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大西良雄ニュースの背後を読む

2009年8月19日 10:01

日本はもう十分、内需主導経済です

2009年8月19日筆

盆休みが明けた8月17日、09年4-6月期のGDPが発表され、実質経済成長率が年率換算で3.7%と1年3ヶ月ぶりのプラス成長になりました。日本の潜在成長率は1.5%程度といわれていますからそれを上回る成長を遂げたことになります。麻生総理は経済対策の効果が出たと早速自慢しています。

小生も、昨年の08年4-6月期のGDP(国内総生産)と発表されたばかりの今年の09年4-6月期をじっくり見比べて、現在の日本経済がどのような位置にあるのか、日本経済がどのような問題を抱えているのか考えてみました。どの政党が総選挙で勝って政権の座についても、この日本経済が直面する問題点に対応しなければならないことは言うまでもありません。

20090819.jpg

まず、注目すべきは昨年に比べてGDPが約37兆円減っているという事実です。08年4-6月期のGDP563兆円はリーマンブラザーズ・ショック前ですから完全雇用に近い状態だといえます。これに対し09年4-6月期526兆円は37兆円少ない不完全雇用の状態といえます。07年の完全雇用GDPと09年の不完全雇用GDPの差額37兆円はGDPギャップです。

この37兆円のGDPギャップを埋めなければ、6月末で348万人(失業率5.4%)にのぼる失業者の解消、つまり不完全雇用状態を解消できません。前1-3月期から今4-6月期の3ヶ月で増加した実質GDPは4.7兆円(前期比0,9%増)にすぎません。毎期4.5兆円ずつ実質GDPが増えたとしても(実現は容易ではありませんが)、37兆円のGDPギャップを埋めるには8四半期(2年)掛かることになります。 

「輸出主導である」という誤解
37兆円のGDP減少は、16兆円の純輸出減少と20兆円の設備投資減少でほぼ説明できます。この結果、第一にGDPに占める純輸出(外需)の比率は2.7%に低下しました。それ以外の内需が占めるGDP比率は実に97.3%に達しています。民主党はじめ野党は「輸出主導の経済を内需主導の経済に変える」といっていますが、日本経済はすでに十分内需主導の経済なのです。GDPの中身を見るかぎり野党の主張は何を言っているのか意味不明です。

新聞は、4-6月期の純輸出が1-3月期に比べて6.5兆円増えたことがGDPの増加(4.7兆円)に大きく貢献したといっているだけで、日本が輸出主導の経済であるといっているわけではありません。野党がいう、輸出主導から内需主導へという主張にはあきらかに誤解があります。

第一の誤解は、GDPに占める純輸出よりGDPに占める輸出総額を指標にしていることから生じています。確かに輸出総額のGDPに占める比率は12.3%と高い(この数字も中国やドイツに比べればはるかに低いのですが)ように思えますが、その一方に輸入総額があることを忘れています。

簡単に言えば輸入は所得の海外流出です。海外からの所得流入である輸出から所得の海外流出(輸入)を差し引いた純所得が純輸出です。この純所得の増減がGDPにカウントされるのであって輸出総額がGDPにカウントされるのではありません。日本は原油や資源、穀物を輸入しなければ生きて生けない国家です。この輸入による所得流出を製品や部品、製造設備の輸出による海外からの所得流入によって補うほかありません。輸出を無視、軽視した日本経済などありえないのです。

危ない成長のエンジン ― 設備投資の減少
第二に、野党には日本は内需主導経済ではないという偏見、誤解があります。内需は民間の消費と投資、それに政府の消費と投資から成り立っています。個人消費だけではないのです。トータルの内需は09年4-6月期でGDPの97.3%に達し、日本はもう十分内需主導であることはすでに述べました。それより気になるのは、経済成長の欠くことのできない内需である設備投資、住宅投資、在庫投資など民間投資の減少です。1年で合わせて23.4兆円減少しGDPに占める民間投資の比率は19%から15%に低下しています。

特に経済成長の原動力になる設備投資のGDPに占める比率が13%まで下がってきたことが心配です。高度成長期にはこの比率は20%まで高まり、所得が増加し、内需がさらに拡大するという好循環が実現しました。

当時に比べ日本経済には投資対象が少なくなったという説もありますがそうではありません。太陽光発電や風力発電(特に洋上風力発電)、スマートグリッド(賢い送電網)、リチウムイオン電気にエコカー、植物工場にLED照明、バイオテクノロジーとナノテクノロジー、高速鉄道(新幹線)、情報通信テクノロジー(ITC)など、投資すれば成長するハイテク分野はいま山ほどあります。観光産業への投資は海外からの所得収入を増やします。生産性の低い農業やサービス産業にも生産性を高めるという投資機会はあるはずです。

投資が日本国内でなぜ起こらないのか。なぜ日本企業は海外に成長機会を求めるのか、そのことを政治家諸君はよくよく考えるべきです。大企業を憎み、輸出を軽視し設備投資を妨げるような愚かな雰囲気が日本に満ち満ちています。輸出が増え設備投資が回復し所得が増加しなければGDPギャップは埋まりません。GDPギャップが埋まらなければ、いくら労働者派遣法を変えても最低賃金を引き上げても失業者は減らないのです。

今は誰も口にしませんが、日本に厳然としてある投資を阻む非競争的な市場構造の改革、投資に不利な税制や規制の改革が必要なのです。この改革による成長にはコストがかかりません。法律を一行変えるだけですから。膨大な財政支出を伴うにもかかわらず成長効果に乏しい所得再分配政策や行政改革、天下り禁止だけではGDPギャップは埋まらないことを、政治家諸君は知るべきです(この点については次号)。

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QuonNetコミュニティ | 2009年8月19日 10:05

この記事へのコメント

1. Posted by Anonymous 2009年12月 6日 05:06

このデータのソースはどこですか?
もしオリジナルが見れるサイトがあったら教えてください。

2. Posted by 大西 2009年12月 6日 14:27

読んでいただきありまとうございます。
オリジナルは内閣府のGDP統計です。このうちの時系列表「国内総生産(支出側)及び需要項目」の実質季節調整系列をつかいました。
「GDP統計」で検索できます。

プロフィール
大西良雄(経済ジャーナリスト)
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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