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大西良雄ニュースの背後を読む

2008年3月

2008年3月25日 19:28

ポスドクは「ポイドク(ポイ捨てドクター)」

(08年3月26日筆)
 
このブログで昨年5月、「博士卒の悲惨」と題して小生の次男坊が遭遇するであろう院卒の悲惨さについて書きました。その次男坊が、ついに「博士(医学)の学位を授与する」と書かれた学位記(博士号の証書)をいただきました。それを持って、久しぶりにわが家に帰って来ました。

丁寧に装丁された学位記をありがたく拝読しましたが、考えて見ますとこの「博士号」という紙切れ証文、高くつきました。学士4年、修士2年、博士4年(医学系は1年長いのです)、合わせて10年です。学費と下宿代、生活費あわせて年間300万円の仕送りですから、博士号をとるのに3000万円掛かったことになります。

それだけではありません。修士、博士に進まず、就職していれば年平均350万円、次男坊は6年間で2100万円の所得を得ていたはずです。その逸失所得をあわせれば、わが家は「博士号」を取得するのに5000万円以上のコストを掛けたといってもよいでしょう。

医学博士といっても医療系の博士号ですから、医師免許を持っているわけではなく、医者になって大きく稼ぎ、「博士号コスト」を一気に回収することなどできません。研究者として世界に注目される成果を上げ、ノーベル賞クラスの年金付き賞金をもらうか、発光ダイオードーの発見者のように有用な発明をして、勤めていた会社を訴えその正当な対価を獲得するしか、回収の道はなさそうです。

それでも次男坊は恵まれているほうかもしれません。この4月から3年任期の博士研究者「ポストドクター(ポスドク)」として政府系の研究機関で働くことになったのですから。研究テーマがありアシスタントがついて、3年だけですが年収400万円にはなるそうです。助手でも講師でもない単なる「ポスドク」として大学の研究室に残った博士卒は、月収10万円に満たないそうです。

ボーナスはありませんが、看護師並みの年収は確保できそうです。わが次男坊、餓死することはあるまいとほっと一息ついたのですが、それもつかの間でした。聞いてみると、医療保険は国民健康保険、年金は引きつづき国民年金だといいます。政府系研究機関に勤務する準役人ですから健康保険は共済保険、年金は共済年金に入るものと小生、思い込んでいました。ところが、眠る間も削って研究してきた「ポスドク」次男坊は、自由業、フリーターと同じ扱いなのです。

やっと研究機関にもぐりこめ、職にありつけたと喜んでいた親としてはショックです。次男坊は、研究機関の正式研究員でも正式職員でもないのです。3年間は雇うが、成果が上がらなければ契約は更新されず「ポイ捨て」の臨時雇い、契約を解除されれば次の雇い先をもとめて流浪する「ポスドク」ならぬ「ポイドク(ポイ捨てドクター)」なのです。

そんな親父の心配を感じ取った次男坊は、家内に「あと10年、研究者として自分の才能に賭けてみたい。それで駄目なら事業家にでもなって大稼ぎするから。そう親父にいっといてくれ」と言い残して、最近引っ越したばかりの新しい勤務先近くの賃貸アパートにそっと戻りました。

 それを聞いて「いい根性をしている」とわが息子を見直したのですが、息子がいう「あと10年」にも、小生引っ掛かります。あと10年たてば次男坊は40歳です。この間ずっと臨時雇いの昇給なし、ボーナスなし。しかも年金は基礎年金だけで一般のサラリーマンなら貰える報酬比例部分などないのです。

いくら研究者は実力主義、成果主義といっても余りに不安定すぎませんか。掛かった5000万円のコストを回収するどころではありません(教育コストの回収などはじめから期待していません)。これからもずっと貧乏がつづくのです。小生は、息子をこんな不安定な、将来不安がいっぱいの環境に曝すために博士号を取得させたのではありません。何とかならないのでしょうか。

つい、夢想してしまいます。自分の息子が、大きな研究成果を上げてその政府系研究機関の「常雇い研究者」になり、首尾よく共済保険、共済年金に加入している姿を。でなければ、アメリカに飛んで多額の研究資金付き研究者になり、青い眼の花嫁でも連れて帰ってくる次男坊の姿を。こういうのを自分の息子さえよければと思う「エゴ親心」というのでしょうか。

