QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2007年8月

2007年8月30日 15:59

「ミセス・ワタナベ」

(07年8月30日筆)

いま、為替トレーダーの間では「ミセス・ワタナベ」という日米開戦当時の暗号のような名称が話題になっているといいます。実はこれ、外為証拠金取引(FX取引)で4億円もの利益を上げながら、1億3900万円の所得を隠して当局に告発され、つい最近東京地裁で有罪判決になった例の63歳の主婦の名前をもじったものなのだそうです。

為替の投機筋として有名なのは、昔であれば「チューリッヒの小鬼」、近いところではクウォンタム・ファンドの「ジョージ・ソロス」ですが、「ミセス・ワタナベ」がこれらの筋金入りの世界的投機筋に肩を並べたのですから驚きです。

もちろん「ミセス・ワタナベ」は脱税主婦の名を借りた日本人投機筋の総称です。しかしその中に、脱税主婦のような外為証拠金取引を使って盛んに為替売買を繰り返していた女性投機家が多く混じっていることも事実です。

今朝(8月30日)の日経新聞には、鳥居万友美著『普通の主婦にもできた!"FX"で月100万円儲ける私の生活』(ダイヤモンド社)と題する書籍の広告が出ていました。広告によると、アマゾンの販売ランキングで1位になり、「たちまち重版」ということですから、第二、第三の「ミセス・ワタナベ」がこの本を読んで誕生するのでしょう。

話はそれますが、私はダイヤモンド社のライバル・東洋経済新報社の出版局長をやったことがあります。こういうマネー本の場合、中身は50歩100歩、類書は山ほどあり、売れ行きはすべて書名(タイトル)にかかっています。「株で1億円儲ける」だとか「FXで月100万円儲ける」というような、ありもしない、あったとしても稀なことを平気でタイトルにできる勇気が編集者にあるかどうか、それにかかっているのです。

それで確実に儲けられるのは、1億円とか月100万円とかいうそそるタイトルにつられて買った善良だが欲ボケの読者ではなく、版元です。私も版元の局長として、そんなタイトルをつけて儲けてみたい思ったこともありましたが、恥ずかしくてつけることができませんでした。

為替投機家「ミセス・ワタナベ」の予備軍は、日本中どこにもいます。ためしにお近くのパチンコ店をのぞいてみてください。パチンコ台の液晶画面を食い入るように見つづけている客の過半は、妙齢の女性たちです。ほかには、家にいてもかみさんに粗大ごみ扱いされている中高年のリタイヤー男性、パチンコ店を仕事場として日銭を稼いでいる若者です。この人たちで昼間の客の9割は占めています。なんでそんな詳しいのか、ですか。もちろん私も、その一人だからです。私は、パチンコではなくパチスロ党ですが。

私は思うのです。パチンコやパチスロで負ければ、1万円などあっという間に消えてなくなります。一日に3万円勝ったり、3万円負けたりは、当たり前です。ならば、パチンコでいずれ負ける金を貯めて、それを証拠金にしてFX取引(外為証拠金取引)で、大博打を打ったらどうかと。

FX取引は、パソコンさえあれば誰でもできます。取引業者に取引口座を開き証拠金を納めればいつでも取引ができます。パソコンと口座を開く知識とわずかな証拠金があれば、パチンコ店の液晶画面を眺めている妙齢の女性からパソコン画面に釘付けの「ミセス・ワタナベ」まで一足飛びです。

パチンコ、パチスロは、この秋から、射幸心をあおりすぎるということで、出玉が制限された新機種が出回り、前のように運よく1日10万円以上稼ぐようなことができなくなります。1000円で10万円稼ぐというような大博打はできません。しかし、「ミセス・ワタナベ」になれば、元金(証拠金)5万円でその100倍、500万円分のドルを売り買いできます。レバレッジ200倍、つまり5万円で1000万円分の為替売買ができる場合もあります。

仮にレバレッジ200倍、1ドル115円で10万ドル(1150万円分)買っても、証拠金は5万7500円です。円安が進み、1ドル120円でそのドルを売れば、1ドルで5円(手数料込み)儲かることになりますから、総額50万円の為替差益を稼ぐことになります。証拠金を10倍にすれば、500万円の儲けになります。FX取引は、出玉規制で大儲けの可能性が小さくなったパチンコ、パチスロより、もっと射幸心にとんだギャンブルになります。

