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大西良雄ニュースの背後を読む

2008年11月

2008年11月26日 12:13

シティ救済で明らかになった巨額のバブル資産

(08年11月25日筆)

 最近は、アメリカの財務長官やFRB議長には日曜日がないようです。11月23日日曜日の深夜、シティグループの救済・追加支援策が発表されました。月曜日朝開くNYの株式市場を意識した異例の政策決定です。つまるところシティの株価が暴落しそれが他に連鎖するのを回避するための決定といえます。
 
 追加支援の中身から、シティグループが抱えこんだ不良資産の規模が明らかになりました。正直言って、その大きさには驚かされました。シティグループが抱える住宅ローン、商業用不動産融資、証券化商品など不良資産の総額は3060億ドル(約30兆円)にのぼります。シティの資産総額が2兆ドル(200兆円)といいますから、不良債権比率は15%超になります。ほかに関連会社が持っている簿外の資産が1兆ドルあり、このなかにも不良資産がかなりの比率で隠れているといいます。政府の支援なしには破綻必至の大きさです。
 
 シティグループ一行だけでこれほどの規模ですから、日本のエコノミストから最近相次いで発表されている「アメリカが抱え込んだ今後返済(解消)を必要とする過剰債務」の試算(後述)がまんざら間違っていないのではないかと思えてきます。

過剰債務の「過剰」はバブル部分と理解してください。借り手の企業や消費者からみた過剰債務(借入れ)は、貸し手の金融機関からいえば過剰債権(貸出などバブル資産)です。バブル崩壊によってこのバブル貸出の多くが不良資産になったというのが、日本の平成金融デフレの経験でした。

 バブル景気のピーク時、1989年には、日本経済が抱えた過剰債務(バブル資産)は80兆円~100兆円あったと推計されています。その後15年間でこの過剰債務を解消するために日本の金融機関が損切りした不良資産総額は100兆円に上りました。推計された過剰債務のほとんど全てが不良化し損切りされたことになります。金融機関は破綻寸前になり、公的資金で救済されたのです。

過剰債務の試算で活躍する日本の民間エコノミスト
 最近、今回の世界金融恐慌の震源であるアメリカの過剰債務の推計が相次いでいます。この推計で先駆したのは、アメリカではなく日本の民間エコノミスト勢です。先陣を切った三菱UFJ証券のチーフエコノミストの水野和夫氏は、住宅価格の下落率が3割だとすれば処理すべき過剰債務は4兆ドル(400兆円)、4割下落すれば6兆ドル(600兆円)に達すると試算しています。次いで11月、日本経済研究センターの主任研究員・小林辰男氏が、最大5兆~6兆ドルに達すると発表しました。

その後すぐ、みずほ証券も試算を発表しました。これによると、世界の金融機関損失(筆者注:損切りされるべきバブル資産)は5.8兆ドル(580兆円)に達し、このうちアメリカの金融機関損失は4.4兆ドル、欧州が1.4兆ドルと試算されています(「朝日新聞」11月24日付。1ドル=100円換算で統一)。

この試算では、欧米の不動産ローン、企業・個人ローン、これらのローンを証券化した金融商品を含めた資産総額は約32兆ドル(3200兆円)と推計されていますから、金融機関損失の比率は実に18%に達するとみています。正常時の不良資産(今後損切りする可能性のある貸出などの資産)比率が2~3%であることを考えるとその大きさが良くわかります。

欧米金融機関の「損切りされるべきバブル資産」が資産総額の18%に達すると聞いて、ふっと思い出しました。1990年代の平成金融デフレ期では、確か日本の金融機関の不良資産比率は15%を越していたはずです。「はずです」というのは、日本では貸出など資産の不良度合いを測る金融機関自身の資産査定がきわめて甘く、不良資産の把握が困難をきわめ、不良資産比率を確定できなかったからです。

皮肉なことに、日本の金融機関が抱える不良資産の規模をかなり大胆にしかも正しく推計したのはアメリカの投資銀行でした。彼らは、自らの推計を信じて、日本の金融機関、たとえば日本債券信用銀行や日本興業銀行などの株を空売りして売り崩し、大きく儲けました。今回は、日本の民間エコノミストが、欧米の金融機関の不良資産の規模を大胆に推計しているのです。日本勢が、シティの株式を売り崩しているということはついぞ聞きませんが。

