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大西良雄ニュースの背後を読む

2008年2月

2008年2月28日 12:25

宮崎から別府へ、コリアン・パワーへの期待

(08年2月28日筆)

先週、宮崎日日新聞が主催する講演会に招かれ、都城、宮崎、延岡と宮崎県を北上し、ついでに故郷の大分県別府に立ち寄りました。噂には聞いていたのですが、九州を南から北へ上ぼるにつれ、背筋がピンと伸び、清潔で若々しい多くのコリアン・パワーに出くわし、驚かされました。

宮崎は、2月末まではプロ野球、プロサッカーのキャンプで大賑わいでした。野球では巨人、ソフトバンク、広島、西武、ヤクルト(2軍)の5球団が宮崎各地でキャンプを張っていました。欽ちゃんの茨城ゴールデンゴールズもキャンプを張っていたようですが、これはご愛嬌です。

サッカーでは、アントラーズ、ヴェルディ、フロンターレなどJ1の6チーム,サンフレッチェなどJ2の7チームが県内各地でキャンプを張り、プロサッカーの半分が宮崎県に引っ越してきたような賑わいでした。小生が泊まった大淀川のほとり、宮崎観光ホテルは、フロンターレの選手宿舎でした。エレベータで乗り合わせた選手は疲れきった顔をしていました。厳しい練習のせいなのでしょうか、強くなれないせいでしょうか。

異色は、韓国のプロ野球チームです。起亜タイガーズと斗山ベアーズが暖かい宮崎にキャンプ地を求めて来日していました。日本勢が沖縄やグアムなど南の暖かい土地でキャンプを張るように、韓国勢が朝鮮半島から南下して宮崎にもっと押し寄せるではないかと、東国原知事に代わって期待しています

東国原知事といえば、ガソリン税の暫定税率廃止は時期尚早、「高速道路がないから企業が来ない、人材が流出する」と嘆き、いまだ貫通していない宮崎県の2本の高速道路(宮崎と延岡を結ぶ東九州自動車道、日向から熊本にいたる九州横断高速道路)を早く作れと、がんばっています。

しかし、東国原さん、税金を宮崎に引き込んで「使われもしない高速道路」を作るだけがすべてではありません。韓国、中国と宮崎を結ぶ海路、空路も使えるはずです。道路がないから日本の企業が来ないというなら、宮崎県の清潔でおいしい、高級な農畜産物を海路・上海に輸出する道もあります。ご推薦の地鶏の串焼き、2万円のマンゴーのほかにも宮崎には多くの名産品があります。

宮崎空港や宮崎港を使って、東京より近い韓国や中国の旅行客を宮崎にもっと呼び込む方法もあります。破綻して外資系ファンドに買収されたリゾート施設「シーガイヤ」が単年度黒字に転じたという話を聞きました。韓国からリゾート客が次々に訪れるようになったからだそうです。

とはいっても、東九州の交通の動脈ともいえるJR九州・日豊本線はいまだに単線でした。上下線の列車が交錯すれば、特急でも止まらない途中駅で数分待ち合わせなければなりません。やはり宮崎は陸の孤島なのです。宮崎から別府まで「特急にちりん」でおよそ3時間、「陸の孤島・宮崎県の首長」東国原知事への同情を禁じ得ませんでした。

宮崎県の隣、大分県の湯の町・別府は、小生が高校2年の夏まで過ごした故郷です。上京してから風の便りに、新婚旅行客が減った、修学旅行客が来なくなった、そのため、東の熱海と同じように、町は寂れていると聞いていました。寂れているなら大丈夫と、一週間前に土曜日、日曜日、ダブルの部屋をホテル予約しようとしたのが間違いでした。どのホテルも満杯、別府では予約を取れず、お隣の町・日出(ひじ)でかろうじて予約を取れたのです。

