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大西良雄ニュースの背後を読む

2009年3月

2009年3月25日 11:09

たかが野球、されどWBC

    
2009年3月25日 筆

 投げた球をすりこぎの親方のような棒でひっぱたいて、あとは走るだけ。野球のことを中国語で「棒球」といいますが、よくぞ言ったものです。そんな「たかが野球」なんですが、在宅高齢フリーターの小生、なぜか今回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、日本チームの戦いをすべてテレビ観戦してしまいました。

そして、最後に勝って本当によかったと思ったのは小生だけではないと思います。株価も優勝をはやし、一時ですが上がりました。派遣切りに野宿者、天下りに渡り、偽装献金の野党代表に漢字が読めない総理、次から次に日本人のふがいなさ、民族としての劣化すら感じられるニュースの洪水ですからね。たまには、心が洗われる、奮い立つようなニュースが欲しかったところでした。

誰かが言っていました。「テレビはニュースとドキュメント、それにスポーツ番組にかぎる」と。私も同感です。プロ野球のTV放映も楽しみな番組の一つでしたが、メジャーリーグやWBC、五輪放映以外は見ることもなくなりました。オーナー新聞の拡販と同系列テレビの視聴率に役に立つかどうかだけで放映されている日本のプロ野球など見る気がしないからです。役に立たなくなった球団を見放し、系列テレビでの放映回数が少なくなったのは、結構なことです。そのテレビ局で代わりにお笑い芸人の面白くもないバラエティ番組が増えたのでは知恵がないといえますが・・・。

「侍ニッポン」の中軸は巨人以外の選手だった
そんなことより、今回、WBCで世界と闘った「侍ニッポン」の選手たちを見ていて思うのは、巨人以外の球団にたくさんの優れた選手がいるということです。巨人の選手でレギュラークラスは小笠原だけで、阿部、内海、亀井、山口の巨人軍生え抜きの四選手は控えでした。小笠原ももとはといえば日本ハムの選手でした。

レギュラーは大リーグ支配下の松坂(前西武)、イチロー(元オリックス)、城島(前ソフトバンク)、岩村(前ヤクルト)、福留(前中日)でした。そして国内選手で活躍したのは、投手ではダルビッシュ(日本ハム)、岩隈(楽天)、杉内(ソフトバンク)、野手では青木(ヤクルト)、中島、片岡(西武)、村田、内川(横浜)、川崎(ソフトバンク)でした。テレビ放映が少なく、日頃あまり馴染みのない選手たちですが、その能力には目を見張るものがありました。

巨人所属以外のあまり目立たない選手たちが、なぜかくも優れた能力を築き得たのか、そのわけを知りたいところです。そのわけは、野球(べースボール)を国技のように愛するアメリカが、自国選手にこだわることなく、国境を越えて世界中から優秀な選手を招き入れていることにあると小生は思います。ベネズエラ、プエルトリコ、日本、豪州、韓国とWBCの強豪国はメジャー在籍選手が主力になっていたのが印象的でした。

アメリカ野球は、日本選手もこころよく引き受け、能力があれば誰でも受け入れるという「野球グローバリズム」の規準を貫いたのです。この野球グローバリズムによって、国内球界による嫌がらせ(偏狭なナショナリズム)を振り切ってメジャーで大活躍した野茂に始まり、イチロー、松井、松坂ら日本の一流選手たちがアメリカに勇んで流出し、野茂を上回る評価を受け、日本では考えられない報酬を手にしたのです。

イチローをリスペクト(尊敬)し、彼に続こうとしている青木、川崎、中島、片岡、内川など俊敏でシュアな、クレバーな若者たち(スリムで俊敏な日本人がこんなにたくさんいたことに感動すら覚えます)もいずれメジャーに流出していくでしょう。松坂をリスペクトする岩隈、ダルビッシュもいずれメジャーで投げるときがくると思います。大変結構なことだと思います。われわれは、彼らの活躍をNHKの衛星放送で見ることができるのですから。

