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大西良雄ニュースの背後を読む

2008年8月

2008年8月27日 09:32

「国力」か「民力」か、金メダルの獲得力

(08年8月27日筆)
 
北京五輪がようやく終わりました。小生、期間中ずっと咳にたん、微熱がしつこく続く「夏風邪」に悩まされ、どこにも出掛けられず、テレビでの五輪観戦に終始しました。それにしても、アメリカ、キューバ、韓国に一勝もできなかった星野野球の知恵なき・感情過多の戦いぶりには、怒りすら感じました。

「申し訳ない」を連発しながら責任を取る気がうかがえない星野監督のせいでしょうか、夏風邪がこじれたようです。星野監督は、読売のナベツネの庇護のもと、次のWBC監督は引き受けるというではありませんか。内心は自分に責任はないと思っているから次も引き受けるのでしょうね。人を責めるのは大得意、批判されれば逆切れする星野監督のような勝手な上司が会社にもいたことを思い出し、寒心に耐えません。

星野批判はさておき、いま金メダルの国別獲得数の最終結果を眺めているところです。今回の金メダルの配布総数は302個、獲得数第1位は中国(51個、シェア16.9%)、第2位米国(36個、シェア11.9%)、第3位ロシア(23個、7.6%)です。この上位3国のなかでは中国の上昇が目立ちますが、2000年のシドニー五輪以来、3国の金メダル支配体制は不動です。

金メダルの獲得数は、第一に「国力」に依存すると考えられます。オリンピックは、古代からもともと兵隊の戦闘能力を競う祭典ですから、「国力」とは、小生には「戦争を遂行し勝利する能力」であるように思えます。兵器の生産能力(国内総生産=GDP)と兵隊の数(総人口)、それに作戦能力(技術力)、戦闘意思(国家意識の強さ)を掛け合わせたものを「国力」といいます。

ご存知の通り中国は、総人口13億人でその兵力230万人はダントツの世界第1位。長期にわたって年率10%以上の成長を続け、国内総生産は07年にはドイツを抜いて世界第3位。兵器の近代化、作戦能力(技術力)いま一歩ですが、アヘン戦争以来の臥薪嘗胆が実り国家意識は高揚、漢民族(少数民族は除き)の戦闘意思は高揚しています。中国が金メダル獲得第1位であって何の不思議もありません。

しかし、中華帝国の復活だけはごめんです。次回ロンドン五輪もアヘン戦争の仇敵・イギリスでの開催ということを材料に中華ナショナリズムをあおり、メダル獲得トップを目指すのでしょうか。うんざり、ですね。

第2の米国は、世界の軍事覇権を一手に握ります。国内総生産で第1位、軍事予算で世界第1位、航空戦力、艦船力、核兵器、ミサイル保有数でも群を抜きます。総人口3億人は中国、インドに続く第3位ですが、兵力は130万人で中国に次ぎ第二位です。北京での金メダル獲得数は前回アテネ並みですが、金銀銅のメダル総数は102個から110個に増加し、衰えるところがありません。歩兵の能力(陸上選手)がジャマイカやケニヤに負けているのが気になりますが・・・。

第3位ロシアの「国力」はいびつです。ロシアの国内総生産1兆ドルはアメリカの13分の1、中国の3分の1に過ぎず、世界11位、総人口1.43億人は9位(10位は日本1.27億人)です。なのに、核兵器保有は世界1位、軍事予算は米国に次ぎ第2位、兵力は100万人弱と北朝鮮についで世界第5位、身分不相応の軍事力を抱えています。グルジアへの侵攻に軍事力誇示、帝政ロシアの復活を見ます。

しかし、ロシアの総メダル数はアテネの92個から72個へ22%も減少、旧ソ連時代の軍事力と国家スポーツといういびつな遺産を確実に食い潰しているに違いありません。メダル減少は当然です。

国家の力を測るもうひとつの尺度は、「民力」です。「民力」とは、国民一人ひとりが自ら幸福を追求することができる力を表すものです。自然、環境、文化などの無形財産、教育、医療、年金など国民すべての幸福感を高め、効率と公正を保証する制度資源が豊かな国家ほど「民力」は高いといえます。

