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大西良雄ニュースの背後を読む

2009年1月

2009年1月28日 10:55

悪いのはアメリカだ、中国は悪くない

(09年1月28日筆)
 
オバマ新大統領に歓喜しているアメリカの国民を見ていて、その能天気さには恐れ入っています。ぶっちゃけた話、彼らは、つい最近まで値上がりする住宅価格を担保に消費者ローンや自動車ローンなどを借りまくり、借金漬けを承知で、せっせと輸入品を買い漁り、花見酒の経済を享受していた国民です。

その「借金漬け消費」を可能にしていた担保住宅の価格が急落し、もう貸せない、さあ返せと融資の返済を迫られて、彼らは急遽、節約生活に入らざるを得なくなってしまいました。そのあおりで、欧州は紙くずになった住宅ローン担保証券を抱え込み、中国や日本は輸出に急ブレーキがかかり、同時不況に引きずりこまれたのです。

花見酒のご主人たちは、シュンとしているかと思ったらとんでもない。「チェンジ」とか言って大騒ぎしているのです。能天気なのは、国民だけではありません。ポールソン前財務長官(金融バブルの片棒を担いだ投資銀行ゴールドマン・サックスの会長だった)も、ガイトナー新財務長官(住宅バブルを引き起こしたグリーンスパン前FRB議長の部下だった)も、つまりアメリカの当局者も、花見酒経済に対する責任感のかけらも伺えない発言をしています。

ポールソンは、退任間際に「金融危機の責任の一端は中国にある。中国や産油国など新興国の過剰貯蓄が金利低下をもたらし、リスクを世界中に広げた」(日経09年1月20日付)と言い放ったといいます。ガイトナーも、これに追い討ちを掛けるように、「オバマ大統領は中国が自国通貨を操作していると信じている」(日経09年1月25日付)と発言したというではありませんか。

両人の発言の意味を説明します。ポールソンは、「中国は国内消費が不活発のために過剰貯蓄が発生した。その過剰貯蓄を国内投資に回さずアメリカへの投資に振り向けた。その結果、アメリカの金融が大いに緩み、金利が低下し、金融バブルを引き起こす原因になった」といっているのです。

ガイトナーは、「中国は巨額の対米貿易黒字を出しながら、ドル買い介入によって人民元を割安に誘導し輸出を増やし続けた。そしてドル買い介入によって人民銀行に溜まったドルをアメリカに還流させた。その結果、アメリカの金融市場にドルがあふれ低金利状態になり、金融バブルが発生した」といっているに等しいのです。

いずれも、アメリカで発生した金融バブルの犯人は中国だといいたいのです。彼らは、悪いのは内需を喚起しなかった中国、割安な人民元によって競争力を高め、大量に中国製品を輸出し外貨を稼いだ中国であり、アメリカが悪いのではない、といいたげなのです。

この議論を聞いて思い出すのは、1980年代、レーガン大統領当時の日米貿易摩擦問題です。当時、アメリカは財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」を垂れ流していました。しかし、レーガン政権は、「アメリカの貿易赤字の原因は(当時最大の対米黒字国だった)日本にある。悪いのは日本だ」といって、日本に対して大幅な円切り上げを求める一方、内需の拡大による輸入拡大を迫ったのです。

このアメリカの圧力は、中曽根内閣によって許容されました。円切り上げ要求は85年の「プラザ合意」、内需拡大要求は87年の「前川レポート」という形で、です。その結果、日本経済は激しい円高不況に陥り、そこから脱出するための低金利政策と住宅や都市再開発による内需拡大策がバブル経済の発生につながったのは記憶に新しいところです。

当時、「悪いのは日本だ」とするアメリカに敢然と立ち向かい「日本は悪くない。悪いのはアメリカだ」(著書は同書名で「文春文庫」に収まっています)と主張したエコノミストがいました。戦後の高度成長政策の理論的主柱だった下村治博士です。