オバマの「経済チーム」は資産デフレを止めるか
それはさておき、アメリカで、借り手から言えば「今後返済ないし解消する必要がある過剰債務」、貸し手からいえば「損切りされるべきバブル資産」が、試算どおり5兆ドル(500兆円、日本のGDPに相当)にものぼるとすれば、アメリカ経済はいったいどうなるのでしょうか。

過剰債務は、消費や投資を切り詰めて貯めた貯蓄で返済されるはずです。そうなるとアメリカ経済を牽引してきた個人消費と設備投資が減少します。過剰債務がなくなるまで返済がつづくとすれば、消費と投資が底入れするのに何年掛かるのでしょうか。不良債権化した過剰貸出が金融機関損失になるとすれば、その規模は本当のところどれぐらいになるのか、金融安定化法の7000億ドル(70兆円)だけで金融機関を支えることができるのでしょうか。

さいわい、オバマ次期大統領が国家経済会議議長に指名したローレン・サマーズ、新財務長官・ティモシー・ガイトナーは、ともに日本に友人・知人の多い優れた学者であり行政官です。彼らは、財政金融政策をめぐる日本政府の失敗の経験を熟知しています。日本の政治家、行政当局は、平成金融デフレ問題の根源を見誤り、不良債権処理を先送りする失敗を冒しました。その結果デフレの克服に長い時間を掛けてしまうだけでなく、国民に膨大な長期債務を残してしまったのです。

サマーズもガイトナーも、加えてバーナンキFRB議長も、日本の失敗を熟知して肝に銘じ、来年1月20日のオバマ大統領就任式を待たず、思い切った金融、財政政策を打ち出すでしょう。それでも過剰債務(バブル資産)5兆ドルの解消に伴う不況の克服には時間が掛かります。しかし、思い切った政策が投資家や消費者の冷え切ったマインドを変え、株価や住宅価格の下落から生じる資産デフレをとりあえず止める力になることを願っています。

2008年11月19日 10:00

「定額給付金」をいただいてよいのでしょうか

 (08年11月19日筆)
 
少し悩んでいることがあります。政府から一人当たり1万2000円の定額給付金をいただくかどうか、についてです。家内と合わせて2万4000円になります。一人ぐらい辞退したって焼け石に水、日本国の借金が減るわけでもないのですが、どうもいただくのは気が引けるのです。

辞退を求められるほど所得はないが...
私はひそかに辞退しようと思っているのですが、家内はどうか。「君は給付金をもらうつもりか」と聞いてみました。家内からは即座に「麻生さんが貰ってくれといっているのでしょ。断るのもなんだから、もちろんいただきます」というお答えです。逆に、「まさかご辞退申し上げるなどと、もったいないことを言うのではないでしょうね」と問い返される始末です。聞くのは野暮でした。

小生、恥ずかしいのですが、いまの所得は自発的な辞退を求められる1800万円のずっと下です。家内にすれば、「常務さん(小生、最終職歴は常務取締役でした)であった頃ならまだしも、いまのあなたは所得不定の高齢フリーターでしょう。見栄を張って給付を辞退するなどとんでもない」と言いたかったに違いありません。

小生63歳、家内は60歳、前期高齢者の一歩手前ですので、残念ですが8000円の割り増しは付きません。ですが、二人で2万4000円もあれば、少食の老夫婦ですから切り詰めれば1ヶ月ぐらいの食費にはなります(と家内は言っています)。家内に言われるまでもなく、いただけるものならいただく方がいいに決まっています。それでも、給付金をいただくのは、やっぱりしっくりこないのです。

しっくりこない理由は、小生、年金をこの4月から満額いただけるようになったことにあります。国からいただく厚生年金と勤めていた会社からいただく企業年金(一時金でいただきましたが)を加えると、インフレさえ起こらなければ、贅沢はできませんが、ひもじい思いをしなくても済む年金額になります。あと5年もすれば家内も基礎年金を満額もらえます。定額給付金がなくても餓死はしません。

実は、私たち、リタイヤー期にはいった団塊前後の世代は、自分たちの息子や娘、孫にあたる若い世代に比べるとずいぶん恵まれています。重い税金と社会保険料に悩まされる若い世代の過酷な将来のことを考えると、われわれ老齢世代は定額給付金などいただけない、と私は思うのです。