こうした民力の高い国家は、北京で金メダルをどれぐらい獲ったのでしょうか。その「民力」を測る指数を、一人当たり名目GDP(06年、ドル換算)に代表させます。かつて日本は世界1、2位の一人当たり名目GDPを誇った時もあったのですが、06年では3万4125ドル、世界20位です。注目すべきは、一人当たり名目GDPがトップクラスの北欧諸国です。高福祉高負担ですが、福祉の充実と経済成長が両立している「民力」にすぐれた「質の高い国々」といえます。。

一人当たり名目GDPが日本の2倍(7万1999ドル)で世界2位のノルウェーが、北欧諸国に中では最もたくさんメダルを獲っています。それでもメダル獲得数は金3、銀5、銅2で総数10個とほどほどです。7位デンマーク(5万0857ドル)は金2、銀2、銅3、総数7個、9位スウェーデン(4万3291ドル)は金なし銀4、銅1の総数5個。11位のフィンランド(3万9790ドル)金1、銀1、銅2の総数4個です。

北欧諸国のメダル獲得数が一人当たり名目GDPの高さに比例しているのが面白いところですが、獲得数はさほど多くはありません。「民力」の高い国は、国威発揚の必要もないからメダル数などにはこだわらない、だからメダルが少ないのでしょうか。総人口はスウェーデンが900万人で最も多く、デンマーク541万人、フィンランド523万人、ノルウェー473万人に過ぎません。「兵力」がないのだから北欧諸国はメダルが取れないともいえますが、夏季オリンピックに冬季オリンピックのメダル獲得数を合算すれば、これらの民力の高い国のメダル獲得数は大きく膨らむはずです。北京でも大健闘だといえます。

日本は、国内総生産は世界第二位、軍事予算は中国に次いで世界第4位です。韓国や中国、ドイツなど徴兵制のある国に比べると、若者の鍛え方、気構えに若干問題がありますが潜在的な「戦闘能力」は意外に大きいといえます。その「国力」からすれば、韓国の金13、銀10、銅8、総数31個を下回る日本のメダル獲得総数25個(金9、銀6、銅10)は少なすぎるといえます。

しかし、小生は、日本は「国力」(戦闘能力)より「民力」(国民一人ひとりの幸福度)を大切にしている国だと思っています。「国威発揚」や「国力」の誇示のためにスポーツをしている若者はあまりいない国だと思います。

金メダルを獲った姿を「かおり」と「ひかり」(女房・息子)に見せたくてがんばった柔道の内柴正人のような選手もいました。金メダルを連続して2つ、計4つも獲った北島康介選手の活躍を手放しで喜んだのは、地元商店街の人々でした。アメリカに初めて勝って金メダルに輝いたソフトボール・上野由岐子投手の群馬の勤め先の人々、感動的な実況解説をしてくれた前監督・宇津木妙子さん、この人たちの喜び方は、アマチュア中心の「民力国家」特有のものかもしれません。

「国力」を誇る兵隊選手などではなく、「民力」選手が中軸の日本には、今回のメダル獲得数は多すぎたかもしれません。小生、褒めたいと思います。

2008年8月20日 09:43

「捨てる」とは、過去にけりつけること

(08年8月20日筆)
 
昨年の暮れ、脳梗塞の疑いで聖路加病院に一週間ほど入院してから、小生の内部で何か変わったように思います。検査の結果、脳梗塞の疑いは杞憂に終わったのですが、以来、捨てることが大切、捨てることによって過去に早くけりをつけることが大切だ、と思えるようになりました。

まず、喫煙の過去を捨てることになりました。19歳の浪人中、予備校のそばにある公園で輪切りのピースを吸ったのを皮切りにハイライト、セブンスター、マイルドセブンと吸い継ぎ、40年です。タバコは、進まない原稿書きを進める必需材と思っていました。徹夜で原稿を書いたときなど、灰皿が吸殻でてんこ盛り、うたた寝して火事にならないかよく心配をしたものです。今はタバコがなくても原稿を書けますので、タバコが必需材というのは誤信でした。ただ、タバコを吸っていたときのように一気呵成に書き上げることができません。休み休み、タバコの代わりにコーヒーをすすりながらの原稿書きです。