2008年3月19日 15:38

利下げが効かないー―アメリカの深刻な病気

(08年3月19日筆)
 
バーナンキ議長が率いるアメリカの中央銀行・FRB(連邦準備制度理事会)は、昨年来、政策金利を5回連続して引き下げ、FFレートは5.25%から2.25%まで急下降しています。

このFRBの果敢さ、迅速さは、バブル崩壊後の日本の政策決定などに比べ高く評価されるところですが、残念なことに効き目がほとんどありません。NYダウは政策金利を引き下げた当日こそ急反発しますが、その後すぐに下落に転じ、市場はさらなる追加的な政策対応を催促することをつづけています。

市場が決める「株価」を馬鹿にしてはいけません。株価は、経済の先行きやそれが抱える問題についてきわめて敏感に反応します。FRBの連続的、大幅な金利引き下げに対してNYダウが反応しないのは、アメリカ経済が利下げでは解決できないような深刻な問題を抱えていることを暗示しています。

普通、金利が下がれば金利負担が軽減され、資金の借入れ需要が出て、消費や投資が活発になるという予想が成り立ち、それを先取りして株価は反発、回復に向かうことになります。しかし、今回は、金利が大きく下がり金利負担が軽減されるにもかかわらず、資金需要が出てこない。したがって、消費や投資も回復せず景気が悪化を続けるという予想が変わらず、株価も下落を止めないのです。

なぜ資金の借入れ需要が出てこないのか。それはアメリカの家計部門が、住宅バブルの崩壊によって過剰債務の解消に迫られているからです。家計は、借金の返済を急がなければならない火の車状態にあり、新たに資金を借り入れ、消費をしたり投資したりするどころではないのです。

三菱UFJ証券のチーフエコノミスト・水野和夫さんの計算によるとアメリカの過剰債務は、07年末時点で3.8兆ドル(約380兆円)にのぼるそうです(「中央公論」08年2月号)。バブル期に不動産などへの融資が増えて日本経済が抱えこんだ過剰債務は、ピーク時の1989年時点で108兆円だったといいます。アメリカは、家計に過去10年間、住宅資金をせっせと貸し込み、日本のバブル経済のピーク時の4倍近い過剰債務を抱え込んだことになります。

この過剰債務を返済するのは、まず家計です。家計は消費を切り詰めてローンを返済するか、返済できない場合は住宅を売却する、あるいは住宅を借金のかたに金融機関に召し上がられることになります。焦げ付いた住宅ローンを抱え込んだ金融機関、その住宅ローンを証券化した金融商品に投資した投資家も負担を迫られます。金融機関も投資家も、借金返済に追いまくられ、資金繰りに四苦八苦することになります。新たな投資どころではありません

アメリカでもヨーロッパでも、資金繰りに生き詰まったいくつかの住宅金融会社、ヘッジファンド、中小金融機関がすでに倒産し始めています。つい最近では住宅ローン担保証券の値下がりに耐え切れず、アメリカの第5位の証券会社ベア・スターンズが行き詰まり、JPモルガン・チェースにたった一株2ドル、二束三文で買収されました。1990年代に日本で起きた住宅専門会社「住専」の破綻、三洋証券、山一證券の破綻を思い起こさせます。

その日本が不良債権の処理という形で過剰債務の解消を終えたのが2004年ですから、解消するのに15年間かかったことになります。この間、日本経済は、日銀が政策金利をどんどん引き下げついにはゼロ金利としました。それでもデフレ状態から脱却できず、量的金融緩和政策に踏み切りました。水野さんは、アメリカが過剰債務を解消するのに8年かかるといっています。アメリカは今後8年間も、つい最近までの日本と同じように「利下げが効かない経済」に落ち込む可能性があるのです。

しかも、「効かない利下げ」は、アメリカと海外の金利差を縮めてドル逃避を招き、一方でドルの全面安、一方で原油高・金価格という副作用を生んでいます。日本では、バブル崩壊後、「景気が悪いから、物価が下がる」というデフレ経済を経験しました。アメリカ経済は、ドル安、原油高によって「景気が悪いのに物価が上がる」という厄介なスタグフレーションの罠に引きずり込まれようとしています。