下村博士は、貯蓄・投資の理論を援用して、「アメリカの貿易赤字はアメリカの消費過剰(貯蓄不足)が原因、悪いのはアメリカだ」と言い切ったのです。レーガン政権当時のアメリカは、大型減税とスターウォーズ計画による軍事支出の拡大で政府は大幅な財政赤字を垂れ流して消費をあおりました。国民はマイナスの貯蓄率、つまり借金による過剰消費を繰り返しました。政府も国民も消費過剰ですから、輸入が増加し貿易赤字に陥ったと下村博士は反論したのです。

ブッシュ・ジュニアのアメリカとそっくりではありませんか。政府は減税とイラク戦争の戦費で財政赤字を垂れ流し、国民は借金で可処分所得以上の消費を繰り返し、挙げ句は大幅な貿易赤字です。国も企業も家計も借金漬け、金融バブルと花見酒経済の不始末の責任を「悪いのは中国だ」といって中国に押し付けているのです。

中国の名誉のためにいっておきますが、中国はこれまで財政は均衡していました。輸出が急拡大しましたが、輸入も急増しました。GDPにカウントされる輸入を引いた純輸出の黒字幅はさほどではなく、外需の経済成長への寄与度は日本より小さいのです。中国の経済成長は、設備や住宅、公共投資など固定資本形成といわれる「内需の拡大」が牽引してきたといえます。

下村博士の書名タイトルを使わせていただければ、「悪いのはアメリカだ、中国は悪くない」のです。ポールソンもガイトナーも、初歩的な貯蓄・投資の理論ぐらい知っているはずなのに、「中国が悪い」と叫んでいます。理不尽なことを言って中国を怒らせると中国はお国の国債を買ってくれませんよ。

これから2~3年、アメリカは年間1兆ドル(100兆円)の財政赤字をつづけてようやく恐慌突入回避できるという異常事態にあります。この財政赤字を埋める国債をアメリカ国民が買えるはずがありません。借金の返済に必至なのですから。外貨準備が豊富な中国と日本、産油国がアメリカ国債を買って財政赤字をファイナンスするのです。

中国がアメリカ国債を買ってくれなければ、ドル暴落です。どうするのですか、ガイトナーさん、オバマさん。

2009年1月21日 11:11

「さもしい」のは高級官僚です、麻生さん

(09年1月21日筆)
一人1万2000円の定額給付金を受け取るかどうか、麻生総理が「年収1億円あっても、さもしく1万2000円が欲しい人がいる」といって高額所得者に受け取り辞退をすすめたのは、正論です。麻生さんが、「さもしい」という言葉を撤回する必要はないのに撤回してしまったのは、実に残念です。

麻生さん、「さもしい」という庶民に分かり易い、実感のこもった良い言葉をご存知なのですから、この「さもしい」という言葉を高級官僚のまくら言葉に使われたらいかがですか(若手官僚にはまだ「さもしさ」はないと信じます)。

「さもしい」高級官僚の実名を知りたい
たとえば、「さもしい」高級官僚たちは、再就職監視委員会の人事を野党が否決したのをこれ幸いと、政令を閣議決定させて、役所による退職官僚の「渡り」(天下り先を渡り歩き退職金を掠めとる行為)あっせんを実質的に認めさせたというではありませんか。

法律で決まったことを法律より下位の「政令」で覆し、自らの退職後の優雅な処遇のもとになる「渡り」を実質的に認めさせる悪知恵を、高級官僚の誰が総理に吹き込んだのか、その「さもしい」高級官僚の名前を公表してください。そんな政令、総理に思いつくはずはないのですから。

いつも歯がゆく思うのですが、官僚が抵抗するとか、官僚が政治家を騙して自分たちの都合のよい法律を作るといいますが、その「官僚」とはいったい誰なのですか。彼らは「官僚」という一般名称、匿名に隠れて好き勝手をやっているように思えます。政治家や裁判官がそんな官僚を監督できないのですから、国民が監視・監督するしかありません。ジャーナリズムは、その官僚名を明らかにしてください。

