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大西良雄ニュースの背後を読む

2009年6月

2009年6月24日 09:59

日本農業は衰退産業ではありません

2009年6月24日筆

農水省では、職員スキャンダルが頻発しています。この蒸し暑い梅雨の季節、みみっちい小役人のうっとうしいスキャンダルなど書きたくありません。しかしそれが、これまでの「農政の大失敗」によって農水省職員のモラルが著しく低下した結果だとすれば、書かざるをえません。

誇りも目標もない官僚の群れ
まず、農水省の労働組合「全農林」(民主党系)による142名のヤミ専従問題です。ヤミ専従というのは、国民の税金から給料をいただいて仕事もせず労働組合活動だけやっている職員のことです。「全農林」は、働かない税金泥棒たちをかくまうだけでなく、この税金泥棒たちを使って地方農政局などの整理・統合に反対するなど、自らの権利擁護に奔走していたことになります。

その地方農政局などの農水省職員ですが、33名が農家に調査にも行かずコメの在庫量の虚偽データを報告し、調査協力の謝礼用の図書カードを着服していました。33名は停職5名、1~4ヶ月の10%減給24名、戒告4名というぐあいに処分されたそうですが、首にはなりませんでした。そういえば昨年、業者への立ち入り検査をしながら汚染輸入米の流通を見過ごし怠慢を非難されたのも、地方農政局、農政事務所の職員でしたね。

農水省の職員総数は2万6000人ですが、その61.5%、1万6000人が地方農政局や農政事務所にいる地方職員です。彼らの仕事のひとつが、毎月、全国8300ヶ所の農家を訪問してコメの在庫量を聞き取り調査することでした。在庫量は、コメの生産調整(減反)の基礎データになるそうですが、減反に批判的な農家などは答えるはずもありません。だから農家へは訪問せず時間を潰して帰庁し、ウソのデータを報告していたようです。

農水省はほかに、官庁でも最多の3500名もの統計調査員を抱えているようです。後で述べますが日本の農業産出額はソニー1社の連結売上高に及びません。そんな程度の産業なのに、農水省は、地方農政局などの職員や3500名もの統計調査員を使って何でこんな膨大な、つまらない調査を行っているのでしょうか。小生にはその統計調査の意義をとうてい理解できません。

処分された地方職員たちも、こんな統計調査が徒労に帰す無駄な仕事であることをよく知っていたに違いありません。公務員試験を受かった優秀な、40歳も過ぎた分別ある農水省職員が使命を燃やしてやるような仕事ではないと思っているから、真面目に調査などしなかったのでしょうね。

ヤミ専従に見過ごし検査、サボリ職員の虚偽報告――。農水省にはなぜかくも惨めな職員がたくさんいるのでしょうか。小生は、農水省には職員が胸を張って語れるような仕事がなくなってしまっているのではないかと疑っています。働く誇りや到達すべき目標が失われた職場から規律が失われるのは当然です。

8兆円強の農業に3兆円以上の税金投入
日本農業の現状には、眼を覆うものがあります。日本の農業は、これまで膨大な国民の税金が投じられたにもかかわらず、農業従事者の高齢化と後継者難、耕作放棄地の急増によってどんどん衰退しています。販売農家(農産物を外販している農家)298万6000人の60%が65歳以上の高齢者です。後継者がいないことなどから耕作放棄地は埼玉県の面積を上回る38.9万haに達しています。食糧の自給率は40%を下回り、先進国でも最低レベルです。

日本の農業産出額は平成19年度で8兆4449億円でした。ソニーの平成19年度の連結売上高が8兆8714億円でしたから、日本農業の産出額はソニ一1社の連結売上高に満たないのです。ところが日本農業の正式社員ともいうべき農業を主な収入源とする主業農家だけで98万8000人もいます。ソニーの連結従業員数は17万人強にすぎません。日本農業の労働生産性はソニーの6分の1以下という計算になります。こんな生産性の低い産業では生活が成り立たず、後継者が育つはずがありません。

