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大西良雄ニュースの背後を読む

2008年9月

2008年9月10日 11:04

麻生総理でも「ジャパン・ミッシング」

(08年9月10日筆)

安倍晋三に次いで福田康夫と一年のうちに二人も辞職して代わるような国の総理大臣の名前など、忙しい外国要人ですから、覚えている暇はありません。実際、洞爺湖サミットを訪れたブッシュ米大統領は日本の総理「フクダ」の名前をつい失念したとかしないとか......。

洞爺湖サミットといえば、それが始まる直前、イギリスの経済紙「フィナンシャル・タイムズ」が、日本は何を考えているかさっぱりわからない、「ジャパン・ミッシング」(日本は行方不明)の状態にあると評したそうです(「日経新聞」08年8月31日付け―中外時評「日本消滅といわれる前に」)。世界に日本を語るべき総理が、次から次に短い期間に代わるようでは、日本の「行方不明」状態がつづいても不思議ではありません。

小泉純一郎元総理は、長く政権の座にあって強いリーダーシップを発揮して、世界の首脳に「日本にコイズミあり」と言わせました。次の総理には、ぜひそうあって欲しいと思うのですが、それはかなわぬ夢です。自公政権が参議院で過半数を失っているかぎり、そして自公の出す法案に野党が賛成しないかぎり、麻生太郎さんがなっても与謝野馨さんがなっても、日本の政治は統治不能です。「ジャパン・ミッシング」は続かざるを得ません。

なぜそうなのか。答えは簡単です。参議院の議席の過半数を民主党はじめ野党が握っているからです。そうであるかぎり、来る総選挙で自公がかろうじて勝ち、衆議院で過半数を獲得したとしても、「衆参のねじれ」が5年先まで解消しないのです。法案を衆議院で可決しても参議院で否決されれば、全ての法案(予算案を除く)を衆議院で再議決し3分の2の賛成を経て可決せざるを得ません。昨年来、福田政権が苦渋を味わった新テロ特措法案やガソリン暫定税率法案の3分の2再可決が、5年間も繰り返されるからです。

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自公政権であるかぎり5年間も「衆参のねじれ」が解消しない理由を簡単に説明しましょう。上表をご覧ください。参議院には解散がなく、議員は6年の任期が保証され、3年ごとに半数が改選される仕組みであることは周知の通りです。次の改選(半数の121議席)は2年後の2010年です。かりに自公両党が健闘して04年並みの合計60議席を回復したとします。07年選挙の議席数が46議席ですから、10年の自公議席数は106議席で過半数に16議席も足りません。「ねじれ」は解消しません。

これを解消するには、次の次、5年後(2013年)の半数改選を待たねばなりません。つまり、自公政権であるかぎり、参院の過半数割れは解消せず、衆院選挙で自公が過半数を維持しても5年間は「衆参のねじれ」は解消しないのです。
昨07年7月の参議院選挙で政権与党の自民・公明が信じられない大敗を喫したことが、これから5年間も尾を引き、自公連立政権の総理は頻繁な入れ替えを余儀なくされます。麻生太郎さんも膨らんですぐ消える泡沫総理になります。

小生は、世界はいま、経済も政治も、歴史的な大転換期を迎えていると思いっています。この「大転換時代」は、麻生太郎や小沢一郎のような選挙目当てに小手先を弄するような政治家では乗り切ることはできません。かといって、大きな歴史観とヴィジョンを持った、官僚や一部の選挙民、圧力団体に媚びない政治家などいまの日本にはいません。ですから、次善、三善の策ですが、国民は、日本を統治不能の状態にしている「衆参のねじれ」を解消する選択をする必要があります。

衆参のねじれを解消するには、11月に予想される衆議院選挙で民主党が過半数を獲得し、民主党が政権をとることです。民主党を中心とする政権与党が、全ての常任委員会で過半を確保し安定的な国会運営をするには、社民や公明など少数党の協力が必要です。その協力があれば、衆議院も参議院も民主党を中心とする政権与党が安定多数を確保し、「衆参のねじれ」が解消します。

