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大西良雄ニュースの背後を読む

2006年12月

2006年12月30日 09:22

私とかみさんの「年金手続き体験」

(06年12月27日筆)
               
私ごとですが、ちょうど一週間前、午後2時から開かれた定時株主総会をもって取締役を無事退任しました。株主総会が終了した午後3時きっかり、会社人生から「おさらば」することになりました。

前日までに送別会は終わりました。会社の書類やデータその他もどさっと捨て、残った私物は段ボール箱二つに入れ自宅に配送してありました。会社に残された私の痕跡はまったくないはずです。これで私は完全に会社から自由です。

そう思ったのですが、会社から自由になるための面倒くさい手続きが残されていたのです。年金と医療保険、それに雇用(失業)保険の手続きです。

私の場合、最後は常務という役付き取締役でしたから、使用人役員ということで失業保険はいただけません。職安に行って保険給付の手続きをする必要がなかった点は救われました。医療保険は、退職の翌日に御茶ノ水にある出版健康保険組合に出掛けて任意継続の手続きをとり、即日新たな健康保険証をいただけました。

ここまでの手続きは、退職前に総務に念入りに教えていただいたので、予想以上にスムーズでした。厄介なのは年金の手続きです。来年の一月からは私には給与振込みはありません。年金が唯一の定期収入になります。年金給付の手続きがうまくやれるか、不安でした。

私は、総務にいわれるまま退社の三日前、銀座にある中央社会保険事務所に出向きました。私と似たような年恰好の男性が10人ほどすでに待っていました。一人の年金受付相談に30分は掛かっているようですので、私の番までには小一時間待つことになりました。

私の番が来ました。書類は、前日に必要事項を書き込み印鑑も押していましたから、手続きのほうは案外簡単に終わりました。問題はここからです。

まず、いつからいくら年金をいただけるのか、です。私は昭和20年生まれ、かみさんは昭和23年生まれです。老齢基礎年金がいただけるのは私が63歳、かみさんが62歳ということですので、ふたり一緒にもらえるのは4年後ということになります。

私が、新年1月からいただけるのは、老齢厚生年金の報酬比例部分だけです。その報酬比例部分がいくらになるのか正確には分からないといいます。正確に分かるのは、一ヶ月半後には送付される「年金証書」を持って出版厚生年金基金にいって、もうひとつ手続きをしたときです、と係員はいいます。

ちょっと分かりづらいので、係員からにわか仕込みの知識で解説します。老齢基礎年金は、国が直接運営している部分と民間の出版厚生年金基金が運営を代行している部分があるようです。この民間が代行している部分の年金支給額が分からないので、報酬比例部分の総額が正確にはわからないというわけです。

私は思わず「では年金証書が送付され出版厚生年金基金での手続きが終わるまで年金は支給されないのですか」と問い返しました。支給されなければ私は新年の1月、2月は完全無収入になります。係員は、「大丈夫です。一月には報酬比例部分の全部が振り込まれていますよ」と笑って応えてくれましたが、私には不安が残りました。たぶん、その不安には、社会保険庁のずさんな保険記録管理事件が影響しているのでしょう。

ずさんな保険記録管理といえば、かみさんの老齢基礎年金です。私が退職すればかみさんは国民年金に入りなおさなければなりません。その手続きは私の退職後14日以内に、社会保険事務所で行ってしてくださいといいます。

私たちは、退職した数日後、今度はかみさんの年金手続きのために地元の社会保険事務所に足を運びました。かみさんは、自分の保険料支払いが正しく記録されているか不安で仕方がない様子でした。しかし、親切な係員の説明で保存された記録は正しいことが分かりました。

ほっと胸をなでおろしたのも束の間、かみさんが62歳から満額の老齢基礎年金をもらえるようになるには、月額1万3850円の年金保険料をあと3年ほど払わなければならないことが分かったのです。40年間きっちり保険料を支払わなければ満額にならないからです。