後継者が振り向きもしない日本農業を維持するために膨大な税金が投じられています。平成21年度の農水関係予算は2兆5605億円(うち圃場整備など農水公共事業関係費は9952億円)にのぼり、今年はこれに農林水産振興対策費と称する補正予算1兆130億円が加わります。合わせると3兆6000億円弱(すべてが農産物向けではないが)の農水予算が、8兆4449億円の農業産出額を挙げるために投じられるのです。

国民の負担はこれだけではとどまりません。減反政策を止めるだけでコメの値段は半値になります。コメの関税率は778%ですから輸入すれば7分の1の値段でコメが買える計算です。その高いコメ代金分は消費者には増税です。

日本農業は衰退産業であるはずがない
小生は、日本農業が衰退産業であるはずがないと信じています。コメを筆頭に安心安全、美味、高品質の日本の農畜産物に対する潜在需要は、国内はもちろん中国、韓国、台湾、タイ、シンガポールなどアジア諸国でも大きいと思っています。日本農業の生産能力を点検すれば、耕作放棄地、休耕田など肥えた農地が遊んでいて水は豊富、旱魃はなく、農業技術は世界に抜きん出て秀でています。電子、電気、太陽光発電やバイオテクノロジーなどの先端技術の農業への転用も容易です。

人口急増と地球温暖化による異常気象から世界の食糧需給は逼迫の一途です。10億人が飢餓線上にいるといいます。この時期だからこそ日本農業は、もっている潜在生産能力を活かすべきです。若い人が農業に参加し高い生産性を挙げ、立派な所得があげられる条件を整えるために税金を使うべきです。

自立する意思のない、後継者のいない農家に巨額の税金をばら撒き、その見返りに一票を買うというこれまでの農政の大失敗が、日本農業に衰退をもたらしたのです。議席を守りたいために「ばら撒き農政」の愚を繰り返す政治家は、自民党であれ民主党であれ、もはや無用です。


2009年6月17日 10:00

もう「バブルの迎え酒」ですか?

2009年6月17日筆

先進国の株価は足並みを揃えて3月に底入れし、上昇しました。しかしまだ、昨年9月のリーマンショック前の株価、NYダウでいえば1万1000ドル、日経平均では1万2000円には達していません。

リーマンショック前を上回っているのは、BRICSの株価です。中国の上海総合指数はこの半年で底値から70%近い上昇です。ロシアの株価は09年1月底値から100%以上、インドも3月底値から90%以上の上昇になっています。ブラジルも3月に底入れして50%以上上昇、リーマンショック前の株価水準に達しています。

BRICSのうち中国、インドは大規模な内需刺激策の効果に対する期待が株価回復を後押したようです。とくに鉄道や道路建設など中国の活発な固定資本投資(建設投資、設備投資)と消費刺激策は、石油・石炭や鉄、非鉄、穀物など資源輸入の再拡大への期待を高め、国際商品市況の上昇をもたらしました。

資源国のロシア、ブラジルはこの国際商品市況の急回復が株価を押し上げています。モルガン・スタンレーによると他の資源国も同様で、3月10日以降、5月末までの株価上昇率は、天然ガス、非鉄金属のインドネシアが65%、金、ダイヤモンドなど貴金属の南アフリカが54%、穀物、非鉄金属、原油のカナダが52%、銅のペルーが46%、鉄鉱石、石炭の豪州が43%といずれも先進国の上昇率を上回っています。

繰り返される「バブルの迎え酒」
株価の戻りは、日欧米の先進国よりBRICSや資源国のほうが大きいということになりますが、小生には、この構図の中に危険な「バブルの迎え酒」の匂いがしてなりません。

これまで、バブルの大小を問わず、株や商品、不動産などの資産バブルが崩壊すると、米FRB(連邦準備制度理事会)は必ずといっていいほど政策金利を連続的に引下げてきました。景気の悪化原因が資産バブル崩壊によるものであるか、通常の景気循環によるものか、そんな詮索はお構いなしです。現代の不況恐怖症ともいうべき民主主義国家では、不況の進化は金融緩和や財政出動によって止めなければならないのです。