しかし、衆議院の過半数は241議席(総議席480)です。民主党の現有議席は114議席ですから議席を倍増しても足りません。民主党がこれほどまで大勝すると予想する政治評論家はいないでしょう。もちろん政治評論家の議席予想など外れっぱなしですが...。現実味があるのは、民主党が中途半端に勝って自公が3分の2を割り込むことです。これこそ悲劇です。過半数を維持した自公連立の麻生政権が誕生すれば、国家の行方を決める重要法案を衆院で再可決することすらできなくなります。麻生総理では、予算以外まったく意思決定ができず、世界に何も発信することができません。「ジャパン・ミッシング」がさらに深まることになります。

「衆参のねじれ」を回復し、日本の統治能力を再生するには、やはり「ガラガラポン」(政界の大再編)が必要なのでしょう。経済政策に限っていえば、民主党にも自民党にも、選挙に勝つためであれば特定の国民だけに予算をばら撒くことも厭わない「バラマキ屋」がいます。その一方で、政・官・利益団体のトライアングルを解体しすべての国民に公正で効率的な予算分配を行う「改革派」もいます。

自民も民主も大分裂を引き起こし、政党「バラマキ」と政党「改革」の二つの政党に再編成され、願わくば政党「改革」が衆参で過半数を支配し、「ねじれ」を解消していただければ......。そんな夢想すら描きたくなるこのごろです。

2008年9月 3日 10:51

福田総理の辞任早めた伊藤和也君の「死」

(08年9月3日筆)

福田康夫総理の突然の辞職には、驚かされました。総理は、8月30日の土曜日に辞職を決意したと記者会見で述べていました。この日はちょうど、アフガニスタンに腰を据えて農業支援をしていた「ペシャワール会」の日本人ワーカー・伊藤和也君の遺体が、中部国際空港に到達した日でもありました。

一見、アフガンの反政府武装勢力に射殺された伊藤君の「死」と福田総理の辞任、つまり「政治死」は、無関係のように見えますが、小生には深いところでつながっているように思えます。中国・三国志の故事に倣えば、「死せる孔明(伊藤君)、生ける仲達(福田総理)を走らす」の感があります。

福田総理が、厭になって政権を投げ出すきっかけは公明党にあったのではないでしょうか。福田総理は、アメリカと約束した、1月15日に期限が来る「新テロ対策特措法」(インド洋での自衛官による米艦船等へ給油活動の根拠法)の延長に政治生命を掛けようとしました。しかし、参議院はこの法案に反対する野党が過半数を握っており、否決されることは間違いありません。これを乗り切るには、秋に始まる臨時国会をさらに延長して、公明党の協力を得て、昨年と同様、衆議院で3分の2の賛成を得て再可決する必要があります。ところがこれに、公明党が乗り気ではないことが明らかになりました。

公明党は、解散・選挙を目前に控え、内閣を改造しても支持率がいっこうに回復しない福田内閣という泥舟に乗って、一緒に沈没するわけにはいかないと考えたはずです。公明党は、もともと自衛隊の海外派遣には慎重な護憲・平和の勢力でした。その旗印を投げ捨てて、アフガン、イラクでの2つの愚かな「ブッシュの対テロ戦争」に無批判に追随する自民党に寄り添い、無理な連立を維持してきたように思えます。その無理も限界に達し、社会政策としての定額減税とあわせて本来の公明党色を出して総選挙に望みたかったのでしょう。

「ブッシュの対テロ戦争」は、アフガンでもイラクにおいても、目指した民主主義の移植や民生の安定にまったく役に立たっていません。それどころか、両国内で行われているアメリカのテロリスト掃討作戦が、民衆の反感を買い、民衆の抵抗運動を醸成していることがいまや明らかになりました。ブッシュは、9.11同時多発テロに動揺し、報復に血迷い、アフガンとイラクの政権を武力によって葬り去った、いまやその武力が民衆の怨嗟の的になっているのです。

