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大西良雄ニュースの背後を読む

2007年12月

2007年12月27日 15:37

悲観変数ばかり、何かいいことありませんか

(07年12月27日筆)

小生、名刺に「経済ジャーナリスト」という肩書を刷り込んでいます。名前だけですが、景気循環学会の会員でもありますので、内閣府が経済企画協会に委託して行っている「マクロ変数に関するアンケート調査」にも先月から回答することになりました。一応、民間エコノミストの一員ということでしょうか。

ただ、小生の場合、自宅に景気予測のための計量モデルなど備えておりません。ですから、公表された政府・日銀の景気データ、株価の動き、新聞、テレビ、雑誌、ネットに掲載された国内外の政治・経済ニュースなどを日々追い駆け、自家製の「勘ピューター」を作動させて予測するしかありません。

この調査は、実質GDP、消費者物価、金融政策の3項目の先行き見通しを問うものですが、多少お粗末ですが、その自家製の勘ピューターを働かせるための環境条件(変数)について考えておきたいと思います。小生の「勘ピューター」では楽観変数を増やせば、経済成長率など直ちに上方修正できます。しかし、いまのところ悲観変数ばかりが頭の中をぐるぐる回って、正直、困っているのです。このままでは、2008年は、楽観的な景気シナリオが描けません。

小生の頭の中に沈潜して去らない「悲観変数」は以下の通りです。

(1)サブプライムローン・ショックは、住宅バブルの崩壊のハシリで、これから住宅価格下落の影響が金融・実体経済の両面に現れ、米国景気の主役である消費が減少し、日本の景気回復を支えた輸出が大きく減速する。

(2)アメリカの景気悪化と金利低下が、ドルの全面安・円の急騰をもたらす。円高進展により日本企業の輸出利益低下懸念が生じ、大企業の景況感がさらに悪化。輸出と並ぶ景気回復のもうひとつの主役・民間設備投資が反転減少する。

(3)建築基準法改正による建築確認申請認可の大幅な遅れが、マンション・ビル・住宅投資を大きく減少させたが、これがなかなか正常化しない。そのうえ、証券化商品に対する不信から不動産ファンドに金が回らず、都市再開発や大規模商業施設など非製造業の設備投資が減少する。

これらの「悲観変数」は、日本の景気回復を支えた輸出増加→設備投資増加の好循環が途切れ、輸出停滞→設備投資減少の悪循環に陥りかねないという「悲観シナリオ」を生み出します。

悲観ついでに、政治家、官僚、経済人など日本を統治する人々の「ガバナビリティ(統治能力)の著しい低下」にも触れなければいけません。もしかすると、日本経済にとってこれがもっとも深刻な「悲観変数」かも知れません。

日本の官僚は、いつからこんなになったのでしょうか。彼らに国民からの浴びせられるのは賞賛ではなく、罵倒だけです。いまの官僚たちに浴びられている「罵倒語」の数々を私流の文脈の中で並べ立てると、以下のようになります。

官僚たちは、政策が具体化される予算編成については、「前例踏襲」が基本で、予算を増やすなら各省庁一律の「増分主義」、減らすなら一律の「減分主義」。各省庁の予算シェアが余り変わらないことは良いこと、「改革は原則拒否」です。大きな「前例改変」が行われる場合、官僚たちは、国民の利益のためと言って、自らの権限と予算が減らされないように「激変緩和」の措置を巧妙に忍び込ませます。たとえば、「特殊法人」変じて「独立行政法人」となる如く、です。

以上のような予算と権限、権力保持の構造は、実は、以下のような官僚の慣行や独特の行動様式、規範・倫理観によって支えられ、温存されてきました。

一番難しい東大法学部を出た自分たちだから、間違うことはありえない。そうした官僚「無謬主義」を堅持し、間違うのは愚かな民、その「愚かな民」のために「我は恵みを施す」とする「官尊民卑」の思想がまずある。そして、「あいつが悪いから成敗してくれ」と民が駆け込めば、しめしめと舌なめずり。お手盛りで自由な経済活動を制限する法律をせっせと作り、自らの権力と権限を拡充し、天下り先を新設するのが、官僚たちの常套手段です。