野球グローバリズムが打ち砕いた「巨人軍幻想」
かつて巨人所属以外の野球選手は、いつかは巨人に転じて野球生活を終えたいと考えていました。金田しかり張本しかりです。解説者、コーチ、監督職と老後の再就職先に恵まれた巨人で選手生活を終えるのが最良の選択だったからです。そういえば今回のTBS放映WBC戦の解説者に登用された清原は、ドラフトで裏切られた憎き球団であるはずなのに、育ててくれた西武ライオンズを捨て巨人に転じました。その結果、首尾よく解説者の職場を手に入れることができました(小生は西鉄以来のライオンズファンですので清原にはつらく当たります。悪しからず)。

しかし清原は、巨人軍「御利益(ごりやく)信仰」にとり憑かれた最後のプロ野球選手になるのではないでしょうか。今の若い選手には「上がりは巨人軍」などという発想はないと思います。目指すは「イチローと松坂が活躍するメジャー軍団」なのです。ここで成功すれば、老後の再就職先など考える必要もなくなるような報酬を得られるのです。清原の隣で解説していたストッパーの佐々木(元横浜)のように巨人経由ではない解説者になれます。だから彼らは、テレビ放映もされず少ない観客しかいない球場でも、がんばるのです。イチローと松坂を目標に切磋琢磨し、優れた才能をけんめいに開花させようとしているのです。

その切磋琢磨が、大柄、豪腕なメジャー選手に十分対抗できる「俊敏でシュア(確実)な、そしてクレバーな日本の野球」を育んだといえます。今回のWBCの勝利は、アメリカ野球のグローバリズムがほんのわずかに残っていた偏狂な「巨人軍幻想」を完全に打ち砕いたことを意味しているといえないでしょうか。

2009年3月18日 12:32

ケインジアンに転じた日経新聞

2009年3月18日 筆
 
経済への政府介入は人、モノ、カネの合理的な配置をゆがめ資源のむだ使いをもたらすとして、政府介入に厳しい姿勢をとり続けていた日本経済新聞が、その論調を思い切って転換してきました。市場経済尊重から経済への政府介入を容認するケインジアンへの転換です。

日経新聞は、「日本経済の選択」と題した連載囲み記事(2009年3月17日付け朝刊)をスタートさせました。その第一回記事として「30兆円の総合経済対策を」という岡部直明主幹の署名入り記事が掲載されています。主幹は、論説委員長よりも上席、社全体の議論を代表する存在ですから、日経は社を挙げて論調を転換したことになります。

この記事によると、「このままでは日本経済の需給ギャップはGDPの10%、50兆円に達し、失業率は7%に上昇するという試算もある」として、その需給ギャップを埋めるために財政出動による30兆円の総合対策が必要だと論じています。失業者急増のもとになっている「有効需要不足」を財政出動によって埋めるという大胆なケインズ政策の採用を訴えた記事といえます。

これまでの3次にわたる追加景気対策は、名目では75兆円超(GDP比15%)と巨額ですが、これは上げ底でIMFが認定した日本の財政出動(真水)はGDP比1.4%(約7兆円)に過ぎません。真水でGDP比2%を上回るアメリカ、中国に遅れをとっており、与謝野財務相はアメリカのガイトナー財務長官にGDP比で2%の経済対策を公約しました。すでに1.4%出動していますので残り0.6%、3兆円規模の追加財政出動を約束したことになります。それが、第4次の追加景気経済対策といわれるもので、麻生総理はこれが国会で成立するまでは解散しないといっています。

日経新聞の財政出動提案30兆円は、この与謝野財務相が公約した第4次追加対策3兆円の10倍もの規模です。なぜこんなに大きな提案になったか、それは需給ギャップ(需要不足)を大きく推計したためです。内閣府が2月に発表した08年10-12月期の需給ギャップはマイナス4.3%、21、5兆円でした。これに対して日経新聞は需給ギャップが内閣府試算の2倍以上の10%、50兆円に膨らむという試算を前提に、30兆円もの総合対策を提案しているのです。日経は、日本経済の現状はきわめて深刻で1930年代の大恐慌の再来を危惧しているといえます。

