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大西良雄ニュースの背後を読む

2009年8月 5日

2009年8月 5日 09:55

福祉の「ばら撒き競争」を防ぐ方法

2009年8月5日筆

「選挙公約」といえばいいのに、横文字で「政権マニュフェスト」というからわからなくなるのです。「流行歌手の地方公演(ドサ回りとも地方営業ともいう)」を「アーティストの地方コンサート」というようなものです。

昔、「選挙公約」といえば守られない空手形の代名詞で政党の選挙公約など信じる選挙民などいませんでした。むしろそれぞれの政治家が「ここに橋を架けます、道路を作ります」といって選挙区の住民から1票を買う手法のほうが有効でした。

しかし政治家個人が1票を買うという中選挙区の時代も去り、いまは人を選ぶより政権を担う党を選ぶ「比例代表付き小選挙区制」になりました。だから「政権マニュフェスト」と言葉を変えたのでしょうか。政権交代の可能性がある今回はとくに政党の「政権マニュフェスト」の洪水です。これを全部読むことなど一般の選挙民には苦痛の何ものでもありません。

しかも、すべての政党が存在もしたこともなかった「市場原理主義」を槍玉に挙げる一方、幼児教育の無償化だ、子供手当だ、それに最低保証年金に最低賃金の引き上げ、失業手当、加えて中小企業への減税だ、農家への所得保証だと、どの政党も社会主義政党になったかのような「政権マニュフェスト」のオンパレードです。党が主導する選挙目当ての「福祉のばら撒き競争」が起きているようです。

これでは選挙民はどの政党を選んでよいか分かりません。そこで参考になる論文が最新の「週刊東洋経済」(09年8月8日号)に載っていましたのでご紹介します。橘木俊詔・同志社大学教授が書いた「貧困者支援の2つの政策-働く人への支援か 働かない人への支援か」と題する論文です。

橘木先生によると、所得のない人、あるいは非常に低い所得しかない人に対して社会が経済支援する方策には2つの考え方があるといいます。

働く人、働けない人への支援「ワークフェア」
ひとつは、働く人に経済支援を行うという「ワークフェア」の考え方です。この場合、健康やその他の理由で働けない人に支援を行うことは容認します。教授によれば「ワークフェア」の思想は、「福祉を充実すると人々が怠惰になって働かなくなるので、人が進んで働くような福祉制度はないかを探求したもの」だといいます。小生も、現在のような財政に余裕のない時期はなおさら、働けるのに働かないで失業保険や生活保護など福祉制度にただ乗りする人を排除する必要があると思います。

「ワークフェア」の代表政策は、たしか公明党の政権マニュフェストに入っていた「給付付き税額控除」がそれです。働いているけれど所得が基準以下である場合、たとえば年収が税最低限以下の場合、税額控除や減税のメリットを受けられません。この弊害をなくすため、所得の低さに応じて給付を受けられる制度です。

この考え方は、新自由主義の旗手であるフリードマン教授が提唱した「負の所得税」の一種です。課税最低限以上の人が支払うのが「正の所得税」、課税最低限の人が受けられる給付を「負の所得税」といいます。この場合、「就労が条件になっており、働かない人にはその利益が及ばない」、したがって「福祉のただ乗りを排除できる」巧妙な策だと教授は言っています。

最低賃金制度も働かない人には無縁、働いている人だけが利益を享受できる制度ですから、「ワークフェア」のひとつといえます。

働かない人にも給付する「ベーシック・インカム」
もうひとつは働く人と働かない人の区別なく、すべての国民に生きていくだけの生活給を支払うという「ベーシック・インカム」の考え方です。働く、働かないを問わず、すべての国民に一定額が給付された定額給付金がその代表例です。ただ、この「ベーシック・インカム」には、多くの疑問が提示されていると教授は指摘します。

第一に、働かない人にも給付するということは、毎日サーフィンをして遊んでいるような遊び人に支給することになる。第二に、働かなくても支給されるのだから働いている人が働かなくなる恐れがある。確かに、遊び人が増えれば経済が弱くなるという姿を旧ソビエトなど官僚社会主義ではよく見られた光景でした。さらに、国民全員に一定額を支給するために国民に巨額の税負担を強いることになり、実行不可能になるのではないかという疑問も提起されています。

教授は「私個人は、働けない人にはベーシック・インカムを、働ける人にはワークフェアをという立場が好みである」と結論づけています。たとえば高齢者全員への基礎年金の全額税負担(最低年金保証)、あるいは子供に給付される子供手当は、「働けない人に対するベーシック・インカム」だから賛成だそうです。

今回各党から争って提示されたおびただしい福祉政策を、橘木教授の「働けない人にはベーシック・インカム」「働ける人にはワークフェア」という基準に従って整理し採点してみたらどうでしょうか。要らないものは排除してください。私はくたびれ老人ですので、その力はありません。どなたかやってみてください。

たとえば、農家への戸別所得補償とか中小企業だけの減税などはどちらに属するのでしょうか。小生は、橘木教授の提案には全面的に賛成です。付け加えていただけるのなら、特定の企業、職業や職種、家族、官僚、地域に給付されている差別的な「所得保障」政策をすべて見直した(将来は廃止する)うえでという前提をつけてから、政権マニュフェストにあるおびただしい「福祉政策」を仕分けしていただければ幸いです。

 

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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