QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2008年10月29日 14:27

「円高株安」を加速した2つの換金売り

(08年10月29日筆)
 
いまの暴落相場には、株価収益率(PER)とか株価純資産倍率(PBR)、配当利回りなど、企業の収益力や財務体力をベースにして割安・割高を測る尺度がまったく役に立ちません。株式チャート分析もいまや無用の長物です。

1ドル90円になると日経平均は6280円?
誰もが説明ができず、唖然、呆然としている相場ですが、この下げ相場をかなりの確度で説明することができる株価予測モデルがひとつだけあります。それを小生は「1円=360円の法則」と名付けています。これは、対ドル1円の円高で日経平均株価が360円下落するという「円高は株安」のモデルです。(逆に1円の円安で日経平均株価が360円上昇する――「円安は株高」のモデルも有効です)。過去においてこの株価予測の的中率は高かったと思います。
「1円=360円の法則」は、引き算と割り算ができれば誰でも発見できますので、皆さんも計算してみてください。コンピュータなど要りません。
日経平均株価は、昨07年7月6日の高値1万8295円から下降トレンドに入り、08年10月27日にはバブル崩壊後の最安値(7607円)を下回り7162円まで下落しました。最高値から実に1万1133円の下落です。この間、円ドルレートは、1ドル123.13円から92.45円へ上昇、1年半で30.68円もの円高になっています。
この日経平均の値下がり幅1万1133円を円高幅30.68円で割り、1円の円高で日経平均株価がいくら下がったかを計算します。計算結果は362円87銭です。まるめて1円の円高で360円も日経平均株価が下落することになります。為替が1円変動すれば、360円日経平均株価を変動させるということから、「1円=360円の法則」とも呼んでいます。
「1円=300円の法則」に従えば、かりに1ドル90円まで円高が進めば、日経平均株価は6280円まで下がると予想されます。1ドル90円は10月27日に比べ2.45円の円高ですから、株価は2.45円×360円=882円下がる計算です。7162円-882円=6280円となります。
さらに1ドル90円、85円、80円と円高が進めば、日経平均株価は6000円、5000円、4000円とどんどん下がり、日本の投資家と株式市場は死に直面することになります。「1円=360円の法則」に従って、そう夢想するだけで小生は怖くなって、高名な元財務官のように「円は割安状態にあり1ドル80円でも不思議ではない」などと、とてもいえません。

日本人と外国人の「換金売り」
これまで日本では、輸出が増加すると貿易黒字が大きくなり円高になる、一方、輸出の増加とそれに続く設備投資の拡大で企業収益が高まり、株価が上昇するのが普通でした。ほんらい「円高は株高」なのです。通貨の強い国は、物価が安定し経済成長率が高く輸出競争力も強い、したがって投資機会も多くなり、株価が上昇するのは当然です。
いまはまったくその逆、「円高なのに株安」です。急激な円高が、日本経済をリードするトヨタやソニー、キャノン、コマツのような輸出型製造業に打撃を与え、企業収益を大きく減少させているからです。
これらの輸出型企業は、米国から欧州、中国へと輸出を拡大させ「いざなぎ越え」景気を担ってきました。いざなぎ越え景気は内需型成長に転化する前に失速、日本経済の輸出依存度が極度に高まる結果だけ残したことになります。ほんらいなら、輸入型内需企業が円高を味方につけて活躍し、日本全体の収益低下を下支えるべきなのですが、それがまったく振るわない。主軸の輸出企業がこけたら全てこける状態ですから、「円高なのに株安」になってもやむを得ません。
とはいっても、現在の「円高株安」は、あまりに急激、かつ異常です。それは、冷静さを欠いた「2つの換金売り」によってもたらされているからです。
ひとつは、日本の投資家による外貨建て資産の換金売りです。日本の投資家は、金融危機によって発生した外国株式の暴落や急激な海外通貨安(円高)による外貨建て資産の目減りを回避する必要に迫られています。外貨建て資産は、日本全体で200兆円、家計だけで50兆円も保有していました。家計を例にとれば、外国投信、外国為替証拠金取引を解約し、外貨建て資産を一斉に円資産に切り替え始めています。いわゆる円キャリー取引の急激な巻き戻しが起こり、海外資産の換金売り=円買いの結果、円高が加速しているのです。
もうひとつは、外国ヘッジファンドによる日本株のなりふり構わない換金売りです。彼らは、銀行からの融資引き揚げと顧客からの解約急増に追い立てられています。ヘッジファンドは、現金化しやすい手持ちの日本の優良株を、内需株、輸出株問わず一斉に売っています。このため、日本では優良株ほど値下がり率が高くなっています。優良株は二足三文、超割安の状態です。
日本の投資家の外貨建て資産の換金売りが「円高」を加速し、外国ヘッジファンドの日本株換金売りが「株安」を加速しているのです。このような2つの換金売りによる「円高」と「株安」は、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に従った正常なものではありません。冷静さを欠いた「換金売り」は、どこかで止まるはずです。
そのときなお、世界の競争国に比べ日本経済のファンダメンタルズ(成長率、物価・金利水準、経常収支、財政収支など)が良好なら緩やかな「円高」は許容されます。一方、「強い通貨の国」日本の株式は買われても良いのです。少し差金になるかもしれませんが、どこかの時点で異常な「円高は株安」から正常な「円高なら株高」に転じると考えています。

この記事へのトラックバック

【記事】「円高株安」を加速した2つの換金売り
この記事にご興味のある方は、こちらのトピックもご覧下さい 続きを読む
QuonNetコミュニティ | 2008年10月29日 14:35
プロフィール
大西良雄(経済ジャーナリスト)
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2018年4月
2018年3月
2018年2月
2018年1月
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2013年05月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
最新記事
財務官僚の弱体化で財政再建が絶望的になる恐れ
安倍総理はトランプの「取引外交」に対峙できるか
日米株価が再び急落、安倍内閣は支持率を回復できるか
痛ましい近畿財務局ノンキャリアA氏の自殺
「そだねー」のカーリング娘が大人気
最新コメント
トランプと安倍首相を...
Posted by 坂田三吉
LS北見カーリングチ...
Posted by かずちゃん
大西先生世の中の表象...
Posted by Anonymous
ありがとうございます...
Posted by Anonymous
経済政策・少子化政策...
Posted by Anonymous
最新トラックバック
【記事】財務官僚の弱体化で財政再建が絶望的になる恐れ
from QuonNetコミュニティ
【記事】安倍総理はトランプの「取引外交」に対峙できるか
from QuonNetコミュニティ
【記事】日米株価が再び急落、安倍内閣は支持率を回復できるか
from QuonNetコミュニティ
【記事】痛ましい近畿財務局ノンキャリアA氏の自殺
from QuonNetコミュニティ
【記事】「そだねー」のカーリング娘が大人気
from QuonNetコミュニティ