実は、この一攫千金のFX取引を含む「円キャリー取引」が、日本の強い経済力や低い物価上昇率というファンダメンタルズを無視した異常な円安の原因になっていたのです。総額20兆円を越すといわれる「円キャリー取引」が円安バブルの一角を担っていました。その「円キャリー取引」の巻き戻し(円売り、外貨買いを繰り返していたFX投機家などによる損失回避のための外貨売り、円買い)が、1ドル126円から一時111円をつける急激な円高をもたらしました。

円売り一方だった「ミセス・ワタナベ」は、逃げ遅れて損失を回避できず、この急激な円高で数千億円にものぼる大きな損失を出したといわれていますが、「ミセス・ワタナベ」が博打に負けたのは自業自得です。しかし、この急激な円高によって、日本の株式市場は世界で最も高い下落率に見舞われました。これによって日本の景気が下降するようなことになれば、「ミセス・ワタナベ」による「博打失敗」の付けを国民全部が払うことになります。これも仕方がないことなのでしょうか。

2007年8月23日 15:56

幽霊の正体見たり?

(07年8月23日筆)

欧州中央銀行が大量の資金を金融市場に供給、アメリカの中央銀行・FRBが公定歩合を引き下げて以来、さしもの株価暴落、為替激変もやや落ち着きを取り戻したようです。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という川柳がありますが、「世界的金融危機」という幽霊に怯え、ヘッジファンドを解約しリスク資産を叩き売った投資家や市場関係者は、その行為が本物の幽霊を導き出すことに気がついたのでしょうか。
幽霊が漂った元になったのは言うまでもなく、アメリカのサブプライムローン焦げ付きとそれを証券化した住宅ローン担保証券市場の取引凍結状態です。それに絡んで大きな損失を抱え込んだ金融機関やヘッジファンドが破綻するという疑心暗鬼が、幽霊を大きくしました。冷静になって考えると、幽霊の正体ともいうべきサブプライムローンの焦げ付き問題は案外に小さく、「枯れ尾花」のように私には見えます。下図をご覧ください。

アメリカの住宅ローン総額は10兆ドル、1ドル115円で換算して1150兆円になります。この大半は、高所得者など支払い能力の高い人が借りているプライムローンです。問題になっている低所得者向きの、貸し倒れリスクの高いサブプライムローンは住宅ローン総額の13%、約1.4兆ドルに過ぎません。そのうち金利元本の返済が滞っている延滞債権は14%、1800億ドル、邦貨に換算して21兆円です。いまのところ住宅ローンの不良債権比率は、1.8%に過ぎません。

なお、サブプライムローンを担保に証券化された担保証券の総額は約1兆ドルになりますが、その原資産であるサブプライムローン延滞債権の内数ですから、焦げ付きが拡大しなければ、そのデフォルト予想額は拡大しません。疑心暗鬼から解き放たれれば、住宅ローン担保証券市場は息を吹き返すはずです。

私は、サブプライムローンの延滞債権総額21兆円、それが住宅総額に占める比率、つまり不良債権比率1.8%とはじき出されて、正直に言って、ほっとしました。日本が経験したバブル崩壊による不良債権総額は150兆円にも達し、金融機関の不良債権比率は20%にも達していたといわれています。これに比べれば、サブプライムローン焦げ付き問題など小さな問題、幽霊の正体はやはり枯れ尾花だったといえそうです。

それなのになぜ世界中がこれほど大騒ぎし、バブルでもない株式まで叩き売ったのでしょうか。それは、担保証券に投資していたヘッジファンドが解約騒ぎに巻き込まれ、これに融資している金融機関が貸し渋りを始め、ヘッジファンド破綻が起きたからです。融資金融機関の破綻も噂されました。幽霊の正体を見極めもせず、金融不安が増殖されたのです。これだけ情報がグローバルに飛び交う中、幽霊の正体をめぐる確かな情報はいまだに出ていないのです。

もうひとつ、これが私は最大の問題だと思うのですが、アメリカにおける住宅価格の趨勢的下落に対する懸念です。過去10年間、アメリカの住宅価格は上昇し続け、8倍にもなったといわれます。この上昇は、投機目的の仮需ではなく移民などの後継世代の住宅実需によるものだと説明されて来ましたが、本当にそうなのでしょうか。それが、仮需があおった「住宅価格バブル」であったとしたら、バブルが崩壊し、住宅価格の趨勢的下落になります。

