
2009年7月22日 09:24
2009年7月22日筆
ひと昔前、さくら銀行(旧三井と旧東海が合併)と住友銀行が合併するという報道に接して大いに驚かされたことがあります。三井と住友が旧財閥系のしがらみを越えてありえない合併に踏み込んだからです。それと同じくらい驚かされたのが、今回の「キリンHDとサントリーHDが経営統合の交渉を進めている」という「日経新聞」7月13日のスクープ記事でした。
戦前の大日本麦酒で一緒だったアサヒとサッポロが経営統合するのならなんら不思議ではないのです。しかし、日本でもっとも成功した非公開・同族経営といってよい鳥井・佐治一族主導のサントリーがその成功を捨てて、日本最大の飲料・食品メーカーであるキリンとの統合を決意したというのですから、驚かざるを得ません。いったいなぜ統合なのでしょうか。
「なぜ統合するか」について私は、ビールのトップ(キリン)、ウイスキーのトップ(サントリー)という国内市場の2つの覇者が、いずれも国内市場(内需)に見切りをつけ、海外、とくにアジア・オセアニア市場に活路を求めるためではないかと考えています。「内需衰退国・日本」を相手にしていては覇者といえどももはや生き延びることはできないという危機感が、両社トップを統合交渉に向わせたのでしょう。
サントリーは1995年には中国上海でビールの生産を始め、今では「清爽」「超爽」という爽快系ビールで上海ビール市場の50%を占めています。中国の年間ビール消費量は3913万キロリットル(07年)で日本の消費量628万キロリットルの6倍以上もあり、世界最大のビール消費国です。中国の旺盛な経済成長、つまり所得の増加につれさらにビール、飲料マーケットは拡大するはずです。サントリーはそこに布石を打っているのです。中国でもウーロン茶の販売を開始しています。
一方、キリンHDは、内需から解き放たれ堰を切ったかのように相次いで海外投資(買収)をはじめています。07年に豪州で乳製品ナンバーワンのナショナルフーズを買収したのを皮切りに、08年にはオセアニアの2大ビールメーカーのひとつである豪ライオン・ネイサンを買収、09年にはフィリピンのサンミゲルビールを買収しました。キリンは、人口増加率の高いアジア・オセアニア地域での企業買収で新たな成長を追及する戦略に転じました。
所得が増えず人口減少すれば内需は衰退
ビールなどの大衆向け飲料は鮮度と価格が勝負です。輸出は鮮度が落ち、大量の水を運ぶようなもので価格が安いわりに運賃が嵩みます。輸出には向かない製品です。輸出が無理な分、勢い国内市場でのシェアの奪い合いに経営戦略の重点が置かれ、過当競争が繰り返され低収益ビジネスになりがちです。
しかも、飲料の内需は趨勢的な減少傾向にあります。ビールやウイスキーの国内需要は人口、とくに生産年齢人口の増減と大きな関係があります。一人の人間のアルコールの摂取量は限られています。ビールが安くなったからといって摂取量が増えるわけではありません。
皆さんよくご存知のように、2005年を基点に推計された日本の将来人口は、50年後の2055年には9000万人を割り込み、100年後の2105年には6000万人を割り込むことになっています。日本の2005年の総人口は1億2777万人ですから、50年後には約3800万人減って現在の3分の2になります。100年後には現在の半分以下になる計算です。
恐ろしいのは50年後の年齢人口構成の激変です。65歳以上の老齢人口比率は40.5%、「14歳以下」の年少人口比率は8.4%になり、「働けない、稼ぎがない、飲めない」人口は合わせて49%にもなります(09年は36%)。これらの人口を扶養する15歳から64歳までの「働く、稼ぐ、飲む」生産年齢人口は51%(09年は64%)になってしまいます。
この人口推計の前提は合計特殊出生率1.26です。最近1.37まで回復していますので1.37の出生率が続けば2055年の9000万人割れは数年先に延びることになりますが、人口減少が進むことに変わりありません。飲酒、飲料人口も着実に減っていくのです。減っていくパイ(内需)を奪い合う不毛な競争が繰り返される恐怖をサントリーもキリンも感じているはずです。
パイの切り分けしか考えない国から脱出?
生産年齢人口が減少しても、今後、一人当たり所得が増えれば高価格の高級ウイキーやビンテージ・ワインの消費が拡大して、総量の減少を補って、キリンやサントリーはまだ内需で食って行けます。しかし日本の現状では、国民一人当たりの所得が増える展望は開けません。企業所得も同様だと思います。高級ウイスキーやビンテージ・ワインなどとんでもない、発泡酒や第3のビールなど安価な「ビールもどき」だけが売れているという内需の現実が、その証拠です。
だから彼らは需要がさらに増大する成長市場アジア・オセアニアに手を携えて進出して進出しようとしているのでしょう。
いま日本の政治家たちは、パイ(GDP)を大きくすること(経済成長)より、小さくなっていくパイをいかに切り分ける(所得の再分配)かに夢中になっています。高所得者から低所得者へ所得を再分配すれば内需が拡大すると信じて疑いません。所得を右から左へ移転するだけで内需は増えるのでしょうか。高所得者(日本にはそんなに高所得者がいるようには思えません)の選択消費(ウイスキー)が減り、低所得者の必需消費(第3のビール)が増えるだけです。
私は、まだ本格的な人口減少が起こっていない現段階では、日本は経済成長の可能性を放棄してはいけないと考えています。選択消費も必需消費もともに増える経済成長が必要です。日本は世界に誇れる勤勉で優秀な国民と優れた技術を持っていて、低炭素社会へ向けて高付加価値経済へのイノベーションが起こせる国です。しかし残念ながら、いまや日本は、企業家が国内に資本を投下してイノベーションを起こすという魅力がはなはだ乏しい国になっています。だからキリンとサントリーは「内需衰退国・日本」に見切りをつけたと小生には思えるのです。
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