ハーベイロードの前提――賢人が決める合理的な財政配分
需給ギャップの推計はさておき、あの憎くき「市場主義者」の日経から財政大盤振る舞いの「お許し」が出たのですから、小生が繰り返し論難している「利権型民主主義者」である与野党の国会議員らは大喜びしているに違いありません。ちなみに利権型民主主義者とは、国民に公平・公正な予算配分などまったく考えず、特定の地域や特定の業者への公共事業の誘導によって、土木業者などから献金をいただき選挙民の票を買いっている国会議員のことをいいます。

利権民主主義者の皆さん、日経も財政の大盤振る舞いに賛成したと喜ぶのはまだ早いのではないでしょうか。岡部主幹が書いた先日3月16日(月)の朝刊5面に、平田育夫論説委員長は「ケインズvs.民主主義―賢明な財政出動いかに」と題して、ケインズの弟子・ハロッドが紹介した「ハーベイロードの前提」について書いています。これは利権民主主義者への痛烈な釘刺しです。

ケインズは、有効需要の不足を補い不況から脱却するための財政出動は、「知的な小集団」、つまり「少数の賢人たちによって合理的に決定される」という暗黙の前提があるといっています。その前提をケインズが住んでいた英国ケンブリッジ大学の街路ハーベーロードにちなみ「ハーベーロードの前提」とハロッドが名付けたのです。愚かな多数の国会議員たちが特殊な利害にもとづいて非合理な財政配分を行う恐れをあらかじめ指摘したものといえます。

戦前でいえば日本でおきた軍部の予算分捕りです。日本初のケインジアンといわれた高橋是清蔵相は昭和恐慌からの脱出のために大規模な財政出動を行いました。これに乗じて軍部が軍事費を拡大しました。高橋蔵相は、景気が回復した後、軍事費の削減を提案したのですが陸軍は聞き入れず、ついには5.15事件で高橋是清は暗殺されてしまいます。軍事費の削減に応じなかった「愚かな陸軍」がその後、戦争に走る結果を招きました。

ケインズ政策は、不況で需要不足が生じた時にそれを補う財政出動を促しましたが、景気が回復したときには財政支出を削減し、財政出動で膨らんだ財政赤字を解消させる政策に転じることを想定していました。高橋蔵相はケインズの『一般理論』は読んでいませんが、後のケインジアンが主張したように、景気回復時には財政、とりわけ軍事予算を削減しようとしたのです。

既得権益を手放さない「似非ケインジアン」
ケインズ政策の最大の問題は、景気が回復した後、財政を縮小し財政収支を均衡化することができないことにあります。その財政均衡化の障害は、戦前でいえば、いったん膨張させた軍事予算の既得権益を放さなかった軍人たちでした。戦後は「利権民主主義者」である国会議員たちです。彼らは、不況克服の財政出動に乗じて、我が田に水を引くがごとく、予算分捕り合戦を繰り広げた挙げ句、膨らんだ予算を既得権益化し景気が回復してもその削減を拒んできたのです。

日本にも、戦前の高橋是清、戦後の石橋湛山、池田勇人などほんのわずかですが「賢人ケインジアン」がいました。しかし、今やこの国には、「ハーベーロードの前提」が言う「少数の賢人たち」などいません。誰も通らない高速道路、利用度が極端に低い架橋、赤字垂れ流しの整備新幹線、それに公民館だ、市民ホールだ、リゾート施設だと、ハコモノばかり作って地元の土建業者に財政資金をばら撒いた地方選出の利権民主主義者ばかりです。

さすがに利権民主主義とは遠い東京選出の与謝野蔵相は、「従来型の公共投資はやりたくない」といっています。しかし、福岡選出の麻生太郎さんは、3月17日有識者会合(学者、エコノミスト)で、「ハコモノは駄目。おっしゃる通りだが、道路があちこち分断されては効力が発揮できない」と語り、選挙目当て?の「従来型の公共投資」を否定しなかったそうです。

