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大西良雄ニュースの背後を読む

2006年11月

2006年11月17日 11:33

いざなぎ超えて、すぐリセッション?

                        (06年11月15日筆)

景気が「いざなぎ景気」を超えて戦後最長を更新しそうです。上場企業の業績も07年3月期は、当初の一桁増益予想から10%台の増益に上方修正されつつあります。経常収支も、配当や利子収入差額からなる所得収支黒字がモノなどの輸出入差額から生み出される貿易収支黒字を上回るようになり、順風満帆の状態です。

なのに、株価に勢いがありません。日経平均株価は1万6000円台で上がったり下がったり、こう着状態をつづけています。為替レートも変です。経済が強ければ円高になるというのが普通ですが、1ドル120円に迫ろうかという円安です。複数の通貨を貿易量でウェート付けしてはじき出された実効為替レートも、21年ぶり円安水準だといいます。

株価や為替レートは、経済や金融の先行きを予見するといわれています。景気は永久に拡張するものではありません。上がったり下がったり、循環します。景気拡張期間が終われば、リセッション(景気後退)を必ず迎えます。この株価のもたつきと円安は、いざなぎ超えを達成した景気の先行きに疑問符を投げかけているように見えます。

気になる景気の先行き
先日発表された7-9月の実質国内総生産(GDP)は、年率換算で2.0%増と7・四半期連続のプラス成長となり、景気が引きつづき回復を続けていることが裏付けられました。しかしその中身を見ると、景気の先行きに関して気になる点も見られます。

その第1は、名目成長率のほうが実質成長率より依然低い点です。これは実質成長率をはじき出すのに使われるGDデフレーターがマイナス0.4%だったためです。GDPデフレーターは消費者物価指数と並んでデフレかどうかを測る重要な物価指数です。消費者物価指数はわずかにプラスですが、GDPデフレーターが依然マイナスであることから、政府はデフレ脱却宣言を出せないままです。

第2は、設備投資は順調に伸びましたが個人消費が再び減少し、内需主導に転じたかに見えていた成長が外需(純輸出)主導に戻ってしまったことです。個人投資の不振は前々回の「いざなぎ超えと給料」でも触れましたが、企業利益の増加が雇用者所得(給料)の増加にまだつながっていないからです。

第3は、この雇用者所得の伸び悩みを反映してか、製品、流通在庫がいずれも積みあがっていることです。在庫投資の増加は成長率にはプラスですが、消費者心理が冷えたままですと将来の生産調整につながりかねません。

円(日本)を買わない投資家
日本経済がデフレ脱却宣言をいまだ出せないという現実は、円安に直結しているようです。現在の為替レート決定は金利差要因に尽きるといえます。日銀のゼロ金利解除、アメリカFRBの利上げ打ち止めによって日米の金利差が縮まり円高に転ずるかに見えましたが、4%もの大きな金利差が依然続いていることに投資家は敏感でした。

欧米など海外の投資家は金利の安い日本市場で円資金を調達し、円を海外通貨に換えて金利の高い海外債券などに投資する、日本の投資家も日本の低金利を忌避し円を海外通貨に変えて海外の高金利商品に投資するというパターンがつづいているのです。これが円売り・ドル買い、ユーロ買いをもたらし、円安の原因になっているようです。

これに対して、日本企業や日本人が海外で獲得したドルなどの所得を(ドルを売って)円に換え(円買い)、日本国内に再投資する、あるいは日本国内で消費すれば、ドル売り・円買い、つまり円高要因になります。また、海外の投資家がドルやユーロを売って円に換え(円買い)、日本株式を買ったり工場を建てたり、日本国債など債券を買ってくれれば、これも円高要因になります。そのいずれの円買いも起きていないために円安が続いていることになります。

このことは、実は日本では海外に比べ投資機会や消費が少ないことを意味します。企業が海外で儲けたドルを円に換えて賃金に再分配していないから消費が増えません。消費が増えませんから日本に工場をつくろうという海外事業家も少ない。海外の投資家は、金利が低いので日本の国債など買わなくても、自国の高金利債券を買ったほうが儲かるのです。

ただし、日本企業による日本への再投資は、設備投資を増やすという形で行われました。それがこれまで日本の景気回復をリードしてきたことはいうまでもありません。ところがその設備投資の先行指標である機械受注が7-9月期に前期比11・1%減と87年以来の記録的な減少率を示したのです。

機械受注の記録的減少による設備投資のピークアウトの予感は、「いざなぎ超えて、すぐリセッション?」という連想をマーケットに生み出しました。今は好調だが、先の企業収益は分からないと経営者も業績の上方修正に慎重です。これが日本の株価が1万6000円台でもたつく原因になっているのです。
株のもたつきも円安も根は同じ、投資機会と消費が生み出されないデフレ型の経営にあるということでしょうか。