それから、退職して1年も経過していたのですが、会社の先輩・後輩に退職の挨拶状を書きました。小生、ジャーナリストをしていながら、ひどい筆不精です。はがきは買うのですが、年賀状も暑中見舞いも書きそびれることがしばしばで、返事を書くのが精一杯でした。勇気を奮って、退職の挨拶状を兼ねたへんてこな年賀状を200枚近くも書いて出しました。郵便ポストに投函した瞬間、「これで会社人生という束縛された過去を清算できた」からでしょうか、とても爽快な気分になりました。

サラリーマンの制服である背広やスーツ、ズボンも、最近ですが、一気に纏めて捨てました。早稲田大学オープンカレッジの講義にはカジュアルな衣服で出掛けますし、これから多くなる葬式用にはダブルの喪服があります。普通の背広やスーツを着るのは講演のときだけですから、冬物、合い物の2、3着もあれば用は足ります。ということで、あれも要らない、これも要らない、小さくなった、あるいは流行おくれになった、背広やスーツ、ズボンを20セット分ぐらい捨ててしまいました。背広もズボンも、会社人生の久しい友達だったのですが、これも用なしです。体重が軽くなった気分です。

退社時に整理すべきだったのでしょうが、遅まきながら頂いた名刺もすべて捨てました。その多くは取材先の名刺です。いつか役に立つと思って残しておいたのですが、まったく役立たずでした。役に立たない名刺の代表は、大会社のサラリーマンの名刺です。この名刺の人物は、小生と同様に歳をとり、小生と同じようにリタイヤーします。サラリーマンは、組織を離れ権力を失えばほとんど無価値になります。老後、友人にはなれても、取材先、仕事相手にはなりません。これに比べ、苦労して事業を育て上げたベンチャーなど創業オーナーたちは、いつまでも現役で、その名刺は生き生きしています。まだ使えます。

後生大事に保存していた新聞の切抜きや資料・データや取材メモ、過去の講演録の類も潔く捨てました。なぜ資料類を残すのか、これはジャーナリストの習癖としか言いようがありません。これらを使って何か書き残したいのです。しかし、小生の回顧録など家族も読まないでしょう。先輩の高橋亀吉翁は『大正昭和財界変動史』など歴史に残る名著を老後に多く書き残しましたが、小生にはそのような才能も気力もありません。読むこともない黄ばんだ切抜きや資料・データなどゴキブリとダニの巣になるだけです。それに気づいて、すべて捨てました。

最後は難物の書籍です。尊敬していた先輩記者は、退職と同時に古本屋に来てもらい書斎の書籍をすべて売り払い整理したのですが、その売上総額は3万円に満たなかったそうです。どんな書籍を買い、読んだか、それは過去の知的営為の軌跡です。それがたったの3万円。書籍を捨てることは、自分のジャーナリストとしての知的営為を捨てることです。そう小生は思っていましたので、退職してすぐ3万円でジャーナリストを捨ててしまった先輩の心境をなかなか理解できませんでした。

小生、過去の知的営為を捨てるにしのびず、退職しても「捨てる書籍」と「保存しておく書籍」を区分けし、徐々に整理をすすめてきました。しかし、これも捨てるに忍びない、あれも取っておこうと思い煩い、なかなか整理が進みません。進まないのは、「保存しておく書籍」について「なぜ保存しておくのか」、その理由がはっきりしていないためだと気がつき始めました。歴史書やドキュメンタリー、小説は、自分が読み返すつもりがあれば、「保存しておく書籍」にすることができますから選別するのは簡単です。