そのことを日本人の中で最も強烈に批判してきたのが、伊藤和也君が働いていた「ペシャワール会」の現地代表である中村哲医師です。中村医師は、1984年、アフガニスタンとの国境に近いパキスタンのペシャワールに診療所を開設、アフガン難民に対するハンセン病などの治療活動を始めたのを皮切りに、アフガン北東部に3つの診療所を設けて無医村での医療をつづけてきました。

中村医師は、医療活動だけではなく、2000年、アフガンを襲った大干ばつ以降、水源確保のために、1500本もの井戸を掘り、アフガン伝統の地下用水路カレーズの修復にも力を注ぎ、完成まであと一歩のところにきていました。その用水路近くの試験農場では、サツマイモや日本米、緑茶などを植え、農業支援も始めました。伊藤君はその農業支援の仕事をしていたのです。

中村医師は、足掛け26年、アフガンの医療と民生に力を尽してきました。そのなかで、アフガンの民衆に直接触れ、大国の都合に翻弄された彼らの悲惨をつぶさに見てきました。ブッシュの「対テロ戦争」が標的とするタリバンの真の姿も見てきたといえます。中村医師は、危険を恐れて現地に足を踏み込むことのない日本の新聞記者、アメリカのCIA情報にしか頼れない日本の官僚・政治家などより、ずっと現地の政情やアフガンの民衆の気持ちを知っているに違いありません。中村医師の言葉は、誰よりも重いといえます。

その中村医師の言葉は明快でした。第一に、タリバンは、アフガニスタンとパキスタンの国境地帯に住む2000万人のパシュトゥン族に依拠する土着イスラムの勢力で、アラブ系の国際勢力であるアル・カイダとは一線を画し、テロ集団とはいえない。第二に、アメリカが「対テロ戦争」といって現地のモスクやマドラサ(イスラムの寺小屋)を空爆し、民衆を誤爆すればするほど、現地の無政府状態は広がりそれを収めるタリバン勢力が大きくなっている、と。

中村医師は、こうした事実を指摘したうえで、日本政府の対テロ政策を批判しているのです。日本政府がアフガンに1000億円以上の復興支援を行っていますが、それと同時にテロ特措法によって「反テロ戦争」という名の戦争支援をも強力に行っていることを指摘し、「殺しながら助ける支援というものがあり得るのか」(ペシャワール会のホームページ、「テロ特措法』はアフガン農民の視点で考えて欲しい」)と痛罵しています。

これまで現地の人々が親日的で、自分たちの民生支援を信頼して受け入れてくれた歴史的根拠の一つは、日本が他国の紛争に軍事介入しなかったことにあったとも中村医師は言っています。ところが、この対テロ特措法によって「殺しながら助ける支援」に日本政府が踏み込んだことから、中村医師のアフガンでの活動は、次第に軍事介入をしながら民生支援している米英と同様にみなされるようになったといいます。そしてついに日本人も攻撃の対象になり伊藤和也君の「死」につながったようです。日本人スタッフ7名の帰国を決め、自分だけが残る中村医師には、慙愧に耐えないことだったでしょう。

伊藤君の「死」に際して、町村官房長官は、「その死を無駄にしないためにもテロとの戦いを進めよう」とまるで頓珍漢なことをいっています。中村医師は、「ブッシュの対テロ戦争」とそれに追随する「対テロ特措法」が「伊藤君を殺した」と考えているはずです。この中村医師の考え方は、公明党ほんらいの「護憲・平和」の血脈に火をつけ、公明党が福田総理と距離を置くことにつながったのではないでしょうか。公明党の協力なしに対テロ特措法の衆院再可決できない福田総理はギブアップせざるを得ません。「ペシャワール会」・伊藤和也君の死が、それを決定づけたと小生には思えます。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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