2006年11月 9日 22:42

無所属の時間

                        (06年11月9日筆)
 
作家の城山三郎さんが『無所属の時間で生きる』(朝日新聞社刊)というエッセイを書かれています。「作家生活」は、サラリーマンとは違って定期収入がありません。しかし自由な時間は有り余るほどです。組織に属さないひとりの男がその自由な時間をどのように過ごすか、城山さん自身の作家生活を語ったのが「無所属の時間」です。

城山さんは一橋大学を出て経済学者の道を歩き始めるのですが、『総会屋錦城』で直木賞を受賞、10年余り奉職した愛知学芸大学(現・愛知教育大学)をやめ、作家生活に入られました。私も、『週刊東洋経済』の編集長当時、評論家の佐高信さんに紹介され一度だけ対談にお招きしてお話を伺ったことがあります。小柄ですが背筋のしゃんとした、鋭い批評眼を持った方だと感じ入りました。

「凛として生きてきた」かどうか
私は城山さんの著作をいくつか読んでいます。足尾鉱毒事件に奔走した田中正造を書いた『辛酸』、金解禁をすすめた浜口雄幸と井上準之助を描いた『男子の本懐』、最後はA級戦犯になった広田弘毅外相を書いた『落日燃える』、国鉄総裁・石田禮助の生涯を描いた『祖にして野だが卑ではない』、通産官僚・佐橋滋をモデルにした『官僚たちの夏』などです。

政策の観点からいえば、新平価による金解禁(円高デフレ)によって日本を昭和恐慌に陥れた井上準之助、太平洋戦争の開戦詔書に署名した広田弘毅、官僚統制の強化をもくろんだ佐橋滋など、評価が分かれる人物も少なくありません。城山さんはそんなことは百もご承知で、日本の近現代史に翻弄されながら世評に惑わされず「凛として生きた男たち」の人生を描かれたのだと思います。

ただ、私のような、もうすぐリタイヤーする、「凛として生きてきた」かどうか疑わしい平凡なサラリーマンにとって、彼らの物語はいまや多少重荷になって感じられます。むしろ私は、城山さんが海軍に志願入隊した体験もあって書かれた『指揮官たちの特攻』や定年後のサラリーマンを描いた『毎日が日曜日』のほうが、城山さんの人生も重なって興味を惹かれ、読み直したいと思っています。

書棚のどこに埋もれているのか探し出せませんが、『無所属の時間を生きる』も探し出して読み返したい一冊です。なにより「無所属の時間」という表現がこころにとまりました。
ネットで「無所属の時間」を検索してみると「無所属」と題したリタイヤーした人々の個人サイトがたくさんありました。私と同じように感じている人が多くいるのですね。
無所属人間に与えられた「黄金の時間」
 城山さんは自宅のある街に事務所を持っておられるようです。そこに毎日「出勤して」午前中は小説など書き物をします。近くで昼食をとられた後、午後の時間は、資料などを読み漁ることにしておられます。自宅に帰ってから夕食をとったあとが、城山さんの「黄金の時間」になります。この時間からは、仕事とは関係のない自分の好きな書物を選んで読み、堪能するというわけです。

 一日を三等分して、それぞれの時間に仕事、知識の蓄積、個人の楽しみというそれぞれの役割を割り振って過ごしておられるわけですが、一日の最後に「黄金の時間」を持ってこられているのには大いに共感させられます。

何の組織にも属さず、つまり組織の規律からは完全に自由な「無所属」の人間にとって、人生や生活の規律をいかに確保するかは深刻な問題です。それを城山さんは、最初の二つの時間を個人の規律とするために、一番楽しい「黄金の時間」を最後に設定しておられるのです。ひらたくいえば、「黄金の時間」を餌に仕事をサボらない、放縦に流れがちな「無所属人間」としての規律を失わないようにしているのです。

私の実感からしますと、「組織」はありがたいものです。一週間に5日は出勤し2日は休むという生活のリズムを与えてくれます。週刊誌などをやっていますと毎週必ず校了日が来ます。校了日までには原稿を入れなければなりません。後ろが詰まっていますから、徹夜をしてでも入稿します。時間にルーズで怠惰な人間でも、働くという強制力が作用します。奴隷的な労働でも、結果がよければ、つまり雑誌が売れたり、読者から評価を得られたりすると、何か王様になったような気になります。

私も、そんなありがたい「組織」からリタイヤーし、「無所属の時間」にもうすぐ突入するわけですが、実のところ、どのように「無所属の時間」を設計するか、わくわくしています。だだし、自分勝手な私の「無所属の時間」設計に冷ややかな視線を浴びせる奥方を気にしながら、ですが。