厄介なのは小生がジャーナリストとして後生大事に貯めこんできた書籍です。よく考えてみると、経済や政治の書籍など、ほとんどが時とともに消え去る消耗品です。保存しておいても古臭くて使い物になりません。経済行動の原理・法則や政治・政策の基本原理を書いた書籍、万古不変の人間行動と人間の心理に踏み込んだ書籍、人々に読みつがれた古典的名著、それに最新の経済事象を理解するにたる一握りの解説書があれば、小生は、余生としてのジャーナリスト人生を過ごすことができます。それに値する書籍などそんなに多くはありません。経済・政治の本は、ほんの一部を除いて纏めて捨てるべし、です。

そう思っていても、纏めて捨てることができるかどうか、まだ自信がありません。65歳、70歳と歳を重ねるごとに徐々に捨てられていくはずです。しかし、いま一気にすべてを捨てることはできそうもありません。才能も実績もないのに、書籍を抱え込んで、ジャーナリストという職業に死ぬまでこだわるなど、無駄で無益なことです。先輩はそれを知って退職後すべての書籍を捨てたのです。小生も、書籍を抱え込むことなど余生にとって無駄で無益なであることを重々承知しているのですが、それらを捨て過去にけりをつければ、人生が終わってしまうようで怖いのかもしれません。肝心なところで、捨てる勇気が湧いてこないのです。トホホ。

2008年8月14日 21:06

株価急落、不安な五輪後の中国経済

(08年8月13日筆)

数万発の花火が国家体育場(通称・鳥の巣)を中心とする北京市街に打ち上げられ、まるで東京大空襲のように北京が燃え上がりました。北京五輪の開会式は、これまで見たこともないような華やかさと美しさを見せ付けました。

その開会式が行われた同じ08年8月8日、上海証券取引所では、株式が売り浴びせられ、この歴史的な開会式を祝うどころか、急落に見舞われました。
8月8日の上海総合指数は121ポイント、率にして4.47%の大幅下落になりました。北京五輪後の中国景気の減速を予想しての下げだとされています。

次の営業日、8月11日月曜日は、前週末のNY株高騰を受け反発すると期待されたのですが、この日も上海総合指数は135ポイントの続落。5.20%の下げとなり、2日間で10%近い下げを記録したのです。この日、大きく売り込まれたのは中国国際航空、北京市西単商場、北京王府井百貨などの北京五輪関連株でした。開会式の翌日に五輪相場は止めを刺されたことになります。

上海証券取引所は、信用取引ができない、外国人投資家が参加していないなどの理由から取引に厚みがなく、上げ一方、下げ一方という日本の新興市場での値動きに似た動きを見せます。上海総合指数は、05年7月の1004ポイントから2年3ヶ月で約6倍にも急騰。昨年10月に6124ポイントの最高値をつけた後、急落。10ヵ月後の8月11日には2470ポイントまでつるべ落としの下落です。ピーク株価の59.6%も値下がりしたことになります。

この上海総合指数の急落は、いったい中国経済のどのような矛盾を映し、どんな将来を予見しているのでしょうか。

中国経済は、過去5年、輸出の拡大をリード役にして機械設備、住宅・賃貸ビル、社会インフラなどへの投資(固定資本投資)など内需が盛り上がり、10%を越す経済成長をつづけてきました。しかし、この成長過程で、①資産価格の高騰(資産バブル)、②消費者物価の急上昇(インフレ)、③所得格差の拡大という3つの大きな矛盾を抱え込みました。

第一に資産バブルですが、その象徴が2年3ヶ月で6倍にも跳ね上がった上海の株式バブルです。不動産も沿海部を中心に、マンション価格が投資目的による売買などによって2倍、3倍に高騰するようなバブル価格になりました。

こうした資産バブルを抑制するために、昨年10月の共産党大会以降、中国政府は「景気過熱の防止」政策に転じ、預金準備率の引き上げ、窓口指導の強化など量的な金融引き締めを実施したのです。それによって株式、不動産の資産バブルの崩壊が始まったわけですが、五輪開会式後の株価急落は、バブル崩壊が最終局面に入ったことを表しています。沿海部の不動産バブルも沈静化し、株・不動産あわせて逆資産効果による消費減退が懸念されるようになりました。