自分たちが間違ったとしても、彼らが潔くそれを認めることなどありえません。その最高の「受験頭脳」を駆使して、間違いを「もみ消し」ます。かりに、間違いを認めざるを得なくなったとしても、つぎは「責任回避」のために知恵を絞ります。そのための「任務懈怠」(サボタージュ)も日常茶飯事です。ただし、自分らの「権益死守」、「天下り先確保」に対する「任務懈怠」はありません。

官僚たちは、選挙で選別淘汰されるわけでもなく、民間のように予算制約のもと、効率的な業務展開によって利益貢献したと評価されるわけでもありません。人事は、仲間内の禅譲システムですから、改革を拒み、自己権益の保持のみに動くような官僚を排除することなど出来ません。つまり、官僚たちはよほどの破廉恥事件を起こさないかぎり、安泰なのです。

小泉純一郎を私が高く評価するのは、慶応大学教授だった竹中平蔵氏や経済評論家の田中直毅氏、加えて首相直属の経済財政諮問会議に属する4人の民間議員など、それと塩川、武部,中川など自民党の改革派議員と力を合わせて、官僚政治を押さえ込み、利権と結びついた官僚権益の剥奪を企図したからです。

しかし福田康夫総理には、小泉が残した官僚政治、官僚利権打破の気概がうかがえません。その弱腰をつき、官僚たちは「自らのガバナビリティ」を自らの権益保護のためだけに行使しているとしか思えません。国際的な意識調査によると、日本ほど政治家が国民に信頼されていない国はないそうです。しかも、衆参議会の「ねじれ」から政治家の統治能力が機能不全の状態にあるのですから、せめて官僚だけでも健全でなければ日本は大変なことになる、と思っても、いまは虚しくなるだけです。

「悲観変数」ばかりの日本経済を救うための「ガバナビリティ」が、政治家にも官僚にもない、となると、小生の景気予測はさらに悲観的にならざるを得ないことになります。

2007年12月20日 10:45

影の総理は「みのもんた」?

(07年12月20日筆)

私など、会社務めを辞してから「朝のワイドショー」を見る機会が多くなりました。ただ、たくさんある「朝のワイドショー」のなかでも「みのもんた」が出ている「朝ズバッ!」(TBS)だけは見ないようにしています。朝は、静かにニュースを聞きたいのに、朝っぱらからいきなり安っぽい揚げ物を食わされて、胃もたれがする感じになるからです。

「みのもんた」といえば、昼のワイドショー「おもいっきりテレビ」で人気をあげ、いまや億万長者になっている司会者です。叱ったり怒鳴ったりして分別くさそうに人生相談に答える、効くのか効かないのかよく分からない健康コーナーがウリで、主婦たちの支持を得たそうです。『朝ズバッ!』でも同じ手法を持ち込み、「底の浅い正義感」と「単純な割り切り」を駆使して、ただただ怒鳴りちらしているように私には見えます。ですから、胃もたれするわけです。

被害が小生の胃もたれ程度で終わればよいのですが、「朝ズバッ!」の司会者「みのもんた」の一言が、「週刊東洋経済」(07年12月22日号)の巻頭特集「ニュースではわからない!政治のホント」によると、政治に大きな影響を与えているというではありませんか。「みのもんたが政治を動かす!?」という記事では、学者が名付けた「みのポリティックス」という言葉が政治家の間で流布していることを紹介しています。テレビ出演をテコに政治家になった舛添要一厚生労働大臣ですら、「今の政治家は、世論を左右する『朝ズバッ!』の『みのもんた』に対抗しなければならない」といっています。