世代間「受益」「負担」の大きな生涯格差
08年11月4日付けの「朝日新聞」に『受益・負担世代間格差「1億円」』と題した記事が出ていました。この記事は、生涯にわたって国に支払う税金や社会保険料などの「負担」と生涯にわたって国から受け取る年金や医療費、教育費など「受益」の差額を世代間で比べたものです。その世代間格差が最大で「1億円」(05年「経済白書」内閣府試算)にもなるというのです。

たとえば、65歳以上(1943年生まれ以前)の高齢者は支払った「負担額」より受け取る「受益額」のほうが4875万円も多くなります。少ない負担で多くの受益を得るのですから、大儲けですね。これに対して彼らの孫の世代(1984年以降生まれ)は、受益より負担のほうが実に4585万円も多いのです。若い世代は大損です。4875万円のプラスと4585万円のマイナスですから、現在の高齢者とその孫の世代の間では、受益と負担の生涯格差が往復で「9460万円」(記事タイトルでは1億円)もあることになります。

いま、正規雇用と非正規雇用の所得格差のように同一世代内の所得の不平等が大きく叫ばれています。隠れているから分かりにくいのですが、それ以上に高齢世代と若い世代という異世代間での不平等が進んでいるのです。

高齢世代は、これまでもずいぶん政府支出の恩恵を受けてきました。景気が悪くなれば、所得減税だ、公共事業だといって所得の目減りを政府が補填してくれました。農家も、高い米価が保証された上減反奨励金を受け取り、さらに圃場整備だ、農道整備だといって補助金をふんだんにいただいたはずです。いまの高齢世代は、一般化すると、神武以来、もっとも政府のお布施をいただき、最も資産を蓄えた豊かな世代だといえます。それなのにまた、われわれ高齢世代は、若い世代の苦労(将来負担)を踏み台にしていまの満足(定額給付金)を得ようとしているのです。

国債残高を含む政府の長期債務は780兆円あるといいます。国民一人当たり600万円、4人家族で2400万円の借金を抱えているのです。この借金は、われわれ高齢世代が「飽食とおねだり」の末に築いたものです。特にバブル崩壊後の長期不況下、われわれが「景気刺激というおねだり」を声高に叫んだ結果でもあります。政府も、不況の根因である金融機関の不良債権処理を怠り、100兆円を越す景気対策費を無駄にしてしまいました。

この借金は、私たちが返済するわけではありません。われわれには税支払いのもとになる所得がなく、もう少しすればお迎えが来て、「公共サービス」を食い逃げしてしまうのですから。2兆円の「定額給付金」など、それが全て消費に向ったとしても景気対策としては一時しのぎにすぎません。われわれが定額給付金というお布施をいただくことが、私の子供や孫の世代にもっと大きな税金や保険料の負担を強いることになると思うと、辞退するのがせめてもの償いだと思うのです。

「そうだろう。分かった?」
と振り向くと、家内は安楽椅子でぐっすりお休みのご様子。それでも「貰えるものは、貰います」といっているような寝顔でした。

2008年11月12日 13:17

再録「振り込め(オレオレ)詐欺」体験記

(06年12月6日筆)

 今回は、閑話休題。まだ被害が続出しているようですので、2年前に小生が書いた「振り込め詐欺」のブログ記事をちょっと長いですが再録します。
 振り込め詐欺師は、「巧妙な仕掛け」を用意しています。しかし、その仕掛け話もよくよく考えれば不可思議なことばかりです。それでも騙されるのは、息子が不憫、と思う「親心」を突かれるからです。「親心」が、冷静さ失わせる、詐欺師のドツボに嵌まるもとです。
 小生の経験から得た「振り込め詐欺防御法」をお教えします。
 詐欺師から電話があったら、①携帯ないし自宅、会社に電話を掛け、本人からの電話かどうかを必ず確認する、②友人、親戚、銀行の窓口係り、誰でもいいから第3者に必ず相談する、以上です。(08年11月12日記)