満杯の理由は、ホテルに着いてすぐに分かりました。同泊の客の姿かたち、服装はわれわれとどこも変わりませんが、客の中には日本語をしゃべらない人がたくさんいたのです。それに、一緒に温泉につかって分かったのですが、彼らの中には小生のようなメタボと長髪、めがねの人物が見当たらない、老若男女いずれも、背筋がピンと張り、ゆるみがありません。そこが決定的に違っていると小生には感じられました。彼らは、青年の国・韓国の旅行客でした。

彼らは、韓国の各地から海路・空路、対馬海峡を渡って福岡に上陸、福岡を基点にバスに乗って、島原、阿蘇、湯布院、別府へと温泉観光の旅に出ているツアー客でした。小生が前日とシングルで泊まった亀の井ホテル、翌日家内を呼び寄せて泊まった例の日出の別府湾ロイヤルホテル、いずれを韓国人観光客が70%以上占めていたように思えました。同じ日、名門・杉乃井ホテルに泊まった親戚も「韓国人でいっぱいだった」と驚いていました。

韓国の国民一人当たり名目GDPは、2000年の1万0937ドルから06年には1万8480ドルに増加しています。李明博(リ・ミョンバク)新大統領は、「理念より実用」、「小さな政府、大きな市場」を旗印に、市場開放による成長優先政策を採用する腹積もりですから、経済は元気になること請け合いです。一人当たり名目GDPも、3万4125ドルの日本にすぐ近づいてくるでしょう。円に対するウォン高もつづき、韓国人の日本への旅行や投資もますます盛んになるはずです。

日本は、首都圏だけが栄え地方が衰退しているといわれます。しかし、元気な韓国、中国のパワーを日本に引き込んで地方を衰退から救うことができるはずです。日本の地方には、四季の変化、緑豊かな自然、湧き出る温泉、古い豊かな歴史・伝統、日用品文化など韓国や中国にはない魅力がいっぱいあります。何より日本人は清潔で外国人には親切、分け隔てがないと評価されています。

すでに日本に続々訪れてはじめている韓国人や中国人、台湾人、オーストラリア人が第一波とすれば、インドネシア、ベトナムなど途上アジアの人々は第2波です。日本企業の現地投資で豊かになり、通貨価値も上昇して、彼らもまた観光で日本の各地をたくさん訪れてくれる日、清潔でおいしい日本の米や野菜、果物や畜産物をたくさん輸入してくれる日が来るのではないか。小生の久しぶりの帰郷の旅は、思わずそんなことを夢想させる旅になりました。

2008年2月20日 09:37

「成長なくして分配なし」―「春闘」考

(08年2月20日筆)
 
梅が咲けば、桜が咲く。桜が咲く頃には入学式、入社式です。サラリーマンであれば人事異動の季節でもあります。誰しも、春が近づくとそわそわ落ち着かないものです。小生の場合、春は、落ち着かないだけではなく、気持ちが沈んでしまう季節でもありました。「春闘」という厄介なものが重なったからです。

小生は、会社勤めの頃、幸か不幸か、給料をいただく従業員(組合委員長)と給料を支払う経営者(常務取締役)の両方を経験しました。しかも経済記者(あるいは経済ジャーナリスト)として、労使の利害対立や感情的対立を超えて、問題を合理的に分析するもうひとつの立場があります。この3つの立場をどのように自分の頭のなかで折り合いをつけるか、いつも戸惑っていたのです。

従業員の立場に立つだけならば簡単です。あらゆる理屈をこね回して給料、つまり生活水準が上がるように経営者に迫ればいいのですから。しかしそれでは経営は成り立ちません。ですから経営者としては、当然、あらゆる理屈をこね回して給料、つまり人件費コストが増えないように組合と対峙します。

経済記者としては、その賃上げや労働条件の変更が企業経営(あるいは競争力)にどのような影響を与えるのか、日本経済の将来をどのように変化させるのか、それが望ましいマクロ経済を実現するかどうか、を考えなければいけません。労使の交渉に出席すると、ともに手前勝手な論理を振り回すのを制して、経済記者として論戦に参画したくなってしまいます。