今もむかしも、政治家は「世論」に気を遣って政治行動を行います。「世論」は民意、民意は一票です。政治家は「世論」に背けば落選し、普通の人になるからです。しかし、その「世論」たるや、きわめてあやふやなものです。むかしは「新聞が世論だ」といって新聞記者、特にナベツネのような政治部記者が威張っていましたが、今は「みのもんた」のような「ワイドショー」のキャスターが「世論」をつくっているというのです。

テレビ番組の製作者は、「秒単位で進行するテレビには、冗長で分かりにくい話などいらない、気の効いた歯切れのよい一言、瞬間芸があればいい」とよくいいます。怒ったりしかめ面して吐いた「みのもんた」(以下、ワイドショーのキャスター、コメンテーターの総称として使います)の一言、瞬間芸が、「世論」になるというのですから、怖いというほかありません。

政治や外交、政策は、歯切れよく単純に割り切れるものではありません。ひとつの政策を実行すれば「得をする人」が出てきますが、その背後に必ず「損をする人」が出てきます。損する人と得する人の間で、時間をかけて議論し、より多くの人が得をするための合意形成を図るのが議会制民主主義です。民主主義とは、交わされる言葉が多い、冗漫な合意形成プロセスであるといえます。政治は、一言で白黒つける瞬間芸からはもっとも遠い位置にあるのです。

元総理・小泉純一郎は、いち早く「ワン・フレーズ・ポリティックス(一言政治)」を取り入れて成功した政治家です。政権当初に「変人とか軍人とか」、歯切れのよい政治家評論で売れっ子になった「一言警句」の政治家・田中真紀子を抱え込んだことがその走りでした。真紀子が去ったあとも小泉純一郎が高い支持率を維持したのは、「みのもんた」より「小泉純一郎」の一言芸のほうが優れていたからでしょう。ワイドショーのキャスターのお株を奪ったのです。

小泉の「ワン・フレーズ・ポリティックス」は、冗漫で話が長く軽い安倍晋三、言葉は短いが肩透かしが過ぎる福田康夫の失敗を機に、一気に「みのポリティックス」にその座を奪い返されえたといってよいでしょう。小泉の「ワン・フレーズ」は、下手をすれば、合意プロセスを形骸化するリスクを内包していました。しかし、それは、放置すれば得をする一方の人たち、たとえば特定郵便局長、特殊法人、独立行政法人、官僚、土建業者、それにこれに喰らいついて生息している政治家たちに、激しく抗するものでした。小泉の「ワン・フレーズ」は、結果として「損を被っている多くの納税者」の利益を代弁していたと思いますから、私にはさほど抵抗はありませんでした。

しかし、「みのポリティックス」には大いに抵抗があります。「得をする人があれば、必ず損をする人がいる」、その複雑な利害関係を読み切っての深い一言かどうか、「みのもんた」は自問自答すべきです。聞くほう、視聴者も「みのもんた」の一言が、どれだけの人たちを泣かせ、どれだけの人たちを喜ばせているかを考えるべきだと思います。

そんなことをいちいち考えてワイドショーを見ている暇はない、と思っている視聴者がほとんどだと思います。しかし、「みのもんた」の一言に動かされて「世論」が右往左往し、総理や政党の支持率が一週間で10%も上下するような信じられない状態が繰り返されています。その世論調査に政治家たちは一喜一憂し、政策などそっちのけで、政敵を追い詰め引き摺り下ろす手段にしているのです。その尻馬に乗っているのがナベツネのような政局記者、政治評論家なのです。「みのもんた」の一言でどうにでも動く、定見なく移ろいやすい世論調査にひれ伏し、右往左往するような政治家はいりません。そんなにワイドショーが気になるのなら、「みのもんた」に総理をやらせたらいかがですか。

2007年12月13日 14:27

偽装を暴く「不気味な内部告発者」

(07年12月13日筆)