小生も日経と同様、この際の財政出動には賛成です。しかし、道路好きの麻生総理、それに岩手選出の小沢一郎、和歌山選出の二階俊博、石川選出の森喜朗さんなど西松建設から「偽装献金」を受け取った「利権民主主義者」の代表ともいえる派閥の領袖たちが、どんな追加経済対策を作成し是認するか、注視したいと思います。



2009年3月11日 12:14

「政府高官」オフレコ発言の裏側

2009年3月11日 筆

 小沢一郎民主党代表の第一秘書が、ゼネコン・西松建設の企業献金を個人献金にすりかえた「偽装献金」事件で逮捕され大騒ぎしている最中でした。自民党にも二階敏博(現・経済産業大臣)、森喜朗(元総理)など同じような政治献金を受けた議員がいたのですが、「自民党の方には波及する可能性はないと思う」(朝日新聞、共同通信)と発言した「政府高官」がいたといいます。

 この「政府高官」が漆間(うるま)巌官房副長官だったことが、河村官房長官の発言で明らかになりました。漆間副長官は官僚組織を代表する官房副長官で「事務方の総理」のような存在です。この職には、厚労省や旧自治省、警察庁など戦前で言えば「内務省」出身の高級官僚がつくのが慣例のようです。

出所匿名記事のオンパレード
この官僚組織の要石ともいえる実力副長官の名前が新聞やテレビに登場するのは稀でした。彼は、官邸記者クラブに属している新聞、テレビ、通信社の政治部記者たちが日常的に接し、取材している人物です。彼が、新聞やテレビに登場するときの名前は「漆間副長官」ではなく、いつも「名なしの権兵衛」か、あるいは「政府高官」なのです。

 高級官僚は匿名が大好きです。改めて新聞をひっくり返すと、「政府高官」に「政府筋」、「検察当局」に「特捜部」と発言者不明、出所匿名記事のオンパレードです。小生の1月のコラム『「さもしい」のは高級官僚です、麻生さん』でも、新聞は「高級官僚」が行政改革に抵抗しているといつも書いているが、その抵抗している「高級官僚」を実名で紹介してくださいと書きました。

しかし、新聞、テレビは実名を明かしません。今回も新聞は「政府高官」の実名を書かなかったのですが、漆間副長官の上司に当たる河村官房長官が示唆したことからようやく実名を書いたに過ぎません。なぜ新聞、テレビの記者たちは、「政府高官」や「検察当局」の実名を書かないのでしょうか。

「記者クラブ」という排他的な特権ギルド組織に生息する記者たちと最大のニュースソースである「高級官僚」の間で暗黙の契約が交わされているからです。そのひとつが「オフレコ発言」です。まず、記者クラブの記者たちと「高級官僚」の間で、暗黙裡に「オフ・ザ・レコード(記録を取らない、メモしない)」と発言名を出さないというや契約が交わされます。そのうえで、「高級官僚」は、ブリーフィングとかレクチャーとか称して政策や事件の背景説明をしたり、ときにはその事柄に対する真実や本音をそれとなく漏らしたりするのです。これを「オフレコ発言」といいます。

暗黙の約束があるから安心して「高級官僚」は何でもしゃべります。記者の方は、約束さえ守れば、周辺を駆け回っても容易に得られない重要情報が記者クラブにいるだけで解説付きで入手できるのですから、「高級官僚」を重宝します。情報を独占したい「記者クラブ」という排他ギルド組織と責任だけは取りたくない「高級官僚組織」は、同床異夢の利益共同体といえます。

なかでも、約束を守り実名を書かない記者は、「高級官僚」の覚えもめでたく、友人・仲間の厚遇を受ける場合もあります。その記者は「高級官僚」が偉くなればなるほど、情報量が増えることになります。オフレコを守り書かない政治部記者が、派閥親分の自宅の奥座敷まで通されたといって悦に入っているのと同じ構図です。派閥親分の覚えめでたい、この書かない政治部記者が大新聞の会長をいまだにつづけているのですから呆れます。