さらに、この金融引き締めは、当然のことながら実体経済にも効き始めました。特にサブプライムローン危機によって中国の対米輸出が伸び悩み始めてから、引き締め政策が景気減速を本格化させる、いわゆるオーバーキル(景気の冷やし過ぎ)をもたらす恐れが出てきたのです。沿海部の輸出企業や中小企業、不動産業の中には、輸出減退と引き締めによる資金繰りの逼迫から破綻懸念を抱えるものが続出し始めています。

7月下旬に開かれた中国共産党政治局会議では、この景気減速のリスクを回避するため、「景気過熱の防止」(資産バブルなどの制圧)から「経済の安定的で比較的早い発展の堅持」(景気減速の回避)に政策転換することになりました。そこに立ちはだかったのが、08年上期平均で7.9%にもなる消費者物価の上昇です。第二の矛盾です。この物価上昇の原因は、世界的な原油高や穀物高が主ですが、中国の場合、これに賃金上昇によるコストプッシュが加わり、インフレ圧力は強いといわざるを得ません。

中国社会では、鄧小平が唱えた先豊論(先に豊かになれるものから豊かになる)が行き過ぎた面もあります。高度成長政策によって先豊者は増えましたが、内陸部、辺境部に住む国民の多数は低所得状態をつづけており、所得格差が拡大(第三の矛盾)しています。これと環境汚染や官僚腐敗の問題が重なって、国内には社会不安の種が深く沈潜しています。消費者物価の高騰は、格差にあえぐ低所得者層の生活を直撃し、北京五輪によってかろうじて押さえられていた各地、各層の不平・不満が表面化する危険があります。

かりにインフレ抑制を優先し金融引き締めを継続すれば、景気減速が本物になります。中国の場合、減速といっても11%台の成長率が8~9%台に下がるグロース・リセッション(高成長下の不況)です。しかし、中国は、最低でも8%台の経済成長率を維持できなければ失業者を吸収できず、失業率が上昇するという雇用の構造問題を抱えています。

失業率の上昇を防ぐためにも景気減速は回避しなければなりません、景気減速を回避するには量的金融引き締めを解除する必要があります。事実、人民銀行は、融資枠の拡大を銀行に認めはじめました。しかし、量的引き締めを緩和すれば、消費者物価の上昇がふたたび加速する恐れがあります。中国では、インフレの抑制と景気減速の回避という2つの政策目標は、「あちらを立てればこちらが立たない」というトレード・オフの関係にあるのです。

上海総合指数は、金融引き締めの解除をめぐる「景気減速の回避」と「インフレの抑制」の2つの政策目標のトレードオフ関係を嫌気して急落したといえます。この中国経済のトレードオフを解く鍵は、インフレの原因である原油価格の下落にあります。その下落を決定的にするのが、中国の景気減速による石油消費量の減退だというのですから、皮肉な自作自演劇というほかありません。

2008年8月 6日 08:57

「国民目線」とは選挙目当てのことか

(08年8月1日筆)
 
もう忘れてしまったかも知れませんが、8月1日、内閣改造人事を終えた福田康夫総理が記者会見で「国民目線」という言葉を連発していました。思わず「カメラ目線」というテレビ業界の専門用語を連想してしまいました。流行語大賞には程遠い、この品格のないキャッチフレーズを考えたブレーンは民放テレビの人でしょうか。

テレビの出演者が、映しているカメラに目線を送ることを「カメラ目線」といいます。テレビの視聴者は、この「カメラ目線」によって、出演者が自分に直接話しかけられていると錯覚するそうです。しかしこの「カメラ目線」ですが、カメラのほうばかり見ていて共演している相手方の目を見て話していない、わざとらしい、不自然な目線といえます。いま目の前にいる話し相手を無視して、テレビの向こうにいる視聴者に媚を売る目線なのですから。

福田総理は、「国民目線」の政治の第一弾として「原油高、食料品価格高騰に対する総合経済対策」のとりまとめを就任したばかりの与謝野馨経済担当相に指示しました。与謝野大臣は、農水省、国土交通省、経産省など背後に省益につながる業界を抱える縦割り省庁から対策案を吸い上げることになります。対策費の財源は07年度予算で余った3000億円の範囲といいますから、景気後退を下支えする景気対策としては何の効き目もない規模です。