「偽」が今年、07年を象徴する漢字だったと日本漢字能力検定協会が発表しました。はがきやネットで全国から公募して第1位に選ばれたということですが、第3位には「虚」という漢字が入っていたといいます。「偽」といい「虚」といい、なんともいやな感じ(漢字?)です。

「偽」の反対語は「真」、「虚」のそれは「実」です。真実の反対は、嘘(うそ)です。子供の頃、「嘘つきは泥棒の始まり」と親からよく言われたものです。07年の日本人は、嘘つきだらけでした。みんなが知っている嘘つきは、「不二家」、「ミートホープ」、「白い恋人」、「赤福」、「比内地鶏」。「船場吉兆」です。

一般にはあまり関心はなかったようですが、IHIの決算偽装(赤字隠し)、ニチアスの耐火性能偽装、栗本鉄工所の強度偽装なども、一流会社による立派な「嘘つき」事件でした。政府・官僚にも「嘘つき」はたくさんいます。その代表は、安倍晋三内閣と厚生労働省です。「消えた年金記録」の照合を年度内には終えると公約しながら、それはできないといまになって取り消す。選挙に勝つためには嘘をついても許される、といわんばかりの自民党にも口あんぐりです。

政府・官僚の「嘘」については、ことが重大ですので、改めて論じます。ここでは、老舗、名門といわれる民間組織で発生した「偽装」事件のほとんどが、「内部告発」で発覚したことついて、触れます。

内部告発とは、組織の内部にいる人が、自らの組織の不正を外部、たとえばマスコミやら監督官庁に告発することをいいます。

老舗とか名門とかいわれる会社の内部者は、その組織にプライドを持ちブランドを保持するための努力を欠かさない、もしブランドの価値を毀損するような行為があれば内部での合意の下に秘かに処理するのが常でした。たまに外部に不正が持ち出されることもありましたが、経営内部の覇権争い、派閥抗争が原因でした。これは、ライバルを蹴落とし自分がトップに立つために、相手の不正を暴く「醜い内部告発」でした。その「醜さ」には反吐が出そうになりますが、動機がはっきりしていて分かりやすい単純な内部告発といえます。

これに対して最近の内部告発は、誰が告発者か、なぜ身内を告発するのか、それがよく分からない、「不気味で複雑な内部告発」といえます。

「誰が」については、「誰でもが」内部告発者になりうるという意味で、不気味です。正式社員、パート・派遣・アルバイトなど非正規社員、取引先・下請け、どこからでも内部告発の弾は飛んできます。名門であれ老舗であれ、そんなことはお構いなし、覆面をかぶった弾の撃ち手はいまやどこにでもいるのです。

古い経営者には、「なぜ身内を告発するのか」、その理由が飲み込めません。日本人には「身内の恥を曝すようなことはしない」「いわずとも阿吽の呼吸で分かる」という考え方があったはずです。会社という「身内」の繁栄は、それに属する個人の幸せに直結する。身内の間違いを外部に漏らせば、会社が傾き、従業員としての個人の損失になることなのに、と経営者は考えているはずです。

なのになぜ、身内の恥を曝し、会社を存亡の淵に立たすのか。告発者のことを良く解釈すれば、自らが属する組織といえども、組織の不正は社会の害であるとする「公憤」が告発の動機ということになります。黙って見過ごすことは「身内を守り、自分の雇用も守る」かも知れないが、消費者のためにはならないという正義感が前に出てきた結果だということになります。

しかし、私には、そうとは到底思えません。この就職難の折、社会の正義のために、自分の属する会社を痛めつけて「自らの職を捨ててもよい」などと思っている人はいないと思います。そうではなく、告発者は自らを捨てても組織を痛めつけたいと思うぐらい「私憤」が講じていると考えるのが自然です。

