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2009年5月27日 12:28

敵基地攻撃論の限界

2009年5月27日 筆

麻生総理は、北朝鮮が核実験を行った日、「なぜ国際社会は北朝鮮の核実験を止められなかったと思われますか」と聞いたぶら下がり記者にこう答えました。

「私の答えられる限界を超えています」

この答えは、麻生総理としては珍しく秀逸なものだと思いましたし、通常の感覚ではまったく理解できない北朝鮮の行動に言葉を失った正直な麻生さんに、小生も大いに共感しました。誰の忠告にも助言にも従わない独善・孤立国家の行動など止めようがありません。聞くほうが野暮です。

と褒めようとしたのですが、翌日のぶら下がり会見での麻生発言には危うさを感じました。北朝鮮のミサイル基地などの敵基地攻撃能力をもつべきだという自民党内強硬派の意見に対して、麻生総理は、「一定の枠組みを決めた上で法理論上は攻撃できる。昭和30年代からの話だ」と漏らしたからです。

カウンターパンチは自衛の範囲だが...
総理が「昭和30年代からの話だ」と述べた点について解説しますと、朝鮮戦争から三年後の1956年、当時の鳩山一郎内閣(鳩山由紀夫民主党代表の祖父)の統一見解として船田中防衛庁長官(当時)が「たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」と述べたことを指します。

「他に手段がない」という意味について船田長官は、「わが方に対して急迫不正な侵略があり、その侵略を防ぐために他に防衛手段がない」という意味だとしています。核兵器を積んだミサイルのような誘導弾等の攻撃は他に防ぎようがありません。それが北朝鮮から飛んできた場合、その発射基地をたたくのは自衛の範囲に含まれる、というのです。

よくわからないのは、この政府の統一見解は、カウンターパンチ論なのか先制パンチ論なのかです。北朝鮮からミサイルが飛んできた後、さらなる攻撃を防ぐために敵地の発射基地をたたくのはカウンターパンチです。カウンターパンチであれば、法理的には自衛の範囲に含まれるかもしれません。

「自衛のための先制攻撃」はまやかし
一方、ミサイルが飛んでくる前にミサイル基地や各施設をたたくのは先制パンチです。この先制パンチ、つまり「自衛のため」という先制攻撃が、戦争という手段による紛争解決を放棄した日本国憲法上(法理的に)許されるか、大いに疑問があるところです。

それだけではありません。日本が自衛のための敵基地攻撃を北朝鮮に仕掛けた途端、北朝鮮からミサイルが飛んできて交戦状態に入ることになります。そのミサイルに核弾頭が搭載されていたとすれば、長崎、広島、の悪夢再来です。軍事専門家によれば、日本が単独で北朝鮮のミサイル基地をたたくには膨大な軍事予算が必要になるし、予算を投じて迎撃、攻撃ミサイル網を完成させたとしても北朝鮮のミサイル攻撃を完璧に防御することなどできないそうです。

戦争による紛争の解決は、人命の浪費と軍事費という膨大なコストを覚悟しなければなりません。ブッシュが、自国の安全を脅かす大量破壊兵器の保有を根拠にフセインのイラクを先制攻撃したのは、記憶に新しいところです。いまや民生を犠牲にしてでも膨大なコストをかけて先制攻撃ができるのはアメリカだけです。その超大国もイラク攻撃で墓穴を掘り、アメリカ単独の戦争による紛争解決は難しくなったのではないでしょうか。

戦争は、いつも「自衛のための先制攻撃」によって始められたように思います。「侵略のために戦争を仕掛けた」などと公にいう国などありません。かりに北朝鮮が日本の国土にミサイルを撃ち込むとすれば、日米韓が結託して北朝鮮政府(つまり金王朝)を転覆させるのを防ぐ「自衛のための先制攻撃」と主張するでしょう。国際社会が疑問に思う、社会主義の仮面をかぶった軍部支配の王朝国家でも、そう主張するのです。

王朝継続のためならば、核武装であれなんであれ、どのような手段もとると宣言している異常な国家・北朝鮮の隣国が、戦力の保持と交戦権を放棄し、紛争を解決する手段としての戦争を放棄した世界にただひとつの国家・日本だったというのは、歴史の皮肉としか言いようがありません。この異常な隣国さえいなければ、明らかに憲法違反の敵基地への先制攻撃論など出てくるはずもなかたのです。

それはともあれ、戦争による紛争解決が許されないとすれば、6カ国協議などの外交による紛争解決しか手段は残っていません。もっとも頼りになる友人である中国の意見にも耳を貸さなくなった北朝鮮・金王朝ですが、それでも粘り強く外交努力を重ねるほかないようです。日本は拉致問題さえなければ、中国と並んで北朝鮮と米・韓の仲介役を果たすことができたはずです。日本外交は、そのことを改めて心に留め置くべきです。

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QuonNetコミュニティ | 2009年5月27日 13:55
プロフィール
大西良雄(経済ジャーナリスト)
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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