そこで不安がよぎったのは、もう長い間年金保険料を払っていない次男坊のことでした。その不払い保険料の顛末は次回述べます。

2006年12月20日 12:25

「真面目な貸金業者」は誰か

   (06年12月20日筆)

前回の原稿に中で「真面目な貸金業者もたくさんいる」と書きましたところ、そんな貸金業者はいるのか、というご質問をいただきました。このご質問には金融業についての本質的な問題が含まれていますので、お答えしたいと思います。

私は、実は「金融ビジネス」の編集長の当時、「銀行はサラ金を超えるか」と題する巻頭特集を組み、「サラ金」を褒め、都市銀行に苦言を呈したことがあります。

「サラ金」のどこを褒めたのかといいますと、そのすぐれた与信管理能力でした。「サラ金」、正しく言うと「消費者金融」ですが、彼らの稼ぎは、簡単に言うと、貸出金利-(調達金利+貸し倒れ率+経費率)という方程式で説明されます。

 彼らと銀行業者との違いは、貸出資金の調達にあります。銀行業者が預金を集めてそれを貸し出しているのに対して、彼らは、預金を集められないので貸出資金の原資調達を、銀行借り入れや社債の発行、増資などによっているのです。

政府は、銀行業者を預金取扱金融機関といい金融庁の監督下におき、彼らを貸金業者と呼んで経産省の監督下においてきましたが、その差は、極端に言えば「預金を扱えるか否か」の一点だけです。ともに「カネ貸し業者」であることに変わりはありません。

上に書いた貸金業の「稼ぎの方程式」は、そっくり銀行業者にも当てはまります。違っているのは、銀行の調達金利の中身が預金金利であることだけです。
ですから「真面目な貸金業者はいるのか」という問いは「真面目な銀行業者はいるのか」という問いと同じものだと私には思えます。

 そこで問題になるのは「貸し倒れ率」です。これが低ければ貸金業も銀行業も立派な収益が上げられます。貸し倒れ率は、第一に金を貸す相手の返済能力をいかに見極めるか、その審査能力、第二に返済が滞った債務者からいかにうまく資金を回収するか、その債権回収能力に依存します。これを与信管理能力といいます。

私たちが「金融ビジネス」で「サラ金」を褒めたのはこの点です。個人に資金を貸す場合、銀行であれば勤め先や地位、勤続年数、年収などをスコアリング(点数付け)して返済能力を見ます。ところが「サラ金」はそんなスコアリングなどハナから信用しません。

たとえば、私(常務取締役でした)が「サラ金」に金を借りにいくとします。勤務先も地位も年収も申し分ありません。しかし、私には「貸せない」と彼らはいうのです。なぜか、「勤務先も地位も立派なのになぜ高金利のわれわれにカネを借りに来るのか」「博打かオンナでカネが回らなくなったに違いない」と私を疑っているからです。

個人に金を貸すには、スコアリングのような機械的な方法ではなく、こうした人間行動を読み取ったきめ細かい審査方法が求められるのです。「サラ金」が巧妙なのは、これに加えて、貸し倒れが発生することを前提に、与信額の上限を50万円に押さえ込み、一件当たりの貸し倒れ損失を小さくしていることです。与信額を小さく、与信件数を大きくすれば、大数の法則が働き「貸し倒れ率」が安定するというシステムも「サラ金業者」は作り上げていたのです。

「金融ビジネス」でこの特集を組んだのは1988年、これからバブルが燃え盛ろうとする前夜です。銀行業者が新しい融資先を求めて消費者金融と同じ個人ローンに力をそそぎ始めたことに対して警鐘を鳴らす意味を込めたものでした。

銀行の新しい個人ローンの主力は「資金使途が自由な」個人向け有担保ローンでした。「使途自由である」ことは消費者金融と変わりません。違いは有担保か無担保か、高額か少額かです。これまで銀行業者は、個人ローンといえば、預金担保の当座貸し越しのほかは住宅ローンのような「資金使途が限定された」有担保ローンぐらいしか経験がありません。それが一歩踏み込んで「使途自由」な、多額の有担保ローンをはじめたのですから、与信審査は大丈夫ですか、サラ金並みの与信管理能力をお持ちですかと銀行にわれわれは問うたのです。

