
2008年11月26日 12:13
(08年11月25日筆)
最近は、アメリカの財務長官やFRB議長には日曜日がないようです。11月23日日曜日の深夜、シティグループの救済・追加支援策が発表されました。月曜日朝開くNYの株式市場を意識した異例の政策決定です。つまるところシティの株価が暴落しそれが他に連鎖するのを回避するための決定といえます。
追加支援の中身から、シティグループが抱えこんだ不良資産の規模が明らかになりました。正直言って、その大きさには驚かされました。シティグループが抱える住宅ローン、商業用不動産融資、証券化商品など不良資産の総額は3060億ドル(約30兆円)にのぼります。シティの資産総額が2兆ドル(200兆円)といいますから、不良債権比率は15%超になります。ほかに関連会社が持っている簿外の資産が1兆ドルあり、このなかにも不良資産がかなりの比率で隠れているといいます。政府の支援なしには破綻必至の大きさです。
シティグループ一行だけでこれほどの規模ですから、日本のエコノミストから最近相次いで発表されている「アメリカが抱え込んだ今後返済(解消)を必要とする過剰債務」の試算(後述)がまんざら間違っていないのではないかと思えてきます。
過剰債務の「過剰」はバブル部分と理解してください。借り手の企業や消費者からみた過剰債務(借入れ)は、貸し手の金融機関からいえば過剰債権(貸出などバブル資産)です。バブル崩壊によってこのバブル貸出の多くが不良資産になったというのが、日本の平成金融デフレの経験でした。
バブル景気のピーク時、1989年には、日本経済が抱えた過剰債務(バブル資産)は80兆円~100兆円あったと推計されています。その後15年間でこの過剰債務を解消するために日本の金融機関が損切りした不良資産総額は100兆円に上りました。推計された過剰債務のほとんど全てが不良化し損切りされたことになります。金融機関は破綻寸前になり、公的資金で救済されたのです。
過剰債務の試算で活躍する日本の民間エコノミスト
最近、今回の世界金融恐慌の震源であるアメリカの過剰債務の推計が相次いでいます。この推計で先駆したのは、アメリカではなく日本の民間エコノミスト勢です。先陣を切った三菱UFJ証券のチーフエコノミストの水野和夫氏は、住宅価格の下落率が3割だとすれば処理すべき過剰債務は4兆ドル(400兆円)、4割下落すれば6兆ドル(600兆円)に達すると試算しています。次いで11月、日本経済研究センターの主任研究員・小林辰男氏が、最大5兆~6兆ドルに達すると発表しました。
その後すぐ、みずほ証券も試算を発表しました。これによると、世界の金融機関損失(筆者注:損切りされるべきバブル資産)は5.8兆ドル(580兆円)に達し、このうちアメリカの金融機関損失は4.4兆ドル、欧州が1.4兆ドルと試算されています(「朝日新聞」11月24日付。1ドル=100円換算で統一)。
この試算では、欧米の不動産ローン、企業・個人ローン、これらのローンを証券化した金融商品を含めた資産総額は約32兆ドル(3200兆円)と推計されていますから、金融機関損失の比率は実に18%に達するとみています。正常時の不良資産(今後損切りする可能性のある貸出などの資産)比率が2~3%であることを考えるとその大きさが良くわかります。
欧米金融機関の「損切りされるべきバブル資産」が資産総額の18%に達すると聞いて、ふっと思い出しました。1990年代の平成金融デフレ期では、確か日本の金融機関の不良資産比率は15%を越していたはずです。「はずです」というのは、日本では貸出など資産の不良度合いを測る金融機関自身の資産査定がきわめて甘く、不良資産の把握が困難をきわめ、不良資産比率を確定できなかったからです。
皮肉なことに、日本の金融機関が抱える不良資産の規模をかなり大胆にしかも正しく推計したのはアメリカの投資銀行でした。彼らは、自らの推計を信じて、日本の金融機関、たとえば日本債券信用銀行や日本興業銀行などの株を空売りして売り崩し、大きく儲けました。今回は、日本の民間エコノミストが、欧米の金融機関の不良資産の規模を大胆に推計しているのです。日本勢が、シティの株式を売り崩しているということはついぞ聞きませんが。
オバマの「経済チーム」は資産デフレを止めるか
それはさておき、アメリカで、借り手から言えば「今後返済ないし解消する必要がある過剰債務」、貸し手からいえば「損切りされるべきバブル資産」が、試算どおり5兆ドル(500兆円、日本のGDPに相当)にものぼるとすれば、アメリカ経済はいったいどうなるのでしょうか。
過剰債務は、消費や投資を切り詰めて貯めた貯蓄で返済されるはずです。そうなるとアメリカ経済を牽引してきた個人消費と設備投資が減少します。過剰債務がなくなるまで返済がつづくとすれば、消費と投資が底入れするのに何年掛かるのでしょうか。不良債権化した過剰貸出が金融機関損失になるとすれば、その規模は本当のところどれぐらいになるのか、金融安定化法の7000億ドル(70兆円)だけで金融機関を支えることができるのでしょうか。
さいわい、オバマ次期大統領が国家経済会議議長に指名したローレン・サマーズ、新財務長官・ティモシー・ガイトナーは、ともに日本に友人・知人の多い優れた学者であり行政官です。彼らは、財政金融政策をめぐる日本政府の失敗の経験を熟知しています。日本の政治家、行政当局は、平成金融デフレ問題の根源を見誤り、不良債権処理を先送りする失敗を冒しました。その結果デフレの克服に長い時間を掛けてしまうだけでなく、国民に膨大な長期債務を残してしまったのです。
サマーズもガイトナーも、加えてバーナンキFRB議長も、日本の失敗を熟知して肝に銘じ、来年1月20日のオバマ大統領就任式を待たず、思い切った金融、財政政策を打ち出すでしょう。それでも過剰債務(バブル資産)5兆ドルの解消に伴う不況の克服には時間が掛かります。しかし、思い切った政策が投資家や消費者の冷え切ったマインドを変え、株価や住宅価格の下落から生じる資産デフレをとりあえず止める力になることを願っています。
2008年11月19日 10:00
(08年11月19日筆)
少し悩んでいることがあります。政府から一人当たり1万2000円の定額給付金をいただくかどうか、についてです。家内と合わせて2万4000円になります。一人ぐらい辞退したって焼け石に水、日本国の借金が減るわけでもないのですが、どうもいただくのは気が引けるのです。
辞退を求められるほど所得はないが...