たとえば、今年の春闘では、派遣やパートなど非正規労働者の待遇改善がはじめて労働組合の正規の要求として労使交渉の席に持ち出されました。日雇い派遣や偽装請負の問題も、労使の話題にはなるでしょう。この場合、非正規労働者の待遇をどのように考えるか、立場によって考え方は大きく異なります。

労働組合は、非正規労働者が正規労働者と同じ仕事をしているかぎり、彼らが異なった差別的な待遇を受けていることを許す根拠を見つけることできないはずです。これまで正規労働者の相対的高賃金は、非正規労働者の低賃金雇用によるコスト削減によってもたらされていた面もありました。しかし、これだけワーキングプア(非正規の貧困労働者層)が社会問題化した以上、正規労働者が属する労働組合は自らの労働条件を切り下げることがない限り、彼ら非正規労働者の労働条件を引き上げることに賛成せざるをえません。

しかし経営者には、正規であれ非正規であれ賃金を支払うのは同じです。ともに、総人件費を構成する一員であることに変わりはありません。ですから、経営者は、正規労働者の賃上げによる人件費増と非正規労働者の待遇改善にかかる人件費増と足して算出した総人件費を、予定した範囲内に納めようとします。その結果、総人件費というパイの中で、正規労働者と非正規労働者が待遇改善の分け前を奪い合い、正規と非正規の利害が対立することになります。

この対立を解消して両者の要求に等しく応えるには、経営者は総人件費というパイを大きくするしかありません。パイを大きくする方法は2つあります。ひとつは、売上げを拡大し利益を上げることです。つまり会社を「成長」させることです。もうひとつは、予定されている利益のうち人件費に回す割合を増やす、つまり労働分配率を高めることです。

会社を「成長」させるのは、グローバルな競争に打ち勝たねばなりません。大企業、中小・零細企業を問わず、中国やインドのような人件費コストの安い国の製品やサービスと競争しているのです。これに打ち勝つには、中国やインドではできないような高度な製品や魅力あるサービスを提供するしかないのです。これが成長戦略の王道ですが、成功している企業は少数です。

目端の利いた経営者は、中国やベトナムなどに進出して現地労働者を雇用し競争が可能な人件費コストで製品を作るようになっています(その分日本人の雇用が減っています)。それもできず、国内にとどまる企業は、賃金の高い日本人正規社員を減らし、中国やブラジル労働者を研修と称して安く使うか、日雇い派遣や偽装請負に置き換えるしかないのです。皮肉なことに、成長し利益を上げるには総人件費を削るのが最短の道だということになります。

労働者側に「分配」を増やすとどうなるでしょうか。企業には労働者に分配を増やした分だけコスト増になり、成長していなければ利益が減少することになります。(なお経営者の取り分を減らしても微々たるもので、労働者への分配をそんなに増やせるものではありません。)

実は、いまでも日本企業の収益力は、欧米企業に比べ大きく見劣りしているのです。日本の上場企業の株主資本利益率(ROE)は欧米の半分程度ですし、しかも、配当など株主への還元率もかなり低い状態です。労働者に「分配」を増やせば、利益が減り株主の取り分がさらに減って、投資家から見た日本企業の魅力は失われてしまうのです。

最近の株式市場では、外国人投資家が日本企業を買うどころか売っています。そのことを憤慨している日本人は、小生も含め多いのですが、逆に外国人は「その実力をよく知っているはずの日本人が日本株を売っているのに、なぜ外国人が買わねばならないのか」と憤慨しているといいます。

英国は10数年にわたって成長を続け、一人当たり名目GDPは1995年の1万9688ドルから2006年には3万9515億ドルへほぼ倍になりました。日本はこの間、4万1823ドルから3万4125ドルに減少し、英国の後塵を拝するようになっています。これには為替のトリックがあることは以前述べましたが、それを除いても日英の成長力格差には慄然とします。