実は、その「使途自由な」個人融資は、株式やゴルフ会員権、マンションや別荘などの投資に回わされました。それらがバブル崩壊によって急落し、借入れを返済できなくなった個人も続出しました。その結果、都銀の個人向けの「貸し倒れ率」は跳ね上がったのです。

その貸し倒れ損失を銀行は、自宅などの担保を取り上げることで一部回収したのです。多額の借金返済に迫られたり、自宅を召し上げられた個人が生活苦に陥り、高金利の「貸金業者」からの融資に走ったとしたら、いったい誰に責任があるのでしょうか。「真面目な銀行業者」はいたのでしょうか。
銀行業者はその後、個人向けだけでなく企業向けに巨大な焦げ付き融資(不良債権)を積み上げ、全融資額の10%以上の「不良債権比率」を抱え込むことになりました。当時の消費者金融業者の「貸し倒れ率」はたしか3~4%だったと思います。

「真面目なカネ貸し」は、いったいどちらだったのでしょうか。(つづく)。

2006年12月15日 13:26

新・貸金業法の「恐怖」

(06年12月14日筆)              

複数の消費者金融やカードローンなどで金を駆りまくっている債務者を多重債務者といいます。この中から、元本どころか金利の支払いすら不能に陥り、業者の苛酷な取立てを受けて自殺したり夜逃げしたり、個人破産したりする多重債務者が続出、社会問題になりました。

こうした社会問題の発生原因を「貸す側」に求め、貸金業者を新しい法律の規制下に置くというのが3年後に施行される「新・貸金業法」の狙いです。

上限金利引き下げの帰結
「新業法」は、第一に、多重債務の発生原因を29.2%という高金利に求め、この上限金利を20%に引き下げることになりました。貸金業者がつける高い貸出金利が借金を雪だるま式に膨らませ、多重債務者を返済不能に陥らせていることも確かです。

上限金利の引き下げは、「貸す側」には収入源である貸出金利とその貸出資金の調達コストの差、つまり利ざやを縮小させます。その結果、業者の利益が減少するのかといえば、そうともかぎりません。貸出金利の引き下げは「借りる側」の負担を少なくし、それが既存顧客の借り増しにつながり、新たな顧客を引き入れることになります。結果、融資量が増加して、利ざやの縮小を補う可能性があるからです。

かといってすべての貸金業者が生き延びられるかといえば、そうではありません。多重債務者の最後の貸し手である業者は淘汰されることになります。消費者金融などの専業貸金業者は全国で2300社以上あります。この中には貸し倒れのリスクが最も高い多重債務者に高い金利で融資して成り立っている真面目な貸金業者もたくさんいます。

高い融資リスクには高い貸出金利というのが市場の原理です。上限金利の引き下げは、彼らを高い融資リスクをとれない事態に追い込みます。かりにいまより低い20%の貸出金利で貸すとすれば、その貸出金利では、高い貸し倒れ損失率と資金調達コストをまかなえず、彼らは廃業するしかありません。

その一方で、彼らが融資しなくなると、多重債務者はもっと高金利のヤミ勢力の金融に走ることになります。ヤミ金融に多重債務者が走れば、さらに悲惨な結果が待っています。それを防ぐため「新業法」ではヤミ金融への懲役刑を現在の最高5年から10年に引き上げました。しかし、ヤミ金融はいまでも懲役を覚悟でやっているのです。懲役が長くなったからヤミ金融がなくなるとは思えません。どうでしょうか。

「借入額上限規制」の新方式には要注意
もうひとつの「新業法」による業者規制は、借入額(つまり貸出額)についての上限規制の強化です。この規制強化は、上限金利の引き下げの陰に隠れてあまり注目されていませんが、実は個人債務者と金融界(信用秩序への影響は次回書きます)に甚大な影響を与えかねない内容を含んでいます。

