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大西良雄ニュースの背後を読む

2007年8月16日 15:14

株価暴落―尻尾が身体の変調を先取り

(07年8月16日筆)
 
8月15日の終戦記念日、日経平均株価は下値抵抗線として意識されていた1万6532円を割り込み、年初来安値を更新しました。同じ日夜11時30分から始まるNY株式市場もダウ平均は1万2861ドルと1万3000ドルの大台をあっさり割り込んでしまいました。株価は、どこまで下がるのでしょうか。どこで下げ止まるのでしょうか。株式投資家の戦争は敗戦に終わるのでしょうか。

この株価急落の震源地は、いうまでもなくアメリカです。もう皆さんは、新聞やテレビのニュースで耳にたこができるほど聞かされているアメリカの低所得者向けの住宅ローンであるサブプライムローンの焦げ付き問題が、震源です。昨年からこの焦げ付き問題は折に触れ株式市場に動揺を与えてきましたが、ここに来てその悪い影響が、リスク資産から国債など安全資産への緊急避難という形で顕在化してきました。

その媒介をしているのがヘッジファンドです。サブプライムローンは、証券化されて住宅ローン会社からパートアウト(売却分離)され、ハイリターンの金融商品になっていました。この証券化商品は市場で売り買いされていますが、焦げ付きの発生で価格が急落したのです。その結果、これを運用対象に組み込んでいたヘッジファンドに大きな損失が発生しました。これを知った投資家が、相次いで解約をはじめたのです。

ヘッジファンドに投資している投資家は、昔は世界の一握りの大金持ちが中心でしたが、いまや株や債券などの伝統的投資に飽き足らない年金基金、大学基金、金融機関、保険会社、プライベートバンクなども参加し、世界各地に広がっていました。これら投資家が、投資資金の目減りを恐れ一斉にヘッジファンドの解約に走れば、ヘッジファンドは解約資金を手当てしなければなりません。

解約資金の手当ては、ヘッジファンドが自ら運用している他の商品、株式、原油、非鉄金属などの国際商品などの換金売りということになります。株式や国際商品の価格が急落しているのは、解約資金捻出のための換金売りに加え、この値下がりを絶好の投資機会と考える空売り筋のヘッジファンドの売りが重なっていると思われます。

しかも、金融機関の間では、ヘッジファンドに投資し損失を抱え込んで経営不安を起こしている金融機関があるのではないかと、疑心暗鬼が渦巻き始めました。金融機関同士の短期資金の貸し借りをインターバンク取引(短期金融市場)といいますが、貸せば回収できなくなるという不安にとらわれてそのインターバンク取引が凍りつく気配が出てきました。資金の取れない金融機関の融資も縮小(信用収縮)する恐れも出てきました。この恐れを取り除くため、最後の貸し手として日米欧の中央銀行が一斉に短期金融市場に大量の資金を供給したのです。

それでも株価の下落は止まりません。生産や消費といった実態経済を大切な身体だとすれば、株価だとか為替レートとかのマネー現象はそれに付属する尻尾(しっぽ)といえます。へんな例えですがこの尻尾には敏感な鼻がついていて、尻尾が身体の変調を先取りして動揺している可能性が出てきました。一方、尻尾の動揺は、健康だった身体を振り回し、景気後退という病気をもたらしかねない段階に差し掛かっているとも見えます。

アメリカ経済は、このブログでもなんどか述べましたが、国民も国家も借金漬けにもかかわらず、消費(輸入)を拡大し景気拡大をつづけてきました。それを可能にしてきたひとつの要因が、住宅価格や株価など資産価格の上昇だったといえます。住宅価格の上昇によって担保価格が上がり、アメリカ国民は銀行から融資を受けてマイナスの貯蓄率の元でも消費をつづけることができました。住宅価格が打ち出の小槌だったのです。

その住宅価格もFRBの政策金利の連続的引き上げによって上昇が止まり下落に転じ始めました。消費の原資である担保価値の目減りによって、ここでアメリカ国民の過剰消費は止まるはずでしたが、一挙にそうはなりませんでした。もうひとつの資産である株式の価値が上昇をつづけ、その資産効果が住宅価格下落の逆資産効果を打ち消し、消費を下支えしてきたのです。

しかしその株価も、サブプライムローンの焦げ付きを契機に大きく下落しました。住宅につづいて株式も、過剰消費の打ち出の小槌うちの役割を果たせなくなってしまいました。アメリカでの運用収益が高いということで世界の資金が集まり、アメリカという国家も世界からの膨大な借金によって貿易、財政の赤字をファイナンスし、凌いできたのです。

今回の資産価格の急落は、このまま放置しているとアメリカ経済における消費の減退を引き起こし、輸入の減退を通じて世界景気の後退につながりません。原油や非鉄金属価格の下落は、いま勢いがいい資源国、あるいは途上国経済の先行きに暗雲を投げかけます。もし、途上国経済に変調が起きれば、途上国向け輸出で潤っている鉄鋼、機械、建設機械、海運、商社などの日本企業は大きな痛手を食う可能性があります。

株価という尻尾は、最初はサブプライムローンをめぐる限定的な金融不安のシグナルに過ぎませんでしたが、それによって引き起こされた実態経済の変調を先取りしてさらに下落しているとも読めるようになってきました。いまが、世界の景気後退につながるかどうかの危険な曲がり角にあるといえます。

これを逆転させ、再び世界景気拡張に軌道に戻すには、日米欧の中央銀行の金融政策の変更にかかっていると思います。すでにマーケットでは、リスク資産から安全資産へのシフトによって国債が大きく買われ、長期金利が大幅に低下しています。近い将来の景気後退と政策金利の引き下げを先取りする動きです。この動きを受けて、日銀が金利引き上げを断念する一方、欧米の中央銀行は金利の引き下げに踏み切るという政策変更が見込めた段階で、株価の下げ止まりということになりそうです。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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