他にも立法府を無視した官僚の悪知恵はいくらもあると思います。テレビ朝日の「テレビタックル」でも報じられていましたが、昨年暮れ、地方分権改革推進委員会(丹羽宇一郎委員長)が総理に提出した第2次勧告の中身が、委員会の事務官僚によって書き換えられ事件もそうでした。勧告が総理に提出される30分前に事務官僚によって差し込まれた2行の文言によって、国の地方への出先機関の統廃合に伴う職員3万4600人の削減という数値目標が、骨抜きになったといいます。明日はわが身、官僚仲間の首切り・左遷は厭なのです。

その骨抜き文言の挿入を、どの省庁の高級官僚が指図したのか、委員会事務官僚の誰が書き、挿入したのか、猪瀬直樹委員でも丹羽委員長でも結構です。調査の上、その「さもしい」高級官僚の具体名を公表してください。

「さもしい」という言葉の類語には、浅ましい、はしたない、意地汚い、卑しいなどがあります。「さもしい高級官僚」とは「品性が卑しい高級官僚」という意味です。官僚は公僕といわれます。公僕とは自分のことはさておき、公の下僕(しもべ)として公(おおやけ=国民)に尽す人のことです。しかし「さもしい」高級官僚たちは、公はさておきまず私、自分の天下り先や退職金、仲間の官僚の食い扶持(ひいては自分の処遇に繋がる)を確保することに汲々としているのです。「さもしい」、「品性が卑しい」としか言いようがありません。

ついでに言えば、テレビのコメンテーターとして頻繁に出てくる元官僚・現政治家、元官僚・現評論家、元官僚・現大学教授は何とかなりませんか。在職中、権力と国家資金を使って、つまり国民の税金を使って得た知識・ノウハウを武器にさも公平中立の「専門家」を装ってコメントするのを聞いて、虫唾が走るのは小生だけでしょうか。在職中の役所の意見を代弁しない官僚出身の「専門家」にはついぞお目にかかれません。小生もジャーナリストの端くれですから、少しは知っています。「専門家」のうち、過去在職役所の回し者でないのは、財務省(旧・大蔵省)出身の野口悠紀雄さん、高橋洋一さんなどほんの一部だけです。

本当いうと、小生、「官僚の実名を公表せよ」など、言いたくなかったのです。公表されれば、その官僚が、人民裁判にあい社会的に葬られる危険すらあるからです。しかし、規制強化への撒き戻し、行政改革の後退に乗じて、官僚は「匿名」性を武器に好き勝手に蠢いているのです。これを防ぐには、「さもしい」高級官僚に実名公表、個人攻撃の恐ろしさを知っていただくほかありません。

規制復活で権力が増え、喜ぶ高級官僚
規制緩和(改革)は、自由な経済活動による経済成長のためだけに行われたのではありません。官僚権力のもとになっている経済規制や法律をなくし、行政の権力を殺ぎ、天下りや「渡り」のもとになっている行政組織を改革するために行われたのです。政官産複合体の解体も目指していました。

規制改革の結果、高級官僚には天下り先も少なくなり、大学教授にしか天下れなくなったのです。ですから「さもしい」高級官僚たちは捲土重来、いつ何時も、自らの権力基盤(収入と処遇の基盤でもある)を強くするために経済規制の復活、さらなるルール強化を狙っているのです。ですから国民が、「派遣を禁止しろ」、「外資の乗っ取りを防げ」、「建築基準法が甘い」「タクシーが多すぎる」、「公共工事に競争入札が厳しいから下請け業者が困る」と行政に文句をつければつけるほど、官僚たちは喜ぶのです。

国民が求めているのだから、麻生さん、「では緩和した規制を再強化しましょう。新たにこんな法律を作りましょう」と政治家に働きかけるのです。国民はそっちのけ、「官僚統制を復活すれば、これでまたわれわれの飯の種ができる」とほくそ笑むのです。

オバマ大統領の就任式の日に、こんな日本の「さもしい」テーマを取り上げて、空しさが込み上げてきますが、皆さん、皆さんの不満不平は高級官僚にすぐ利用されます。行政に文句を付けるなら、そのことに重々気をお付けください。