この日英成長力格差のひとつは、自国への外国人による投資をどれくらい受け入れたかの差にあるといわれています。この外国人の対日投資は、日本人が非正規労働者の待遇底上げを含めパイの取り分を労働者側に厚くすればするほど日本企業から逃げることになります。投資が起こらなければ、産業や企業の高度化もできず、その結果、成長力が減退し、「分配すべきパイ」が小さくなるという矛盾を抱え込むことになります。

もう紙幅は超過しています。要は、「成長なくして分配なし」です。そう書けば書くほどマクロ経済記者の立場が優先されていきます。小生、もう従業員でも経営者でもないのですから、「ワーキングプアは不正義である」という単純な思考から離れるべきなのです。なのに、かつての「社会的不正を憎む」の組合委員長として考え方から抜け出ることができません。私、困ってま~す。

2008年2月13日 10:09

コンプライアンス不況の愚

(08年2月13日筆)
 
コンプライアンスを日本語に翻訳すれば、「遵法(法にしたがう)」となります。企業が法律に遵(したが)って行動するのは当たり前のことですが、その法律がやたらに厳しすぎたり、手続きが煩瑣になったりすれば、企業活動が沈滞して経済が不況に陥るというのが、「コンプライアンス不況」の意味です。

その意味で本当に腹立たしいのは、「改正建築基準法」でした。例のマンションの構造設計書を偽装した姉歯一級建築士の事件を機に、建築基準法が改正されたのですが、その結果、審査マニュアル作成が遅れたうえ、提出書類が膨張したり審査が厳しくなったりして建築確認がなかなか降りず、マンションも住宅も商業施設も軒並み着工が遅れてしまったのです。遅れただけではなく、着工を断念する業者も増えています。

姉歯一級建築士の設計偽装は確かに異常な事件でしたが、他の多くの一級建築士はまじめに設計していたはずです。ポピュリスト(人気取り)政治家と国土交通省の役人は、ここぞとばかり、特異な姉歯事件を一般化し、建築確認申請の審査をやたら厳しくしたに違いありません。異常な違反者をベースにルールを異常に厳しくした結果、建設投資が大きく落ち込み、景気を悪化させたといえます。規制の強化が、墓穴を掘りました。

実は、日本の建設投資はバブル崩壊による長い調整を経て、ようやく底入れし上昇局面を迎えていたのです。都市の再開発投資やマンション建設が活発化し、大型商業施設や工場建屋の建設が進むなど建設投資が盛り上がり、日本経済は、景気循環論でいう20年周期のクズネッツ・サイクル(建設投資循環)の上昇局面に入っていたのです。地価が下げ止まり、わずかに上昇に転じたのがその証拠でした。

この建設投資の拡大・上昇は、日本が、輸出だけに依存するという偏頗な景気回復から脱却する契機になるはずのものでした。また、国際的に見て極めて低い国内のサービス産業の生産性を引き上げ、競争力を高める投資でもあったのです。その期待の建設投資が、「改正建築基準法」にまつわる官僚の失態によって大幅な落ち込みとなったのです。泣くに泣けません。

法や規制の再強化による「コンプライアンス不況」の原因は、「改正建築基準法」にとどまりません。強引な勧誘や説明不足を防ぐ厳しい「金融商品取引法」が昨年9月に施行されましたが、これによって金融機関の現場混乱が引き起こされ、たとえば銀行窓口での投資信託が大きく落ち込みました。さらに、法人は、この金融商品取引法の遵守を盛り込んだ内部統制体制の整備が迫られ、これが法人による金融商品取引の予期せぬ沈滞をもたらすかしれません。

06年12月に小生のこのブログでも『新・貸金業法の「恐怖」』と題して紹介した「改正資金業法」も、規制の強化の結果、景気にはマイナスの圧力を加えています。消費者金融や無担保ローン業者に対する貸出金利規制や融資量規制の強化が、個人破産や企業倒産を増やしたからです。