最初の電話の内容は、「携帯をなくした」
 まさか自分が「オレオレ詐欺(振り込め詐欺)」に引っ掛かるとは思っても見ませんでした。かみさんの機転がなければ、危うく220万円を振り込むところでした。
 某日、書斎でパソコンに向かって原稿を書いている最中、一本の電話がかかってきました。くぐもった深刻な声でした。
 「もしもしオレ」
 「おう、ダイちゃんか」
 私の息子はダイスケといいます。31歳、勤め人です。
 「お父さん、警察から電話があった?」
 話はこう切り出され、「警察」という言葉に私はドキリとしました。息子が何かトラブルに巻き込まれたのではないかと、不安がよぎりました。
 「お母さんには黙っててね。オレ、風邪引いてボーとしてて、携帯と会社の書類を落としちゃったんだ。警察から連絡はなかった?」
 息子は、私に似て、ひとつのことに集中するとほかを忘れがちで、忘れ物、落し物の常習犯でした。私は、さもありなんと簡単に事態を受け入れてしまったのです。
 「警察から連絡はないが、それより、会社の書類を紛失したというのはまずいな。すぐに会社の書類を作り直せ。徹夜してでも」
 どんな書類なのか、作り直せる書類なのか、そんなことも確かめず、私はダイスケに知恵を授けるのに懸命でした。サラリーマンにとって会社の書類がどれだけ大切なものか、へんにワケ知りだったために、冷静になれなかったようです。
 「わかった。すぐ作り直す。携帯は新しいのに取り替えたから、番号をいうね。警察から落し物が見つかったと連絡があったら、この番号に連絡してね」
 新しい携帯電話の番号は080から始まるものでした。その怪しい携帯番号をだいじにメモして、私は電話を切りました。

数日後「株で穴開けた、会社を辞める」と再び電話
 数日後、ダイスケから再び電話が掛かってきました。かみさんが電話に出ていればその電話声の不自然さに気がついたと思うのですが、また私が電話に出てしまったのです。退職後に備えて、書斎にコピー機を入れ、電話機をすぐ手の届く机の上に置いていたのが災いしたようです。
 「お父さん、警察から連絡あった?」
 同じようなくぐもった深刻な声でした。
 「連絡はない。それよりまだ風邪は治らないのか。声がへんだよ。書類はつくりなおしたのか」
 「ん?(少し間があり)、お父さん、オレ、会社を辞めるんだ。お母さんには黙っててね」
 また出ました「お母さんには黙っててね」が。ダイスケはよほどかみさんが煙たいのでしょうか。どこの家庭でもそうでしょうが、わが家でも煙たい、話をしたくない存在は父親の私です。そんなことはコロっと忘れてダイスケの「会社を辞める」という深刻な打ち明け話をうれしそうに聞いてしまったのです。
 「お父さん,株のシミュレーション・ゲームって、知ってる?」 
 知らないわけがない。私は株式投資のバイブル「会社四季報」を出している会社の常務ですぞ、退職後は、株式評論家と名刺に刷り込もうかどうか、悩んでいるところだ、と言いそうになりましたが止めました。すでに詐欺師のドツボに嵌まっていることも知らないで。
 「ゲームで6000万円も勝った。それで会社の上司と一緒に実践しようということになって株を買ったんだ。そしたら大負けして、穴を開けちゃった」
だろうよ、このところ相場は下降気味、いま株に手を出す馬鹿がいるか、そうダイスケを気持ちで叱っている「株式評論家」がそこにいました。
 「まさか会社の金で穴を開けたんじゃないだろうね」
 「上司というのが経理の人でね。その人が会社の金を流用してオレの分と自分の分の株を買って穴を開けた。だから会社にいられない」
ダイスケの声が深刻だったのはそのためだったのか、私は一人合点して、言ってしまったのです。「穴をあけたのはいくらだ。会社は辞めるな。お父さんが穴を埋めてやる」と。
 
ドツボに嵌まった親ばか
 馬鹿ですね。なぜ、自分の不始末のケツは自分で拭けといわなかったのか。
 ダイスケは、穴を開けた金額は300万円、株を売れば80万円にはなるので、220万円を今日振り込んでくれれば、何とか隠しとおすことができる、とのたまうのです。
 これが1000万円であれば、私も考えてしまいますが、220万円ならなんとかなります。時間は、午後1時30分、いまから銀行に駆け込めば今日中に払い込まれる、ダイスケは会社を辞めなくてもすむ......。
 私の親ばか心を見透かして、敵はすかさずこう畳み込んできました。
「振込先の口座をメモして。〇〇銀行、OO支店、普通口座0000-000、口座名シンボ・ツヨシ」
 「ん? シンボ・ツヨシとは漢字でどう書くんだ」
 当然の疑問を呈しても、軽くいなす感じ。
 「シンボさんの名前? いま会議中で確かめられない。カタカナのままでも大丈夫、振り込めるよ。振り込んだら、携帯に電話してね」  
 そういってダイスケの電話は切れた。なぜ、ダイスケが振込先の漢字名を言わなかったことを不思議に思わなかったのか、いまもって不思議です。