利下げによる金融緩和がドル全面安などの副作用を引き起こしていることを知っていても、FRBは、それを止めるわけにはいかないのです。金融緩和を止めれば資金繰りに行き詰まる金融機関が続出して、信用危機の連鎖が起こるからです。アメリカは。副作用を覚悟で超金融緩和というカンフル注射を打ち続け、その間に病気の根源を切開して除去しなければならない段階に差し掛かっているともいえます。

アメリカが陥っている「利下げが効かない」病気の根源は、住宅ローン返済の焦げ付きとそれによって生じた金融機関の経営危機―信用不安にあります。利下げが効かないということは、「市場」が機能しないことを意味します。「市場」が機能不全に陥っているときこそ、政府が介入して市場を建て直すときです。 

今回のアメリカのバブル崩壊対策を見ていて、日本政府がかつて採った政策を早回しのVTRで見ているような気がします。これからアメリカ政府が採用するのは、焦げ付き住宅の公的買い上げ、金融機関の資本不足対策としての公的資金の投入など住宅バブル崩壊に対処する「公的介入」ではないでしょうか。

2008年3月12日 00:00

武藤日銀総裁、伊藤副総裁「不同意」の愚

(08年3月12日筆)
 
困ったことというか、恐れていた事態に陥りました。参議院で過半数を握る民主党など野党が、武藤敏郎(前日銀副総裁)総裁、それに伊藤隆敏(東大大学院教授)副総裁の人事に不同意、白川方明(元に日銀理事)の副総裁人事には同意することを決めました、このままいくと日銀総裁と一人の副総裁が空席、残り一人の副総裁が総裁職を代行するという前代未聞の事態になります。

武藤氏に対する「不同意の理由」のひとつは、彼は、財務省の事務次官であったので、日銀が財務省の支配を受け独自の金融政策を決められなくなる、というものです。財務省出身の中央銀行総裁など、世界中にごろごろしているのに…。

日銀の財政からの独立性は、改正日銀法によってかつてより厳しく維持されています。日銀総裁は、任期終了まで特別な事情がない限り解任できません。政治や財政などからの介入を排除し中立性を確保するためです。さらに、金融政策は9人からなる政策決定会合の過半数によって決められます、総裁、副総裁といえども9分の1票にすぎません。財務省の希望を入れ、国債の金利支払いを抑えるために低金利を続けるというような財務省出身総裁の無理強いは、多数決で否決されるでしょう。

もうひとつの「不同意」理由は、武藤氏が副総裁として進めた量的緩和政策やゼロ金利政策が、預金者から利子所得を奪い、消費を縮めたというものです。では、日銀が量的緩和政策やゼロ金利政策を採用しなければ、日本経済はどうなっていたのでしょうか。多分、大中小問わず、債務過剰でバランスシートが大きく痛んでいた多くの企業が倒産し、日本経済はデフレスパイラル(恐慌)に突入、失業者があふれ消費はさらに縮小していたでしょう。不同意の民主党・仙石由人さん、それぐらいの理屈はご承知のうえでしょうね。

デフレ対策を日銀の利下げ政策だけに押し付けたという批判はあり得ます。しかし、バブル崩壊後、景気対策と称して公共投資や減税による「ばら撒き」に終始した財政政策は効果がなかっただけではなく、GDPの倍にもなる長期債務(国家の借金=将来世代の税負担)をもたらしました。日銀が孤軍奮闘せざるを得ない事態ですから、私には日銀に同情はしても、批判する気にはなりません。

気の毒なのは、伊藤隆敏・東大大学院教授の副総裁就任「不同意」です。伊藤さんは、一橋大学出身、ハーバード大学に留学してノーベル賞経済学者のケネス・アロー教授に学び博士号を取得、ミネソタ大学で教鞭をとった経済学者です。しかも単なる経済学者ではありません。国際通貨基金(IMF)調査局の上級審議官、財務省の副財務官の経験もあり、武藤氏や白川氏よりはるかに国際的に知られた、金融実務にも通じた学者として定評のある人物です。

彼は、私の属していた東洋経済とは深いつながりがあります。日経図書文化賞をとった処女作「不均衡の経済分析」は東洋経済刊ですし、週刊東洋経済の巻頭コラム「経済を見る眼」の常連筆者でもあります。私も何度かお話しましたが、東大卒とは違って腰が低く、フランクな人格者です。インフレターゲット論者で日銀批判の急先鋒でしたが、同じインフレターゲット論者だったバーナンキもFRB議長に就任してその旗を降ろした状態です。インフレターゲット論は就任の障害にはなりません。