まず個人債務者への影響です。これまでの借入額の上限は「借り手の返済能力の範囲内」というどうにでも取れるものでした。それが今回、その借入額の上限を「原則として年収の3分の1とする」に改められました。

この新しい借入額の上限規制は、きわめて具体的なものです。厳正に適用しようとすれば、さまざまな仕組みが必要になります。たとえば「年収」を把握する仕組み、複数の貸金業者から借りている場合の借入総額を把握する仕組みなどです。

「年収」は、他社分を含めて借入残高が100万円を超える場合、収入を証明できるもので確認することを業者に義務づけることになりそうです。収入を証明できるものといえば、サラリーマンであれば源泉徴収票、自営業者であれば確定申告書、老人であれば年金手帳ですが、そんな大切な個人情報まで業者に見せるのでしょうか。これが所得把握のための「グリーンカード制」の導入に道を開く危険もあります。

「ホワイト情報」も交換される「恐怖」
借入総額の把握は、分散している「個人信用情報センター」間の情報交換ができなければ不可能です。いま個人の信用情報は、銀行系は「全国個人信用情報センター」、カード・信販系は「CIC」、消費者金融などの専業貸金業者系は「全国信用情報センター連合会」の3つに溜め込まれています。その3センターの情報交換は「ブラック情報」に限られています。

「ブラック情報」とは、借入元本の返済が滞っている債務者のリストです。ブラック情報は現在でも3センター間で交換されています。新業法の対象には銀行系は含まれていません。しかし、カード・信販系と貸金業者系の間のさらなる情報交換が求められます。新業法では、元本返済の延滞には関係なく、他を合わせた借入額が年収の3分の1以上を超せば貸せないわけですから、返済が滞っていない債務者の借入履歴、いわゆる「ホワイト情報」の交換も必要になります。

「ホワイト情報」の交換は個人にとってきわめてテリブル(怖い)です。たとえば、社員や就職内定者の素行調査に使われる危険があります。消費者金融から金を借りている社員や内定者をあぶりだすのに、全国信用情報センター連合会の「ホワイト情報」が漏れて使われたことが過去に何度かありました。きちんと返済していても不良社員のリストに載りかねません。「ブラック情報」に載ったことから会社を辞めざるを得なくなった社員も出ています。

ブラックやホワイトの情報漏洩は「個人情報保護法」で厳しく罰せられます。しかし、カード・信販系には750社、専業貸金業者で2300社が信用情報センターに加盟しています。これに銀行系信用情報センターに加盟する1500社が回線でつながれば、実に4000社が個人信用情報を取り扱うのです。どこから情報が漏れても不思議はありません。
しかも、ブラック、ホワイトに関係なく貸出の現場にある端末機から名寄せされた債務履歴が即座に取り出せるのです。テリブルではありませんか。

2006年12月 6日 15:28

「オレオレ詐欺」体験記

(06年12月6日筆)

まさか自分が「オレオレ詐欺」に引っ掛かるとは思っても見ませんでした。かみさんの機転がなければ、危うく220万円を振り込むところでした。
某日、書斎でパソコンに向かって原稿を書いている最中、一本の電話がかかってきました。くぐもった深刻な声でした。
「もしもしオレ」
「おう、ダイちゃんか」
私の息子はダイスケといいます。31歳、勤め人です。
「お父さん、警察から電話があった?」
話はこう切り出され、「警察」という言葉に私はドキリとしました。息子が何かトラブルに巻き込まれたのではないかと、不安がよぎりました。
「お母さんには黙っててね。オレ、風邪引いてボーとしてて、携帯と会社の書類を落としちゃったんだ。警察から連絡はなかった?」
息子は、私に似て、ひとつのことに集中するとほかを忘れがちで、忘れ物、落し物の常習犯でした。私は、さもありなんと簡単に事態を受け入れてしまったのです。
「警察から連絡はないが、それより、会社の書類を紛失したというのはまずいな。すぐに会社の書類を作り直せ。徹夜してでも」
どんな書類なのか、作り直せる書類なのか、そんなことも確かめず、私はダイスケに知恵を授けるのに懸命でした。サラリーマンにとって会社の書類がどれだけ大切なものか、へんにワケ知りだったために、冷静になれなかったようです。
「わかった。すぐ作り直す。携帯は新しいのに取り替えたから、番号をいうね。警察から落し物が見つかったと連絡があったら、この番号に連絡してね」
新しい携帯電話の番号は080から始まるものでした。あとでかみさんに聞いて知ったのですが、080は使い捨ての携帯番号だったのです。その怪しい携帯番号をだいじにメモして、私は電話を切りました。

