなるでしょう。
そうなればなったで、小生の捻じ曲がった脳みそが、「老婆心ながら」といいたくなるのです。どうも民主党は経済学のイロハに疎く金融・財政政策を駆使したマクロ経済・金融運営で大きな過ちを犯すのではないかというのが、小生の「老婆心」です。国際的に評価されている伊藤隆敏東大教授の日銀副総裁任用を無定見に拒否した民主党ですから、専門知識にもとづくマクロ経済・金融運営が大切だという意識があるようには思えないからです。
機敏なマクロ経済運営が出来ますか
民主党「新政権」にお聞きしなければならないことがいくつかあります。
第一に、現在の景気の底打ち状態は各国政府の財政出動によるものであり経済の自律的な回復によるものではないことを認識しておられるかどうか。アメリカの低燃費車への買い替え補助金が打ち切られたのがその実験材料になります。中国の金融引き締め転換も気がかりです。財政出動が一巡すると景気が再び下降に向う懸念がまだ払拭されたわけではないのです。
前回も述べましたが、日本経済の実質成長率は09年4―6月期に年率3.7%のプラス成長に転じました。前2四半期が年率10%を越すマイナス成長だったからⅤ字回復だといえますが、新政権は日本経済の活動はまだきわめて低い水準にあることを知っておくべきでしょう。
今4―6月期の実質GDP(国内総生産)はほぼ完全雇用状態にあった08年4―6月期に比べGDPが約37兆円少ない。Ⅴ字回復したといっても今4―6月期は7%近いGDPギャップを抱える不完全雇用状態にあります。労働者派遣法を改正しても最低賃金を引き上げてもGDPギャップを埋めなければ348万人の失業者は減らないのです。
民主党は政権をとればまず、自公政権が残した15兆円弱の緊急経済対策を凍結するといっています。その上で概算要求に含まれる新年度予算の組み換えを行うことになるのでしょう。しかし、日本経済はまだ自律回復できないのですから、財政出動という梯子をはずすと経済が再下降するリスクもあります。
財務省、経産省、日銀などの経済官僚は民主党の政治家諸君よりはマクロ経済・金融運営の専門家です。民主党「新政権」がこの点で官僚のサボタージュを招かないだけの見識を発揮できるか、小生には心配でなりません。新政権は、景気動向を注視しながら財政・金融面で機敏な手を打つことが出来なければ景気は二番底を迎えるリスクをはらみます。
相殺される需要サイドの政策効果
第二に、民主党は現状37兆円もあるGDPギャップを埋める手段を持っているかどうか、疑わしいのです。好意的に解釈すれば民主党が公約した子ども手当、農家への戸別所得保障などの直接給付やガソリンの暫定税率廃止などの減税措置は需要サイドからの成長政策にはなります。
しかしそのGDP引き上げ効果は小さいといわざるを得ません。まずこれらの直接給付や減税措置によって増えた所得のかなりの部分が貯蓄に回り、消費に回らない恐れがあるからです。さらに、その財源の多くが公共事業予算の削減や公務員人件費の削減など歳出圧縮、あるいは配偶者控除、扶養控除などの廃止による「実質増税」によって行われるとすれば、それらはすべて需要の削減になるからです。民主党の需要サイド政策の効果は、自らの財源捻出策によって減殺される可能性が高いのです。
温暖化ガスの排出削減目標引き上げや自然エネルギー発電の全量買い取り政策などは中期的には成長の手助けにはなりますが、その費用を家計や企業が負担するとすれば当面は成長の阻害要因になります。子ども手当によって人口減少に歯止めがかかれば、超長期的には成長の助けになるとは思いますが、彼らが労働力化するまで育児の費用のほうが嵩みます。
本当にGDPを引き上げることが出来る政策は、純輸出や設備投資の拡大という供給サイドの政策であることは、前回書きましたのでご覧ください。
政府債務累増すれば市場のしっぺ返し