その結果、政策金利は最終的には0%~1%という超低金利になり、この大幅な金融緩和が次のバブルを発生させるのです。金儲けの陶酔感(ユーフォーリア)に浸った状態をバブルといいますから、バブルの酔いから醒めて不況が訪れ風邪をひきそうになったら迎え酒をあおって経済を温める。この方法が「バブルの迎え酒」です。グリーンスパン前FRB議長は「バブルの迎え酒」によって資産デフレからアメリカをなんどか救い、名伯楽と一時賞賛されました。

次々代わるバブルの主役
前のバブルから次のバブルに移る際、バブルの対象資産が次々に代わっていきます。最近の例を挙げれば、アジア金融危機後の金融緩和で起きた2000年のIT株バブル、ITバブル崩壊後の連続的な政策金利の引下げによって発生した住宅バブルがそれです。住宅バブルには株式バブルも並行しました。住宅バブルは06年7月から崩落しはじめますが、住宅バブルの崩壊の影響が金融機関に及んでいることが明らかになったのは1年後です。07年10月には株式バブルがピークアウトし、バブルの主役は住宅、株式から原油など国際商品へ交代していきました。

この国際商品バブルでは、原油価格が1年で1バレル70ドルから147ドルへ2倍にもなりました。つれて金も、とうもろこしなどの穀物も、石炭、鉄鉱石、銅鉱石も値段がはねあがったのは記憶に新しいと思います。そのスタートは07年9月、住宅バブル崩壊から生じた金融不安を回避するためFRBが5.25%から政策金利を連続的に引下げ始めたときからです。

国際商品バブルは08年7月には崩落、住宅、株式、国際商品と連続した資産バブルはすべて崩壊しました。その結果、欧米の金融機関は膨大な不良資産を抱え込み、世界は金融恐慌に突入して信用収縮が激化、信用収縮が世界的な経済収縮(世界恐慌)をもたらす危険すらありました。その危険を取り除くために、欧米諸国の政策金利は0%~1%に引き下げられたうえ大規模な信用緩和が行われました。再びバブルのタネが撒かれたのです。

再び途上国株と国際商品に向った余剰ドル
アメリカの貿易収支赤字によって世界にこれまで散布され累積したドル資金だけでも膨大です。これに金融梗塞解消のためのドル資金、景気底割れ回避のための財政資金が市場に散布されています。この低金利のドル資金が、生産拡大や在庫積み増し、設備増強資金などの実需要に使われるのはまだ先です。それでも待ちきれず、金融不安や恐慌懸念が薄らいだことを汐に、余剰のドル資金は低い利回りの国債などの安全資産から高金利と値上がり益を求めてリスク資産に大きくシフトしたのです。

機関投資家や年金基金、投機家などが保有している余剰ドルは、金や国際商品を組み込んだ上場投信(ETF)やヘッジファンドに再び流入し、原油、非鉄金属、穀物などの価格を押し上げています。その価格上昇が高金利通貨国への余剰マネーの再流入をもたらし、BRICSや資源国の株価を急回復させているというのが、「バブルの迎え酒」の構図です。

しかし、いまの段階での原油など商品価格の上昇は景気回復の障害です。国債からの逃避によって生じる長期金利の上昇も住宅投資や設備投資底入れを妨害しかねません。バブルの傷が癒えぬのにもう「バブルの迎え酒」では節操がなさ過ぎます。急ピッチの株価回復は反省を迫られるのではないでしょうか。

2009年6月10日 10:27

日本郵政・西川社長解任に異議あり

2009年6月10日筆

「二羽のハト」の片割れ、鳩山邦夫総務大臣が日本郵政の西川善文社長の再任(実質的な解任)をかたくなに拒否しています。大臣いわく「世論の8割は西川社長の続投反対だ。続投反対の世論が常識、続投を拒否している鳩山邦夫も主張も常識」とこんどは世論を味方にして意気軒高です。