民主党は、伊藤教授が、経済財政諮問委員会の民間議員として「格差政策を推進してきた」から「不同意」だといいます。空港の自由化、外資への金融市場の解放、労働市場の流動化、農業補助金の削減など規制改革、財政改革を進める役割を伊藤氏が果たしていることが「格差助長だ」というのです。

「改革」の問題はパイを大きくするための成長政策、「格差」の問題はパイの分け前を決める分配政策です。この二つは、経済政策の両輪です。「改革」は将来の分配の原資になるパイを大きくする政策です。いまは特にこれが必要です。伊藤教授のような、これを進める成長政策の推進者が分配政策を進める人とは別にいても何の不思議もありません。伊藤教授も「分配政策」には一家言あると思います。このことが日銀副総裁「不同意」の理由にはまったくなりません。

いっておきますが、民主党が副総裁就任に「同意する」の白川氏は規制改革や財政改革では、多分、伊藤教授とは同意見だと思います。日銀は、自由に価格が決まる「市場」を大切にする点では人後に落ちず、理事までなった日銀生え抜きの白川氏も改革派だと思います。民主党は、白川氏にも、「改革派=格差助長派か、どうか」確認されたらいかがでしょう。

世界がサブプライムローン問題を起因とする金融危機にあるとき、日本では日銀総裁人事をめぐる「信じがたい混乱」が起きたのです。世界の金融・通貨当局、投資家その他、金融経済を動かす人々に、「日本はあと二年、子供じみた未成熟な民主党が参議院を支配しつづける。かれらは、経済学では世界の常識になっていることすら反対する」という印象を植え付けてしまいました。

正直、この日銀総裁、副総裁人事「不同意」によって、民主党は「金融無知、経済ド素人、真性ドメスティック」の愚かな政治家集団であることを世界にさらけ出したと思います。長い間、民主党に期待を寄せていた小生ですが、農家への所得保障など「ばら撒き政治」といい、今回の日銀総裁人事「不同意」といい、ほとほと民主党に愛想を尽かしました。猛省を促します。


2008年3月 5日 09:07

李明博の「実用主義」と石橋湛山

 (08年3月5日筆)
私は、人気取りに終始する、いまの政治家がどうにも好きになれません。それ以上に好きになれないのが、雑誌記者上がり、ブンヤ上がり、社会評論・フリーター上がりの政治評論家(という名のテレビタレント)です。彼らは、テレビに常住し、選挙の洗礼を受けた政治家でもないのに、あるときは政治家を嘲笑し、あるときは政治家に説教してふんぞり返っています。

彼らが、下劣な政治家をこき下ろしているうちはまだ許せます。時としてひとつの外国語も満足にしゃべれないのに「外交評論家」に変じて、反中・嫌中、反韓、嫌韓の言説を弄することがあります。その裏返しとして、偏狭で情緒的な「日本国家主義」の言説を振り回すのですから、始末に負えません。

そんな不遜な「政治評論家兼外交評論家」に聞いてみたいのが、韓国の新しい大統領・李明博(イ・ミョンバク)氏の評価です。大統領に就任したばかりでまだ何もしていないのですから「評価できない」のは当たり前ですが、彼が就任にあたって「言ったこと」を小生、きわめて高く評価します。どうですか。

李新大統領は、就任にあたって二つのことを言っています。ひとつは、対中、対北朝鮮、対日をはじめ国際関係についてですが、彼は、「理念より実用」「理屈より実利」を大切にすると表明しました。もうひとつは、経済政策についてです。これについては、「小さな政府、大きな市場」を推し進め、5年間平均7%成長を実現するといったのです。

前大統領の盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏は、靖国参拝、竹島領有問題に絡めて反日・嫌日を声高に叫び、北朝鮮に対しては同民族としての情緒的寛容さで太陽政策を取りました。民族主義や愛国心、プライドといった「理念」や「情念」が過剰な政権でした。彼は、反韓、嫌韓を叫ぶ日本の「政治評論家兼外交評論家」と同根・同病の偏狭なナショナリストだったといえるかもしれません。