日本人は、つい最近、土地転がしで吊り上った地価が、貸出の総量規制を契機に暴落を重ねたバブル崩壊を経験したばかりです。アメリカでサブプライムローン焦げ付きを機に、住宅価格バブルの崩壊が発生するとすれば、「問題は小さい」などといってはいられません。住宅の担保価値が一斉に目減りをはじめれば、ただでさえ借金漬けのアメリカ人の債務負担感がさらに増加し、住宅ローンの借り換え不能、返済不能者がどんどん出てきます。プライムローンの優良な借り手ですら、延滞債務者になりかません。そうなると不良債権比率は一気には値上がり、それこそ本物の金融危機が訪れることになります。

幽霊が枯れ尾花ではなく、本物になるときがいちばん怖いのです。そこで問われるのが、まず第1に、中央銀行当局の金融政策ということになります。

2007年8月16日 15:14

株価暴落―尻尾が身体の変調を先取り

(07年8月16日筆)
 
8月15日の終戦記念日、日経平均株価は下値抵抗線として意識されていた1万6532円を割り込み、年初来安値を更新しました。同じ日夜11時30分から始まるNY株式市場もダウ平均は1万2861ドルと1万3000ドルの大台をあっさり割り込んでしまいました。株価は、どこまで下がるのでしょうか。どこで下げ止まるのでしょうか。株式投資家の戦争は敗戦に終わるのでしょうか。

この株価急落の震源地は、いうまでもなくアメリカです。もう皆さんは、新聞やテレビのニュースで耳にたこができるほど聞かされているアメリカの低所得者向けの住宅ローンであるサブプライムローンの焦げ付き問題が、震源です。昨年からこの焦げ付き問題は折に触れ株式市場に動揺を与えてきましたが、ここに来てその悪い影響が、リスク資産から国債など安全資産への緊急避難という形で顕在化してきました。

その媒介をしているのがヘッジファンドです。サブプライムローンは、証券化されて住宅ローン会社からパートアウト(売却分離)され、ハイリターンの金融商品になっていました。この証券化商品は市場で売り買いされていますが、焦げ付きの発生で価格が急落したのです。その結果、これを運用対象に組み込んでいたヘッジファンドに大きな損失が発生しました。これを知った投資家が、相次いで解約をはじめたのです。

ヘッジファンドに投資している投資家は、昔は世界の一握りの大金持ちが中心でしたが、いまや株や債券などの伝統的投資に飽き足らない年金基金、大学基金、金融機関、保険会社、プライベートバンクなども参加し、世界各地に広がっていました。これら投資家が、投資資金の目減りを恐れ一斉にヘッジファンドの解約に走れば、ヘッジファンドは解約資金を手当てしなければなりません。

解約資金の手当ては、ヘッジファンドが自ら運用している他の商品、株式、原油、非鉄金属などの国際商品などの換金売りということになります。株式や国際商品の価格が急落しているのは、解約資金捻出のための換金売りに加え、この値下がりを絶好の投資機会と考える空売り筋のヘッジファンドの売りが重なっていると思われます。

しかも、金融機関の間では、ヘッジファンドに投資し損失を抱え込んで経営不安を起こしている金融機関があるのではないかと、疑心暗鬼が渦巻き始めました。金融機関同士の短期資金の貸し借りをインターバンク取引(短期金融市場)といいますが、貸せば回収できなくなるという不安にとらわれてそのインターバンク取引が凍りつく気配が出てきました。資金の取れない金融機関の融資も縮小(信用収縮)する恐れも出てきました。この恐れを取り除くため、最後の貸し手として日米欧の中央銀行が一斉に短期金融市場に大量の資金を供給したのです。

それでも株価の下落は止まりません。生産や消費といった実態経済を大切な身体だとすれば、株価だとか為替レートとかのマネー現象はそれに付属する尻尾(しっぽ)といえます。へんな例えですがこの尻尾には敏感な鼻がついていて、尻尾が身体の変調を先取りして動揺している可能性が出てきました。一方、尻尾の動揺は、健康だった身体を振り回し、景気後退という病気をもたらしかねない段階に差し掛かっているとも見えます。