「私憤」の内容は、さまざまです。
一番多いのは、上司が自分の怠慢や無能を棚に上げ、私の無能を蔑み、馬鹿にし、人事面できちんと処遇しないという「私憤」です。
次に多いのは、安い、報われない賃金でこき使われているという従業員の「私憤」です。その裏には、出入り業者から接待漬け、働きもしないのに高額の役員報酬をもらっている上司、一族経営者との不公平感が必ずあります。

最近増えているのは、下請け、協力会社など「弱いものの逆襲」です。厳しい品質要求、納期管理を強いながら、どんどん安くなる加工賃、請負料金に「堪忍袋の緒が切れた」と「私憤」を吐き出すのです。同じことは、パート、アルバイトなどの非正規社員にも起こります。同じ労働なのに正社員とずいぶん格差がある労働条件に「プッツン」してしまう人も少なくありません。

「私憤」のエネルギーは、経営者の理解を超えます。しかも、「私憤」は数重なれば、誰にでも共通して当てはまる不満、つまり「公憤」になり、告発のエネルギーをさらに高めると思われます。匿名社会であれば、告発はさらに容易になります。ですから、経営者は、「私憤」だと軽視せず、従業員はじめ内部者がなぜ「私憤」をたぎらせているのかを十分把握し、「私憤」が内部告発として外部に吹き出る前に手を打つ必要があると思っています。

そして「私憤」が積もりやすい会社は、経営者の姿勢や社風に問題があると考えるのが自然です。社員性悪説に従って内部監査や内部通報などの内部統制の仕組みを築くより、経営者が自ら姿勢を正し、内部告発を生まないような規律と規範に満ちた社風を築くことのほうが大切ではないでしょうか。

2007年12月 6日 10:34

一茶のような「旅回りの俳諧師」

(07年12月5日筆)

鬼の霍乱(かくらん)と申しますか、小生、生まれて初めて1週間の入院生活を余儀なくされました。右顔面、特に右目と右唇付近が思うように動かず、脳梗塞が疑われ、急遽、聖路加国際病院に入院しました。慶応病院、虎ノ門病院、それに聖路加病院、われわれ庶民憧れの病院です。偶然とはいえ、そのひとつに入院できたのですから、病気そっちのけ、いい気分でした。

病気のほうですが、MRI検査の結果、脳梗塞の疑いはすぐに晴れました。右顔面の神経麻痺の状態もリハビリによって治り、口笛がまた吹けるようになりました。一時は、ロッキード疑獄以来、心労とストレスが重なって左顔面が変形した田中角栄元総理と似たような状態になるかと不安になりましたが、それも杞憂に終わり、ほっとしています。

入院して最初の2日間は、脳梗塞の心配がありましたから、脳に血が回るようにするため、らしいのですが、足より頭が低い逆さ状態で寝かされました。そのうえ、ベッドから身体が出ないよう監視するセンサーが胸に取り付けられ、身動きが取れません。ベッドに座ることもできず、腰が痛くて往生しました。とても本など読める状態ではありませんでした。

それが過ぎてから、ベッドに座ることが許され、ようやく憧れの「個室入院生活」が始まりました。朝昼晩の食事は塩抜きの院内食ですからうまいはずがありません。しかし、それだけを我慢すれば、若くて明るい看護士(女性です)が入れ替わり立ち代り、丁寧な看護・治療が待っていますし、日ごろは怖い家内も付き添い看護のときは優しく接してくれるはずです。何より、横になったり座ったりしながら、誰にも邪魔されず、ひなが一日、本が読めます。

これも偶然ですが、暮れに読もうと思って買っておいた書籍が2冊、これを病室に持ち込むことができました。一冊は藤沢周平の『一茶』(文春文庫)、もう一冊は元特捜検事・田中森一著『反転』(幻冬舎刊)です。これにグリーンスパン(前FRB議長)の『波乱の時代 上・下』(日経新聞出版社刊)があれば最高だったのですが、これはまだ購入していません、残念でした。

