QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2008年11月 5日 14:30

オバマはルーズベルトになれるか

(08年11月5日筆)
 アメリカの消費の先行きを占う2つのメルクマールは、新車販売とクリスマス商戦の動きです。10月のアメリカの新車販売台数は前年同月比31.9%減となり、第二次大戦以降では最大、衝撃的な落ち込みでした。アメリカでは、年間消費の3割がクリスマス商戦で実現していますが、この新車販売の落ち込みから判断すると、クリスマス商戦も大きな落ち込みが予想されます。
 金融危機から生じた自動車ローンの急収縮が、新車販売の大幅な落ち込みにつながっています。クリスマス商戦では、カードや消費者ローンの収縮が、消費者の購買力を減退させ、売上げの収縮をもたらすに違いありません。
 気になるのは、GMの10月の新車販売が45.4%減、クライスラーが34.9%減と群を抜いて落ち込んでいることです。両社は、合併交渉に生き残りを賭けている状態ですが、合併に当たって100億ドル(約1兆円)の資金援助を財務省に求めていたのですが、これを拒否されたと報じられています。すでにアメリカの自動車業界は250億ドルの低利融資を財務省から受けており、それでも資金繰りが苦しいとなるとGM、クライスラーの前途は危ういといえます。アメリカ産業を象徴するGMが破綻するようなことになれば、戦前と同じように、アメリカは金融恐慌から産業恐慌に転じることになります。

 悲観心理を吹き飛ばしたルーズベルト
 1933年3月、再選を目指す共和党のフーバーを破って民主党のルーズベルトが大統領に就任しました。1929年、ニューヨーク株式が暴落した後、アメリカ経済は激しく落ち込み(下表参照)、1932年から33年に掛けてどん底の状態でした。なかでも国内総投資が160億ドルから10億ドルに激減、アメリカ経済は先行きに対して極度の「悲観心理」に見舞われたといえます。

t1.JPG
 この極度の「悲観心理」を吹き飛ばしたのは、ルーズベルトでした。就任式の5日後、ルーズベルトは緊急銀行救済法を議会に提出、わずか38分の審議でこれを通過させました。この法案は、銀行の営業を全て停止させ、その間、銀行に救済資金を供給する一方、銀行をグッドとバッドに区分けしグッド銀行だけに営業を再開させるものでした。その週の日曜日、ルーズベルトは「銀行はもう心配ありません」とラジオを通じて直接国民に呼び掛けました。有名な「ルーズベルトの炉辺談話」ですが、これが国民の不安を取り除いたのです。
 その一ヵ月後、ルーズベルトは金輸出の禁止、つまり金本位制から離脱を宣言します。前任のフーバー大統領は、金本位制の堅持に執心したためアメリカから金が大量に流失、これを防ぐために金利の引き上げを行いました。その結果、デフレ状態下、金融引き締めが加わり、一気に恐慌に突入することになりました。ルーズベルトは、この「金(本位制)のくびき」を解き放ち、政策の自由を取り戻しました。そして為替を切り下げて(ドル安)、下落した物価を引き揚げ、経済を活性化させるリフレーション政策へと大きく政策を転換します。
 さらにこのあとルーズベルトは、36個もの多目的ダムを造る「テネシー川流域開発」のようなケインズ型の有効需要創出策をはじめ、農業生産の調整、労働時間の短縮や最低賃金の設定、労働者の団結権、団体交渉権などの社会政策を相次いで打ち出します。これらも重要な政策でしたが、金輸出の禁止による金融引き締めから緩和への政策レジーム転換が、アメリカの大恐慌からの脱却にとって最も重要であったというのが、後の経済学者の定説です。

 オバマは「就任100日」でどんな手を打つか
 歴史は、繰り返します。ブッシュ・ジュニアは、イラクとアフガンの戦争に失敗し、野放図な金融監督の下、サブプライム恐慌を引き起こしました。ブッシュ・ジュニアは、「あなたは第二のフーバーになるのか」といわれ、銀行救済を含む金融安定化法案にしぶしぶ賛成しました。ブッシュ・ジュニアが、ホワイトハウスの前庭で金融対策を小出しする声明を読み上げるたびに株価が暴落したのは、フーバーに負けずとも劣らない経済に疎い無能な大統領であることを国民が知っていたからです。
 共和党のフーバーのあと、民主党のルーズベルトが大統領になったように、共和党のブッシュ・ジュニアのあと、民主党のオバマが大統領に就任します
 ルーズベルトが「就任100日」という短期間に、金融政策のレジーム転換を皮切りに主要な大恐慌克服対策を成立させ、不人気のフーバーに代わって、政府への信頼を取り戻し、国民の「悲観心理」を一気に吹き飛ばしてみせたことは特筆されます。オバマ新大統領が「就任100日」にどんな手を打ち、第二のルーズベルトになるのか、マーケットは固唾を呑んで見守っています。
 当選後、就任式までおよそ2ヶ月の政権の空白期間があるのが気になりますが、大統領に就任した直後に出されるオバマ新大統領の「大統領教書」や「予算教書」が、ルーズベルトの「炉辺談話」に始まる適切で大胆な恐慌克服策に匹敵するものになることを期待してやみません。

この記事へのトラックバック

【記事】オバマはルーズベルトになれるか
この記事にご興味のある方は、こちらのトピックもご覧下さい 続きを読む
QuonNetコミュニティ | 2008年11月11日 19:47

この記事へのコメント

1. Posted by cona 2008年11月 6日 11:28

大西先生、はじめまして。

今回の大統領選挙は私も大変関心を持って見守っていました。

大学で米国社会史を専攻した私としては、今後の経済をオバマ氏がどう舵取りをするかということよりも、「初のアフリカ系大統領の誕生」という点で注目していました。

しかし、大西先生の記事を拝読し、金融政策の歴史から見ると「フーバーの後にルーズベルト、ブッシュJr.の後にオバマ」という組み合わせがとても興味深いことに気づきました。各メディアがオバマ氏の経済政策に重点を置いて取り上げていることにも納得です。

オバマ氏が各分野でどのような施策を行っていくのか、今後も見守っていきたいと思います。

プロフィール
大西良雄(経済ジャーナリスト)
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2013年05月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
最新記事
「免疫力を高める散歩」考
中国はAIなど先端技術産業で日本をすでに凌駕
「参院の合区解消」のための改憲など必要ない
求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か
圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない
最新コメント
ありがとうございます...
Posted by Anonymous
経済政策・少子化政策...
Posted by Anonymous
大西先生にお願い:弱...
Posted by Anonymous
北は朝鮮半島統一を目...
Posted by kodera etuko
日本のシェクスピァ今...
Posted by Anonymous
最新トラックバック
【記事】「免疫力を高める散歩」考
from QuonNetコミュニティ
【記事】中国はAIなど先端技術産業で日本をすでに凌駕
from QuonNetコミュニティ
【記事】「参院の合区解消」のための改憲など必要ない
from QuonNetコミュニティ
【記事】求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か
from QuonNetコミュニティ
【記事】圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない
from QuonNetコミュニティ