第三に、自民党が残した負の遺産である巨額の政府債務は、自分たちの責任ではないからといって放置しておけないという責任感が民主党にあるかどうかです。小生は、民主党は子供手当5.5兆円、高速道路無料化2.5兆円、農家の戸別所得保障1兆円など総計17兆円の恒久政策のための財源を予算の組み替えによって捻出することは、容易ではないと思っています。
歳出の削減で恒久政策財源を見出せないとすると、結局、財源は増税か国債の増発しかないことになります。4年間消費増税を封印した民主党ですから、残る手段は国債の増発ということになります。君子豹変してたとえば高速道路の無料化やガソリン暫定税率の廃止など「ばら撒き公約」の一部を捨ててしまえばいいのですが、それができないとすれば国債の増発しかないということになります。
民主党政権下では政府債務が累増すると判断されれば、「市場の反乱」を招き長期金利は急騰することになります。金融音痴、市場軽視の新政権に市場の鉄槌が下されることを小生は恐れます。
日本の国債発行残高はすでに680兆円に達し、21年度は725兆円に膨らむ予想です。他に地方債残高が約200兆円ありますから、国債・地方債の発行残高は925兆円、GDP比175%にもなるのです。国債費(償還費と利払い費)は年々膨らみ、歳出の最大項目である社会保障関係費(約25兆円)と肩を並べる規模になっているのです。
「国債は日本人が買っており、政府の債務だが国民の資産だ、資産が増えるのだから国債の累増など心配するな」などと主張する市場を知らない似非学者の言うことなど聞いてはいけません。
すでに日本の個人金融資産1400兆円のうち65%が金融機関を通じて国債・地方債の購入に回っています。今後、この個人金融資産は高齢者の貯蓄取り崩しによって減少することは間違いありません。日本人が買っているといいますが、日本人が国債を購入する余力は失われつつあるのです。
自国の金融機関といえども、政府債務が近い将来1000兆円を越えGDP比200%にもなる公債(国債・地方債)を持ち続ける保証などどこにもないのです。日本国債を保有する民間の銀行や生命保険は、アメリカ国債が財政赤字の拡大によって売られ、長期金利が急上昇することをいま注視しています。彼らはアメリカの長期金利の上昇が日本に跳ね返る事態も考慮に入れなければならないのです。中国政府がアメリカ国債をちょっと売るだけで米国債暴落の引き金を引くことになります。その際は、日本国債も暴落の渦に巻き込まれます。
欧米の投資家には日本国債は金利が低すぎて投資の対象にもならないそうです。外国人に国債を売らなければならない時が来れば、国債が暴落しなくとも長期金利が現在の国際水準に鞘寄せされて上昇することはあり得ます。かりに日本の長期金利が欧米並みの現在水準に2%上昇すると、それだけで年5兆円利払いが増えると財務省は算定しています。5兆円は消費税2%引き上げ分に相当します。消費税の引き上げは最低保証年金の財源にすると民主党は言っていますが、消費税を国債の利払いに充当することになりかねません。
長期金利が上昇すれば、政府債務が雪だるま式に増殖するだけではありません。金利上昇は、「悪い円高」をもたらして輸出に打撃を与え、設備投資を急減させ日本経済を再び混乱に陥れます。不景気への再突入で税収はますます減少します。税負担能力のない国民に金をばら撒いても税収は増えないのです。
日本の金融機関のうちもっとも多く日本国債を保有しているのは「ゆうちょ」と「かんぽ」の郵政グループ(約240兆円)ですが、彼らでさえ国債下落による巨額の損失を恐れて日本国債を投げ売りするときが来るかもしれないのです。将来償還が疑われる国債に対していつ市場が反乱を起こしても不思議ではないぐらい政府債務は膨らんでいるのです。
新政権は、小泉構造改革のトラウマに捉われすぎて、「市場」を軽んじてはいませんか。軽んじれば市場から国債投げ売りというしっぺ返しを食らいますよ。
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