オフレコ発言を詳細に報じたり実名を書いたりして暗黙の契約を破った記者は、記者クラブ仲間から爪弾きに合いかねません。ブリーフィングに出席することを拒否され、二度と情報を流してもらえなくなる恐れがあります。取材を拒否され情報を断たれるのは、記者生命を断たれるのと同じです。ただ、記者たちにも書かない書けない不満は溜まっているのでしょうか、雑誌や週刊誌のアルバイト原稿で実名を吐き出すようです。もちろん書いた記者名は匿名です。

高級官僚の情報操作に加担していまいか
この国では、「高級官僚」や「政治高官」の「オフレコ発言」を押しいただいて喜んでいる政治部記者によって書かれた発信源不明の政治記事が飛び交っているのです。その匿名の、一般には発信源不明の情報が、いかなる意図で流されているのか、そのことを、この国の政治部記者および政治評論家諸氏(総理や領袖に料亭に招かれ、ご意見番を気取りながら、くだらない政局情報をいただいている先輩政治部記者)は真剣に考えたことがあるのでしょうか。

官僚とは、国家権力そのものです。官僚の力の源泉は、国家権力を使って収集した膨大な情報にあるといって過言ではありません。官僚たちは、財政や金融、財政投融資などの予算情報など政策、政治にかかわる全ての情報を握っています。それに国民一人ひとりの税務情報、被疑者の捜査情報や検察情報などもその気になれば官僚間で融通しあうことができるのです。官僚政治とは、その膨大な情報を操作して「不勉強で愚かな政治家たち」をそそのかしたり、持ち上げたり、ときには脅かしたりして動かす政治のことです。

膨大な情報を操作して動かされるのは「不勉強で愚かな政治家」だけではないことは、みなさんはもうお分かりのはずです。そう、高級官僚に「背景を説明します、本当はこうです」と情報を小出しに囁かれて、それに飛び付いている政治部記者も「愚か」です。そんなことは先刻承知の上だ、とプロ風にのたまう記者、評論家もいるようですが、それこそ噴飯ものです。

政治家や記者たちの「愚かさ不勉強さ」を誰よりよく知っているのが「高級官僚」たちです。ずる賢しこい彼らは、誰がしゃべったか分からない、自らを安全地帯においてから、いかようにでも情報を出し入れして、官僚権力の保持のために世論を操作するのですから。「高級官僚」は、油断ならない存在ですね。



2009年3月 4日 14:20

なぜ内需主導の成長ができないのか

 2009年3月4日 筆     
                    
景気急悪化をもたらした輸出依存経済に対する批判の裏返しとして内需拡大が叫ばれています。しかし、これまで何度も内需主導の経済成長が叫ばれてきましたが、成功した例(ためし)はなく、日本列島改造にせよ、前川レポートにせよ、内需拡大が叫ばれた帰結は不動産バブルの発生でした。

今回も不動産ファンドに依存した都市再開発のミニ・バブルが発生しました。内需が盛り上がり始めたと喜んだのも束の間、サブプライム恐慌に見舞われ、一気にバブルは崩壊、新興不動産の倒産が続出しています。またまた、不動産バブル依存の内需拡大に失敗したということになります。

皮肉な言い方ですが、日本は不動産バブルによるほかに内需主導の成長などできないのではないか。日本はやはり、戦後ずっとそうであったように、輸出増加から設備投資の増加に転じ、それが家計所得の増加(消費増加)をもたらす、輸出主導の経済成長に頼るしかないのではないか。そう考え込んでしまいます。

個人消費主導の成長は容易ではない
もちろん、賃上げによって労働分配率を引き上げれば家計所得が増え、個人消費は拡大するという議論もあります。しかし労働分配率は、利益が減少して人件費比率が高まる不況時には、放っておいても上昇します。したがって、分配率を高めても、肝心の利益というパイが縮んでいたのでは、賃金は増えません。家計所得も増えません。

政府が、所得階層間の所得配分を変えることで消費を刺激するという議論もあります。たとえば、政府が累進税の最高税率を引き上げるなどして、消費性向の低い高所得者から消費性向の高い低所得者へ所得を再分配して、消費需要をかさ上げする方法です。小生は、累進税率の変更には賛成です。ただそれがどの程度の再分配財源になるのか、案外小さいのではないかと思うのですが。