しかし、盧政権は、成長や格差などの経済問題という現実につまずき、国民は、腹の足しにならない「理念・情念」政治に愛想をつかして彼に三行半を突きつけた格好です。李新大統領の「実用主義」の政治姿勢は、ノ・ムヒョン政治とは対極にあるといえます。「実用主義」政治は、「理念・情念」を廃し、国民生活に役立つ、きわめて「現実的」で「理性的、合理的」なものになりそうです。

「実用主義」(プラグマティズム)とは、簡単に言えば、哲学を観念の世界から解放し、「哲学は社会にとって役に立つものでなければならない」とする考え方です。ドイツの観念主義哲学に対抗するもので、イギリスの「経験主義」に発しアメリカのシカゴ大学で完成された哲学です。李明博がいう「理念から実用へ」はまさにその哲学潮流の変遷を表現しています。

実は、日本でも「実用主義」を明確に意識した政治家がひとりだけいました。小生が敬愛してやまない石橋湛山(元総理)です。湛山は、早稲田大学文学部哲学科で田中王堂教授に学びました。田中王堂は、シカゴ大学に留学し、プラグマティズムの完成・デューイ教授に師事し、帰国してから日本のおけるプラグマティズムの唯一の唱道者になった人物です。プラグマティズムは、湛山思想の背骨の一つになっています。

湛山は、戦前、それも1920年代には「満州放棄論」、ひいては「植民地放棄論」を完成させ、中国民族や朝鮮民族の排日・独立運動に深い理解を示します。湛山は、「弱小国に対して『取る』態度を一変して、『棄つる』覚悟に改めよ。満州を放棄し、朝鮮台湾に独立を許し、その他支那に樹立している幾多の経済的特権、武装的足懸かりを捨ててしまえ。そしてこれら弱小国とともに生きよ」(「東洋経済新報」1921年7月30日号)と言い切っています。

湛山は、その言説に「実用主義」の一端をのぞかせます。「満州はじめ植民地を領有してこれを経営する場合、現地の人々の排日運動が起きる、それどころか米英との戦争になりかねない。植民地にある日本の施設や日本人を保護するためには、軍隊を派遣し軍備を強めねばならない。そのコストは膨大になる。
中国や米英と仲良くして、それらの資源を貿易のよって購入するほうがはるかコストが安い」というのです。つまり、コスト計算すれば、国際協調による貿易の活発化のほうが植民地経営よりはるかに安く、日本の得になると「実用主義」から植民地放棄論を展開したのです。

李明博氏は、「過去の歴史を引きずり、イズムや精神主義、民族的正義を振り回しても、何の得にもならない。『実用主義』に徹し、社会に実際に役立つことだけを追求すれば、自国も隣国も豊かになり、両国民は幸せになる」といっているのです。まさにデューイ-王堂-湛山の系譜です。

日本は、韓国、中国の間には歴史問題を抱えています。さらに、韓国とは竹島(独島)、中国とは尖閣列島、ロシアとは北方四島という領土問題を抱えています。これらの隣国との問題が紛糾すれば、必ずといっていいほど、一部の日本の政治家、評論家が相手国を嫌い非難し、日本の正義を訴えるナショナリズムを噴き上げます。ついでに言いますが、例の毒入りギョーザ問題で胡錦濤・中国主席の訪日を妨害する勢力が出てくることを深く憂慮します。

「正義は常に双方に存する」というような、隣接国に横たわる歴史問題や国境問題など世界中にどこにでもあります。かつてはこれらの問題を軍事力によって解決しようとして国もありますが、それが国民の利益を増したというような例を見たことがありません。軍事費がかさみ経済は疲弊し、尊い人命が失われるだけで、一銭の得にもなっていません。愚の骨頂です。

湛山は、こんなことも言っています。「われの利益を根本とすれば、自然相手の利益を図らねばならぬ。相手の感情も尊重せねばならぬ。われらは曖昧な道徳家であってはならぬ。徹底した功利主義者でなければなれぬ」。一銭の得にもならぬ歴史問題や国境問題は当分棚に上げ、わが国も「実用主義」に徹して、中国とも韓国とも小異を捨て仲良く、互いに利益になることをとことん追求すべきだと思います。

次回は、李明博氏の「小さな政府、大きな市場」というもうひとつの素晴らしいメッセージについて書きます。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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