詐欺師を見抜いたかみさん
 ここからはかみさんとのバトルです。かみさんはまなじりを決して、ぴしゃりといいました。
「なんで私たちが息子の不始末にお金を出さなければならないの。自分で始末させたら」
 そこが浅はかなんだよ、オンナは(と心で言っているだけです)。
 「流用が発覚すれば、会社からダイスケは告発され警察に逮捕されるよ。そうなると前科一犯、再就職の口などなくなる」
 そういいくるめて、かみさんから預金通帳とたくさんの印鑑を取り上げて銀行に駆けつけました。もちろん、かみさんと一緒です。私は車を運転できませんし、結婚以来、銀行振り込みも預金もしたことがありませんから。
 こわい金庫番のかみさんが横にいるのに、自分で預金を引き出し、自分で振り込もうとしているのです。どうかしています。
 どの印鑑がどの通帳のものなのか、預金の引き出し用紙にどう書き込むのか、振込用紙にどう記入するのか、いちいち案内係の女性のご指導を仰いでいるうちに、時間がどんどんすぎていきました。実はそれが幸いしたのです。
 私がもたもたしている間、220万円が消えてなくなることに憤懣やるかたないかみさんが、ダイスケの会社と詐欺師の携帯に電話を掛けまくっていたのです。案内係の女性もかみさんに同情して、会社に電話を掛けて問い合わせてくれました。それで、ダイスケは出張中であること、会社には「シンボ」なる人物はいないことが分かりました。
 そのことをかみさんが詐欺師に問い詰めると、動じるふうもなく「シンボは会社を辞めた元上司だ、オレは会社にいる」と答え、都合の悪いことを聞かれると黙って応えなかったそうです。
 そして、必ず会話の終わりに、
 「振り込んだらすぐにオレの携帯に電話をくれ」
  と繰り返すのです。
 振り込み先の銀行支店は新潟県でした。ダイスケの会社は東京にあるのになぜ新潟なのか、いま考えるとそれも疑うべきでした。振り込んだと連絡がくれば、たぶん詐欺師の一味が新潟の支店で待っていて、馬鹿親父が振り込んだ220万円を直ちに引き出しトンズラする手はずだったのでしょう。それをいまかいまかと待っていたかと思うと、口惜しいやら情けないやら。

失くしたはずの息子の携帯が通じた
 銀行の案内係の女性は、「いま振り込んでも、引き出せるのは明日です。明日の9時に振り込んでも同じです。まだ時間がありますので、ゆっくり調べて振り込まれたらいかがですか」といってくれました(感謝、感謝)。これで私にも心の余裕ができました。かみさんの仏頂面にも素直に対応できるようになったのです。私の「もたもた」が役に立ったのです。
 私が、「オレオレ詐欺」であることを納得した決め手は、息子の失くしたはずの携帯電話が通じたことでした。息子に電話を掛けさせないために最初に「携帯を失くした」と詐欺師は告げたのです。私が息子とその後連絡を取っていないことを確認して、騙しの次の手を打ったのでしょう。
 かみさんは、息子の携帯に「お父さんが大変です。至急連絡を」とメールをいれたうえ、何度か電話を入れました。本社の会議で発表を終えた息子から、かみさんに慌てて電話が掛かってきました。
 「お父さん、死んだの?」
 それを聞いて私は、いやいや、「死んだのはオレオレ詐欺師のほうだよ」と強がりを言おうとしましたが、かみさんの「あなたにはあきれ果てた」とい言いたげな表情を見て、ことばをそっと飲み込みました。すみません。

2008年11月 5日 14:30

オバマはルーズベルトになれるか

(08年11月5日筆)
 アメリカの消費の先行きを占う2つのメルクマールは、新車販売とクリスマス商戦の動きです。10月のアメリカの新車販売台数は前年同月比31.9%減となり、第二次大戦以降では最大、衝撃的な落ち込みでした。アメリカでは、年間消費の3割がクリスマス商戦で実現していますが、この新車販売の落ち込みから判断すると、クリスマス商戦も大きな落ち込みが予想されます。
 金融危機から生じた自動車ローンの急収縮が、新車販売の大幅な落ち込みにつながっています。クリスマス商戦では、カードや消費者ローンの収縮が、消費者の購買力を減退させ、売上げの収縮をもたらすに違いありません。
 気になるのは、GMの10月の新車販売が45.4%減、クライスラーが34.9%減と群を抜いて落ち込んでいることです。両社は、合併交渉に生き残りを賭けている状態ですが、合併に当たって100億ドル(約1兆円)の資金援助を財務省に求めていたのですが、これを拒否されたと報じられています。すでにアメリカの自動車業界は250億ドルの低利融資を財務省から受けており、それでも資金繰りが苦しいとなるとGM、クライスラーの前途は危ういといえます。アメリカ産業を象徴するGMが破綻するようなことになれば、戦前と同じように、アメリカは金融恐慌から産業恐慌に転じることになります。