アメリカ経済は、このブログでもなんどか述べましたが、国民も国家も借金漬けにもかかわらず、消費(輸入)を拡大し景気拡大をつづけてきました。それを可能にしてきたひとつの要因が、住宅価格や株価など資産価格の上昇だったといえます。住宅価格の上昇によって担保価格が上がり、アメリカ国民は銀行から融資を受けてマイナスの貯蓄率の元でも消費をつづけることができました。住宅価格が打ち出の小槌だったのです。

その住宅価格もFRBの政策金利の連続的引き上げによって上昇が止まり下落に転じ始めました。消費の原資である担保価値の目減りによって、ここでアメリカ国民の過剰消費は止まるはずでしたが、一挙にそうはなりませんでした。もうひとつの資産である株式の価値が上昇をつづけ、その資産効果が住宅価格下落の逆資産効果を打ち消し、消費を下支えしてきたのです。

しかしその株価も、サブプライムローンの焦げ付きを契機に大きく下落しました。住宅につづいて株式も、過剰消費の打ち出の小槌うちの役割を果たせなくなってしまいました。アメリカでの運用収益が高いということで世界の資金が集まり、アメリカという国家も世界からの膨大な借金によって貿易、財政の赤字をファイナンスし、凌いできたのです。

今回の資産価格の急落は、このまま放置しているとアメリカ経済における消費の減退を引き起こし、輸入の減退を通じて世界景気の後退につながりません。原油や非鉄金属価格の下落は、いま勢いがいい資源国、あるいは途上国経済の先行きに暗雲を投げかけます。もし、途上国経済に変調が起きれば、途上国向け輸出で潤っている鉄鋼、機械、建設機械、海運、商社などの日本企業は大きな痛手を食う可能性があります。

株価という尻尾は、最初はサブプライムローンをめぐる限定的な金融不安のシグナルに過ぎませんでしたが、それによって引き起こされた実態経済の変調を先取りしてさらに下落しているとも読めるようになってきました。いまが、世界の景気後退につながるかどうかの危険な曲がり角にあるといえます。

これを逆転させ、再び世界景気拡張に軌道に戻すには、日米欧の中央銀行の金融政策の変更にかかっていると思います。すでにマーケットでは、リスク資産から安全資産へのシフトによって国債が大きく買われ、長期金利が大幅に低下しています。近い将来の景気後退と政策金利の引き下げを先取りする動きです。この動きを受けて、日銀が金利引き上げを断念する一方、欧米の中央銀行は金利の引き下げに踏み切るという政策変更が見込めた段階で、株価の下げ止まりということになりそうです。

2007年8月 9日 14:43

コロのいない生活

(07年8月9日筆)

わが家の年老いた娘が、広島の原爆記念日の8月6日に永眠しました。娘といっても、人間の年齢で言えば112歳、「ゴールデンレトリバーもどき」(雑種)のメス犬です。名前は、コロといいました。

生まれたばかりのコロがわが家の家族になったのは16年前です。長男が大学受験で運動不足気味ということで、夜に散歩をするお供が欲しい、一人で散歩していると痴漢に間違われるというので、次男坊が近所で生まれた10匹の子犬の中から選んでつれてきました。次男坊も獣医になりたかったぐらいですから、動物好き、喜んでもらいにいったようです。

長男が就職し、次男坊が下宿を始めてからは、わが家の子供は、クロ、花子という名のメス猫2匹、それにコロの3人娘になりました。クロにつづいて今年の2月に花子が死んだことはこのブログ「飼い猫花子の死」ですでに書きましたが、その半年後、最後に残ったわが家の娘コロが花子のあとを追うように死んでいったことになります。

小さくて、気高くわがままなメス猫のクロや花子とは違って、盲導犬・ゴールデンレトリバーもどきのコロは、愛嬌があって人懐っこく、人に噛み付くようなこともありませんでした。しかも、いつもニコニコ、人間で言えばかわいい盛りの幼稚園児のような状態が16年間も持続していたのですから、その死は、人間の幼子(おさなご)の死のように悲しいものとなりました。