小生は、「ハトの片割れ」や「泥亀(亀井静香のあだ名)兄弟」など懐旧派の政治家などに遠慮せず、西川さんは社長に断固居座り、いまだ官僚体質に浸りきっている日本郵政を徹底改革し、「民営化の土台を築く」ためにがんばるべきだという立場です。
しかし「世論の8割が続投反対だ」とハトの片割れがいうものだから、続投絶対支持派として意気軒高な小生ですが、少し不安になってきました。

新聞世論の7割5分は西川続投支持です
大臣が「新聞の社説」など「出来レース」といいかねませんが、社説はいちおう世論の代表とされています。そこで新聞の社説をネットの「くらべる社説」などで少し調べてみました。

読売、朝日、日経、毎日、産経の中央5紙のうち、鳩山大臣と同意見だったのは、あのナベツネとかいう「書かなかった大政治記者」がまだ君臨している読売新聞だけです。読売は、「かんぽの宿の売却手続きに不明朗な部分があった。(西川社長)の経営責任は厳然として残る」といっています。鳩山総務大臣と「出来レース」のような社説ですね。

小生が購読している朝日、日経の2紙は、「政治がやるべきは首切りではなく(郵政)改革を徹底させることだ」(朝日)、「(更迭するかどうかは)民意の支持を得た郵政改革の試金石であり、麻生首相は西川氏に改革を託すように動くべきだ」(日経)と主張し、ともに続投支持でした。ほっとしました。

日頃ほとんど読むことがない毎日、産経2紙は好対照です。毎日の社説は「早く決めろ」と麻生総理に注文をつけているだけで更迭か続投かはっきりしません。こんなだから売れないのでしょうね。その点、産経は、いつものことですが白黒ははっきりして気持ちがいい(ナショナリスト論説は除きます)。

産経の社説は、「(かんぽの宿をめぐっては鳩山大臣が管轄する総務省の調査でも)明らかな不正行為は見つからなかった。不祥事の多くは民営化以前から尾を引く問題だ。こうした組織体質を改めるためにも民営化をしっかりやり遂げなければ」といっています。さすが骨太の行政改革論者・屋山太郎(政治評論家)さんを生んだ新聞ですね。

結局、続投支持は朝日、日経、産経の3紙、更迭賛成は読売だけ(毎日は何を言っているかわからないから無視します)ですから、世論の4分の3(7割5分)は、西川社長の続投支持ということになります。ハトの片割れさん、世論の8割が自分と同じ考えなどとウソをついてはいけません。世論の7割5分はあなたに反対ですから、再任を拒否する「鳩山邦夫こそ非常識」なのです。

西川解任は「官僚集権国家」の勝利
麻生内閣で一人だけ常識人といえるのが与謝野馨財務大臣ですが、その彼が西川善文社長の更迭問題など「政府にとって小さな問題だ」とことさら平静を保とうとしています。しかし与謝野さんがそういえばそういうほど問題の根の深さが浮き彫りになります。与謝野さんは、兄の民主党代表とつるんだ「ハトの片割れ」のいうことを聞いて西川さんの首を切れば、選挙を前に自民党の分裂騒動が再び持ち上がりかねないことを知っているのでしょう。

西川善文社長は、郵政選挙で大勝した小泉純一郎内閣によって日本郵政の社長に就任したのです。選挙による民意のお墨付きが付いた社長です。麻生政権は、小泉さんが勝ち取った3分の2の衆議院議席のお相伴に預かって予算関連法案を再議決して国会を乗り切ってきたにすぎません。小泉内閣の象徴的な人事である西川さんの首を切れば、小泉さんが勝ち取った民意に背を向けることになります。麻生さんは、「郵政民営化の見直し」をマニュフェストに掲げた選挙に勝ってはじめて西川さんの首を切る正当性が得られるのです。