2006年11月 8日 17:37

いざなぎ越えと給料

               (06年11月2日筆)
日本の景気拡大期間は、この10月に戦後最長だった「いざなぎ景気」に並び57ヶ月になりました。11月も拡大持続が予想され、「いざなぎ越え」を実現しそうです。

たしかに日銀短観のよると製造業、非製造業ともに大企業の売上高経常利益率は、好景気に沸いたあのバブル景気を上回っています。しかし、なんとなく景気の良いという実感に乏しいと感じている人も多いのと思われます。

その理由は、日銀短観でも明らかですが、バブル期の利益率を上回ったのは大企業だけで、中小企業や中堅企業も利益率は回復していますが、バブル期にはほど遠い段階です。大企業の高収益の恩恵が中小企業や中堅企業には十分及ばず、中小中堅の多い地方経済が、依然苦しい状態にあることは日銀短観にも明らかだといえます。

「いざなぎ」と「いざなぎ越え」の違い
それと今回の「いざなぎ越え景気」と過去最長だった「いざなぎ景気」の中身を比べると、もうひとつの理由が明らかになります。

東京オリンピック後の反動不況(昭和40年不況)が底入れした1965年11月に始まり70年7月までつづいた「いざなぎ景気」は、いまの中国経済の高成長と似ていて、それは猛烈なものでした。「いざなぎ景気」では、年平均の実質経済成長率は11.5%にものぼり、経済の規模はこの拡張期間に倍以上になりました。

消費者物価もこの間27%以上上昇しましたが、それ以上に増えたのは給料のほうです。雇用者報酬はこの間115%伸びました.給料も倍以上になったのです。その所得増がカー、クーラー、カラーテレビの「新・三種の神器」の爆発的な売れ行きにつながり、大衆消費も一気に拡大し、それが設備投資の増加を促したのです。いざなぎ景気は、インフレ下の景気拡大でしたが、結果的には日本人の生活を著しく改善したといえます。

これに対して今回の「いざなぎ越え景気」はどうでしょうか。「いざなぎ越え」は、ITバブル崩壊不況が底入れした20002年2月がスタートです。この間の年平均実質成長率は2.4%にとどまります。年平均名目成長率が1.0%ですから、物価指数のひとつであるGDPデフレーターは-1.4%、つまりデフレ下の低成長回復といえます。

悲惨なのは給料です。この間の雇用者所得の伸び率は-1.4%、つまり給料はわずかですが減収ということになります。物価も下がっているのだから実質賃金は上昇していると思われるかもしれませんが、この間の実質賃金の上昇率はわずか0.2%にすぎません。携帯やデジカメ、薄型テレビが売れているではないかという人もいるかもしれませんが、他の消費を削って薄型テレビを買っている、あるいは貯蓄を取り崩して買っていることになります。とても大衆消費が盛り上がって景気がよくなっているとはいえません。

日本の景気回復のパターンは、いまも昔も変わっていません。国内では不況のため売れませんから輸出ドライブが掛かって、輸出がまず増加します。輸出増に対応して設備投資が増加します。この輸出が利益をもたらし、設備投資ブームにつながって雇用などが増え、従業員などの所得が増加して個人消費が盛り上がり、それが再び設備投資につながるという好循環が起きるというパターンです。

今回も、不況下で中国をはじめアジア向け輸出が増加し、それが設備投資を点火させたところまではこれまでと同じですが、そこから先の連鎖メカニズムが途切れているのです。会社は、特に大企業はたいへん儲かっていますが、雇用が増加して所得が増え、給料が上がって所得が増えというメカニズムが働いていないのです。雇用者報酬がいっこうに増えないから、消費が盛り上がらず、消費・流通産業が潤わない、つまり中小、中堅企業がになう流通産業が潤わないのです。

どこか歪んだ日本の雇用
「いざなぎ景気」と「いざなぎ越え景気」の相違のもうひとつの大きな点は、完全失業率です。「いざなぎ景気」のそれは0・7%と完全雇用水準、「いざなぎ越え」の現在は4.4%とまだかなり高い失業率です。日銀短観によると、全産業の雇用人員判断は「過剰」超から「不足」超に転じています。企業の人員不足感が高まってきていることをあらわしています。

したがって、この景気が続く限り新規雇用は増加し、雇用者報酬も増加(給料が上がる)ことになりますが、企業はバブル崩壊後の過剰人員と人件費高には懲りています。増やしても賃金が低い新卒か、賃金が低いうえ社会保険料負担も少ない「非正規社員」ということになります。それはまた、「ワーキングプア」の拡大になり所得格差の問題を深刻化することになります。

その一方で、前回の「ニッポンの医者と病院」特集で書かれているように、日本の病院では、勤務医の過労死、看護士の奪い合いが深刻化しています.医者も看護士も足りないのです。日本の雇用はどこかで歪んでいるというほかありません。

 

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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