コロの体調に異変が感じられるようになったのは、半年ぐらい前からです。散歩に連れて行っても歩いている途中でへたり込み、動かなくなってしまうことがありました。そのうち、へんな咳をするようになりました。隣家の奥さんが、ヘビースモーカーの私の咳と間違えて、家内に「ご主人、肺がんかもしれませんよ。病院で見てもらったらいかが」と忠告してくれたほどです。

私はもちろん病院で肺がん検査をしてもらいましたが、なんともありません。コロも間接喫煙者ですから肺がんの恐れがあるあると思い、家内が獣医さんのところへ連れて行き診断してもらったのですが、獣医さんの見立ては間接喫煙者の「肺がん」ではなく(私は責任を逃れることができ、ほっとしました)、老化によって引き起こされた「心臓肥大」だということでした。コロのへんな咳は、肥大した心臓が気管支を圧迫するために発せられていたのです。

そのへんな咳も収まってきて、コロは元気を取り戻したかに見えましたが、それは一時でした。今度は、左手左足が太く腫れて、歩くどころか立っていられなくなってしまったのです。そのうち腹水が溜まり始めたのか、お腹が大きく腫れて、寝たきりになってしまいました。

それでも食欲がありましたから、出るものは出ます。しかし、居間で寝たきり、手足も動かないので、排尿排便がうまくできません。家内と私は20キロもあるコロを抱いて庭に運んでは排尿排便させたのですが、それも不必要になりました。コロは寝たまま、垂れ流すようになったのです。私にはとうていできませんが、家内は私のTシャツやブリーフを切り刻んで布切れをたくさん作り、クロの下の世話をし始めたのです。自分の息子たちのオシメを変えるように。

左手左足が動かないのは、コロは脳梗塞を起こしたためかもしれません。同じ姿勢で寝たきり状態になっていましたから、フローリングの床が固く、床ずれすらできていたようです。そして死ぬ三日前から、コロは、われわれがそばを離れ床につこうとすると、最後の力を振り絞るような声で吠えるのです。まるで、「一人で死ぬのは淋しい。そばにいてくれ」といっているように聞こえました。

吠えると家内はそばに行って、腹をなでながら冷たい氷をコロの口に含ませていました。コロは、その氷をがりがり噛み砕くとおとなしくなります。死を前にのどが渇くのでしょうか。人間の死とまるで同じではありませんか。家内は、吠えるコロを捨て置くことができず、最後は添い寝していました。その添い寝の次の日、コロは動かなくなりました。

いま、コロは、花子のそば、モッコウバラの下で静かな眠りについています。
ふと気がつくと、わが家には、家内と私、二人だけになりました。結婚して何年になりますか、二人だけの生活になるのは長男が生まれる前の2年間だけでした。ずっと家族がいたのです。これから「コロがいない生活」、つまり新婚の当初に戻るわけですが、果たしてどのような旧婚生活が二人に待っているのか、見当がつきかねているところです。

2007年8月 2日 16:38

「家計簿投票」にあらわれた民意

(07年8月2日筆)

自公政権党の大敗をもたらした今回の参議院選挙での投票者の意思、いわゆる民意を評するのに、どのような言葉が適当か、思い悩んでいたところ、日経新聞の経済教室(8月2日朝刊)で、田中愛治早稲田大学教授が「家計簿投票」(ポケットブック・ボウティング)という言葉を使われていました。この言葉は、わが意を得たりでした。以下に紹介します。

「家計簿投票」とは、日米の投票行動の研究者の間で定まり知られている言葉で、田中教授によれば「有権者の財布(筆者注・ポケットブック)を直撃する経済上の問題が引き金になって、政権担当政党に経済運営に批判が強まり」、政権与党が敗北するというものです。

この説に従えば、消費税導入を決めた竹下登内閣を継いだ宇野内閣のもとで行われた89年の参議院選挙で自民党は大敗しましたが、消費税が有権者の財布(家計簿)を直撃したからだということになります。98年の参議院選挙では北海道拓殖銀行や山一證券が破綻して預金や株券など家計の資産不安が高まり自民党が大敗、橋本首相は退陣に追い込まれました。さらに2004年、小泉内閣の下で行われた参議院選挙では、中途半端な年金改革が批判され自民党は敗北したというくことになります。