消費者行政の強化一元化は、福田政権唯一の目玉公約ですが、これもやりすぎると、食品や農水産品、消費財などへの過剰な規制をもたらし、中小生産者の活動を萎縮させかねません。まったく実害のなかった日付偽装で販売停止に追い込まれた「白い恋人」や「赤福」は、販売再開と同時に人気を一気に回復させました。地方の経済を支える名産品が復活し本当によかったと思います。同じようなことが過剰な消費財規制の導入によって、引き起こされないか心配です。

話は飛びますが、お側用人あがりの老中・田沼意次は、賄賂や付け届けで政治を動かす汚職政治家のハシリになった評判が悪い政治家(これが間違いであることが大石慎三郎氏の研究で明らかにされつつあります)です。しかし、田沼意次の時代は、商人資本の育成、殖産興業政策の実行によって江戸経済は活況を呈しました。自由な雰囲気が横溢していた時代です。

自由で明るい田沼施政の下で、いまでも世界に誇れる、歌舞伎や浮世絵、黄表紙、洒落本など江戸文化が隆盛期を迎えます。江戸のエジソン・平賀源内、解体新書の杉田玄白も田沼時代の天才たちです。源内は、意次の友人でした。

しかし、意次は「汚職政治家の濡れ衣」を着せられ、殿中で暗殺されます。意次の後、老中になった白河藩主の松平定信は、汚職や華美を嫌う清潔な政治家でした。幕閣から「汚れた田沼派」を一掃し、寛政の改革に踏み切ります。 

定信は、倹約令を出し、奥方の着物の柄にまで指図しました。言論の自由にも介入し、政治批判の洒落本作家・山東京伝は手鎖50日、版元の蔦屋重三郎は過料に処せられます。版元・蔦屋は、大田南畝(蜀山人)、滝沢馬琴、十返舎一九や喜多川歌麿、東洲斎写楽を援助し育てた江戸文化の立役者でした。

 江戸経済は、定信が、あれをやってはいけない、これも自粛しよう、商人の金儲けはよくないといって規制を強めるたびにデフレが深刻化することになりました。デフレを呼ぶ貧乏神・松平定信の人気はどんどん下がり、市中ではこんな狂歌がはやるようになり、定信は4年で失脚します。

白河の 清きに魚の住みかねて もとの濁りの田沼恋しき

「白河の清き」は定信、「もとの濁りの田沼」は意次のことです。松平定信の「正義・倫理・清潔」主義は、結果として自由な経済文化活動を阻害し、「官製不況」を生み、今流に言えば「コンプライアンス」不況をもたらしたともいえます。

皆さんが、テレビの正義派コメンテーター「みのもんた」(07年12月の小生のブログ・影の総理は「みのもんた」?をご覧ください)にうつつを抜かしているうちに、役人どもが統制・規制・法律強化という爪を研いでいるのです。われわれは、息を吹き返した役人どもの術策にはまり、松平定信が冒した「コンプライアンス不況」の愚をまた繰り返すのでしょうか。

2008年2月 6日 11:05

かみさんの静脈瘤切除手術

(08年2月6日筆)
 
一泊二日、かみさんも聖路加国際病院のお世話になりました。街の皮膚科の医者から「こりゃひどい、静脈瘤や、心臓血管外科で見てもらいなさい」といわれてから2年ほど、どこにあるのか心臓血管外科、と捜していたのです。それが、小生が一時的な顔面麻痺で治療入院した聖路加病院にあったのです。

かみさんの右足の表側は、足首から向こう脛(すね)に掛けて色素が沈着、かゆいかゆいでした。裏側はミミズがのたうつように血管がとぐろを巻いて浮き上がっていました。小生の入院中に聖路加の血管外科の先生に診てもらったら、「静脈瘤です。年が明けたら切除手術しましょう」ということでした。

以下は、先生から手術後に付き添いの家族(小生のこと)として説明をうけたことの受け売りです。静脈瘤は、逆流防止弁が壊れ使いものにならなくなった静脈が拡張してできる瘤で、色素が沈着してかゆくなったり、血管がとぐろを巻いて見栄えが悪くなったりする。しまいには潰瘍になってしまうそうです。