 悲観心理を吹き飛ばしたルーズベルト
 1933年3月、再選を目指す共和党のフーバーを破って民主党のルーズベルトが大統領に就任しました。1929年、ニューヨーク株式が暴落した後、アメリカ経済は激しく落ち込み(下表参照)、1932年から33年に掛けてどん底の状態でした。なかでも国内総投資が160億ドルから10億ドルに激減、アメリカ経済は先行きに対して極度の「悲観心理」に見舞われたといえます。

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 この極度の「悲観心理」を吹き飛ばしたのは、ルーズベルトでした。就任式の5日後、ルーズベルトは緊急銀行救済法を議会に提出、わずか38分の審議でこれを通過させました。この法案は、銀行の営業を全て停止させ、その間、銀行に救済資金を供給する一方、銀行をグッドとバッドに区分けしグッド銀行だけに営業を再開させるものでした。その週の日曜日、ルーズベルトは「銀行はもう心配ありません」とラジオを通じて直接国民に呼び掛けました。有名な「ルーズベルトの炉辺談話」ですが、これが国民の不安を取り除いたのです。
 その一ヵ月後、ルーズベルトは金輸出の禁止、つまり金本位制から離脱を宣言します。前任のフーバー大統領は、金本位制の堅持に執心したためアメリカから金が大量に流失、これを防ぐために金利の引き上げを行いました。その結果、デフレ状態下、金融引き締めが加わり、一気に恐慌に突入することになりました。ルーズベルトは、この「金(本位制)のくびき」を解き放ち、政策の自由を取り戻しました。そして為替を切り下げて(ドル安)、下落した物価を引き揚げ、経済を活性化させるリフレーション政策へと大きく政策を転換します。
 さらにこのあとルーズベルトは、36個もの多目的ダムを造る「テネシー川流域開発」のようなケインズ型の有効需要創出策をはじめ、農業生産の調整、労働時間の短縮や最低賃金の設定、労働者の団結権、団体交渉権などの社会政策を相次いで打ち出します。これらも重要な政策でしたが、金輸出の禁止による金融引き締めから緩和への政策レジーム転換が、アメリカの大恐慌からの脱却にとって最も重要であったというのが、後の経済学者の定説です。

 オバマは「就任100日」でどんな手を打つか
 歴史は、繰り返します。ブッシュ・ジュニアは、イラクとアフガンの戦争に失敗し、野放図な金融監督の下、サブプライム恐慌を引き起こしました。ブッシュ・ジュニアは、「あなたは第二のフーバーになるのか」といわれ、銀行救済を含む金融安定化法案にしぶしぶ賛成しました。ブッシュ・ジュニアが、ホワイトハウスの前庭で金融対策を小出しする声明を読み上げるたびに株価が暴落したのは、フーバーに負けずとも劣らない経済に疎い無能な大統領であることを国民が知っていたからです。
 共和党のフーバーのあと、民主党のルーズベルトが大統領になったように、共和党のブッシュ・ジュニアのあと、民主党のオバマが大統領に就任します
 ルーズベルトが「就任100日」という短期間に、金融政策のレジーム転換を皮切りに主要な大恐慌克服対策を成立させ、不人気のフーバーに代わって、政府への信頼を取り戻し、国民の「悲観心理」を一気に吹き飛ばしてみせたことは特筆されます。オバマ新大統領が「就任100日」にどんな手を打ち、第二のルーズベルトになるのか、マーケットは固唾を呑んで見守っています。
 当選後、就任式までおよそ2ヶ月の政権の空白期間があるのが気になりますが、大統領に就任した直後に出されるオバマ新大統領の「大統領教書」や「予算教書」が、ルーズベルトの「炉辺談話」に始まる適切で大胆な恐慌克服策に匹敵するものになることを期待してやみません。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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