今回、同じ日の朝日新聞で発表された選挙後の世論調査によると、「自民党が議席を減らした一番大きな理由は何だと思いますか」という択一の設問に対して、44%の人が「年金の問題」、12%の人が「格差の問題」と答え、あわせて56%が「財布」にかかわる問題を挙げています。ちなみに残り38%は、「大臣の不祥事」と応えていました。「改憲の問題」や「北朝鮮の拉致問題」など、年金や格差という「財布」の問題に比べ有権者は関心がほとんどないことになります。

田中教授は、そのほかにも投票行動研究のモデルからいくつかのは敗北要因を挙げておられますが、ここでは年金や格差の問題が政権与党の大敗をもたらしたという「家計簿投票」について考えてみたいと思います。

負けた安倍自民党のキャッチフレーズは「成長を実感に」、勝った小沢民主党のそれは「国民の生活が第一」でした。経済学の立場からいえば、自民党の主張は、経済成長を高めてその成果である国内所得の増加分を将来、国民に再分配するといっていることになります。これに対して民主党は、今の国民所得をもっと生活者寄りに分配しなおすといっているように思えます。この「生活者寄りに分配しなおす」という主張と有権者の「家計簿投票」行動が合致したために、自民党が負けたことになります。そうなのでしょうか。

朝日新聞の前述の世論調査によると、有権者は、参院第1党になった民主党に何を期待しますかという設問に対して37%の人が「与党の政策を改めさせる」、33%の人が「期待していない」と答え、「政権交代を実現する」と答えた人は25%でしかありません。勝った小沢民主党には、今後も単なるチェック政党の役割しか期待されていないのです。

有権者は、生活者寄りに分配しなおす、つまり「所得の再分配」を期待しているのであって、それが実現できるのであれば、自民党が政権与党にとどまってかまわないという「民意」をもっているのです。さらにいえば、この「民意」は、経済政策に対する政治の役割を極めて的確に言い当てているともいえます。

政府は、民間の経済行為にできるだけ直接介入しないこと、民間が創意工夫を十分発揮できる環境をつくることによって経済成長は実現されます。もちろん民間の経済行為が野放しになり、不正義や不平等、不公正がまかり通るようなことになれば野獣型資本主義になります。ですから、政府は公正な競争ルールを作り、その行為を厳しく監視し、違反者は罰しなければなりません。

しかし、自由な競争によって経済成長が実現しても、その果実である所得が公正に分配されるとは限りません。所得の公正な分配、あるいは再分配は、経済学で言う自由な「市場メカニズム」では実現できません。この面では、市場は失敗するのです。政治や行政の経済政策における役割は、所得の分配をうまく実現できないという「市場の失敗」を正すことにあります。

最低賃金制などによる事前の公正な所得分配、あるいは財政・税制を用いた事後的な所得の再分配は、「民意」にもとづいて行うべきだ、と経済学は教えています。その意味では、今回の参議院選挙で示された「家計簿投票」行動にもとづく「生活者寄りに分配しなおす」という「民意」を実現することこそ政治の役割ということになります。

ただ前回も述べましたが、その公正な分配ないし再分配が、農業者や中小企業主など特定の国民に偏るような利権型の分配であってはならないことはいうまでもありません。「家計簿投票」は、有権者の自分勝手な、雑多な利益の集合体でもあります。票になるならば、どのような選挙民の利権的要求にも応えるというのでは、国民全体に公正で平等な分配政策にはならないことを付け加えておきます。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2016年10月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
最新記事
「排除」の物言い嫌われ小池人気は早や賞味期限切れ
今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか
北朝鮮はどのような外交的解決を求めているのか
キム(金正恩)リスクよりトランプリスクが怖い
もう誰も信じない? 安倍総理の「経済最優先」
最新コメント
経済政策・少子化政策...
Posted by Anonymous
大西先生にお願い:弱...
Posted by Anonymous
北は朝鮮半島統一を目...
Posted by kodera etuko
日本のシェクスピァ今...
Posted by Anonymous
はは、全く面白い時代...
Posted by キリ
最新トラックバック
【記事】「排除」の物言い嫌われ小池人気は早や賞味期限切れ
from QuonNetコミュニティ
【記事】今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】北朝鮮はどのような外交的解決を求めているのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】もう誰も信じない? 安倍総理の「経済最優先」
from QuonNetコミュニティ
【記事】「支持なし(無党派)層」が65%強 ――安倍一強の受け皿を築く時
from QuonNetコミュニティ