数日後、ダイスケから再び電話が掛かってきました。かみさんが電話に出ていればその電話声の不自然さに気がついたと思うのですが、また私が電話に出てしまったのです。退職後に備えて、書斎にコピー機を入れ、電話機をすぐ手の届く机の上に置いていたのが災いしたようです。
「お父さん、警察から連絡あった?」
同じようなくぐもった深刻な声でした。
「連絡はない。それよりまだ風邪は治らないのか。声がへんだよ。書類はつくりなおしたのか」
「ん?(少し間があり)、お父さん、オレ、会社を辞めるんだ。お母さんには黙っててね」
また出ました「お母さんには黙っててね」が。ダイスケはよほどかみさんが煙たいのでしょうか。どこの家庭でもそうでしょうが、わが家でも煙たい、話をしたくない存在は父親の私です。そんなことはコロっと忘れて、ダイスケの「会社を辞める」という深刻な打ち明け話をうれしそうに聞いてしまったのです。
「お父さん,株のシミュレーション・ゲームって知ってる?」 
知らないわけがない。私は株式投資のバイブル「会社四季報」を出している会社の常務ですぞ、退職後は、株式評論家と名刺に刷り込もうかどうか、悩んでいるところだ、と言いそうになりましたが止めました。すでに詐欺師のドツボに嵌まっていることも知らないで。
「ゲームで6000万円も勝った。それで会社の上司と一緒に実践しようということになって株を買ったんだ。そしたら大負けして、穴をあけちゃった」
だろうよ、このところ相場は下降気味、いま株に手を出す馬鹿がいるか、そうダイスケを気持ちで叱っている「株式評論家」がそこにいました。
「まさか会社の金で穴を開けたんじゃないだろうね」
「上司というのが経理の人でね。その人が会社の金を流用してオレの分と自分の分の株を買って穴を開けた。だから会社にいられない」
ダイスケの声が深刻だったのはそのためだったのか、私は一人合点して、言ってしまったのです。
 「穴をあけたのはいくらだ。会社は辞めるな。お父さんが穴を埋めてやる」と。
 馬鹿ですね。なぜ、自分の不始末のケツは自分で拭けといわなかったのか。
ダイスケは、穴を開けた金額は300万円、株を売れば80万円にはなるので、220
万円を今日振り込んでくれれば、何とか隠しとおすことができる、とのたまうのです。
 信用取引に手を出したのか。しかし、これが1000万円であれば、私も考えてしまいますが、220万円ならなんとかなります。時間は、午後1時30分、いまから銀行に駆け込めば今日中に払い込まれる、ダイスケは会社を辞めなくてもすむ......。
 「振込先の口座をメモして。〇〇銀行、OO支店、普通口座0000-000、口座名シンボ・ツヨシ」
 「ん? シンボ・ツヨシとは漢字でどう書くんだ」
「シンボさん、いま会議中で確かめられない。カタカナのままでも大丈夫、振り込めるよ。振り込んだら、携帯に電話してね」  
 そういってダイスケの電話は切れた。