2009年1月14日 09:54

湯浅誠著『反貧困』を読んで――「溜め」が失われた社会

(09年1月14日筆)
 
年末、第8回大佛次郎論壇賞を受賞した湯浅誠著『反貧困』(岩波新書)を買い求め読み終えました。その直後、著者の湯浅氏が村長になった「年越し派遣村」の一部が日比谷公園から旧・京華小学校(京華スクエア)に移動したと報じられ、『反貧困』がにわかに身近なものになりました。

京華スクエアの三階には、小生も開講当初から講座を持っている早稲田大学オープンカレッジ八丁堀校があります。その京華スクエアの体育館に「年越し派遣村」が引っ越してきたのです。新年早々、1月7日の講義日には、スクエアの体育館に80人近い派遣切りにあった労働者が泊まっていました。夜8時からの講義中、派遣労働者の吐息、寝息が聞こえるようでした。

「溜め」が失われ、奪われている社会
著者は、野宿者(ホームレス)の支援活動に携わった後、貧困状態に追い込まれた人たちの生活相談を受け続けてきた活動家です。『反貧困』では、野宿者だけでなく、非正規雇用者など年収200万円に満たない「働く貧困層(ワーキング・プア)」に日本の貧困が広がっている事実に焦点を当てています。

そして、彼ら働く貧困層は、安易な解雇を拒むという雇用の安全網、解雇されたら失業保険で食いつなぐという安全網、生活保護という最後の公的安全網という3層の安全網から排除され、一度転んだらどん底(たとえば野宿者)まで滑り落ちて行く「すべり台社会」に生きている、と指摘しています。

小生が本書を読んで感心した点のひとつは、『貧困とは、「もろもろの「溜め」が総合的に失われ、奪われている状態』(同書80ページ)という捉え方です。

「溜め」には、金銭的な「溜め」、人間関係の「溜め」、精神的な「溜め」があります。貯金などの金銭的な「溜め」があれば、解雇されても次の就職先を探す時間を稼げる。親や兄弟、友人のような人間関係の「溜め」があれば、次の職を得るまでそれに依存もできる。自分に自信をもつという精神的な「溜め」があれば、不遇を耐えることができる。「すべり台社会」から足を滑らせた人たちは、それらの「溜め」が総合的に失われ、奪われて、貧困状態に陥っていると著者はいうのです。

市場経済は、価格をアンテナにして人、物、カネの配分を効率的に行うすぐれた仕組みですが、価格に任せれば人、物、カネの移動が瞬時に実現し、資源の効率的配分が達成されるとは限りません。特に人の移動には、職業の選択にかかわることでもあり、もともと時間が掛かります。まして現在のように減産、解雇、失業が猛スピードしかも広範囲に発生し、しかも新たな雇用が見出せない構造的失業の時期では、人(労働力)の移動にはより長い時間がかかります。

市場経済がうまく機能するには、人が移動するのに必要な調整の時間とその時間に係る費用、つまり「溜め」が必要なのです。

この「溜め」を提供するのが、私的レベルでいえば金銭的蓄えであり、家族、友人などの人間関係であり、公的レベルで言えば失業保険給付(加えて職業訓練への援助)や生活保護というセイフティーネット(安全網)なのです。「すべり台社会」にはまり込んだ貧困状態の人々には私的レベルの「溜め」がないのですから、これら公的レベルの「溜め」がどうしても必要になります。

人の移動に係る「調整コスト」を誰が負担するか
私は、公的レベルでの「溜め」――安全網の提供は、人々を失業や貧困から救う「社会政策」のひとつではありますが、経済政策の立場から言えば、労働力が移動するのに必要な「調整コスト」だと考えています。

企業では、景気が回復すれば労働力が再び必要になりますし、中長期的に言えば人口の減少による労働力不足が予想されます。企業には、この「調整コスト」は、将来の労働力確保(ひいては企業収益)に係わります。ですから現在発生している「調整コスト」は、まず、これまでに溜め込んだ企業の蓄え(企業の「溜め」)の中からきちんと支払われるべきだと思います。