私はひそかに辞退しようと思っているのですが、家内はどうか。「君は給付金をもらうつもりか」と聞いてみました。家内からは即座に「麻生さんが貰ってくれといっているのでしょ。断るのもなんだから、もちろんいただきます」というお答えです。逆に、「まさかご辞退申し上げるなどと、もったいないことを言うのではないでしょうね」と問い返される始末です。聞くのは野暮でした。
小生、恥ずかしいのですが、いまの所得は自発的な辞退を求められる1800万円のずっと下です。家内にすれば、「常務さん(小生、最終職歴は常務取締役でした)であった頃ならまだしも、いまのあなたは所得不定の高齢フリーターでしょう。見栄を張って給付を辞退するなどとんでもない」と言いたかったに違いありません。
小生63歳、家内は60歳、前期高齢者の一歩手前ですので、残念ですが8000円の割り増しは付きません。ですが、二人で2万4000円もあれば、少食の老夫婦ですから切り詰めれば1ヶ月ぐらいの食費にはなります(と家内は言っています)。家内に言われるまでもなく、いただけるものならいただく方がいいに決まっています。それでも、給付金をいただくのは、やっぱりしっくりこないのです。
しっくりこない理由は、小生、年金をこの4月から満額いただけるようになったことにあります。国からいただく厚生年金と勤めていた会社からいただく企業年金(一時金でいただきましたが)を加えると、インフレさえ起こらなければ、贅沢はできませんが、ひもじい思いをしなくても済む年金額になります。あと5年もすれば家内も基礎年金を満額もらえます。定額給付金がなくても餓死はしません。
実は、私たち、リタイヤー期にはいった団塊前後の世代は、自分たちの息子や娘、孫にあたる若い世代に比べるとずいぶん恵まれています。重い税金と社会保険料に悩まされる若い世代の過酷な将来のことを考えると、われわれ老齢世代は定額給付金などいただけない、と私は思うのです。
世代間「受益」「負担」の大きな生涯格差
08年11月4日付けの「朝日新聞」に『受益・負担世代間格差「1億円」』と題した記事が出ていました。この記事は、生涯にわたって国に支払う税金や社会保険料などの「負担」と生涯にわたって国から受け取る年金や医療費、教育費など「受益」の差額を世代間で比べたものです。その世代間格差が最大で「1億円」(05年「経済白書」内閣府試算)にもなるというのです。
たとえば、65歳以上(1943年生まれ以前)の高齢者は支払った「負担額」より受け取る「受益額」のほうが4875万円も多くなります。少ない負担で多くの受益を得るのですから、大儲けですね。これに対して彼らの孫の世代(1984年以降生まれ)は、受益より負担のほうが実に4585万円も多いのです。若い世代は大損です。4875万円のプラスと4585万円のマイナスですから、現在の高齢者とその孫の世代の間では、受益と負担の生涯格差が往復で「9460万円」(記事タイトルでは1億円)もあることになります。
いま、正規雇用と非正規雇用の所得格差のように同一世代内の所得の不平等が大きく叫ばれています。隠れているから分かりにくいのですが、それ以上に高齢世代と若い世代という異世代間での不平等が進んでいるのです。
高齢世代は、これまでもずいぶん政府支出の恩恵を受けてきました。景気が悪くなれば、所得減税だ、公共事業だといって所得の目減りを政府が補填してくれました。農家も、高い米価が保証された上減反奨励金を受け取り、さらに圃場整備だ、農道整備だといって補助金をふんだんにいただいたはずです。いまの高齢世代は、一般化すると、神武以来、もっとも政府のお布施をいただき、最も資産を蓄えた豊かな世代だといえます。それなのにまた、われわれ高齢世代は、若い世代の苦労(将来負担)を踏み台にしていまの満足(定額給付金)を得ようとしているのです。
国債残高を含む政府の長期債務は780兆円あるといいます。国民一人当たり600万円、4人家族で2400万円の借金を抱えているのです。この借金は、われわれ高齢世代が「飽食とおねだり」の末に築いたものです。特にバブル崩壊後の長期不況下、われわれが「景気刺激というおねだり」を声高に叫んだ結果でもあります。政府も、不況の根因である金融機関の不良債権処理を怠り、100兆円を越す景気対策費を無駄にしてしまいました。
この借金は、私たちが返済するわけではありません。われわれには税支払いのもとになる所得がなく、もう少しすればお迎えが来て、「公共サービス」を食い逃げしてしまうのですから。2兆円の「定額給付金」など、それが全て消費に向ったとしても景気対策としては一時しのぎにすぎません。われわれが定額給付金というお布施をいただくことが、私の子供や孫の世代にもっと大きな税金や保険料の負担を強いることになると思うと、辞退するのがせめてもの償いだと思うのです。
「そうだろう。分かった?」
と振り向くと、家内は安楽椅子でぐっすりお休みのご様子。それでも「貰えるものは、貰います」といっているような寝顔でした。
2008年11月12日 13:17
2008年11月 5日 14:30