手術は、右足の付け根と向こう脛の2箇所を3センチほど切り静脈を引き抜くものですが、脊椎麻酔の時間を含めて3時間かかりました。手術の後、先生は、「手術は終わりました。奥さんの静脈瘤は、かなり進行していました。これが奥さんの足から切除した静脈血管です」といいながら、ピクルスのはいったビンのようなものを小生の前に置きました。

ビンの中には、白いゴム紐状の血管が30センチほどホルマリンに漬け込まれていました。ゴム紐血管はつい先ほどまで家内の身体の一部でした。何か不思議な気持ちになり、先生に「持って帰られますか」といわれて思わず返事に詰まりました。家内もそう言われたそうですが、持って帰りませんでした。

 何もなかったかのように先生は、家内の血管を見せてくれましたが、小生は疑問でいっぱいでした。心臓から押し出された血液は動脈を通って全身に配られ、使用済みの血液は静脈を通じて心臓に帰ると小学校の先生から教わっています。いくら役立たずになった足の静脈とはいえそれを切除してしまったら、帰りの血管がなくなってしまう――。家内はどうなるのか。飯は誰が作るのか。

 思わず、「先生、静脈を切除してしまったら、血液は心臓に帰れず、足の中にあふれ出て、うっ血、足が太い紫大根のようになりませんか」と聞きそうになりました。先生はさすがです。小生の機先を制して、「血液は別の静脈と通って心臓へ帰りますから、心配は要りません」と笑いながら、図を書いて説明されたのです。

 小生の理解力の範囲内で、先生による説明をまた紹介してみます。「足の静脈には、深いところにある『深部静脈』と皮膚に近いところにある『表在静脈』がある」そうです。深部静脈は幹線道路、表在静脈は支線道路のようなものです。切除したのは、支線の表在静脈のなかのひとつ『大伏在静脈』で、「これを腿の付け根から向こう脛まで抜き取り、切除しました」と先生はいわれました。

先生によると、支線のひとつ大伏在静脈を切除しても、「幹線の深部静脈や他の表在静脈が健在ですから、そこを通って血液は心臓に帰る」ことができるそうです。そういわれて小生も謎が解け、ほっとしたのですが、先生がついでに教えてくれた話がちょっと怖かった。例のエコノミー症候群による心筋梗塞は、この幹線道路の『深部静脈』が機能しなくなって起きるそうです。

さて一泊二日ですぐ退院となったかみさんですが、先生は「1ヶ月は走ったりしてはいけませんが、歩いて買い物に行くぐらいは結構です」ということでした。かみさんは、さすがに退院後2日ほどは買い物にも行きませんでした。ただ、この間は冷蔵庫の残り物を料理してくれましたので、小生も「男子厨房に入らず」の禁を破ることもなく、断食もせず、飯にありつけました。かみさんに感謝です。

問題は、術後のかみさんの足です。手術した右足は、太ももの内側から足首にかけて内出血で青くなり、むくんで太い紫大根状になっています。内出血はすぐ消えると言われても、気にはなります。先生は、内出血を止め、むくみを防ぐために「一ヶ月間はこの『弾性ストッキング』をはきなさい」といって一足のストッキングを家内に渡したのです。

この弾性ストッキング、足をかなりきつく締め付け、むくんでいた足が細く見えるくらいになる代物です。立ちっぱなしの仕事をしている女性は、足がむくんだり静脈瘤になったりしやすいそうで、かみさんの看護をしてくれた若い看護士さんも普段から着用しているようです。看護士さんもやせて見えます。

この話を聞いて、小生、ひらめきました。臍の下まで続いた下腹も覆う「弾性ストッキング」があればなぁと。そんなに身体が細くやせて見えるのなら、かみさんも小生も、その新開発の「下腹圧迫用弾性ストッキング」を一ヶ月とは言わずずっと着用していたいものだと。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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