 ここからはかみさんとのバトルです。かみさんはまなじりを決して、ぴしゃりといいました。
「なんで私たちが息子の不始末にお金を出さなければならないの。自分で始末させたら」
そこが浅はかなんだよ、オンナは(と心で言っているだけです)。
「流用が発覚すれば、会社からダイスケは告発され警察に逮捕されるよ。そうなると前科一犯、再就職の口などなくなる」
そういいくるめて、かみさんから預金通帳とたくさんの印鑑を取り上げて銀行に駆けつけました。もちろん、かみさんと一緒です。私は車を運転できませんし、結婚以来、銀行振り込みも預金もしたことがありませんから。
こわい金庫番のかみさんが横にいるのに、自分で預金を引き出し、自分で振り込もうとしているのです。どうかしています。どの印鑑がどの通帳のものなのか、預金の引き出し用紙にどう書き込むのか、振込用紙にどう記入するのか、いちいち案内係の女性のご指導を仰いでいるうちに、時間がどんどんすぎていきました。実はそれが幸いしたのです。
私がもたもたしている間、220万円が消えてなくなることに憤懣やるかたないかみさんが、ダイスケの会社と詐欺師の携帯に電話を掛けまくっていたのです。案内係の女性もかみさんに同情して、会社に電話を掛けて問い合わせてくれました。それで、ダイスケは出張中であること、会社には「シンボ」なる人物はいいないことが分かりました。
そのことをかみさんが詐欺師に問い詰めると、動じるふうもなく「シンボは会社を辞めた元上司だ、オレは会社にいる」と答え、都合の悪いことを聞かれると黙って応えなかったそうです。
そして、必ず会話の終わりに、
「振り込んだらすぐにオレの携帯に電話をくれ」
と繰り返すのです。
振り込み先の銀行支店は新潟県でした。ダイスケの会社は東京にあるのになぜ新潟なのか、いま考えるとそれも疑うべきでした。振り込んだと連絡がくれば、たぶん詐欺師の一味が新潟の支店で待っていて、馬鹿親父が振り込んだ220万円を直ちに引き出しトンズラする手はずだったのでしょう。それをいまかいまかと待っていたかと思うと、口惜しいやら情けないやら。
銀行の案内係の女性は、「いま振り込んでも、引き出せるのは明日です。明日の9時に振り込んでも同じです。まだ時間がありますので、ゆっくり調べて振り込まれたらいかがですか」といってくれました(感謝、感謝)。これで私にも心の余裕ができました。かみさんの仏頂づらにも素直に対応できるようになったのです。私の「もたもた」が役に立ったのです。
私が、「オレオレ詐欺」であることを納得した決め手は、息子の失くしたはずの携帯電話が通じたことでした。息子に電話を掛けさせないために最初に「携帯を失くした」と詐欺師は告げたのです。私が息子とその後連絡を取っていないことを確認して、騙しの次の手を打ったのでしょう。
かみさんは、息子の携帯に「お父さんが大変です。至急連絡を」とメールをいれたうえ、何度か電話を入れました。本社の会議で発表を終えた息子から、かみさんに慌てて電話が掛かってきました。
「お父さん、死んだの?」
それを聞いて私は、いやいや、「死んだのはオレオレ詐欺師のほうだよ」と強がりを言おうとしましたが、かみさんの「あなたにはあきれ果てた」とい言いたげな表情を見て、ことばをそっと飲み込みました。すみません。

2006年12月 1日 12:28

衣の下は「法人優遇、個人冷遇」?

(06年11月30日筆)
 
毎年行われる税制改正は、時の政権の政策を表現するものとして注目されます。首相の諮問機関である政府税制調査会(政府税調)がまず改正の答申を出します。それを自民党税制調査会(党税調)の案と突き合わせて法案化され、国会を通過すれば新年度の4月から実施される手はずになっています。
 その政府税調の答申案がまとまる段階を迎え、改正案の要旨が明らかになり、安倍新政権の姿勢が透けて見え始めました。

その要旨の大筋は、以下のとおりです。
① 法人税の引き下げは来年以降に議論する
② 減価償却費かかる税負担を軽減し、設備投資を活発にする
③ 上場株式の譲渡益や配当に対する軽減税率を廃止する。変わりに、金融所得の一体課税をすすめる
④ 道路特定財源の一般財源化を検討する
⑤ 個人住民税の引き上げを検討する
というものです。