このほか、定額給付金や所得減税によって個人消費を刺激することはできますが、一時的な効果であるだけでなく、借金の返済に回されたり、貯蓄されたりして消費刺激効果が減殺されがちです。また将来、消費増税が待っているとなると給付金や減税分が消費に回る度合いはますます小さくなります。継続的な給付、減税でなければ、刺激効果は薄く無駄なバラマキに終わります。

それでなくても多重債務者的な財政です。無駄なバラマキなどやっている暇はありません。限られた財政資金を年金や医療制度などセイフティーネット対策に集中的に投じ、もしものときの生活の不安を取り除くべきだと思います。そうすれば、貯蓄する必要はなくなり消費が活発化し、経済成長に寄与します。

しかし、道路だ、鉄道だ、農林道だ、箱モノだ、国防費だ、と従来どおりの省別積上げの利権型予算編成をしていては、予算のセイフティーネットへの重点傾斜配分など不可能です。

愚かな政治家と官僚に頼むものは何もない
と書いた、たった今、ビッグ・ニュースが飛び込んできました。次の政権を担うはずの小沢一郎民主党代表の第一秘書が「偽装企業献金」に絡み政治資金規正法違反で逮捕されました。西松建設という土建業者周辺からなぜ小沢代表が巨額の献金を受けたのか、与党だけでなく野党・民主党にも利権型民主主義の毒が回っているといわざるを得ません。いや、小沢代表は土建屋政治を築いた旧田中派の「若頭」だったのですから、利権型民主主義の毒が民主党の代表になっていたことになります。

内需主導、とりわけ個人消費主導の経済成長がのぞましいと誰しも思うことですが、この愚かな政治家や官僚たちが政策を支配する限り、国民が貯蓄を崩して安心して消費できる社会などできるはずがありません。政・官・業癒着の利権型予算編成を抜本的に変更するなど絶望的です。

公共投資を含め、政府介入の内需拡大には大きな疑問符がつきます。やはり、家計所得を持続的に増加させるには、民間企業ががんばり、モノやサービスの生産性を向上させて、パイを大きくするしかありません。それには、投資が必要です。投資によるモノやサービスの生産性の向上が家計の所得増加をもたらし、結果的に消費主導の経済成長に繋がるからです。

パイを大きくする、つまり経済が成長するには、働く人が増えるか(労働力人口の増加)、機械設備の導入が進むか(資本蓄積の増加)、あるいは技術革新によってどれぐらい多くの財・サービスが生産されるか(技術革新の進展)しかないというのが経済学の教えるところです。

少子高齢化社会の到来から労働力人口はすでに減少を始めています。中長期的には、資本蓄積の増強、技術革新の進展こそパイを大きくする主役になると考えるのが普通です。政府は、将来の生産性向上にまったく繋がらない無駄な公共投資を行うのではなく、資本蓄積や技術革新への投資を活発化させる制度設計や規制改革、税制を考え実行することが大切なのです。

投資の原資は、たっぷりあります。1500兆円もの個人金融資産です。この豊富な金融資産のほとんどが金利のつかない銀行預金、郵貯に預けられたまま投資リスクをとりたがらないのです。リスクを取る個人資産は、外貨預金と外貨建て投資信託に血道を上げ、海外に流出しています。企業の貯蓄も海外での運用に傾斜しています。

日本は、将来の生活不安が高い国になりました。規制だらけであれもこれもやってはいけない国、儲からない国、儲けたら召し上げられる国です。しかも、世界でおそらくもっとも収益機会の大きいと思われる東京駅前の一等地を再開発してはいけないと得意げにのたまう愚かな大臣を抱えている国です(文化財なら、明治村か昭和記念公園にもっていけ)。こんな国で投資リスクを取る人はいませんし、リスクを取る投資機会など生まれるはずがないのです。

自国民が自国内に投資しないような国で、内需主導の経済成長などできるのでしょうか。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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