それと怜悧な銀行家で鳴らした西川善文社長が、憤激を押し殺し「絶対に辞めない」という姿勢を貫いているのには大きな意味があるように思えます。西川さんは、鳩山総務大臣が更迭・解任に固執する背後で糸を引いているのが旧郵政省出身の「内務官僚」(現在も官僚の総理である官房副長官は、戦前最大の官僚組織・旧内務省出身者がなるのが慣例。旧郵政省も内務省の一部だった)であることを知っているに違いありません。

日本郵政とオリックス不動産との間で「かんぽの宿」入札をめぐって不正行為があったなら別ですが、不正行為は総務省の調査でも見出せだせませんでした。なのに鳩山大臣が更迭に固執するのは、あたかも不正行為があったかのような情報が「内務官僚」から囁かれているからではないでしょうか。

郵政の民営化は、郵貯、簡保に集まった膨大な資金が公社・公団、特殊法人などの官僚の天下り先(財投機関)に流され、国家的な無駄遣いが行われていることを止めさせるために断行されたはずです。総務大臣はその改革を陣頭指揮し、官僚の不正や天下り、渡りをなくすための公務員改革を断行するのが仕事です。ハトの片割れは、その仕事を一切サボり、官僚の利権を拡張したい「内務官僚」と組んで民営化推進の象徴的人材である西川社長を排除しようとしていると小生には思えます。

そんなハトの片割れともう一人の片割れ(鳩山由紀夫)が、秘かに手を結んで政権を乗っ取ろうというのですから身の毛がよだちます。政権交代のためのマニュフェスト作りを担当する菅直人民主党代表代行は、中央公論09年7月号掲載の論文「民主党政権のめざす国のかたち」で官僚集権国家から地方主権国家への転換を主張しています。まさか民主党は、菅マニュフェストに反して、内務官僚に取り込まれた「ハトの弟」と手を組むことはないでしょうね。

鳩山兄の民主党が、政権交代のためなら悪魔(ハトの弟、泥亀兄弟、官僚社会主義者なども含む)とも手を組む小沢一郎の政治手法を踏襲するなら、政権交代など空しいものになります。

2009年6月 3日 10:24

GM処分が済んで悪材料出尽くし?

2009年6月3日筆

NYダウは、GMが連邦破産法第11条の適用を申請して破綻した6月1日、221ドルの大幅高となりました。株価はこの3月に底入れしてすでに35%近くも上昇していますので、この日は「悪材料の出尽し」による上昇ということになりました。
 
オバマ政権は、7850億ドルの景気対策を成立させた後、矢継ぎ早にゾンビ銀行とゾンビ企業の整理に乗り出しました。ゾンビとは「すでに死んでいるのにまだ動いている幽霊」のことです。

ゾンビ銀行とデトロイトのゾンビ3を処分
ゾンビ銀行については、まず、彼らが抱える不良債権の官民買取りプログラム(買い取り総額最大1兆ドル)を構築しました。そのうえで、ストレス・テスト(健全性を審査する資産査定)を実施して、資本注入が必要なゾンビ銀行を洗い出しました。はじき出された資本注入必要額は746億ドルと意外に小さく、ゾンビ10行(資本不足銀行)は相次いで増資に踏み切ることになっています。
 
世界最大のゾンビ企業GMの処分再生は、このゾンビ銀行処分につづく課題でした。GMもフォードもクライスラーも、いまや世界のビッグ3ではなく潰れてもなんら不思議のないデトロイトのゾンビ3になっています。悪評高いゾンビ3であっても破綻すれば、全米の部品メーカー、自動車ディーラー、自動車ローン会社などの連鎖倒産を引き起こし、ひいては金融機関の不良債権をさらに膨らませる結果をもたらします。金融恐慌が産業恐慌に転じ、さらに金融恐慌を激化させる危険があったのです。