企業が負担しきれない「調整コスト」は、政府が負担すべきです。公的「安全網」つまり失業給付や生活保護給付の提供には、その副次的な効果として失業者の増加による消費需要の急速な収縮を下支えする、経済に組み込まれたビルトイン・スタビライザー(景気安定化装置)の役割もあります。市場経済には景気変動はつきものです。その変動を緩やかにするのが経済政策の役割だとすれば、政府もまた「調整コスト」を負担すべきです。

しかし、政府が負担するということは、国民が支払った税金が財源になる、つまり国民が「調整コスト」を負担するということです。財源を税金に求める以上、「調整コスト」の支払われ方は公平でしかも効率的でなければなりません。  

まず、正規であれ非正規であれ、地方であれ東京であれ、流通業であれ製造業・農業であれ、安全網は、失業状態、貧困状態に陥った全ての国民に一律公平に提供されるべきです。少ない財源ですから、特定の産業、業界、職種に付与されている所得保障的予算を解消して、「調整コスト」財源の一部とすべきです。そのうえで失業保険の支払い増や職業訓練費の増加は許容されるべきです。2兆円にのぼる生活保護への財政支出がさらに増えるのは覚悟すべきです。

小生は、市場経済がもたらす効率性、成長機能を高く評価するものです。その一方、市場の一時的失敗である「不況」に便乗して政官産複合体の復活をもくろむ利権型政治勢力の台頭を大いに警戒してもいます。そのうえで、市場経済が充分にその能力を発揮するためにも、市場経済の「溜め」が不可欠だと考えています。その「溜め」は、失業給付や生活保護給付だけでなく医療や介護保険、保育・教育を含む広い意味の「安全網」の構築に及ぶと考えています。

残念ながら、わが国の財政は、国債の元利支払い額が、広い意味の「安全網」―社会保障への支出額に接近するという最悪の状態にあります。国債の元利支払いは、過去の政官産複合体への大盤振る舞いの付けでもあります。かりに「安全網」の構築が最優先すべき国家の課題だとする国民合意が成立するのなら、この機能不全に陥った歳出構造の総組み替えが不可欠です。そして、それに抵抗する政官産複合体の解体がなにより必要です。消費増税はその後のことです。

2009年1月 7日 10:26

日本が投資に値する国になる日

(09年1月6日筆)

明けましておめでとうございます。新年は丑年です。株式市場で言えば、熊(ベア)は弱気、牡牛(ブル)は強気相場を意味します。

昨年の大初会(だいほっかい=新年最初の取引)は616円安という暴落でした。その後の株価趨勢下落を暗示する厭な始まりでした。しかし、今年1月5日の大初会は183円高でした。翌6日も小幅ですが値上がりして引けました。今年は、日本株投資が復活し、ブル相場が期待できるのでしょうか。

ただ、12年前(1997年)、24年前 (1985年)、36年前(1973年)と過去に丑年をさかのぼると、アジア通貨危機、プラザ合意から円高不況への入り口、オイルショック危機とあまり株価によい年ではなかったようです。

今もむかしも、海外の景気が良くなければ、日本企業の利益は回復せず、株価も回復しません。日本株の回復は、海外、特にNY株の回復次第ですし、外国人投資家の日本株見直し次第です。日本人が独力で日本株のブル相場を創るなど「夢また夢」なのでしょうか。牡牛(ブル)に引っ掛けて強気になろうとしても、無駄ですかね。

日本人も外国人も投資しない国
投資するカネがないからではありません。日本人は過去に大きな貯蓄を残しました。GDPの3倍、1500兆円もの個人金融資産があります。企業もバブル崩壊不況を克服する過程で大きな蓄積を残しました。利益準備金を溜め込み自己資本比率は大きく上昇し、キャッシュリッチな会社も多くなりました。

しかし、その膨大な日本人の蓄積は、ローリスク・ローリターンの銀行預金や郵便貯金、ノーリスクの国債に張り付いたまま動きません。日本の個人金融資産は、リスクをとるのに臆病なのです。株式の予想配当利回りは、日経225種平均で2.39%(1月6日現在)にもなります。0%台にとどまる定期預金の金利、個人国債の利回りに比べきわめて有利です。それでも値下がりが怖くて日本人は日本株を買わないのです。