ただ、農業者や漁業者、運輸業者など「業界票」、「中小企業票」、遠隔地など「地方票」のとりまとめには多少は効き目があるかもしれません。一部の選挙民に実質的な燃費補助金を供与するのですから。小沢民主党は農家への戸別所得保障などのばら撒きで選挙民を釣るそうです。その向こうを張って福田自民党は、燃費補助金をばら撒き、民主党に流れる票を何とか食い止める算段です。国民の税金を使って政府与党への票をとりまとめるなど許しがたいことです。

「国民目線」の政治とは、選挙に勝つためなら、選挙民に媚を売り、特定の選挙民に税金をばら撒くのも厭わないという政治のことだとわかりました。高騰する原油で困っているのは漁民や農民、運輸業者だけではありません。食料品、ガソリン代、電力・ガス代(秋から)など生活必需品の急速な値上がりで痛手をこうむっているのは生活者や消費者も同じです。都市や工場で働く非正規雇用のワーキングプアも被害者です。卑しい言い方ですが、生活者や消費者もワーキングプアも、漁業者のように鉢巻をして集会を開き、声を上げれば、ばら撒きのお布施、掴み金をいただけるのでしょうか。

与野党問わず、ほんの一部の選挙民の「目線」を恐れて(票が欲しくて)、差別的なばら撒き政治がまかり通っているというほかありません。政権維持か、政権交代か、政権の奪い合いのために、与党も野党も、国民の貴重な税金をばら撒いて票集めをするというのなら、「総選挙」などやらないでください。総選挙には500~600億円の経費が掛かるそうです。これも税金から支払われます。「総選挙がいつか」「どちらが勝つか」だけしか論じない、競馬予想屋のような政治記者や政治評論家の意見を無視して、福田さん、あと一年、任期いっぱい、解散せず勤め上げてください。

「一内閣一仕事」といわれます。衆参のねじれ国会の状態で、福田内閣が多くの仕事ができるなどと誰も思っていません。あと一年、総理唯一の権限といって過言ではない「解散権」を握ったまま総選挙はせず、その代わり「一仕事」でよいから断行して、歴史に福田内閣の足跡を残してください。

小生は、新に内閣官房長官のもとに発足した「行政支出総点検会議」(座長・茂木友三郎キッコーマン会長)に大きな期待を寄せています。この会議は、東国原英夫・宮崎県知事が参加して話題を呼びましたが、経済同友会の知恵袋だった茂木座長の外、小生の友人・知人も参加しています。一人は頑固な財政均衡論者として知られる富田俊基(中央大学教授、前・野村総研主任研究員)さん、もう一人は正統派の経済ジャーナリストである嶌信彦(元・毎日新聞経済部記者)さんです。富田さん、嶌さん、陰ながら応援しています。

この会議は、特別会計の支出公益法人への行政支出、その他行政支出全般にわたって「国民の目線で無駄の根絶に向けた指摘を行う」ことを任務としています。省庁、独立行政法人、特殊法人、公益法人などの役人、準役人による、言葉は悪いですが「国家へのたかり」をつぶさに指摘することになるはずです。通称「無駄ゼロ会議」といいますが、役人たちの隠微な抵抗を跳ね飛ばし、役人たちの「たかり根性」を叩きのめしてほしいのです。

この会議の成功こそ、福田内閣があと一年かけてできる「一仕事」かもしれません。もし役人の抵抗が強くてどうにもならないのなら、これまで行政支出に鋭く切り込んで成果を上げている長妻昭議員ら民主党との部分連立を組んだらどうでしょう。「行政支出総点検会議」を行政支出総点検のための「国民会議」に格上げするのです。新聞屋(ナベツネ)が仲介した変な「大連立」ではなく、役人と戦うための「部分連立」であれば、「国民目線」は大いに歓迎すると思います。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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