GMもクライスラーも破綻しましたが、短期間に再生、再上場が可能な連邦破産法第11条の適用による破産です。先に破綻したクライスラーは近く法的手続きを終え、イタリアのフィアットの関連会社になります。GMもすでに再建計画を出していますので、第11条のもと、この計画に対する債権者の過半数及び債権額の3分の2以上の賛成を得ることになります。

GMは、1、2ヶ月もあれば債権者の賛成を得られて法的手続きが完了、年内には株式の再公開にめどがつきそうです。GMとクライスラーのゾンビ2は債務の大幅なカットが実現し、身軽になって再出発します。株価は、それを悪材料の出尽しと読んだのです。

オバマ大統領も、GMへの公的資金の注入に対する議会の反発を説得する仕事がまだ残っていますが、基本的には、これらゾンビの処分でGDP比5.5%にのぼる7850億ドルの景気対策の効果発現を待つばかりになったと考えているかもしれません。しかしそうでしょうか。

米国国債を挟んでいまや日・米・中は一蓮托生
景気・金融対策、それにゾンビ銀行とゾンビ企業のために投じた膨大な財政資金の後始末が残っています。アメリカの財政赤字は今後2年間で3兆ドル(300兆円)を超え、IMFの予測によると、財政赤字のGDP比は13.6%(09年)に達し、世界最悪の財政赤字国家・日本の9.9%をはるかに上回るのです。この赤字は米国国債の発行増によって賄わざるを得ません。

ガイトナー米財務長官は、GMが破産法の適用申請を提出したその日、アメリカという大借金国家の最大の債権者である中国に飛んでいました。長官は、王岐山副首相、胡錦濤国家主席を相次いで訪れ、「オバマ大統領が在任中の4年間のうちに財政赤字を半減する」と約束したと報じられています。

アメリカ政府の債権者・中国は、ドルの買い支え(人民元高を回避するための)によって溜め込んだ外貨準備2兆ドルの7割をドル資産の購入に当てています。約1兆4000億ドルのドル資産の半分、7679億ドル(3月末)は米国国債です。中国の保有残高は米国国債発行残高の2割を占めています。

アメリカが財政赤字を将来も垂れ流せば、米国国債の大量発行がつづき、償還能力が疑われて格付が引き下げられかねません。そうなれば、米国国債は売り浴びせられます。米国国債を担保に発行されているドル紙幣も信頼を失い、ドル暴落に繋がります。かりにドル暴落が生じドルが20%減価すれば、中国は2800億ドル(約28兆円)の評価損を抱え込むことになります。さらに米国国債の下落に伴う評価損も抱え込みかねません。

中国政府がこれ以上米国国債を保有することは危険だと考えるのは当然です。だからガイトナー長官は、人民元操作の問題は棚に上げ、「財政赤字を半減して、米国国債の信用を維持しますから、買い続けてください」と胡錦濤にお願いするしかなかったのです。
一方、中国が今後2年間ますます増える米国国債の発行を「もう引き受けない、持っているものを売る」と言えば米国国債は急落、ドル下落に繋がり、大損をしてしまいます。中国は、米国国債を有力な対米外交カードに使えるという説もありますが、このカードを使えば自分も大量の返り血を浴びます。いまや使えないカードになってしまいました。

アメリカのほうは、中国のご機嫌を損ねると米国国債が売られ長期金利が跳ね上がり、ようやく底入れした景気が再悪化します。これにドル暴落が重なれば、NY株は恐怖の二番底をつけに行くことになるでしょう。オバマ大統領のこれまでの恐慌回避策が無為に帰すのです。

いまや米国国債の扱いをめぐって米・中は抜き差しならない恐怖の均衡状態にあるといえます。ガイトナー長官は頼みに来ていませんが、実は日本は中国に次ぐ6619億ドル(66兆円、09年2月末)もの米国国債を保有しています。ドル資産の保有残高は中国に肩を並べるでしょう。米国国債の問題は他人事ではありません。

日・米・中は、米国国債を挟んでいまや一蓮托生、喧嘩するなどしている暇はないのです。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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