政権維持のための政略
これらのうち、07年度に具体化されるのは、②の減価償却費にかかる税負担の軽減と③株式の譲渡益や配当に対する軽減税制の廃止にとどまると思われます。総裁選挙で盛んに議論された消費税の引き上げは盛りこまれませんでした。さらに、国民の間で大きな争点になると思われる法人税率の引き下げ、個人住民税率の引き上げ、道路特定財源の一般財源化などの税制改正はすべて先送りされ、08年度の税制改正で取り上げられることになりそうです。

ここから透けて見えるのは、来年の参議院選挙で勝利するまで、安倍新政権は本格的な政策論議はしないということです。選挙で敗北すれば参議院の自民党は過半数を割り、議会運営は困難を極め、安倍政権は存続を危ぶまれることになります。選挙に不利になる税制改正は先送りするということでしょう。

しかし、私は、安倍自民党が、選挙に勝ったら、先送りして選挙民には隠していた政策を一気に推し進めるというのは、騙しに等しいと思っています。郵政民営化に賛成か反対か、自らの政策をストレートに選挙民に問うた小泉前総理とは、明らかに異なっています。小泉氏を経験した国民も、こうした安倍氏の政権維持のための政略にそうたやすく騙されるとも思えません。

「法人優遇、個人冷遇」の税制改革
それはともあれ、衣の下に隠された安倍政権の鎧(本音)は何かを知っておくことも無駄ではないでしょう。私は、それをひとことで言うと、財政再建と経済の活性化をうたい文句に、「法人優遇、個人冷遇」の税制改革をおこなうということだと思っています。

財政再建の切り札は、消費税率と個人住民税の引き上げ、それに道路特定財源の一般財源化です。まず、道路特定財源ですが、要らない高速道路を作るのに徴収されるガソリン税などの財源が、一般財源化され福祉財源となるなら、結構だと思います。しかし道路族議員が黙っていないでしょう。安倍政権はこれに抗せますか。

となると、消費税と個人住民税の引き上げが財政再建の切り札になることになります。私は、消費税が福祉目的税化されて税率を引き上げるのなら賛成です。個人住民税の引き上げは、乱脈な地方財政、数が多いのにサービスが悪い地方公務員の整理が行われない限り賛成はできません。そうでなければ、族議員を持たない「沈黙の選挙民」が増税対象になる「個人冷遇」の税制改革といわざるを得ません。

その一方で「法人優遇」の税制改革が着実に進みそうです。欧米先進国並みに法人税率を引き下げる、同じく減価償却の税負担を引き下げるというのがそれです。税負担の重い国の会社と軽い国の会社が競争すれば、重い国の会社が負けるという意味です。しかし、重い税金を負担している日本の会社が海外市場で勝っているから、史上最高利益を更新しているのではないでしょうか。いまは法人税の増収が財政再建の鍵を握っている段階です。「法人優遇」については、慎重な議論が必要です。

最後に、上場株式の譲渡益と配当への軽減措置の廃止ですが、これも時期が悪すぎます。預金などの金利には20%の税金がかかっていますが、株式の譲渡益や配当には10%しか税金がかかっていません。株式市場が瀕死の状態のときに「貯蓄から投資へ」資金を導き、株価を引き上げる、ひいては経済を持ち上げるという目的で時限的に軽減措置がとられました。しかし、その期限がきたので、他の金融商品並みの税率を戻すという論理です。

株式市場は、経済のアンテナです。株価は底から這い上がってはきましたが、政府がデフレ脱却宣言をいまだ出しえない微妙な段階に経済はあります。景気の一時的腰折れに伴い株価の停滞が懸念されています。譲渡益と配当へ課税強化は、退院寸前の株式市場を再入院に追いやるようなものです。株価下落が経済に与える心理的なマイナスの影響にも配慮することが、私は必要だと思います。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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