リスクをとってもいいという日本人がいないわけではありません。株の暴落時には個人投資家が必ず出動します。しかし、日本人のリスクテイク資金の多くは、これまで外国為替証拠金取引、海外株や国際投資信託など海外に流れました。海外へ投資したほうが儲かるチャンスが大きかったからです。中国やブラジル、ベトナムの株を買ったのです。日本人が日本株を買わないので、東証の売買代金はその6割から7割を外国人投資家によって占められるのがツネです。昨今のように外国人が換金売りに走れば、日本株はひとたまりありません。

日本企業も日本に投資しません。儲けが大きいアメリカや中国など海外に工場を造っています。日本の金融機関も米国債や証券化商品などの外国の債券や証券への投資を強めています。その結果、今や日本は、海外に持っている工場設備、株式、債券などの資産から負債(海外からの借入れなど)を差し引いた純資産が世界で最も大きい債権国です。

日本は今や、輸出と輸入の差である貿易収支の黒字より海外純資産から生まれた配当や金利の収入、つまり所得収支の黒字の方が大きい国になりました。まるで、七つの海を支配して荒稼ぎし財産家になった大英帝国のようなのです。

日本人は個人も企業も、有り余る豊かな貯蓄を日本に投資せず、海外に投資しているのです。日本人が日本に投資しなければ、国内に新しい産業は起こりませんし、古い産業は再生しません。これでは日本人の雇用は増えません。

日本人が日本国内に投資しないのなら、外国人に投資してもらったらいいのですが、日本に入る外国人の投資は短期の値ザヤ取りが中心で、腰の座った事業経営のための直接投資は少ないといえます。日本に投資しても、税金を筆頭にコストが高くて儲からないからです。外国人が日本に直接投資する金額は日本企業が海外に直接投資する金額の10分の1に過ぎません。外国人に投資してもらい日本人を雇用してもらうべきなのですが、それもできないのです。

儲けてはいけない国には投資は起こらない
日本人も外国人も日本に投資しないのはなぜでしょうか。投資するに値するつまり利益が上がる産業がなくなったからでしょうか。そうではありません。日本には資金を投下すれば、生産性が上がり、それが利益を生んで所得や雇用の拡大をもたらす産業分野がまだたくさんあります。

例を挙げれば、農業や畜産などの食糧産業や医療・介護、教育・保育など社会サービス分野、運輸・航空、情報・通信、電子ソフト、eビジネス、金融・証券など民間サービス分野への投資が不足し、これらの産業は低生産性状態に甘んじています。製造業分野では、原子力発電、それに太陽光、風力、バイオなどグリーン・エネルギー産業、太陽電池、リチウムイオン電池、燃料電池などの電池産業、生命科学、薬品などバイオ産業など挙げればきりがありません。

投資すべき産業も投資対象もたくさんあるのに、日本人も外国人も投資しないのは、端的に言えば日本の中に「企業は儲け過ぎてはいけない、儲けは吐き出せ」「投資家は金持ち、儲けさせてはいけない」というマルクス主義の残渣ともいうべき考えが根強いからでしょう。日本人であれ外国人であれ、金利・配当は低くていい、税金は企業からふんだくれ、といいつのる日本の社会、その差配下にある産業・企業に誰が投資するものですか。

この未曾有の大不況です。非正規だけでなく失業者が街にあふれることになるでしょう。いまは、失業者を救い、再出発できるためのセーフティー・ネット(安全網)の構築が第一ですが、社会の新しいニーズ(必要)に沿った新しい産業、新しい職場への投資が起きなければ、将来の雇用先を生み出すことにはなりません。

必要なのは、日本に新しい投資が起こるように、予算を組み替え、税制・規制・制度を見直すことです。定額給付金のような将来の新しい雇用先を生まない財政出動ではないのです。将来需要が失せた道路の建設ではないのです。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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