どちらが面白かったかといいますと、『一茶』のほうです。『反転』は、政治家の巨悪を暴く元特捜検事だった田中が、「裏」社会(暴力団、アウトローの社会をこういいます)の弁護士に転向して、最後は逮捕、起訴されるまでを自伝風に書いた本です。ただ、ここに書かれた事件、スキャンダル、登場人物は、小生が「金融ビジネス」及び「週刊東洋経済」編集長当時に記者諸君とともに取り組んだ「マフィア資本主義」告発キャンペーンでたびたび触れてきたものです。普通の読者は、その恐るべき裏話に驚かされるでしょうが、私には物足りません。田中森一さん、もっと本当のことを話しなさい、書きなさい、といいたいぐらいです。

小林一茶といえば、子供の頃は、
「やれ打つな蝿が手を摺り足をする」
「痩せ蛙負けるな一茶これにあり」
「われときて遊べや親のない雀」の一茶です。蝿や蛙、雀まで俳句に詠み込み、小さな命にも愛情を注ぎ込んだやさしい江戸の俳諧師を思い浮かべます。 
ちょっと大人になってからは、
「これがまぁついの栖か雪五尺」
「めでたさも中位なりおらが春」
と話し言葉で語り掛けられて、そうなんだよなぁと妙に納得してしまうのが、一茶の俳句でした。

小生は、そのうえ「蝉しぐれ」藤沢周平の筆になる小説ですから、『一茶』もまたその俳句のように、清貧ながら無欲・無私の人物、自然人として描かれていると思い込んでいました。この思い込みは、もののみごとに打っ棄られます。

藤沢周平は、一茶を人一倍、俳諧師として名を上げ生計を立てたかった欲深い人物として描きます。しかし、一茶は、最後まで、地方の俳句好きの旦那衆にその日の糧を仰ぐ「旅回りの俳諧師」に過ぎませんでした。俳句では食えないどころか、嫁も持てなかったのです。一茶を俳句の道に誘い込んだ御家人出の俳諧師・露光は「旅回り」の途中、路傍に行き倒れてしまいます。一茶は、それを見て、信州・柏原にある実家に帰り、家を継いでいる腹違いの次男との間で泥沼の遺産争いを繰り返し、ようやく恒産を得て、嫁ももらいます。

一茶が嫁をもらったのは、52歳のときですが、来た嫁が28歳と若かったこともあって4人の子宝に恵まれます。が、いずれも夭折、嫁も37歳で亡くなってしまいます。一茶が生涯で味わった幸せは、ほんのつかの間でした。小説『一茶』を読むと、一茶の俳句は、自らの人生の貧しさ、そこから生まれる卑屈さ、孤独の影に満ち溢れているように思えます。
『一茶』を読みながら、ふと思ったのです。博士号を持ちながら定期職につけない任期制の研究者を「ポスト・ドクター(ポスドク)」といいます。小生の次男坊も来年からその仲間入りをします。任期が終了すれば解雇、次の職の当てがないという『ポスドク』は、研究所という旦那衆にその日の糧を仰ぐ『旅回りの俳諧師』のようなものです。小生、「ポスドク」次男坊が将来、御家人俳諧師・露光のように行き倒れしないか、と心配になってきました。

次男坊だけではありません。たまに地方で講演などをして日銭を稼いでいる無所属新人「経済ジャーナリスト」の小生も『旅回りの俳諧師』に過ぎません。小生には、一週間の聖路加病院の差額ベッド代が払えるぐらいの蓄えはありますから、行き倒れる心配はありません。しかし、「ポスドク」「日雇い派遣」「フリーター」など一茶のような「旅回りの俳諧師」諸君の人生はこれからどうなっていくのでしょうか。

そこで一句、
「秋の風乞食は我を見比ぶる」
乞食と見まがわれるような人生を送るという意味です。
おたく、うまいねぇ。
いえいえ、これも小林一茶の一句です。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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